―――"弱者には本当に虫唾が走る。
己がいかに弱いかを正しく理解しようとせず、己の無力さを棚に上げ、『持てる者』を妬み恨み攻撃する。
自身が『持たざる者』であると勝手に諦め失望し、怠慢を続ける愚者に、果たして『持てる者』をどうこうする権利などあるだろうか。
そんな奴らと進んで関わろうという物好きは、そうそういるまい。僕もそうだ。
取り巻きはたくさんいるけど、それは処世術として仕方なく善人を演じて手に入れただけの仮の関係だ。
誰かがいつもどこかで言う。友人は大切だとか、愛を知るべきだとか。
友情?愛情?そんな面倒な物、『持たざる者』と付き合わなければ手に入らないというのなら。
僕は一生、『知らぬ者』のままだって構わない。"
―――あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~。
ひ―――ま―――だ―――。
某RPGよろしく大層な決意を抱いたは良いものの、残念ながらこの体は誰かに文字を書き込んでもらわないと話にならないのよね。
ヴォルデモートは一体何をやってんだかね。せっかく新品同様の名前入り日記帳があるんだから、そろそろ本来の使い方をしてもいいと思うんだ、うん。
…暇すぎる。正直ラスボスでもいいから何か書き込んでくんないかな。ちょっとこいつは辛いぞ。いくらぼっち耐性があるとは言え、この暗闇の中で長期間過ごせというのか、不自由の身で?
まあこの際ぼっちは良いんだよ。前世でも同じようなもんだったし。あ、勘違いされると困るから言っておくけど、望んでなったからね!
他人と関わるのが億劫になって、自ら引き籠ったのだ!決して同情される覚えはないからね!
小さい頃色々やっちゃって……。いや、悪事って訳じゃないんだけどさ、大抵の人間はされたら嫌がるであろう事をちょっと、やっちゃってね……。
まだ子供で、何をされたら相手が嫌がるか分別もついてなくて。あれはマジでミスったなぁ~…。勿論、嫌われたしドン引かれたよ。ついでに親にも。あれは幼心に響いたわ。
人間ってさー、どうしても『自分と違う異物』を排斥したがる生き物だからさ。本能的にしょうがないとは思うんだ。
分別が身についた頃は、何とか関係を修繕出来ると思って色々やった…。昔やらかした事が嘘のように優等生っぽく振舞って、着かず離れずの距離を保って周りの人間と付き合ってた。あんま関わり過ぎるとボロ出しちゃうから、ほんと微妙な距離感が大切だった。
でも、着かず離れずだと思ってたのは僕だけだったんだなぁ~~~。
美醜感覚には疎かったから気付けなかったんだけど、どうも僕は外見だけは良かったみたいでね…。中身がこんな底辺でも、僕が保つ距離を踏み越えてホイホイ近づいてきたよ、色んな人間が。
気付いた時にはもう手遅れよ…。ホントにたくさんの『仮の友人』が出来ちゃってたぜ。テヘペロ!
いくら取り繕っていても、所詮は底辺のぼっち気質だった僕は大勢の友人と付き合い続けるのが苦痛だった。いよいよ限界が来た時に、細かいこと考えるのはやめてヒッキーになったんだよ。
全員と縁を切って引き籠りになるのはほんとに苦労したなあ。その頃から一人で居続けるのが、自分の『幸福を感じる』最低条件になった。
ぼっちを続けることが幸せだなんて、ほんとにどうしようもない人間だよなぁ、僕。引き籠りを選んだのも、間違いじゃなかったかも。こんな奴と『友人』になってしまった彼らの名誉が傷付けられていないことを祈る、ナンマイダブ。
無理して付き合ってた人達だったから、結局友情・努力・勝利ってやつは良く分からず仕舞いだぜ。ハリポタワールドで分かるといいね。まあ、分霊箱と友人になってくれる物好きがいればいいけどな!
……ん?なんか…これ…。こんな感じの似た話、どこかで聞いたことあるような……。
まあいいや。そんなことよりおうどんたべたい!
