とりあえず俺はそこそこの話一つ更新してから下山するぜ。
ファンタビ2地上波放映最高に楽しかった。
G・Gのキャスティング変更は残念だけどファンタビ3も待ってるよ。
ちなみにG・Gが絶賛活動中にあの人はホグワーツに入学したり秘密の部屋を開いたりしとるんです。この先のファンタビに関わってくるか期待して良いんですかね。
―――『闇の帝王を打ち破る運命を背負いし子の元へ、死を越えし契約者が現れる』
思い出す。
―――『その者の携える闇の全てが奪われし時、帝王を越える怪物が羽化を遂げる。その時こそが帝王の終焉となり、新たな帝王の誕生となるであろう。帝王よ、己が破滅を逃れるならば、その者を看過してはならぬ。運命の子の元より略取せよ。同じ時を歩ませてはならぬ……』
……思い出す。
―――『
ホグワーツ魔法魔術学校の校長室にて。
その部屋に座する老人は、ただでさえ加齢で数を増した皺に埋もれているのにも関わらず、その表情を険しく歪めていた。
「……予言は変わってしもうたか」
無意識に悩まし気な呻き声を漏らしてしまう。
今、思考に浮かべていたのはある予言の記憶。
現在この学校に在籍するとある女性教師が、数日前に己と二人きりで他愛の無い会話をしていた時。彼女はふと自我を失い、昔にも同じ現象を起こしていたように、突然野太い声で予言めいた言葉をつらつらと唱え始めたのだ。その時の記憶を、誰に打ち明けるでもなく一人で思い返していた。
実際、自我を失った時の彼女の言葉は予言めいた、ではなく、本当に予言であるのだが……その事を知る人間は数少ない。事実、彼女が教える『占い学』の授業を選択して受けている生徒達の大半は、彼女が本当に未来に起きる出来事を予言する人物などとは、想像もしていないだろう。
「これまた突然じゃ……何故今になって……」
およそ十年前の出来事である
前回の予言は『新たな帝王』が誕生するかどうか、ヴォルデモートの行動次第に依るといったものであったのに、今回の予言では既に「誕生する」という事が確定してしまっているのだ。
これは、ヴォルデモートが己の破滅を阻止する事に失敗した、という事を意味しているのであろうか……。
「いずれにせよ……この者を発見次第保護せねばなるまい……」
予言で度々語られる契約者なる人物。内容から推測するに【ヴォルデモート】と【新たな帝王】、両者と戦う過酷な運命を背負っているのだろう。
こう考えると、彼はまるで大いなる闇に抗う英雄の様に聞こえるが……。
そもそもの話として、問題の【新たな帝王】を生み出す原因を作ってしまっているのが、この人物なのだ。わざわざ厄介極まりない敵を自分で生み出し、戦う羽目になる。……その未来を想像すると少々憐れな運命だ。
だが、闇の勢力の頂点たるヴォルデモートらと戦う運命にあるという事は、言い換えれば魔法界の未来を背負っているとも言える。少なくとも、自分達の敵にはならないと信じたい。
「ハリーの元へ現れるという事は……信じていいのかのう」
契約者というのは、初めの内は生徒の誰かだと考えた。しかし今のところ、あの少年の近くにそれらしい人物が居るようには見えない。生活のほとんどをホグワーツで過ごす事になるハリーにとって、近くに現れる人物といったら生徒や教師ぐらいしかいないのだが。果たして一体何処の誰が契約者なのだろうか。
(助勢する者無くば―――か)
予言ではこの契約者、一時とはいえ敵と拮抗するレベルの実力はあるらしい。しかも唯一人で、だ。
だが戦いの時、誰の助けも得られなければ彼に待つ未来は敗北の二文字。彼が帝王の前で屈したその時こそ、世界に真の暗黒時代が訪れてしまう。
(この者と共に奴らに抗える人物―――ハリーなんじゃろうか)
一番最初に語られた予言では、ヴォルデモートを破る力を持つ子供の存在が明らかになった。ならば契約者に助勢する者として、この子供こそが一番相応しいと言える。もしも契約者が誰なのか判明した際には、この者とあの少年を―――
(いや、或いは、儂が―――)
