ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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難産でした。


校長先生だって好きであんな長話をしてるわけじゃない

 

 

 

 

 

 彼に対する評価は、危険な男。

 

 

 

「ちょっと彩ちゃん!!」

「ぴっ!? ひゃ、ひゃい! 千聖ちゃんごめん! 昨日の間食は出来心で別にいつもドーナツ四つも食べてるわけじゃないですからして!!」

「あ、いえその話じゃ.....ドーナツ四つ?」

「え? .....あっ」

「はぁ...まぁそのお説教は後にするとして、今はこっちよ」

「うぅ...あとから怒るんだぁ...」

「昨日のSNSの投稿、あれはなに?」

「昨日? ...ああ! あれス〇バの新作だよ! 甘くて美味しかった!」

「そんな感想じゃ食レポは難しそうねってそうじゃなくて。アップされた写真に一緒に写ってたの、あれ男の子でしょう? どういうこと?」

「へ? あー、あの子海くんって言ってね? バイト先と学校の後輩で...」

「男の子、それも一般人と一緒にいるところをSNSにアップしない! 芸能人として常識でしょ!?」

「げ、芸能人...へへ」

「──彩ちゃん?」

「ぴっ!!」

 

 パスパレのボーカル、丸山彩ちゃんと親しげな男。

 これはスキャンダルになり得る。危険。

 

 

 

「イヴちゃん。その髪飾り、先週SNSに載せていたものでしょう? すごく似合ってるわよ」

「本当ですか? ありがとうございます、チサトさん! 実はこれ、私の誕生日にクラスメイトの方から頂いたものなんです!」

「あら、そうなの?」

「はい! セキグチカイさんという、とても親切な方です!」

「...海?」

「今度の休みにはお洋服を一緒に買いに行く約束もしてるんです!」

「...デート?」

 

 パスパレのキーボーディスト、若宮イヴちゃんとも親しげな男。

 これもスキャンダルになり得る。危険。

 

 

 

「ごめんなさいね、花音。昨日は急な仕事でカフェに行く約束を反故にしてしまって.....」

「ううん、大丈夫だよ。元々私が行きたいって言い出したところだし、昨日は別の人に付き合ってもらえたし」

「そうなの?」

「うんっ。バイト先の後輩で...あっ、学校の後輩でもあるんだけどね? その男の子がちょうど暇してるって言ってたから」

「.....ちなみに、その子の名前は?」

「え? 関口くんっていうの。関口海くん」

「また...」

「あ、そういえば前千聖ちゃんに褒められた香りの香水ね? あれ、関口くんに誕生日で貰ったやつなんだ〜」

 

 香水をプレゼントする男の心理は『貴女を自分色に染めたい』、『貴女ともっと親しくなりたい』。

 ただでさえパスパレ(アイドル)二人と親しいのに、ほかの女性にも手を出している。つまり女の敵(たらし)。危険。

 

 

 聞けば聞くほど危険度が増していく。

 関口海。一学期は仕事が忙しくて会う機会に恵まれなかったけれど、今日、ようやく私と彼は顔を合わせる。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「──で、あるからしてぇ。えー、皆さんには健やかなる生活と...」

 

 古今東西共通、校長先生の長い長いお話。

 要約すれば二分で終わるような内容の話が、かれこれ三十分続いている。長い。長すぎる。早く帰りたいんだ俺は。

 

 今日は終業式。

 わりと濃かった一学期が今日で終わり、明日からは待ちに待った夏休みが始まろうとしている。海に山にバンドに労働。やることは山積みだ。恋愛もしたい。彼女ほしい。

 

「というわけでして。ではみなさん、どうぞ後悔のない夏休みを」

 

 と、ここでようやく校長の話が終わる。

 半分どころか八割以上聞いてなかったけど、どうせ言ってることは中学の時に聞いた校長の話と変わんないだろ。規則は守れとか宿題しろよとかカブトムシの取り方とか。

 その後は校歌斉唱、教頭による締めの言葉とスムーズに進む。

 教室へと戻り、担任から軽い注意喚起がされたのち、俺たちは夏休みへと突入した。

 

