転生したら分霊箱だった件   作:@ゆずぽん@

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ハリー達の筆談は、多分書いてて一番楽しかった(小並感)
今後も、魔法界の未来を背負った、どこか抜けてるお馬鹿な二人組を生温かく見守り下さい(笑)


Page 13 「魔法界の車窓から」

 『あの子、何かおかしいんです』

 

 ―――女だ。女が居る。

 一人の女が、深刻な表情を浮かべて何かを言っている。

 

 『最初はただ、勘が良いんだなって、思っていたんですけど…。日に日に、言い当ててくる事が、エスカレートしていくんです。今日はあそこで、数日前に再会した昔の友人と飲みに行ったんだとか、子供達にそろそろ新しい服を用意しないとって思っていたら、誰にも話していないのに「どうせ貰えるんならあの色が良い」とか……。どう思いますか?もう、勘が良いとかのレベルを越えてるんです。段々、気味が悪くなって……』

 

 女の目の前には、気難しい表情を浮かべた白衣の男性が、黙って話を聞いている。

 

 『それだけじゃないんです。あの子の周り、ホントにおかしい事ばかり起きるんですよ。花瓶が倒れたり、窓にヒビが入ったり……。あ、あ、あの子に話し掛けた男の子なんか……次の日、謎の痛みを訴えてくるもんで、救急車を呼んだんですよ?何かの感染症かもしれないって、あの子自身も検査を受けたんですけど……何ともなかったんです!おかしいでしょう!?あの子はいつも元気なのに、周りの子達はどんどん不幸になっているような気がして……』

 

 心中を吐露する度に、女の様子は荒々しく変容していく。男性の表情には、何とも説明し難い感情が浮かんでくる。

 

 『あの子、普通じゃない。もう、耐えられなくて……。一度、ちゃんとお医者さんに診てもらわなきゃって……きょ、今日、嫌がるあの子を思い切って連れて来たんですよ……。他の子達が、取り返しのつかない目に遭う前に……あの、先生、お願いです……あの子を、何とかして頂けませんか……!』

 

 ―――あぁ、馬鹿だなぁ。

 

 病気なんかじゃないのに。

 

 こんな所に連れて来たって、何かが変わる訳じゃないのに。

 

 『怖いんです…。あの子、笑ってるんですよ、いつも。私達の……大人の前だと、何事の無かったかのように、笑うんです。注意深く観察しても、他の子達と何ら変わりがない様子を、演じているんですよ…!他の大人は気付いてないみたいですけど、私には解るんです!きっと心の中では、悪い事を考えているんだわ…!!』

 

 ―――大人しく、騙されていれば良いのにな。

 

 何で、妙なとこで目聡いんだろう。

 

 気を遣って『普通』を演じてやったのに、その言い方はあんまりだ。

 

 『落ち着いて下さい』

 

 ようやく、沈黙を貫いていた男性が言葉を発した。女の両肩を抑え、立ち上がり掛けていた彼女を椅子に座らせる。

 

 『様子を―――様子を見るしかないでしょう。前の検査で、特に異常は無かったらしいですし。わたくし共が診察を行ったところで、事態が好転しそうだとも思えませんから』

 

 『……どうして、信じて頂けないんですか!?』

 

 当たり障りのない言葉で、無難な回答を口走り始めた男性に対し、突如女はヒステリックな声を上げた。

 

 『他のお医者様もそうでした!誰も彼も、私の話を信じない!そうやって「様子を見る」だの、まともに取り合ってくれない……貴方もどうせ、私がおかしいと思っているんでしょう!?どう考えても、おかしいのはあの子の方なのに!!』

 

 『お、落ち着いて―――』

 

 『もう、良いです!…真剣だった私が馬鹿でした。帰ります。二度と来ません!!!』

 

 一気に怒声で捲し立てると、相手の静止も碌に聞かず、女は部屋を大股で出て行った。

 別室への扉を乱暴に開き、そこで座って待機していた、10歳前後程に見える少年の手を、断りなしに無理やり引っ張って歩かせる。

 

 『―――もう帰ります。早く来なさい』

 

 それはとてもぞんざいな扱いだったが、少年は逆らう事も、口答えする事もせず、ただ手を引かれるままに付いて行く。

 その顔は誰がどう見ても、何の感情も読み取れない程の無表情を湛えていて、例えるならば人形と呼ぶのが正しかった。

 一切の抵抗が無く手間の掛からない少年に、けれども女は決して喜ぶ事はしなかった。むしろ、少年が『普通に』何かしらの反応を見せていた方が、いくらか安堵出来ていたのかもしれない。

 

 真っ白い建物の出口を通り過ぎた時。

 

 一言だけ。

 

 それまで何も口にしなかった少年は、一言だけ、はっきりと呟いた。

 

 

 

 

 『―――ボクは病気じゃない』

 

 

 

 

 特別恐ろしい台詞でもなんでもなかったが、女はその声を聞いて、露骨に顔を恐怖に歪ませた。

 一度だけ少年の方へ視線を向け、しかしすぐさま正面へ戻す。

 それは仕方ない事だったのかもしれない。

 何せ、少年は子供らしい明るい感情という物が、全て抜け落ちてしまったかの様な―――ある意味とても冷たい表情をしていたのだから。

 

 

 

 

 女は終ぞ、その言葉に返答する事はせず。

 

 

 

 

 ただ少年の手を握る力をより強め、早足でその場を後にした―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――やあ皆、元気してる?

 

 唐突だけど、「トム」って結構良い名前ですな!

