ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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勘違いをしていること自体が勘違いだったりすることもある、稀にね

 

 

 

 

 

 あいつは、人生で初めてできた異性の親しい友人だ。...と、思う。あいつがどう思ってんのか知らないから本当に友達なのかは分かんねーけど。

 

 

 

「うぅ...宿題終わんないよぉ〜...有咲〜!!」

「うるさい。口じゃなくて手を動かせよな。...しょ、しょうがねーから分かんないとこは教えてやるよ」

「ホント!? ありがと有咲〜!! じゃあこれとこれとこれと...あとこれも...あ、こっちもお願い!」

「全部じゃねぇか!!」

「だってぇ...分かんないんだもん...」

「あー.....関口、パス」

「いやなんで俺。まぁいいけどさ。今俺おたえに教えてっから、香澄も一緒にやんぞ。あ、答えは教えねぇからな。解き方だけ」

「え〜!? う〜...はぁい...」

「有咲ちゃん、ここの問題が分かんないんだけど、教えてくれない?」

「ん? ああ、そこは答えをxって仮定して二次方程式を使えばいけんぞ」

「ありがと〜!」

「あー!! 有咲、りみりんには教えてる! ズルい!」

「うるっせぇ!! あとでみてやっから自分でできるとこまで進めとけ!」

 

 

 

 最近は見慣れてしまったこんな光景も、ほんの数ヶ月前までは想像もできなかったものだ。

 私の部屋で、私の友人と過ごす時間。

 私が憧れてたものを引っ提げてやってきたのが戸山香澄。こいつのおかげで、私の周りは賑やかになった。そのせいで溜まるストレスも少なくはないけどな。

 

 その中で出会った男子が、あいつ。

 最初は急に他人(ヒト)()の蔵に入ってきてギター弾きだしたヤベー奴って認識だったけど、話してみると案外いい奴だってことが分かった。

 そして何より常識がある。空を飛びたいとか言い出さないし、歯ギターも練習しないし、ライブ中にチョココロネを投げないし、スティック三刀流とか言い出さない。

 私のストレスを軽減してくれる安定剤。それがあいつ。奥沢さんも似たようなこと言ってたな。

 

 

 私にとって、あいつは必要な存在だ。

 精神安定剤的な意味ももちろんあるけど、それ抜きでも、私はあいつと友達でありたいと思う。私にとっての大切な人の枠に入ってきているくらいだ。

 最初に壁をぶち壊したのは香澄だけど、そのあとに私の手を引っ張ってくれたうちの一人。

 あんまり他人に好まれる性格じゃないのは自覚してるけど、そんな私に嫌な顔もせず付き合ってくれるような、数少ない私の友達。

 

 ──...な、わけなんだが。

 

 

「おー、確かにこりゃ綺麗に見えるなぁ、花火」

「どっ、どうでもいいから早く手ぇ離せよな!?」

 

 

 なんで私、こいつと二人っきりで花火なんか見てんだよ!?

 しかも手ぇ繋いでるし! 手ぇ繋いでるし!!

 

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 夏休み初日。

 

「ねぇみんな! 明後日この辺で花火大会あるんだって! 知ってた!?」

「「「「「知ってた」」」」」

「えぇ!?」

 

 市ヶ谷家の蔵、その地下。

 ポピパことPoppin’Partyの練習場となっているこの場所で、今日も今日とてポピパの面々は楽器を弾いたりお菓子を食べたり本を読んだりと好き勝手に過ごしていた。

 いや、夏休みの宿題()を早めに終わらせたいから手伝ってくれって言われて俺今日ここに来たんだけど、さてはこいつら宿題する気ないな?

