ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
彼の第一印象は、変態。
そして第二印象も、変態。
色々な意味で、彼は変態だった。
そんな彼と出会ったのは、地元から遠く離れた都会の地。
アスファルトから陽炎がユラユラと溢れ出ている、茹だるような夏の日だ。
バスに揺られ、電車に詰められ。
地元とは文字通り桁が違う人の数に酔いながら、死に絶え絶えの満身創痍でやっとさ辿り着いた東京は、地元より暑く、そして熱かった。
親に内緒でこんなとこまできちゃったけど...でも、私はこの選択に後悔なんてしていない。
★ ☆ ★ ☆ ★
「...ふふ、花園ランドはすぐそこに...ふ、ふふ.....」
そろそろ七月も終わろうかという、夏休みの何でもない日。
俺の自室で俺のアコギをチャカチャカやりながら、おたえが物憂げに言葉を漏らした。物憂げってより病んでんなこれ。
花火大会の一件で俺の家を知ったポピパが最近良くウチに突入してくる以外は意外と平和にやっていた俺の元に、何やら不穏げな話が転がり込んできている。なるべく避けたい話だ。蕎麦食いに行こ。近くに美味い蕎麦屋があるんだよ。
「あのね、関口くん。実はおたえのバイト先のライブハウスが潰れちゃうみたいで」
俺の自室で俺のクッションをドラムスティックでポンポン叩く山吹さんが、おたえが病んでる事情を話した。いやだから蕎麦食いに行くんだよ俺は。これ以上話進めんな。
「そうなの! だから、そのSPACEの最後のライブにみんなで出よっ!」
財布をケツポケに突っ込み、スマホを手に取ったところで、俺の自室で俺のポケ〇ンソ〇ドをプレイしてる香澄がそんなことを言い出した。
...無視して蕎麦食いに行けなくなったんだが。
「まぁウチら、まだオーディションに受かってないんだけどな。つーか関口達ってSPACEで演れるのか? あそこ、ガールズバンドの聖地とかなんだろ?」
俺の自室で俺のシンセを弄っている市ヶ谷さんは、呆れたように言った。いや呆れたいのはこっちなんですが。
なんで俺が出かける準備してんのにお前らは部屋から出ていく素振りすら見せないの? 俺ちゃんビックリだよ。
「お姉ちゃん達も出るから、私出たいんだ、SPACEのライブ。須田くんは『いいよ、出るよ』って言ってくれたんだけど...」
俺の自室で俺の本を読みながら、牛込さんは上目遣いで懇願気味に聞いてくる。てか須田あの野郎、牛込さんだからって絶対安請け合いしただろ。チョロすぎんなアイツ。
しかしまぁ、ライブは俺もやりたい。
それにSPACEか。ちょっと前にRoseliaとかAfterglowもライブしてたな、確か。あそこのオーナー、基本はいい人っぽいけど厳しそうだからなぁ。
「いやまぁ、出る分にはいいけどさ。俺ら自分の曲なんもねぇよ? てかそもそもバンド名もない」
「大丈夫だよ! 私昔SPACEのライブ行ったことあるけど、その、こぴばん? みたいな、プロの曲カバーしてる人達もいたし! 海くん達三人だし、アレとかいいんじゃないかな! あの〜...なんだっけ? ゆに...ゆに.....なんとか!」
「ユニ〇ンな。UNI〇ON S〇UA〇E GA〇DEN」
「そうそれ! さすが有咲〜」
「引っ付くな!」
突然イチャつきだした夫婦は放っておくとして。他所でやって、どうぞ。
にしてもユニ〇ンかぁ。
「お前そんなん、ゲロ難変態バンドやんけ。あんなんコピーするバンドとちゃうでホンマ」
「そこまで!? いや、確かに難しいけど...関口くん達でもやれないものなの...?」
「まぁできるけど」
「できるのかよっ!!」
まぁね(フンスッ)
しかしまぁ、難しいのは事実だ。あんなん化け物の集まりだからな。
そして一番の問題はベース。いや、田〇さんはエグい。マジでエグい。須田がいくら天才だっつっても、まだベースを始めて三ヶ月も経っていないのだ。それでユニ〇ンのベース弾けってのは中々厳しいだろ。
というわけで、とりあえず須田に電話してみた。
『あい、どしたん関口。え? ライブ? あぁりみが言ってたやつな。あ、マジでやんの? 決定? やったぜ! ...え、決定じゃなくて仮定? オーディションとかある? そんなん死んでも合格してやっぞバカ野郎この野郎。俺めちゃくちゃ練習するわ。ユニ〇ンのコピー? なんぼのもんじゃい』
やれるらしい。マジかあいつスゲーな。
五十嵐? あいつは何でも叩けるよ俺はそう信じてる。
...あれ? そういや須田って、牛込さんのこと前から下の名前で呼んでたっけ? あれ?
