冷静な自分に戻れ戻れ戻れ戻れ戻るんだ。じゃないと崩れる私が崩れる。
『強い自分』を演出する壁が、壁が脆くなってしまう。
亀裂が生まれてしまう前に仮面を創り被れば大丈夫。壁がなくなっても仮面で隠せる。
何事にも動じない鉄壁の仮面を被れば平気、感情乱れることだってないし嫌われたって何も感じることはない。恐怖を抱くことだってない。
無関心になればいいんだ、周りなんか気にするな。
何を言われたって構わないじゃないか。
ああ、でも。あの子との距離を感じ取ってしまったのは正直、まいった。
「くる、…しい……なぁ……」
言葉に出すことでなおさら実感する。
苦しい、苦しい、悲しい、切ない、もどかしい。
呼吸するやり方を忘れたみたいに、呼吸が出来なくて苦しい、ただ苦しいのだ。
あの子は覚えていなくて、私だけが覚えていて。
あの子には私が他人で、私にはあの子だけしかいなくて。
どうして一思いに奪ってくれないの?私の命を。
最終的に無くなる命ならさっさと奪ってしまえばいいのに、私はいつだって差し出す覚悟はあるのに。
残酷すぎるよ、侑子。貴女のその優しさが私には辛い。
(頬から零れ落ちていく水滴は幻じゃない)
◇◇◇
サクラちゃんと春香ちゃんはお家で待つ事になったらしい。どういう風に言い止めたかは分からないが彼女らの姿がいないのが何よりの証拠であろう。私も内心安堵である。
足手まとい云々より先に危険な場所であることは確か。復讐したい気持ちも理解できるが、状況が状況である。
弱い立場の者を連れて行けば隙を突かれ盾として使われる可能性もあるのだ。
できるだけ危険は回避したいし、何より領主にケンカ売ったという事実は春香にとっては不味い事実として後々に面倒事に巻き込まれるかもしれないのだ。
彼女を気遣っての事も含まれているのだ。さて、長々語ったか今は目の前の片づけるべき現実が先である。
胸糞領主の城の中に無事に突入成功した。
小狼君の見事かつ豪快な蹴りで黒い球は遥か上空へ飛び上がり城の秘術を見事、打ち破ることに成功したのだ。それは良好で何より。旅を続ける為に悪者退治と参りますか。
が、無事城に潜入できるというのに少年らの気づかわしげな視線が私の歩みを止める。
小狼君が遠慮がちではあるが声を掛けてきた。私はそれをチロリと顔を少しだけ向けた。
「天姫さん…」
「気にしないで?小狼君には関係ない事だから。それよりもサクラちゃんの羽根を取り戻す事でしょう、アナタにとってもっとも大切なのは。それを優先させなさい、ね?」
微かに微笑んで無理やり納得させた、強引ではあったが本当の事だ。
彼もハッと気づかされたように重く頷いた。
「………はい…」
納得はしていないようだがこの際気にしない。ファイと黒鋼も話しかけてきたが
「天姫ちゃん、大丈夫?」
「人並み以上に人間らしい面があったとはな」
「………言ったはずよ、私のことは気にするなって」
一切拒絶して私は歩み出す。後ろの突き刺さるsideがヒシヒシと伝わってくるがスルー。
ここで心打ち明けることなど私に必要ない。ましてや心配される筋合いもない。
拒んで拒んで、私は尚更孤立して強くなる。
余計なものを背負わずに、最後の時を迎えなくてはいけないのだ。
「天姫~、力抜いて抜いて!」
「モコナ」
ぴょんと肩にモコナが乗っかってきた。
ぺしっ!と小さな手で私の頭を軽く叩く。いきなり何を?と驚いたがモコナの言葉でハッっとさせられた。肩に力が入り過ぎていたのだ。緊張、していた。
敵を前にしての武者震いとか未知なる敵に対しての恐怖、とかではない。
自分の領域に他人を入れさせまい為の虚勢。突っぱねて冷たくさせて自分に関心を向かせまいとする意地なのだ。
「……ありがとう、ちょっと緩んだかも」
「どーいたしまして♪」
モコナにだけ聞こえるように小さく礼を言った。どうしてかこの白まんじゅうは人の心の敏感なんだろうか。まぁ、嬉しかったのだけれど。
◇◇◇
ファイside
さっきから彼女が気になって仕方ない。
オレの後ろを数歩距離を置いて歩いてきている彼女はずっとだんまり。
時折モコナとは会話しているけどそれ以外はオレが話しかけても無視。酷い。
考え事してるって言う事じゃないね、あれは。
一線を引いてオレたちとなれ合わないようにしているかも?
