―――こんにちは皆さん。現在、1991年でっす。
マルフォイ邸よりこちらの情報をお届けいたします。
『ドビえもん!逢いたかったよドビえもおおおおおおおん!!!』
「ひっヒイィィィィ!?な、何なのでございますか~~~!!?」
ただいま、屋敷しもべ妖精のドビーをモフモフしております。
モフモフ…?いや、しもべ妖精にモフれるような毛は無いけど、とにかくモフってんだよ!何か文句あるかコルァ!僕がモフってるって言ったら、そこにモフモフがあんだよコルァ!(謎理論)
おのれ実物可愛いなこの野郎!まさかこうして触れ合えるなんて前世では思いもしなかったぜ!このままモフり倒してくれるわ!!
―――どうしてこうなったか、真面目に説明に入るとしましょう。
え?嫌だな、いつだって僕は真面目ですよ。まるで普段はおかしいみたいな目で見ちゃ嫌ですよ。
あっ、やめて、そんな冷たい目で見るのヤメテッ!個性を発揮すると排斥されるこの世の中の理不尽さヤメテッ!!
―――僕がハリーの物置に来るまでの50年間、結構色んな事が起きた。
結構というとアバウトになるのだが、実際そうなんだからしょうがない。
あれからヴォルデモートの手によって実体化(本人は気付いていない)する度に、ひたすら魔法の練習に打ち込んでいた。
ホグワーツ在学中のヴォルデモートは、定期的に日記へ記憶を転写及び書き込みをしてきた。
その度に地獄の嫌悪感を味わう羽目になり、今や奴へのヘイトは限界振り切ってますけどね!
まあ、お陰で魔法の練習が出来た訳なんですけれどね…。
あいつ、マジで許さんからな!お辞儀どころじゃねぇ、絶対いつか焼き土下座さす!!!
肝心の魔法の練度だが、割と良い線行ったのではなかろうか。
ハリポタ世界の呪文なんて映画勢なので全部覚えてないけど、その辺の知識はヴォルちゃんが転写してきた記憶からパクった。
使える物は何でも使わねばね!お前の物は、僕の物!魔法界のジャイアンになってやるよ!
あ、もちろん知識以外の、『思い出』……いわゆるエピソード記憶ってヤツにはまだ手を出してないけどね。
よっぽど頼らざるを得ない時は、閲覧するしかないかもだけど。
まず、初歩的な呪文と戦闘用の呪文は大体使えるようになった。
例えば鍵の掛かった扉を開ける《アロホモーラ》。
これはホグワーツの鍵付き扉を探しては手当たり次第に試して習得した。原作じゃ1年生のハーマイオニーでも使ってたので、難易度は低い呪文だと思う。
ついでに反対呪文の《コロポータス》も出来るようになったよ!扉を閉鎖するって、ヒッキーには必須スキルだもんね!…自分で言ってて何か悲しくなったわ。
攻撃に使える呪文は結構習得に時間が掛かったので、全部は無理だったけどある程度はいける。
相手を失神させる《ステューピファイ》。
魔力を弾丸の如く撃ち出す《フリペンド》。
水を操る《アグアメンティ》。
この辺の呪文はほぼ戦闘向けのものなので、そういう血生臭いものとは無縁の生活を送っていた自分にはイメージが難しく、意外と習得するのに手間取ってしまった。
特に《アグアメンティ》なんだけど、思わず厨二発作を発病してしまい、水操作に拘り続けてたらいつの間にか数ケ月経ってたとかあったなぁ…。
でもそのお陰で、水操作に至っては多分他の魔法使いよりも凄い領域に到達したと思うわ。はよ使いてぇ!わくわく!
え?水を操るのが戦闘で何の役に立つって?焦るんじゃないよ、絶対見せ場作ってみせるから。
他にも杖に灯りを点す《ルーモス》とか、相手を全身金縛りの状態にする《ペトリフィカス・トタルス》とかとか、戦闘以外で役に立ちそうな呪文も網羅したぜい。
めちゃんこ頑張ってハリーの十八番、《エクスペリアームス》も使えるようになったぞ!誰か褒めてくれ!!
