。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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07『他人のキミと私』

天姫side

 

街で何か騒ぎがあったらしい。帰って来た春香たちの顔が曇っていたことが何よりの証だった。詳しい話など聞かなくてもわかりきっていた。

 

「春香…」

 

「アイツは、アイツは…私の母さん[オモニ]を殺したんだ……!」

 

「……そう、だったんだね…」

 

悔し涙を浮かべる小さな少女。力がないから、子供だからと彼女は言う。

ぽんぽん、と頭を撫でるくらいしか私にはできない。まるで昔の自分を映しみているようで辛かった。力に固執していた時期の私。力さえあれば幸せになれる、なんて馬鹿な事考えてた私。でも力を求めずにはいられないんだ、私も春香も。

領主による圧制と法外ともいえる重税。自分たちの私利私欲の為に民を虐げ、金を巻き上げる。好き放題やりたい放題の毎日に民が黙っていられるわけがない。皆決起して立ち上がったが強大な力の前には歯が立たず、泣き寝入りするしかなかった。平穏からかけ離れた日々の中、わずかな希望である暗行御吏の到着を心待ちにして耐え忍んできた。

春香が私たちで問いかけたので何人目になるんだろうか?

『お前は暗行御吏じゃないのか?』と。

これが世界。これが、現実、か。世界とは、かくもなんと不平等にできていることだろうか。両天秤から落とされるのはいつも罪の無き者ばかり。平等、だなんて理想の上での言葉だけでしかないな、と思った。

 

領主を倒しに行く。

そう決意した小狼君。彼が動いたのには理由がある。一年前から妙に強大な力を持つようになったという噂。これにピンときたのがファイであった。

彼曰く、サクラちゃんの羽根が関わっているんじゃないかと。私もそう思う。あの妙な力…、人が持つ上で不相応すぎる。身の丈に合わない力は人に不幸を呼ぶものだ。力に溺れ己を見失い、果てにまつのは破滅のみだ。

しかし、簡単にお城に入れる訳ではない。腐った輩の考えそうなことだ、罠か何か張っているに違いない。行き詰まりかけたかと思いきやここでモコナの提案が発生。

 

「侑子に聞いてみよう!」

 

妙案である。モコナの額が光だし壁に映像を映し出す。

 

『あら、モコナ。どうしたの』

 

それを見た小狼君、サクラちゃんそして春香が驚愕していた。

そりゃ普通は驚くよね。ファイがかくかくしかじかと説明をすると、侑子はふうん、と意味ありげに一つ頷くとファイに向けて妙な台詞を言った。

 

『あたしが対価にもらった刺青はアナタの魔力を抑える為のもの。魔力そのものではないのよ』

 

「オレ魔法は使わないって決めてるんで」

 

ファイは笑顔できっぱりと言い切った。

その言動に違和感を感じなかったと言えば嘘になるが、別に他人の事情に首を突っ込むほどトラブル好きでもなし。自分の事で精一杯の私には至極どうでもいい事だ。

興味はすぐに失せた。結局二人のやり取りはうやむやに終わり侑子はファイの魔法杖を対価に黒々とした丸く手のひらに収まるくらいの球を寄こした。

よし、これで一歩前進できる。そう思った矢先、侑子が予想外の行動を取りやがった。

 

『元気にしていた?天姫』

 

「侑子、…なんで…呼ぶんだ……」

 

すぐに終わると思った。声を掛けられるなんて思わなかったんだ。

ちょっと待て、狗楽は傍にいないだろうな?

まずそれが気になって、徐々に怒りがこみ上げた。

この女、何考えてやがる!?

早く逃げなくちゃいけない、と思うが躰の自由がキカナイ。

 

『アラ?心外。アナタが心配だから声を掛けてあげたのに』

 

「頼んだ覚えはない、サッサと切れ」

 

『い・や♪』

 

この魔女、聞き捨てならん言葉に顔が歪む。歪んで焦った。メッチャ焦った。

 

「何だと!?…サッサと切れと言っているだろう!?というかそこにあの子はいない事を前提で私に声を掛けたんだろうな?」

 

『いるわよ、あっちで無邪気にモコナと戯れているわ。呼んであげましょうか?』

 

良かった、元気なんだと沸いた安堵感に顔が緩む。

そして流されそうになった、今侑子が言った重大な台詞を。

 

「そうか安心…ハッ!?いい、呼ばなくていいっ!?だからサッサと通信を切りやがれっ」

 

問題はそこなんだよ!