 

 平凡で有り触れてるし、短くて呼び易いし、有名人にも同名が居るし、割と良い感じの名前だと思うよッ!

 あのトム・ク〇ーズとか、トム・ハ〇クスとか、色んな有名人の名前でもあるし。

 そういえば、マルフォイ役の俳優さんも、確かトムって名前でしたな!

 

 あ、別に前世でDQNネームだったからってこの話をしてる訳じゃないよ。

 もうすっかり忘れてしもうたが、確か特別変な名前では無かった筈である。別に忘れちまったもんはどうでもいいけど。

 いやー、でもやっぱり、平凡って良いね。そこにシビれる憧れるぅ!

 

 ……で?

 

 何で血筋の方はバリバリ特殊なんでございます?

 このギャップ、すっげぇムカつくわー。

 どうせなら生まれも平凡にしてくれってんだ。怒るぞーこのやろー。

 名前と血筋がバッラバラやねん。どうせなら足並み揃えてー。二人三脚してくれー。

 

 んでさー。この平凡で素晴らしい名前が嫌になって、改名した愚者が居るらしいよ?

 マジ勿体無いねー。ま、人にはそれぞれ好みがあるし、あんまり貶さないでおくけど。

 ていうか、役所での手続き通り越して改名するなんざスッゴイね。うちの故郷でも、法律に縛られずそれぐらいの気軽さで改名出来れば、バカ親に変な名前付けられて虐められる子供も減ると思うの。

 ま、そんなのが原因で子供がグレたりするのも、全部法だとか世間が悪いんだろうな。

 やっぱり行政がクソだと、社会も腐っていくんだよ。優れた社会は優れた統治の元でしか創られないんや。

 

 そんなのと似た感じの理由で、あの闇の帝王様は魔法界に戦争を仕掛けたらしいが、正直この世界の難しい事情はよう分からん。

 ぶっちゃけマグル生まれの魔法使いってさ、そこまで罪あるか?魔法界に相応しくないからぶっ殺すとか、マジ野蛮だわ。そんな統治者嫌だわ。ゴメンだわ。

 ちゃんと魔法を使える人種なんだから、そこまで躍起になって排除しようとせんでも。

 

 原作でもマグル生まれのハーマイオニーとか、酷い扱いされてる時あったよね。どう考えても彼女は成績優秀で、そういう扱いをされるべきではないのにさ。差別は良くないよ、ホント。……差別は、良くないよ!

 純血主義ってめんどくさ…。何でこんなのあるんだろうね。今度機会があったら調べてみてもいいかもな。

 あ、別にあいつの思想に賛同する訳じゃないけど、マグルに限ってはどうでもいいです。関係無いし、関わる機会も無いだろうし、そもそも他人は好きじゃないし。

 

 うーん、やっぱり、純血主義がのさばってる理由って、あれかな。

 代々続く由緒正しい家系ってやつは、人間の本能的にしがみ付きたくなるもんなんかなぁ。

 純血の代表的なマルフォイ家の、フォイフォイの父ちゃんなんかは、死喰い人かつ立派な純血主義者みたいだし。

 母ちゃんは……あ、確かあの人の行動のお陰で、ヴォルデモートぶっ倒せたとこあったよね。ママフォイってすげー。(小並感)

 

 フォイフォイは嫌な奴って扱いだったけど、両親は割とちゃんと愛してたんだよね、フォイフォイ。フォイフォイは愛されてるねー、親からも、ハリポタファンからも。一部でカルト的な人気を博してるけどね、フォイフォイ。フォイフォイが描けるアプリも作られてるんだぜ。愛されてるってスゴイなフォイフォイ。ところで、今何回「フォイ」って言ったっけ?

 

 愛、かぁ……。

 

 あんな捻くれた奴でも、愛されて育ってんだよなー……。

 なーんか、僕としてはすっごい複雑なんですがね。

 

 うちの母は途中から僕を捨てたがってたし、父なんかは口も聞かず、まるで居ない者として扱ってきやがったしなぁ。

 世間体があるから、表面上は普通の親子関係を維持していたけど。

 本心では、こっちに対する疑念や嫌悪でいっぱいだったってのは、よーく察せたわ。

 まー大体表情と態度見てれば解る。顔は笑ってても、僕が近くにいくと緊張するんだよ。そういうの隠したって解るの。皆ってば本心隠すの下手クソだから。

 

 そんな妙に感が良いところとかも含めて、あー嫌われてるなって学習してからは、普通の子みたいにしてたんだけどなぁ。

 成績も一番だったし、家の手伝いもしてたし。

 体調を崩したところを、助けようとしてあげた……事もあった、のに。

 やっぱり取り繕うの遅すぎたんかな。後の祭りってか?

 

 いやー、自慢出来るもんじゃないけど、僕の周りじゃちょいちょい変な事起きちゃってねぇ…。

 あれだな、雨男って訳じゃないけど、それと似た感じ。不幸が寄って来るっていうか、やべーのに取り憑かれてる的なやつ?

 怪奇現象って、マジであるんだなって知ったもん。

 だからハリーの境遇はよーく理解出来るよ。向こうは切られた髪まで再生してたらしいじゃん。流石にこっちは、そこまでの現象は起きなかったけどさ。

 

 やっぱり、幼心から来る好奇心で都市伝説とか呪術に手を出すもんじゃなかったなぁ。皆も気を付けてね。よくyoutuberとか、こっくりさんとか廃墟訪問とかやってるけど、気軽に真似しちゃダメだぞ!

 何があっても自己責任だからね!親に嫌われても知らんからね!

