転生したら分霊箱だった件   作:@ゆずぽん@

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この小説は分霊箱なんてイカれた存在が主人公です。
作品自体はただの二次創作ですが、訓練を受けていない方が読むと
動悸、眩暈、倦怠感、夢遊病、情緒不安定等の症状が現れたり
最悪の場合、肉体を占拠されたのち死に至る事もあります(大嘘)。
長時間の閲覧を試みる際には、十分な警戒心と閉心術の使用をお願い致します。


Page 1 「この世界で生きる名前」

 "―――愛なんて必要無い。

 そんな物が無くても、人は育つ。

 世界は広いのだから、愛を知らずに生きる子供などたくさんいるに決まっている。

 だから、必ずしも必要なものでは無いはずだ。

 少なくとも、愛を知らない僕は確かにあの時。

 ちゃんと幸せだったよ。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――えー、テストテスト。ただいまの現在地、女子トイレでございます。

 本日は曇りのち晴れ…いや知りません。少女一名が死亡。死因は他殺。

 犯人は現在目と鼻の先で平然としております。

 

 ……こんな所に居られるか!僕は逃げるぞ!

 

 と、死亡フラグを乱立させるようなことを考えながら、慣れない足取りでトイレの出口へと直行。

 これが夢だろうが現実だろうが、殺人犯の居座る場所から距離を取るのは正しい判断の筈だ。

 …ぐうう、足が上手く動かせない。腰から水に浸かっているような感覚だ。見えない水の抵抗力に手間取りながらも、フラフラとトイレを抜け出すことに成功する。

 やはりというかなんというか、トイレで少女を殺害した犯人のヴォルデモートはこちらに目を向けない。声を出しても気付かない。

 透け透けの体で助かったー!これバレたら大変なことになるよな…。てか、気付かれないなら逃げる意味無いような……いや、心理的な問題だよ!例え自分が透明人間だったとしても、殺人の現場に長居は無用だろ!

 

 這う這うの体で逃げ出し、トイレの出口から繋がっていた廊下へと飛び出る。ここがハリポタの世界ならば、ここはホグワーツ魔法魔術学校か。

 じゃあ、ダンブルドア校長とか、スネイプ先生とか居るの!?うわー、こんな状況だけど興奮してしまう。あ、待てよ、時系列で考えれば今のダンブルドアは校長ではないし、スネイプは生まれてもいない筈…だよな。

 

 つーか、人が死んでんだよ!誰か気付け!おたくの生徒が殺人やってんぞ!

 視聴者の視点で昔から思ってたけど、結構無能教師多いよな、この学校。学生時代のヴォルデモートの残虐行為を、ダンブルドア以外、誰一人として気付くことがなかったんだから。…そのダンブルドアも、疑いの目は向けていても止めることは出来なかったけど。

 

 トイレでの出来事を思い返し冷静に考えれば、常識的にここは通報するのが筋だろう。そう、夢だろうが現実だろうが!僕は正しいと思った事をやってやる!

 さっきから何か、他人の体を動かしてるような謎感覚は知らないフリをする。僕の目線はこんなに高くなかったし、いつの間にか羽織っている黒いローブなんか絶対に生まれてから一度も着用した覚えはないけどな!きっと気のせいだよな!

 

 誰かいませんかー!トイレに人殺しがいますよー!でも僕はやってないですよー!

 

 もしもトイレから出てくる所を誰かに見られたら、真っ先に自分が疑われるので一応弁明を入れておこう。

 まあ、ヴォルデモートに気付かれなかったし多分大丈夫だろ。あれ、今はヴォルデモートじゃなくてトムって呼んだ方が良いのかな。どっちでもいいけど。

 

 廊下の隅々を見渡すが誰も通らない。マジかー、こういう時に限って。いや、人通りの少ない場所だということを知っていて、彼はあの行動に走ったのだろうか。だとしたらちゃんと計算してるなぁ。

 でも、人殺しは褒められた事じゃないけどな!出るとこ突き出してやる!