そこまで考えそうになって、瞬時に首を振る。同時に部屋の中で聴き慣れた産声が響き渡った。
「おう、フォークス。そういえば今日が燃焼日じゃったのう」
鳴き声の方に目を向けると、ちょこんと盛られた灰の山がもこもこと蠢いている。やがて卵を突き破る様にして、灰の中から一羽の醜くも愛らしい雛鳥が姿を現した。
校長室にて世話をしている不死鳥。名前はフォークス。その名が示す通り、寿命が尽きても彼らは再び蘇る。死するその時自らの肉体を完全に燃やしてしまい、残った灰の中から次の命を芽吹かせるという、何とも神秘的な生物だ。
「最近やたら飛び回っておったろう……燃焼日が近いのに珍しい無理をするものじゃ。お主、少し痩せたかの?」
不死鳥とて、永遠に若く美しい姿を保つ訳ではない。彼らには生物として当然の現象である『加齢』が存在する。雛鳥、成鳥、老鳥といった成長を経て、死を迎えると同時に再び雛へと姿を変えるのだ。永遠に近い生を送る生物だが、成長に伴う姿の変化も併せ持つ。当然、寿命が尽きる寸前の彼らは醜くしょぼくれていて、動き回る体力も無い筈。なのに最近は珍しく老鳥の姿でも忙しなく活動していた記憶がある。一体何をしていたのだろう。
フォークスが一度だけこちらへ黒々とした瞳を向けて、小さく鳴いた。まるでひと仕事終えた、と言わんばかりにすぐさま体を丸めて寝入ってしまう。蘇って最初の
「……ああ、あの二人の杖……お主の羽根じゃったな」
予言によって繋がりを持った二人の魔法使い。彼らを主として選んだ杖の芯に使われている不死鳥の尾羽根は、フォークスの体の一部であった。かつて杖職人のオリバンダーに二枚だけ、この羽根を提供した事を思い出す。
……まだ今回の予言は全てを決め付けた訳ではない。この戦いの勝者が最終的にどちらになるか、確定はしていないのだ。
「儂なら、いや―――」
自分自身が契約者の助けになる、そんな浅慮な思考に陥ってはいけない。結論を出すにはまだ早い。何故なら―――
(己の考えが、全て最善を生み出す訳ではない……)
かつて犯した思い出すのも憚られる自身の過ち。その愚かしい経験が幾重にも絡まって彼の首を今も尚絞め続ける。これが正しいと思える結論を出させる事を完全に阻んでいた。
「トムよ……今のお主には、儂がどう見えるのじゃ……?」
犯した過ちの一つを象徴する、一人の孤独な生徒。親も愛も知らずに、他者を利用する事しか考えられなくなった冷酷な少年。
子供を導くのが使命である教師にとって、あの少年を闇の道へ歩ませてしまったという事実は、永遠にアルバス・ダンブルドアを苛み続ける。
正しい道を示してやる事も、愛を教えてやる事も出来ずに、ただ悪道を選ぶ事を許した。
そしてあの少年が
(儂は救いようのない愚者。だが、せめて他の者達は救わねばならん)
……もしも。
もしも、あの日あの時少年が―――その身を覆う仮面を自分から脱ぎ捨てて。
打算も策略も奸計も全て排した、嘘偽りの無い望みを晒し出したなら。
今までの人生で一度たりとも口にした事が無いであろう、短い懇願の言葉。
「助けて」、と。
そんな言葉を己の前で告げた時。
その時―――自分は、果たして彼を救う意志を持つ事が出来ただろうか。
ロナルド・ウィーズリーは、苦しそうな呻き声で僅かに覚醒した。
夢か現か定かでない朧げな意識の中、聴こえてくる声に彼の脳は不快感を示す。唯一脳が休まるノンレム睡眠の真っ最中だったのだ。すぐに眠りに戻れと全身に指令が下される。
しかし、彼はこの状況に覚えがあった。彼はたくさんの家族に囲まれて生活してきたが故に、他の兄妹が悪夢などに魘されて寝付きが悪い夜などは多々経験している。実際、自分が魘されていた時は宥めて貰った事もある。特に一番下の妹は、年々兄達が家を離れていくどうしようもない孤独感のせいか、度々悪夢に苛まれていた。そんな時は、両親や自分が何とかあやしていたのだ。
