ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
評判が良ければ続けます。感想ください。
「もうひと声!」
アタシがお店に入ると、そんな声がした。
男の人の声だ。声だけなので顔とかは分からないけど、多分何か値切っているんだろう。今どきそんなことをする人がいるのか、とちょっとだけ感心してしまう。
「.....分かった、降参だ。こいつは半額にしてやる!」
「マジっすか!? よっしゃあ!! ありがとうございます!! じゃ、ちょっと金下ろしてきますねヤッフゥ!」
どうやら値切りは成功したらしい。
どんな人なんだろう。ふと興味が湧いたアタシは、足を声のする方へ向ける。けど、ちょっと遅かったみたい。宣言通りお金を下ろしに行ったみたいで、声の主の姿はどこにもなかった。ただ、店長さんが持っているアレを手に入れたのだろうことは分かる。
男の子のことは気になったけど、帰ってくるのを待つほどじゃない。このあと練習もあるし、早く目的のものを買って行こう。
───それが、アタシと彼の出会い。
出会いって言っちゃうと少し大袈裟すぎるけど、間違ってはないと思う。...いやでも、彼はこの時アタシのこと知らなかったし、アタシも彼の顔知らなかったからなぁ。やっぱり出会いってのは大袈裟すぎかも。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
音楽スタジオCiRCLE、ロビー。
「じゃーん! 買っちゃいましたー!」
テンション高めで、俺──
ブツ、とはギターのことだ。エドワーズのレスポールで、ボディは黒。ネックに近付くにつれて赤っぽくなっている。パーツは金。
そんな俺の子(ギター)を見せびらかしている相手は五人。小学校から中学校まで同じ学校に通い、家も割かし近い、プチ幼馴染みたいな相手だ。
「おぉ〜、かっこいいですな〜」
「うん、すごくいいと思う!」
そう言ってくれるのは、青葉モカと羽沢つぐみ。
二人に続き、宇田川巴と上原ひまりも「かっこいいな!」「良いね!」と言ってくれる。ふふん、ドヤ顔が止まらんぜ。
「キモっ」
「あ? おう蘭、俺の子を馬鹿にすったぁいい度胸してんな? 喧嘩売ってんのかテメェ」
「違う。アンタの顔。ギターはまぁ...悪くないと思う」
口癖でもある「悪くない」を口にしたのが、美竹蘭だ。
以上の五人が、俺の小学校からの友達である。この五人は“Afterglow”というバンドを組んでいる。そのバンド練が今日ここCiRCLEであるとつぐみから聞いていたので、ギターを買って家に帰る前に足を運んだのだ。
異性とつるむのを躊躇いがちになる中学時代でも彼女達とは普通に一緒にいたので、仲は良いと思う。...良いよね? 友達だと思ってんの俺だけじゃないよね?
「ふふん! そうだろ、悪くないだろ、むしろいいだろ! ...つーか顔の話は普通に悪口だよな? 俺、一応今の高校じゃ女子から『イケメンだね』って言われる関口さんだぞ?」
「まぁ、カイはそこそこ整った顔してるよね〜」
「そうだな。ブサイクではないな」
ふむ...。これはあまり周りの言葉を真に受けないほうが良さそうですね? 巴の言う通り、ブサイクではないって感じの評価ですね? クラスの女子どもめ、変に自信付けさせるようなこと言いやがって...調子乗るとこだったじゃねぇか!
