天姫side
あの巫女殿は私が異形のモノと視ただろう。そう、まさにそうだ。
神崎天姫という少女の中には『蒼龍』という混沌と破壊をもたらす蒼い龍が棲んでいる。こんなチッポケな器の中に壮大すぎる存在があるなんて信じられないでしょう?
彼の本体ではないけれど、コピーのような存在。私もいずれ死す身なれば、お似合いな相棒だ。人に理解されない身だからこそ、余計な争いを生む前に距離を作りひっそりと過ごす。どうかこのまま何事もなくあの子の為、死ぬためには旅をし続けなければならない。
要は私が妥協してただ我慢して過ごせば何もこうして単独行動とらなくてもいい問題なのでは?とか考えるけどそれは無理な話。
人に合わせて生きるってすごく大変な話。
人が決めたルールに縛られたらそれで固まってがんじがらめになってしまう。
でも私が歩いている道は『人』が決めたルールの上に敷かれているものではなくて私が決めた私自身を対価にして進めていく道。
社会の常識などない。世間的な、なんて言葉もない。
私が神崎天姫が決めた道だからこそ私が折れてはいけないのだ。
折れてしまったらゴールは一瞬にして消えてしまうから。
私の妹は死ぬという未来を生んでしまうから。
だからそれを阻むものは何であれ排除する。
あの子の為にあの子が生きる未来の為だけに私は進む。
「天姫?行くわよ」
声を掛けられ尚且つ、肩を軽く揺さぶられ私は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
プリメーラの仕事先へ向かう為移動中の車の中。どうやら少し寝ていたようだ。
車はすでに止まっている。私は軽くあくびをして先にドアから降りていくアイドルの後を追った。
「はいはい」
何やら、コンサートの準備だとか?歌って踊れるアイドルは忙しいらしい。
私にはまったく縁のない職種だからさして興味ないけどね。
※
浅黄笙悟なる青年となぜか会話することになった。
どうやらプリメーラ経由で私の事を知った彼が女だてらに軽々と男どもをのしたことにより興味を抱いたらしい。ゴーグルをかけた彼はそれを上にずらす。
「お前がプリメーラを助けた女か?神崎…天姫…だったか」
「成り行きで助けただけです、ファンとかじゃありませんから」
ぱたぱた手を振って答えた。
今の動作で何が面白かったのか、彼は目を細めて笑った。
「へぇ、…面白いな。お前巧断は何だ?」
「クダン?」
なんじゃらほい?まったく私が理解していないのをわかって彼は至極驚く。
「なんだ、知らないのか?海外から来たのか?」
「まぁ海外みたいなもんですね」
異世界って海外みたいなもんだよ。私にとってはね。
「巧断っていうのはこの阪神共和国の人間にはからなず一つ憑くというぜ」
「……ふぅん…。まぁ私には関係なさそーですけど」
「は?」
「いえいえこっちの話ですのでお気になさらず」
またぱたぱたと手を振ってスルーしてくださいとお願いした。訝しんだ彼だがそれ以上突っ込むような会話はせずにドタバタやってきたプリメーラとわいわい騒ぎだした。(プリメーラが一方的に浅黄笙悟に絡んでいるだけ)
私はそれを傍観しつつ、先ほどの巧断とやらについて考えてみた。
要は一人一つの守り神というものか。
誰であれ必ず巧断というものは憑くらしい。
が、まったくもって私には関係ない話である。
既に彼が私の内に棲んでいるのだから、これ以上増やすことなどできないだろうし、蒼龍が憑かせることなど許さないだろう。彼は独占力が激しい。私と同じ気質だから。
『 』
ああ、蒼龍が唸ってる。
私が他のものに現を抜かすとでも思っているのかしら。
そんなことあるわけないじゃない。
大丈夫よ、私は貴方だけを信用しているわ。
この世界で誰よりも貴方だけが私を信じていてくれているもの。
他は、いらない。そう、心から語れば彼は
『 』
と嬉しい言葉を返してくれた。
(この後私たちと別れた浅黄笙悟はなかなかに見どころある少年と出会うらしい)
◇◇◇
これは小狼とファイと黒鋼の一部のやり取りに過ぎない。