 

『だからい・や♪』

 

「貴様ァァアアアアア!というかなんで私の躰が動かないんだ!?侑子謀ったな!?この意地悪大酒のみ性悪女!」

 

『オホホホホホホ』

 

「この、毒牙一発女め!」

 

『やかましい』

 

こんな無駄なやり取りの間に、彼女が近くに来ていることを私は知らなかった。

焦っていたんだ。

逢いたいけど、逢いたくないっていう矛盾した気持ちを抱えていたから。

 

ぐいぐい

『ちょ、コラくー』

にゅっ

「っ!」

 

『狗楽!』と声に出して叫びたかった。喉元まで出かかった言葉は

 

『あ!、あのわたしくーって言いますっ』

 

緊張からか少々震えた言葉で、ハタリと我に返った。

私は動揺を悟られないよう平静を装った。落ち着け、落ち着くんだ。私。

 

「………そう、『くー』と言うの。良い、名前ね」

 

良かった、元気みたいだ。でも敬語なんだね。昔の狗楽と目の前のくーが重なってダブる。無邪気な笑顔はソックリなのに、違う。

この子はあの頃の妹ではないのだと気づかされる。

 

『ありがとうございます!……あの、アナタの名前は?なんていうんですか?』

 

「…私は、…狗楽、…天姫。よろしくね、『くー』ちゃん」

 

『ハイ!天姫さん!』

 

ファイに言った言葉。

 

『思いだせない…事ってそんなに辛い事なの?』

 

あはは、自分で言っておいて墓穴掘った。確かに辛いね、辛いよ。

妹の瞳には『赤の他人』の私が映っているんだ。妹は、何も覚えてはいない。私を、覚えていない。突き刺さる現実。目を背けていた事実。狗楽なのに、狗楽じゃない。

私に会えて嬉しそうな顔して、どうしてなのって聞きたくなった。

けど、引っ込んだ。そんな言葉掛けたところで狗楽には理解できないって思ったから。

目の前にいるけど、やっぱり遠い、ね。

 

「……っ……」

 

「…天姫ちゃん…」

 

ファイが私の名を呼ぶ。私は逃げるように、まだ喋りたりないに妹に背を向けて

 

「………侑子、…礼は、言わないからな…」

 

とだけ残して一方的にモコナの前から移動した。逃げたんだ。私は……あの子から。

 

『ええ』

 

侑子の言葉で通信は途絶えた。

消える直前、あの子の寂しそう顔を見てしまった。

シン、と静まり返った室内に気まずい雰囲気が漂っていて居心地は最悪。

小狼君が戸惑いの声をあげる。

 

「天姫さん、瞳が…赤い…?」

 

ヤバい、見られた。感情の高ぶりによって現れるソレは、他人からみれは異常そのもの。

私はすぐに顔を背け視界を手で遮った。

みられたくないからだ。こんな血のような紅い瞳など。早口で謝罪し部屋を出ようと足を動かした。

 

「ゴメン、気味悪いよね。すぐに元に戻るから!」

 

「天姫ちゃん」

 

だがファイに止められた。

ファイの手が肩に置かれたけど私はそれを振り払う。

 

「構うな、……私に…構わないで……アンタには関係ない…」

 

気遣い込められた声に、一瞬だけ反応してしまう。

だが、彼に関係ない。気休めの同情なんかしてほしくない。

いらないものだ、そんなの。一時の感情だけなんだからやめてほしい。これは私の道なんだから。

 

「お城に乗り込むのだろう?私は先に行く」

 

逃げるようにしてその場を駆けだした私。実際、逃げたんだ。臆病者だから。

いっその事、全ての事から目を背けられたら

(どんなに『楽』だろうか)

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