伯爵令嬢は、契約結婚した俺にいつ恋をする?   作:カタイチ

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秘書の縁談 中編・1

 正直に言おう。

 

 バルバラは、もっと違う意味で、()()()()が出てくることを期待していた。

 

 あのオーリーンの婚約者だ。それも、親同士が決めたまだ見ぬ相手だというのに、挙式をせっついていたと聞いたのだ。順当なのは、(とう)の立った出戻りか、家柄はよくても不美人辺り。

 

 けれど、馬車から降り立った少女は、とても愛らしく、美しかった。

 

 誰もがこの国で一番と認めるあるじの美しさとは違う。淡く、わずかに赤みを帯びた金色の髪が、さらさらと風に流れる。対照的にあざやかな瑠璃色の瞳が、出迎えの一同を見回した。皆の視線に、彼女はうつむきがちになり、おずおずと己れの名前を口にする。

 

「ロゼッタ=アルディーニと、申します」

 

 髪のあいだからのぞく小さな耳たぶも、雪のように白い頬から首筋までも、すっかり赤に染まっている。

 

「ようこそいらっしゃいました、ロゼッタ嬢」

 

 少年が進み出た。当家の主人、『エレメントルート伯爵』だ。

 

「はじめまして。僕はカイルといいます。こちらは妻のエディット」

 

 あるじもにこりと笑みを見せた。

 

「よろしく、ロゼッタ嬢」

 

 気取りのない若夫婦の笑顔に、緊張でこわばっていた令嬢の横顔が、少しゆるんだ。二人と順に握手を交わす。そしてゆっくりと、斜め後ろに控える青年に瞳を向けた。

 

「……オーリーン=ショウです」

 

 やくざの親分と渡り合うときのほうが、もう少しは楽しげだろう。冷淡な声音と、ぎらりと光る銀縁眼鏡ににらまれて、さて、ロゼッタ嬢の反応は──

 

「は、はい……!」

 

 叫ぶなり、ぴょこんと()()()()をした。まるで教師に名を呼ばれた生徒のようにだ。ますます頬を染めて、(べに)をつけずとも赤い唇を開き、見たこともない飛びかたをする小鳥でも見つけたみたいに、瞳をまん丸く見開いて。

 

 そんな己れの婚約者を、オーリーンはいとわしげに一瞥(いちべつ)した。

 

「ここをわが家とお思いになって、どうぞお心のままにおくつろぎを」

 

 このお屋敷は、あんたの家じゃなかろう──バルバラが内心のつっこみを口にしたとしても、秘書の耳まで届いたかどうか、あやしいものだ。それほど彼はそっけなく、すばやく、無駄のない身のこなしで、回れ右をした。

 

「私は執務がございますので。失礼」

 

 カラン。

 

 速い。ベルが鳴り大扉は開き、彼を邸内に吸いこんだ。カラン、バタン、くらいの()で、再び閉じる。まさしく電光石火。秘書の姿はもうどこにもない。

 

「………………」

 

 ロゼッタ嬢の可愛らしい唇は呆然と半開きのまま、大きな瞳が、ぱちりと瞬いた。

 

(逃げたよ……)

 

 ()()()などは皆無だ。二度と開こうとしない大扉に刻まれた(ひいらぎ)の紋章を見つめ、バルバラはこっそり首を振る。

 

「運んじまってようございますかあ!」

 

 二の句の継げない一同を、御者の老人の大声が救ってくれた。馬車の荷台から、よたよたと衣装箱や鞄を下ろそうとしている。下男のマイルズが駆け寄った。「へい! お手伝いいたしやす!」

 

「やれやれ、ロゼッタ嬢さま、たいそうくたびれましたわねえ」

 

 丸顔をにこにこさせた老婆に声をかけられて、ロゼッタは飛び上がらんばかりに振り向いた。「い、いいえ、わたくしは、ちっとも」

 

「お部屋にご案内します」

 