やっぱり基本って大事だよね!ただ、練習相手が無機物なもんで、人間に使用した時にちゃんと武器を吹っ飛ばせるかは試してみないと分からないんだよね。
他の攻撃呪文は野生の生き物とかで実験出来たんだけど、武装解除呪文ってのはやっぱり人間相手じゃないと効果が実感出来ないしな…。
時間制限や難易度の都合上、習得出来なかった魔法は追々練習していこうと思う。
ヴォルデモートの手から離れても、実体化の機会はあるしね。
……残念ながら守護霊呪文は、いくら練習しても一度も成功しませんですた。泣いてないよ、ぐすっ。
外の様子が確認出来るのは実体化してから、魔力が切れて日記帳に戻されるまでの間。
なので、ヴォルデモートが一体「いつ」「何」をしているのか、具体的に知り得る事は不可能だった。
ある時顕現すれば、もう既に彼が7年生になっていたり。またある時は、もう卒業間近だったり。
そういうのを繰り返す内に、何か次第に時間間隔が狂っちゃって…。今が何年かとか、把握するの大変だったよ…。
そうやってとんとん拍子に時間が過ぎていってしまっていた。
ホグワーツ卒業後は日記帳に書き込まれる頻度も些か減少した為、魔法の練習よりも『別の事』に集中する事にした。
これが上手い事いけば、後々行動しやすくなるからね。
一度、ヴォルデモートが殺人を犯した直後の瞬間に立ち会わせてしまった事がある。
何か……どこかの屋敷?かなんかで、でっぷりしたBBA……いや、おばあ様がぶっ倒れてるのを目撃したよ。
多分、殺害後に記憶を転写したらしいから、殺人の瞬間は居合わせなかったんだけどね。
マジびびったわ。目が覚めたら目の前にBBA…いや、女性が倒れてるのを想像してみ?絶対良い気分にはならんだろうよ。
転写後の不快感と死体発見のショックのダブルパンチよ。勘弁してほしかったわ。
ほんで肝心の本体は何してたかというと、何か金色のカップみたいな物とペンダント?ロケット?みたいな物を懐にしまってたし。
天下の闇の魔法使いが強盗殺人とかみみっちい事やってんなーと思ったんだけど。
後から記憶を覗いてみたら、あれ
ハッフルパフのカップとスリザリンのロケットだよ!!!!
まあ、気付いた所で触れもしないから、強盗を阻止する事も出来んかったけどね…。
映画では語られなかった、
何も出来ない身がとてももどかしい。
そこからしばらくして、今度はレイブンクローの髪飾りを入手する記憶を転写された。
実際生贄を捧げる場面には立ち会わなかったけどね。
これ、レイブンクローの娘さんが母親から盗んだのを隠してたらしいね。それを上手い事聞き出して、ヴォルデモートが掻っ攫っていったと。
何かさぁ、こんな面倒な事せんでその辺の道具をほいほい
特別な物じゃないと、どうも
あー、マートル今頃どうしてるかなー。
ヴォルデモートが卒業する前に、ちゃんと別れの挨拶をしたんだけど。案外あっさり忘れられちゃったりして。
次に作成されるのはハリーなのである。
そして、何でその記憶がないかと言うと。
ヴォルデモートは、ハリーを殺しに行く前に、この日記帳を手放したからだ。
正確には、手下のルシウスに預けたんだけど。
だから、ヴォルデモート自身による書き込みはここで途絶えている。
最後に刻まれた記憶は、『予言の子』を仕留めに行く的なもので終わっていた。
その後に、ヴォルデモート本人ではない『誰かの手』に渡される感覚を捉えたので、ルシウスが受け取ったのは間違いない。
どんな説明を受けて預かったのかまでは知らないけど。
さあ、ここでいよいよこちらのターンである。
本人の手から離れ、ようやく自由行動が可能になった。
今まではヴォルデモートの手中にあった為、例え実体化しても本体の日記帳から遠く離れられないし。
誰かと接触しようにも、常にヴォルデモートが管理しているし……正直息が詰まる思いだったなあ。
しかーし、もうそんな怠い事考えなくて良いのです!
もしもルシウスの手に渡ったら―――どうするか、とっくに計画済みさ!
