。ケ咲イ狂テウ狂リルク   作:サボテンダーイオウ

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09『その呼び名で呼ばないで』

天姫side

 

大体展開は想像できていた。だって筋金入りの悪党の考えることだ。

素直に城に潜入されて『はい!私が悪役です』なんて目の前に出てくるわけがない。

それなりの障害、もとい罠は予想の範囲内である。

だが、まったくこれは予想していなかった。

相手が私が『誰』であるかを知っていたという事を。

私たちを出迎えた人物は人間ではなかった。

天上に吊るされた長い天蓋の下で優雅に座っていた女性。

気配だけで相当な手練れであることは間違いないその女性はゆっくりと顔を上げて私たちを見た。妖艶な佇まいに潜む気配は人間の類ではない。

 

『ようきた、童共よ』

 

私も童扱いかいと言いたかったが余計な事は言うまいと開きかけた口を閉じた。

彼女はどうやら相当長生きしている人物らしい。小狼君が丁寧に領主の居場所を尋ねるとスラスラと色々喋ってくれた。

気に食わない領主に掴まって色々命令されてるとか?羽根は領主が持ってるとか?

春香のお母さんと知り合いだとか?まー色々。一人で鬱憤溜まってるのかも。

……それは置いといて。

重要なのはコレではない。この後のことだ。

秘妖の彼女の視線にあたらないように目立たないようにひっそりひっそりしていた私。

そう、影のように黒鋼の背に隠れるようにしていたのだ。

鬱陶しそうな顔をする黒鋼は基本無視だ。

なぜかって?だって私正義の味方じゃないもん!

戦えるけど基本自分の事じゃないもん。これは小狼君の闘いであって私が関与していいものでもないし。極力距離を作る必要があるのだ。

仲良くなる必要など、ないのだ。無駄に力を使う事もあるまい。究極のお人よしなら話は別だが私は基本お人よしではないし、自らやっかいごとを抱え込む性分でもない。

 

『童だけかと思えば……龍の娘御まで共におられるとはのぅ。珍しいものじゃ』

 

空耳であって欲しいと思った。

『龍の娘御』このキーワードに当てはまるのはこの中で…たった一人。

だって性別男ばかりの中で唯一女の私一人。これで龍の男とか言われたら誤魔化せたけどご丁寧に娘御とつけてくれたもんだから視線がビシビシ刺さる刺さる。

私は眉間に皺を寄せ不機嫌を現すと同時に黒鋼の背からゆっくりと動いた。勿論、牽制も込めてだ。

 

「……その言い方はやめて頂けると嬉しいのだが」

 

というか私は貴方を知りませんと言いたい。

『ほぅ、私の敬意はお気に召さぬか』

「ああ、非情に不愉快だ」

 

というか早くここから逃げたい去りたい瞬間移動したいです。

約三名からの視線が突き刺さる。いや別に痛くないよ?

痛くないけど何となく気になる。

 

「天姫言っちゃえば?恥ずかしいならモコナが代わりに『がばっ』むぎゅっ!」

「白まんじゅうは口閉じろっ!」

 

風の如く動き小狼君の肩に乗っているモコナの口を塞いで血走った眼で怒鳴った。

 

「…………」

 

小狼君の視線が尚更強くなったというか、ちょっと変なモノを見るような感じで私は無言で秘妖に向き直ると月光を抜いて戦闘態勢をつくる。

 

「……さっさと道を開いてもらおうか、秘妖【キイシム】殿」

 

状況はさきほどとは一変した。私を知る人物をこれ以上ベラベラ喋らせる訳にはいかない。別に何とも言えない空気をごまかしたわけではない。

『じとー』とした視線から逃げたわけじゃない。

私の道を阻む者、それすなわち旅が進まない=私の敵!これは私の闘いなり!

 

『それがそうもいかぬのじゃ、たとえ龍の娘御の願いでも容易にきける立場ではない故な』

「だからそれ言うなっつーの!」

 

ホント人の話きかない人だよ。…おっと人じゃなかった。

うにゅ、メンドクサイ。とにかく戦じゃ!

