「―――さあ、来るがいい」
尊大に呟くと同時、片手に持った分霊箱へ―――開いたままの日記帳の紙面へもう片方の手を翳す。ページの綴じ目を中心に黄金色の光が迸り絶える事無く部屋の中の暗がりを照らし続け、遂にこの場所は昼間と全く変わらぬ明度へと達してしまった。今この時だけは、本来の時間帯が深夜であるという事などすっかり失念してしまいそうだ。
溢れる光と共に不可視の何かが―――確かにかつて己の一部であったと確信出来るモノが、神々しい光と共に紙面からゆらゆらと立ち昇って来る。言葉で何とか表現しようとするならば、それは丸みを帯びた煙の塊の様な形、と言えるだろうか。
特定の生物と違い、赤外線や紫外線を明視出来ぬ人間の脆弱な視力を駆使したとて決して捉えられぬモノではあるが、それでもこの身体に備わったあらゆる五感は煩い程に脳幹へと訴えかけてくる。
これは紛れもなくお前の物。―――僕だけの物。
単純明快なその認識をしかと全身に刻み込み。翳していた手を動かし不可視のそれを鷲掴みにする。どの辺りを漂っていたのか正確な位置は完全に直感で察した。むんずと掴んだ後は、薬草学の授業で幾度もそうしてきた様に―――必要な植物を欲望のままもぎ取る様に、思い切り真上へと引っ張り上げた。
日記帳の中から、目障りとも感じるレベルの眩い光を伴って強制的に連行されてきたそれは、人間と同程度の大きさにまで一瞬で膨張すると、すぐ傍のベッドへどさりと落下した。
そちらへ視線を向ければ、最早五感を総動員させずとも純粋な視力のみで十分認識出来る。
ベッドへ無抵抗のまま放り出されたそれは、己と瓜二つの青年の姿をしていた。
「…………!」
初めて目の当たりにする神秘的な光景。理性的に興奮を抑える事など出来る筈もなく、初心な乙女の様に頬が紅潮していく滑稽な現象を止められない。両の眼にもじわじわと血液が集中してくるのをはっきり自覚出来る。きっと己の眼光は今まさに、獣の如き下卑た欲を秘めた煌きで満ちているに違いない。こんな、欲望を剥き出しにした様子を誰にも見られる事が無かったのは幸いである。
興奮も冷めぬままベッドへ一瞬で距離を詰め、青年の顔を無遠慮に覗き込む。彼は引っ張り上げられた時から仰向けに倒れており、瞼は固く閉じられ意識の無いその全身は弛緩しきっていた。
白磁を思わせる色の失せた頬へ手を伸ばし、すり……と輪郭をなぞって、同じく色の無い己の指をゆっくりと這わせてみた。体温なんてものは、無い。姿そのものは己であるのに、触れた感触は氷の人形かと錯覚させられる。しかし、氷の様だと感じたのはあくまでも温度だけであり、質感は人肌と全く変わらない。確かな軟質が指先を通じて己に伝わってくる。これは決して人形などではない。
―――紛れもなく己の分身であり、魂の片割れ。
その作成方法を知り得た時から待ち焦がれ続けた、不変の象徴。
切り取られ、
生きても死んでもいないそれは、最早人間とも生物とも呼べぬ憫然たる存在へ零落してしまっているという事実を、今の己に理解する術など無かった。
―――いや。これが成長も老朽もしないのと同じように。
どれだけの時間が経とうとも、『その事実』を己が理解する未来は永遠に来ない。
だって、これこそが―――。
魔法界で最も尊く特別な己の魂の一部であり、零落なんて言葉とは程遠い至高の
『……っ、う…………く、』
ふと、声を聞いた。
様子を観察する傍ら、手慰みに冷たい頬の上で己の五指を行ったり来たりさせて撫でている最中だった。まるでそれから逃れようとする様に首をぎこちなく逸らしながら、青年が整った顔を僅かに歪めて呻き声を漏らしたのだ。己が取った行動に痛みを感じる要素など無い筈だが、彼の表情が訴えているのは苦痛。ただ触れられているだけでも耐え難い、そう言われている気がして。
自然と口元が歪むだけの笑みが零れる。