 

「んな驚くことでも騒ぐことでもねーだろ。毎年やってんだから、その花火大会。街中にそのポスター貼ってあるしな」

 

 盆栽特集雑誌のページを捲りながら、市ヶ谷さんが興味の薄そうなテンションで言う。

 確かに、毎年とは言わないけどほぼほぼ行ってたからな、その花火大会。ここら辺では一、二を争うデカい花火大会だし。

 でもそっかー。今年もそんな時期になったのかー。

 

「花火大会行こ! みんなで!」

「やだよめんどくせぇ。なんでわざわざあんな人混みに自分から入ってかなきゃなんねーんだよ。花火見てんのか人見てんのか分かりゃしねぇ。私はパス」

 

 面倒くさそうに右手をプラプラと振り、市ヶ谷さんは不参加の立ち位置を取る。

 まぁ確かに、市ヶ谷さんは花火大会とかそういうの苦手そうだよな。

 

「やだ! みんなと一緒に行きたい!」

「地団駄踏むな、子供かお前は。...いや。子供か、お前は」

 

 呆れたような目を香澄に向ける市ヶ谷さんは、パタリと雑誌を閉じて机に置き、代わりに紅茶をその手に取る。

 

「だいたいなぁ。今日だって宿題やろうっつって集まったんだろうが。それをお前、今日一問でも問題を解いたか?」

「ギクッ!」

 

 自分でギクッとか言うやつ、この世に存在するんだな。

 しかしまぁ、香澄が宿題をするなんてありえない。しかも夏休み初日なんて、ほとんどのやつが宿題の存在を頭から弾き出しているものだろう。

 

「でも有咲だって今日雑誌読んで紅茶飲んでるだけじゃん! 宿題、やってないじゃん!」

「私はもう終わらせたし」

「えっ!? ほ、ほんとに...?」

「たりめーだ。嘘をつく意味もないしな。夏休みが始まったのは今日だけど、宿題自体は学祭終わりくらいから出てただろ」

 

 ドヤ顔で鼻を鳴らしながら、市ヶ谷さんは今日五杯目の紅茶をカップに注ぐ。それにしてもめちゃくちゃ飲むやん。

 

「海。ここの間奏の譜割、どうしよっか? 明らかにギター三本鳴ってるけど」

「んー...どっちかがコード、どっちかが目立つ方の単音弾くか。おたえどっち弾きたい?」

「私の方が単音慣れてるし、私そっち弾くよ」

「おけ」

 

 おたえと軽い確認を取ってから、俺は譜面台に置いてある紙にコード名を書き込んでいく。多分これで合ってるはず。知らんけど。

 

 俺とおたえがやっているのは、ヨル〇カの曲の耳コピだ。

 暇だったから俺がテキトーに曲のコピーを始めたら、おたえも同じ曲をコピーし始めたから始まったこのセッション。別にどこかで披露するつもりは微塵もないけど、なかなか楽しいなこれ。いやめちゃくちゃムズいけど。n-bu〇aは天才、はっきりわかんだね。

 

「おたえは!? おたえは花火行きたいよね!?」

「ん? 浴衣、着ていこうかな」

「いや行く気満々かよ!?」

 

 気付けばポピパみんなで花火大会に行くことになったらしい。相変わらず仲良いなこいつら。

 まぁ俺はアフグロのメンバーと別日の花火大会に行く予定だし、明後日の花火大会の日は家でド〇クエでもしとこうかな。それに明後日は母さんも姉ちゃんも家にいないから一人を満喫したい。

 家からでも花火の音は聞こえるから、それをBGMにひたすらレベル上げ。それもまたオツというもの。

 つーかひと夏で二回も花火大会に行かなくていいだろ。疲れるわ。

 

「じゃあ明後日は海くん()の前にしゅーごーねっ!」

「「「「はーい」」」」

「ん?」

 

 ん?

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「かーいーくんっ! あっそびーましょっ!」

 

 花火大会当日。夕方。

 家でレベル上げしてたら家のインターホンが鳴り、出てみたら浴衣を着た香澄が玄関の前に満面の笑みを引っ提げて立っていた。うーん。やっぱ顔はいいんだよなこいつ。かわいい。じゃなくて。朝顔柄の入った赤い浴衣似合ってんな。いやそうでもなくて。

 

「...え、マジで来たの?」

 

 今日は徹夜でレベル上げするつもり満々だったんだけど。

 夜食に冷凍のチャーハンと餃子買ってるし、晩飯はピザ注文しようと思ってたんだけど。まじ?

