ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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どうしてこうなった。


非日常は稀に訪れるからこそ価値がある

 

 

 

 

 

 

 

 ジブンが彼に出会ったのは、だいたい一年くらい前。去年の初夏の頃だったでしょうか。

 とあるお仕事で音源の収録をした際、彼と一緒に演奏した事があります。

 

「あ...えと、はじめまして。関口海です。今日はよろしくお願いします〜...?」

 

 何故か状況をよく理解していない様子だった彼は、たどたどしくも、ジブンを含めた今回の演奏メンバーに挨拶をしていました。

 今回の収録は人気アイドルのCD音源用らしく、当時中学生だった彼がスタジオに現れた時は皆さん驚いていましたっけ。なんでも、そのアイドルの担当マネージャーが彼のお母さんなのだとか。それにしても中学生でプロの音源収録をするのは異常です。というか、中学生でお仕事とかしていいんですかね?

 まぁ、ジブンも高校生の身分でスタジオミュージシャンのお仕事をやらせていただいているので、他人のことは言えないんですが。

 

 彼の担当はギター、それもアコギパートオンリーでした。

 スラップ*1も入ってくる難しい譜面だったのですが、彼はそのプロ顔負けの演奏でジブンたちをもう一度驚かせました。いやもうホント、なんで無名なのか分からないレベルの演奏でしたよ。

 ジブンより年下の子の演奏でここまで心動かされる日がくるとは思っていませんでした。ギターのスラップなんて、その時初めて見ましたし。

 

 その後も、彼とは度々会うようになりました。歳が近いということもあり、ジブンと彼はそれなりに仲良くなったと思います。

 しかし秋頃になると、受験勉強に本腰を入れるということで、その姿を見なくなりました。

 非常に残念でしたが、受験ということなら仕方がないですよね。陰ながら合格を祈りました。

 

 

 そして、それから一年後。

 彼と再会したジブンは──犬耳を付けていました。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 九月四日。

 昨日モカに財布の中身が空になるレベルで奢らされた挙句、ネックレスまで強請(ねだ)られた俺は、軽くなってしまった財布から一枚のチケットを取り出した。

 

 ちくしょう、ただでさえ先週のリサさんの誕生日に買ったプレゼントで懐が寂しかったのに。昨日だけで諭吉が二人は逝ったぞ。モカのやろう、俺の誕生日がきたらゼッテー何か高いもん奢らせてやる。

 

「はーい、入場券確認しましたー。どうぞお入りくださーい」

 

 ニコニコと営業スマイルを浮かべる女子生徒からの許可を得て、俺は盛大にデコられた校門を抜ける。

 

「いらっしゃいませ〜! タピオカありますよ〜!」

「焼きそばいかがですか〜!」

 

 女の子特有の高音ボイスで、そこかしこから集客の呼び声が聞こえてくる。

 

 そう、今日は羽丘女子学園の文化祭一日目なのだ。

 さすが女子校。文化祭にも、羽丘の学校関係者から貰った入場券がないと校内に入れもしないらしい。まぁ不審者とか怖いもんな。

 そんで当たり前だけど、屋台とかやってるのも女の子ばっかりだ。

 

「タピオカ〜! タピオカいかがですか〜!」

「お兄さん! いい娘入ってるよ〜」

「茹でたてのタピオカはいかがっすか〜!!」

「タピオカアイスありまーす!!」

 

 タピオカと怪しい店しかないのか()

 

「あ、海くんいたー! やっはろ〜☆」

 

 若干どころじゃないくらいに引いていると、どこからかそんな声が聞こえてきた。

 周りが騒がしくて声の出処が掴めなかったが、少し首を回してみると、右斜め前の方でリサさんが手を振っているのが目に入る。

 

「おはようございます。チケット、ありがとうございました」

「いいっていいって☆ それよりほら、早く友希那のいる教室行こっ! 友希那のシフト、朝しかないんだって〜」

「マジすか」

 

 事前に待ち合わせの予約をしていたリサさんと無事合流し、俺はリサさんの後ろに続いて歩く。

 最初は蘭たちと合流することも考えたのだが、五人とも朝から仕事があるから無理とのこと。蘭のクラスはお化け屋敷、ひまりたちのクラスはタピオカメインの喫茶店をやっているらしい。タピオカそんなに必要か?