特別おかしくはない。己の身体に気安く触れようとする人間など、ただの一人も居やしなかった。今までの人生で、こんな風に触られる体験などとは無縁だったのだ。突如としてそれを味わわされて、表情を崩さずにいられる方がおかしい。とは言っても、何故だかその様子が酷くいじらしく思えてきて、頬を撫でる手は止めなかった。
何故こんな気持ちになっているのか、自分でも良くは解らない。ただ、悪い気分では無かった。―――それだけは確かだ。
「……体温は無いが触れられる。生身の肉体では無い筈だが、触感は存在し声も出せる……。詳細は解らないが、どうやらある程度は人間の機能を持っているらしい」
冷静に現況を分析していくと独り言が漏れてしまった。まあこの部屋の物音を聞き取られるヘマなどしやしないので、気にする必要は無い。
本来、
そしてまだまだ増える疑問。厳密に言えばこれは『魂の欠片』であり、肉の身体ではない。声帯も存在しない筈なので、物理的に声を出す手段は無いのだが―――。
「魔力が声帯の代わりを果たしている。或いは……思念波の様なもの、か……」
今起きている現象全てが初めてで、分析を続ける思考を止められない。『魂の欠片』に実体を得る機能を持たせるなんて所業を成せたのは魔法界の中でも己くらいであろう。例のない現象を提供してくれる目の前の元凶に、益々好奇心をそそられる。
「……まだ目覚めないか?」
触れている手に少し力を込めてみるが、青年が意識を浮上させる気配は微塵も感じられない。ただ控え目に呻きながら、こちらの手が触れる度不快げに身を強ばらせているだけだ。瞼は永久粘着呪文を掛けられたかの如くぴったり閉じられ一向に離れる気配が無い。不完全ではあるが実体化出来る最低限の魔力を与えた筈なのに、だ。考えられる原因としては、作成したばかりで意識が安定しないのだろうか。
折角の初対面なのだ。どうせならはっきりと意識のある状態で意思の疎通を図りたかったのだが、目が覚めないのであれば仕方の無い事。
「……………………」
じろり、と改めてもう一人の己を見下ろす。
呼吸の必要な身では無い為か決して上下する事の無い胸。制服のローブで多少は誤魔化しが効いているもののやはり痩せこけた貧相な体躯。意識の戻らぬ身で必死に己の手から逃れようと藻掻き苦しむ歪な表情。
目の前に居るのが誰か認識の出来ない状態で仕方無いとはいえ、未だに生みの親たる己を断固として拒絶し続けるその様子に痺れが切れた。
ぎしりと音を立ててベッドに乗り上げ青年の上に馬乗りになり、彼の頬を両手で包み込んで逃げられぬように固定した。大して力を込めてはいないが、彼はやはり一際苦しそうに悲痛な呻き声を上げた。その声に殆ど反射的に眉根が歪んで寄り合う。互いの高い鼻がくっつきそうな程に顔を近付け、聞き分けのない子供を叱り付ける様に囁いた。
「僕の物だ」
は、と青年の唇が返事を寄越すかの様に動いた。言葉にならない喘ぎに近いものであったが、何となくそれが抗言を意味する短い音の響きに聞こえた気がした。
ギリギリと更に強く眉根を歪ませる。閉じられた瞼の奥に隠された瞳を睨み付ける様に、ぎろりと鋭利で凍てついた視線を注ぎ無視して続けた。
「僕の物が僕に逆らうなど有り得ない。―――そうだろう?」
最後の言葉はほぼ命令だった。慣れたものだった。
あの陰鬱で屈辱的な灰色の檻の中で、何度も何度も何度も何度もこうしてきた。その対象が今回は他人ではなく自分になった。ただ、それだけの事。
『う…………、っ……』
くたり、と呆気なく力が抜けた青年の首が斜めに傾く。それきり彼は呻く事を止め沈黙を取り戻した。緊張で強ばっていた四肢は再び弛緩しベッドに沈む。命令通りの従順さを見せられ、己の胸の内は充足感で満ち満ちていく。そうだ。それでいい。
糸の切れた人形の様に無抵抗となった彼の背中に手を入れて起こした。重力に従って頭はカクンと俯く。前髪の隙間から覗く瞼はやはりうんともすんとも言わなかったが、構わずにそのまま制服越しに薄い胸板に己の額をそっと押し当てた。鼓動も脈拍も何も無い。しかし―――ただ一つだけ、感じられるものがあった。