 

「まじだよ! 冗談だと思ってたの!?」

「いや、まぁ、うん。ポピパだけで行くもんだと」

「そんな仲間外れみたいなことするわけないじゃん!」

 

 仲間外れもなにも、俺ポピパのメンバーじゃないんだが(名推理)

 てかあれから何も連絡なかったし、冗談か、あるいはその場のノリで言ったんだと思ってた。ほんとに来たんだぁ。

 

「あー...ほかのメンツは?」

「さーやが下にいるよ!」

「...おけ。香澄も下で待ってろ。すぐ行く」

 

 そう言って俺はとりあえず玄関の扉を閉める。

 俺の自宅はマンションの七階の角部屋だ。下、ってことはエントランスかマンションの前で待ってるんだろう。夕方とは言え、この時期は普通に暑い。さっさと準備して下に降りっか。

 

 冒険の書を書き、ゲームの電源を切り、ド〇ノピザのチラシを片付け、『早く俺のレベルまで上がってこいよ』とプリントされた白Tシャツからマキシマム〇ホルモンのバンTに着替え、髭を剃り、軽く髪を整え、鍵とスマホと財布だけ短パンのポケットに突っ込んで外へ出る。

 この間、わずか五分。男の準備は楽でいいね。姉ちゃんなんて朝大学に行くまでに一時間以上かかってるもんな。化粧とかヘアセットとか、本当に大変だな女の人は。いやヘアセットくらい男もするんだろうけど。

 

 

「お待たせ」

 

 エレベーターから降り、マンションから出ると、そこには浴衣女子が三人も立っていた。

 右から香澄、山吹さん、牛込さん。香澄はさっき見たから知ってたけど、山吹さんや牛込さんも浴衣なのか。

 向日葵柄のオレンジを基調とした浴衣の山吹さんに、金魚の絵が入った赤...ってよりピンク基調の浴衣の牛込さん。うーん、眼福。

 

「あ、関口くん。ごめんね〜、押しかける感じになっちゃって」

「まぁ、お嬢とか香澄が絡んだらいつもだいたいこんなだし。慣れた」

「あはは、なんだか大変そうだね? 目が遠いとこ見てるよ」

 

 いやぁ、香澄のはまだマシなくらいだから。

 俺、昨日の晩はニュージーランドにいたんだぜ? ラグビーの試合みて感化されたお嬢に拉致(つれ)られてさ。まぁお嬢がすぐに飽きたから二十四時間以内に日本に帰ってきたけど。

 日帰り海外旅行とか意味分かんねぇよな。ははっ(死んだ目)

 

「気にすんな。それに今日は浴衣女子が見れたから。むしろプラスだよありがとうございます」

「えへへ〜! さーやが着付けてくれたんだよ! どぉどぉ? 似合ってる?」

「んー、かわいーよー」

「なんか心が篭ってない気がする!?」

 

 いや、実際めちゃめちゃ似合ってると思うしかわいいけど、なんかクラスメイトの女子に面と向かってそんなこと言うの恥ずかしいじゃん?

 

「私達はどうかな、関口くん。結構自信あるんだけど。ねぇりみりん?」

「えっ? あ、う...うぅ...」

 

 恥ずかしがるりみりんかわ...え、今めちゃくちゃ背筋凍ったんだけど。こんな蒸し暑いのに寒気したんだけど。え、何。須田の殺気か何か? 嘘でしょ?

 

「お待たせ〜。...あ、みんな浴衣。良かったね有咲、二人だけじゃなかったよ」

「だな〜。つーかおたえと会うまでめっちゃ恥ずかったんですけど...一人で浴衣着て歩くのヤベェ...」

 

 感想を言うことすら忘れて恐怖を感じていると、おたえと市ヶ谷さんの二人がカランコロンと下駄を鳴らしながら歩いてきた。

 おたえと市ヶ谷さんも、ほかの三人と同じで浴衣を着ている。

 おたえは紫陽花の柄が入った青基調の浴衣だ。ほかの三人に負けず劣らず顔が良いことに加え、おたえのサラサラとした黒髪は浴衣に良く映える。美人さんだな。中身アレだけど。

 市ヶ谷さんは、なんか花の柄が入ってる紫の浴衣。なんの花だっけあれ。睡蓮? ユリ? なんかそんな感じのやつ。市ヶ谷さんはかわいいっていうよりなんていうかこう...色っぽいな。