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
さて、SPACEのラストライブに出たいねっていう話が出た日の翌日の正午。
今日はお母さんが仕事でいないし昼飯の作り置きもなかったから、姉ちゃんと一緒に近所の蕎麦屋へ出向いてきていた。
「SPACE? 何あんた、SPACEでライブやんの?」
「らしいね」
「らしいってあんたね...にしてもSPACEかぁ。懐かしいわ」
「? 何姉ちゃん、SPACE行ったことあんの?」
お待ちどうさん、と俺と姉ちゃんの前に蕎麦が置かれる。
今日は姉ちゃんの奢りだから、思い切ってざるそば大盛りにミニカツ丼、それからエビとナスの天ぷらも付けてしまった。なかなかいいお値段である。しかも姉ちゃんも同じやつ頼んでるからすごい。てか姉ちゃんそんなに食うのかよ、そっちもビックリだわ。
姉ちゃん割のいいバイト見つけたとか言って稼いでるからな〜。にしても全額ポンと出して貰ったのは嬉しいんだけどちょっと引いた。なんのバイトしてんだろこの人。やべぇやつじゃなけりゃいいけど。
「SPACEは高校ん時お世話になったんだよね〜。ほら、あたし高校でバンド組んでたじゃん?」
「ん? んん」
蕎麦を啜りながら、鼻を鳴らして返事をする。
そういや組んでたな。姉ちゃんが高三の時の夏に解散したんだっけか。受験とか色々あって。なんか一人はプロ行ったとかなんとか。
「そのバンドでしょっちゅうライブに出させてもらってたんだよね。あ、それとお母さんがそこのオーナーと知り合いっぽくて。ちょっと目ぇかけてもらってた」
「ほえぇ〜」
それは知らなんだ。
お母さん顔広いよな。友希那さんのお父さんとも知り合いだし。音楽関係強え。
「あ、そういやSPACEってガールズバンド御用達みたいな話聞いたんだけど、俺らってライブできるん?」
「さあ? 知んない。まぁなんとかなんじゃない?」
「かっる」
「人生そんなもんだって。あ、それかオネーチャンがオーナーに口聞いてあげよっか?」
「まじ?」
それはありがたい。
ライブはやりたみがあったけど、そもそも参加資格があるのかどうかも分かんなかったからな。まぁ姉ちゃんにどこまで口聞けるだけの権力っていうか、あのオーナーとの関係を築いてるのかは知んないけど。
昨日聞いたらSPACEのラストライブはRoseliaもAfterglowもハロハピも出るっつってたし、その辺にも頼んでもらおっかな。
「ごちそーさん。ちょっとトイレ行ってくる」
「む、まだあたし食べてる途中なんだけど。トイレとか汚いよ、ちゃんと『熊狩ってくる』って言いな」
「.....? え、何それ。花摘みに行ってくる的なやつ? まじ?」
初耳すぎる、つーか絶対それ言わないだろって雑学を知ってしまい、面白そうだから今度使ってみようと思いながら俺はトイレ、もとい、熊を狩りに行く。...いや熊狩るって強すぎんだろ。この前ひまりと動物園行った時に熊見たけど、あれは勝てねぇって。せめて芝くらいにしとけよ。
この蕎麦屋のトイレは一つしかない。
古い店だからか、スタッフどころか男女すらも共有するトイレだ。
俺が小学校低学年の時くらいまではぼっとん便所だった。あれ普通に怖いんだよな。あとくせぇ。夏場は地獄。
今はぼっとん便所なんてことはなく、T〇T〇の綺麗な腰掛便器になっている。ウォシュレット付いてるし、なんか使う度に除菌するとかなんとかってめちゃくちゃ綺麗なやつ。
昔は鍵とかもなくて、一々ノックして誰もいないのを確認してから入ってたけど、今はそんな必要もない。中で店員のおばちゃんと鉢合わせるとかいう最悪のシチュエーションは回避確定だ。...いや、そろそろ男女別でトイレ設置すりゃいいのに。