ルシウスと接触して、『ある事』を命令する。
それが計画の第一段階だ。
本当なら、さっさと意思疎通して、ポッター家襲撃事件を妨害出来ないかなとか思ったんだけど…。
肝心のルシウスが中々日記帳に触ってくれないものだから、それは不可能だった。
実際にルシウスと接触が取れたのは、もう全てが終わった後だった…。
さて、今からルシウス君と文通をする訳ですが。
まあ、偽物だとバレないように、ヴォルデモートっぽさを表現しないといけないでしょう。
ヴォルデモートっぽさっていうと、威厳たっぷりの俺様キャラかなぁ。
ふむう……俺様キャラねぇ……。
なるべく違和感を感じさせず、傲慢で尊大で不遜なキャラを演じろと?注文が多いですなぁ。
まあしかし、「やれ」と言われて出来なかった事はほとんど無いのだ!
出来なかった事と言えば、引き籠ってからの外出かな!同情するなら勇気をくれ!
明日から本気出す派だから、ちょっと怠いけど、いっちょ役者になってやろうじゃん!
さあ、降臨せよ!そしてお力をお貸し下さい、我らが英雄王!!トレースオン!!!
本体との繋がりに意識を集中。
次いで、日記帳の状態を把握。
現在、『成人男性のものと思われる手』に触れられております。
日記帳が開かれ、ページを指でなぞる動作も確認。
……どうやら『コレ』が一体どんな物なのか、興味本位から、改めて手に取って調べているようだな。
やっとこさこの能力が役に立った。
日記帳の状態じゃ外の様子なんて、触覚と、日記帳の状態しか見れない視覚だけが情報源だし。
今、『コレ』に触れている人物へ返事を送ろう。
ヴォルデモート以外にこれに触る機会がある人物なんて、原作知識を総動員すれば分かる。
成人男性……まあ疑うまでもなく、ルシウス君でしょうねぇ。
ルシウスの奥さんでも、息子のマルフォイでもない。
こちらに触れている人物は調べるだけで、文字を書き込むつもりはないようだ。が、こちらから一方的に『挨拶』すれば接触を図れる。
幸いにもページを開いてくれているのだから、今から送る文字をド直球に目にするでしょう。
頭に文章を思い浮かべる。
返事の仕方は誰かに教わった訳でもなく、この身体になってから不思議と知っていた。
ヴォルデモートがこの分霊箱を制作した時から、予めこういう機能を付与していたからだろう。
要は、日記帳その物に刻まれた本能というやつだ。今はこの本能による知識を利用させてもらう。
―――さあ、役者になる時間だ。
"―――そこに居る者、しかと見よ。俺様はヴォルデモートの記憶である"
ビクリと触れている指が跳ねる感覚がした。まあそりゃびっくりするわな。急に白紙に文字が浮かんでる訳だから。
その後手が離れ、ボトリと地面に落とされる感覚。よっぽど慌てたのだろう、つい手放したみたいだ。
ていうか、ヴォルデモートから何も聞かされてないんかい!
「その日記帳、喋るよ」とか、説明受けてないの?
…あー、自分の魂が保存されてる大事な命のストックみたいなものだから、変に詳しい事を説明しなかったのかな。
もしも裏切られたら、真っ先に脅かされる代物だものね。例え部下にも真実を伏せる理由は何となく察せる。
真実を知っているのは自分だけでいいと。どこまでも自分本位な奴だな…ヴォルデモート。
まあいい。真実を知らないなら知らないで好都合な部分もある。上手い事相手を騙せるかも。
"―――いちいち驚くな。さっさと拾え。俺様の命令だぞ"
ルシウス君はヴォルデモートの手下だ。ちょっと強気に出ればちゃんと従ってくれるでしょう。
お、意外にも素早く拾われた。どうやら自分の主人の言葉だと疑ってはいない様子。良い調子だぞ。
"よし……いい子だ。俺様はこの日記帳に込められた『記憶』である。故に文字でのやり取りしか出来ぬ。そこに居る者よ、貴様は俺様の手下だな?肯定するならこれに文字を書き込むがいい"
うっわー、騙す為必要とはいえこの俺様キャラ、めっちゃハズいわ。もうこれ終わったら金輪際しないわ。
え、何でいちいち俺様キャラにしてるんだって?ちゃんと打算があるのだよ。
原作のこの日記帳は学生時代の魂故に、俺様キャラじゃなかったけど。今、わざわざ演じているのは『計画』の一環だ。
ルシウス君はこの日記帳の詳細を知らないのだから、俺様キャラで接触しても何も疑問に思うまい。
むしろ威圧感が出て、素直に命令に従ってくれるんじゃないかしら。
と、不意に文字を書き込まれる感覚。ヴォルデモートの時と違って不快感は一切無し。
良かった、書き込まれる度にあんな目に遭うのは遠慮したかったところだ。
記憶の転写とかじゃなく、単なる書き込みなら不快感を味わわずに済むのね。新たな発見である。
『―――我が君なのですね?はい、私は貴方様の忠実なる、僕でございます。名はルシウス・マルフォイと申します』
言葉ではなく文字だけのやり取りなので、相手の感情は把握出来ない。ただ、震えた筆跡から察するに、相当動揺していると見受けられる。
いやー、やっぱりルシウス君でしたか。
わざわざ「忠実なる」とか付け足さなくていいのに。そんなに媚び売りたいのか、たかが日記帳相手に。よっぽど本体が恐ろしいようだ。
例え『記憶』でも相手にとっては自分の上司、礼儀は尽くさねばって感じなんかな。
"ルシウスよ、貴様がこれを持っているという事は、本体が預けたのだな。貴様はこれの役割を知っているか?"
