転生したら分霊箱だった件   作:@ゆずぽん@

13 / 51
日間ランキング39位ってドーユコトナノ!?
いきなりでびっくりしました…!
本当に、こんな妄想にお付き合い頂いて感謝感激でございまする…。


Page 10 「ホグワーツへいらっしゃい」

 ―――結局人生とは、『平凡』な人間に生まれた者が勝ち組となるのだろう。

 

 

 

 

 20年も生きちゃいない若輩者の僕が出した、至極大雑把な結論である。なので文句は受け付けないぞ!

 

 

 

 

 『優秀』な人間に生まれたらどうなるか?

 

 全てがそうではないだろうが、この場合、大抵はこれまでの家系も優秀な人間を多く輩出している環境の方が多い。

 そんな家に生まれれば、当然否応なく血筋という名の枷に縛られ、その血が流れているという理由だけで常に『優秀』である事を要求される。

 ましてや長男などに生まれてしまえば、間違いなく家を継がされるだろう。本人の意思に関係なく、ほぼ強制で。そもそもそういう目的で子供を作ってきたのが人の歴史だから。

 『自由』の無い人生など、何の意味があるのか。

 如何に自分が『優秀』なスペックを備えていたとしても、(しがらみ)だらけの生活など御免被りたいものだ。

 

 

 

 

 『劣悪』な人間に生まれたらどうなるか?

 

 劣悪にも色んな環境があるだろうが、具体的に表現するならば貧困、出来損ない、といった生まれながらのハンデを背負っている人生を示すだろう。

 家庭が困窮し、日々の生活もままらない。才能など持たず、何の取り柄のない人間に生まれる。

 こういった人生もまた、望んで送りたいかと言われれば一瞬の躊躇いもなくノーと答えられる。

 最低でも食うには困らない生活を送りたいし、無能の烙印を押されては社会に居場所が無いのでこれもお断りだ。

 例え家柄に縛られない、『自由』の余地ある人生だとしても、これではマイナスの要素の方が多すぎる。

 

 

 

 

 要は、『優秀』も『劣悪』も。

 極端に振り切らなければ。

 どっちつかずの『平凡』ならば。

 

 きっと、『幸福』で『自由』な人生になるのかもしれない。

 

 当たり前の日常、特に有名でもない家系、平均的な実力。

 これらさえ揃えば、まあそこそこの、悔いの無い人生を歩めるのだろうと思う。

 人によっては、当たり障りのない、見栄えのない、退屈なものなのかもしれないが。

 それでも、『自由』も『居場所』も無い生活よりは、とてもマシな一生を送れる要素の筈だ。

 

 こんな捻くれた考えに至るなんて、我儘にも程があると怒られてしまうだろうか。

 

 それでも、しょうがないじゃないか。

 

 

 

 

 人間なんて、結局は"無い物ねだり"をしたがる生き物なのだから。

 

 

 

 

 ―――ところで、何でこんなネガティブな思考回路に至ってるんだろう。

 

 今はそれよりやるべき事があったような……。

 

 あ~あ、人間ってめんどくせー。チーズ蒸しパンになりたい。

 

 とか願っちゃった事があるから、バチが当たって日記帳なんかになってしまったんでしょうかねぇ。

 

 はぁ~?マジやってらんねーわ。

 

 ふざけんな、神とやらが居たらチェーンソーでバラバラにしてやんよ。

 

 かみは バラバラに なった。 かみは しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 【……大分参ってるんじゃないかい?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ~~~、やっぱ精神的にキてますね、コレは。幻聴が聴こえ始めたっスよ。

 

 【それは無意識かい?それともわざとやっているのかい?】

 

 何だこの幻聴。幻聴の分際でムカつくな、いっちょ前に質問してきやがったぞ。

 

 【今の君はそういうのを故意でやっているのか、判別が付かないから反応に困るんだけど…】

 

 んぬわぁ~~~。ヤバイ…。ちょっと一旦落ち着こう。マジで頭こんがらがってきた。

 んえーと、んんんー。今どれくらい経ったっけ……。

 

 【大体14年だね、前に実体化したのは2ケ月程前だったよ】

 

 ふぁ~、たまげたなぁ…。そろそろ脳みそ蕩けそうなんだけど…。あ、脳みそも無いんだったわ…。えふーん。

 

 【あのゴーストと話す機会が無くなってから、そういう調子が続いてきているよね。大丈夫なのかい?】

 