 え?小さい子はまずそんな知識仕入れる機会無いし、手も出さないって?

 家系が家系だったから、興味持っちゃって……つい、自力でどっぷり調べちゃったの。

 

 まだ小さい頃は事の重大さに気付けず、周囲をめっちゃ恐怖に叩き落してたわ。ごめんちゃい。土下座するから許して?あ、もう手遅れだって?そう…。

 ある程度大きくなってからは、全力で『普通』を演じて、周りの子達にこっちの異常性を察知させなかったんだけどもね。

 ついでに同時期、思春期特有の苛立ちに身を任せて、一部の人間にはちゃっかり仕返ししちゃったが。

 べ、別に暴力は一切ノータッチだから。ガキ大将みたいな事やってないから。

 

 あれよ。精々、相手のSNSや個人サイトのアカウント特定して、匿名でアンチコメ及び誹謗中傷送り続けて、閉鎖させるぐらい追い詰めたとか、それぐらいだよ。ジャイアンより全然マシでしょ。そう思いたい。(真顔)

 でもなんでだろ。相手は何故か大体不登校になった。自分のサイトとか続けられなくなる事の、一体どこがそんなにショックだって言うんだ。

 ネット社会って割と若者の根幹に繋がってるんだろうか。嫌だねー、現実から目を背けて電子機器にしがみ付いてないと生きていけない人間なんて。え?お前が言うなって?娯楽の塊であるインターネッツを手放せる訳がないでしょ(熱い手の平返し)

 

 その仕返しだって、1人につき一回やってスッキリしたらもうやめたしね。

 あんましつこくやると、相手と同レベルになって恥ずかしいって学んだし。

 一歩大人に近付いたって事ですよ。だから時効でしょ?時効だよね?時効って認めろよおい!

 

 僕は知性的なタイプなんだから、暴力なんて野蛮な真似はしないのですよ。ほっほっほ。

 直接的な暴力より陰湿でえげつない?それを言われるともう……反論出来ません……。

 

 ま、そんな感じで、裏では意地悪してきた奴を貶めつつ、その他の人間には善人を演じて上辺だけ仲良くして生きてきました。

 しかしながらそいつらは欺けても、やっぱり親という奴は、子供の本性に敏感らしい。

 いくら努力しても、両親だけはこちらに対する悪い心象を改めるつもりが無さそうだったから、もう見切りを付けるしかなかったんだよなぁ。

 

 小さな頃から嫌われてたんだぜ?そんな性根の人達を、あれ以上どう攻略しろって言うんだよ…。

 ハリーも同じく、「自分は何もしてない」っていくら訴えても、聞き入れて貰えなかったみたいだし。

 しかも、僕と違って学校でも居場所が無かったんだって?よく歪まなかったよね……。

 

 最後に一度だけ、せめてもの抵抗で、両親の愛情を湧かせられるかもしれない行動をしたんだけど、結果は大失敗でしたわ。

 むしろ余計に嫌われてしもうた。ノーリスクハイリターンなんて無かったんや(絶望)

 その時からなんか、全部全部嫌になって、今までの関係かなぐり捨ててヒッキールートに突入。これが某RPGのように、Pルートだったら良かったね…。

 

 この前世、ある意味自業自得の部分もあったし、グダグダ喚いてもしょうがないから、なるべく考えないようにしてきたのにな。

 

 一つだけ文句を言わせてもらえるとすれば。

 とりあえず放り込めばいいかって感じで、精神科に連行するのはやめて欲しかったです。

 病院に対して失礼だろ。病院を何だと思ってるんだあの人達は。ゴミ処理施設かなんかやと勘違いしてるんじゃないか?

 ううーん。途中で愛せなくなるんだったら、そんな半端な覚悟で子供産まないで欲しいですわ。

 そういえば、子供の育児放棄とか虐待とかって、一時社会的問題になった事あったなー。子供は親を選べないんだから、産む時はもう少し考えて欲しいよねー。

 

 んんー?『病院』?ちょっと待てよ。

 

 

 

 

 ―――あいつは僕を診察させたいんだろう?

 

 

 

 

 ―――あの老いぼれ猫のほうが精神病院に入るべきなんだ。

 

 

 

 

 ―――僕はまともだ。狂っちゃいない!

 

 

 

 

 ありゃ、何だこれ?

 一瞬、何か思い出したような…………いや、何かが聴こえた……視えた?ような……。

 

 そういえば、確かに昔、あんな感じの事を喚いた経験がある。思い出したくもなかったけど。

 あれ…?でも、老いぼれがどうとか騒いだ覚えは無いぞ?あれ?どうだったっけ?

 やっべー。無理に昔の事忘れようとして、記憶がごっちゃになってきてるのか?

 今の状態じゃ脳味噌無いのに、まっこと不思議なもんじゃのう。

 

 ううむ……何でだろうな。

 なーんか、こうして日記状態で大人しくしてると、過去の思い出ばっか浮かんでくるねん。

 そういう細工でもされてるんだろうか?絶対、何かしらの作用は働いているよなぁ、これ。

 ま、しっかり心は閉じてるから、あいつに漏れていく事は無いけどさ。

 50年もこの体で過ごして来たんだ。このスキル、転生当初より随分成長したよ。

 たまーに、うっかり流出してしまったけどね…。

 うーむ。自分に忘却呪文でも掛けてみるか?いや、もしも『原作知識』まで忘れてしまったら偉いこっちゃ。くっそう、変に試せないのは辛いな…。

 

 あ¨ぁ~~~。これも良い機会だ。

 

 無心状態になる訓練をしよう。そう、どこぞの国の王子様がやってた、「ムの修行」だ!

