。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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37[裏世界其の参]

実験を幾度と繰り返してようやく喋れる何かが出来上がった。次の段階は人体で試す必要がある。だが動物のようにホイホイと連れてくるわけにもいかないし、誘拐なんて犯罪に手を染めることもない。まだ、実験段階なのだから。だから、まずは死体から始めることにした。適当なところでのたれ死んでいる死体を回収して、これまた試作段階の賢者の石もどきを使用。人三人くらい余裕に入る透明の大きい筒状のガラスには並々と入っているのは、赤い液体。そこに魔法で浮かせた死体をぽちゃんと投入。後は危険、押すな!と書かれているボタンを押して洗濯機よろしくぐるぐると回すだけ。

 

「おい、雪彦。コレ腐っているが」

「別にいいじゃないか。実験だし失敗したら森に放せばいいし」

 

ケロッとした顔で返す男は機械のボタンを押す。一応、この屋敷の主である。その主もとい友人にツッコミするのが超有名な魔法使い。名前が長いのでサラと省略されて呼ばれている。本人は嫌そうな顔をしているが、呼んでいる本人はまったく気にしない。

 

さて、サラの指摘はもっともである。この魔法世界とて全ての魔法に寛容なわけではない。厳しい掟もありその掟を破った者には厳しい処罰が与えられる。ましてや、この屋敷があるのは魔法族とは違う者、マグルと呼ばれる非魔法族たちが住まう村が近くにある森の中。距離は離れているが、万が一、森を抜けて村のほうへ逃げ出す可能性がなきにもあらず。そうなれば魔法界の連中も黙っていはいないはず。

「アホか!?お前がやっているのは死霊魔術だ。禁術ともいわれる類のものだ。それをホイホイと当たり前のようにこなしおって。まかり間違って森の外で出たらどうなる」

「その点は心配いらない。私が貼った結界は、森を囲む範囲まですっぽり覆うようになっている。おいそれと破れないようにしてあるし大丈夫だ。侵入者は知らないがな。でも、森の近くにある村には『危険立ち入り禁止』っていう噂も流していたし、その噂信じて入ってこない迷信深い連中もいる。そういう奴は対外口酸っぱく村の連中に語ってるはずさ。バカな連中は知らない。勝手に喰われてるかもしれないし、野生化しているかもしれないし、森のターザンよろしくたくましく生きているかもしれない。まーどうでもいいけど」

「どうでもいいと片づけるな!」

 

雪彦はサラの小言をさらっと聞き流してると、培養液洗濯機versionがチン!と鳴った。

 

「あっ、できた!」

 

培養液を穴に流して、容器の中身を確認すると、

 

『グギャァァアアアアア―――!』

 

とソレは牙をむいて容器の内側からドンドン!と激しく腐った手でたたきだした。主に、襲い掛かるために。野性的本能というか、食うことしかない。誰に?自分の創造主に。

雪彦はしばしそれを見つめて、ひとつポン!と納得したように手を叩いた。

 

「あ、屍食鬼【グール】できたっぽいな。すごい、写メっておくか」

「アホかお前はぁぁああああああ―――!?」

 

スマホかざして自分含めて後ろのグールと記念撮影。ちなみにピースサインで。サラの怒号がエコーして地下研究所内に響き渡ったのは言うまでもない。ちなみに、グールはちゃんとサラが倒したので問題なし。でもその後全然懲りない雪彦がまた何処からか死体拾ってきて実験を再チャレンジしてみると、これまた見事にグールが出来上がり!そのたびにサラに怒鳴られながら始末されるという結果に。これを何回か繰り返してついに激怒したサラにグール製作禁止を言い渡されることになるまで、雪彦の実験は続く。

実は、サラに気付かれないよう実験を繰り返して、その一部が森に逃げ込んでしまい、それが森の中に侵入してきた度胸者に襲い掛かっていたなんて、マグルの新聞に森周辺の記事が書き込まれているのを呼んでは、眉間に皺寄せている友人に、雪彦は口が裂けも言うまいと、「大変だな~」と素知らぬ顔で対応していた。

 

◇◇◇

 

男が薄汚い路地裏の光届か暗闇の中、レンガの壁によりかかりながらへたり込んでいた。男の脇腹には複数の刺し傷による致命傷があった。もうすぐ男は死ぬだろう。すでに虫の息だが男の瞳にはわずかながら生に執着するように光が宿っていた。