 大丈夫じゃない、問題だ。

 

 うえっふ。これマジで、原作時系列に辿り着いた時、僕が僕のままである事を祈るしかないんだけど。

 やっぱり某国の実験結果は真実だったという事だな。マジで精神にクるよ、これ。

 普通の人間なら1年ぐらいでおかしくなってると思うよ、これ。

 解りやすく例えるなら、5億年ボタンを押してしまったのと同じ感覚だよ、これ。通じる人が居たら嬉しい。

 

 へふぅん。あと残り約30年程かー。

 うへへへへへ。何か逆にハイになってきた。今なら何でも出来そうな気がする。

 

 【こんな環境でも、変わらない閉心力にむしろ敬意を表するよ…】

 

 ああん?アンタまだ諦めてないのかよ。10年以上も人の心覗き見しようとするその変態根性はこっちも評価するわ。

 

 【不本意だけど、こちらもそれぐらいしかやる事が無いんだよ。別に根性とかじゃなくてね】

 

 はいはい、言い訳乙。やる事無いなら素数でも数えてろよ。そっちの方がよっぽど有意義だ。

 

 【君って何だかんだ返答に応じてくれるよね】

 

 そうだよ。良く考えたら好きでも無い奴との会話にわざわざ付き合ってやってんだよ?僕。

 崇められて然るべきじゃない?讃えられて然るべきじゃない?国民栄誉賞とか与えられるべきじゃない?

 

 【やっぱりちょっと正気じゃなくなってきてるよね?】

 

 いいえ、私は精神に異常をきたしておりません。

 過去にドグラ・マグラなる奇書を読んだ事がありますが、精神に異常をきたしておりません。

 私は精神に異常をきたしておりません。

 私ワタシわたしは精神ににに異常をををヲきたシておりマませン。

 

 精神ニ異常ヲ―――あれ?イジョウってなんだっけ???

 いや、限りなく正気でございますことよ。へふう。

 

 ………あぁ、ぶっちゃけると辛いですね、これ…。うひーん…。

 何でこんな目に遭ってるんだろ~……。

 

 【辛いなら一度吐き出してしまったらいいんじゃないかな?ほら、言葉にすると楽になると聞くしね】

 

 フハハハハ!引っ掛かったな馬鹿めが!!

 こうやって萎れたフリすれば絶対そうやって色々聞き出そうとしてくると思ったわ!!この未熟者が!!!

 どうやら僕の方が一枚上手だったみたいだなドヤァ!!!

 親身になってるつもりで情報を引き出そうとする輩の思考回路など、とっくに認知しているのだよ!昔に色々経験したからなぁ!!

 

 【……………………………………………………】

 

 おおーん?その沈黙は何ですかな?おこなの?敗残者のだんまりなの?僕の勝ちでオーケイなの?

 

 【……人の事は言えないけど、君も一度理性のタガが外れると、ブレーキが利かなくなって別人と化すよね、本当に……】

 

 おやおや、負け犬が何か吠えてるよ。

 ワハハハハ、昔に報復してやった同級生の如き滑稽な姿だな――――――ハッ!?

 

 【―――へぇ、そうか。昔にねぇ。やっぱり色々えげつない事してるよねえ、君】

 

 し、しまったああああぁぁぁ!!つい思い浮かべてしもうたぁぁぁぁ!!

 オノレェ!何という失態!

 絶対に許さんぞ!誘導尋問の喜びを知りやがって!お前許さんぞ!

 

 【今のはただの自爆だと思うけど。こちらの勝ちになるのかな?】

 

 ふざけんな!引き分けだゴルァ!!ドローだゴルァ!!

 

 【じゃあそういう事にしておくよ】

 

 あぁもうふざけんな!おめーの母ちゃんデベソ!!

 

 【急に子供の悪口レベルまで語彙が減ってしまうのは謎なんだけど…。それに、母親とは逢った事も無いからそういうのは誰にも分からない事実なんだけど…】

 

 は?マジ引くわ。アンタもしも母親が居たらヘソ確認すんの?とんだ変態野郎だったんだな。そうかそうか君はそんな奴だったんだな。

 

 【…今の君は無自覚なままかなりやられているみたいだから、少し冷静さを取り戻す事をオススメするよ】

 

 ………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 ………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 ………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッ!!?僕は今まで何をッ!!?