なんだかんだで戦闘start。

 

(気になる気になるあの人の視線)

 

 

◇◇◇

 

ファイside

 

『龍の娘御』ってどういう意味なのかな。

次元の魔女が天姫ちゃんに向けて喋った『蒼龍姫』っていう名前も気になる。

まったくもって天姫ちゃんの謎はまったくもって深まるばかり。

小狼君と白モコナを見送ってオレ達だけで秘妖の彼女のお相手をすることになったんだけどー。状況は芳しくないみたい。

火傷さえ負ってしまう水が最初は跳んでくる球だったのに最終的には雨に変更。

うん、秘妖の彼女はオレたちを骨さえ残さず溶かしてしまうぞー!と軽く脅しているんだね。

そんな危機的状況ではあるけれどオレの興味は目下彼女に集中しちゃっている。

 

「所で、龍の娘御ってどういう意味?」

「今そんな事どうでもいいだろ」

 

ぶっきらぼうにオレと視線合わせる事無く間髪入れずに喋る天姫ちゃん。

彼女は自分の武器を構えてはいるけれど解ける水を切っても意味はナシと考え防衛の為に構える姿勢でいる。あー、白いほっぺが軽い火傷状態になってるみたいで痛々しいな。

火傷ってジクジクするんだよね。水ですぐ冷やさないとダメなんだけどこの場の水は遠慮したい所。

オレは自然な動作で彼女の頭を引き寄せようとした。

彼女の雨宿りになれればって意味だったんだけど天姫ちゃんはご丁寧にパシッとオレの手を跳ね除けてすっごく嫌そうな顔をする。

 

「良くないよ、オレ気になるもん♪」

「私はまったく気にならないので問題なし」

「え~?ぶーぶー、けちんぼだな天姫ちゃんって」

「けちんぼで結構!ってかあーくそっ!服がやばっ!?」

「うーん、それヤバいよね?天姫ちゃんってスタイルいいねー」

 

イイ感じに服が溶けてきてる現状。

男のオレとしてはどうしても彼女の今の状態は嬉しい展開な訳で、オレの視線に天姫ちゃんはバッと顔色を変え所々解けてきている服を腕で庇いながら必死に叫ぶ。

「見るなっ!じっくり見るなじろじろ見るな触るな寄るな近寄るな!」

 

見るなって言われても胸とか鎖骨とか腰とかお尻とか?見えちゃうものは見えちゃうし。

いい具合に服が溶けてるしスタイルいいねー。出るとこでて引っ込むとこは引っ込むってタイプ?人を狼さんみたいに言うし、ああ。隠さないで欲しーな。

 

「えーいいじゃない」

「良くないっ」

 

可愛いな、顔赤面しちゃって。オレが一歩踏み出すと天姫ちゃんはぎょっとして一歩後退する。でもここは不安定な場所の上おまけに下には全部綺麗さっぱり溶かしちゃう水がいっぱい。自分の足元の地面の一部がガラガラと崩れてしまい天姫ちゃんはギョッと慌てて身体を前に戻す。当然オレがいるからそうしたら天姫ちゃんは条件反射でまたオレから距離を置こうとする。でもまた足を一歩後ろの後退させると落ちちゃうよね。

わかるはずだろうにどこか抜けてる天姫ちゃんにオレは「ハイ」と手を差し出すと案の定露骨に嫌そうな顔して「結構!」と弾き返すからバランスを崩しかけた。

 

「ぎょえぇぇぇ!?」

「もう危ないよぉ~?」

 

背中から落ちそうになる寸前彼女の腰に腕を回して無事落ちることだけは回避できた。

その代わりお互いの密着度はググッと増すばかりでオレはここぞとばかりに彼女の感触を楽しむことにした。

 

ふにふに……

「お肉とかちゃんと食べてる?好き嫌いとかしないほうかな?」

もみもみ……

「胸おっきいねぇ~Dカップぐらい?」

 

にへらと笑いかけたら天姫ちゃんは口をぱくぱくさせてお魚みたいだと思った。

のもつかの間、高速で彼女の右手が動いて

 

「へ、変態ィィィイイイィイイイイイイイイィイイイイイ!」

バチンっ!

