。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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06『悪役の鉄則』

天姫side

 

少女一人で住むには大きな家だと思った。

随分と元気よさそうな黒髪のポニーテールの女の子がこの家の家主らしい。

この家にはほかに人の気配はまったく存在していない事は外から見えた時にわかっていた。

彼女がサクラちゃんの腕を引っ張って自宅まで連れてきたらしい。

後から遅れてやってきた私とファイがくるまで彼女は、ウズウズと質問したいのを我慢して待っていてくれていたらしい。

さっきから『らしい』という単語を繰り返しているがこれはモコナがわざわざ!丁寧に教えてくれた。余計なおせっかいだっちゅーの。

お家に上がらせてもらった際、黒鋼と視線が

 

『ばちっ!』

 

と交錯した。そうしたら

 

「……ハッ……」

 

と鼻で笑われた。

あ、これキレていいんだ。キレていいんだよね?

だってコイツ笑いやがったよ、鼻先で嗤いやがったんだよ?

瞬間、私の手は刀に動いていたが、ガシッと腕を掴まれた。

誰に?勿論、おせっかい野郎に決まっている。

私は極力笑顔を作りながらぎぎぎっと振り返り

 

「………邪魔しないでいただけますぅ~?」

 

とお願いした。だが、奴は「し~」と内緒のポーズをとって

 

「ダメだよ。女の子の前なんだから」

 

と釘をさす。確かに、ここにはサクラちゃんとまだ名前も聞いていない少女がいる。

殺傷沙汰を彼女らの前で行うのはよくはない。ならば

 

「だったら誰もいないところに呼び出してやるからお前さっさときやがれ!」

 

だが、黒鋼は私の方を見向きもせずに己が今夢中になって読んでいる雑誌『マガニャン』片手に

 

「邪魔すんじゃねぇ」

 

と一蹴された。私はその場で脱力し両手を床につけて肩を落とす。

くぅ~、なんてこった。

私は『マガニャン』よりも格下ってことかい…!!

私がショック状態な事を良い事にモコナがくるりとリズムを取りながら踊る。

 

「天姫は格下~下の下の下~♪」

 

「この白まんじゅうめっ!」

 

「いや~ん!」

 

この白まんじゅうめ、首絞めてやろうとしたけどどこが首なのかわからない。

今だ名前がわからなぬ少女が控えめだがやかましく言いあいを続ける私とモコナを一瞥して、ぼそっと告げてきた。

 

「もう、いいか?」

 

「どうぞ、長らくお待たせいたしました」

 

反射的に私は土下座していた。

めっちゃ空気読めてない息苦しさとここまで黙って見守っていてくれた彼女に感謝と謝罪の気持ちを含めて。

 

(土下座は得意のような……気がする)

 

◇◇◇

 

少女の名前は春香[チュニャン]。春の香り、可愛らしい名前だなと思った。

少女のとやり取りは他の人物に任せ、私は静かに観察することにした。

…別に、もうヘマをしたくないから黙っているというわけではないのだ。

情報を集めることも必要と判断したまで。

 

……決してヘマをしない為ではないことだけ言っておこう。

さて、話を戻すが春香はどうやら私たちが暗行御吏だと思って声をかけてここまで連れてきたらしいのだが違うと否定されればわかりやすいほどに小さな肩を落とした。

 

「暗行御吏[アメンオサ]なわけないか…」

 

御気の毒としか言いようがないが、情報を集める面で言えば勘違いされた事は幸運だったかもしれない。これが見た目も中身も低能な屑が最初の出会いだとしたら今後の展開に期待できないだろう。やっぱり最初の出会いというのは大切である。うんうん。

その期待していた暗行御吏[アメンオサ]というのは私利私欲に溺れる領主[リャンパン]達を退治し監視する役目を持つ国から派遣される隠密だそうだ。

モコナが嬉しそうに叫んだ。

 

「黄門様だー!侑子が好きなドラマみたい」

 

「渋すぎ」

 

思わずツッコミしていた。

このネタが理解できるのは私とモコナくらいのようで、他の四人は首を捻って頭上にクエスチョンマークを浮かべている。

……これが異世界とのギャップか。

遠く来てしまったなとちょびっと胸が痛んだ。

…ハッ!?今重要なのは『控えおろぉー!この紋所が目に入らぬかぁぁぁー!』という話題ではない。今の所のこの旅の目的は散ってしまったサクラちゃんの羽根を捜す旅。

その羽根を所有していそうな人物を捜すことだ。

 

「俺達は暗行御吏っていうのじゃないんだけどさー。彼が小狼君であの子がサクラちゃん、それでこの白まんじゅうがモコナでー、オレがファイ。そいでもってあれが黒ぷーで「黒鋼だっ!」そして最後に、この子が」

