ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
ようやくレポートから解放されました。
これからは前のペースに戻していきたいと思います。
七月頭。
まだ梅雨は明けていないと今朝のニュースでは言っていたが、昨日も今日も至って快晴。蝉の声が聞こえてくるほどだ。暑い。アイス食べたい。
高校生活二度目の定期テストを乗り越えた私は、少し軽やかな気持ちで廊下を歩いていた。
先週から始まっていた文化祭の準備も、テストが終わったことでどんどん本格化していく。A組の文化祭実行副委員になったことだし、張り切っていかなくちゃ。
中学までもこの学校で文化祭をしてたけど、高校生になって初めての文化祭はやっぱり思い入れが違う。
ちなみに文化祭実行委員長は香澄、私と同じ副委員には関口くんもいる。香澄は高校編入組だし、関口くんは花咲川初の男子生徒の一人だ。二人とも分からないところがあるだろうし、そこは私がしっかりフォローして.....
「関口くんっ! あのっ...!」
と、不意に近くの教室からそんな声が聞こえてきた。
この声は...多分、B組の子のはず。中等部の時に一回同じクラスになった子。
その子の声が聞こえてきた教室は、普段使っていない多目的教室。いわゆる空き教室だ。
授業以外での使用は禁止されているその教室で一体何をしているんだろう。そう訝しむ私の耳に、その答えはすぐ届く。
「好きですっ! 付き合ってください!!」
ぴょえっ!? これはもしかして...告白、というやつでは...? は、初めて生の告白聞いちゃった!?
で、でもそうだよね...共学になったんだし、そういうこともあるよね、うん。
あっ、でもこのままじゃ盗み聞きしてるみたいだし、早くここから離れて.....
「あー...っと...。ありがとう。でもごめん、俺好きな人いるから」
ほっ、ほっほぉう.....!?(興奮)
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「そんでこの日は朝から
「へっ? あっ、う、うん! 聞いてるよ! お昼から五十嵐くんにシフト入ってもらうんだよね!」
「鬼畜か?」
文化祭まで残り一週間となった。
高校生になって初の文化祭ということで、俺はそれなりに楽しみにしている。
A組の出し物は喫茶店。俺はその実行委員側に回ってしまったので、こうして同じ実行委員である山吹さんと一緒に当日のシフトを組んでいたわけだが...。どうにも山吹さんが上の空なんだよな。
まぁ、何が気になっているのかはだいたい想像がつく。
香澄達のことだろう。あいつら、文化祭でライブするって息巻いて山吹さんのことも強引に誘ってたからな。
山吹さんは昔ドラムやってたらしいが、今は何か理由があって辞めてしまったらしい。俺も先々月にドラムに誘ってフラれたんだよな。
「...山吹さん。残り俺やっとくから、香澄達呼んできてくんね? 体育館にいると思うから」
「え? それは悪いよ。私も委員なんだし、仕事くらいちゃんと...」
「仕事ほっぽり出してステージの下見に行った実行委員長を呼んできてほしいんだよね。あいつのシフト希望表、見た? ライブの時以外全部出るってよ。さすがにそれはできないから、あいつ呼んできて決めさせたいんだよ。だから頼むわ」
「そ、そういうことなら...」
申し訳なさそうな顔をしながらも席を立った山吹さんの背中が見えなくなってから、俺は一つ息を吐く。
「あ゛ー.....疲れた」
首を軽く回すと、コキコキと小気味の良い音が聞こえてくる。
ここ最近、Afterglowの件だったりテストだったり文化祭の準備だったりバイトだったりバンド活動だったりと、やけにオーバーワークすぎた。香澄のやつに推薦されなければ、文化祭の実行委員なんてやらなくて済んだのになぁ...。