 あの修行だと足折られたり、腕千切られたりしてたけど、今の僕はそもそも四肢無いからね。

 先祖の霊が降りてきて、「お前の足を折るが、よいな」なんて問い掛けてきても、ぜーんぜん平気だわ。

 あのゲームさぁ、プレイヤー層がバリバリの子供なのに、なんちゅートラウマ量産イベント入れてるんだよ。

 大人も子供も、おねーさんも泣くわ。エンディング前に泣くわ。

 

 さてさて、ではいっちょ心を無にするとしようか。

 ん?そもそも心を無にするってどうするんだっけ?

 

 ファミチキ野郎が言うには、僕の場合『閉心』は出来てるらしいけど、『無心』のやり方なんて知らんZOY!お前のそれもカラカ=ゾーイ!?

 そんなスキルあったら、50年の孤独生活で精神病んでないわ!

 お、落ち着け。心を無にするんだ。何も考えず、激流に身を任せ同化するのじゃ。

 

 ……あれ?何か前にも激流に身を任せてなかったっけか?

 いやー、だから何も考えるなって!言ったそばから出来てないよ!

 北斗神拳の極意に基づき、精神を無の高みに―――だから考えるなって!

 

 あー、無!無!私は無!私は無!

 え?『無』を考えるのも駄目なの?

 そんなん無理だろ!『無』だけに無理、なんつってな。―――だから考えるなあああああ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月1日。

 

 目の眩む程の晴天。

 

 キングズ・クロス駅に一人放り出されたハリーは、九と四分の三番線の明確な入口を見付けられず、困り果てていた。

 

 

 

 

 ハリーのホグワーツ入学が決まってからは、ダーズリー家での酷い扱いはピタリと停止していた。

 ホグワーツの存在と、『魔法』に関わろうとするハリーを、どう足掻いても止める事が不可能だと理解したからだというのも、勿論ある。

 しかし、もう一つ。ハリーへ迂闊に手を出せなくなったある理由が、明確に存在していた。

 

 ポケットの中に忍ばせた日記帳。その中に宿る、一つの魂。

 入学当日の朝にあっさり種明かしされ、面食らった彼の行動には、感謝と驚愕を感じている。

 

 彼の行いの結果、ダドリーはハリーを守る『謎の存在』に怯え、最早会話を交わす事すら出来なくなっていた。

 ダドリーは己の身に起こった事をはっきりと説明しなかったが、ハリーに手を出すと恐ろしい災いが降りかかるという確信に囚われ、それを両親に告げていた。

 尋常じゃない様子で、「あいつにもう何もしないで」と懇願してくる、愛する我が子に対し彼らは、最早一つの選択を受け入れるしかなかった。

 すなわち、「これ以上ハリーには何もしない、害さない」。ただそれだけの選択を。

 

 本来ならば、年々魔法界に染まっていくハリーに対し、この一家は彼への態度と扱いを改めるなどという事はしなかった。

 それどころか、学校外では魔法が使えないという事実に気付いては、平気で物置収監刑を再び執行したし、食事だって変わらずお粗末な物ばかり与えていた。

 そんな未来を、虐めっ子一人への制裁でガラリと変えてしまったのだ。

 そのような事実をハリーは知る由も無いが、何となく。

 己を待ち受ける悲惨な運命の一つが回避されたという事を、何となく察していた。

 

 運命を変えてくれた日記帳を開く。

 彼とのたくさんのやり取りで、性格や癖などは、お互い大体の事を知り得ていた。

 今となっては出逢った当初より、冗談も軽口も叩き合う仲である。

 完全無欠の聖人という訳では無かったが、彼はいつだって解らない事を教えてくれたのだ。

 

 『トム』

 

 胸中に渦巻く不安を深呼吸で抑えつつ、徐に日記帳へ文字を書き込んでみる。

 ところが、いつもならすぐに返ってくる文字が現れる事はなかった。

 数十秒待っても、返事が浮かんで来ない。

 

 ハリーは大きく息を吸い込んで、利き腕に全神経を集中させる。持てる腕力の全てを使い、白紙を全て埋め尽くす程の、とびっきりの大文字を乱暴に描いた。

 

 

 

 

 『トムーう!!!!!!』

 

 

 

 

 "うわっ、ふぇっ、ハイッ!ヒェッ、いっいらっしゃいませ"

 

 ぐにゃりと歪な形で、意味不明な文字の羅列が浮かび上がった。

 少しして文字が消えた後、表情は見えない筈なのに、どうしてか向こうが咳払いをした光景が見えたような気がする。

 先程の文字が嘘であったかの様に、今度ははっきりと、驚くぐらい整った美麗な筆跡で返事が綴られた。

 

 

 

 

 "あっあぁ、ハリー、おはよう。今日も良い天気だねえ"

 

 『トム、何気取ってんのさ。何がいらっしゃいませなの。しかもおはようって、さっき家を出発するまで一緒に居たじゃん。もしかして、寝ぼけてた?』

 

 "うわっ、毎朝あのオババに叩き起こされるまで、グースカだった君にだけは言われたくない言葉だな。日記帳の僕が寝る訳ないだろ。ちょっと……その、アレだ。考え事をしてただけだよ。集中すると、周りの事がすっぽ抜けていくから"

 

 『そのまま寝ちゃったとか?』

 

 "シャラップ。それと、やたら力込めて大文字を書くなって前に言ったろ。意識にグワグワ響くんだっつうの。君も年頃なんだから、僕を見習って綺麗な文字を書けるように鍛錬しなよ"