分霊箱の体というのはやっぱり生者と感覚が全然違う。食欲も睡眠欲も無い。お腹は一向に減らないし、ここに来てから一睡もしていない。暑さも寒さも感じず、呼吸の必要も無いので実に快適ではあるんだけど…。
あ~~~カップ麺食いてぇ~~~。どっかその辺落ちてない?いくら食欲が無いっていったってね、食を味わう事の歓びを忘れた訳じゃないんだよ。何か食べたい…。
あとお風呂入りたい…。汚れる事もまず無いし、排泄も勿論しないから不快感もクソも無い身なんだけども、シャワー浴びたい。さっぱりしたい…。
生身の体で生きるって、とっても大切なことなんだなぁ。み〇を。
もしも元の世界に戻るなんて奇跡が起きたら、もっと自分の体を労わる事にしよう。毎食カップ麺はやめる。外に出て運動も…いや、それはやだ。オソトコワイ。ニンゲンコワイ。むり。
僕の友達は電子機器だけだ。あぁ、愛しのマイフレンド達は無事であろうか。電源つけっぱで死んでしまったのならば電力の浪費で寿命がががが。
……ちょっち待てよ。
え、僕今ハリーと一緒にヴォルデモートぶちのめすって意気込んでるけどさ。よくよく考えたらハリーってまだ生まれてなくない?
ここは原作の50年前だぜ?
『秘密の部屋』の時代に辿り着くには、あと50年こうやって閉じ込められてなきゃいかんのだぜ?
その間に第三者が日記帳に書き込みをするなんて映画では語られていなかったぜ?
つまり外部と接触するなんてルシウスに渡されるまで夢のまた夢だぜ?
そのルシウスもまだヴォルデモートの手下じゃないやで???
そこのお前!今「だぜ」で統一すると思ったろ!そんな思い通りにならんもんね!
ええぇぇ~~~……待って、いったん落ち着こう。
ルシウスは生まれて…はいるのか?映画勢だから原作キャラ全部の生年月日なんて分からん…!確か親世代だから、ヴォルデモートが卒業した後に入学する筈…だ。えー…日記帳はいつ渡すかも知らんが。これ小説だと分かるやつ?
ちょっと、ちょっとちょっと。仮にルシウスと接触を取るにしても、後数年は待たなきゃならんねん。その間、この何も無い空間で一人過ごせと、おっしゃいますか。
年単位の時間を?
引き籠っていろと?
ヘァッ!??????????????????????????????
あ、頭おかしなるううううううううううううううう!!!!!!!!!
引き籠りぼっちがどうして正気を保っていられるか教えてやろうか……それは『娯楽』が存在するからだ!!!
だがどうだ、ここは!インターネッツもテレビもコミックも無いぜ!ゴミ空間だぜ!宇宙の 法則が 乱れる!!!
外の様子が分からない、何も無い場所に一人で過ごしていると精神が壊れるってどっかの国の実験であった!人間の構造的に耐えられないらしい!
もちろん前世は人間ですから!例に漏れず僕も同じ末路を辿るわな!
はぁ~~~……気付かないようにしてたけど、無理だった……。
原作に辿り着くまでに精神的に死んでるわ……。
皆も目先の目標に囚われて、罠を見落とさないようにな!
もうダメだぁ…おしまいだぁ…。
僕は疲れたよ……ペトラッシュ……。
あんな両親でも同情はしてくれるかな……あぁ、多分無いわー……。
【―――退屈そうだね?】
ホワ――――――イ!!?
ワイジャパニーズピーポー!!?
【今の君は『言葉』も『思念』も『文字』も、扱う言語全てこの国のものに変換されるから、わざわざ英語を使う必要は無いよ】
ホワッツ!マジか!どうりでヴォルデモートとかダンブルドアの言葉が理解出来ると思ってたわ。
英語に自動変換か…いやー助かる。そんな機能無かったら詰んでたよ、色々マジで。言葉が伝わらなかったらこの生存戦略は水の泡じゃったよ。今更気付いたわ。
……。
―――このタイミングで来るか、ファミチキ野郎ッ!!
【……その呼び方は甚だ不本意だけれど、名乗る事は出来ないから仕方なく甘んじよう】
てか、何故にこのタイミング?全部教えられるようになるまで、てっきり引っ込んでんのかと…。
【まあ、そうしても良かったんだけどね。君があまりにも退屈そうだからさ。話し相手になってあげようかと】
話し相手ぇ?