そういう訳で、ロンとしてはただいま寝室に響く謎の呻き声に対して、見て見ぬフリをして眠りに落ちるという行動には至れなかった。体に染み付いてしまっているのだ。寝惚けながらも、今まで妹にしてきた様に声の主を宥めてやらねば、というちょっとした使命感に突き動かされ重い瞼を抉じ開ける。
声のする方向へと枕の上で首を傾け、薄っすら目を開けたロンの視界に入ってきたのは―――薄闇の中、隣のベッドで横になっている友人のハリーだった。
闇に慣れた視界の中とはいえ、彼の容態をはっきりと視認出来る程ではなかったが―――しかし、その額には大量の脂汗が浮き出ているのを確認出来た。彼の表情は苦悶に満ちており、快眠とは程遠い様であった。少しばかり開かれた唇からは絶えず呻き声が紡がれている。
友達が悪夢に魘されている―――ぼんやりとした頭でそう結論付けたロンは、夢うつつの中上体を起こそうと試みて―――
ふとそこで、視界に妙な物が映り込んだ。
影、の様な物だった。真っ黒い影が視界を横切り、ハリーの眠るベッドへと近付いて行った。まるで氷上を滑る様な鷹揚な動きだった。物音一つ立たない。
ロンはぱちくりと瞬きを繰り返す。けれども視界に映る影は一向に消え去る気配は無い。ロンに傍観されながらも影は大胆にも一気にハリーとの距離を詰めた。彼のベッドの前で停止すると、影から何かが伸びるのが見えた。
―――あれは、手だ。ロンは、そこで初めて影が人間の形をしていると理解した。夜の闇と同色で視認しづらいが、黒いローブ―――ホグワーツの制服を身に纏った青年の姿が見える。ハリーと同じ黒髪だった。一体あれは誰だろう?
暗闇のせいで、どの寮の制服かは判別出来ない。暗い場所で見えにくい色の制服だとしたら、レイブンクローかスリザリンだろうか?
そこまで思考を巡らせているロンは、ゆるりとこちらへ振り向いた青年と目が合った。本当に突然の動きだった。暗くて彼の瞳の色は良く見えない。目と目がばっちり合ってしまっても、休みたがっている自身の体は大した反応を見せない。金縛りに近かった。
「…………あ、」
思わず声が漏れた。青年はじっとこちらを見つめている。特に動きを見せず、横たわったまま寝惚け眼で見つめ返すロンの様子を見回して―――ふっと笑った。
まるで悪戯がバレてしまった様な、そんな感じの―――子供染みた、愛嬌すら感じられる笑みだった。悪意は一切伝わってこない。ロンは微睡の中、黙って青年を見つめ続ける。
すると青年は微笑んだまま人差し指を口元に近付け、「しー」、と唇を動かした。そしてロンの反応を確認する事なく、ハリーの方へ向き直る。何をするつもりなのかロンが見守っていると、青年はベッドの傍に屈み込み、眠っているハリーの額にそっと片手を当てた。壊れ物を扱うかの様な、酷く優し気な手付きだった。風邪を引いた弟を看病する兄みたいな光景に触発されたのか、ロンの脳裏に懐かしい記憶が蘇る。―――確か昔、自分もあんな風に、熱を出した妹を撫でてやっていたっけ。
「…………」
しばらく眺めていると、青年に触れられたハリーの呼吸音が次第に静まっていった。荒い呼吸を繰り返していたハリーだったが、どういう訳か規則正しい寝息へと変わっている様だ。心なしか汗も引いた気がする。
表情が緩んだハリーを満足気に見つめ、青年は再び微笑んだ。彼の周りに薄気味の悪いぼんやりとした光が漂い始める。何が起きているのか確かめようとしたロンが、思い切って体を起こそうとしたその時。
―――青年は、いくつかの光の粒子だけを残してその場から忽然と消えていた。
青年が確かにそこに居た事を示す光の粒子も、時間と共に泡の様に消えていく。ロンは目を疑ったが、次の瞬間に猛烈な眠気に襲われた。苦痛や不快感は一切感じない、不思議な意識の混濁だった。記憶を無理やりごちゃごちゃにされる様な感覚が、彼の脳を襲う。
ロンはそれに耐え切れず、あっさりと意識を手放した。
―――そうして、部屋に残ったのは。
穏やかな眠りに包まれる五人のグリフィンドール生だけとなった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
走る。走る。