 われに返った少年が言う。皆はようやく屋敷の中へ入った。二人の従者が馬車の荷下ろしに加わったから、玄関先はドタバタとごった返し、やっといくらか打ち解けた雰囲気が漂う。──バルバラは、あるじが廊下の向こう、秘書の執務室のほうへ目を向けたのに気がついた。あきれたように美しい顔をしかめ、ため息をこぼしている。

 

 日ごろは締め切りの客間のうち、一番豪華な部屋が客人たちにあてがわれた。お付きの二人もともに休めるよう、ふた間続きの大きな部屋だ。

 

「ロゼッタ嬢、のちほどごいっしょに、お茶でも」

「はい、エディットさま。ありがとうございます」

 

 あるじの誘いに、ロゼッタはこっくりうなずいた。夫妻が立ち去っても彼女の様子がどこかうわの空に見えて、バルバラは同情する。──はるばる王都までやってきて、あんな態度をとられるとは、思ってもみなかったんだろう。

 

 彼女の故郷、ノルデンのお城がどれほど素晴らしかろうと、エレメントルート伯爵家本邸の客間にはかなわないはずだ。だが、王女が使うような豪華な調度品を目にしても、ロゼッタの表情は晴れない。次の間には、男たちがにぎやかに荷を運び込んでいる。

 

「さあさ、お召しかえをなさいませ」

 

 いそいそと()()()の世話を焼こうとした老婆は、老爺の大声で「ハンナ! ハンナ!」と呼ばれると、「はいはい」と返事をして出ていった。確かに女ものの衣類やなんかのあつかいには、彼女の采配が必要だ。──こんなときのために、バルバラが控えている。

 

「ロゼッタさま」

 

 バルバラはできるだけ優しく声をかけた。「外套(マント)をお預かりいたしますね」

 

「はい……」

 

 明らかな生返事だ。ロゼッタはのろのろと襟元に手をかける。──と、突然、立ちくらみでも起こしたように、体がふらりとかたむいた。

 

「ロゼッタさま?!」

 

 危うく床に崩れ落ちるまぎわ、バルバラは少女の腰に、()()()と腕を回した。バルバラはただの侍女ではない。あるじに近しく(はべ)る護衛であり、間者の役目もになう女闘士だ。小柄であっても腕力には自信がある。自分よりずっとか細い少女を支えるなど、造作もない。

 

「ご、ごめんなさい。わたくし、とても驚いてしまって……」

 

 ロゼッタの呼吸は、熱があるかと思うほど荒い。バルバラは彼女を大きな背もたれのついた椅子へかけさせた。

 

「あのかたが、覚えていたより、ずっとすてきなかただったので、どうしたらいいかわからなくて」

 

(あのかた?)

 

 水差しを取り、グラスへ水をそそいで手渡すと、ロゼッタはひと口飲んだ。白い喉が上下する。うるんだ瞳がバルバラを見上げるが、顔のほてりはどうにか落ちついたようだ。

 

「ありがとうございます。あなたは……?」

「バルバラと申します、ロゼッタさま。当家の侍女を務めております」

 

 メイド服のスカートをつまんでお辞儀をすると、ロゼッタは安心したように息を吐いた。

 

「バルバラさんは、以前からこちらのお屋敷にお勤めでいらっしゃるの?」

「はい、さようでございますが──」

「では、あのかたのことも、よくご存じなのでしょう?」

「……え?」

「どうしましょう」

 

 と、ロゼッタは両手を頬にあてる。「まるで月の光のもとにたたずむ騎士さまのようなかたね。わたくし、あんな、夜の闇より深いまなざしを見てしまったから、ちゃんとご挨拶もできなくて……」

 

 いったい、誰の話だ?