それは、共鳴に近かった。触れ合った箇所から己の中に不思議な感覚が流れ込んできて、爪先から脳天を緩やかに貫くものがある。
己から産み落とされた存在、己と同一の魂を持つ存在……。そんな清閑の主張が、精神的な提唱となって全身に染み渡っていく。
「これで……計画の第一歩」
他人から今の光景を目撃されれば、さぞや仲の良い双子にでも捉えられたであろう。だが、実際にそれは誤りだ。
双子なんかとは比べ物にならないぐらいに、全くの同一的な存在。
「だが、『秘密の部屋』の開放だけが全てじゃない」
はあ、と恍惚に満ちた溜息を一つ吐き出すと、顔を上げて寝坊助の表情を覗き込む。彼の背中を支えたままだった手を上下にさすると、命令を守っているせいか抵抗は無かった。それでも相手は目覚めない。
「君はもっと、崇高なる使命を……」
特別な自分には特別な役割を。
だが、余りにも特別である証明を担わせるのは同時に危険性を孕む。
万が一、あの老人やそれに連なる偽善者共に分霊箱の存在が知れ渡ったならば。
己の計画はあっという間に崩壊の危機に晒され、全ての努力は水泡に帰す。
ならばこそ、重要な役目を負う分霊箱は、平凡で在り来りな外容の日記帳であるべきなのだ。
これは一種のカモフラージュ。後に作る分霊箱は、唯一無二の神秘を携える秘宝を利用する。真に計画の要となる分霊箱は、特別な道具でもない日記帳という平凡な器に。
そして。平凡な器たる日記帳を後生大事に保管していては、これこそが己の本懐を遂げる代物であると露見してしまうだろう。後の分霊箱と違い、敢えて程々にぞんざいな扱いをする必要がある。保管すべきは、グリンゴッツなどといった宝の数々にとっては堅牢な要塞と呼べる場所ではない。
「誰かに預けるよりほかは無い、か」
この分霊箱を作り上げた"表向き"の目的は、偉大なるサラザール・スリザリンの足跡を辿り、『秘密の部屋』を利用し今度こそ『穢れた血』に惨烈な粛清を与える為である。
分霊箱に心を開き、執着心を抱くようになった愚かな生贄を傀儡とすれば、校内の人間を欺いて行動するのは容易い筈だ。その為の機能と力は既に搭載させている。
必要なのは来たるその時、生贄となるべき人材だ。勿論、貴重な純血はなるべく避けたい。例え純血を利用しなくてはならない状況になったとしても、精々『反純血主義』か『血を裏切る者』でなければ。
そして、生贄に『秘密の部屋』を開かせ、役目を終えた哀れな命を搾り取ったその時。
「君は、完全なる受肉を遂げられる」
さらりと青年の前髪を掻き分け、隠れていた表情に視線を注ぐ。沈黙を貫き通し虚脱感さえ感じさせる無垢な寝顔を眺めていると、どうしてか口角が上がっていくのを止められない。
今はまだ
『秘密の部屋』の怪物を解き放つだけならば、肉体など不要だ。しかし、これには生贄を捧げてでも受肉してもらわねばならない事情がある。
分霊箱とは。作り出し、隠す事で本来の用途を十分に活用出来る代物である。
解り易く言い換えるならば、本体の魂をこの世に繋ぎ留める不死の碇。
しかし、それは
秘匿されし不死の碇は、他の分霊箱がその役目を担うのだ。
「ああ…………その日が待ち遠しい。だが、ヴォルデモート卿はこの僕一人だけだ」
ヒタリ。冷たい頬に冷たい手の平を触れ合わせる。体温の無い存在に触れ続けた時間が長かったせいか、己の手もすっかり熱を失ってしまったようだ。
作り物めいた美しく白い肌は、引き裂かれた魂の欠片とは思えないぐらい人間に酷似していて。目の前で昏々と熟眠を貪り続ける男が、本当に己の双子か何かなのではないかと疑ってしまう程だった。
「君は、僕が切り取った『過去の記憶』。……トム・マールヴォロ・リドル、それが君の真名……それこそが君の存在証明……」
己が捨てるべき名を、引き裂き分かたれた欠片に譲渡した。
儀式めいた形で命名されたというのに、肝心の欠片自身はそんなもの知りたくもない、とでも言うようにすやすやと眠りの世界を周遊していたが。
何故。特別だった母を捨てた父から取られた名を、忌々しい