「ユ〇ゾンかぁ。シュ〇ビタは有名だからやっとくとして...新曲やりてぇな」
五十嵐は多分なんでも叩けるから大丈夫として、問題は俺と須田だな。いや、俺はまだ歴があるから練習すればいけるとしても、須田がどこまで弾けるかだよなぁ。ベース始めたばっかでブ〇ンキーとかユ〇ゾン弾けって言われたら俺なら逃げてる。あいつすげぇよマジで。
と、そんな考え事をしながらトイレのドアを開ける。
するとそこには、例の腰掛便器と、それに座っている人の姿が。女の子だ。見た感じ同年代くらい。青みがかった黒髪で、黒縁のメガネをかけている。
「.......」
「.......」
無言で見つめ合う、俺と半裸の女の子。
どっちも脳の処理が追いついていない中、先に現実へ帰ってきたのは俺だった。
「あぉ...そーりー、しーゆー」
それだけ言い残し、ものすごい勢いでドアを閉める。厨房の方から「トイレの鍵壊れとるよ〜」とか声がしたけど知らんよそれ早く教えといてくれおばちゃん。それか張り紙でもしとけ。
数瞬遅れて、トイレの中から悲鳴が聞こえてくる。そりゃそうだ。あっちは完全に被害者だからな。とりあえず土下座の準備でもしておこう。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
翌々日。
中学二年の時に巴の家に遊びに行って何の間違いか巴の下着姿を見てしまった時以来の全力の土下座を家族(姉)の前で見知らぬ女子中学生に披露した翌々日だ文句あっか、あぁん?
まぁそれは置いておくとして。
「やりきったかい?」
「そんな言葉じゃ言い表せないレベルでやりきりました」
「血反吐吐くレベルでやりきりました」
「飯と風呂以外全てドラムに捧げたレベルでやりきりました」
「...ふん、合格だよ。来週が
ってことでSPACEのオーディションに合格した。やったぜ。
オーディションで演った曲はユ〇ゾンのシュガ〇タと桜〇あと。
変なアルペジオしながら歌うのマジでムズかった。
いや、にしても合格は嬉しいな。ひまり達にも教えてやろ。
あとRoseliaと、一応ハロハピと、それから...めんどくせぇな。Twitterで呟こ。そしたらみんな見るだろ。多分。
Kai 『バンド名すら決まってないくせにSPACEのライブ出演は決まりました。うーんこの。謎すぎんなこれ』
ほいツイート、っと。...うわもういいねきたはっや。丸山さんマジで常にスマホ見てんじゃねぇの? 今あの人岐阜にロケ行ってんだろ、『君〇名は。』特集とかで。ちゃんと仕事してくれ。...にしても今更あの映画の特集なんてするんだ。いや俺も好きだけどさ、新〇誠作品。言の〇の庭とか大好き。
っと、また別の人からいいね来たな。...っと、ロックさん? この人も最近めっちゃいいね飛ばしてくるなぁ。
てか先週ギターの弾き語り動画貼ってからめっちゃフォロワー増えたんだけど。なにこれ、フォロワー八百人? ほえぇ、承認欲求満たされたわ。うれぴ。
『お疲れ様〜! かんぱーい!!』
ってことで打ち上げである。
場所は市ヶ谷さん
なんか合格するまでに色々あったみたいだけど、合格したんならモーマンタイだ。モーマンタイって何語なんだろうな。
あと、五十嵐は帰った。
なんか彼女が待ってるからとか言って、オーディション終わってからすぐにいなくなった。爆発しろとまでは言わねぇからせめて沢田さんと幸せになるか溺死しろ。
「海たちの演奏、モニターで見てたよ。すごかった。よく原キーで歌えたね」
「まぁ歌にはそこそこ自信ある。身近に化け物みたいなボーカルいて最近自信無くしてっけど」
「いや、関口くんの歌ホントに綺麗だったよ!」
おたえと山吹さんが紙コップ片手にして隣に座ってくる。