「海。今日この後暇?」

 

 うきうきしながら帰りの支度をする俺に、そんな声がかかる。

 顔を上げてみれば、おたえがギターを背負って立っていた。

 

「なんもないけど、どした?」

「私今日バイトあるんだけど、夕方からなんだ〜。それまで暇だから、どこかでお昼ついでに時間潰しに付き合ってくれない?」

「ん、いいよ。ちなみにバイト何時から?」

「五時」

 

 言いながら、俺は荷物を詰め終えた鞄を担いで立ち上がる。

 今日は須田も五十嵐も用事あるっつってたし、今日は弁当も持ってきてないからな。

 

「そういや香澄たちは?」

「別の用事あるって帰っちゃった」

「四人ともか」

「うん」

 

 あー、そういや山吹さんは家の手伝いがあるとか言ってたっけか。牛込さんは須田と喋ってるとこ見たな。香澄はいつもわちゃわちゃあっちこっちしてるから分かんないけど。市ヶ谷さんは今日も振り回されてんのかなぁ。

 

「海はお昼、何食べたい?」

「んー...腹は減ってるけど、特にこれってのはないな。おたえは?」

「私? 私は...パスタ食べたいかな」

「ハンバーグじゃないんだな」

「ハンバーグは朝食べたから」

「朝からハンバーグ出るのかよ花園家」

 

 昨日の夕飯の残りかな?

 そんな他愛もないやりとりをしながら、俺とおたえはそれぞれの下駄箱の前で上履きと靴を履き替える。

 さて。パスタが食べたいとなった学生が行く場所は限られてくる。そこらの定食屋か、もしくはサ〇ゼリア(庶民派高級イタリアン)

 サ〇ゼのほうが安くつくかなと思い至ったところで、俺の中に新たな選択肢が現れた。

 

「...そうだな。おたえ、俺のおすすめの店行くか?」

「海のおすすめ? うん、行く」

 

 二つ返事でOKを出したおたえへ俺は満足気な頷きを返し、俺は目的地へと足を向けた。

 

 

 

 と、いうわけで。

 

「おじさん、こんちゃーっす」

 

 ガラス張りの引き戸を開け、レジの前で何か作業をしていた男性に挨拶をする。

 

「お、海くん。こんな時間に珍しいね。学校は?」

「今日終業式だったんすよ」

「ああ、なるほど。つぐみのとこは確か明後日が終業式だったかな。海くんの学校の方が早いみたいだね」

 

 そう言って、男性───羽沢珈琲店の店長は柔らかい笑みを浮かべる。

 

 俺のおすすめ、羽沢珈琲店。

 だいたい午後二時をすぎると激混みするこの店だが、昼時はわりと空いている。今日も今日とて、近所の人が数組いるだけで、特に混んではいない。

 

「俺、本日のランチセットで」

「私はたらこスパゲティ、大盛り」

 

 席に案内された俺とおたえは、すぐに注文を済ませた。

 ちなみに今日の『本日のランチセット』は厚切りナスのミートスパゲティにサラダ、コンソメスープが付いてくるらしい。ナス、美味しいよね。

 

「ここ、知り合いのお店?」

「幼馴染みのな。味は保証するぞ? なんたって、もう十年は通ってるからな」

 

 受験期にだって週一は絶対来てた。それくらいにはお気に入りの店だ。

 まぁつぐに数学教わりに来てたのが六割くらいだけど。

 

「あ、そういえば海。海におすすめされてたアーティストの曲、昨日聴いたんだ」

「お、マジかー。どうだった?」

「びっくりした」

「だろ?」

 

 最近俺がおたえに勧めたのはBB〇Sというアイドルグループ。俺も姉ちゃんに教えてもらうまで知らなかった、メタル系スクリーミングアイドルとかいうジャンルに属するアーティストだ。姉ちゃんから教えてもらった時は「えー? ベビ〇タみたいなもん?」とか思ってたけど、普通に女の子がデスボ出してるんだよな。かなりガチの。

