大本営から贈り物が来た。細長くてその周りを布で覆っている。長さ的には人の足の長さくらいだろうか。そんなものが上から届いたのだ。持ってみると思っていたよりも重量を感じる。重さ的に銃器という事を否定できる軽さに、掛け軸なんかよりももっと重い何かがある事が重さで判断できる。だが、この中身が何だろうと考えていても答えは出てこない。だからとりあえず開封することに決めた。
最初は布を取り外す。すると木箱が姿を現した。その木箱の蓋を外し、中身の全体を見て見ると言葉を失ったのだ。
「刀…軍刀…」
そう、軍刀だったのだ。その軍刀を手にとってみるとまた違った重さを感じる。それが俺の精神的な気持ちなのか、刀という人を傷つける道具に対する重みなのかは分からない。だけども箱の中にあった時よりもずっと重く感じた。
ふと、軍刀があった箱の中に目をやると一枚の封筒が入っていた。そこには俺宛の手紙だとある事が分かるように「比企谷八幡特別少佐」と書かれていた。今初めて知ったのだが俺は一応だが少佐という階級らしい、結構偉いね。
軍刀を取り合えず箱に包まれていた布の上に置き、手紙を手に取りそれを開く。中身をざっと要約すると、「貴方の素晴らしい功績を称えます。そしてそのお祝いの品として儀礼刀を贈呈します。もちろんその刀は殺傷性がないので安心してください。これからのご活躍を期待しております。」といった感じだ。軍刀じゃなかったのね。
これ材木座に渡したら喜ぶんだろうなと思いながら、俺も少し腰に携えたいという衝動から腰に儀礼刀を装備する。鏡で自分の姿をみたらイケメンに…いや、刀一つでイケメンに成れるはずがねぇだろ馬鹿か…。現実はそう甘くはなく、軍人にしては筋肉がない目の腐った少年が映っていた。弱そう…いや、弱いけども…。
「ちょうどいい、ロシア知識を教えてやる。提督…武器をプレゼントするというのはマナー違反なんだ」
後ろから馬鹿にしたかのような口調で俺にロシア知識を披露してくる。これ武器じゃなくて儀礼刀らしいですよ。と心の中で反論することにした。別に揚げ足を取って面倒な事が起きる事よりも、へーそうなんだー程度に聞き流した方が問題が起きない。多分。きっと。そうであってくれ。
儀礼刀という刀のレプリカだとしても重い物は重いのだ。こいつを腰にずっと携えたとしても俺の腰が悪くなるのは容易に想像できる。取り合えずだ、見栄えもいいものなのでインテリアには丁度いいだろう。なのでさっきの馬鹿にした口調で言われて少し恨みを持っているわけではないが、ガングートに儀礼刀を渡し、見栄えが良くなるように飾ってもらうことにする。すると彼女は「刀にしては軽い」と言い出す。これでも軽い方なのか…と新しい発見が出来た。
「日本刀は武士の魂だと聞いたことがある。魂と言えば大和魂というものがあるらしいな。何とも最後の一兵まで戦い抜く勇敢な魂だと聞いたが、実際どうなんだ?」
そんなの知るか、俺は正式な軍人でもなければ大和魂の「や」の字も無いような人間だぞ。そもそも最後の一兵になる以前に戦闘が始まる前に逃げる自信まである。だがそれを口にしない。口にするほどの知識は俺にはないからだ。
「しらん、他の艦娘に聞いてくれ」
「ところで、刀を置く台らしいものは…と、木箱の中にあったから何でもない」
と言いながら、刀を飾る場所が決定させた。もし提督を辞めたら材木座に自慢をしてやろうかな…そもそもそれまで中二病やっているのか謎だが…もし中二病が治っていたらそれはそれであいつにとって中二病だった時期は黒歴史になるわけだ、いじればいい話だ。うん、解決した。
「司令官、偵察隊が返ってきたわ」
霞が発言した後、6隻?6人?6体?艦娘の数え方って何だろうね…と話が逸れてしまったが、取り合えず偵察隊が入ってくる。
「どうだった?」
俺のセリフを聞いて、旗艦の艦娘が口を開く、口を開いた内容は海の波の高さ、地形、周辺の深海棲艦とどんな行動をしていたか等を口頭で聞いてメモを取る。後は報告書を期限を決めて提出させるようにして解散。
「最近アンタの意見に逆らわなくなったわね、みんな」
「あれだけ言われればそりゃそうなるだろ」
「なんだ?何かあったのか?」
「色々な」
「…色々か」
彼女は少し苦笑いをしながら、窓の外に移る海を眺める。その海は冬の季節でありながら…いいや冬だから美しいのかもしれない。空気が澄んでいることにより、光を良く通して海がその光を反射させている。冬に海を見る機会があまりないのだが、これはこれで味があると思える。
「聞かないのか?」
「聞いたところで答えないだろう?私にだって言いたくない事の1つや2つあるからな」
「そうだな。俺だって言いたくないことが1つや100あるからな」
「多いな。逆に一つくらい聞きたくなるものだ」
と彼女がそう言った後、仕事を再開させる。霞は何も言わなくとも仕事を見つけるという優秀な社畜的才能があるので、棚にある資料の整理をしている。
「この資料を資料室に入れるから鍵貸してくれない?」