ま、楽しんでるのも事実なんだが。
「おー、お疲れだな関口」
「んあ...? 須田か。ちょうどいいや、購買でコーヒー牛乳買ってきてくんね?」
「そういうと思って買ってきたぞ、雪〇コーヒー牛乳」
「天才かよ」
須田に小銭を渡し、〇印のコーヒー牛乳を受け取る。
あー、冷たい。きもちー...。
「それシフト表か? みていい?」
「ん」
受け取ったコーヒー牛乳を額に当てたあと、ぬるくなる前に飲もうとストローを挿す。あまうまー。
「須田...須田...お、あった。朝からかー。ちょっとめんど.....おお!! 牛込さんも同じシフトじゃん!!」
「ふっ、職権はこう使うんだよ」
「ひゅー!! 関口、ひゅー!!」
まぁ希望シフトがだいたい被ってたし、俺も山吹さんも須田の気持ちは知ってるし、なるべくしてなったシフトだよな。
その後もワーワーと騒ぐ須田にドヤ顔を決めていると、須田がふと我に返った。
「そういや、俺たちの出番っていつ頃なんだ?」
「んー? っと...一日目、午後の四番目。香澄達の次っぽい」
「なるー」
須田が気にした「俺たちの出番」とは、何を隠そう俺らのライブである。そう、ライブである!!(大事なことなので)
とは言っても、まだドラマーはいないんだけどな。ドラム人口少ない問題ってのは本当だったのか。
ここ最近「文化祭でライブやるんだ!」と騒ぐ香澄達に感化されたのか、須田が文化祭でライブをしたいと言い出した。
『なぁ関口。俺、そろそろライブしたい。文化祭とか』
『いや、ドラムどうすんだよ』
『そこはほら、雇うとか?』
『...まぁそれでいいならいいけどさ。それで? 文化祭でやるっつっても、曲はどうするよ。さすがに今からオリジナルは間に合わねぇぞ』
『俺BLA〇KEY JET CITYやりたい』(バカ)
『やっぱお前最高だな百曲やろう!』(アホ)
とまあ、こんな感じ。
とはいえ、これは花咲川の文化祭。外部の人間をドラマーとして雇うのはあまりよろしくないと生徒会に却下され、かといってそんな急にドラマーが釣れるわけもなく、今回は泣く泣く打ち込みになったのだが。氷川さんっていう身内がいるからいけるかなって思ったけど、あの人身内に厳しい人だったわ。
というか、だ。
思ってたより須田がうめぇ。ノリでブ〇ンキーやろうぜって言ったものの、当初は出来るだなんて思っていなかった。須田がベースを初めて、まだたったの二ヶ月。普通に考えて二ヶ月で照〇さんのベースはキツいだろ。それを、完璧とは言わないまでも、須田は他人に聴かせられるレベルにまで弾けるようになった。いや、シンプルにすげーな須田。
「楽しみだなー、文化祭。関口は今までライブとかしたことあるん?」
「んにゃ、ない。今まで一人でやってたからな。だから俺もめっちゃ楽しみ」
しかも最初のライブでブラン〇ーだもんなぁ。テンション爆上がりだわ。
頭の中で今回やる曲のフレーズを思い出しながら、俺は残りのシフトを埋め始めた。
えっと...五十嵐が抜けた所に若宮さんを入れて...あ、いや、若宮さんも働きすぎだな。じゃあここは北沢さんを入れるか。
シフト作んの思ったよりずっとめんどくせぇ。世のシフト管理してる人達って凄いんだなって(小並感)
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
さて、とうとう迎えた文化祭初日。
我が花咲川高校では、文化祭は土日の二日間に渡って行われる。
二日目の夜にはキャンプファイヤーもやるのだという。いろんな問題があって普通キャンプファイヤーなんてできないもんだが、なんでも今回は弦巻家が一枚かんでいるらしい。弦巻がどうしてもやりたいって言ったとかなんとか。
本当になんでもありだなあのお嬢様。
「二卓さん、オーダーいただきました! ミルクデニッシュ、メロンパン一、ミルク珈琲、レモンティーを各一つずつお願いします!」