 

「ね、バルバラさん」

 

 ロゼッタは瑠璃色の瞳を輝かせた。

 

「あのかたは、なにがお好きなのかしら?」

「ロゼッタさま、あ、あのかたとおっしゃるのは」

「それはもちろん」

 

 ここで少女は声を落とした。ずっとずっと胸にしまい込んでいた秘密の言葉を、今初めて口に出すというように。たおやかな手指を組み合わせ、うっとりとつぶやく。「……オーリーンさま」

 

「…………」

「わたくし、あのかたのことをなにも知らないの。バルバラさん、教えていただいてもよろしくて? お願いよ」

 

 誰かがなにか面白いことでも口にしたのか。次の間からは、男たちがどっと笑う声がする。バルバラには、こう答える以外に道はない。

 

「はい、喜んで……」

 

 しかしながら、

 

(オーリーンさまのことなんて、なんにも知らないけど)

 

 というのが本音である。あの男の好きなものってなんだ? 仕事か?

 

 ──長旅を終えたばかりの一行に、休息を取ってもらわなければならない。バルバラはロゼッタの着替えの介添えをすませ、廊下に出た。ふと思いつき、あるじ夫妻の部屋へ足を向ける。

 

(あれ?)

 

 ノックをしようとして、扉が少し開いているのに気がついた。

 

「オーリーン! さっきのロゼッタ嬢への態度はなんだ!」

 

 おや珍しい。いつもとは立場が逆転だ。叱りつけている声は、あるじである。扉のすきまへ目をあててみると──長椅子の手前には、立ちんぼうの秘書の後ろ姿が。

 

「ロゼッタ嬢は、オーリーンのために、わざわざ王都までおいでになったんだぞ!」

 

 秘書がぼそぼそとなにかを答える。はっきりとは聞き取れないが、おおかた、「私が頼んだわけではございません」とかなんとか、へらず口だろう。

 

 一方、日ごろぼんやりしているわりに、伯爵閣下はなかなか賢くふるまっている。長椅子の上で立てた両膝に本を載せ、非常に熱心に読書中だ。

 

「──バルバラ、なにをしてるんです?」

 

 後ろから声をかけられ、危うく心臓が止まるところだった。グレイのあんぽんたんだ。バルバラはあわてて振り返り、唇の前に人差し指を立ててみせる。

 

 こんなときのグレイは察しがいい。足音を忍ばせてそばまでくると、小声で(うた)いながら、ひょいと左手を上げた。扉へ向かい、大きく幾重にも円を描く。長い指が、空中にちょちょいと文字を(つづ)って結界を張った。空気の流れに細工をし、こちらの物音をあちらへ聞こえないようにする術だ。

 

「……なにごとですか?」

 

 聞こえなくなったとわかっているはずなのに、グレイは声をひそめる。人間の心理として当然なのかもしれないが、己れの魔法の効果に自信がないのか、この魔法士は。

 

「オーリーンさまが、エディットさまに怒られてるの」

「へえー、それはそれは」

 

 グレイもかなりの野次馬である。にやにやとバルバラの上から首を伸ばし、扉のすきまをのぞき込む。うんと南にある国には、こんなふうに丈が高くて、ひょろ長い生きものが棲まうと耳にしたことがある。

 

(すてきなかた、ねえ)

 

 バルバラには、()()()のほうがずっとすてきだ。

 

「オーリーン、これは命令だ。今度ロゼッタ嬢にあんな態度をとったら、わたしが許さないからな」

「どんな態度も、とりようがございませんな」

 

 秘書の声が、開き直ったように高くなった。右肘が上がる。後ろ姿でもわかる。指先で眼鏡を押し上げたのだ。

 

「私は忙しいのです。物見遊山においでになった少女の相手をしている暇などございません」

「会う気がないなら、どうして婚約した!」

「理由をお知りになりたければ、国許の父にお問い合わせを」

「一生誰とも結婚しないつもりか?!」

「それも悪くはございませんが」

 

 秘書の声音に苦笑が混じる。「いずれそのうち、適当にすませようかと」

 

 はあーっ、と、あるじの大きなため息。

 

「……いいか、オーリーン」

「なんでございましょう」

「思ったよりも、いいものだ」

「なにがでしょうか?」

 

 あるじは、胸を張って秘書を見上げた。「()()だ」

 