夜が明けた次の日、空汰からお昼代と渡されたカエル型の財布から抜き取ったお金で買った林檎をかじりながら一同はなんとなく昨夜の出来事を思い返していた。
いきなり別行動をとった少女。黒い髪に紅い瞳を持つ印象に残る少女は夜の闇夜に身を滑らせ消えていった。ファイを忌々しげに睨みつけて。衝撃的な出来事があったというのに小狼はこういった。
「あの、俺はあの人は悪い人じゃないって信じてます」
あの人と言っているのはまだ彼女の名前を教えてもらっていないから。
それに返答を返すのは首を刎ねられそうになったファイ本人。
「へぇ~…なんで出会って数時間の人間を信じられるの~?」
「はっきり言えないんですけど…でもあの人はさくらの羽根を見つけてくれました。さくらの事を心配してくれたんです。あの時の表情は本当の心配してくれてました。だから、俺は信じます」
ふーんと適当な相槌をうったファイは林檎をひょいっと宙に放りなげて自身の手の平に落として一言漏らす。
「オレはあの子は脆いと思うよ」
「………相当腕は立つようだがな」
黒鋼の頭の上ではモコナが大口開けて林檎を口の中に放り込んでいた。
「あーん(ぱくん!)」
その林檎は空間を通って侑子の手に送られる品物であろうことは向こう側が分かること。
ファイは黒鋼の言葉の真意を理解していた。あの少女の刀さばきは刀の鞘から刃を抜く瞬間を肉眼で確認できないほど素早い動きであり、一言でいうなれば『経験持ち』ということ。何の経験か、それは彼女自身がファイに行ったことこそが全てを語っている。
「そうみたいだね~。でも……それはある一面の部分でしかないのかもしれない」
ファイの手の中で林檎は弄ばれる。コロコロと、右手に行ったり左手に行ったり。
次元の魔女に縋り願いを叶える為、旅に加わったはずなのに次元の魔女が言う『必然』を認めたくないなどと。矛盾だらけ。最後には
『シャク』
甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。みずみずしい熟した林檎。
「ぽっきり折れそうで…なのに強がった瞳を持った怖い子、だよね」
小さな幼子が大切にしていたぬいぐるみを誰かに盗られそうになって
それを必死に守り抜こうする精一杯の虚勢。何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
『『必然』など、認めはしないっ!』
あの言葉をオレにぶつけてきたときの怒気を含んだ顔付。ぽっと浮かんだ感情。
『知りたい』
彼女がどうしてあんな顔をしたのか知りたい、と思ったんだよね。
どうしてそう思ってしまうのか。オレにはさっぱりさっぱり。
ファイはまた林檎をかじった。
(興味は最初の出会いからスタートしていた)
◇◇◇
天姫side
プリメーラはアイドルだから忙しいはず。
ドラマの撮影に雑誌の取材CMの撮影間近に控えたコンサートの準備etc.etc.……。
だってぇのに、彼女はなぜか自分のファンを使って少年を誘拐させてきた。
阪神城なるてっぺんに縄でふんじまって宙づり状態で。
「うわーん!」
可哀想に。少年は泣いてしまっている。私はそれを遠目から腕を組んで見守っている。
「あんな高い所に縛り付けなくてもいいだろうに」
見晴は最高だろうがいかんせん、状況が悪い。私なら御免こうむる。隣でプリメーラがぷりぷりと怒っている。
「ちょっとぉ~、天姫の知り合いなんでしょ!?シャオランって言うの」
指で上を指し示しながら問いかけてくる彼女に私は頭を振った。
「いや、知らん。悪いが知り合いでもなんでもない」
「えぇ~~!?じゃあこの子シャオランじゃないの!? 笙悟君に今更違うなんて言えないじゃない」
「さぁな、私の知る所ではない」
「むぅ~、薄情者」
「何とでも」
私はそう言い残して少年の所へ行ってみることにした。
足先にちょいと力を籠めて一気に上の方まで跳躍する。
なぜなら少年だけでなく、めっちゃ知ってるぬいぐるみがぶらぶらと楽しそうにしていたからだ。
ぴょーん、ひょいひょい!