「おっけー! じゃあこれ、五卓さんにピザトースト二つとココア二つよろしくね、若宮さん」
「合点承知!」
A組のカフェがオープンしてから約三時間。満席とまではいかないまでも、席は半分以上埋まっている。
今回うちのカフェで特に戦力になるのが若宮さん。彼女は羽沢珈琲店でバイトをしてるし、俺たちより断然接客慣れしている。なにより愛想が良くて可愛い。彼女の元気な声と明るい笑顔で廊下を歩く男共が釣れる釣れる。
若宮さん以外でホールに出ているのは、俺と香澄、プラス三人の六人だ。香澄以外はみな居酒屋だったりレストランだったりと、接客系のバイトをしている奴らだ。その他はほとんどがキッチン。この時間は須田と牛込さん、おたえの三人もキッチンに入っている。ちなみに内装を頑張った連中は本祭での仕事を免除した。
正午も過ぎて、あと十分ほどで俺のシフトも終わろうとしたころ。教室の前のドア、つまりはA組カフェの入口が開いた。
「ヘイラッシャイ! なに握りやしょーか!?」
「若宮さん、それ店違う」
若干どころではない間違った日本文化被れの若宮さんは今日も愉快だ。
ちょうど近くにいた俺が軽くツッコミを入れ、若宮さんに代わり挨拶をする。
「いらっしゃいませ〜。何名様で.....」
「やっほー海! 来ちゃった♡」
「出口はあちらでございますお客様」
「酷くない!?」
一度お辞儀をして顔を上げたら、なんか見慣れたピンク頭がいた。帰ってほしい。
「まぁそういうなよ海。アタシ達、一応客だぜ?」
ひまりの後ろを見れば、Afterglowのメンバーが勢揃いしていた。
あー、そういや羽丘って今日休みか。そりゃそうだ、今日土曜だもんな。
「はぁ...。んじゃあっちの奥の席に座ってくれ。ご新規五名様ご来店でーす」
「おかえりなさいませお嬢様!」
「若宮さん、それも店違う」
何やら楽しんでいる若宮さんにはほかのテーブルに注文を取りに行ってもらい、俺はできた料理とドリンクの提供をするためにキッチンの方へ足を向ける。まぁ料理っていっても山吹ベーカリーから運ばれてきたパンを温めただけだけどな。
「注文お願いしま〜す!」
料理の提供を終えた俺に、ひまりの声が届く。
「...はい。ご注文は?」
「私チョココロネとカフェラテ!」
「モカちゃんもそれで〜」
「あたしもチョココロネ。あ、飲み物はブレンドで」
「アタシはカレーパンとホットミルク」
「私は...クリームパンとココアにしよっかな」
「あい。チョココロ三つ、カレーパン、クリームパン、ブレンドコーヒー、ホットミルク、ココアで。少々お待ちください」
オーダー表にボールペンで走り書きしながら、注文を復唱する。
それを見たモカが、感心したように呟いた。
「お〜。海が接客してる〜。つぐみたい〜」
「あはは。いつもとは立場が逆だね?」
「...海があたし達に敬語なの、なんか新鮮な感じ」
「私と巴はバイト先で見てるから、全然そんな感じしないよね〜」
「だな〜」
そんな会話を聴きながら、俺はオーダー表をキッチンに持っていく。
キッチンではなんか俺とひまり達の関係について色々憶測が飛び交ってるみたいだけど、ひまりと一応は顔見知りの須田がいるし、俺がわざわざ言いにいかなくてもいいだろ。それよりまた面白いことをし始めた若宮さんを止めに行かなきゃ。
「ヘイラッシャイ! 何握りやしょ」
「若宮さん、それさっきやった。いらっしゃいま...」
「やっほ〜☆ 来ちゃった☆」
「回れ右でございますお客様」
「ちょ、お客さんに対していきなりそれ〜?」
いや、あんまり知り合いに接客してるとこ見られたくないんですわ。
Afterglowの次に入ってきたのはRoseliaメンバーのリサさん。その後ろには友希那さんもいる。なんでや。
とりあえず席に案内しようと店内(教室内)を見渡す。