 

 

 

 

 【本当に自覚が無いんだねぇ……】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――という感じの流れを、この50年間ちょいちょい繰り返してきたと思う。

 

 時間間隔が狂っていったとはいえ、途中までは本当にヤバかった。主に精神的に。

 次は果たしていつ、この暗闇から解放されるのだろうとか。

 そう考え続けると途端に自分が誰なのか見失いそうになったし…。

 

 本名も忘れてしまったから、自分は本当に『前世』で生きた人間だったのかもあやふやになってしまいそうになる。

 だからと言って、前世の記憶に縋り、自分の存在を確立させようと躍起になるのも憚られた。

 あまりそういう思考を働かせると、ファミチキ野郎に駄々洩れになってしまうからである

 それは人生最大の屈辱でしかないので、なるべく過去の事は思い浮かべないように細心の注意を払ってきた。

 

 それでもやっぱりこの生活は堪えたし、何回精神が瓦解しかけたかもう数えたくないでござる…。

 意味不明な事をたくさん喚き散らした記憶が朧気に残ってるし、流石のファミチキ野郎も、どうにか正気を取り戻させようと呼び掛けてきたのも薄っすら覚えてる。

 

 そんな中で、待ちに待った『計画』の第一段階を遂行し。

 前世で心奪われたマスコットキャラクター・ドビえもんを目の前にし。

 精神的疲労と、心中に蔓延していた孤独感を癒す為に。

 

 

 

 

 思わず正気を失い、モフり倒してしまった事は、許されてもいいよねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ね、許されてもいいよね?』

 

 「ど、ドビーめにはお答えしかねます……」

 

 平静を取り戻しても、ドビーは根っからの性格なのか、未だにモジモジビクビクといった態度でこちらと接している。

 原作でも奴隷同様、もしくはそれ以下の酷い扱いを受けて生きてきた為、まあしょうがないとは思う。

 そんな人生送ってきたら、そりゃこんな性格にもなってしまいますわ。

 

 うーん、しかし、こうも怯える子と接してきた経験無いしなあ。

 警戒心を解きほぐしたり、一瞬で心の距離を詰めたり、そんなカリスマスキルは所持してないんですわ。

 むしろ僕が前世で持ってたのって、周囲の人間を警戒させ遠ざけるようなマイナススキルだけなんで…。

 ここは変に取り繕うよりも、なるべく怖がらせないように会話を持っていくしかないでしょう。

 

 『早速なんだけど……ルシウス君って今居る?』

 

 「ご、ご主人様ですね。えぇ、現在もこのお屋敷にいらっしゃいます」

 

 『まあ、居るよねぇ。当然だけど、ハリーを助ける為には帝王の手下に存在をバレる訳にはいかない。僕の事言っちゃダメだよ』

 

 「もっもちろんでございます!」

 

 『シッ、声が大きい!今居るって言ったばっかじゃん』

 

 「もも申し訳ございません!ドビーは悪い子!ドビーは悪い子!!」

 

 と、原作の勢いをそのまま再現するかのように、ドビーが壁に向かって激しく頭突きを食らわし始めた。

 おいこらヤメロォ!壁が何をしたって言うんだ!壁さんが可哀想だろ!!

 ハリーがドビーの扱いに戸惑ってたのも今となっちゃ凄く分かる!わかりみが深い!

 

 この音でルシウス君に気付かれかねないので、素早くドビーを壁から引き剥がしにかかる。

 

 『こらドビえもん!離れなさい!』

 

 「ヒィィィッ、申し訳ありま―――」

 

 『ようし埒が明かないから一つ決めようか!今から謝罪禁止にします!はい落ち着こうか!深呼吸!』

 

 「ヒッッッ、ヒィィ。承知いたしますうぅぅ」

 

 涙目になりながらも、ドビーはヒューヒューと死にかけの患者のような呼吸を繰り返す。自分で言っておいてなんだけど、逆に寿命縮んでないこれ?

 

 『よーし落ち着いたね?じゃあ、僕の目を見て』

 

 なるべくそっとドビーの肩に手を置いて、目線が合うようにしゃがみ込む。

 人の目を見て話す。誰もが教わる会話の一歩!しもべ妖精にこれが理解出来るか知らんけど、まずはこちらから歩み寄らないとね。

 

 『どう?ちゃんと会話出来そう?今の気持ちを正直に言ってみて』

 

 「………ほ、ホントによろしいので…」

 

 『大丈夫だって、怒らないから。謝罪も禁止って言ったよね?ほら、今の気持ち、言ってごらん』

 

 「で、では―――し、死んだ魚のような目が、ドビーを見つめているように見えるのでございます」

 

 『はっ……し、死んだ魚……魚……』

 

 えーっ、僕の目って死んだ魚のような目に見えるの……?初耳なんだけど……?