 

男は、スクイブだった。

父母はれっきとした魔法族であり、兄弟や親戚筋にも男以外にスクイブの者はいなかった。スクイブとて魔法が完全に使えないわけではない。きちんとした環境と理解ある人物がいれば本人の努力次第で使えるようになる。

だが男には一向にその兆しは現れなかった。それゆえか両親からは何の期待も背負わず、逆に言えば関心も持たれない寂しい少年時代を過ごした。男が18歳の時、居心地の悪さに魔法界を飛び出した。行先はマグル界。

最初はやはり慣れぬ世界になじめぬことも多々あった。だが持ち前の明るさと裏表ない人柄に友人にも恵まれ、マグルの仕事にもつくことができた。男がその生活にとこけむまでそう時間はかからなかった。

魔法が使えないこともマグル界では悲観することもない。

マグルと同じように働いて自力で家事をこなし自分らしい生活を維持する。そこにスクイブに対する世間的な蔑みも否定的なイメージはない。

勿論、男の家族または親戚などからの非難もない。

 

自由な暮らしが男の心を満たしていく、

 

ずっとここで自分という存在を否定されずに安穏と過ごせる。

そう、信じて疑わなかった。

だがそれもある日突然、奪われた。

夜、仕事帰りくたくたな体で少しでも早く家路につきたいとの思いから普段とは違う道を選んだ。そこは少し大通りから外れた人気の少ない入り組んだ路地だった。昨年ここらへんに通り魔の被害により何人かの死傷者も出たが、その犯人も半年後に捕まり近隣住民もほっと胸を撫で下ろしたことだろう。

なので男も急ぎたい時には、何度か近道として利用している。

今日も普段と同じ変わらない日だと思った。でも、まさか、自分が新たな通り魔の被害者となるなど。

 

まったくの見知らぬ者による犯行。あえて犯人の特徴をあげるならどこにでもいる平凡そうな顔。中肉中背の男だった。

 

当たりが悪かった。息も絶え絶えの男は気休め程度に自分の下腹部に手を添えた。今でも血があふれてどんどん意識も朦朧としだした。

 

俺は、死ぬのか。

こんなところで?

 

途切れかかりそうな意識に引きずられそうになる。

そのまま終わってしまえば手っ取り早くこの痛みともおさらばできる。

 

だがそれでいいのか?と男は自問した。

 

もっとやりたいことがあったはずだ。マグルの世界にまで来たのだ。まだ見知らぬことだってあるはず。魔法とは無縁の生活ならではの工夫した料理、流行、遊び、異国の文化。ほかにももっと!

 

なのに、死ぬってのか。

こんなとこで、死ななきゃいけないのか?

 

今一度、やり直せるならどんなことでもやってみせるというのに!

「そこの青年、君が死んだらその躰。私の実験に使わせてもらってもいいかな?」

 

ふと、話しかけれていることに気が付いた。少し顔を上げてみせると眼鏡をかけた整った容姿の青年がいて男を興味津々に見下ろしていた。

 

今、こいつはなんといった?

 

「きっと無駄にはしないさ。最近隠れて実験してもグールばっかりで飽きてしまったから別の死体を確保しようと思ったらなんと素敵な偶然にも死にかけの君がいてくれたというわけだ。安心したまえ、その苦しさもじきに、というかすぐになくなるさ。なんせ死ぬだろうし」

 

死ぬ死ぬ連呼するな!

俺は、生きたい。死にたくない。

 

「おれ、は……い…た……い」

「ん?生きたいとな?しかしあにくと私は実験で忙しい身の上だ。見知らぬ人間に施しをするほど暇ではないのだがな。死体の君には興味あるが、生きている君には興味ない」

 

青年は、軽く手を上げて男の目の前からすたこらと去ろうとする。だがピタリとその場に急に立ち止まり、何か思いとどまることあるのか、またすたこらと瀕死の男の前に戻ってきた。

 

「ああそうか!発想の転換だな、死体で失敗するなら死ぬ前の躰で試せばいいのかもしれないな。よしそこの君。私の実験に付き合え。もしかしたら生きれるかもしれないぞ」

「ほ、…と……か」

 

本当なら試してみたい!