いやこれ近くない? え、マジで最近ちょっとこの子ら距離近くない? ダメだよ男にそんな気ぃ許しちゃ。いい匂いする。
「ユニ〇ンのギターって結構難しいよね。あれ弾きながら歌うんだからもっと難易度上がって大変そう。たった二日でコピーしたの、本当にすごいと思う」
「まぁ、ストロークと歌のタイミングが違うからなぁ。リードボーカルって初めてやったけど本当しんどい。一日十六時間練習した」
しかも何がヤバいって、歌とギターの両方とも難しいのが本当にヤバい。ピンボとギター分けるべきだよこれ。つーかコピーするようなバンドじゃない。楽しかったけど。
ライブ本番はあと一、二曲増やそうって須田が言ってきたけど本当にやんのかな。てか須田まだコピーする体力あんの? いつの間にかスリーフィンガーなんかになってるし、ほんとすげぇなあいつ(n回目)
「ポピパもすごかったじゃん。文化祭の時よりめちゃくちゃ上手くなってたし。特に香澄すごかったな」
「たくさん練習した。ぶい」
「うん、おたえも、香澄も、私やりみや有咲も、みんな頑張ったよね」
自信ありげにおたえが鼻を鳴らし、山吹さんが微笑む。
いや、実際ポピパはマジですごいし、香澄は才能があると思う。須田もだけど、楽器初めて数ヶ月でどこまで上手くなるつもりなんだあいつら。
俺がギター弾き始めてからちゃんと一曲弾けるようになるのには三ヶ月くらいかかったってのにさぁ。実は初心者じゃないだろお前ら。
そんな須田はソファの方で牛込さんと二人の世界作っている。
え、てかまじ? 呼び方といい本当にそうなってんの? え、おめでとう爆発しろ。
「いぇーい! 海くん飲んでるぅ?」
「酔っ払いうるさ」
「辛辣だった!? ってゆーか酔ってないよ〜! お酒飲んでないもんっ! 未成年はお酒飲んじゃダメなんだよ! 知らないの?」
「酔っ払いうるさ」
「飲んでないってばぁ!! 蔵の奥の方にあった、高そうな桐の箱に入ってたちょっと苦いぶどうのジュース飲んだだけだもんっ!」
「おいそれワンチャン
「てか香澄お前何勝手に人の家の蔵漁った上に高そうな箱なんか開けてんだ!?」
「おばぁちゃんが飲んでいいよって言ってたも〜んっ!」
「ばぁちゃん香澄に甘すぎんだろ!!」
バカと天才は紙一重ってことわざ思い出した。
まぁバンドやってるようなやつにまともな人間なんていないけどな(ド偏見)
それから気付けば日もどっぷり落ち切ってしまい、気を利かせてくれた市ヶ谷さんのおばあちゃんが夕飯を作ってくれたからみんなでご相伴に預かった。佃煮めちゃくちゃ美味かった。
その後もなんだかんだでゆっくりしてしまい、じゃあ来週のライブ頑張ろうなと解散になったのが夜の十時過ぎ。夜も遅いってことでポピパの面々は市ヶ谷家に泊まることになったけど、俺と須田は帰宅コースだ。見つかったら補導されるでこんなん。
ビクビクしながら家に帰った。
★ ☆ ★ ☆ ★
「うわぁ...! ここがガールズバンドの聖地!」
夏の大きな太陽も随分と傾き、暑さも少しばかりマシになってくる夕暮れ時。
私は一枚のライブチケットを握りしめ、とあるライブハウスの前に来ていた。
ライブハウスの名前はSPACE。SNSなんかで知名度を上げている、ガールズバンドの聖地と呼ばれている場所だ。世はまさに大ガールズバンド時代! なんて言われている今のご時世、こういう場所は自然と注目されていく。
「はわわ...! えと、えと...と、とりあえずチケット持って入ればいいんやっけ...。あれ、お金、ドリンク代は別? えと、そもそもチケットやお金はどこで誰に渡せば...あ、あそこでいいんかな...」
ガールズバンドの聖地どころかライブハウスに来たのが人生初な私にとって、ただ入場するだけでも大冒険だ。