 

「じゃあみんな揃ったし、花火大会にれっつごー!!」

「あっ、香澄あんま浴衣で走んなよっ!?」

「有咲も浴衣で走ったらいろいろと危な...あっ、有咲! 太もも! 太もも見えてるから!」

「え? ちょ、まっ!? みっ、見んな関口テメェ!!」

 

 ...とても、いいと思いました(合掌)

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「うわー...分かってたけど、人すげー...」

 

 そんな辟易とした市ヶ谷さんの声が耳に届く。

 花火大会に付き物の屋台。それが並ぶ通りに近付くにつれ、人の数も段々と増えてきた。

 ちっちゃい頃に蘭たちと来た時はひまりがはぐれちゃって大変だったっけ。

 

「花火ってどこから上がるんだっけ?」

「えーっと、多分あっち。けどこっからじゃ見えないかもな」

「え!? 花火見れないの!? やだー!!」

「うっせぇ耳元で叫ぶな!!」

 

 そんないつも通りの仲良しを見せつける彼女たちの数歩後ろを、俺はタラタラと歩く。

 

「海。そんなに離れてるとはぐれるよ?」

「あー...大丈夫大丈夫。それにほら、あんま横に並ぶとほかの人の迷惑になるじゃん?」

 

 こちらに気を使ったおたえに軽く手を振り、一、二歩分だけ距離を詰める。

 女子連中との距離にはちゃんと意味がある。ただ遅れてるだけとか、スマホ弄ってるとか、そんなちゃちなことじゃあない。

 

 いや、男女比一対五で歩くの普通に恥ずかしいよね(思春期)

 

「そんなに騒ぐな...ったく、仕方ねぇなぁ。あそこ行くか」

「? どこかいい場所でも知ってるの? 有咲」

「まぁな。着いてこいよ、案内してやっから」

 

 蘭たちとはもう十年くらい一緒にいるし今更恥ずかしいとかはないんだけど、今日一緒に花火大会に来ているのは気心の知れた幼馴染みじゃない。ある程度仲がいいとはいえ、まだ付き合いの短いクラスメイトだ。しかもその五人の仲はめちゃくちゃにいい。そんなグループがきゃっきゃしてる中に身一つで入っていく勇気は俺にはない。

 

「あっ、屋台だ!! 私ちょっとかき氷買ってくるね! あ、あと焼きそばも食べないな〜。それから焼きイカと...」

「か、香澄ちゃん...! あんまり一人で離れたら...うぅ、わっ、私ちょっと香澄ちゃんに着いていくね! あとで合流しよっ!」

「あっ、おい香澄! りみ! ...ったく、香澄のやつ...」

 

 しかもこれが全員美少女ときたもんだ。緊張の一つだってする。いつも美少女に囲まれて行動してるハーレム漫画の主人公ってすげぇんだなって思うよマジで。

 ここは学校やスタジオじゃない、完全な非日常の空間。いつもと違う環境下で異性と過ごすのって結構恥ずいんだよなぁ。なんだろコレ(思春期特有のアレ)

 バンドやってる時とかほかに集中することがあるからいいんだけどなぁ。それかあれだよ、せめて一対一とかならもう少しうまくやれてた気がする(フラグ)

 

「よーし、んじゃここを右に...ってあれ? おたえとさーやは?」

「.....うぇ?」

 

 うぇ?(回収)

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

「.....うぇ? ...あれ、なんで市ヶ谷さんしかいねーの?」

「質問に質問で返すなよな...」

 

 慣れない人混みの中を必死こいて進んできて、ふと後ろをみたら、そこにいたのはどこかフラフラとした足取りの関口だけ。

 どうやら私たちはおたえやさーやとはぐれてしまったらしい。いや、目的地を知ってんのは私だけだから、あっちがはぐれたのか? まぁどっちでもいいか。

 

「関口、お前一番後ろにいたのにおたえたちとはぐれたの気付かなかったのかよ」

「んー、ちょっと考えごと? とか、そんなことしてて...すまん」

 