 

「ああ、本当だとも。ただしあくまで実験だということを頭にいれておくことだ。保証はない。死んでも私を恨んで化けて出ようとするなよ。一応私も陰陽師っぽいことできるからな。悪霊退散してやるぞ」

 

何ってやがる、こいつ。

 

「やばい、完璧に死にそうだな。しばらく眠っておけ。ここからあっという間に移動するから心配しなくていい。後は、再び眠りから覚めることを祈っておけ」

 

ぜってぇ、生きてやるさ。

 

こうして死にぞこないの男は変な青年に拾われることになった。

どのような実験なのかもわからぬのに、男は人生最大の賭けに出たのだ。

勝てれば、生きれる。

負ければ、死ぬ。

 

究極の二択に。結果、どうなったかというと。

 

「雪彦!またお前は性懲りもなく実験などと…」

 

偉大な魔法使いはドアをけ破る勢いで入室してきた。サラサドール・スリザリンは顔を真っ赤にさせてまるで火山噴火のようである。そんな彼だが自分の友人の隣にちゃっかり腰かけ仲良さげにお茶している不審人物を見やるなり、ばっちし警戒心ばりなりになる。

 

「誰だ」

「サラお帰り。ああ、彼か?えーとそういえば名前なんだっけ」

 

雪彦は、その不審人物に暢気にも名を尋ねた。

 

「あ?あー名前か。一回死んでるようなもんだからな。両目も賢者の石だっけ、それの所為で紅くなっちまったしこのさい『ラビット』とかでいいじゃね?」

 

ごく適当に自分の名前を決めたラビット。

雪彦もうんうんと軽く頷いた。

 

「ラビットか。いいなそれ。ってなわけでサラ。彼は新しい友人のラビットだ。死にそうだったところ拾って実験に付き合ってもらった結果無事に生き残った強運の持ち主だ」

 

そいでもってフランクにさらっと説明した。

サラは顎ハズレそうなほど衝撃をくらった。

 

「実験!?まさか、あの」

「うん。そのまさかのアレ」

「生きた人間を使ったのか!?」

「ああ、彼のお陰でヒントを得てね。結果オーライだ」

 

雪彦は満足そうに親指をぐっと立てた。

 

「馬鹿者がぁぁああああああ―――!」

 

サラの怒号が部屋中に響いた。

 

【サラ様の苦労と心労もピークです】

 

何をって?

 

勿論、育児である。ぐっと拳を握りしめて片手にさっそく赤ちゃんグッズの通販雑誌用意しながら、

 

「よい!全力で私が育てるぞ。光並みにいやそれ以上に可愛くどこに出しても恥ずかしくない娘にしてみせる。いや、嫁に出すのはないな。私の老後の面倒見てもらう予定だから婿取りだな」

 

と未来の予定までバッチしな雪彦。

反対にそっぽ向いて我関せずといった態度をとるサラ。

 

「フン、私はそんな餓鬼の世話など一切手伝わんからな!」

 

とか何とか言って育児に関しては否定的なこといっていたサラ様だが。

 

 

「ついに実験成功だ。―――できた」

「……これがお前の求めていた器、か」

 

度重なる失敗の繰り返し

(その失敗作を処分するのはいつもサラ様)

途中で挫折しかけたり

(倒すのが面倒になってやけになって森の四分の一ほど消滅させたサラ様)

意外なゾンビも出来上がって手ごたえを感じたり

(喋るゾンビが出来上がった時には、思わず条件反射でアバタケタブラかましちゃったりとお茶目なサラ様)

生きた人間を使うという発想も得られたり

(ラビットの面倒押し付けられて文句言いつつ面倒見てるサラ様)

 

様々な困難にもめげず(主にサラ様被害者)してようやくその目指す器が創り上げられたのだ。大きな円形状の透明な筒の中にそれはいた。赤色の液体で満たされたその場所にぎゅっと小さな手を握りしめ体を丸めて健やかに眠る赤ん坊。

小さな体のへその緒の部分には、細いチューブが繋げられていてそれが赤ん坊の栄養素となっている。

 

雪彦は感慨深そうにつぶやいた。

 

「永かった、な」

「そうだな、確かに長かった。主に私がお前の尻拭いばかりしていたような気がする」

 

何日何時何分何十秒と秒刻みで雪彦がらみの事件を上げていったやりたいところ、雰囲気を呼んであえて言わずにいた優しいサラ。

雪彦も雪彦でサラの嫌味などどこ吹く風で気にした素振りの欠片もない。

それどころか、俄然やる気満ちていた。

 

【四年後】

 

とある部屋にて、ある魔法の練習が行われていた。

 