『―――いいえ、存じ上げません。「予言の子」を手に掛けようと立ち去られる直前に、我が君本人から預かり受けた物でございます。しかしこれの意味までは知らされてはおりません。どういった代物なのでございますか?』
うーん、良いね。無知な者ほど騙しやすいものはないぜ。
いや、詐欺師になった経験は無いんだけどね。
ネットの掲示板とかで、ある事無い事どうにか信憑性高めて書き込む連中とか居るじゃん?ああいうのを見て学んだのだよ。
面と向かって対話するなら難しいけど、相手の表情などが読み取れない文字だけのやり取りならば、騙せる確率も上がるというものだ。
……だから、原作でも騙される奴が居たんだなー。ヴォルデモート、やっぱ恐ろしい奴だ…。
むむう、しかしヴォルデモートはもうハリーを殺しに行ってしまった後か。
返り討ちにあったという報告も無いようだし、立ち去ってから数分後といったところかな?
その間に、主人から預かった物を調べようとしていたのだろう。
こうしてやり取りしている間にも、ハリーのお父さんとお母さんはやられてしまっているかもしれない。
ちゃちゃっと用件を言っちゃいますか。
"これには俺様の記憶と自我が封じられている。これの役割は―――ホグワーツに存在する『秘密の部屋』を開放し、穢れた血の雑種共を排除する事だ!"
英雄王、ありがとう!あなたのお陰で見事に俺様キャラ演じられてるよ!フハハハ、これぞ愉悦部ってやつか!平伏せ雑種共!なんつって。
『ひ…秘密の部屋ですか?一体、どうやって―――』
解り易くうろたえてくれるねぇ。文字ブッルブルやぞ。生まれたての小鹿か!男なんだからもうちょいシャキっとしなさい。
"どうやって、かは貴様が知る必要は無い。いいか、貴様はただ俺様の指令に、たった一回従うだけでよい。その一回さえこなせば、もう貴様にやってもらう事はない。後は好きにするがいい"
『こ…光栄でございます、我が君。して……その指令、とは……』
たった一回、というハードルを下げる甘い言葉でルシウス君のモチベを上げます。
こう言えば、「一回だけか、何だ簡単そう」という希望を抱き、「後は自由だから頑張ろう」、という気分になるでしょう。
ルシウス君はどうも主人に恐怖で従ってるようなので、こんな感じで指令を出してあげれば大人しくやってくれると思う。
"では指令を出す。一度しか書かぬから良く見ておけ…"
『はい、もちろんでございます』
"―――貴様の召使いである屋敷しもべ妖精に、これを渡すのだ"
数秒の間、日記帳からペンが離れていった。
こちらの文字が消え去ってからハっと気付いたように、ガリガリと早い動作で返事が返ってくる。
『………え、私のしもべ妖精に、ですか………?』
"一度しか書かぬと言った筈だ。口答えは許さんぞ"
困った時の魔法の言葉!こう言えば変に追及されるのを防げるよ!
『は、はい!申し訳ありません、我が君!で、ですが、本当にそれだけでよろしいのでしょうか……』
"何度書かせる気だ?一度だけと言っただろう。余計な事を書く暇があるなら、とっとと従え!"