 

「あれ、本当に女の人が歌ってるの?」

「マジで歌ってる。ライブ行って聴いてきたもん、俺」

「すごい。本当に好きなんだ。...ちなみに推しとかいるの?」

「エレク〇ロソナー」

「? そんな人いたっけ」

「ギターの人。マジで上手いし、八弦使うとかいうド変態ギタリストなんだよ。俺、八弦ギターとか初めてみたわ」

 

 てか楽器隊が神すぎる。神。マジGOD(語彙力)

 ドラムとギター(ソ〇ー)はキバ〇ブアキバというヲタイリッシュ・デス・ポップ・バンドに所属する変態たち(褒め言葉)。

 ベースはどこから出てきたのか謎の巨体ベーシストだ。この人がマジでデカい。五弦ベースがちっちゃく見えるくらいにはデカい。あと上手い。ただただシンプルに上手い。無名だったのが意味分からん。ほんと今までどこに隠れてたんだアンタ、ってレベル。

 

「いやそうじゃなくて、女の子の.....え、嘘。八弦使ってるの?」

「この目で見た。リアルメタル」

「アイドルってなんだったっけ?」

「歌って踊って農業する職業だろ」

 

 ちなみに、女性陣の中で俺が推してるのは雲林院カ〇ラです。高音デスボのお姉さん。

 

 そんなことを話しているうちに、俺たちの前に料理が並ぶ。

 つぐのお父さんの手料理はめちゃくちゃ美味い。高校時代は超実力主義の名門料理学校に通い、首席争いをしていたとかなんとか。学校の名前は...なんだったっけ。確か月が入ってた気がする。

 

 俺もおたえもうまうま言いながら飯を食っていると、チリンチリーン、と鐘の音が聞こえた。店の扉が開いた時に鳴る音だ。

 まぁ昼時だし、別の客が入ってくることもあるだろう。わざわざ確認するまでもない。

 

「ここの新作のレモンケーキがすっごく美味しくて.....あれ? 関口くん?」

「? ふぁ()ふぁつふぁふぁふぁん(松原さん)

 

 口いっぱいに放り込んでいたパスタを急いで飲み込み、紙ナプキンで軽く口周りを拭いてから、俺は改めて声をかけてきた人物に顔を向ける。

 俺の目線の先には、二人の女子が立っていた。その片方が、俺に声をかけてきた人物、松原花音さん。バイト先と学校の先輩で、ハロハピのドラマー。

 てかもう一人。サングラスしてるから分かりにくいけど、あの人もしかして...

 

「あ、この子だよ千聖ちゃん! この前私の誕生日に香水くれた男の子!」

「香水...? 誕生日に...香水...?」

 

 片や花が咲いたかのような笑顔の先輩、片や瞳のハイライトさんが職務放棄してるクラスメイト。いや後者は何があったんや。

 そういや俺、松原さんの誕生日に香水あげたっけか。姉ちゃんが間違って買ってきたやつが未開封のままリビングに置いてあったから、ちょうどいいやって思って松原さんの誕プレにしたんだっけ。

 

 てかそれよりも。それよりもだ。

 今松原さん、 “千聖” って言ったよな?

 

「...白鷺、千聖?」

 

 俺の記憶を総洗い...するまでもなく、目の前の女子が誰なのか分かる。ぶっちゃけ、関口家は全員白鷺千聖のファンなんだわ。じいちゃんとばあちゃんもな。

 白鷺千聖が花咲川にいるのは知っていた。一つ上の学年だということも。まぁ人気若手女優ってこともあって結構忙しいらしく、あんまり学校には来てないらしいけどな。わざわざ二年の教室に探しにいくなんてことはしなかったし、今まで直接会ったことはなかったんだけど...本物バリかわいいな。

 

 名前を呼ばれた白鷺千聖本人は、一度松原さんをチラ見してからゆっくりとサングラスを取る。

 