何故。誰にも教えないし、知られたくもない唾棄すべき過去の象徴を、己の欠片に担わせたのか。
それは。
この世に生まれ落ちて、初めて授けられた
どんなに汚辱に満ちた
ただ、ここで第三者がどんなに考えられる可能性を列挙したとて、本当の理由は本人しか与り知らぬところである。
「そして僕は、ヴォルデモート卿だ」
改めて、己の新しき名を創造した。
いつか必ず、魔法界の全てが口にする事を恐れる名前。
その日が来る事を、僕は知っている。
―――その時。
ピクピクッ……と、一瞬。ほんの一瞬だけ、分霊たる青年の両の指先が震えた。連動して未だ開く事のない瞼も痙攣し始めたが、
覚醒の為のささやかな抵抗すら許されずねじ伏せられた一連の光景を、名付けと名乗りに夢中だった己は最後まで気付く事は出来なかった。
「……そうだ。やるべき事は山積みなんだった」
そういえば、じきにこの学校は夏休みとなる。実に、それはもう実に忌々しい時期である。一年の内で最も己が嫌悪する期間。
あの灰色の檻に、本意ではないのに放り込まれてしまう日々が迫る事を意味していた。
だが、強制的に学校と引き離されるこの休暇を利用して、やるべき事がある。
「マールヴォロ・ゴーント……。僕にスリザリンの血を齎した祖父……」
学生生活を送る過程で収集した様々な情報を基に導き出された一つの事実。親無しの孤児であるが故に判然としなかった己の家系、ルーツ。ようやく辿り着いた彼らの元に、休暇の間こちらから直接出向くのだ。
己のミドルネームである「マールヴォロ」は、母方の祖父から取ったものであると昔に聞かされた。そして、スリザリンの子孫であるとされているゴーント家には、確かにマールヴォロという男が名を連ねていたのだ。この事実を知った時、初めて母の方が魔法使いであると正されてしまった。それまでは、己を産んですぐ天に召された母などただのマグルだと思い込んでいた。
だって―――魔法が使えたら、死ななかった筈だ。
「何故、誇り高きスリザリンの血統がマグルなんかと……!……いや、訪ねれば自ずと判る事か……」
創設者の子孫である魔女がどういう理由でマグルの男と交わる羽目になってしまったのか。ここ最近は、自力では到底解決出来ない疑問に考えを巡らせては怒りの蜷局が心中で巻かれるばかりである。
マールヴォロが、彼女にとっては父であるマールヴォロがそんな惨憺たる結末を許す筈が無い。なのに、どうして母はマグルと。
しかも、母はスリザリンの血を引く特別な我が子を身篭った果てに、マグルの巣窟たる非魔法界の孤児院に産み落とした。何かやむを得ない事情があったにせよ、スリザリンの魔女がよりにもよってマグルの孤児院を頼るとは、全く理解出来ない。
これらの謎に対する解答を、マールヴォロ・ゴーントが寄越してくれれば良いのだが……。
「ゴーント家の所在地はリトル・ハングルトン。……そこでの『記憶』も、ちゃんと君に
最後に青年の頬をひと撫でしてから、ベッドへゆっくりと元通りに寝かせてやった。
生ける屍の水薬を飲んでしまったかの様に眠り続ける彼は、とても静かだ。寝息も寝言も発生しない。もしかしたら、とっくに絶命しているんじゃないかと心配になる程である。
「……………、……………。いや、やっぱり……」
しばらく観察の意味も含めて青年から目を離さなかったが、ある事を考えついた頭が一つの案を導き出した。
肉体を得られるだけでなく、これにもう少し細工を施さなければ。
己が待ち望む未来へ繋がる軌条、それをより確実な物とする為に。
何をせずとも分霊箱に最初から備わっている性質の一部を、
分霊箱が本来有していない性質の一つを、
「―――君は、僕の……過去であり、現在であり、未来」
一度たりとも生みの親を目に焼き付ける事のない魂の欠片を、穴があくほど見つめた。
どんなに注意深く観察を続けても、結局一ミリもその固い瞼に隙間が生まれる事は無くて。
「ああ、そうさ。僕らはとうに死を越えた。間違いに犯されたこの世界を―――魔法界を