 地味にショックなんだけど……?

 も、元からだよね?元からこの身体の目付きがそうなってるだけだよね…?

 

 あ、そういえば、前世でも父親に「お前のドブみたいな目が気味悪い」とか言われた記憶が…あるよ…。

 周りの人間からは外見に関して悪い事言われた覚えがないけど、どうしてかあの人にだけは見抜かれてたんだよな…。

 何で親って奴は子供の様子に目聡いんだろうね…。

 

 ……ドビえもん、君、地味に度胸があるな…?

 

 

 

 

 『は、はははぁ、死んだ魚かぁ……はぁ~ん……』

 

 「ど、どうされたのでございますか…!?」

 

 思わぬ衝撃発言に打ちひしがれているこちらの心中を知ってか知らずか、ドビーが恐る恐る尋ねてくる。

 

 …まあ…そう見えても仕方無いよな。

 だって50年分の苦難を背負ってきた訳だからね。そりゃ目付きも活き活きする訳がないわ。

 うん、これは当然の現象なんだよ。断じて元から死んでる訳じゃないんだよ(自己暗示)

 その内目付きも治っていくよ、うん、気にしないようにしよう…。

 

 『……いや、何でもないない。じゃあ、早速本題に入るけど……ちょっと野暮用があるので、ルシウス君のとこまでいっちょ、案内お願いします』

 

 「ごっご主人様の元へ!ドビーめに、案内を!?」

 

 『あ、やっぱり不都合だった…?』

 

 「とんでもございません、とんでもございませんとも!う、ううっっ、い、今まで『お願い』などと!そんな事を言われたのは初めてで……ううう…!」

 

 『もしもーし?』

 

 ドビーは何が嬉しいのか、身に着けていた衣服…?みたいな物で溢れ出る涙をぐしぐし拭っている。

 

 …どうやらしもべ妖精ってのは、よくあるメイドさんやお手伝いさんと違って、この世界ではもろ奴隷扱いのようだ。

 雇っているとはいえ、その相手に感謝も敬意も与えない、最低の扱いでこき使う……酷いもんだ。

 命令を忠実にこなしてくれるんだから、当たり前にお願いの言葉や感謝の言葉も言えないもんかねー?

 ううん……まあ、異邦人の僕が口出しする権利は無いかもだけど……なんかモヤっとするなー。

 ドビえもんが好きなキャラクターであるが故に、どうにか出来ないものかと考えてしまう。

 

 確かしもべ妖精は、仕えている人間から衣服を与えられれば自由になれた筈。

 服だろうが手袋だろうが靴下だろうが、一度渡されたしもべ妖精は、その時から自由の身になれる。

 

 ……でも今の僕って、魔力を通す物以外触れないから。

 原作ハリーみたいに、衣類をルシウスの手から渡させるような真似は出来ないんですたい…。

 ごめんなドビえもん…。どうにか早い内に解放してやるからな…!

 ……あと今更だけど、君に触れるって事は、しもべ妖精って魔力通すんだね……初耳だよ…!

 

 『…ドビえもん、いやドビー。僕は別に、君を上手いこと従わせようと思って「お願い」してるんじゃないんだ。誰かに何かを頼む時にはこんな言葉掛けるの、当たり前の事だからね。君が本当に嫌なら、主人でもない僕の協力なんか受ける義務は…』

 

 「いいえ、いいえ!あなた様には、そのような策略が無い事など、とうに分かっております!純粋に嬉しかったのです…!まるで対等に扱ってくれる方がいらっしゃるなんて……」

 

 『……僕を君に渡すようにルシウスに言ったのも僕だけど、本当に嫌じゃないんだね?』

 

 「はい、もちろんでございます。…最初は流石に、ご主人様から受け取った物を放り出す訳にもいかないという理由で、あなた様と接しておりましたが……今は違うのでございます!このドビー、どうぞいくらでもお使い下さいませ!」

 

 さっきからの卑屈な態度から一転して、ドビーははっきりとした口調でそう言い放つと、深く頭を下げた。

 その様子はまさに、真に仕えるべき主への、永遠の忠誠。

 …いや、正直嬉しいんだけどさ、こっぱずかしいからそこまで忠誠誓わなくてもいいからね?