「はいっ。はじめまして、白鷺千聖です」

 

 かっわい(放心)

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 お昼時。

 今日は仕事もレッスンもお休みで、久々の一日オフ。学校も終業式だったから半日で終わってしまい、暇だったところを花音に誘われて商店街の喫茶店へと足を運んでいた。

 

 そこで出会った、私をぼけっと見つめてきた年下の男の子。

 花音が言うに、彼が噂の関口海だという。彩ちゃんのSNSの投稿にもギリギリ顔は写っていなかったし、顔を見るのは初めてだ。...確かに整った顔をしてるわね。

 

「レモンケーキも美味いですけど、アサイーボウルが昨日から新メニューで出てるんすよ。俺的にはそっちもオススメです」

 

 流れで一緒のテーブルにつくことになった私と花音に、彼はそう話しかけてきた。

 アサイーボウル...最近食べてないし少し食べたいけれど、今日は花音の進めてくれているレモンケーキをいただこう。

 

「改めまして、はじめまして、関口海くん。花音や彩ちゃんたちからたまに貴方の話を聞いていたから、一度会ってみたいと思っていたの」

 

 私はレモンケーキ、花音はアサイーボウルを注文してから、改めて会話を始める。あとで花音にアサイーボウルを少しだけわけてもらおう。

 というかごく自然な流れで同じテーブルにつくことになったけれど、なぜ一緒に座ってるのかしら?

 

「あー...俺、丸山さんがSNSに載せる写真に何度か写ってるらしいっすね...。いや毎回やめろって言ってはいるんですが、あの人自分の欲に忠実なとこあるんで...」

 

 目の前の男は微妙に表情を固くして、バツの悪そうに頬を搔く。

 そこで、彼の隣に座っていた女の子が口を開いた。

 ...そういえば、この子は誰だろう。関口海の女の一人だろうか。きっとそうね。この女の敵め。

 

「海、Twitt〇rとかイ〇スタとかやってたっけ?」

「Twit〇erは昔アカウント作ったくらい。アプリ消しちゃったけど。イン〇タはインストールすらしてないな。使い方分かんないし、自分から発信するようなこともないしな〜」

「そうだったんだ? よく海の写真がタイムラインに流れてくるから、てっきりやってるんだと思ってた」

「確かに、関口くんの写真ってよくみるかも。香澄ちゃんとか、こころちゃんとか、よく載せてるよね?」

「俺はフリー素材とちゃうねんぞ」

 

 呆れたような顔をしながら、関口海は自身のスマホを取り出してぽちぽちと弄りはじめた。なにか文字を入力しているようだけど、その手は少したどたどしい。あまり慣れていないのだろうか? 彩ちゃんの半分以下の速さだ。まぁ彩ちゃんが速すぎるっていうのもあるけれど。

 

「えーっと...あ、やべ。パスワード忘れた。おたえ、これどうすればいいの?」

「ここ押して、電話番号かメアド打ち込んで検索ってやればいいよ」

「あざす。.....お、なんかメールきた」

 

 どうやらアプリを再インストールしたらしい。これを機に始めようと思ったのだろうか?

 まぁ今のご時世、SNSを活用していない人は少ない。自ら発信する人や、ただ眺めているだけの人。どちらにしても、SNSでは様々な情報が散乱しているため、やっているといないでは得られる情報量が天と地だ。情弱は死を意味すると言っても過言ではない。特に私たちの業界ではそれは顕著だろう。

 

 などと考えていると、私の前にレモンケーキが静かに置かれた。そして花音の前にアサイーボウルが置かれる。

 関口海が不慣れな感じでスマホを弄るのを横目に、私はレモンケーキを一口いただく。...美味しい。それはもうびっくりするくらいに。なぜか服が破け散る幻覚が見えるほどに。美味しい。

 

「一応ログインできたけど...これどうすんの?」

「とりあえず有名人のフォローとか? あ、何人かはもうフォローしてるんだ」

「ああ、これ? 幼馴染み。前にインストールした時は全部そいつらがやってくれてさ。その時にされた」

「ふーん。あ、ちなみに今フォローしたの私だよ。『おたえ』ってやつ」

「じゃあ私も、関口くんフォローしようかな。ID、教えて...?」

 