暗闇の中、灯りも無く、ただひたすらに闇雲に走り続ける。
一寸先は漆黒。
足元すら碌に視認不能な空間で、何故灯りも点けずに疾走しているのかと言えば―――単純明快、灯りを点ければこちらの居場所が筒抜けになってしまうからである。
灯りが無ければ問題は無い、ともいかない。この身体でも動けば―――全力疾走等の激しい動作をした際、多少なりとも物音が立ってしまうのだ。人や物に触れられない癖に地味にリアルで謎な現象だが、居場所を気取られぬ為には音さえも向こうに聴き取られてはならない。故に自身の靴にはしっかりと防音呪文を付与してある。全身ではない理由は、呪文の付与は一部分でないと消費魔力量に雲泥の差があったからだ。燃費の悪いこの身では、残念ながらこんなみみっちい魔法の使い方を常に心掛けておかねばならなかった。
心音も呼吸音も発生しない分霊の身であるので、無理して全身に防音を施す必要が余り無かったのは幸いだった。土を思い切り踏み締め、林の真っ只中を真っ直ぐに走り抜ける。防音呪文のお陰で、落ちている小石や小枝の存在を気にせずに全力で足を動かす事が出来た。
自分の現在位置など解らない。今はただ、距離を取らなければならない。位置を把握するのはそれからだ。
足を止める訳にはいかなかった。今も周囲で、こちらを追従するガサガサという木々を掻き分ける物音が絶えない。まだすぐ近くで気配は感じられないが、両者の位置は依然として離れてはいないようだ。
『―――冗談じゃないな、全く』
囁く様な小声で愚痴を零す。
人間は精神に異常をきたすと、無意識に安定を図る為に独り言が増えると言うが、あれは本当だった。
灯りを点す事すら許されない森の中、足が縺れて躓くなどといった無様な醜態をいつ晒すかもしれない状況で、穏やかな心情を保てる筈がない。そんな事が可能なのは加齢で脳味噌の溶けた老人共くらいだろう。そして万が一、途中で転ぶなどというアクシデントを起こしてしまえば、その時点で間違いなく、詰む。
改めて考えると、今の自分が置かれている状況は非常に不味い。
灯りに頼っても駄目、音を出しても駄目、追い付かれても駄目、転んでも駄目、魔力を切らしても駄目。
禁止事項があり過ぎて発狂しそうだ。これら全てを遵守し、無事帰還を果たすのが自分に課された超重大ミッションなのだが、生憎完遂出来そうにない。
らしくないネガティブな思考になってしまうのも致し方ないだろう。普通の人間ならば、こんなの途中ですぐに脱落モノだ。むしろたった今、五体満足自由の身を維持している自分を褒め称えて欲しいものである。
と、少々余計な事まで考えを巡らせている己の視界の隅で、何かが動いた。気のせいでも錯覚でも見間違いでもない。確実に、何かがそこに居る。
『―――ッ!!』
ぬっ、と、暗闇の中―――真横から血色の悪い五指が伸びてきた。腕があるであろう部分は真っ暗で、相手の姿も何も見えない。
即座に、極限まで高めていた反射神経が働き、右手に命令を伝達する。頬に触れるか否かのところで、力の限り弾き返してやった。
バチン、とやけに気持ちの良い音が辺りに響いた。引っ込める様にしてそれが消えていく。五指の持ち主から少しでも距離を取る為、足は休めない。
(……思い切り触れたな)
先程の感触を拭い去るべく、右手を握り込む。
完全に、相手の生身と触れ合った。
ある一人の少年。それ以外の人間と触れる事が許されなかった己の手であったのに、確実に触れた。
―――相手の正体など、探る必要も無い。
どうして触れられたのか、誰に教えられるでもなくとうに理解している。理解、したくはなかったが。
これを機に、なるべく適当な感じで思念を飛ばしてみる。
(現実逃避出来る呪文、知ってるか)
【この切迫した状況でそんな事を考える余裕があるなら、案外大丈夫そうだね】
(……お前、今だけ僕と交代しないか?何ならおまけでなけなしの魔力もつけとくぞ)
【……、無理だよ……】
(解ってるさ。出来たならお前はとっくにそうしてるって解ってるさ。現実逃避したって良いだろ!)