 何かまるで部下を従える闇の帝王みたいやんけ。別に目指してないんだってば、帝王とか。

 

 『ほんとに大丈夫?マルフォイ家放っておいて、僕に協力するの。しもべ妖精のルール的にはセーフ?』

 

 「どちらかと言うとアウトに近いかもしれません…。しかし、ご主人様は()()()()()()()()()()()()()という事実があります。そのあなた様に従うという事は、ご主人様の命令に従う事にもなるのでございます。違反を犯すという事にはならない筈でございます」

 

 そういえば、原作でもドビーはマルフォイ家そっちのけで、無断で飛び出しハリーの所へ馳せ参じていたな。

 あれも良く考えたらしもべ妖精的にアウトだったろうに、ハリーを助ける為にルールの垣根を越えた行動を起こした。

 案外、ドビーはしもべ妖精の中でも自由意思が強い個体なのだろう。

 

 『そっかぁ、そう考えるとそうだね。よし、じゃあ……これからよろしく、ドビー』

 

 ゆっくり手を差し出し、ドビーと握手。体温の無い身体なので、手の温もりを感じ取る事は出来なかったが、確かな力強さでドビーは握り返してくれた。

 …ああ、本当の実体化を遂げたら、この温かさも感じ取れるようになるのかな。

 

 「し、しかし……ご主人様に存在を知られてはお困りになるのですよね?どうしてお会いに…?」

 

 『うん、それなんだけど…。やっぱりちゃんと、僕の存在を忘れてもらおうと思って』

 

 言いながら、ローブのポケットからサンザシの杖を取り出す。

 待たせたな相棒!50年を共に過ごした友よ!君の出番が来た!

 

 『忘却呪文ってあるだろ?それをルシウス君に掛けようと思ってね…。もちろん、僕に関しての記憶だけ』

 

 「そういう事だったのでございますね…。では、こちらへ。ご主人様の元へご案内させて頂くのでございます

 

 ドビーが部屋の出口を片手で示した後、そちらへ向かって歩いていった。それに従い、後ろを付いていく。

 

 『……っと…?』

 

 ふと、ローブのポケットに違和感を感じ、歩きながら中を弄る。

 さっき杖を取り出した時にも、まだ奥に何かが入っているかのような感じがした。

 あれ、杖以外に何かしまってたっけ…?

 

 『…んん?紙……?』

 

 中からガサリとした感触がしたので、引っ掴んでポケットから取り出す。

 それは、何の変哲もない白紙だった。手の平と同じサイズの、メモ用紙みたいな物だ。

 その表面には、力強さを感じさせる字体で、こう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 "心を閉ざせ"

 

 

 

 

 

 

 

 

 たったそれだけの一文が、ビシビシと何かを訴えてくる感覚をこちらへ伝えてくる。

 ただの文字なのに、視界に入れているだけで脳へ直接指令を送ってくる謎の迫力があった。

 反射的に、思わずクシャリと紙を握り込んで文字を隠してしまった。

 

 「どうされました?」

 

 気付かぬ内に立ち止まってしまっていたようだ。ドビーがこちらを振り返り、上目遣いで視線を送ってきていた。

 紙を持っていた手を後ろへやり、慌てて平静を取り繕う。

 

 『……いや、ちょっと、考え事してた…だけ。ごめん、行こうか』

 

 ドビーは特に不審がる様子もなく、再び案内を始めた。

 別にやましい事をしていた訳じゃないのに、どうしてこんなに取り乱しているのだろうか。

 

 

 

 

 『………………』

 

 何だか背筋に悪寒が走る感覚が襲ってきたので、紙を再度確認する事はせず、握り込んだまま手をポケットに突っ込み元通りにしまった。

 

 ……一度しか目にしてないけど、あれには、れっきとした『命令文』が書かれていた、よな?

 一体どういう意味だろうか?

 何であんな物がポケットに入っていたんだ?

 そもそも、最初からあっただろうか?

 誰の文字?少なくとも自分の筆跡じゃない。

 

 考えれば考える程謎が深まって、頭の中を飽和して集中力が霧散していく。

 

 ……ていうか、最初からあったんだとしたら、50年間も気付かなかった自分ってどんだけ~…。

 

 むしろこっちの方にショックを受けてんだけど……。

 

 ええい、この件は保留な!ひとまず今はやる事があるしな!

 大体なんだ、あのアバウトな命令文は!せめてもうちょい具体的に書いて欲しいですね!