 少年の顔が、読みふけっていた分厚い本の陰に引っこんだ。あれは照れたのか、それとも笑いをこらえているのか。

 

「お幸せなご様子で、まことに結構」

 

 オーリーンは()()ともせずに返した。

 

「では、私は外出いたしますので、これで」

「どこへ行く。まだ話はすんでいないぞ」

「本日はゾンターク公爵閣下より、お招きを受けております」

 

 さすがは切れもの。権力行使には、より強い権力を持ち出した。あるじの柳眉がぎりぎりとつり上がるが、こればっかりはどうしようもない。

 

 夕食までには帰ってこい! と、まるでわんぱくに逃げられた母親みたいな台詞は聞き流し、秘書がきびすを返す。バルバラとグレイは大急ぎでその場を離れた。二人して駆け込んだのは、元は少年の部屋だった空き部屋だ。扉を閉めた瞬間、あるじの部屋の扉が開いて、オーリーンのせかせかした靴音が通り過ぎてゆく。

 

「……よく似た主従よね」

 

 扉を背にしたバルバラの感想は、さして不遜でもあるまい。あるじが自らの夫を選んだ理由は、()()なのだ。

 

「まったくですね」

 

 グレイも、ふう、と息を吐く。

 

 バルバラは、あるじに尋ねたいことがあったのだが、今のひと幕でどうでもよくなってしまった。──それは、本当にロゼッタがオーリーンと初対面なのか、という点である。

 

『覚えていたより、ずっとすてきなかただったので……』

 

 先ほど彼女はそう言った。つまりロゼッタは、最低一度はオーリーンと会ったことがある。

 

 秘書を欠いたお茶の席で、あるじはしきりとロゼッタに詫びた。少女はけなげに首を振る。どこの(くに)でも家令は大変忙しい。父も多忙で、いつもどこかしらへ飛び回っております、と、愛らしい声でおっしゃる。ただし、あのオーリーンは、まだキトリーの家令ではない。出かけた先も、仲良しの公爵さまのお屋敷だ。

 

 夕食だって、当然のようにすっぽかされた。あるじはますます怒り心頭である。おのれ銀縁眼鏡、明日は絶対に目にもの見せてくれる──ロゼッタの前で口に出すわけではないが、相当腹を立てている。

 

 怒ったってしょうがないのに、と、バルバラは思わないでもない。

 

 ロゼッタのお付きの老爺と老婆は、夫婦ものであるらしい。少女のおもりをしながらの旅に、くたびれたのだろう。使用人たちといっしょに夕食をすませたあとは、部屋に戻って高いびきだ。バルバラは、料理長のネロがとっておきの香料を入れて焼いたクッキーとお茶をたずさえ、客間を訪ねていった。

 

「──どうぞ」

 

 ノックをすると、落ちついた声音でいらえがある。十四、五歳にしか見えないが、しっかりしている──そんなふうにバルバラは思う。

 

「バルバラさん」

 

 ロゼッタは、侍女の(おとな)いを喜んでくれた。あるじ夫妻も年は近いが身分が上で、簡単に心安くはしづらいようだ。初めてのことばかりで目が冴えたのか、眠れないのだと言う。

 

 カップにそそいだお茶へミルクもたっぷりと入れ、バルバラは思いきって尋ねてみた。

 

「ロゼッタさまは、オーリーンさまと、ご婚約前にお会いになっていらっしゃるのですか?」

「わたくし、そんなことまで口に出してしまったのね」

 

 と、ロゼッタは頬を染める。「ええ、一度だけ」

 

 もう七年以上も前の話ですけれど、と、ロゼッタは前置きをした。──ロゼッタは八歳だったそうだ。両親に連れられて、どこか近所の領で誰かの結婚式かなにか、祝いごとの席へ出向いたときだ。夏の始め、日差しの強い午後だった。

 