彼女はそう言い棚に置いてあった資料を古い順番から一部を取り出し、俺の前にある机にドンと勢いよく置いてくる。別に資料をしまわれて困るものがないので机の引き出しから鍵を取りだし彼女に鍵を手渡すことにする。すると彼女は「ん」とだけ言って資料室に少し重そうな資料たちをしまいに行った。
それからは特に話もなく、時間が流れていく。仕事は話しながらやるものではない。黙々と目の前のやるべきことをやるものだと思う…というより俺は話しながら仕事が出来るほど器用ではないのだ。だから静かに仕事が出来た方が俺としては嬉しい。無言で一枚の書類を書き込み、終わったらまた一枚無言で書類に書き込む。その動作が何時間とも続く。ガングートに終わった書類を渡して彼女は書類を整理する。そこには会話など必要ない。会話そのものが不要なのだ。別に言葉を交わさなくとも心で何とかかんとか…だとかいう臭い理由ではない。この空間に言葉が入れば今あるリズムが壊れてしまうから不必要なのだ。俺がスムーズに書類を…彼女がスムーズに整理を…という環境の中で言葉が入れば間違えなくリズムが崩れてしまう。だから俺は喋らない。彼女はどう考えているのかは分からないが少なくとも俺はそういう理由で黙る。それは霞が戻ってきたとしても変わらない、彼女の仕事は自分でしっかり把握しているから、もしくは見つけられるから会話など無意味である。
それからしばらくが経った。朝潮が遠征から帰ってくるまでこの静寂が続いた。今日は遠征組が返ってきたら大体の仕事が終わるだろうと思ったのだが、少しばかり残っている。だが別に目の前に残った量は大勢でやるよりも一人でやった方が効率が良いものだったので、仕事は終わりだと伝えた後に最後の仕事に取り掛かる。
…やっと落ち着ける。一人という時間が今は個人的には一番の癒しの時間だ。多分…いや、絶対だが高校生活の時癒しの時間はなんだと聞かれたら「戸塚と小町といる時間」だと答えるだろう。でもよくよく考えてみると、少し人間不信気味な俺が他人といて落ち着けるか考えてみると絶対にない。言葉の裏を読んで、必死に相手の真意を探る。警戒してばかりで心休まるときなんてないだろう。艦娘と会話する時だってそうだ。相手の表情からそして視線から感情を読み取って考えていることを推測する。正直に言ってかなり精神面で疲弊している。それも小町や戸塚と会う気力がない程にだ…だから、一人の時間が俺にとって一番の癒しなのだろう。
窓から外を見る。そこには奇麗な星空と、雲が少しばかり月を隠していた。いつも見れるような光景。別にこれといった感想もない。もうこんな時間か…という時間の経過を感じただけだ。
ふぅ…と一息ついて一度伸びをする。気持ちの切り替えには丁度良く、すっきりとした気分になる。これで一日の仕事は終わりという仕事からの解放がとても心地が良い。少し遅めの晩御飯でもとるか…と思い執務室から出る。まだ消灯時間ではないのでもちろん艦娘達は居るのだが、結局は自分の部屋か入渠?風呂?にいるので艦娘が歩いている姿はほとんどない。
俺は食堂に行き、何事もなく飯を注文して、何事もなく食事を終えて食堂を後にする。何もない日常というのは素晴らしい。いや、俺が提督をしているのを日常にはしたくはないが…こんな日が続いてしまったら認めざるを得ないな。不本意だが…不本意だが。大事なことなので二度言った。
ここから眺める海は少しばかりにぎやかだと思える。上を見れば星の光、前を見ればビルや船の明かり、まぁそれも悪くはない。こんなにも色鮮やかで活気のある光景を見ていると海の底から現れる脅威から人々を守るのも悪くない、そう思えてくる。
「曙ちゃんどったの?」
いつもツインテールで制服姿の姉はもう寝る気だったようで、髪を下ろして寝間着姿で私に聞いてくる。
「理由はないわ。ただ外の景色を眺めてただけ」
「そうなの?」
そう、本当に眺めていただけ。そう言葉で言うのも悪くは無いが、ここは察してもらおう…そう思い外に視線を戻す。
「ぼのちゃん」
「ぼのちゃんゆーな」
「そう言えばご主人様が変わったらしいけど鎮守府の雰囲気最近どう?」
…そんなの何も変わっちゃいない。昔の提督が無自覚クソ提督だとしたら、今の提督はクソだと分かった上で行動している嫌な性格をしたクソ提督だ。嫌になる。今の鎮守府の雰囲気も昔の鎮守府の雰囲気もいたずらに時間が流れるだけ…そこに友情や仲間想いなんてありもしない。見せかけだけ、信用できる艦娘なんて姉妹程度…少し怪しいところもあるけれど。新しい提督が来たからもしかして何かが変わるかも…とほんの少しは期待していた。でも心のどこかで期待しただけ無駄だっていう事は分かっていた。あぁ、もしも異動できるというのならすぐにでもここを立ち去りたいくらい。
「気になるなら自分で確かめればいいじゃない」
「…ぼのぼのがそう言うならきっとマシになった…という事ですな!」
「ハァ…勝手にそう思えばいいじゃない…」
姉にそれを伝えて布団にもぐる。今日も今日とて最悪な一日でした…と心の中で感想を言いながら眠に着くことにした。
一人一人の人間性が上手く掛けるほどの文章力を身につけないともっと面白い作品になりませんよね。本読んで勉強してきます。