 申し訳なさそうに、関口は後頭部を掻く。

 いや、悪いのは関口じゃねーよな。悪ぃのは全部香澄だ。あのバカ、あんな人混みの中に入っていったらはぐれるに決まってんだろ。

 

「香澄たち、スマホ持ってきてねぇの?」

「いや、持ってるはずだけど...あー、やっぱ繋がんねぇなぁ。祭りだし仕方ないか」

 

 スマホの画面左上に表示された『圏外』という文字を忌々しく睨んでから、私はスマホをしまう。

 ちくしょう、こんなことになるんだったらもったいぶらずに場所言っときゃ良かったかな...。はっ、後悔先に立たずってか。

 

「仕方ねぇし、先に進もうぜ。市ヶ谷さんの言ってた秘密の場所、この先なんだろ? もう少しで花火が始まっちまう」

「.....まぁ、それもそうだな」

 

 おたえもさーやも進行方向は分かってるはずだから、もしかしたら例の場所で合流できるかもしれない。確率は限りなくゼロに近いが、この人混みの中で無闇に探し回るよりはマシだろう。

 私は素直に関口に応え、人混みが進む方向とは逆方向に体を向ける。

 と、その時。私の肩が男の人にぶつかった。

 

「わっ...!」

 

 相手が男の人ってことと、振り返り際ということもあり、私が力負けして弾かれて後ろによろける。なんとか踏ん張ろうとしたが、足が上手く動かず立て直せない。

 あー、慣れない下駄なんて履くから。

 そんなことを思いながら、私はお尻や腰にくるであろう衝撃に耐えるために歯を食いしばった。

 

 .....が、痛みがない。それどころか尻もちをついた感覚もない。

 何かが背中を支えてくれてる...? 帯越しだから感覚もはっきりしないけど。

 ふと首だけで後ろを見た。するとそこには、私の唯一と言ってもいい男友達の妙にドアップな顔が。あ、右目にホクロあるんだこいつ。...いやそうじゃない。

 

「すんませんっした〜」

 

 私とぶつかった相手に軽く頭を下げ、何故か関口が謝罪する。

 相手も特に何事もなかったらしく、同じように会釈して友達らしき奴らと一緒に去って行った。

 

「ほら、大丈夫か市ヶ谷さん。足挫いたりしてない?」

 

 ぐっ、と背中を押されて、倒れかけていた体が元に戻る。

 この状況になって、私はようやく現状を理解した。

 倒れそうになった私を、関口が支えてくれたんだ。

 

「...だいじょぶ。ありがと.....」

「そ、なら良かった。下駄って足首挫きやすそうだもんな〜」

 

 私の足元、多分下駄を見ながら、関口は言う。

 そして顔を上げたかと思うと、数秒ほどキョロキョロと目線を漂わせたあと、恐る恐るといった感じで手を差し出してきた。

 

「あー、花火の時間近くなってきて人も増えてるからさ。市ヶ谷さんが嫌じゃなきゃでいいんだけど、その...俺たちまではぐれないようにさ」

 

 どことなく歯切れの悪い台詞だが、関口の言いたいことは分かる。

 要するに、さっき香澄達がしていたように、手を繋ごうと言っているんだろう。.....いやいやいやいや。え? いくら友達だっつっても手は繋がねぇよな普通。相手男だし。うん、繋がない。はず.....だよな? え? 繋ぐもんなの? わっかんねぇよ普通の友好関係がよぉ...(元ボッチ) そういやさっきおたえは関口とも手ぇ繋ごうとしてたような...繋ぐもん...なのか...?

 

 一瞬とも言える間で、私の思考は駆け巡る。

 そして弾き出された答えはと言えば.....

 

「...人混み抜けるまでだかんな」

 

 関口の手を取ることだった。

 

「えっ」

 

 なんでお前がちょっと驚くんだよ。

 

「人混み抜けたら繋いでる理由もないだろ!」

「あ、いや、そうなんだけどさ...いや、手、繋ぐんだと思って」

「...は? いやいやいや、お前から手ぇ出してきたんだろ?」

「いや、市ヶ谷さんの浴衣の裾でも握ってりゃはぐれないかなって思って...」

「は?」

 

 は?

