今日が作戦の実行日となった。資源や艦娘の体調を確認し、作戦を再度説明する。だが、細かな作戦内容は説明しても意味がない、戦場では作戦が作戦通りにいかないほうが多いと霞から聞いたからである。だったら大まかなルートや作戦をここで説明して、細かな作戦は無線で俺が指示をする方が現実的だからだ。とは言っても俺は作戦のド素人にすぎない、そのせいか俺の作戦には艦娘からの不満が出る時もある。その場合「じゃあお前はどうするべきだったか分かるか?」というと帰ってくる答えは目の前の戦果ばかり。もう少し考えて行動するということはできないのだろうか…もしそれ以外の答えだったら手を貸してもらおうと思ったのだがそれが出来なくて残念に思える。
話がそれてしまった。とりあえず彼女らには西方海域のリランカ島に向かい攻撃を行うように命令し。俺は執務室で
地図のコピーを広げる。戦果的に相手の取り締まる艦隊を全滅させるにはこちらの被害は多くて大破3中破2位だろうか…これだけ事前に準備したとしてもこれくらいの被害は出てもおかしくはない…なんだったら、道中に大破が出れば即撤退させなければこちらが全滅になる可能性だってある。でもなんで俺はサーモン海域を制圧したいのにこっち側をやらされるのだろうか…もしかして俺を使い潰す気なのだろうか?だったらいっその事逃げたほうがいいのではないのかと少し頭に出てきてしまう。けど逃げたところですぐ見つかるだろうからその考えを捨てることにする。
『作戦海域に入った、これよりC地点に向かう』
無線からなる勇ましい声。今回の旗艦は長門である。あいつはまだ作戦を素直に聞いてくれるので旗艦にしやすい。旗艦に絶対やっちゃいけないのは感情的になりやすい奴だ。理由は言わなくても分かるだろうが、早く深海棲艦を倒したいという気持ちを優先させてしまう恐れが出るからだ。だからそういうやつには旗艦はやらせない。だがまぁ今回の作戦に出ている艦娘は比較的冷静な奴が多いので問題が起こるのは考えにくいからそこの点は安心して作戦の指示を出せる。
「了解、偵察機を忘れずに飛ばせ。いたら旗艦の判断で戦闘を行え」
『了解』
指揮官であるが長門のほうが状況判断が優れているため戦闘の開始はあいつに任せることにする。
『電探に感あり…同時に索敵機が敵を発見した。両方とも4キロ圏内らしい。これより接近し戦闘態勢に入る』
「許可する、駆逐艦は潜水艦を潰して戦艦と空母の護衛、重巡は大型を狙え」
『元よりそのつもりだ。駆逐艦が潜水艦を撃破次第に空母の護衛についてもらう』
「なるべく戦況を報告するように」
『わかった』
戦艦の艦砲射撃の音が通信機越しに聞こえる。それに続いて重巡が攻撃を始める音がする。戦闘の合図だろう。艦載機のプロペラ音とともに聞こえる銃声…というべきなのかわからないが、静かな海が騒々しい音、立ち上がる水しぶきの音で荒々しいものだと想像できる。
「始まったのね」
「あぁ、この音を聞くと海は怖いなって実感できるな」
「これから海は平和になっていくから安心しなさい」
「だといいんだが…」
「それが私たちの使命だもの」
…艦娘は何でこうも輝いているように見えるのだろうか?そして同時に醜く見える。今窓の外に見えるのは楽しそうに話す軽巡や重巡の艦娘たち。そうやって楽しそうに話してはいるが、前まで蹴落とそうとしていた相手同士だ。結局は艦娘も人間も同じで上辺だけの存在だということにすぎない。今は俺という共通の敵で団結しているだけ。俺がやっていることは問題の解決ではない…問題の先延ばしと言ってもいいだろう。醜くしているのは俺なんだろうな。最低なやり方で俺の事情を何も言わず利用しているだけなのだから。本物の意味と全く逆のことをしているようなものだ。そりゃ不快に思えるのも仕方がない。だがそれは艦娘に向けてではない。俺自身の愚行ともとれる行動が醜く感じるのだ。雪ノ下や由比ヶ浜に対して裏切ったといってもいい程の行動をした。俺はあの頃から変わっていなかった。出来ることならなかったことにしたい…そんな気持ちがこみあげてくる。だがもう遅い、今度こそ俺は彼女たちに知られれば拒絶されてしまう可能性だってある。もし拒絶されたのなら、俺にはできることは無い。その時は本物は存在しなかったということで諦めて振り出しに戻るだけだ。
『完全勝利だ、こちらに被害は無い。進軍の許可を』
「あぁ、次の目標はFだ、HかK地点のどちらかを選んでN地点へ攻撃を仕掛けてくれ。K地点は敵はいないが波が荒い、よく考えて進め。この調子なら大丈夫そうだから、中破以上か緊急事態の時だけ報告してくれても構わない」
『K地点からNへと向かう。通信の件は了解した』
「いいの?」
「俺より長門のほうが経験的に上だ、だったら俺はそこにどうこう言うのは愚策だ。流石に瑞鶴だとか天龍相手だったら俺が指揮を執るが?」
「なるほどね、だからと言ってまかせっきりはだめよ」
「分かってる。だがそれが一番効率がいい。何かあれば俺の責任問題で首がはねられてバラ色の高校生活に戻れるしな」
俺がお前らよりも優秀ではないのはお前も分かってるはずだ。なんて言おうとしたら彼女がキッと睨んでいる。どうやら意思は通じたようだ。まぁそう睨むなって。事実だろ?