怪しいぞ、そんな事を言う奴は裏で何か打算があると相場が決まっているのだ。
僕を放置することも出来るくせに、わざわざこんな底辺と無駄な時間を過ごしたいと?そんな変人は怪しいのう、怪しいのう。え?お兄さん怒らないから正直に言ってみ。
【…君は自分の事を低く見過ぎているようだね?少し様子を見ていたけれど、君は自分が思っているほど弱者ではないよ】
はあ?何を言っているのやら。
強者だったら、引き籠りなんかなっとらんわ!
こちとら生粋のヒッキー、生まれた時からぼっちを宿命づけられた哀れな男(笑)さ。差し詰めぼっち卿か。アイアムロードボッチモート。オーマイガー。
【なら言わせてもらうけど、もしもこの場に居るのが『頭の弱い臆病者』ならば、君みたいな『計画』を閃いて実行しようとは思わない】
…あぁ、あの計画のことか。
自分でもすっげー良いこと思い付いたなぁとは考えてたけど。
生き残る為に必死でやってるだけで、別に褒められるような事じゃないと思うけどなぁ。事実悪者とはいえヴォルデモート牢屋にぶち込む気でいるし。自分が助かる為に。卑怯な『計画』だよ。
【いや、君はそれで良いんだよ。そもそもこちらが生き残れと言ったようなものだし】
それなんだけどさ、何であんな事言ったの?何が目的なんや?あと、遠回しな言い方も引っかかるぞ。
【君の頭の回転力を見極める為さ。本物の馬鹿だったら僕の言わんとしてる事に気付かない。目的は……もちろん、君が生き残るように導いてるのさ】
導く、だって?
そんな事して、そっちに何のメリットがある?ますます怪しいなぁ。
【やれやれ、良い事をしてるように見える筈なんだけどねぇ。こればっかりは本音だよ。『ファミチキ野郎』は君の味方さ】
味方……ねぇ。
それ、僕が信じると思って言ってる?
【君がどんな人生を歩んできたのかは、全てではないけどおおよそは理解しているよ。そう簡単に得体のしれない相手を信用しない君の性格を、承知の上で言ってる】
何だと!どんな手段を使ったか知らんが、人のプライベートを犯しやがったのか!マジかよファミチキ野郎最低だな。コミュ抜けるわ。
【頭に語り掛けてる時点で、予想は出来るだろ?少しだけど君の考えていることは視えるよ。君は無意識に心を閉ざしているから全部を閲覧するのは大変そうだ】
そりゃー天然ぼっちだから、心も常時閉ざしておりますとも、ええ。いつだって本心を他人に明かしたことはありません。心のATフィールド展開はぼっちのパッシブスキルやぞ。
……どこまで視た?まさか過去まで視たんか、こいつ!僕の黒歴史を!変態魔人め!
【だからそれを聞こうと。許可を得ずに心を覗き見るのも如何なものかと思ってね。こうして直接話さないかい?君の事を、君の言葉で教えてくれたまえよ】
えー、やだ。怪しい人と話しちゃいけませんて教わったもので。
大体自分の事も明かさないくせに、教えてもらえると思ってるのか。それは少し思い上がりが過ぎるぞ、ファミチキ野郎。等価交換というものを勉強してから出直してきたまえよ。
【うーん、君の人生には共感出来るから、詳しい事を聞きたいんだけどな。君が自分から言いたくないのなら、こちらから質問しようか。それなら話してくれる?】
質問にもよる。
【じゃあ、遠慮なく。―――君は、『周り』を憎んでいないの?】
………………………………………………。
は?
【君が幼少の頃にした事は、犯罪でも何でも無かったんだろう。それなのに、周りの人間は君を嫌悪し傷付けたんだろ?】
……まぁ、そうっすね。
でもしょうがないことだろ。
僕だってそう思うよ。『アレ』をされたら皆から嫌われるのは当然だろ。
【でも君に悪気は無かった。むしろ、『こういう事』が出来ると認めてもらいたかったんじゃないの?君のやった事は悪事でもなんでもない。なのに愚か者共は君の本質に気付く事なく排除しようとした。憎くはないの?】
そう……言われても。
ま、確かに最初は認めてもらいたいって気持ちでやってたかもしれんが。
でも、そういう事をいちいち気にしてたらハゲるぞ?