 

「神崎天姫です、さっきはごめんなさいね?変なところを見せてしまったようで」

 

「天姫ちゃん、作り笑顔上手いね~」

 

自己紹介は勝手ファイがやってくれたが私は彼の台詞を遮り自分で自己紹介。ホント最後に一言余計なんだよ、この男は。舌打ちしたいのを押し隠していると、私の胸の内で『鈴』が鳴る。

 

シャラン……シャラン……。これは警告だ。蒼龍からの、警鐘。

 

「…くる……皆伏せなさいっ!」

 

「え?」

 

理解できずとも危険は迫っているのだ。

私は怒鳴りながらも

 

「いいから、春香っ!」

 

「うわっ」

 

呆ける春香を胸に抱き込んで床に伏せた。

突如襲う台風のような風。轟々と耳をつくような音に胸に抱く春香が息を呑む音がした。

私はぎゅっと抱きしめて風が行くのをひたすら待つ。

 

明らかに自然のものではないそれは

 

「筒抜けってわけね……のぞき見だなんて野蛮な連中…」

 

タイミングが良すぎるのだ。粗方、怪しい術とかで監視していたのだろう。

悪役決定。根性が腐ってる奴には死あるのみ。これが私の鉄則である。

春香は小さく呟いた私の台詞に違和感を感じ取ったのだろう。疑問をぶつけてきた。

 

「お前、風が来るのわかってたのか?」

 

「うーん、勘みたいなものね。怪我はない?春香」

 

「う、うん」

 

「そっか、良かった」

 

話題をすり替えつつ無事で良かったとふんわり微笑みかければ春香も可愛らしい笑顔でお礼を述べてきた。

 

(悪い事したら懲らしめられちゃうんだから♪)

 

◇◇◇

 

ファイside

 

一宿一飯の恩義って大事だよねー。たぶんというか十中八九領主の仕業だと思うんだけど春香ちゃんのお家の屋根はものの見事にお家の中から御空が丸見え状態。

強風により飛ばされた屋根の木材は遠くの彼方だねぇ。

 

今黒鋼がトンテンカントンテンカンと屋根に上って修理中。小狼君とサクラちゃんは春香ちゃんと一緒に街に行ってもらった。沈んでいた表情だった春香ちゃんにもいい気分転換だと思ったし。街を案内してくれるって言ってくれた春香ちゃんの申し出を天姫ちゃんはやんわりと断った。オレと黒鋼がサクラちゃんの記憶について話している間も、他愛のない会話にさえも反応することなくぼんやりと壁によっかかっていただけ。

沈黙を守っていた彼女が小さく蚊が鳴くような声で喋った。

 

「天姫ちゃん、お茶して待ってよ~?」

 

黒りんに修復はお任せしてお茶タイム。オレの誘いにも天姫ちゃんはしばし、黙ったままだった。

あらら、オレ無視されちゃった?とか感じたけどそうじゃなかった。

天姫ちゃんは最初から、誰も見てなかったんだ。

 

「思いだせない…事ってそんなに辛い事なの?」

 

「天姫ちゃん?」

 

突然どうしたんだろう。

名前を呼んだけど彼女は外を見つめてただ口を動かすだけ。

 

「だって二人は一緒にいられてる。ちゃんとお互いが確認できる、息遣いを感じられて鼓動を確かめられる距離で、手を握れる位置にいる。それはとても幸せな事だわ」

「記憶がないからって忘れられたからってその人がいないわけじゃない、目の前から消えるわけじゃない。自分の目の前で守れる位置にいる、手が届いて傍にいる。……死ぬわけじゃない………生きてるんだ」

 

自分に言い聞かせるみたいに

 

「生きてるんだから」

 

どこか羨ましそうに切なそうに

 

「生きてればなんでもできる、死ねばそこでおしまいなのよ…」

 

『誰かの終わり』を知っているからこそ言葉にするみたいで

 

「あの二人は…生きている…」

 

ぎゅっと胸元の服を握って苦痛に耐えているかのように瞼を閉じて、また開いた。

その時、オレと一瞬だけ視線があった。

溺れそうなほど深い深い、闇を宿した瞳。隠された心の叫び。

 

「『本当の辛い』って、目の前から……いなくなっちゃう事よ」

 

手が届く距離にいて取り戻せないことを嘆いてオレに言う訳じゃなくて

黙って聞いていた黒鋼に向けてもでなくて彼女は、自分に語り掛けていたんだ。

自分で自分に現実を伝えていたかのように思えた。

 

(胸に響く彼女の瞳)

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