 

 誰とも分からぬメモ用紙の著者に心中で密かに怒鳴りながら、ドビーの案内でルシウス君の滞在していた書斎へ辿り着く。

 音が出ないようそっと扉を開けてもらい、僅かな隙間から中の様子を窺う。

 

 

 

 

 ……うむ、ターゲットは机の上で書類の整理に追われている模様。

 この分だと、こちらへ気付く様子は特に無さそうだ。

 え、何で人目を気にしているんだって?

 

 今の僕は『ヴォルデモートの余剰魔力+ルシウスの魔力+ドビーの魔力』で実体化している身である。

 

 この日記帳は書き込んできた人間の魔力を、僕の意思関係なしに奪う。ヴォルデモートは本体である為、生命力を脅かすレベルでは奪う事は不可能だが。

 奪った魔力は、例え書き込んだ主が手放しても消費しない限りは消滅しない。

 最初に数分程やり取りしただけだが、ルシウスとドビーの魔力はしっかりと徴収されている状態なのだ。

 片方は代々続く純血の魔法使い。片方は本気を出せば人間よりも強力な魔法使いとなる屋敷しもべ妖精。

 その魔力はちょっとした書き込みだけでも、そこそこ注がれている。これに今まで溜め込んできたヴォルデモートの魔力を合わせている。

 

 果汁ならぬ魔力たっぷり100%!この状態での実体化は、全身から滲み出る魔力を隠し切れないのだ。

 第三者からしたら、今の自分は多分幽霊みたいにぼんやり透けている人間のように見える筈。

 だからこそ、昔のような完全な透明人間状態ではなくなっているし、その証拠にしっかりとドビーに姿も声も認識されている。

 まあ、ドビーと対面する為に魔力全部練り合わせて、こういう実体化にしたんだけどね。

 

 下手をすればルシウス君にも視認されてしまうので、昔と同じように振舞えば即バレだ。

 

 事はスマートに、迅速に!一発勝負!

 

 扉をすり抜け、スススッと蛇の如く無音でターゲットに近付く。幸いにもこちらに背中を向けている。気付く素振りは全く無し。

 杖をターゲットの後頭部へ向け、静かに小声で唱える。

 

 ハロー!そして…グッドバイ!

 

 

 

 

 『《オブリビエイト》』

 

 

 

 

 頭の中で、ひたすら僕の事に関する記憶のみの消去をイメージする。

 残念ながらこういう『対象が人間のみ』の呪文は、ほとんど練習出来なかった。

 だって誰かに向けて発動させたら、大問題になるしね。

 ていうかそもそも、関係無い他人に危害を加える気は毛頭無いし。

 故に、この忘却呪文も実際に使用するのはこれが初めてだ。

 他の記憶まで消そうと欲張れば、熟練度の不足で上手く作用せず、下手すれば暴発してしまうかもしれない。

 だからこそ、必要最低限の記憶消去で済ませる。

 これならばイメージがいくらか働かせやすい。

 ファミチキ野郎の講義が役に立った瞬間である。微妙に腹立つけど。

 

 杖先から迸った閃光が、ルシウスの頭を直撃する。といっても攻撃呪文では無いので、悲惨な事にはならない。

 ルシウスは魔法を掛けられた事にすら気付かず、そのまま机の上の書類へ視線を注ぎ続けている。

 そのまま両者無言状態で、数秒間沈黙が部屋に続いた。

 少しして杖先の光線がフッと霧散していったので、消去が完了した合図と捉え、来た時と同じように扉へ戻る。

 

 

 

 

 部屋の出口ではドビーは不安げに待機していた。

 

 『…ふううう~~~。終わったよ、無事に』

 

 「お疲れ様なのでございます」

 

 気分は完全犯罪を成し遂げたようだ。いや、別に犯罪じゃないからね!ちょっと忘れてもらっただけだからね!

 

 『これで、ルシウスは僕をドビーに渡した事すら覚えていない筈…。そもそも、日記帳の扱いに困っていたみたいだからむしろこれで良いだろうね』

 

 知らされていないとはいえ、主人の分霊箱を他人の家の娘へ押し付ける暴挙を原作でもやってるしなぁ。

 知ってたら絶対あんな雑な処理しなかったよな。

 ていうか僕だったら他人に預けず、自分だけが知る隠し場所にしまうけど…。

 いや、日記帳自体の役割が『他人を操って秘密の部屋を開く』事だからこそ、ヴォルデモートは手下に預けたのかもしれない…。

 ううん、どれが最適解になるのか判断しかねるな。

 

 とにかくも、これでマルフォイ家でやる事は終了した。

 あとは、ハリーの家へ向かい、協力を仰ぐのみ!