 

「そういや、リサさんのクラスは何やってるんですか?」

「うち? うちはね〜、演劇やってるよ☆ 薫発案の」

「なるほど、シェイクスピアですか」

「あったり〜☆ ちなみに演目は王道のロミジュリ」

 

 あの人も好きだなぁ。

 

「ロミオ役はもちろん薫で、ジュリエット役が日菜だよ。あ、そういえば聞いたよ〜? 日菜、この前花咲川に特攻したんだってね」

「うちの教室に現れましたよ、あの天才。なんかうちの天災と投合して、体育祭一緒にやるって言ってましたけど」

「聞いた聞いた☆ 楽しみだね〜。海くん、運動は得意なほう?」

「どっちかっていうと苦手ですかね。体力とかは自信ありますけど、運動神経はそんなにって感じです」

「へー。意外。バスケとか得意そうなのに」

「体育以外での経験がないです」

 

 襲い来るタピオカの押し売りを掻い潜り、俺とリサさんはようやく校舎に入った。

 てか本当にタピオカしかないんか? この学校は。タピオカスパゲッティってなんだよ、ちょっと気になったじゃねぇか。絶対食べないけど。

 

「そういや、リサさんは何役なんですか?」

「アタシは小道具担当だったから、本番は出番ないんだ〜。準備頑張ったってことで受付の仕事も免除されたし、今日は一日海くんと一緒にいられるよ☆」

「なぁ〜、るほど...?」

「あ、ちょっと顔赤くなった」

「なってません」

「なってるって☆」

 

 校舎に入ってからタピオカを一切見なくなったことに逆に不安を抱きつつも、俺はリサさんの口撃を軽く流した。流したったら流したんだよ、文句あっか。

 

「...あ、海」

 

 リサさんから視線を外そうと右側の窓の外を眺めていると、左の方からリサさん越しに声がかかる。

 ふとそっちを見てみると...なんか白い布のような何かがこちらを見ていた。変な息漏れた。

 言葉が出ない俺に代わり、リサさんがその布に対応する。

 

「その声は...もしかして蘭?」

「あ、はい」

「.....え、蘭?」

「うん」

 

 エジプト神話に出てきそうな白布から、聞き慣れた声が聞こえてくる。

 白布がゴソゴソと身を(よじ)り、そのヴェールがするりと脱げた。

 

「...ほんとに蘭じゃん」

「海、ビビりすぎ。昼の、しかもこんなに人がいる場所だよ? お化けが出るわけないじゃん」

「いや、お化けとかじゃなくて。フツーにビビるだろ、突然布に話しかけられたら。ねぇ? リサさん?」

「んー...まぁ確かに、ちょっと驚くかな〜」

「ほら」

「ビビり」

「なんだァ...? てめぇ...」

 

 喧嘩売りにきたのかこいつ。

 

「まぁまぁ☆ それにしても、蘭はなんで布なんて被ってたの?」

「うちのクラスの宣伝です。うち、お化け屋敷やってるんで。.....クラスが書いてある看板、教室に忘れちゃったんですけど」

「はっ、うっかり屋め」

「仕返しのつもり? うざ」

「まぁまぁ!」

 

 いつも通りの軽い喧嘩腰会話をしていると、リサさんが結構本気めに間に入ってくる。

 なんだか昔のひまりみたいだなぁ。最近じゃ、全然本気じゃない、ただのじゃれ合いだって気付いて口も挟んでこなくなったけど。

 

「うちのクラス、お化け屋敷してるんで。リサさんもぜひどうぞ」

「うっ...お、お化け屋敷かぁ...。時間あればいくね...」

「俺は──」

「海はどうせ来れないでしょ。ビビりだし」

「はぁ? お前だって幽霊苦手なくせに」

「なに?」

「なんだァ...?」

「まぁまぁまぁ!! ほら海くんっ、友希那のシフト終わっちゃうから! じゃあね蘭!」

 

 リサさんに背中を押されるようにして、俺は蘭から引き離される。

 まぁ俺も蘭も、昔遊園地のお化け屋敷に入って二人してなきじゃくった経験があるからな。相手を貶したら自分も傷付く。

 

 にしても足とか手とかを触ってくるのはマジで反則だろ、あのお化け屋敷。俺なんて足首にくっきり手形残ってたし。マジで怖かった。あのせいで俺も蘭も暗いところや幽霊系が苦手になったんだぞ。子供にトラウマ植え付けんなってんだ。