【現実を見るのも大切な事だよ。……君に逃げ切って貰わないと、こちらも困る】
(お前は良いよな。なーんもしないで観てるだけだもんな。口であれこれ言うのは簡単だ!)
【うん、そうだよ。だから頑張ってね】
(腹立つな!お前と一緒に居ると、ホント腹立つ事多いな!)
―――なんて他力本願な奴だろうか。もしも現実に存在したらぶん殴ってやる。
新たな決意を胸に抱く。
ついでに殴り飛ばした後、ヘッドバットからのフィギュア・フォー・レッグロックまで決めてから、最高温度まで熱した焼却炉へとぶち込まなければ気が済まない。蓋を閉めたらナイフを大量に用意して、手品の様に外から串刺しにしてやるのも良いかもしれない。
【君、段々残虐的な思考を隠さなくなってきたよね……】
(何の事だ?お前が言ってる事はさっぱり分からん)
【今の心中を閉心する事無くわざと伝えてきた時点で説得力が……】
グダグダとしつこい会話を、これまで何度もそうしてきたように無視する。
詐欺師というのは基本的に会話によって相手を撹乱するのだ。互いに言葉が通じるからこそ起こる犯罪が、詐欺。つまりこういった類の人種に絡まれた場合、会話を強制終了させれば無問題なのである。……あ、たった今ブーメランの様な何かがグサリと返ってきた。ちょっと痛い。
まあそういう厄介な人間性を抜きにしても、こいつと馴れ合うつもりは毛頭無い。
……よくよく考えると、自分以外の他者が今の立場に放り込まれていたら、恐らくこいつととっくに親しい関係性に発展してしまっているのではなかろうか。数十年という決して短くない時を、光の無い空間の中監禁状態で過ごす事を余儀なくされた哀れな人間が、その間片時も離れず傍に存在し続けた何者かに心を許してしまうのも致し方ない。改めて考えると末恐ろしい話である。
不自由と孤独を強いられた人間にとって、唯一会話を許された存在。そんなのが定期的に話しかけてきたら、例え怪しさ満点だったとしても―――多かれ少なかれ情が湧くのは、人間の精神構造的に当然と言える。そんな状況に陥ってしまった人間がいたとして、とやかく責められない。
―――しかし、他の人間はそうだとしても、自分に限っては有り得ない。こいつには嫌悪という二文字のシンプルな感情しか湧かない。
実際に接してみなければ到底理解出来ない事だが、こいつは紛れもなく邪悪だ。
ドブの如き本性をひた隠しにし、相手の全てを決して否定せず、取り繕った上っ面だけの甘い言葉を繰り返し、親密度の上昇を企む。例えそれらの行動を馬鹿にされようと無視されようと、その時生じた怒りは絶対に表に出さない。ひたすらに相手を肯定し続け、警戒心が取り払われるその時を待ち続ける。
正直言うと、こいつは詐欺師というより猟師の方が向いているのではなかろうか。一つの獲物を陥落させるまで諦めず長い時を耐え忍び、最後は必ず仕留めんとする。その粘着質な執念深さはある意味で尊敬する。きっとこれまでもそうやって、その並外れた執念深さで自身の力を習熟させたり、信念を共にする都合の良い下僕を増やしていったのだろう。印象の良い言葉を使うなら情熱家、悪く言えば強欲者……。
(……そういえば)
昔、ゲラート・グリンデルバルドという闇の魔法使いは自身の野望成就の為、
……というか、こいつはよくオブスキュラスが発現しなかったな、とも思う。
魔力を持つ子供が、それを表に出すまいと抑圧する生活を続けていると具現化してしまう寄生的な力。それがオブスキュラスだ。簡潔に言ってしまえば質の悪過ぎる病気に近い。育った環境は割と似ていると思うのだが、グリンデルバルドに執着されたあの青年とこいつに、一体どんな違いがあったのだろうか。今となっては詳しく思い出せない。もう何十年も前の記憶だ。グリンデルバルドは一切関係ないから、と特に記憶を反芻する事なく過ごしてきたせいで、あの『物語』のほとんどを忘れてしまった。
確か、あの子供は力を抑えながら生き続け、それでも尚虐待される日々で。こいつは力を自由気ままに振るい、周囲に小さな恐怖をばら撒き、虐待とは無縁の幼少期を送った。両者の決定的な違いは恐らくこれだ。だとしたら、虐待に縁のあったハリーは……。
いけない。思考が完全に脱線するところだった。今はそれどころではない。……彼に限って、そんな事は無い筈だ。絶対に。
とにかく、こいつの事は死んでも認めない。何の苦労もしないまま、自分は安全地帯に居て他人の艱難辛苦を眺めているだけだなんて、神様気取りの最低な奴だ。自分が一番嫌いな人種だ。
……安全地帯で、ただ眺めている?