ビクビクしながらもなんとか入場手続きを済ませ、ラウンジの空いている席に腰を下ろす。ドリンクチケットと交換したオレンジジュースを一気に飲み干し、ホッと一息ついた。
今日のライブは絶対に生で観たかった。
前々から注目してたRoseliaさんやグリグリさん。そのほかにも、いろんなバンドが出演する。しかもガールズバンドの聖地最後のライブだ。観たくないわけがない。
それに、最近私が注目してる人も今日のライブに出るって言うし...。うぅ、お母さん怒ってんだろなぁ...。
「おい香澄! いつまで外いんだよ、もうライブ始まんぞ!」
「えっ、本当!? 有咲ごめん〜!」
「ったく...何やってんだよ、飲み物買ってくるって出てったっきり帰ってこねぇで...」
「えへへ、一番星見つけたから、今日のライブ成功お願いしてきたっ!」
「いや、一番星は流れ星とは違うかな。願い叶える不思議パワーはねーから」
「え〜!!?」
何やらキラキラと星の散りばめられた衣装に身を包んだ女の子が二人、パタパタと演者控え室の方に駆けて行く。あの人達も今日のライブに出るんだ...。すごいなぁ。
金髪の人が言ってた通り、もうすぐライブが始まる。ラウンジにいた人達もゾロゾロと会場に入っていっている。私は...後ろの方でいいかな...ないとは思うけど、モッシュとかに巻き込まれたら怖いし...。
ほとんどの人が会場に入ったあとに私も恐る恐る会場に入り、無事後列を確保。ライブが始まる前に発表されてた出番表を再度確認する。トリはグリグリさん、トリ前はRoseliaさん。そして私が注目してる人のバンドは...多分、この一番最初のバンド。
多分っていうのは、その人達のバンド名がまだ決まってなくてどんなバンド名で出演するのかが分からないから。
最初のバンドは『オスバンド(仮)』って名前なんだけど、私が知ってる限りSPACEでライブをする男の人達のバンドは、あの人のバンドしかない。だからきっと、これがそう。
先々週くらいにたまたまTwitterで見つけた、一つのギターの弾いてみた動画。スキ〇スイッチさんの雫を弾き語っていた。
それが、私が彼を知る原因になったものだ。顔なんかは写ってなかったけど、そんなのは関係ない。私が惹き込まれたのは、彼の演奏と、そして何より、その歌声。すごく綺麗で、透き通るあの歌声だ。あの歌声が、私の心に刺さった。
歌唱力なら彼より上の人は山ほどいるだろう。それこそ、Roseliaさんのボーカルとか。それでも、私は彼の歌声が好き。こればっかりは言葉じゃ説明できない。強いて言うのなら.....せ、性癖、かな?
そのほかのバンドでも気になっている人達はたくさんいる。
ワクワクしながらライブが始まるのを待っていると、不意に会場が暗くなった。ライブが始まる合図だ。
ステージの幕が上がる。
空前絶後、SPACEで男性バンドがライブをする。
弾き語りは聴いたことがあるけど、バンドとしての演奏はまだない。スリーピースらしいけど、ベースはどんな人だろう。ドラムはパワー型かな、テクニック型かな。そして、あの人はどんな顔をしているんだろう。
ドキドキを胸に、上がる幕裾を目で追う。
期待の篭った、自分でも「輝いてるんだろうな〜」って分かるくらいの瞳に写ったのは───この前お蕎麦屋さんで私に土下座してきた人の顔だった。
「...ほぇ?」
そんな私の素っ頓狂な声は、突如鳴り響いたギターのリフに掻き消される。
あ。この曲、ユ〇ゾンの新曲だ。
頭の回らない私の耳に、今度は歌声が届いた。
男の人にしては随分と高い、高速アルペジオと共に会場を巡る歌声。間違いない、この声は彼の歌声だ。
えっ? えっ? なして? これは...どーゆー...?
事故だったとは言え、私の...その、下着とか、それより恥ずかしいものとか姿とかを見られた人が? あのKaiさん...?