 わいわいきゃっきゃ。

 いかにも学生らしい光景が、目の前で織り成されている。別に羨ましいとかはない。私は白鷺千聖。自分から、彼らのような生活は捨てたのだから。

 

「関口くんからフォロー返ってきたよ! よろしくね?」

「あ、はい。よろしくお願いします...?」

「香澄たちのこともフォローしなよ。私のフォロー欄から探せるよ」

「フォロー欄?」

「えっとね。私のプロフィール開いて、そこにフォローとかフォロワーとか書いてあるとこあるから、そこタップして」

「うん...うん...。あ、これか。『Kasumi☆』ってやつ」

 

 わいわいきゃっきゃ。

 

「あ、これ、このアカウントお嬢のか」

「うんっ、こころちゃんだよ。それからこっちがはぐみちゃんで、こっちが美咲ちゃん。それからこれが薫くん」

「うわ、瀬田先輩のフォロワーの数えげつな。五万て」

「あはは〜。すごいよね、薫くん」

 

 ...レモンケーキ、美味しかったわね。

 

「あ、そうだ、っと...あったあった」

「? 何か検索したの?」

「ん? ちょっと白鷺千聖さんを。あ、態度出てたかもですけど、俺白鷺さんのファンなんすよ。いつもテレビ見てます。この前の演劇も観に行きました。妹のマリー役、めちゃくちゃ良かったです」

 

 あら、そうだったの?

 あの劇は私にとっても成長できたものだし、褒められて悪い気はしないわね。

 

「ありがとうございます」

 

 ファンに対して、白鷺千聖()は態度は崩さない。たとえそれが女の敵相手だとしても。

 

「そういえば関口くん。この前行った喫茶店、行き方覚えてたりする...? 千聖ちゃんにも教えたいんだけど、私一人じゃ辿り着ける気がしなくて...」

「覚えてますよ。新宿まで行って、そこで乗り換えて三駅です。南口から出て、左に曲がって...」

「ふぇぇ...わ、分からないよぉ...」

「あー...ちなみに白鷺さんは今の説明で分かります?」

「...ごめんなさい。私、どうしても乗り換えが苦手で...」

「二人とも今までよくこの大都会を生き延びてこられましたね?」

 

 くっ、悔しい...! いえ、私が乗り換えが苦手なのがいけないのだけれど...。しかもよりにもよって新宿駅!? 日本屈指のラビリンスじゃないの!!

 

「俺このあと時間ありますけど、松原さんと一緒に行っても多分覚えきれないでしょうし...あ、そうだ。この前丸山さんもあの喫茶店行きたいって言ってたんで、丸山さんに教えときましょうか? 明日シフト被ってますし」

「え、と...うん、じゃあお願いします...。ふぇぇ、ごめんね関口くん、面倒かけちゃって...」

「お嬢が持ってくる面倒事に比べたら全然なんで大丈夫ですよ」

 

 お嬢...? って、ああ。弦巻さんのことね。花咲川(うち)で好き勝手やってる弦巻家のお嬢様。私も一度話しかけられたことがある。確か『あなたはどうやったら笑顔になるの?』だったかしら。確か最近花音が組んだっていうバンドのリーダーよね。

 

「? ねぇ海、今から行けばいいんじゃないの? 二人を連れて、その喫茶店に」

「いや、ダメだろ普通に。松原さんだけならまだしも、白鷺さんと一緒はまずいって。相手は人気女優だぞ? 写真でも取られたら終わる」

 

 女の子...花園さんっていったかしら。彼女の提案を、関口海は一蹴する。

 なるほど、そこはちゃんと弁えてるのね。同性なら友人で終わるけれど、相手が異性だと雑誌なんかに好き勝手書かれてしまうこともある。ネタを欲しがった記者なんかに見つかったら、花音が写らないような、いかにも私と関口海が二人で歩いているかのような写真を撮られるだろう。