……何だろう。今、またデジャブに近いモノを感じたのは気のせいか?
勝手に思考に耽っていると、地面深くに埋まった化石を傷付けずに掘り起こす様な―――慎重に何かを探る様な言葉を掛けられた。
【……君、自暴自棄のフリをして鎌をかけたんだろう?】
呆れた声の中に冷静な感情が垣間見え、一度ゆっくりと瞬きをする。再び開かれた紅き双眸には、焦燥も動揺も宿ってはいなかった。心底腹立たし気な舌打ちの音が鳴った。
『…………、チッ。何だ、バレてたのか』
【やれやれ。よくこの状況で探りを入れる余裕があるね……】
『
【こうも態度を変えられちゃ、君の本当の姿が判らなくなるよ】
『どうぞ、ご自由に呆れてろ。本当の姿がどれかなんて、お前が勝手に決めればいいじゃないか』
真実を偽っているのはお前も同じな癖に、と悪態をつくもすぐに気持ちを入れ替える。
こいつ相手にブーメランを指摘すると、何故かこちらにも(特大のヤツが)返って来そうなので最近は迂闊に出来なくなってしまった。これ以上ブーメランが刺さるのはちょっと避けたかったのだ。
しかしこんな危機的状況でも情報の収穫はあった。
やはりこいつはこちらの精神……というか、意識の主導権を握る、などといった行為は不可能らしい。まあ、出来ていたら50年間も大人しくこちらの行動を放置している訳がない。
この世界に来た時から生じていた疑問を解消したくて、今回思い切って鎌をかけてみたのだが思わぬ成果が上がった。
だが、一体どういう事なのだろうか。
こちらの思考―――心を覗き見る事は出来る癖に。人の心に土足で踏み込んで来る癖に。
そのまま乗っ取る事は出来ないというのは解せない。
いや―――出来ない、じゃなくて、しない、だとしたら?