まぁそれはいいとしてだ。
「エレキ買ったはいいけど、シールドとか買ってなくてさ。つーか今月はもう金無いから買えないんだわ。だから悪いんだけど、誰かシールド貸してくんね? あとできればモカと蘭にはエフェクターも触らせてもらえれたら嬉しいなって」
今日、俺はただギターを見せびらかしに来たわけではない。いやまぁそれが本命なんだけど。それとは別に、シールドとエフェクターを借りたいと思ったからわざわざCiRCLEまで足を運んだのだ。ついでにスタジオも借りることにした。エレキっていったらやっぱりアンプ通してなんぼだろ。
「シールドもエフェクターも、あたしが貸してしんぜよ〜。練習も終わったし、今日はもう使わないしね〜。なんなら使い方、教えてあげよっか〜?」
「おー! 助かるぜモカ、ありがとな! エフェクターのことは良く分かんねぇし、ご指導のほどよろしくお願いします」
「うんうん、くるしゅうないくるしゅうない」
俺が頭を下げると、モカが少しだけ胸を張った。
俺は別にギター初心者ってわけじゃない。なんなら、ギター自体はモカ達よりも早く始めている。確か小学三年の時だったかな。母さんと、あと姉ちゃんの影響でギターを始めた。
ではなぜ今更エフェクターの使い方などを聞くのかというと、俺が今までやってきたのがアコギだからだ。アコギはそれ単体で音を出すから、エフェクターは使わない。エレアコなんていうものもあるが、そっちは存在を知っているだけだ。
「いや〜、とうとう海もバンド始めるのか〜。今まではアコギで弾き語りしてばっかりだったのに、どういう風の吹き回しなんだ?」
「お前らがやってるの見てたら俺もやりたくなってさ。まぁ他のメンバーがいないから、バンド組むのはだいぶ先の話になるんだろうけどな」
「へぇ〜。あっ、じゃあ海! Afterglowに入ってみる気とかある? 海以外全員女の子! ハーレムの出来上がりだねっ!」
「馬鹿だ馬鹿だとは思っちゃいたが...ひまり、お前ちゃんと考えてからものを言えよ?」
「ひどい!?」
まぁひまりも本気で言ってるわけじゃないだろ。...ないよな?
Afterglowに入るってのは無しだ。嫌ってわけじゃないけど、Afterglowは五人でAfterglowだろ。
「バンドメンバーのあてはあるの? 最低でもベースとドラム。あと二人は必要だよね?」
蘭の拳に戦々恐々としていると、つぐみがそんなことを聞いてくる。
「それがどうにもな。うちのクラスにドラマーはいるんだけど、なんか訳ありらしくて最近はドラム叩いてないんだって」
「ふーん? まぁCiRCLEでもバンドメンバー募集とかのポスターとかよく見るし、気が向いたところに行くのもいいかもね」
「へぇ。そんなのあるんだ」
「あるよー。ほら、あそこの掲示板」
つぐみが指を差した方を見れば、確かにいくつかの紙が貼られた場所があった。CiRCLEは専らガールズバンドの使用場所となっているが、男のバンドも普通に使っている。そういうバンドが、不足分のメンバーを募集しているらしい。
...そういや、ガールズバンドは言うのにボーイズバンドっては言わないよな。なんだろ、歴史的なアレか?(テキトー)
まぁどうでもいっかと思い、俺はトテトテと掲示板に貼ってあるメンバー募集のポスターを見に行く。
さすがにこの場でどのバンドに入るか決める気は毛頭ないが、どんなバンドがあるかくらいは見ておきたい。ギター募集とかねぇかな。リードでもいいけど、俺が即戦力になるとしたらギタボか?
「きゃっ!」
「ぅおっ」
掲示板に辿り着く直前。曲がり角から飛び出てきた薄緑な何かとぶつかった俺は、少しよろける。
薄緑色の何か──ギターケースを背負った女子は、よろけるだけでは止まらなかったようで、後ろに転んでしまっていた。
「あー...すんません、大丈夫っすか?」
尻もちをついてしまった女子を心配し、俺は謝罪しながら彼女の様子を窺う。.....あれ、どっかで見たことあるような?