『N地点前にて、空母による先制攻撃を開始し、三式弾で港湾棲姫を叩く』
「武運を祈る」
通信機にそれだけを言い終え、机に置く。どうやら前の戦闘も異常なく快進撃と言える働きをしたのだろう。だが問題はここからだ。もしここで大破を出せば撤退…もしくは夜戦をして継続かという選択に迫られる。もしここで大破状態で夜戦に突入したとして、轟沈などさせたらただでさえ艦娘から嫌われているというに下手したら反乱を起こされる可能性だってある。その場合もちろん俺の命の保証はない。だからしっかり戦況を聞いてから判断しなければ…
「アンタが思ってるほど艦娘は軟じゃないわ。私たちを信用しろとは言わない。だけど私たちの力は信用してもらっても構わないわ」
そのセリフが少し複雑な心境を和らげてくれた。もしだ、俺が高校生…いや中学生で彼女が艦娘ではなかった惚れていたかもしれない。まぁラブコメの神様は許してはくれないから振られるのは火を見るよりも明らかだがな。そんなどうでもいいことを考えているうちに日が暮れていく。
『大破なし中破2小破1。夜戦に突入しても問題ないか?』
「相手は?」
『虫の息さ。敵艦隊の雑魚は轟沈4大破1。港湾棲姫は中破と言ったところだ』
「作戦続行だな」
『いうと思った。では夜戦に突入する』
「でしょ?」
「さぁな。俺がもたもたして、怒られるまで情報収集していたおかげかもしれないぜ?」
「それもアンタだけの力じゃないでしょ?」
「いやな女だな」
「事実でしょ?」
「戦果の独り占めさせてくれよ」
「クズね…でも私たちの功績にすればすぐ辞められると思うけど?」
「じゃあそうする」
「アンタ辞めることだけしか頭にないのね…」
その言葉を肯定だけして、窓を見る。日が暮れて、月が見え始めたころ再び無線から連絡が来る。
『港湾棲姫をやった後は雑魚一匹で終わる』
完全勝利と言ってもいい戦いなのだろう。流石は一人の提督のために命令無視してまで突っ込んだ命知らずの艦隊だ。もし最初から俺が運営したのなら不可能だった。前の提督が艦娘を暴走させていたから出来たことという皮肉にもこの事態が役立った事例だろう…。
「よし、残党狩りの艦隊に出撃命令を出せ」
「分かったわ」
見事こちら側に大破を出さず勝利をした。そして残党も掃討し見事制圧達成。そしてしばらくしていると艦隊が戻ってきた。俺からは特に何かを言う気はないのだが、並んでいる艦娘たちは青ざめた顔をして並んでいる。これから説教が来ると思っているのだろうか?それで褒めたら少し好感を持たれてしまう恐れがあるため褒めないことにする。
「お疲れ様。報告書を2日以内に俺にくれ。あとは入渠なり食事なり自由にしろ。解散」
と言うと青ざめた表情から一転し安心したような顔をして部屋から出ていく。まぁもし自信満々に登場してたら文句の一つは二つくらい言っていただろうがな。
報告書を上に提出し、命令が来るまで近海の警備に努めていると執務室に大淀が入ってくる。どうやら上から手紙が届いたので俺に渡しに来たようだ。その手紙を貰い、大淀は部屋から出ていく。この部屋には今は俺一人で霞にはしばらく自由にさせている。今は仕事に追われることもないので心置きなく一人を堪能できる数少ない日なのだ。っと話がそれてしまった。手紙を開けて文字を読むことにする。思わず笑みがこぼれる。そこには俺が南方海域の攻略を担当することとなったのだ。そこには俺の目標であるサーモン海域がある。その前には三つの海域があるが、南方海域前面が攻略済みなので、残りは珊瑚諸島沖海域、サブ島沖海域で実質残り二つの海域で目標の海域に行ける。これほど胸が躍る手紙は初めてかもしれない。いや…間違われて入れられたラブレター位心が躍ったな、開いて名前見たときは絶望したが…。そうと決まれば珊瑚礁沖海域の攻略に取り掛かろう。地図を取り出し、偵察部隊をどう出すかをその日は考えることでいっぱいだった。
明日が久々に奉仕部の面子と会えるバレンタインの日だというのに一人の男は食事もとらず地図と睨めっこをしていたのだった。
次回はシリアスかギャグか…あっ、アンチは無いので大丈夫です。時々アンチを煽るような文章があったとしても意図的ではないので安心してください。