―――そうだとしても、目的はさっぱり見えてこない。
常に何か企んでそうなこいつの事だ。このまま永遠に―――こうして傍観者のままでいるつもりだろうか?ノーだ。そんな楽観的な考えに逃げる程、自分はまだ落ちぶれちゃいない。
こいつの誘いに乗るつもりも言葉に従うつもりもないが、それでも万が一、億が一、という事もある。「自分は大丈夫」、と豪語していた者が、数日後には素性の知れぬ輩に騙されて破産した、などというのはよくある話だ。警戒を緩めるのは愚行なのだ。
―――人間という生き物は時として、相手の警戒を少しでも解きほぐす為ならば、いつだって親しい友人や恋人の様な態度だって演じられるのだから。
そんな生き物を、自分は
だからこそ、こうして警戒を維持したままでいられる。
二度とあんな人生を歩みたくはないが、その経験もこの世界では役に立った。少しは感謝しなければならない。
(或いは……必要が無い?こっちじゃなくて、
雑念は肉体の動きを鈍らせる。
『……!!』
背後から一気に距離を詰めてきた気配に気付くのが数秒遅れ、背筋に走る悪寒の正体を慌てて確かめようと勢い良く振り向いた。
―――しかし、そこに思い描いていた光景は存在しなかった。
後ろを振り向いた状態で走りながら、思わず表情が強張る。
誰もそこに居なかったのだ。―――今、確かに、背後に何かが存在した筈なのに。
『何処に、い……ッ!?』
呟こうとした言葉は、しかし最後まで続かなかった。
振り向いた姿勢だったせいで突然己の正面に姿を現した存在を認知出来ず、顔の向きを正面に戻したのと全く同じタイミングで、そこそこの速度を保ったままその存在と思い切り衝突してしまったからだ。
速度が速ければ速い程、ぶつかった時の衝撃はより大きくなる。グラリと背中から倒れそうになるが、男の意地で何とか踏み止まった。
それでも数歩程後ろへたたらを踏む形になってしまい、衝撃をモロに受けた顔を片手で無意識に押さえる。生身だったら鼻血の一滴でも出ていたかもしれない。そう思ったぐらいの衝撃だった。
『つ……ッ……』
何かにぶつかる、というのはこの身になってから初体験だったかもしれない。
何せ今までこの身体は壁も人も、あらゆる存在の悉くをすり抜けてきたのだ。長らく忘れていた感触に、精神が順応するのに時間を要した。絶えず動いていた足が完全に停止する。
余りにも突然襲ってきた衝撃を消化し切れず、顔を押さえながら呻いていると―――ふと、空いている方の手をフワリと優しく掴まれる感覚があった。
手に触れられるのはこれが初ではない。唯一初めてだったのは、この手には今まで触れる事の出来た者と違って、温もりが一切感じられない事。
例えるなら、これは氷だ。
魂まで凍て付いてしまった様な、冷たくて鋭い、一切の温もりを拒絶する非情の氷。
途端に、その異常な冷たさに引っ張られて頭が冷静さを取り戻す。顔を押さえている指の隙間から見れば、何とも奇妙な光景が広がっていた。
己の手を取ったまま、人間のシルエットが嫌に整った姿勢で跪いていたのだ。
闇と同化した様な黒いローブで全身を包んだ人間が、頭のフードを外している。やけに目を引く紫色のターバンが巻かれた頭を恭しく垂れ、こちらのローブの裾にキスを落としていた。
今が正常な精神状態であれば、すぐさまこの手を振り払い相手の顔面に膝蹴りの一つでも入れていただろう。割と重めのヤツを。
しかし残念ながら、目の前の気味悪い光景をすぐに処理する事は出来なかった。何言かを喚いている脳内の声すらも、もう入ってはこない。何が起きているのか理解し兼ねている自分を完全に置き去りにしたまま、相手が徐に顔を上げる。
「―――どうか、非礼をお許し下さい」
握られた手の感触と違わぬ、冷たくて鋭い声。謝罪の意が込められた言葉とは裏腹に、声には温情の一つも感じられない。
優しく掴まれているというのに、その手からはもう何処にも行かせないと言わんばかりの強い意志が伝わって来る。
己を真っ直ぐに見据えるその瞳に、一瞬だけ奇妙な紅が
「お迎えにあがりました、我が主の片割れよ」
困惑の紅と冷酷な紅が、闇夜の中交わった。
自分がクリーデンス君と全く同じ状況に追いやられている事を自覚してない男がいますね…
動くと音が出ちゃう、というのは、原作『秘密の部屋』編でも分霊君が歩いた際、ちゃんと足音がしている描写があったのでそこから。あの分霊君のように、所有者を昏倒させるぐらい魂を削ればもっと色んなオブジェクトに触れるようになる、という設定もありますが、彼が同じ事を実行する予定は無いのです。
この世界線で最速グッドエンドに辿り着くなら、実はダン爺に頼るのが一番でした、という悲しき事実。会ったらむしろ殺処分されると主人公は思い込んでるので、本編でそんなRTA的展開には勿論ならんです。悲しいなあ。
ちなみに序盤で言及していましたが、主人公の記憶がファンタビ1止まりなのは、『あの分霊箱』の正体を知らないままで進行させたかったからです。あと、単純にファンタビシリーズが完結していないので…。