「イタっ」

 

ぷんすかぶーぶー怒った天姫ちゃんも可愛いなー。

でもオレのほっぺに紅葉が出来ちゃった。

黒りんには叱られるし

 

「お前ら黙れ」

『最後まで仲が良くて結構だ。ではさらばじゃ、童達と龍の姫御よ』

 

秘妖のおねーさんには褒められるし。うーん、今日は得した気分だな。

この後ちゃんと秘妖のおねーさんに勝って小狼君があくどい領主を追い詰める所まで駆けつけることができたのでした、ちゃんちゃん。

 

(オレはこの後ずっと天姫ちゃんから殺気を送り続けられたのでした)

 

◇◇◇

 

ずっとずっと前のお話です。仲の良い腐れ縁の二人が仲好く縁側でお酒を飲んでいました。

一人は自分が攻略できない男(好きな人)の愚痴ばかり言ってもう一人はあーハイハイと耳かっぽじりながら他人事のように流してはお酒をグイグイ飲んでいました。

どこかの誰かが散々愚痴を言って気が済んだのか隣でお酒ぐびぐび飲んでいる親友にお願いをしました。目をうるうるとさせてわざとらしがむんむんです。

 

 

「私のお願い聞いてくれる?」

「対価がいるわよ、アンタの場合は高いから」

「御代官様お願いしますー!」

 

どこかの誰かは一生懸命へこへこしてこびへつらってお酒注いだり親友の肩もんだりご機嫌どりに大忙し。親友はウフフと意地悪い笑み浮かべてご満悦。

散々こき使うだけ使ってようやっと親友から

 

「よし聞いてあげるわ」

「その言葉待ってましたー!」

 

どこかの誰かはやっと来たわこの瞬間!と歓喜に満ちた表情を浮かべそのお願いを伝えようとしました。

 

「よしあのね「言っておくけどアンタの旦那落とすって類はナシよ」…………えーん!そんなーーー!?」

 

「わざわざあたしに頼まなくてもアンタ自身の力で落とせばいいじゃない。まぁそこにアンタが憧れる本物の愛があるかどうか知らないけど」

 

けど親友が先回りして駄目だしをするとショックで泣き出しました。

 

「えーんえーん!親友が鬼だ!悪女だ毒牙一発女「うるさい」イダッ!?叩いた……幼気な女の子を本気で叩いたっ!?……だってだってあの人ったら自分の部下にナイスバディ女子置いてんのよ!?こ、この私が目の前にいるってのにこれ見よがしに部下はべらせて『何用だ、私は乳臭い娘に興味はないぞ』って嘲笑いやがって!しかもその部下女子も横でぷっと吹き出しやがって『まぁそんなまな板に縋り付く男がいるなら見てみたいものですわ、ねぇ~お館様?』とかほざきやがってあからさまにわかりやすく彼に縋りついちゃってさ誰の胸がまな板だって!?私か!?私なのか!えぇどうせまな板ですよぺっちゃんこですよ大根摩り下ろせるくらいぺったんこですよ!それの何が悪いって!?胸がないからって何が悪いっ世の胸ぺったんこ女子に謝れ地面におでこひっつけて謝れ永久に土下座しやがれぇぇぇえええええええええええええええぇええ!」

「気は済んだかしら」

「全然!もっと喋らせて」

「ダメ」

「だったら私の胸でっかくしてっ!こうぼいーんとでっかくネ?ネ?さっきたくさん働いたじゃない?」

「脂肪取りなさい。その方が早そうだから」

「それじゃ太るわッ!私にやけ食いしろというか!?……侑子は昔から胸デカい癖に脂肪取らないで酒ばっかりじゃんか」

「光は昔からちっさいわね」

「うぐぐぐぐ……」

「酒のつまみ無くなった、マル―モロー追加持ってきてー」

「はーい!」「はーい!」

 

似てるようで似ていない女の子二人が元気よく返事をかえしました。

すぐにやってきた追加のおつまみに手を出す親友の横でどこかの誰かは声高らかに決意宣言をしました。

 

 

「よし決めた!生まれ変わった私はナイスバディにするっ!こう世の男共が放っておけないほどダイナマイトボディにしてやるの!」

「変態にモテそうね」

 

親友はぴしゃりと指摘。けどどこかの誰かは親友の意見に食ってかかりました。

 

「私の彼は変態じゃないわ、ただ怪しい仮面つけて若い女子高生に怪しく微笑んでは『お前は私の物だ』と耳元で囁くだけよ。ただそれだけなのよ。素敵よね?そんなねじまがった思考を正してあげたくなるわ。つまり私色に染めてあげるって意味で」

「それが変態というのよ、ついでにアンタもね」

 

親友はまたぴしゃりと指摘。

 

「もう侑子っては長生きしてるから性格歪みすぎよ」

「アンタは大分おつむが低くなったわよ」

「「………………」」

 