「なんでモコナまで連れてこられてるんだ」
「天姫だー!お久しぶりぶり♪」
「ぶりぶりじゃねぇよ、ぬいぐるみ」
「ぬいぐるみじゃないもーん!」
「じゃあ白い物体」
「それいや~ん」
何がいや~んだ。私はモコナの口を塞ぎつつ、泣きべそかいている少年に声をかけた。
「もう黙れ……少年。君小狼君の知り合い?」
少年は私の存在に驚きつつも恐る恐る返事をかえしてくれた。
「は、はい…」
「そっか、頑張れ!」
「!助けてくれないんですかぁ!?」
「え?私が?うーん、私より…ホラ!下に来てるよ。小狼君たち」
まさに私の言葉通り、城の真下でうじゃうじゃと溢れかえりそうなほどのプリメーラのファンをかき分けて三人組が疾走してきた。偉いね小狼君。友達を助けにでも来たか。私はプリメーラの隣に戻る為下に降りた。小狼君は声を張り上げて一枚の紙を広げながら大声を上げた。
「この手紙を書いたのは誰ですか!?」
「あたしよーぉ♪」
それに応えるは隣の我儘アイドル。
「モコナと正義君を返してください!」
「あれ『シャオラン』じゃないの?やっぱり違うじゃない!なんで教えてくれないの!?天姫!」
「だから勝手に連れてきたプリメーラが悪いんだろうが」
「教えてくれない天姫が悪いっ!もう!頭キタんだから」
「ハイハイ、適当に頑張れ。私は傍観してるから」
「ムキー!」
プリメーラは自分の巧断で小狼君たちに攻撃を仕掛ける。
彼女の巧断はどうやらマイクらしい。
それに向って叫ぶと自分が言った言葉がそのまま大きな文字として出現し相手に高速で襲い掛かるという、可愛らしい攻撃だ。
まさにアイドルに相応しい巧断と言えよう。
だが、あのヘラヘラ男の巧断はそれを難なく避け、あまつさえ空を飛んでコチラ側に向って目指して飛んでくる。
あ、視線があった。何へらへら笑ってんだよ…。気安く手まで振ってきやがる…。
「なんで私目指してきやがるかな」
私は慌ててプリメーラの腕を掴んで逃げようとする。
「ちょっと!今良い所なのにっ!」
「良くない、向こうがこっち狙ってきてるでしょーが」
ぎゃーぎゃーと喚くプリメーラを何とか引きずろうとするも彼女はまだまだ叫び足りないらしい。そうももめている間に、アイツは目の前まで来ていた。
「やぁ、元気にしてた?」
「その張り付けた笑みを私の前で見せるな」
プリメーラを背後で庇いつつ、視線は外すことなく睨み続ける。
「えぇ~?オレ心配してたんだよ?君の事。あの後、突然出ていくからちゃんと生きてたかな~って」
「生存確認できただろう、良かったな。だったらサッサと消えてくれ」
「うーん、そのお願いは聞けないな。だってオレ女の子と闘いたくないもん」
さぶっ。
背中がぞくっとした。台詞に拒絶反応が出たのだ。
…ハッ!?そうだこれは私に向って言ったわけではなくプリメーラに向って言ったのだろう。だって私攻撃とか今は一切していないわけだし!
そう結論出した私は
「プリメーラ、アイドルならちゃんと責任取りなさいっ!」
「え?」
プリメーラを彼の前に差し出して、一気に逃げた。
「あれ?」
「ちょっ!天姫!?」
三十六計逃げるにしかず。犠牲はつきものなのさ。
「薄情者ぉぉおおおおおお!」
プリメーラの怒号は、この際聞こえないふりしました。
(逃げ足は速いんです私)