席はまばらに空いているが、二人となると奥の窓際の席がいいかな。ちょうど二人掛けのテーブルだし。
「じゃあ、あちらの席にお座りください。ご新規二名様、ご来店でーす」
「いらっしゃいませお客様!」
「若宮さん、それは.....あ、いや合ってるか」
ちょっとだけ残念に思いながら、俺は二人を席に案内する。
「あれ、アフグロじゃん。やっほー☆ 五人も来てたんだ?」
席に座る前、リサさんがそう言う。
それもそのはず、リサさんと友希那さんを案内した席は、Afterglowの隣の席だ。お互いに気付かないわけがない。
「リサさん! 友希那さんも! こんにちは〜!」
ひまりが笑顔で手を振って返す。
それに続いてつぐ、モカ、巴、最後に蘭がペコリと軽くお辞儀をした。
「あ、海くん、早速注文いい?」
「大丈夫っす」
「ありがと〜☆ アタシはこの厚切りトーストとブレンドコーヒーで! 友希那は?」
「私は.....私もリサと同じものを」
「かしこまりました。厚切りトースト二つと、ブレンドコーヒー、ミルク珈琲で」
「ちょっと海、ちゃんと私の話を聞いていたの? ブレンドコーヒー二つよ」
「いや、友希那さん苦いの飲めないでしょ」
「っ!? なんでそれを.....んんっ! そ、そんなことはないわ」
いや、あなたいつもCiRCLEのカフェテリアでコーヒー飲む時めちゃくちゃ砂糖入れますやん。みんな知ってますよ。
「ふふんっ。湊さん、苦いもの苦手なんですか?」
そう言って、俺がリサさんと友希那さんの相手をしている間に届いたらしいブレンドコーヒーを啜ってみせる蘭。
いや、蘭はそんなとこでマウント取ろうとするな。弱く見えるぞ。...あ、やべ、蘭がめっちゃ睨んでくる。
「じゃあ厚切りとブレンド二つずつで用意しますね」
「.......あの、砂糖を貰えるかしら」
「かしこまりました」
「五個ほどお願いするわ」
五個て。いや五個て。もはやミルク珈琲より甘いやんけ。体に悪そう。
注文通り、厚切りトースト二つとブレンドコーヒー二つ、それから角砂糖を五個を提供する。それとほぼ同時、俺のシフトが終わったので、そのままキッチン裏に行ってエプロンを外した。まぁエプロンっつっても、男は前掛けだけどな。居酒屋かよ。
女子はフリフリした可愛らしいエプロンを身に付けている。あれ、香澄やおたえ、牛込さん、市ヶ谷さんが山吹さんの家に行って頑張って作ったらしいな。市ヶ谷さんは完全に巻き込まれただけだろ。あの子B組だし。
「そういや山吹さん、今日はもう来ないのかねぇ」
とった
「さーや、大丈夫かな...?」
俺と同じ時間で上がりの香澄が、隣でエプロンを脱ぎながらそう言った。
つい先週くらいに、香澄達のバンド名が決まった。その名も『Poppin'Patry』、略して『ポピパ』だそうだ。メンバーは香澄、おたえ、牛込さん、市ヶ谷さん。そして山吹さんも。まぁそれは本人が否定していたが、香澄の中では山吹さんもポピパの一員となっているんだろう。あいつ、良くも悪くも自分の道を歩いてるからな。
そんな大事なメンバーの一員である山吹さんが、今日学校に来ていない。なんでも母親が貧血で倒れたとかなんとかで、病院で寄り添っているらしい。
「心配ならLI〇Eでもしてみる? 親父さんの話じゃ、お袋さんも本当に軽い貧血らしいし、L〇NEくらいなら迷惑じゃないだろ。多分」
「! する! さーやに電話!」
「いや電話なのかよ」
俺の言葉などガン無視で、香澄は目を輝かせながらスマホをカバンから取り出した。
「.......んー、繋がんない」
「病院にいるからな」
多分スマホの電源を切っているんだろう。最近じゃ病院で携帯の電源を切る必要はないらしいけど、それでもなんか電源切っちゃうんだよな、病院って。
「だから大人しくLIN〇でも...」
「留守電しよ!」
めちゃくちゃ電話に拘るやん?