 謎の使命感に燃えていると、廊下の曲がり角から誰かが姿を現した。

 

 こいつはラッキーだ!おーい、気付けぇー!

 

 もしかしたら誰か一人ぐらいは自分に気付いてくれるかもしれない。こんな体で、何を淡い期待抱いてんだと思うが、無駄だと分かっていても全力で手を振るぞ!

 遠くでよく顔が見えないが、人影はこちらへ向かっているようだ。…ああもう、もどかしい。こっちから近づいて―――

 

 ガクン、と。

 

 さっきまで何不自由なく動かせていた体から、唐突に力が抜けていく。パンパンに膨らんだ風船に穴を穿たれたかのように、物凄い勢いで脱力した体は頭からその場に倒れ込む。

 いてぇ!……いや痛くない!地面にぶつかった衝撃も感じない!そりゃそうか、透けてるんだもんな!透明人間でも地面は通過しないのかー…。

 余計な事まで考えながら、力の入らない身で必死に視線だけを何とか動かす。

 予想通り、歩いてきた人影は力無く倒れている自分に見向きもしない。角度の問題で顔の詳細ははっきりしないが、立派な髭を蓄えた白髪の男性だった。…いや、髭凄過ぎ。剃ればいいのに。何処か既視感があるけどまさかこの人って…

 このまま無視され通り過ぎていくのかという不安から、そこまでの思考を飲み込む。頼むから気付いてくれよ…!マジで体動かん…助けてー!

 情けなく心の内で叫びながらなんとか起き上がろうと四苦八苦していると、

 

 【そっちはダメだよ】

 

 声が、聴こえた。

 

 いや、聴こえたというより、頭の中に語り掛けてきたかのような感覚だった。

 でもさっきのような、無理やりに侵入してくるような文字ではない。本当にそのまま、頭の中に言葉をそっと置かれるような、何とも表現し難い体感である。

 

 【今は、何をしたって変わらない】

 

 …こいつ、直接脳内に…!

 

 聴覚で声を聴いている訳ではないから、男なのか女なのか若者なのか老人なのか判別は出来ない。

 こんな場面でこんな芸当が出来るなど、只者ではないことは確かだが。

 ただなんとなくだが、目の前を歩いている男性でも、トイレにいたヴォルデモートの仕業でもない気がする。これは一体…

 

 【どうせ気付かれないんだから、大人しくしてたら?】

 

 何だこいつ、今めっちゃ見下された感がしたんだが…!

 でも悔しい!正論だから言い返せない!

 しかし誰だよ!夢だから何が起きてももう驚かんが、モヤっとするわ!

 

 【誰だって?おかしなことを言う。君は知っているハズだよ。なのに知らないフリをしている。あとね、これは夢じゃないよ】

 

 ほーん?

 夢じゃない、と。

 そっちこそおかしなことを言うもんだ。

 ―――『本当の自分』はな、こんな高身長じゃないしホグワーツの制服であろうローブなんかそもそも着ている筈がないんだよ!…鏡を見た訳じゃないから、今の自分の顔を確認することは出来ないけれど、元の顔からきっと変わってしまっているに違いない。

 現実じゃあり得ない。だからこれは、絶対に夢に決まっているんだ!

 

 【じゃあ、自分の名前を言ってごらん。一字一句違わず正確に言えるのならば、これはきっと夢になるだろうね】

 

 対話相手の表情は窺えないが、今の言葉にはこちらを小馬鹿にするかのような感情が見え隠れしていた。

 思わず苛立ちが募る。言葉の真意と、どうして名前を言えたら夢になるのかの因果関係はいまいち掴めないが、そっちが言うなら夢か現実か白黒はっきりさせてやろうじゃないか。

 

 『僕の名前は、…ッッ、トム・マールヴォロ・リドル…ッ?!』

 

 あれ、おかしいな。

 今確かに、自分の『本名』を口に出した筈なのに。

 実際に紡がれたのは、あいつの名前。

 いや、勘違いなんかじゃない!