 芸能人のプライベートに同行することへの危機感。それが分かっているなら不用意に彩ちゃんと出かけるなんてしないと思うけど...多分彩ちゃんが強引に引っ張り回してるわね、これ。

 

「あ、そうだおたえ。俺新しいエフェクター欲しくてさ。歪みなんだけど。これから楽器屋巡り付き合ってくんね? バイトまでまだ時間あるっしょ?」

「うん、いいよ。私もシールド買おうと思ってたし」

「あざ。それじゃあ松原さん、白鷺さん。俺たちお先に失礼しますね」

 

 自分達の分の伝票を持って、関口海と花園さんは席を立つ。

 花音は少しだけ名残惜しそうに眉尻を下げたけれど、すぐに笑顔になって二人に手を振った。私も、いつもの笑顔を浮かべて軽く手を振る。

 

「...話に聞いてた通り、って感じだったわね、彼。想像通りではなかったけれど」

 

 関口海たちが完全に店を出てから、私は呟いた。

 ついでに店員さんを呼び、紅茶を二つ注文する。

 

「関口くんはいい子だよ? こころちゃんにも付き合える常識人だ〜、って美咲ちゃんも信頼してるし」

「弦巻さんのことはあまり分からないけど...そうね、悪い人間ではない気はするわ」

 

 女の敵ではあるけど。

 しかし、それも無自覚なのかもしれない。いわゆる天然ジゴロというやつだろうか。それなりのスペックを待っていて、周りから好意を寄せられるくせに、自分に自信がなくてその好意に気付かない、気付こうとしない。そんな部類の人間な気がする。

 まぁ、自覚があろうがなかろうが女の敵は女の敵。そこに変わりはないけれどね。

 

 そのあとは花音による、関口海がいかに優しいか、みたいな話がされた。

 アルバイト先で花音がミスした時にフォローしてくれたこと。道に迷った時にわざわざ隣町まで迎えにきてくれたこと。弦巻さんに振り回されている時にそれとなく手助けしてくれたこと。etc. etc.

 

 いや花音、あなたそれただの惚気話よ?

 そう言葉にはせず、私は黙って花音の話を聞いていた。ほぼ右から左だったけれど。

 きっと関口海が誰にでも振り撒く優しさの一端なのだろうけれど、女の子がその優しさを受けたら大なり小なり思うところはあると思う。好意なのか、はたまた親愛なのか。そこはまた分かれそうだ。花音のそれも、今はどっちだと断言はできない。予想は容易いけど。

 

 ま、確かに悪い人間ではないと思う。それが分かっただけでも、今日は収穫があった。

 彩ちゃんやイヴちゃんには少しキツく言えば問題はないだろう。私の中での『関口海は危険な男』という評価は覆った。

 

 

 

 

 その夜、彩ちゃんがSNSに載せた写真にまた関口海が写っていて、しかもなんか恋人用のストローがささったドリンクも写っていて、私の警戒度は元に戻るどころかそれ以上に跳ね上がることになる。

 

 

 




~まん丸お山に彩りを、丸山彩の陳謝~

───私昨日突然1日オフになって、学校も早く終わっちゃったし暇してたらなんか海くんからTwi〇terのフォローきたから速攻フォロバしてDMで「暇! 遊び行こ!」って誘ったんだよ! そしたら海くんが「ちょうどいいんでこの前丸山さんが行きたいって言ってた喫茶店行きましょう」って言われたからそこ行って、なんかカップル割みたいなのがあって、あのカップルストロー付きの飲み物頼んだら食べ物が1人1種類タダになるって言われたから頼んだの! ...えと、千聖ちゃん? なんでそんなに怖い顔して...ま、待って千聖ちゃん。それはダメだって。それはまず──ぴィっ!?

専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。

  • 伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
  • 好きにやってええんやで(菩薩)
  • 全然分かるけど辞めな
  • 分かるからそのまま続けて、どうぞ。
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