「もしもしさーや? 香澄です。お母さん、どう? さーなん泣いてない? じゅんじゅん元気? さーや...大丈夫?」
無視紛いのことをされてなんとなく悲しい気持ちになった俺の隣で、香澄が本当に留守電を残し始めた。まぁ声の方が気持ちとか伝わりやすいだろうし、俺に被害あるわけじゃないしL〇NEでも電話でもどっちでもいいけどさ。
「カフェはね、大成功! すごいんだよ! お客さんみんな、パン美味しいって。持ち帰りする人もたくさんいたの!」
確かに喫茶店は繁盛したし、している。
喫茶店と言っても食べ物は八割が山吹ベーカリーのパンだ。それを全面に出してるから、山吹ベーカリーのネームバリューも大きいだろう。地元じゃわりと有名店だからな。
その後も、香澄は楽しそうに今日起こった出来事を話す。
「えへへ、それでねさーや! お相撲さんが来た時にイヴちゃんが...」
「ん? 沙綾? 香澄、沙綾に電話してるの?」
「マジ? おーい沙綾〜!!」
「さーや? さっき仕事中に山吹ベーカリーの曲作ったから聴いて」
「いやちゃんと仕事しろ?」
香澄の声を聞きつけたクラスメイト達が、続々とキッチン裏へやってくる。
キッチン裏といっても、そこまで広くはない。許容人数はだいたい三、四人程度だ。そんなところに五人も六人も入ってきたせいで人口密度はものすごいことに。てか女子しか入ってこないんだけど。なんだこの空間甘い匂いがする。あっ、やめろ佐倉さん、俺の背中を押すな。おたえとの密着度がもんのすごくなってるから、お願いやめて...!
「わわっ!? みんなストップストップ!! ...あ、切れちゃった!?」
押し寄せた人混みに手元が狂い、香澄は山吹さんへの留守電を切ってしまったらしい。慌ててかけ直す。
「もしもし!? こっちは大丈夫っ! すごく楽しいよ! すごく、すごく、すっごく!! だからライブも頑張る! さーやに届くくらい、私頑張るからね! じゃあ海くんっ、何か一言!」
「俺? なんで俺?」
「だってさーやと同じ副委員じゃん!」
そう言われ、俺は香澄からスマホを渡される。
「えぇ...え、っと。なんだろ。あー...」
咄嗟に言うことが浮かばない。こういう時、気の利いたセリフの一つや二つ出てくればいいんだけどなぁ。
「まぁ、なんだ。香澄はさっき『大成功』っつったけど、全然そんなことないからな?」
「えぇ!? そんなことないよ! 大成功だった!」
「お前が皿割ったり注文取り間違えたり自分の足踏んづけてすっ転んだりドリンクを床や俺にぶちまけたりしなけりゃな」
「うっ...あ、あはは〜! ...ごめんなさい」
シュンとする香澄に、口元を少し緩めて見せる。
全然冗談じゃないしミスはもっとたくさんしてたけど、そう落ち込むなって。
「ま、そんな感じでさ。明日もまた香澄がやらかすだろうから、明日は来てくれよ。香澄の面倒見てくれ。あ、それと今日俺と須田も香澄達のあとにライブすっから、それもできれば見て欲しい。けどあんま無理はすんなよ。じゃ」
言うだけ言って、俺は電話を切る。
切った後で「私も沙綾に言いたいことあったのに!」とか「山吹さん大丈夫かな?」とか「てか関口と須田もライブするって初耳なんだけど」とか「海、あんまりくっつかれると嬉しいけど暑い」とか、周りの連中がうるさく言ってきた。知らん、早く俺を外に出せ。いろいろ限界が近いんじゃ。思春期男子なめんなよ。
.....正直もうちょっとこのふにゅふにゅな感触に身を任せたい(健全男子の本音)
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
時間は過ぎ、現在俺と須田は体育館の袖裏にスタンバイしていた。