 

 『トムを見習ったら、文字が綺麗になっても、反比例で性格は汚れていきそうだよ?』

 

 "シャラップ×2だ。僕はTPOに合わせて性格を変えられるんだから、何も問題は無し"

 

 『てぃーぴーおーって何?』

 

 "ハリー、君の場合はOBKでおーばーかーだな。魔法だけじゃなくて、語学もしっかり教えてあげようか"

 

 『うるさいよ、ほっといて。学校じゃダドリーをいかに躱すかで、授業に集中するどころじゃなかった時もあったんだから。そうやって人を小馬鹿にしてると、バチが当たるよ。友達出来ないよ。授業で二人組も作れないよ』

 

 "ふふん、ご心配なく。僕は他人の前じゃ、ちゃんとカワイイ子供やってたから。「せんせーい、僕ねぇ、今度の夏休みにお友達と遠足に行くんだよ。わーい、楽しみだなあ」ってなもんさ"

 

 『うわーお、筋金入りの猫被りだったってワケだね。お見事。すっごい二面性。ちょっと引いちゃうぐらい感心。とてもじゃないけどマネ出来ないや』

 

 "うるさいよ、ほっといて。猫被りじゃなくて、処世術と言ってくれる?"

 

 『そんなんだと、表面上の友達は出来ても、恋人は出来ないよ』

 

 "出来なくても良いもん。要らないもん"

 

 『えー、僕より全然年上なのに、今まで好きになった人いなかったの?』

 

 "へっ、女なんてまっぴらゴメンさ。顔が良いってだけで、虫みたいに沸いてくるんだから。それよりハリー、何か微妙な振動を感じるけど、もしかして移動中?"

 

 『あ、良く分かったね。そうなんだ……今、おじさんの車で駅に送ってもらったんだけど。九と四分の三番線って、どっちの方にあるか迷っちゃって……あっあぁっ、たいへん!』

 

 "え、何かあった?"

 

 『うん。「呪いのかけ方、解き方―――友人をうっとりさせ、最新の復讐方法で敵を困らせよう~ハゲ、クラゲ脚、舌もつれ、その他あの手この手~」の本が、ヘドウィグにつつかれて破れかけてる!』

 

 "ハリー、これから僕の書く文字、しっかり見てて。いい?"

 

 『うん』

 

 

 

 

 "このアホンダラ!!!!!!"

 

 

 

 

 余白の隙間無く、見開きいっぱいに巨大で大迫力の文字が浮かび上がった。見ているだけで、何だか頭の中にまで「アホンダラアァァァ」と反響してくる感覚に囚われる。思わず固く目を瞑った。

 

 "ホントに、何が『呪いのかけ方、解き方―――友人をうっとりさせ、最新の復讐方法で敵を困らせよう~ハゲ、クラゲ脚、舌もつれ、その他あの手この手~』だ。そんな本なんか、トイレに捨てられようが牙で穴を空けられようが1クヌートで売られようが、どうでもいいんだよ。全く、僕の知らないところで教材を買ってきたかと思ったら、下らない呪いの本なんか追加で購入して。大方、ダドリーの奴に仕返しするつもりだったんだろ?"

 

 『ちょっと呪いを掛けてやろうかと思って買ったんだよ、別に良いでしょ』

 

 "推定体重100キロ付近のあのデブは、体重30キロの超スリム族代表の僕が怖い目に遭わせたんだから、もう放っておけって"

 

 『ウソつき』

 

 "なんだって?"

 

 『実際に逢ったんだから、普通に平均体重ぐらいだって、僕でも分かるよ。体重が30キロなんて、見え見えの嘘吐かないでよね。その歳でそんなの、病院に入院してる人でもなきゃならないでしょ』

 

 "シャラップ×3だぞ。()の僕は食べたって引き籠ったって、何やっても体重が増えなかったんだ"

 

 『それ、何かの病気じゃないの?大丈夫なの?』

 

 "病院連れて行かれた事もあったけど、医者の見解じゃ「生活習慣の乱れで体が栄養を上手く摂取してないのかも」だってさ"

 

 『自業自得?』

 

 "シャラップ×4です。とにかく、ハゲの本はどうでもよくて、さっさとホグワーツ行きの駅に行かないといけないんだろ。遅刻したら洒落にならないんだから、余計な話題をぶっ込むのはやめなさい"

 

 『ハゲの本じゃないよ。「呪いのかけ方、解き方―――友人をうっとりさせ―――』

 

 "誰が間違いを正せと言いました??????"

 

 『もう、威圧的なんだから。分かったよ。急ぐから、どこに九と四分の三番線への入口があるか教えてよ』

 

 "プラットホームの数字を確認して。「9」と「10」ね。その間に柵があるだろ?そこに突っ込むだけさ"

 

 言われた通りに駅の景色に視線を移す。間の柵とは、あの改札口の柵の事だろうか。

 しかし、魔法使いの駅への入口だとしたら、周囲にそれらしき人は全く見当たらない。

 エメラルド色のローブを着た老婆も、毛むくじゃらの大男も、奇妙な格好の人間は誰一人として居ない。

 

 『………あ、ああ、あった!確かに柵がある。先生は柵の向こうに魔法使いの駅があるって言ってたけど、見た感じ何も無いよ?』

 

 "そりゃーここはマグルも利用してるんだから、隠蔽工作はしてるさ。ぱっと見で魔法使いの駅が見える様なヘマをやらかす訳ないだろ。大騒ぎになる"