 

 僕の『計画』にはハリーが必要なのだ。そう、『ヴォルデモート絶対やっつけるマン』の称号を持つハリーが!

 あぁ~、でも、仲良くなれるかなぁ。

 文字のみのやり取りになるだろうとはいえ、年下の子と接するなんて何年ぶりだろう…。

 まあ、どっちみちやらなきゃいけない事だし。昔、まだ周りと付き合っていた頃を思い出してやっていくかぁ。

 

 

 

 

 『よし、ドビー。そんじゃ、ハリーの家まで姿現しで連れて行ってくれる?』

 

 「えぇ、お任せ下さい!」

 

 『あっ、住所とか、大丈夫?』

 

 「ご心配なく。ハリー・ポッターがお住いの家は、とうにお調べしているのでございます!」

 

 『あー……、英雄の家を特定したかった気持ちは十分理解出来るけど、人間だったら犯罪だからね?』

 

 原作でもいきなりハリーの家に飛んできていたドビーだが、何で住所を知っていたんだろうと今になって思う。

 多分、前々から特定を掛けていたという事か。

 

 やだ、この子、行動力の化身…!

 原作でしもべ妖精が敵に回らなくて良かったね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――時間は飛んで、現在、ハリーがお住いのダーズリー家物置でござる。

 

 あれからドビーは、ちょっと迷子になったりして時間を食っちゃうというトラブルもあったけど、無事にハリーの場所へ辿り着いたよ。

 魔法使いとは縁の無さそうな場所に建ってるお家だったから、迷うのも仕方無いんだけどさ…。

 ドビーが仕えているマルフォイ邸から姿を消してるってバレたら、ルシウス君が不審に思うでしょ?

 あいつ何処行った何してるって思われたら、そこから折角記憶を消した僕の存在が露見してしまう可能性がある。

 だからこそ、ぱっぱと連れて行ってもらいたかったんだけど、そんな時に書き込んできたのがドビーじゃなくてハリー本人でびっくらこいたわ。

 うん、緊張で思わず返事の文字が震えたよ。第一印象、変に思われてないといいけどね。

 

 あ、ドビーは初めに「送り届けたら何食わぬ顔で帰って良いよ」って伝えておいたので、多分マルフォイ邸に戻ってると思う。

 ほんで、マルフォイ家の息子、ドラコはハリーと同年代だから、「ドラコがホグワーツに入学した後なら、空いてる時間にでも是非ハリーに顔見せて」とも伝えた。

 

 「ルシウス君に不審な動きがあったら教えるように」と言っているので、よっぽどの事が無い限り、今もマルフォイ邸で以前と同じ生活を送っているだろう。

 ドビーを解放するには、マルフォイ家の誰かに衣類を渡させなければいけないので、どちらにせよ今はまだ無理だ。

 ハリーにさせようにも、そもそもマルフォイ家とハリーが接触する機会なんて、ホグワーツ入学以降だろうし。

 

 ひとまず、ドビーとはしばらくのお別れだ。とても名残惜しいけれど、しょうがない。

 次に逢ったら今度も遠慮なくモフモフさせてもらおう(決意)

 50年分の精神的疲労は、たった一回のモフりイベントじゃあ回復しきっていないのだよ!

 あぁ、このご褒美だけで『賢者の石』編頑張れるわー!

 

 

 

 

 といった流れで、ただいま物置でハリーがいつものように書き込んでくるのを待っているんだけど。

 

 

 

 

 

 いきなり言わせてもらっていい?

 

 

 

 

 全米が泣くわ。これ。

 

 

 

 

 すっかり忘れていたんだけどさ、ハリーってホグワーツ入学が決まる前はすっげー劣悪な環境に置かれていたんだわ。

 『賢者の石』を最後に観たのは一番昔なので、記憶から抜けていたんだけど…。

 そういやハリーの親戚って、意地悪な奴らばっかだったよな…。

 マジか、これ。自分がこの環境だったら、多分……ハリーみたいにじっと耐えられんわ。

 何かしら行動を起こしているよ、絶対。

 

 主人公補正というか、根っからの人格というか……ハリーは、仕返しだとか復讐だとか、そういう考えは微塵も持っていなかった。

 両親からは間違いなく愛され、祝福されていたのだけど、今ではそんな言葉とは程遠い生活を強いられている。

 こんな環境で育った子が、後に真の英雄となり、闇の帝王に立ち向かうのだから人生何が起こるか分からんね…。

 

 めっちゃ泣けるんだけど。本来の流れならば、妻子が出来て、新しい家族と平和な生活を手にする未来なんだけど。

 今現在、この劣悪環境で必死に日々を生きるハリーを見ていたら泣けるんだけど。

 

 

 

 

 ―――神様、この子が一体何をしたっていうんですか…!!