「うへぇ...緊張すんなぁ」
そう言って、手のひらに書いた『人』という文字を何度も飲み込む須田。よっぽど緊張してんだな、こいつ。
そんな俺たちの目線の先には、ポピパのメンバーが楽しそうに演奏している姿が。その中には、ドラムを叩く山吹さんの姿もある。
「...なんか、やっぱりっつうかなんつうか、関口は余裕あるな」
「は?」
香澄に絆されてほいほいポピパのドラマーに就任した山吹さんに「俺の誘いは断ったくせに...」と少しばかり負の感情を込めた視線を送っていると、須田がそんなことを言ってきた。
「いや、もう次は本番なのに、全然緊張してないし」
「んなわけねーだろ。めちゃくちゃビビってるわ。見ろ、俺の手」
「うわ、すっげぇ震えてる。プルプルじゃん」
当たり前だろ。俺だって初ライブだ、緊張するに決まってる。
まぁ人前で楽器弾くのは初めてじゃないし、そりゃ須田よりちょっとは余裕あるかもしれないけど。人前っつっても家族とか友達の前だけで、こんな大勢の前で演奏したことなんてない。油断したら足も震え出しそうだ。
「けどま、ここまで来たらやるしかねぇだろ。今朝の合わせは完璧だったんだ、なんとかなるさ」
テキトーに須田の背中を叩き、緊張を
須田のだけではなく、俺の緊張もだ。
そんなことをしているうちにポピパの演奏が終わり、彼女達が俺たちのいる袖裏にやってきた。
「お疲れさん。ライブ、良かったぞ」
「海くん! ありがとっ!」
香澄が手のひらを向けてきたので、反射的にハイタッチをする。
バチンっ、と乾いた音が嫌に頭に響いた。
香澄に続いて袖裏に入ってきたポピパメンバーとそれぞれ一言とハイタッチを交わし、俺はギターとボードを持ってステージに向かう。
ステージの幕は下りている。オーディエンスの姿が見えないことは救いだが、ガヤガヤとした喧騒がやけに近く聞こえてくる。
淡い照明を頼りに、俺はマイクスタンドのあるステージの中央へと辿り着いた。マイクスタンドの下にボードを置き、次は左斜め後ろにあるギターアンプの元へ向かう。
シールドを繋ぎ、アンプの電源を入れ、ツマミを弄る。
今日のツマミはTREBLEが六、MIDDLEが七、BASSが六。Distortionを三ほどかける。
うん、こっちの音はいいな。あとは
「関口! 音が出ねぇんだけど!!」
「んぁ? ...お前それ、VOLUME上がってねぇじゃん」
「? あっ」
こりゃ相当緊張してんな、須田のやつ。大丈夫かよ。
まぁ俺も人のこと言えねぇけど。さっきから本当に指の震えが止まんねぇんだわ。ソロちゃんと弾けっかな〜。
「じゃあ音出しお願いします〜。まずはギターから」
手をプラプラと揺らして震えを止めようとしていると、PAの人からそう指示された。
一度右手を大きく挙げて了承の意を伝え、テキトーにリフを弾く。
続いて
ちなみにこの打ち込みは、おたえに教えてもらいながら一緒に作ったものだ。打ち込みなんて初めてやったけど案外楽しかったな。
すべての準備が整い、ようやく幕が上がる。
「...やべぇ関口、俺逃げたい」
「ふざけろ」
客席から俺たちの膝下まで見えるまで幕が上がったところで、須田が震えた声でほざきだした。ここまで来て逃げられるわけねぇだろ諦めろ。
今日やるのは二曲。いや、本気で百曲しても良かったんだけど、氷川さんに止められたんだよな。あと普通に俺も須田もキャパオーバーだし。あと九十八曲は後々、ということで。
とりあえず今日やるのは二曲、『ガソリン〇揺れかた』と『僕〇心を取り戻すために』、ということで話はまとまった。
「んじゃ、やるぞ須田」
「うっ...お、おう!」