 

「いやまぁこっちの方がいいっちゃいいかもな。裾掴んでたらシワになるかもだし。ちょっと緊張すっけど」

 

 こっちはちょっとどころじゃないんですケド。

 てか恥っず。恥っっっず!! めちゃくちゃ恥ずいんですけどなにこれ顔が熱いめっちゃ熱い。

 

 いや勘違いすんだろ普通よォ!? それとも何か? 私が普通じゃないってか? バーカ!!!

 

「ここ右に行けばいいんだよな。...あ、ってことはもしかして、秘密の場所ってあの神社のこと?」

「そうだよバーカ!!!! アホ!!」

「えぇ...そんな急に罵られても...」

 

 アホ! ボケ! ウスラトンカチ!

 

 真っ赤に染め上がった顔で関口を睨みつけるも、関口は少し困惑するだけで手は離そうとしない。

 私の前に立ち、人混みをかき分けるように進んでいく。人の流れに逆らって進んでるから、そりゃ当然歩きにくい。が、関口が先行してくれているからさっきより全然歩きやすいし、人とぶつかることもない。.....関口はさっきから結構ぶつかってたりするけどな。 いらねー気回しやがって。

 

 いろいろな感情を込めた目で繋がれた手とか関口の背中とかを見ていると、不意に大きな音が体を打つ。

 腹の奥にまで届くような重低音。バスドラのそれと同じかそれ以上に重く、そして深く響いているように感じるこの音は、打ち上げられて破裂した花火の音だ。

 

「うわ、始まっちまったな。まぁ一時間くらいは打ち上げるらしいし...まだ間に合うか?」

 

 花火を見上げつつ、関口が軽く憂いをこぼす。

 確かに、この花火大会はここらで一位二位を争う規模の大会だ。だいたい六千発くらいは上がると思う。まだ香澄達と合流できるかもしれないという希望が潰えたわけではない。まぁ、あいつらが私の秘密の場所=神社だって分かればの話だけどな。普通に考えて厳しいだろう。

 

 二発目、三発目、四発目と、次々に大輪が夜空を彩っていく。

 本来運営側が想定していた“花火をみる場所”から離れているため、祭りのために用意された明かりはどんどん少なくなってきていたのだが、花火の明かりのおかげで足元もよく見える。

 

「そういや、あの花火が上がる時に聞こえる『ぴゅるるる〜』って音。あれって花火玉が風を切って出る音じゃないらしいね。昨日テレビで言ってた」

「あ、ああ。アレだろ? 笛で鳴らしてるってやつ。親玉が開花する前に小花を開かせたり音を出させたりするために、本体と同時に打ち上げる付加物があるものを曲導(きょくどう)っていって、その付加物のうちの上昇中に音を出すのを“笛”って呼んでんだ」

「へー。さすが市ヶ谷さん、なんでも知ってんね。ほかに何か花火のうんちくとかあんの?」

「え? そうだなー...玉屋鍵屋の話とか?」

「あー、花火に向かって叫ぶやつ?」

「それ。あれは昔、両国川開きで競ってた二人の花火師の名前なんだよ」

 

 リアクションの良い関口に乗せられ、私の口数はどんどん増えていく。自分の知識を披露して、それに感心されれば悪い気はしない。

 そんな風に多少気持ち良くなりつつ話を続けていた私達は、気付けば目的地である神社の鳥居を潜って境内へと辿り着いていた。

 

「こっからじゃ神社が邪魔になって花火がよく見えねぇな...」

「ああ、だから裏に回るんだよ。座れる場所もあるし、小さいけど池もあるんだ。ザ・風流って感じだぞ?」

「そりゃ楽しみだ」

 

 石畳の参道から外れ、敷き詰められた玉砂利に下駄を取られ苦労しながら歩く。

 その間も花火は絶え間なく打ち上がり、ドンッ、ドンッ、という音を身体で感じことができる。なんだかんだ言いつつも、花火を見るのはそれなりに楽しみだった。香澄達がいないのは少し、本当にすこぉしだけ不満だけど。

 

 玉砂利から抜け出し、神社の横を歩き、私と関口は神社の裏へと辿り着く。

 ふと、そこで気が付いたことが一つ。

 

 ...あれ? 手、繋いだままじゃね?