 

 『え、あ…?……ッ、トム・リドル…ッ?トム・リド…なんでぇ!??』

 

 何度正しい名前に修正しようとしても、この口は他人の名前を勝手に騙るだけ。

 

 【もう他人じゃないだろう。君が"為った"んだから。『名前』と『存在』は互いを繋ぐものなんだ。君は『元の体』を喪ったから、『元の名前』を名乗れなくなったのはおかしいことじゃない】

 

 謎の存在が淡々と説明してくれるが、正直理解が追い付かない。

 別人に為ってるから、本来の名前を名乗れないだって?そんな馬鹿な話があるものか。今だってちゃんと、本名を覚えてる。自分の名前。それが、いざ口に出そうとすると『トム』に自動変換されるだって?そんなアホな言語入力ソフトを脳にインストールした覚えはない。

 …馬鹿げてる。

 

 【だとしても、理解出来ただろう?これは紛れもなく現実だよ。―――例え夢や幻だとしても、自分の名前をその場で名乗るぐらい容易なものだって思わない?それが不可能になったこの状況を、逃げ場のない現状を、君は今でも信じられないの?信じたくない?本当は気付いているくせに。まったく、知らないフリが得意だね?賢くて狡いんだ君は。スリザリンに向いているよ】

 

 グサグサと、容赦なく逃げ道と言い訳を潰してくる怒涛の言葉に何一つ反論が思い浮かばない。

 ―――本当は気付いているくせに。

 その言葉を反芻して。

 認めざるを、得なかった。

 

 自分が架空の物語の存在に転生して、元の体も名前もすっかり亡くしてしまったことを。

 

 いやだって、あり得ないって考えるのが普通…でしょ。ここがあの世界で、自分がラスボスの魂の一部だって?んな馬鹿な……

 

 【その気持ちは分からなくもないけれど、早く受け入れた方が良い。でないと、酷い目に遭うのは君自身だ】

 

 それどういう…

 

 と、思わず聞き返したその時だった。廊下に声が響き渡った。

 

 「ダンブルドア先生」

 

 声の主は、いつの間にか自分の背後に立っていた。

 振り向くと、さっきまでトイレに居たヴォルデモートが廊下を歩いていた男性に声を掛けていたところだった。

 

 『あ、いつの間に!?』

 

 そうだ、今まで謎の言葉と一人格闘していたからすっかり思考の外に追いやられてしまっていたが、本来の目的はあの髭じいさんだった。どれくらい時間が経ったか知る術は無いが、不思議とそこまで時が過ぎた感じがしない。ものの数分といったところか…?

 ていうか、ヴォルデモート出てきてんじゃーん!何食わぬ顔で!人を殺しておいて、そのポーカフェイスはやっぱり頭おかしい。

 …待てよ、近くを通りかかったこのじいさんを口封じに殺す気ではあるまいな?この殺人鬼、め…?

 

 ―――今、ダンブルドアって言いました…?

 

 衝撃の事実。あの立派な髭をお持ちのダンディは偉大なる(?)魔法使い、アルバス・ダンブルドアとな???

 なんか本名はもうちょっと長かった気がするけど、流石に『ハリー・ポッター』の人物名の詳細をそこまで記憶してないわ。

 

 「おぉ、トムや、どうしたのかね?」

 

 ダンブルドア先生が穏やかな声音で口を開く。映画で見知ったザ・おじいちゃん臭はいくらか薄れてる気がする。まだ校長になる前の時代なんだから、少し若いのは当然か。

 ダンブルドアが振り向く前に、ヴォルデモートが手に持った物をローブの中に仕舞うのが見えた。まさか、日記帳だろうか。分霊箱に改造したんだから、発見される前に隠すのは普通の反応か。

 しかしやっぱ、学生時代はトムって呼ばれてるのね…ま、ヴォルデモートなんて厨二ネームは先生に明かす訳ないよな。

 うーん?もしかして、ヴォルデモートって日記帳に書いたあの時に思い付いたのか?厨二ネームは文字として書き残さず心の中にしまっておくのが吉だと思うけど。

 …あ、そういえばあの日記帳、何か書いても消えるんだっけか。いや正確には消えてないけど!僕の頭に染み込んでくるんだけど!やめてくんないかな!あの感覚まだ気持ち悪いんだよなあ!