『申し訳ありません!ただいま!』
"最後に言っておく。―――本体の俺様に何があっても、再びこれを回収する必要は無い。屋敷しもべ妖精に渡した後は、この日記帳の事を忘れるのだ。良いな?"
『承知致しました、我が君!仰せの通りに!』
そうして、日記帳はマルフォイ家の屋敷しもべ妖精、ドビーへと預けられた。
……ここからが本番だ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「……ねぇ、どう思うよ?」
「どうって、何が」
「いや、これ。ちょっと大胆だよね、行動が。ある意味感心するなあって」
「別に良いんじゃないの、どうでも」
「ちょっとは気にしろい!ここまでして頑張ってるんだからさ!」
「大層なものは望んじゃいない。最初に決めただろ、何をするかは全部好きにさせるって。それに、どうしたって手を出せないんだから」
「ん~……でもさぁ、やっぱりこうやって流れを変えようと努力する道を選んだみたいだしさぁ、少しは応援したってバチは当たんないだろ?」
「……全部が全部、上手くいくハズがない。最初から、"最大の障害"を抱えてしまっているんだから」
「…やっぱそれだよなぁ。あー、変に目を付けられないと良いね。あの閉心力なら、『アレ』にそうそう隙を突かれる事は無いだろうけど。多分いつか絶対、何かしらの形で邪魔してくるだろうし」
「そういうのが『アレ』の"本来の役割"なんだから仕方が無い。だから変に悟られないように、予め細工させてもらったんだ」
「……忘れられるって、辛くないの?」
「……。思い出せなくなっているだけだ。それに、最低限の助言も忍ばせた」
「心配するなよ。"こっち"はずっとここに居てあげるから!」
「…別にどっか行っても良いのに」
「酷いなこのやろー!冷酷人間ー!"あれ"、めっちゃ痛かったんだからなー!わざわざ引き受けたの感謝しろよなー!」
「縛られるのは、嫌なんじゃないの」
「今更だなあ。一つの場所に縛られるなんて昔から慣れっこさ。今回は一人じゃないしね」
「…あぁ、『人間が独りで居続けると頭がおかしくなる』んだって?」
「そう、それ。だから心配するなって」
「僕はまともだ」
「………やっぱ可愛くねー」
「褒め言葉と受け取る」
――――――――――――――――――――――――――――――――
ルシウスの手によってドビーの手に渡った後。
突然主人から謎の古びた日記帳を押し付けられ、困惑したドビーは当然ながら、一体これがどんな物なのか確かめようとした。
おずおずと表紙を開き、白紙のページを目にする。
その瞬間を狙い、すぐさま文字を浮かばせる。
"こんにちは!僕、悪い日記帳じゃないよ!"
第一印象は大事だからね、無害だっていう事の伝達はまず最初に!
相手はルシウス程じゃないけど、びっくりして日記帳を放り出した。慌てて空中でキャッチした。妙に器用だなおい。
まず文字を書き込んでくれなきゃ話にならない。再度文字を浮かばせてみる。
"ええと、こんな風に僕は独りでに返事が出来る日記帳なんだけれど。君にお願いしたい事があるから、何か文字を書く物でこれに返事を書いてもらえないかな"
すると、意外と間を空けずに返事が書き込まれた。しもべ妖精ってのは案外度胸があるな。
『あ、あああなた様は、ドビーめをご存知なのですか?』
人間の筆跡とは大分違う歪んだ字体で、返事が返ってきた。
うーん、やっとドビーのところまで来れたよ。やっぱりハリーの為に協力してくれるのは、この子だよね!
……一つだけ、懸念があるんだけど。
"ドビー。君の事は主人であるルシウスから聞いている。それで、まず最初に尋ねたいんだけど……"
『な、ななな何なりと』
……何か、めっちゃ文字が歪み始めた。この反応…やっぱりドビーって…。
"ドビー、君は『僕』が誰なのか知っているの?"