 

 

 

 

 ここに来た時、ハリーには最低限伝えるべき事を伝え、物置に置かせてもらっているけど。

 やっぱり生活に耐えられない部分もあってか、ハリーは毎晩日記帳に普段の悩みや愚痴、その日起きた出来事を書き込んできた。

 こちらとしては、魔力を奪ってしまうのであまり長い事書き込まれる訳にはいかなかったけど。

 それでもこんな境遇の子を放っておくなんて気分にはならなかった。

 

 似たような境遇だったこちらの過去話をして、ハリーの沈んだ気分を和らげたり。

 ひたすら愚痴を聞いて、ストレスを吐き出させたり。

 他愛ない雑談をして、二人して盛り上がったり。

 

 そんな生活を過ごして、いつの間にか本音を打ち明け合うような仲にまでなっていた。

 前世でもここまでの仲になった友人なんて一人もいなかった。

 やっぱり物語の主人公なだけあって、他者に影響を及ぼす『何か』を持っているのかもしれないなあ。

 

 あ~~~、この50年で一番楽しいかも……今の時間が。

 

 うう、今まで頑張ってきて良かった……本当に。

 途中で頭おかしくなりかけたけど、何とか戻ってこれてマジで良かった……。

 

 

 

 

 ―――ハリーの為にも、『予言』で繋がっている忌々しいヴォルデモートを何とかしなければな…。

 

 

 

 

 そうやって、改めて決意を再確認している時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『トム、トム!』

 

 

 

 

 興奮を抑えきれないといった乱雑な字が、意識に乱入してきた。

 

 おっ?これは何か良い事があった時の様子じゃん。

 

 ダドリーのお古が思ったより新しかったとか、上手い事パンチを躱せた一日だったとか、失敗しても怒られなかったとか、果たして今日はどれだろう。

 こういう解かりやすい素直な字体で書き込んでこられると、こっちも楽しくなるんだよなー。

 

 

 

 

 "何か嬉しそうじゃん。どうしたどうした?"

 

 

 

 

 はよう、はよう!お兄さんにお聞かせ下さいな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『今日ね、今日ね――――――僕宛てにね、手紙が来たんだよ!!』

 

 

 

 『ホグワーツ…?とか書いてあって、どこなのか良く分からないんだけど、手紙が来るなんて生まれて初めてで!もうさっきから色々頭の中一杯で!』

 

 

 

 『ねぇ、ホグワーツって何か、トム知ってる!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうかそうかぁ――――――手紙かぁ。

 

 ハリーってずっと物置に監禁状態みたいなもんだし、手紙が来るなんて超常現象に近いもんねぇ。

 

 良かったね、もしかしたらどっかの親戚か友達が送って来た物かもやな!

 

 うんうん、本当によか――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "ホグワーツウウウゥゥゥゥゥゥ!!!?"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず文面だけでシャウトを表現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリーとの筆談生活にすっかりかまけてしまい、今までやり取りしていた子が魔法使いだったという事実が、頭の中から見事にすっぽ抜けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ヴォルデモートとの仁義なき戦いが、ホグワーツで幕を開ける!

 

 

 

 

 

 

 

 




ドビえもんとのハグイベントで、頭アバダ状態が無事治癒されました。
これが無かったら結構ヤバかった。

いくら嫌いだと言っていても、頭アバダ状態じゃなければファミチキ野郎にあんな啖呵を切ったりしてませんでした。
正気状態ならあそこまでハジけた発言まで至りません。
それを分かっていたからこそ、彼も一歩引いた態度で上手く付き合ってます。
策士は一体どっちなのでしょうね?

ハリーがおじさん達のお邪魔無しで無事手紙を開けられたのは、トムとの接触でビミョ~に思考回路が原作とズレたから。

さあ、ヴォルちゃんがアップを始めたようです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。