幕が上がりきる前に、俺は最初のリフをかき鳴らす。
セトリ...とは言ってもたった二曲だが、最初は『ガソ〇ンの揺れかた』から。そのあと軽くMCで自己紹介やらドラマー募集やらをして、二曲目を始める。そういう予定だ。
ガソリンはギターのソロから始まる。
ソロを十五秒くらい弾き、そこから歪みを踏むと同時にベースとドラムも乱入。ここで三つの楽器の音が合う瞬間が最高なんだわ。
さっきまであんだけ震えてた手も、いざ始まってしまえばなんてことはない。楽しいだけだろこれめっちゃ楽しい。サビ入った楽しい。オーディエンスが湧いた楽しい。ソロきためちゃんこ楽しい。
あ゙〜気持ちいいんじゃ〜(思考停止)
ふへっ(絶頂)
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
パチパチと、木の燃える音が校庭に響く。
西の空はまだほんのりと明るいが、空には綺麗な三日月が浮かんでいた。
二日間に及ぶ文化祭も終わり、現在は最後の大イベントが行われている。
沈んだ太陽よりも強い光を放つのは、校庭の真ん中にドーンと組み立てられたキャンプファイヤーだ。大きな炎を囲んでのフォークダンスなんてものをやっている。弦巻家のご令嬢の一声でここまでの準備がされたとかなんとか。こんなの漫画の中だけのイベントだと思ってたよ。やっぱりすごいんだな〜、あの子。
「それで〜? もうキャンプファイヤーも終わりに近いのに、私なんかと踊ってていいのかな?」
意地の悪い笑顔を浮かべて、私は私と踊っている男の子に問いかける。
彼は関口くん。私のクラスメイトで、ここ最近は文化祭実行副委員長として一緒に頑張った仲の男の子だ。
「いいよ、別に。ほかに踊る女子もいないし」
「む、その言い方はちょっとヤだな〜。相手がいなかったから仕方なく私と踊ってるみたい」
「そんなんじゃないんだけど」
「ほんとに〜?」
「ほんとほんと。俺山吹さんとめっちゃ踊りたいわ〜」
いつものように軽口を言い合いながら、私達は拙いステップを踏む。
中等部にいた時は、まさかこんなに親しい男の子ができるなんて思ってもみなかった。高等部が共学になるっていうのは三年生の時に聞いてたけどね。あの時は別の女子校に転校するかちょっと悩んだな〜。羽丘女学院とか。
けど、今は共学になって良かったと思うこともたくさんある。
まぁ、たまに男の子の視線が気になることもあるんだけど。
「実際さ、ほんとにいいの? 私と踊ってて。ほかに誘う女の子とかいないの?」
「ん〜。おたえや香澄とは踊ったし、奥沢さんともお嬢とも踊ったし...若宮さんや丸山さんは仕事あるっつって帰ったし、松原さんは見当たらねぇし...」
「あ、あはは〜...結構女の子の名前出てくるな〜...」
「牛込さんはあっちでずっと須田と踊ってるし」
「え!? あっ、本当だ!」
へぇ〜、りみも青春してるな〜。
「あ、じゃああの人は? 風紀委員の...」
「あー、氷川さん? そういや見てないな。委員の仕事でもあるんじゃね?」
「じゃあ図書委員の人!」
「白金さんもどこいるのか分からん。てかなんなのさっきから。俺とは踊りたくないの?」
「え? いや、そんなんじゃないんだけどさ? そのぉ...ね? とても悪いとは思うんだけど...」
「?」
不思議そうな顔を浮かべる関口くんに対し、私の顔はどこか申し訳なさそうなものになっているのが分かる。
「関口くん、好きな人いるって聞いてたからさ」
「は? あ、もしかして氷川さんとのあれか。あれは誰かが勝手に流した根も葉もない噂で...」
「いや、須田くんが言ってたそれじゃなくて」
「は?」
え、なんか怒った? なんで?