『あー...こんばんは、オスバンド(仮)です』
気が付けば一曲目が終わったらしく、土下座のお兄さん...ううん、KaiさんがMCを始めた。
『SPACEで男がライブやんのかよ! って思ってる人も少なからずいるかと思いますが〜...うん、なんででしょうね? 人生、なんでも言ってみるもんだしやってみるもんだなって思いました』
ギターのチューニングを変えながら話すKaiさん。ほえぇ...器用だなぁ。私、チューニングしながら喋れないもん。
『今回俺たちが演るのは今やったPh〇ntom j〇ke含めて四曲です。全部ユ〇ゾンの曲のコピーなんですけど、いや、やっぱあの人達バケモンっすね。なにこれ、めちゃくちゃ難しいし足元もちょー忙しない。...えと...ねぇ須田、チューニングまだ終わんない? 俺MC苦手、早く次行きたい』
『ちょっと待って.....終わった!』
『よっしじゃあ次行きまーす。観客の皆さんも野郎なんかより華やかなガールズバンドが見たいと思いますが、あと三曲だけ付き合ってください』
そう言って、ドラムのフォーカウントから次の曲が始まる。
これもリズムとかが難しい曲だ。けど、Kaiさんはミスタッチもほとんどなく弾いていく。
ベースの人は...上手いけどところどころミスが目立つかな。でも確かKaiさんのツイートではベース初めてまだ数ヶ月って話だったし、それであれなら天才の部類だと思う。
コーラスもしてるドラムは音が大きいし手数も本家より断然多い。すごいパワー型のドラマーだ。でもリズムは崩れない。上手い。
よく聴けば、ギターもちょくちょくアレンジも入ってるっぽい。しかも簡単にするんじゃなくて、手数の増えたドラムに合わせるような複雑なのに素早いコードチェンジと、ゴーストノートを織り交ぜた単音弾き。ソロではタッピングまで入れてきている。変態だ...。
たった一曲の弾き語りだけでは分からなかった、彼の演奏技術。
タッピングは少しおぼつかないところもあったが、コードチェンジについては完璧の一言だ。同じギタリストとして感嘆の息が漏れる。
二曲目も終わり、今度はMCなしで三曲目に入った。
落ち着いて、次はちゃんと歌声もしっかり聴く。
.....うん、Kaiさんの歌声だ。息継ぎの時のクセとか、多分間違いないと思う。
あの土下座のお兄さんが、憧れのKaiさん...。なんだか頭がふわふわして考えが纏まらない。けど、この歌声は聴いていて心地良い。スっと胸に入ってくる感覚。考えず、感じている。
『じゃあ次ラスト。これ終わったら次はPoppin’Partyとかいうハロハピと肩を並べるコミックバンドの出番なんで、準備運動もかねてこの曲でノっとくといいかもですね』
私らはコミックバンドじゃねー!!!
そんな叫びが舞台の袖から聞こえてきて、会場に笑いが生まれる。
その時、会場を見回したKaiさんと目が合った...ような気がした。舞台上は照明で照らされていて、会場は暗いから、
でも、目が合っていようがいなかろうが、関係なかった。
彼がこちらを見た時に浮かべた笑顔。ライブをやっている楽しさからか、笑いが生まれたことへの満足感か。なんにしても、彼の笑顔が目に焼き付いて離れない。
ぼぅ、っとステージを眺める。
一曲の時間は長くても五分程度。本当に、瞬く間、といった感じだ。
演奏が終わり、彼らは一礼してステージから捌ける。そしてすぐに次のバンド──Poppin’Partyの演奏が始まった。
「───.....決めた」
楽器の音と歓声に掻き消される私の声。誰にも届くことのないその声は、私の決意表明。
小さな拳を握りしめ、私はそれを勢いよく突き上げた。
.....あっ、このPoppin’Partyっていうバンドもすっごくいい。MCの節々にコミックバンド臭が漏れ出してるけど、すごくキラキラしてる。万有引力の擬人化みたい(脳死)
Q.なんで関口くんはシンセサイザーを持ってるの?
A.耳コピ兼遊ぶ用に買ったものです。機種はKORG・KROSS2-61-MB。61鍵のわりと良いやつです。本職の人間ほどではありませんが、それなりにシンセも弾けます。その気になればシンセ2本同時に弾いたりもします。
『足元もちょー忙しない』...エフェクターをセットし、それを入れているアタッシュケースみたいなやつのことをボード、或いは足元と言います。つまり、様々なエフェクターを付けたり切ったりしている、ということです。
ゴーストノート...音程にならない音のこと。「チャッ」とか「プッ」とかいう音です。ベースでよく使われるものですが、ギターでもみられます。アコギの弾き語りで、ピックを持っている方の手で弦を叩いたりしてるアレもゴーストノートの一種です。まぁ平たく言ってしまえば、リフの合間合間で小刻みに入ってくる短いカッティング、って感じですかね。(間違ってたらごめんなさい)
あとこれは本当に伝わるか分かんないんですけど、好きな音ってマジで性癖出ると思うんですよね。俺の場合ギターだったら「このくらいのゲインで、トーンは控え目に...そんでソロでブースターとリバーブ、そんでディレイも踏んで...ああ^〜!!!」って感じなんですけど...そういう感覚分かります? 俺は一生分かんなくていい変態的感覚だと思います(これが分かってしまう悲しき変態の同士は黙って感想欄にコメントしてください。作者が満足します。)
専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。
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伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
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好きにやってええんやで(菩薩)
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全然分かるけど辞めな
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分かるからそのまま続けて、どうぞ。