 

 『魔法使いってスゴイのにさ、どうしてその……マグル?から隠れてるんだろうね?騒ぎになるのは分かるんだけど、気になって』

 

 "住む世界が違うって事だろうなぁ。魔法が使える人間と使えない人間が、仲良しこよし出来ると思う?絶対めんどくさい事になるさ。棲み分けってのは、いつの時代も大切なんだよ。ぶっちゃけこの時代のマグル、まだ発展途上でインターネット社会でも無いしな…。ネットの無いマグルなんて、何の取り柄もないカスミソだよ。類人猿だよ"

 

 『どーしてナチュラルにポンポン悪口が出てくるかな。マグルだって、頑張って生きてる人はいるでしょ?』

 

 "だってホントの事だもーん。マグルが頑張ろうが痔になろうが水虫で苦しもうが、脱毛症と急性虫垂炎を併発して死にかけようが、僕的にはどうでもいいもーん"

 

 『脱毛症……って、トム、そういう事、良く平気で言葉に出来るね』

 

 "全然平気。僕は不必要な状況で上品ぶったりしないから"

 

 『処世術はどこに行ったワケ?』

 

 "だってこの会話ハリーにしか見えないのに、変に取り繕っても意味無いだろ?"

 

 『そりゃあ、本音でやり取りしてくれるのは嬉しいけどさ……もーちょっと、オブラートに包んでも良いんじゃない?』

 

 "そうしても良いんだけどね。哀しいかな、ある事情で精神の半分程は閉心状態を保ってないといけないもんで。ハリーの前でぐらい、素になって休まないとやってられないんだよ…"

 

 『ヘイシン?』 

 

 "「心を閉ざす」って事"

 

 『閉じてるようには見えないけど』

 

 "「半分」はそうしてるの"

 

 『僕の前じゃもう半分開けてるってコト?』

 

 "正解"

 

 『なんか……事情はよく知らないけど、滅茶苦茶器用だってコトは分かった』

 

 "ありがとう"

 

 『猫被りが上手いのもそういう理由なんだね』

 

 "だから処世術って言いなさいよ"

 

 ふと、列車到着案内板の上にある時計を見る。現在、10時40分。ホグワーツ行きの列車は、あと20分で出発する。

 結構余裕のある時間だ。しかし、どんなトラブルに巻き込まれて時間を奪われるか分からない。トムの言う通り、こんな人生の中で一番の重大イベントに遅刻だなんて、洒落にならない。そろそろ動いた方が良さそうだ。

 一度深呼吸して、説明の通りに改札口の柵の方へと、荷物の載ったカートを押して行く。

 

 途中、数人の集団の和気藹々とした話し声が妙に耳に残った。

 

 

 

 

 「ママ!あたしもホグワーツ行きたい……」

 

 「まあジニー、あなたは来年行けるんだからね。ほら……、お兄ちゃん達をちゃんと見送って」

 

 「ジニー、心配するなって。ふくろう便はしーっかり送ってやるよ。家が埋まるぐらいに!」

 

 「ついでにトイレの便座も送ろうか」

 

 「フレッド、ジョージ!今年こそはトイレなんて吹き飛ばすなよ。僕がしっかり見張ってるからな」

 

 「おお、監督生様は怖い怖い。なぁフレッド」

 

 「皆、パーシー・ウィーズリー様のお通りだぞ!グリフィンドールのこわーい監督生様のお通りだ!」

 

 「黙れ」

 

 「コラ!あなた達、ここにはマグルも居るんですからね。あまり騒がないの!」

 

 「ママ……、早く行こうよ。あの二人、永遠に黙らないんだからさ」

 

 「おやまあ、ロニー坊やもお怒りかー?」

 

 「ママが僕達ばっかり構うから妬いてるんだよ」

 

 「この調子じゃジニーにも伝染するぞ」

 

 「お前達!いい加減にしろよ!」

 

 集団の中の、一番年上らしき少年の一喝が最後に聴こえた。その後は、物理的な距離が離れたお陰で聞き取れなくなった。

 何だか聞き覚えのある単語が飛び交っていたが、周囲の雑音が、それらを明確に認知するのをハリーから妨げていた。

 

 集団から離れ、大荷物と共に改札口の柵へと豪快に突っ込む。本当はゆっくり行きたかったが、周囲の人間にドシドシと揉みくちゃにされ、いつの間にか加速してしまっていた。

 

 「うわお!」

 

 ぶつかる瞬間は流石に恐怖心から目を閉じたが、予想を外れ、衝撃などは一切やって来なかった。

 

 ぱっと目を開けると、そこはもう九と四分の三番線だった。紅色の蒸気機関車が、マグルが入る事を許されないプラットホームに鎮座している。

 自分と同じ様に、大小様々な荷物を引き連れた子供達が、駅内を縦横無尽に歩いていた。付き添いであろう大人達もごった返している。

 立ち止まってこの光景を黙って眺めていたかったが、次々と前の車両が陣取られていく事に気付き、慌てて歩き出す。人数オーバーで締め出されるとかそんなのゴメン過ぎる。

 

 空いている車両を探したものの結局見付からず、最後尾近くの車両に乗る事になった。

 無事乗車出来ただけでも御の字なので、不満は一つも無い。

 荷物を運び終えたら、無人のコンパートメントの椅子へダイブする。緊張の連続と大荷物の運搬で、普段使う事のない筋肉が悲鳴を上げ始めている。しばらくこうしていたい。

 

 

 

 

 『ふあ~~~……何とか乗れたよ……』

 

 汽車が出発するまで特にする事も無いので、簡単な報告文を書き込んでみる。

 

 "グッジョブ。滑り出しは順調だな"

 

 『ここに居る人、みーんな魔法使いなの?』

 

 "じゃなきゃあ来れないからね"

 

 『想像以上に、たっくさん居るんだなぁ……魔法使いって』

 

 "これぐらいで圧倒されてたら持たないよ。ホグワーツに着いたらもっとビックリするんじゃない?"