両者無言で睨み合いが続くも先に根負けしたのはどこかの誰か。

ハァ~とわざとらしいため息を吐いて

 

「仕方ないわね、今回は譲ってあげるわ。だって私大人の女だから?酒ばっか飲んで人の純粋な悩みを嘲笑うような冷たい意地悪女じゃないから?」

 

とわざとらしく負けを認めました。けど親友は鼻先で笑いました。

 

「胸小さい癖に」

「………ムキィィィイイイイイィイイイイーーーー!」

 

余計な一言がきっかけでまた二人はくだらない言い争いをし出す結果に。

果てには、殴り合い…という花がない争いはしませんが地味にババ抜きでどちらの言い分が正しいか決着させようと勝負をし出すまであと30分くらい口喧嘩は止まらない模様です。

(生まれ変わりはナイスバディ女子に決まり!)

 

◇◇◇

 

天姫side

 

小狼君の見事な戦いぶりによりあくどい領主とその息子は仲良く秘妖の彼女が棲む世界へ最高のもてなしをうけにいってらっしゃーいした。

 

てれってって~♪

小狼君とその一向は悪者をやっつけたー。

経験値と仲間の絆(一部を除いて)がレベルアップしたー。

悪者のお宝『羽根』を手に入れたー。

 

ってな感じで高麗国とはこれでお別れ。

ぐーんと伸びをして着慣れた自分の服の感触にひたりやっぱいいもんだと思う。

異世界では異端者とみられるかもしれないが私は自国のものが一番お気に入りだ。

だって遠い彼の地と繋がっている気がするのだ。

サクラちゃんも3枚目の羽根を手に入れて若干ぽやっとしていてこっちがハラハラしてしまいそうな雰囲気ではあるがちゃんと起きていられる様子。

良かった良かった。彼女の様子をいつも気にしてしまうのはやはり遠い世界にいる狗楽の面影を感じ取ってしまうからだろう。

おせっかいではあるだろうが出来るだけ気を配ってあげたい。

自分の状況を理解するにはまだ彼女の羽根は足りないだろうから。

 

「ねー天姫ちゃん、まだ怒ってる?」

「……………」

「ねーねー」

「……………」

「天姫ちゃーん」

「…………………」

「ごりごりしちゃうぞー。えーい、ごりごりごりごり」

 

我慢の限界地突破!

 

「黙れ変態話しかけるな」

「あはは。やっとオレの方見てくれた」

 

見たわけじゃない。このへらへら男がしつこいくらいに人の視界に入ろうとするのだ。

さっきまで私が無言だったのは必死の攻防をしていたまで。

あっち向けばにゅっと目の前に現れるしこっち向けは背中に重い感触が発生し「無視しないでよー」と人の頭の上に己の顎を置いてきやがる。クソ私より背が高いから防ぎようがない。それでもあのような所業、いち乙女として許せるはずがない!

だというにこの男は罪悪感の欠片ほども謝る気がないようだ。うん、殺したい。というか殺したい。

 

「永遠に葬り去ってやりたいわ」

「うーんオレ死ぬわけにはいかないから、ダメ」

 

とほざきやがって急に私の前に動いて何するかと思えばツンと人差し指で私の鼻を軽く突いた。

フレンドリーかましてくんじゃねぇよ!?

私の怒りの右ストレートパンチを奴はひらりと軽やかにかわす。生意気な!?

避けられて余計に苛立ちが募った。

 

「ダメじゃねぇよ!?アンタ私が傷ついていない鋼の魂でも持ってると思ってんの!?」

「可愛いからやっちゃった。えへ」

「『えへ』じゃねぇぇぇぇえええええぇええ!」

 

私の絶叫とにへら男とのやり取りも

 

「痴話喧嘩にしかみえねぇ」

「黒鋼ツッコミ屋だー黒ツッコミ炸裂だー」

「うるせぇ白まんじゅうが!」

「いやーん」

 

白モコナと黒鋼の仲良し漫才も

 

「元気でな、小狼、さくら」

「春香も元気で」

「うん、春香ちゃんも」

 

小狼君とさくらちゃん、そして春香ちゃんは華麗にスルーしてしっかりとさよならの握手をしておりましたとさ。

モコナが次なる世界に向けて羽根を広げ私たちを吸引するまで私は声を張り上げて

 

「ごめんねー!最後までこんな流れでホントゴメンねー!」

 

と謝ってばかりいました。

(この流れは定番化するか?)

 

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