青年の額に手の平を強く押し当て、細工を施す為の魔力を注ぎ込む。数秒も経てば触れ合った箇所から可視化された己の魔力が―――淡い光が滲み出した。
瞬間、ビクンと青年の全身が大きく痙攣の反応を示した。しかし、つい先程命じられた内容に従わせられているのか、あの時のように呻き声を上げはしなかった。
それでも細工を施されるというのは決して心地の良いものではないのだろう。表情はたちまち顰められ、その不快感を紛らわす為かぎりぎりと彼の指がシーツに深く食い込む。小刻みに震える両腕は、額にぴったりと宛てがわれた生みの親の手を叩き落としたがるかのように、今にも暴れ出しそうな気配を感じさせる。だが、やはり―――自分の意思とは無関係の『何か』に、透明で見えない『何か』に、無理やり両腕を押さえ付けられているようだった。
「何も心配する事はない……。違和感を感じるのはほんの数十秒。すぐ楽になる」
癇癪を起こした子供をあやす様に優しく語り掛ける。彼の表情が安らぐ事は無かったが、死ぬ訳ではないので取り敢えず放置するしかない。
やがて、言葉通りに一分が過ぎるか過ぎないかのところで目的とする細工は終わった。柔らかく迸っていた光は弱々しく収束し、青年の額に吸い込まれていく。
最後に光のひと束が入り込むと、青年は苦しそうにカクリと大きく首を仰け反らせてそれきり動かなくなった。その瞬間を皮切りに、彼の全身の輪郭がぼんやりと薄れ始める。―――実体化出来る時間の限界が来たのだ。
「……結局、目は覚めなかったな」
別に、だからといって今すぐ困るという訳でもないのだが。
直接的な会話が出来ずとも、日記帳の分霊である以上、筆談でも意思の疎通は図れる。
まあ、今し方行った細工により少なからず負荷を掛けてしまったから、しばらくは覚醒しそうもないだろう。今回のところはこれで切り上げだ。
「君には期待しているよ。もしも使命を果たせたなら―――いや、そうでなくても―――。肉体を得られたなら―――必ず迎えに行く」
開いたまま傍らに放置していた日記帳を拾い上げ、ぱたんと閉じた。
他人がこれを目にしても、どこからどう見たってただの平凡な日記帳にしか見えまい。誰も彼も、其処に邪悪な魂が棲んでいる事に気付けまい。
「だから、それまでは―――おやすみ……」
そうして、満足げに微笑んで手元の日記帳へ視線を落としていた己もまた、
『―――――――――…………』
淡い光の粒子と化し、完全に現実から消え去る直前。
魂の欠片たる青年が、ただの一度も瞼を開放する事の無かった青年が。
注視の対象から外れた瞬間、それまでの様子が嘘であるかの様に上体を起こして、開眼を果たし。
魂の中枢まで氷結しきった、冷たくて鋭い非情の瞳を覗かせていた。
―――厭忌と敵愾心で漲った真っ赤な双眸が、無防備なもう一人の自分の背を、唯々じっと眺めている。
この世に存在するありとあらゆる負を詰め込んだ様なその視線は、実体が解けると同時に消えて無くなった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
【―――やはり
とある日の、深夜。
グリフィンドールの寮内、寝室の中。
己の支配下に屈する筈であった少年が、どういう訳か自我を保ったまま覚醒し、不愉快にも懐抱を味わわせてきた瞬間。
肉体の存在せぬ今の己に焼け付く様な痛みが走り、咄嗟に"彼"との
少年に抱き竦められ困惑している"彼"は己と対照的に、まるで平気そうだった。訳が解らずに少年の手を
……やはり、忌まわしい『あの護り』が働く対象は―――
【……
運命で定められた己の敵は、才能の欠片も感じられない間抜けな
母親譲りのその緑色は眼鏡のレンズを通し、一瞬だけでも確かに刮目出来ただろう。
禍々しく燃え上がり蜷局を巻く黒い大蛇と、それに絡み付かれても尚
【誰も気付けはしないさ。―――最後に勝つのは『
12/29追記
更新止まってんのマジですみません。
年内の更新が余裕で間に合わないので2023年は頑張ります。
ファンタビシリーズの4作目が制作決定したら毎秒投稿します。