しばらく返事は書き込まれなかった。
…そうだろうとは予想していたけどなー。
そもそも原作で、ドビーは『秘密の部屋』の事件からハリーを守ろうと、ホグワーツへ行ってはいけないと警告しに来たのが初登場だ。
つまり、ドビーは最初から『秘密の部屋』事件を起こすこの日記帳の存在を知っていたのだろうと推測が出来る。
大方、ルシウスの企みを聞かされていたか、盗み聞きでもしたか。とにかく、日記帳の正体も闇の帝王であると認識している可能性が高い。
でも、僕は闇の帝王じゃないし、あんな厨二ネームを名乗る気は毛頭無いし、何よりハリーの所へ馳せ参じたいので誤解を解かなければ。
"信じてはもらえないだろうけど、僕は君が思っているような存在じゃないんだ。君をどうこうする気は無いから、どうか頼みを引き受けてくれないだろうか"
『どっドビーめは、ご主人様からこれをお渡しされました!手放す事は出来ません!』
主人の命令には逆らえない、しもべ妖精の性だろうか。恐怖で手が震えながらも日記帳に律義に返事を書いてくれる。何か変に怖がらせてすまんな、おう。
"あー……、そうだろうね。訊きたい事があるんだけど、答えてくれる?"
『もも、もちろんでございます』
"―――ハリー・ポッターを知っている?"
『…は、ハリー・ポッター!!ご存知ですとも!私どもにとって、希望の道標のような存在に―――ヒィッ』
そこまで書き綴って、突然文章は途絶えた。言ってはいけない事まで喋ってしまったような、焦燥感。
……うわぁ、嫌な予感がする。でも、ちゃんと確認しないと…。
"今、は―――もう、闇の帝王がハリーにやられた、時代なのかな?"
ぐるぐるとペンがページの上で空回りし、やがてたっぷり塗られたインクがベシャリと白紙の上で踊り狂った。
『も、申し上げにくいのですが、その通りでございます。あ、あなた様は、本当の、あなた様は、10年前……ハリー・ポッターに……』
……嫌な予感は的中した。
まさか、ルシウスの手に渡ってから、既にハリーが傷付けられ、10年が経った後だったとは。
知らぬ間に随分時間間隔が狂ってしまっているようだ。全然気付けなかった。
おいおいマジかよ、いくらなんでも日記を受け取ってから確認するのに時間掛けすぎだろルシウスくうううん!!
てっきり受け取ってすぐ日記帳に触ってるんだと思ったのによおおおおお!!
ドビーの様子から考えて、「既に本体はやられた後です」なんて恐れ多くて報告出来なかったんだろう…。
だからこっちも、ヴォルデモートがポッター家に行った直後の時代だと勘違いしてしまった。
だが現実は、今はヴォルデモートが一時的に破滅して、ハリーが10歳になった時代となっている。
……多分、得体の知れない日記帳を確認するなんて、受け取ってからすぐには決断出来なかった…ってことかね…。
10年後って、おま……おま……。
ま、まあ、いいのよ。
過ぎてしまった時間は嘆いたって戻らない。ここは潔く切り替えていこう!
ハリーが10歳なら、もうとっくに物心もついた歳だ。接触するには問題ないだろうし。
それよりも、計画の都合上、『賢者の石』が始まる前にドビーとやり取りが出来たのを喜ぶべきだ。
"そうか…。実はね、僕はハリー・ポッターに逢って、彼の助けになりたいと思っているんだ。君も同じなんじゃないかな?"
『ほ、ほ本当で、ございますか!あなた様が、どうして……いえ、なんでも!なんでもありません!ドビーめも、そう思っておりました!』
"そっか、それは良かった。ドビー、僕を信じてくれなくてもいい。どうか、ハリーの家まで僕を連れていくだけでも頼まれてくれないかな。しもべ妖精の君なら、どこへでも姿現しで飛べるだろう?"
『どっドビーめが、ハリー・ポッターの家に!!あなた様を!?』
"そう、そう。僕はこの通り、自力じゃ動けないからね。誰かに運んでもらいたいんだよ。その誰かが、君になって欲しいって事さ"
『そそれは簡単な事でございます。しかし、それだけでよ、よろしいのでございますか』
段々と、ドビーの文字が整ってきた。恐怖が薄れてきているのかもしれない。
"……頼まれてくれる?ドビー"
『ああ、ああ、ドビーめに、そんな、そんな「お願い」など初めてでございます!うっ嬉しゅうございます!ううっ、あなた様に、そんな、こんな』
"おおい、落ち着けぇ!嬉しいのは分かったから、クールダウンして。あと僕はヴォルデモート本人じゃないから、そんなに謙らないでよろしい"
『れっ例のあの人では、ない?どういう事で……どういう事でございますか』
"うーん………。実際に対面すれば分かるかな"
『たいめん?』
―――本来なら、日記帳に誰かが書き込んでくれないと、魔力を奪えず実体化は出来ないんだけど。
実は今まで、ヴォルデモートが書き込んできた時の余剰魔力を、消費せずに溜め込んでいたのだよ!