 

「おー、確かにこりゃ綺麗に見えるなぁ、花火」

 

 神社という遮蔽物がなくなったことで、花火の光が私達を照らす。

 夜空の大華に見蕩れるこいつの顔を見て、私の心臓は飛び跳ねた。

 

「どっ、どうでもいいから早く手ぇ離せよな!?」

 

 思わず、大きな声が出てしまう。

 

「? あっ、わり...!」

 

 一瞬不思議そうな顔をした関口だったが、慌てて手を離して私から一歩分飛び退く。

 いや飛び退く必要はなかったろ。別に近いままでも...ん? いや違う、違うぞ私!? なんでちょっと名残惜しいとか思っちゃってんの!? 違うからな!?

 

 私も、そして多分関口も。なんだか急に気恥ずかしくなって互いに無言が続く。いや関口てめぇ、お前が手ぇ握って行こうっつったんだろ。先に握ったのは私だけどさ、お前が今更照れんな私まで恥ずくなんじゃねぇか!

 

 無言の中で、身体の芯まで届くような花火の音だけが響く。

 その音と同じくらい、私の心臓も脈打っていた。よく分からない気持ちの高まりから、視界がぐるぐると回る。

 

 いや、分かってるんだ。これってアレだろ? 吊り橋理論ってやつだろ? 私は知ってるんだ。カナダの心理学者が提唱してる勘違い効果。心理学者の名前は忘れたけど。曰く緊張のドキドキと恋愛感情のドキドキを脳が誤認するとかなんとか。実験の内容は確か───

 

「──有咲」

「ひゃっ、ひゃい!?」

 

 突然かけられた声に、更に心臓が高鳴る。

 周りは花火の音で煩いというのに、その透き通る高音の声は、大音量に掻き消されることなく私の耳に届く。

 

 ...ん? 有咲? 高音?

 

「有咲。有咲ってば」

 

 私の顔を覗き込む、端正な顔。

 サラサラな黒髪が風に(なび)くその姿は、女の私から見ても綺麗だと思うほど。

 

「...って、あれ? おたえ?」

「うん、そうだよ」

 

 私の目の前にいたのは、男なんかじゃなかった。

 どこかではぐれてしまったおたえが、何故か今私の目の前にいる。

 いや、おたえだけじゃない。隣ではさーやが関口と何か話している。

 

「有咲、大丈夫? なんかボーっとしてたけど」

「え? ...あ、ああ、うん...? えと...いつからいた?」

「ん、本当に今さっき。名探偵沙綾の推理でここまで来たんだ。ぶい」

「いや、なんでお前が誇らしげなんだよ...」

 

 どうやら緊張で全然気付いていなかったらしい。

 二人で手を繋いでるとこは...見られてないよな?

 

 

 

 その後、すぐに香澄達も神社へとやってきた。さーや曰く、私と香澄の考え方は似てるらしい。香澄と一緒にするのはやめてくれ。まじで。頼む。

 

 まぁなんだかんだで最後は全員で集まれて良かったと思う。

 今まではちょっと綺麗なうるさいものって認識だった花火も、みんなで見たらうるさいのなんて気にならないくらい楽しいものになった。これはみんなには秘密。バレたら恥ずいし。特に香澄には絶対バレたくねー。

 

 

 それから...

 

「なぁ関口。お前、氷川先輩と付き合ってるってマジなわけ?」

「は? あー、確かそんな噂もあったな...。それ、須田が流した真っ赤な嘘だよ。俺と氷川さんは付き合ってない」

「ふーん。そっか」

「? どしたの急に」

「なんでもねーよ。ばーか」

 

 私のちょっとした心情の変化も、みんなにはまだ内緒だ。

 

 




無理やりすぎたとは思ってます後悔はないですけど。

もう少し投稿頻度を上げたいところではある。
感想評価等めちゃくちゃ欲しいですめちゃくちゃモチベになるのでめちゃくちゃ(素直)

専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。

  • 伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
  • 好きにやってええんやで(菩薩)
  • 全然分かるけど辞めな
  • 分かるからそのまま続けて、どうぞ。
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