「いつつ.....あ、いえ。こちらこそすいま...あら、あなた関口くん?」
「? あっ、氷川さん?」
顔を上げた女の子の端整な顔は、いつも校門前で見るものだった。
氷川紗夜さん。俺の属する高校、花咲川学園二年の風紀委員。俺の一つ上の先輩だ。うちの学校は去年まで女子校だったため、先輩は全員女子。見目麗しいお姉様方が多い中であってなお一際美人だと一年男子一同が騒ぐのが氷川さんだ。だからよく覚えてる。確かに美人だし。あと校門前でよく話しかけられるし。
ちなみに花咲川学園一年生の男女比は六対四で、男の方が多い。今年から共学になったんだからきっと女の子でいっぱいなんだろうなデュへへへ...とか思ってたけど、蓋を開けてみれば全然そんなことはなかった。普通に共学だった。話によると受験者の男女比は八対二だったらしい。ったく、男共め。下心丸見えだっつーの(ブーメラン)
「すんません氷川さん。ケツ、大丈夫ですか?」
「ケっ!? も、もう少し言葉を選べないのですか!? 貴方はいつもいつも...」
そうやってぶつくさ小言を言ってくるあたり、やはり氷川さんだ。
私服を見たのが初めてってのもあるけど、ギターケース背負ってんのが普段の氷川さんからは想像できなくて最初はちょっとだけ人違いかと思った。あとなんかピアスとか付けてるし。風紀にうるさい人なのになぁ。まぁここ学校じゃないし、プライベートで何付けてようが関係ないんだけど。
「紗夜ー? 大丈夫ー? なんかおっきい音したけど」
氷川さんの小言を右から左に流していた俺の耳に、そんな声が届いた。
声のした方を見れば、氷川さんの後ろから心配そうに近付いてくる影が一つ。
「今井さん...ええ、大丈夫です。少し転んでしまっただけで、怪我もありませんでしたし」
「そっかー。なら良かった☆」
今井さん、と呼ばれた人は、氷川さんに負けず劣らずの美人さんだった。少しウェーブのかかった長く茶色い髪は後ろで軽く纏められ、顔には薄い化粧が施されている。肩出しのニットワンピース? っていうんだっけ。そんな露出度高めの服は、なんだか年上のお姉さんって感じがする(小並感)
にしても、語尾に☆とか付けてそうな喋り方といい、派手な容姿といい、いかにもギャルですって感じの人だな。なんか氷川さんと相性悪そう。風紀委員的なアレで。いやでも今普通に話してたし、そうでもないのか?
「あと紗夜。そのピアス気に入ってるとこ悪いんだけど、燐子が衣装にもう少し手を加えたいから回収してもいいかって言ってるよー?」
「ピアス? ...っ! せっ、関口くん! これは違いますからね!?」
「は? え、何が?」
なぜか顔を真っ赤にして駆けていく氷川さんの背中を見て、俺は首を傾げる。一体何が違うんだろうか? ピアスのチョイス? 別に似合ってると思ったけどなぁ。
「あはは〜! 紗夜ったら照れちゃって〜! あっ、もしかしてキミ、紗夜の彼氏とか?」
「なんでそうなるんですか」
氷川さんみたいな美人が彼女だったらそりゃ嬉しいかもしれないけど。...いや待って、もしそうなったら毎日怒られそうだからちょっと考えるな...。
まあそんなifの話はどうでもいい。どうせ実現なんかするわけないんだし、妄想しても虚しいだけだ。悲しい。
「海〜、大丈夫〜? なにかあったの?」
ちょうど角で死角になっているのか、さっきぶつかった氷川さんや俺の目の前にいる今井さんってギャルの姿が見えていなかったのだろう。何が起こっているのか気になったらしいAfterglowの面々が、ひまりを先頭にぞろぞろとこちらに歩いてきていた。あ、俺のギター、ちゃんとケースに入れて蘭が持っててくれてる。
「あれ? アフグロじゃーん。やっほー☆ 今日そっちも練習だったんだ?」
「あ、リサさん! はいっ、もう練習は終わりましたけど...Roseliaもですか?」
どうやら知り合いだったらしいひまり達に会話を任せ、それはそっとギャルから離れる。いやだってほら、ギャルって怖いじゃん? しかもバンギャとかなおさら(小心)
え? Afterglowもバンギャ? こいつらとはバンド組む前から友達だから。
話を弾ませるひまりとギャルに背を向け、俺は蘭に一言お礼を言ってからギターを受け取る。アコギよりも重いそれを背負い、次はモカに声をかけようとする。そろそろスタジオが使える時間だからな。モカにシールドと、あとエフェクターについてのご教授を受けないと。
「それで、海...そこの男の子が、さっき買ったばっかりのギターを見せびらかしてたんですよー」
ふと聞こえたひまりとギャルの会話に、俺の名前が出る。
いや見せびらかしに来たのは本当だけど、他にも色々言い方とかあるだろ? ...悪かったな、ギター買ってテンション爆上がりしてて。
「さっき? ...ふーん?」
...? なんだ、ギャルの様子がおかしい。別にギターを買うくらいおかしな事じゃないのに、何をそんなに考え込むことがあるんだ? 分からん。