 

 『かも。………ねぇ、トム?』

 

 "…うん?どうした?腹痛か?緊張し過ぎだよ、トイレ行っとく?"

 

 『何でそんな発想しか出て来ないワケ?訊きたいコトがあるだけだよ』

 

 魔法界について尋ねたい事など、数え切れない程ある。けれど、次から次へと沸いてきて収まる事を知らない自身の好奇心を、今は一旦鎮める。

 

 とても大切な事だ。自分の運命に関わる、大切な……

 

 

 

 

 

 

 

 

 『―――僕の両親を殺したヴォルデモートも、ホグワーツに通っていたんだよね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 数秒、返事は返って来なかった。

 しばらくして、とてもゆっくりとした速度で文字が浮かび上がってくる。

 

 "そうだよ。『僕』の本体……あの殺人鬼は、この駅に居る子供達と同じ様に、あの学校で7年を過ごしたんだ"

 

 

 

 

 ―――ダーズリー家での筆談の中、ハリーは自身の驚くべき経歴を知らされた。

 

 自分は魔法使いの家で生まれ、本来ならば、親と共に幸福な日常を送っていただろう事。

 魔法界を蹂躙しようとした闇の魔法使いが、いつか自分を倒す子供が生まれるという『予言』を鵜呑みにし、まだ無力な赤子であったハリーを殺そうとした事。

 その時に、両親はハリーを守る為に盾となり、無情にも殺されてしまった事。

 自身を犠牲にしながら母が遺した『魔法の守り』の効果で、ハリーだけが生き残った事。

 その守りで死を齎す魔法を反射し、闇の魔法使いはそれをモロに食らって力を失った事。 

 お陰でハリーこそがそいつを打ち破った英雄という話が、魔法界中に知られている事。

 額の傷は、死の呪いを受けた時に出来たものだという事。

 

 そして……

 

 

 

 

 "この日記帳も、あいつが在学中に作った物さ"

 

 

 

 

 ―――目の前の日記帳は、闇の魔法使いの頂点とも言える人物、ヴォルデモートの魂の一部であり。

 

 それに転生してしまった、()()()()()()であるという事。

 

 初めて告げられた時は、もうちんぷんかんぷんでどう返答して良いかまるで分からなかったが、全て事実であった。

 彼と出逢ってから、彼の話を理解し呑み込むのに必要な時間はたっぷりとあった為、今となっては自然に受け入れる事が出来ている。

 加えて、教材を購入してからの一か月間は特に理解を深めていた。

 書店で買い込んだ教科書と、魔法界の歴史や偉人が記された史書を読み込んでいくと、彼の話が出鱈目では無いという事が良く解った。

 

 それらの書物によると。

 

 ハリーを殺そうとした魔法使い・ヴォルデモートは実在するし。

 ハリーと対峙してからは姿を消してしまい、行方知れずとなっている事が書かれていた。

 魔法界で販売されている本の内容と、生まれて初めての友人とも言える彼の話を信用するのは、さほど難しい事では無かった。

 

 流石に自分を殺害しようとした人間の、魂の一部であると言われた時は心臓が飛び出そうになったが。

 しかし()()()()は違う。別人に入れ替わっている……というか、別人が転生しているらしいのだ。

 仮にこれが嘘だったら、とっくにこの日記帳は自分を害している筈だ。だから、ハリーは全て信じようと思った。

 

 『異世界』については全く想像がつかず、彼自身『この世界』には無関係だからと、その手の話はあまりしなかった。

 明確に解ったのは、彼が()に生きた世界は、科学的にとても発展していて、魔法界が存在しない事だった。

 そして『この世界』の存在は信じ難い事に、彼の世界では"物語"として伝えられているらしい。

 だから彼は異世界の住人ながら、魔法界の事もヴォルデモートの事も知り得ているのだと。

 

 

 

 

 ……その"物語"の結末がどうなるかは、尋ねなかった。

 

 ヴォルデモートが倒されるのだと知ってしまえば、気を抜いて堕落してしまうだろうし。

 ヴォルデモートが生き残るのだと知ってしまえば、絶望して無気力になってしまうかもしれない。

 

 だから、結末については話さないで欲しいと頼んだ。

 彼も彼で話し辛い内容だったからか、すぐに了承してくれた。

 

 『そして……トムは、ヴォルデモートをどうにかしようとしている』

 

 "正確に言うと、牢屋にぶち込む所存だよ"

 

 ヴォルデモートの"死"は、奴の魂の一部になってしまった『彼』の死も意味する。

 だからこそ、彼はヴォルデモートを無力化して、魔法界の牢獄に捕えようとしているらしい。

 万が一自分の存在を奴が知れば、処分されかねないからこうして大胆に動くしかないみたいだ。

 

 しかし他者からすれば、彼の存在は『闇の魔法使いの分身』にしか過ぎない。

 他の善良な魔法使いに知られるのも、彼にとっては"死"に追い詰められかねない事である。

 だから彼も自分も、誰かにこの日記帳の存在を気取られぬよう十分に注意して過ごす必要があった。

 特に警戒しなければならない相手は、

 