お城に潜入してから長い廊下をひたすら歩いたけど全然入口という入口が見つからないんだよね。これはひょっとしてアレかな?なんてある答えが浮かんだ。
それにしても天姫ちゃんの態度が気になる。
どうしてそこまでオレたちを拒むのか。
どうして小狼君とかサクラちゃんには優しいのかな~?と心で考えても意味がない。
黒りんのぼやきにオレも付き合ってあげた。
「ったく、いつまで続いてんだよ。この回廊は」
「世界の果てまで~だったりして」
そうしたらオレの肩に乗っているモコナがにゅ!と頬を頬を挟んで遊んでいる。
「いや~ん!モコナ歩き疲れちゃうかも~」
「オメェーは全然歩いてないだろうっ!?」
黒りんがすかさずモコナの口をみょーん!と伸ばしにかかった。
ホント二人は仲良しだね~。
小狼君が碁石?だっけ、それを入口近くに落としておいてくれたおかげでオレたちは回廊をずっと回って回って歩いていただけに過ぎないことを理解させられた。
うーん、この状況は良くないかな~。
俺は一つ思案して魔力が一番強い場所を探して、ある場所を見つけた。
壁に近寄って手を当ててみる。うん、ここかな?
「たぶんこの辺かも」
「お前魔力使わなかったんじゃないのかよ」
「これは魔力じゃなくて勘かな、それよりここ割ってみて。ストレス発散になるよ」
「俺かよ!」
黒りんはツッコミ屋だね。
でも理由はちゃんとあるんだよ。
「だって力仕事はオレの専門じゃないし~可愛い天姫ちゃんに割ってもらうなんて酷いこと頼めないし~」
話聞いてないかもしれないけどオレは彼女に話しかけた。
そうしたらなんと予想外の言葉が返ってきた。
「やる」
「え?」
一瞬呆けたオレと小狼君。黒りんも顔が歪んでる。
信じられないから?
オレもなんだけど、そうこうしている間にも天姫ちゃんはオレ達の前にスッと歩いてきて壁の前に移動。
トントンッと軽く交互に足で跳んで調子を見ているかと思うと、左足を軸にして右足を高くあげて素早く振り下ろした。
「ハァァァアアアアァアアア!」
ドゴォォオォォオオ!
気合込められた声と分厚い壁に穴が開き煙が舞いガラガラと瓦礫が崩れていく。
オレたちは三者三様の反応になった。
「ひゅー」
「………すごいですね…」
「怖ぇ女」
オレたちに強烈なインパクトを与えた彼女は一人はしゃいでいる感じ。
真剣に悩む姿にちょっと可愛いと思った。
「よし!ストレス発散になるわこれ……全部の壁壊しちゃ駄目かしら…」
「天姫怖っ!」
「煩い白まんじゅう」
「天姫怪獣だったって侑子に教えてあげようっと」
「やめぇーいぃ!」
必死に逃げるモコナを捕まえようと奮闘するも逃げられてるところが間抜け。見てて飽きない。もしかしてさっきまでだんまりだったのは機嫌が悪かったからだったのかな?
天姫ちゃんの隠された一面をちょっとだけ知ることができたオレも気分が上昇。
「天姫ちゃーん、全部壊しちゃったら見栄え悪くなるよ~?もしかしてお城崩れちゃうかもだし」
「………ハッ?!そうか……残念……って別にアンタに関係ないでしょ!?」
「え~?そんなことないよ。だってオレたちも巻き添え食っちゃうもん」
「………………クッ……」
どうしてか、こうコロコロと表情が変わるのかな。
ホント気になって仕方ない。オレは彼女にばれないように苦笑気味になって
「さぁ、行こう?」
御姫様、御手をどうぞと王子様みたいに手を差し出したら
「結構!」
とプンスカプンスカ!怒ってスルーされちゃった。
やれやれ、と肩を上げて俺も歩き出した。
(彼女のあたり所は破壊行為)