何とか少しずつだけど、実体化の時間を削って、残った魔力を自身の内に留める術を開発したのさ。
これがヴォルデモートの卒業後に試していた『別の事』である。
これを利用すれば、他者の魂を奪うなんて荒業無しで、ヴォルデモート本人の存在無しで実体化出来る!魔力残量が続く限り!
さあ行きますぞ!シャバドゥビタッチヘンシ~ン♪
『参上!!』
「ヒイィィィィ!!?」
開けた視界にまず映ったのは、蝙蝠のような長い耳にギョロっとした大きな目玉。
汚らしい枕カバーみたいな服を身に着けている、人形のような生き物だった。
こちらを見て、驚きの余り尻餅をついてしまっている。
『初めまして。トム・マールヴォロ・リドル―――ああ、日記帳に名前があるから、もう知ってるよね?』
「ヒィ、ヒィイイ、はいぃぃ」
今にも叫び出しそうな声を抑えながら、やっとの思いでドビーは返答を寄越した。
何だかんだ会話が成立するぐらいの正気を保ってくれているのは、正直感謝する。
「あ、あの人が名前を変える前の―――そ、それがあなた様なので、ごございましょう」
『そうそう!てか、ホントに色々知ってるね。しもべ妖精の間じゃ有名なの?』
「ど、ドビーめは、ご主人様の話から知り得る事が出来たのでございます。他の者達は、恐らく知らぬままかも…」
『そうか。んじゃ早速だけどドビー、これから僕がする事を許してね』
「はっ……?!」
心頭滅却、色即是空!
ターゲット、ロックオン!!!
『ドビえもおおおおおおおおおおおおん!!!』
「アッ、あああぁぁあああ!!ヒイイイイイイ!?」
―――抱きつきたい衝動を抑えきれず、そのままルパンダイブの要領でドビーへ突っ込む。
いやーマジで、こんな可愛い生き物を前にして、何もしないなんてあり得ないから!!
映画で人目見た時から、キュートなマスコットキャラという認識だったよ、ドビえもん!!
どこでもドア能力もあるし、マジでドビえもん!ああ、可愛さもマジでドビえもん!(語彙力消滅)
魔力残しといて良かった!ついでにドビーが触れる魔法生物で良かった!
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。
―――それから気絶しかけたドビえもんに気付いて、慌てて正気に戻るまで僕はドビえもんをモフり続けたのであった。
若き日の闇の帝王の姿をした男にモフられるとか、新たな領域の恐怖を味わったドビえもんには、その後全力で謝罪した。
『すんませんでしたああぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
謝罪の最上級を示す、圧倒的土・下・座!お辞儀を通り越して、土下座をするのだ!!
まさかの主人でも無い人物に土下座され、ドビえもんはひたすら困惑続きだった。
しかし、一連の全力の抱擁と、全身で表す謝罪の態度を見て、ドビえもんはどうやらこちらがヴォルデモートとは似ても似つかぬ別人だと判断してくれたようだった。
怖がらせた面もあったが、結果的に良い方向へ流れは進んだようである。
「あなた様に抱きしめられる日が来るなど、ドビーめは思ってもみませんでした……」
『マジで正気じゃなかった。お願い忘れて』
―――こうして、やっとの思いで僕は、ハリーの所へ向かう移動手段兼マスコットのドビえもんと知り合う事が出来たのであった。
Page 3でも少し触れているのですが、主人公の美醜感覚は常人と比べると狂っています。
公式で醜い設定かつ人外のしもべ妖精をモフってる時点で良く分かると思います。
あー、やっと原作キャラをちょいちょい出せる。
あ、秘密の部屋ファンの皆様はご安心ください。
バジリスクの出番はちゃんとありますよ
大分先になると思いますが。
アズカバンの囚人編以降の展開、まだ何も考えてないけどこれどうするよ?