 でも、なんでかあのお化け屋敷で触られたのって俺と蘭だけなんだよなぁ。ひまりとつぐ、巴も一緒に入ったのに。

 

「海くんたち、仲良しじゃなかったの...?」

「? 蘭のことですか? 仲良いですよ? 親友って言えるくらいには」

「いや、でもさっきの...」

「軽いじゃれ合いですよ。あ、友希那さんのクラスってあれですか? アニマルカフェってとこ」

「えぇ...ん〜、まぁ本人が言うなら...。あっ、うん。そだよ☆ あそこで友希那がネコミミ付けて接客してる...はず」

「はず」

 

 確証はないのか。

 

「あはは〜...いやぁ、友希那って音楽以外はホントに...なんてゆーの? 不得意っていうか...その、ポンコツでさ」

「おおぅ...急にディスるじゃないっすか」

「配膳とかちゃんとできるかな〜、って。最悪『湊さんは立ってるだけでいいから! マスコットに徹して!』ってなってるかも...」

「マスコットにはなるんですね」

「友希那は美少女だから。圧倒的美少女だから」

 

 やだ...この人、目がマジだわ...。

 

 若干の恐怖を抱いているうちに、俺たちは二年B組の教室、『アニマルカフェ』の前に辿り着いた。

 さて、花咲川の文化祭では俺も喫茶店を催した者の一人だ。他校の喫茶店がどの程度のクオリティなのか、しかとこの目で拝ませてもらおう。

 ケモ耳美少女楽しみ! とかそんなんじゃないよホントだよ。

 

 湧き上がるワクワクを抑えつけ、俺は教室のドアを潜る。

 

「いらっしゃいませ。何名様で.....あら、リサと海じゃない」

 

 黒いネコミミを携えた美少女がそこにいた。

 

「グフッ」(吐血)(鼻血)

「リサさんしっかり! あぁ...こんなに血が...!」

「わ、Y..M...T...」(『友希那 マジ 天使』の意)

「逝かないで.....逝かないでリサさんーーー!!」

 

「あなたたち、店先で妙なことしないでちょうだい」

 

 普通に怒られた。

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

「あ、俺アールグレイとチーズケーキで」

「じゃあアタシはカフェオレと抹茶ティラミス。以上で〜」

 

 一通りコントも終え、席に案内された俺とリサさんは、友希那さんに怒られるのはもう嫌だったので普通に注文をする。

 

「...ん。了解したわ、少し待っていてちょうだい」

 

 注文を聞き届けた黒猫美少女こと友希那さんは、俺たちの注文をオーダー票に書き写し、キッチンの方へと帰っていく。

 振り向いた際に分かったことだが、友希那さん尻尾も付けてた。

 歩くたびにぷらぷら揺れてて、それを見たリサさんがずっと鼻を抑えてるんだけど、俺は知らないフリをする。この人ガチ勢すぎんだろ。

 

「あ、そういえば海くんはこのあとどうする予定?」

「んー...昼にAfterglowのライブがあるらしいんでそれは見に行きたいんですけど、それ以外は特に考えてないっすね。テキトーにブラついて時間潰そうって思ってます」

「蘭のとこのお化け屋敷、行かないの?」

「行きません」

 

 わざわざ怖い思いをしに行こうとする奴らの気が知れない。

 あんなん、企画側も利用者側も狂人の思考だろ(個人的意見です)

 そっぽを向いた俺をリサさんがケラケラ笑って見ていると、俺たちの席に料理と飲み物が運ばれてきた。

 てかリサさんも幽霊とか苦手じゃん。なにわろてんねん。

 

「あの...間違ってたらスミマセン。関口海さん、ですか?」

 

 料理を運んできた犬耳のウェイトレスさんが、おずおずと声を掛けてきた。

 何事だろうと、そのウェイトレスさんの顔を見上げる。

 するとそこには、わりと見覚えのある、地味めだが整った顔が。

 

「あっ。大和さん?」

 

 大和麻弥。パスパレドラム担当、上から読んでも下から読んでも大和麻弥。

 そんな現役のアイドルがそこにいた。最近よくアイドルに会うな。

 

「麻弥じゃん、やっほー☆ あれ? 海くんと知り合いなの?」

「あ、はい。昔お仕事で少し...」

「仕事?」

 