「とうさま、こんなかんじ?」

 

白いフリフリのレースがあしらわれた可愛らしいワンピースを着て、背中までありそうな黒髪を緩い三つ編みにして赤いリボンでおしゃれしている、子供。ぱっちりとした瞳は珍しいアメジスト、笑うとえくぼができそうなもっちもちなお肌。愛らしい少女である。

そんなお子様はただいま一生懸命に魔法の練習中です。とうさまと呼ばれる男に用意された少女専用の杖は特注で、本人にしか触れられない代物。それをぎゅっと握りしめて何度も何度も振っては呪文を唱えているのだが一向にその兆しはあられない。

その必死さにとうさまは胸をキュンキュンさせて娘に適切なアドバイスを送る。

 

「そうではない、もっとこう柔らかくだな」

「うーん、わかんないよ!」

 

全然成功しなくて面白くない幼女は、頬を膨らませはぶーたれて練習をやめようとする。彼はやれやれと肩をすくめる。

 

「とうさま、できないよぉ~」

 

とついに娘はべそをかいて父の足元にとててて!と駆け寄りぎゅっと抱き着いて甘えた。彼は娘を抱き上げて顔を近づけて言った。

 

「安心しろ。お前は私の娘だ。焦らずとも将来は私を超え歴史に名を残す魔女となるだろう」

 

単なる親ばか炸裂な励まし方なのだが、娘、名をルカというがルカはきょとんと目を瞬かせて首を傾げ不思議そうな顔をした。

 

「まじょ?わたし、まじょになるの?でもパパはおとこえらびほーだいたまのこしのじょおうさまになるっていってたよ」

「……アイツの言うことは一切信じるな。お前は私が選びに選んだ男をあてがってやる。私が認めた男でなければ嫁にやらんことになっているのでな」

「そーなの?」

「そうなのだ」

「ルカー。おやつの時間だ。パパとお茶にしようか」

「パパ!」

 

決してお前の登場にルカは喜んでいるわけではない。おやつに食いついているだけなのだと自分に言い聞かせて舌打ちしたいのを我慢してサラは雪彦のほうを見やる。

 

パパと呼ばれた雪彦は四年立っても容姿に変化はなく、サラ同様見た目若いパパで通る。

銀のトレイに数人分のてぇーカップとティーポット。そしてルカ用のとびっきりおいしい果汁100パーセントのリンゴジュース。それとラビットが焼いた手作りクッキーの、山。

ルカは先ほどまで落ち込んでいた表情を一変させおかしおかしと嬉しそうにリズムをとって満面の笑みを浮かべていた。

サラはルカを抱いたままテーブル席へと歩き出し、子供専用の椅子にルカを座らせ自身も椅子に腰を下ろす。

雪彦、ラビットも椅子に座り、ルカの前にリンゴジュースを置いた。

 

「ルカ、今日の練習はどうだ?楽しいか?」

 

雪彦の問いかけに、ルカはリンゴジュースを一口口に含んでから答えた。

 

「……うーん。たのしくない。でもとうさまやさしくおしえてくれるからすきー!」

「そうかそうか。ルカはとうさまのことが好きなのか。私もルカが大好きだぞ」

 

デレデレな顔して偉大な魔法使いの姿もすっかりなくなっている。

負けじと雪彦もどこから出したのか、くるくるイチゴ味の飴をルカに手渡しながら、

 

「パパのことも大好きだよなー。将来パパと結婚したい感じだよなー?」

 

とルカの気を引こうとする。だがサラが

 

「おい!雪彦、そんなに甘いものばかり与えて虫歯になったらどうする」

 

とその飴を取り上げる。むっとした顔で雪彦が軽くサラを睨む。

 

 

「少しくらい食べたってちゃんと歯磨きさせるから心配ないさ。それにこれは私お手製の虫歯できない飴ちゃんなのだ」

「無駄な才能ばかり羨ましいかぎりだな。グールばかり作っていた才能とかな」

「……サラ、ちょっと地下室来い」

「いいだろう、私も腕がなまっていたところだ」

 

パパ二人はルカの頭を軽く撫でて、ちょっといなくなると残して部屋から出て行った。

ルカはラビットに

 

「どこ行くの?パパととうさま」

 

と尋ねた。ラビットはばりばりクッキー食べながら、

 

「男の友情確かめにいくんだとさ」

 

と説明した。

 

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