 庭の大きなお屋敷だった。出席者の多くが幼い子息令嬢をともなっており、ロゼッタもみんなといっしょに庭園を駆けまわった。帽子もかぶらずかくれんぼをしていたロゼッタは、突然気分が悪くなり、隠れた場所から一歩も動けなくなった。

 

 立ち上がろうとしても、体がいうことをきかない。助けを呼びたくても、声も出ない。暑くて、苦しい。意識が遠のいてしまいそうになったとき──背の高い人影が、彼女の目の前に現れた。

 

『こんなところで、なにをしているのです』

 

 冷静で硬質な声音が、ロゼッタに問うた。もちろん彼女はひと言も答えられなかった。大きな両手が彼女を抱き上げ、木陰まで運んでくれた。彼は真っ白なシャツを身につけていた。知的な眼鏡の奥には、細く涼しげな瞳。後ろへなでつけた黒髪。美しい象牙色の肌。整って大人びた横顔を、今でも忘れない。

 

「あのかたは……オーリーンさまは、わたくしのために、水を汲んできてくださったわ」

 

 ドレスの襟をくつろげ、固くしぼった布で首筋を冷やしてくれた。たくさん水を飲んだおかげで、気分はよくなった。

 

 あなたはどなた? と、尋ねてみた。

 

『オーリーン=ショウ。キトリーの家令、マーレーン=ショウの息子です』

 

 彼のいらえは端的で、少しもよどみなく、堂々としていた。当時の彼は十八歳前後か。なんて頼もしいんだろう、と、彼女は思った。

 

 広間に戻らないロゼッタを母親が心配し、ちょっとした騒ぎになったころ、オーリーンは姿を消していた。

 

 夢のようなできごとだと思った。けれど、夢ではありえなかった。ロゼッタは翌朝自分のベッドで目覚めたときにも、すべてを鮮明に覚えていたから。次の次の朝も、そのまた次の朝も、彼の記憶は、彼女とともにあった。──七年間、片時も忘れたことはなかった。どうしても忘れられなかった。

 

 だから、十五歳(成人)を迎えた日の朝、父に頼んだ。

 

『心に決めたかたがいます』

 

 当たり前だが父親は猛反対だ。ロゼッタは、四人姉妹の末っ子なのだそうだ。いとしいいとしい末娘を、成人早々嫁にやりたい父親がどこにいる。だが、家格も同等だし悪い話ではない。最初に味方をしてくれたのはロゼッタの母親だ。()()()となったのは、里帰りしてきた姉の一人の言葉である。ロゼッタのすぐ上の、一番仲のよい姉が父親に意見してくれた。

 

『お父さま、好きな男のかたに嫁ぐのが、ロゼッタにとって一番の幸せなのよ』

 

 女連中にこぞって敵に回られては、お父さまも()()と言わざるを得ない。結局はショウ家に縁談を申し込むことになった。──ロゼッタの口ぶりが楽しそうなので、なんとかアルディーニさんも大変だこと、と、バルバラもいっしょになって笑いながら思う。

 

「わたくしね、わがままかもしれないけれど、どうしても、あのかたにもう一度お会いしたかったの。……オーリーンさまに」

 

 はにかんだ笑みを浮かべて、ロゼッタは手にしたティーカップへ目を落とした。──ああ、彼女はこんなふうに、恋する男の思い出を、誰かに話したかったんだ。彼女はまだ、()の名前を口に(のぼ)せることに慣れていない。

 

「お礼を申し上げたかったの。あのとき助けてくださって、ありがとうございました、って。オーリーンさまは、覚えていらっしゃるかしら?」

 

 となると、彼女はいまだ十六になるならず。ほんの少しの(かげ)りもない、瑠璃(ラピスラズリ)の色を映した純真そのものの瞳が、バルバラへ向けられた。

 

(うーん……)

 

 彼女の王都訪問を耳にしてから、幾度目だろう。バルバラはじっと瞑目──は、ロゼッタと面と向かっている以上できないので、心の中で目を閉じる。

 

 ……賭けてもいい。あの男は、覚えていない。

 

 

 

 


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