すっごい須田くんのほう睨み付けてるけど...。
「その...この前告白されてたの、偶然聞いちゃって」
「え? あ〜...なるほどそういう...。あれ嘘だから。断るのにちょうどいい言い訳だと思って」
「えっ、そうなの?」
本当にいると思ってた...。なんだ、嘘だったんだ。
「あんなとっさに言い訳思い浮かぶなんて、告白されるの慣れてるの?」
「んなわけねーじゃん。人生初だったわ」
「そうなの? なんか意外。関口くんモテそうなのに」
「モテたい人生だった」
「彼女欲しいとか思わないの?」
「思う。すっげー思う」
「なら受ければ良かったのに、告白。あの子、中等部の時一緒のクラスだったけど、普通にいい子だよ」
「んー、誰でもいいわけじゃないんだよなぁ」
炎に照らされた彼の横顔を見ながら、会話とダンスを続ける。
それにしても告白されたの人生初だったんだ。関口くん優しいし、顔も整ってるし、ギターもやってるからすごくモテそうなのに。
「そういう山吹さんは? 彼氏、作んねぇの?」
「私? 欲しくないことはないけど、今はいいかな〜。家のこととかあるし」
「ほーん。もったいない。せっかく可愛いのに。優しいし家庭的だし、モテない要素がないんだが?」
「あはは〜。ありがとっ」
...顔が赤くなるのは炎の灯りで誤魔化せてるかな。
お世辞だって分かってるけど、いざ正面から言われるとやっぱり嬉しいし恥ずかしいね〜。
「ちなみに関口くんはどんな人が好みなの? タイプとか」
「俺の? ん〜...しっかりしてる人とかかな。あと本気で打ち込んでる趣味がある人」
「へぇ」
「ま、月並みな言葉だと『惚れた人がタイプ』って感じだと思う」
「あ、それはあるかも」
「須田なんて最初会った頃はギャル系が好きとか言ってたくせに、今は牛込さん一筋だもんなぁ」
「そうなんだ? あの二人には今後も注目だよね〜。もしかしたらクラスで初のカップル誕生かも」
「いや、五十嵐と澤田さんが付き合ってるから初じゃないよ」
「うえぇ!?!?」
そんななんでもない...わけじゃないけど。最後だいぶ大事な話だったけど。まぁそこそこな世間話をしながら、私達は踊り続ける。
男の子と手を繋いで、こんなシチュエーションで踊ってる。ロマンチックってほどじゃないけど、なんかこういうのすごく “青春” って感じ。
うん、お母さん達に言われた通り、来てよかったなぁ、文化祭。
結局お母さんや純達は来れなかったけど、来年は来てもらいたい。来年は最初から『ポピパ』として参加して、お母さん達にも観てもらいたい。
夏希達に悪いと思う気持ちはまだある。けど、またバンド活動できるの、すっごく楽しみだな〜!!
PA…Public Addressの略。いわゆる音響さん。
リフ…楽器で演奏した時、その音が楽曲として成立する音楽的なフレーズのこと。
オリ主くんが今まで告白されなかったのは某ピンク頭が1枚噛んでいるとかいないとか...
専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。
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伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
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好きにやってええんやで(菩薩)
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全然分かるけど辞めな
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分かるからそのまま続けて、どうぞ。