 『ダンブルドア…校長先生?だっけ。要注意人物?』

 

 "そう。別に悪人じゃないけどね……今の僕にとっちゃ天敵に過ぎないから、ホグワーツに着いたら気を付けといて"

 

 『でも、ホグワーツの校長先生なんでしょ。学校を守ってるって事だよね?事情を話せば、協力してくれるかもよ』

 

 "あのねぇ、ハリー。世の中で一番信用出来ないのは、社長とか校長とか大臣とか付いてるオッサン達なんだよ"

 

 『そ、そんなあ。やめてよお。不吉過ぎるよお』

 

 ダンブルドアという人物の評判は、ダイアゴン横丁でハグリッド達から多少聞かされた。他にも、魔法史の教科書なんかに彼の偉業がいくつか記されていた。

 まだ逢った事は無いが、協力を得るにはうってつけの魔法使いだと単純に思ったのだが。

 どうも彼は、ダンブルドアに近付く覚悟を決められないようだ。

 

 "誰もがハリーみたいに、僕のぶっ飛んだ話をあっさり信じてくれるとは思わないからね。こんな話信じられるのは、よっぽどの大馬鹿かお人好しぐらいじゃないか"

 

 『そうだね、よっぽどの大馬鹿かお人好しぐらいじゃないと……ちょっとトム、それ僕のコト?』

 

 "ハリーは特別だよ。両方持ち合わせてるもん"

 

 『信じてあげてるのに、その言い方は無いでしょ』

 

 "だって、ねぇ……。呪いの本買っといて、結局ダドリーに何もしてないんだもんねぇ。すっごいお人好しだなって。僕だったら我慢出来ないなあ"

 

 『そ、それは、魔法は家で使っちゃ駄目だって……あ、あと、トムが代わりにあいつを懲らしめたから……』

 

 "それを教えたのは、全部()()だけどね。あの本を買った当時は知らなかっただろ?"

 

 『や、やり方がいまいち分からなかっただけだよ』

 

 "ふーん。まっどうでもいいさ。僕ももう、あいつをどうこうする気は無いし。一回やれば十分だろ"

 

 笛の音が鳴り響き、ふと気付く。筆談に夢中で頭から抜けていたが、いつの間にか汽車が出発していた。窓の外では、見送りに来た人達が手を振っているのが見える。

 

 いよいよホグワーツへ向かうのだ。説明し難い高揚感に包まれる。

 魔法学校での生活など、まだ具体的な想像はつかない。

 しかし、あの一家での惨めな一生よりも、絶対に楽しい日々が待っているに違いない。

 

 力を失っても完全に消滅した訳ではなく、どこかで息を潜めているヴォルデモートの事も、トムが懐に居てくれるだけで不安はいくらか払拭されていく。

 『予言』では自分が奴を倒す運命にあるらしいが、そんな勝手な未来を告げられてもピンと来ないし、まだ新米の魔法使いである自分に出来る事など何も無いだろう。

 とりあえずは『予言』など忘れて、ホグワーツでの生活に集中しろとトムにも言われたし。

 今日はこの記念すべきこの日を、存分に楽しんでやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、内心で意気込んでいたハリーの耳へ、ある物音がやって来た。

 コンパートメントの戸が開く音。ノックも無しに無遠慮に開かれ、視線を向けるとそこには一人の男の子が立っていた。

 

 「やあ、……窓から見ていて気付いたんだけど、さっきホームに居たのは君かい?」

 

 プラチナブロンドの髪をオールバックにした、青白い顔に生意気そうな表情が張り付いた男の子だ。

 口調こそは紳士的だが、大胆な入室とその表情に、ハリーは少し面食らって返事を忘れた。

 男の子の方は、自分の行動が驚きを与えていると自覚しているのか、特に気にせず喋り続ける。

 

 「その額の傷……君、()()ハリー・ポッターで間違いないだろう?」

 

 額の傷を不躾に眺めながら、男の子は更に一歩部屋へと踏み込んできた。

 

 「僕はマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」

 

 …尋ねてもいないのに勝手に名乗ってきた。聞いた事のない独特な名前を耳にし、僅かに口角が上がり掛けそうになった。

 そんな様子を知ってか知らずか、男の子はますます一歩詰めよってくる。

 

 「ポッター君。両親が居ないんだってね?魔法界の事は良く知らないんじゃないかい?良かったら、僕が教えてあげよう」

 

 無礼な態度と自慢気な様子を隠しもせず、ドラコと名乗った男の子はグッと手を伸ばし握手を求めてきた。

 その顔は良く言えば微笑んでいて、悪く言えばニヤついている。

 

 

 

 

 ―――どうしよう。

 

 

 

 

 どう反応したら良いものか。ハリーはすっかり逡巡していた。

 

 だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (魔法界の事なら、大体教えてくれる日記帳があるんだもんなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 手元の日記帳を視線だけで確認する。

 

 

 

 

 目の前の、ある意味失礼な態度を取ってくる男の子の手を、ここで取るべきか。

 

 

 

 

 どうしてかは分からないけれど、これは結構重要な局面だと脳が告げていた。

 

 

 

 

 




出逢ったばかりはまだ少し猫被ってましたが、次第に化けの皮脱いでいきました。

50年独りで過ごしている間に閉心術の熟練度も上がっています。
なのでハリーには心を開いていても、その間「半分」はちゃんと心を閉じているので、同居人の覗き見は許していません。
というかハリーの前ですら閉心していたら、あっという間に精神疲弊するのでむしろ悪手。
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