大体人間って色んな悪意に囲まれて生きてるもんだし。嫌われたり虐められたりなんて、他の大勢の人間達も一度は経験するものでしょ。
「嫌われた、クソがー、野郎オブクラッシャー!」なんて毎日やってたら、頭おかしくなっちゃうわ。気にしないようにするのが、世渡りの心得よ。
【ふむ、それも一つの選択肢か。けれど、口で言う程簡単な事じゃないだろう?我慢出来ない事もあった筈。―――仕返しをしようとは?】
仕返しなー。
やったことはある。
【どんな気分だった?】
うーん、すっきりはしたかな。でも、一回やればもう十分だったわ。あれは自分でも陰湿だったと今は反省している。
【……へぇ、やっと視せてくれたね、心の一部。こんな事をしていたのか。そちらの世界の文化は知らないが―――成程、これは、その世界では少々えげつないな】
ちっ、少しATフィールドが乱れたか。まあそれに関しては別に視られても気にするまい。もう過ぎた事だし。
別にそこまで酷くないじゃん?暴力振るったとか某ガキ大将みたいな事してないんだし。
争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない!!仕返ししたところで、自分が同じレベルに堕ちるだけと自覚してからやめたんだよ。
【なんだい、これは?どうしてカンガルー同士が殴り合っているのかな】
……それは僕にも分からない。そういう元ネタだから。
【ふむ……同じレベル、ね。君には君なりの観念がある訳か。だから、仕返しをする『能力』があっても他者を害する事は止めたんだね?】
…まるでさっきから『自分はやった』とでも言いたげですな?
【おや、やっぱり君は見込み通りの人間だったみたいだ。とても聡明で助かったよ】
話を逸らすなバーロー。アンタ、元々は『生きた人間』だったんだな?それもこの世界の。そうだろ?
【そこまで解っているのなら、どうして『答え合わせ』をしないんだい?こちらは逃げも隠れもしないよ。君は答えを、知っている筈だ】
………アンタは、アンタの名前は………
【ほらほら、もう少しだよ】
……
…………
……………………
いや、やめておこう。
【えぇ?】
おっ、今のはまじでびっくりした感情の言葉だったな?めちゃくちゃ伝わってきた。
【……誰だってびっくりするよ。どうして、】
言わないのかって?そらあれよ、これ以上『心配事』を増やしたくないからよ。
余計な悩みをこれから先抱えたままだったら、それこそこの壮大な生存ミッションを遂行出来そうにないからな!
だから、
だから、今はまだ"知らないまま"でいてやるよ。『ファミチキ野郎』。
【………………………………………あぁ、本当に君は"ソレ"が得意だね…。……まぁ、嫌いじゃないよ、そういうとこ】
嫌いになってくれてもええんやで。
【嫌いだったら君に助言なんか与えていない】
やけに思わせぶりな事を言ってくるじゃないか。やっぱり何か企んでるんだろ?
【君の味方であるのは偽りじゃない】
"それ以外"は、果たしてどうだろうな。
【君が答えを言わないのだから、こちらもそれ以上は言わないよ?】
解ってるさ、『君』"も"素直じゃないってね。ま、少し退屈も紛れたよ、どうもお疲れさん。
【あれ、もういいのかい?】
―――やらなきゃいけない事がある。
【君は本当に賢いよ。こちらが再来しても、情報を求めてがっつきはしないんだから…】
どうせ制限とかなんやかんやで、正体とかその他諸々話せないんでしょ?
【それもあるけれど。見込み通りで良かったよ】
ぼっちにお世辞は通用しないという事を学んで帰りなさい。
【本心だったんだけどな。あと、帰るもクソも無いんだよね。なんせ君の"同居人"なもんで】
………え?
ちょっと待てそれは聞いてn
返事を最後まで紡ぐ前に。
再びあの感触が―――
日記帳が開かれ、意識に文字を刻まれる感覚が僕を襲ったのだった。