「海くんだっけ? はじめましてっ。私、Roseliaってバンドでベースやってる、今井リサでーっす! リサって呼んでくれると嬉しいな☆」
「え、あっ、どもっす。えっと...関口です」
「アンタ何
「おい蘭、そのキモいは普通に傷付くからやめろ」
「あははっ、海くんは面白い子だね〜」
何やら今井さんに気を使われたらしい。じゃないと、今のを見て「面白い」って感想は絶対出てこないだろ...。
はぁ、やっぱキモいよなぁ。ちゃんとAfterglow以外の女の子耐性付けなきゃ。彼女欲しい。
「リサ。通路の真ん中で一体何をしているの? 人の邪魔になるわ」
また奥のスタジオから、またまた美少女が出てくる。次は銀髪美少女だ。察するに彼女もRoseliaとかいうバンドのメンバーなんだろう。氷川さんも出てきた。
さらにその奥から二人、これまた美少女が出てくる。てか一人は見たことあるな。
「んー? あっ、お姉ちゃんだー!!」
「おー! あこ、ちゃんと練習頑張ったか?」
「うん!」
この元気いっぱい活発娘は何度か見たことがある。巴の妹、宇田川あこだ。ちゃんと話したことはないけどな。巴と遊ぶ時はだいたい外だし、たまに家に行った時にお互いちょっとお辞儀し合うくらいの仲だ。
もう一人は、あことは打って変わって大人しそうな人だ。そして美少女。圧倒的美少女。黒髪ロング清楚系。なんだ、男のロマンの塊か? 加えてひまり並かそれ以上の立派なモノを...
「フンッ!」
「アガッ!? お、おい蘭! いきなり人の脇腹殴んな!!」
「変態」
なんだろう、俺の考えてることを見抜けるんだろうか? いやでも万乳引力は男なら誰しも逆らうことが出来ない法則だから仕方なくない?
それにしても、美少女ばっかだなぁ、ここ。花咲川に入る前にこういうシチュを妄想しなかったことはないけど、いざ
「関口さーん。部屋の準備出来たので、もう入っちゃっていいですよー」
「あ、はーい」
美少女だらけの中の居心地が意外と悪かったり、蘭からの視線が厳しかったりしたので、ここで離脱する理由が出来たのは嬉しい。
俺はさっさと輪を抜け、受付の人に案内されて先程までRoseliaが練習していた部屋に入った。
あっ、同じ部屋なのね。ちょっといい匂いす...おっと寒気が。さては蘭の殺気だな? ...え、普通に怖っ。
この後、モカに色々教えてもらってめちゃめちゃエレキギターを堪能した。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「ねぇひまり。海くんが買ったギターってさ、色が赤黒だったりする? ペグとかブリッジとか、パーツは金の」
彼、海くんが今まで私達使っていたスタジオに入り、モカがそれに続いた後、アタシはひまりにそう聞いた。
「え? はい、そうですよー。よく分かりましたね?」
「ん。まぁ、ね」
やっぱり。
今どきギターを買う高校生なんて珍しくはないけど、さっき買ったっていう人はそう多くはないと思う。多分、海くんが値引きの彼だ。聞けば、彼はアフグロのみんなと昔からの友達だという。あこも知ってたみたい。いやー、世間って案外狭いね☆
「海、ギターすっごく上手いんですよ! 蘭やモカがギター始めたのも、海の影響が大きかったんだと思います。ね、蘭!」
「.....まぁ、あいつがギター上手いのは認めるけど」
へぇ。蘭が褒めるってことは、本当に上手いんだろうな〜。
ひまりの話じゃ、海くんは今までアコギばっかりやってきてたらしい。弾き語りがめっちゃ上手いってひまりが言ってたし、それには巴やつぐ、あと蘭も頷いている。
それを聞いた友希那と紗夜がちょっと反応してた。弾き語りってことは、歌も演奏も上手いってことなんだと思う。アフグロは演奏のレベルが高いし、蘭の歌も良い。そんな彼女たちが褒めるんだから、二人が反応しちゃうのも、まぁ妥当といえば妥当なのかな。アタシも気になるし。
いつか海くんの弾き語り、聴いてみたいな〜。
ラブコメって難しいですよね。
専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。
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伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
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好きにやってええんやで(菩薩)
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全然分かるけど辞めな
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分かるからそのまま続けて、どうぞ。