 

 …僕が元の名前を名乗れなくなったのって、あの一連の出来事のせいでもあるんじゃ?

 脳内に染み込む黒いインクの文字。記憶に新しい。ただの文字じゃなくて、魂そのものに刻むかのような恐ろしい感覚だった。

 あれが本当に、僕の魂に書き込んで上書きするシステムだったとしたら?そのせいで、もうトム・リドルしか名乗れなくなってるんだとしたら?

 

 【上出来だね。あえて教えなかったけど、もう正解に辿り着いたんだ】

 

 忘れた頃にあの謎の言葉が割り込んでくる。ええいもう!頭に言葉を入れられるのはもう沢山だ!言葉を入れるのは耳にしてくれ!

 叶わないであろう思いを胸に悪態をつきながら、未だに動かない体を必死によじって二人の会話を何とか聞き取ろうとするも。

 グラ…と、急に意識が真っ逆さまに落ちていくような感覚に襲われる。

 

 『あ、れ…?』

 

 ね、眠い。とても眠い。視界が霞むぅ…。二人が何かを話しているけれど、耳栓をされたみたいに聴覚は役割を果たさない。

 

 【あーあ、時間だね。文字を書き込まれたことで、認識されないレベルではあったが辛うじて実体化出来ていたんだけど…。魔力が底を突いたんだ】

 

 え、えぇ…?そ、そういえばハリポタ第2作でそんなシステムだったような気はする。日記に文字を書き込まれることで、書き込んだ人間の力を利用して中の魂が表に出てこれるんだっけ…。

 でもあの物語では、黒幕のトム・リドルは、秘密の部屋内部で分霊箱を破壊されるまでずっと実体化してた気がする…映画知識だけど。

 

 【何日も文字を書き込まれ続けた訳じゃあないし、さっき君が慣れない体でやたら動き回ったからさ。無からエネルギーが生まれるなんてあり得ないんだよ。生まれたてホヤホヤってのも原因かもね】

 

 ご、ご丁寧にどうも…。今更だけど、何でそんなに詳しいの?あんた誰よ?

 

 【うーん、教えない】

 

 は?

 

 【というか、こっちが直接的な正体を伝えるのは無理なんだよねぇ…。教えられる情報に制限が掛かっていてさ。まあそれが無かったとしても今明かす気は無い】

 

 はああ?

 

 【ああ、でも意地悪のつもりじゃないんだよ?これでも君のことは応援しているんだ】

 

 何を?

 

 【…もう、時間だ。大丈夫、死ぬ訳じゃない。在るべき場所に戻るだけさ。じゃあ、オヤスミ】

 

 ちょっと待て…まだ聞きたいことが…

 

 【"死を越えた先に辿り着いたら"、全部教えてあげるよ。その時には、きっと制限も解かれているだろうから、さ…】

 

 そこまでで、限界だった。

 視界の全てがブラックアウトする。

 ダンブルドアとヴォルデモートはもう何処にもいなかった。

 

 

 

 

 

 激痛を味わった直後の、あの真っ暗闇。

 

 意識以外の全てが奪われたその場所へ、僕は再び連れ戻されていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【―――ヒントは大分与えたつもりだけど。きっと、君は知らないフリが得意だから。こっちの正体にすぐには気付かないんだろうね】

 




設定上主人公の原作知識は映画版基準で進行します
小説でしか明らかにならない部分は基本無知である、という状態になります
謎存在についてはもろ答えを言ってるようなものですが、この主人公はしばらく知らぬ存ぜぬまま物語が進行します。生温かい目で見守って下さい。(゚∀。)

原作は1ページたりとも読んだことないよって人、悪い事は言わん。
こんなイカれてる小説よりずっと面白いから、
まず先にあっちを読んだ方が良いよ、マジで。
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