 高校の文化祭にしてはレベルの高いケーキの写真を撮り終えたリサさんは、こてんと首を傾げた。

 お仕事。まぁ仕事っちゃ仕事だったか。俺にギャラ出てないけどな。まぁ毎月の小遣いが千円くらいアップしたから何も文句なかったけど。

 

「はい。音源の収録で何度かお会いしてるんですよ」

「収録!? って海くん、そんなことしてたの!?」

「まぁ、ちょっとだけ。でもアレですよ、お母さんの伝手(つて)でアコギだけ弾かせてもらっただけです。今はもうしてませんし」

「ジブンらの界隈では有名ですよ、海さん。中学生であそこまで弾ける人はなかなかいないですから」

 

 そんなに褒められたら照れちゃうよぉ。

 

「あ、すみません! ジブンそろそろ仕事に戻らないと...。どうぞごゆっくり!」

 

 そう言って、大和さんは駆けていく。

 それにしても、今のご時世はアイドルが普通に接客できる時代なんだなぁ。丸山さん然り、イヴちゃん然り。さすがに白鷺さんが接客業でアルバイトしてたら騒ぎになるんだろうけど。

 

「いやぁ...驚いたよ〜。まさか海くんがスタジオミュージシャンやってたなんて」

「そんな大層なもんじゃないですけどね。アコギパートなんて、一曲中に三十秒もあればいい方ですし」

「それでもすごいって! ギターめっちゃ上手いっては思ってたけど、本当にプロレベルだったとはね〜」

 

 えへへ(ガチデレ)

 

 その後もリサさんに褒めちぎられた俺は、終始えへえへ言って照れながらチーズケーキを食べた。めっさ美味かった。

 いや本当にむちゃくちゃ美味しかった。これ高校の文化祭のレベルじゃないよ。ケーキ屋の娘でもいるんか?

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

「それでは、ジブンお先に失礼します!」

 

 クラスメイトの方々に挨拶をし、ジブンは教室を出ました。

 今日のジブンのシフトは午前中だけ。午後は文化祭を回ろうと思ってます。

 まずはタピオカを飲みたいですね。

 今年は異常なほどにタピオカのお店があるのですが、その中でも三年C組のタピオカのお店はとても本格的なお店だと聞きました。とりあえずそこに行ってみようと思い、目的地へと行くために振り返ったところ。

 

「あ」

 

 見覚えのある顔が視界に入りました。

 

「ん? あ、大和さん」

 

 相手もジブンに気付いたらしく、こちらを向きました。

 両手にタピオカの入ったカップを持つ海さんは、ジブンを確認したあとにこちらへ歩み寄ってきました。

 

「お疲れ様です。仕事終わった感じですか?」

「はい、ついさっき終わったばかりです。海さんは? リサさんと一緒だったのでは?」

 

 そう。今、海さんは一人です。

 先程まで一緒にいたリサさんはどこか行ってしまったのでしょうか?

 

「あー。リサさんは、なんか色んなクラスから助け求められちゃって、今そっちのヘルプ行ってます」

「助け...?」

「タピオカが上手く茹でれないとか、パンケーキが焦げるとか、演劇のヒロイン役の子が逃げたとか」

「最後のは何があったんですか.....」

「さぁ?」

 

 肩を竦めてみせる海さん。

 しかしヒロイン役が逃げるとは...ちょっと経緯が気になるところです。

 

「あ、大和さんタピオカ好きですか?」

「え? あ、はい」

「じゃあこれあげます。まだ口付けてないんで安心してください」

 

 そういって、海さんは右手に持っていたタピオカのカップを差し出してくるので、反射的に受け取ってしまいました。

 

「いやー。リサさんとそれ買ったはよかったんですけど、口付ける前にヘルプに行っちゃって」

「な、なるほど...あ、これ三年C組のタピオカなんですか! ジブン、ちょうどここのタピオカ買いに行こうと思ってたところなんですよ〜。...あっ、お金」

「いいですよ。俺がリサさんに払っとくんで」

「いや、それは悪いですよ...!」

「今日接客頑張った報酬ってことで。まぁちょっとカッコつけたいもんなんですよ、男って」

 

 その後もジブンにお金を払わせようとしない彼に、ジブンが先に折れました。ありがたく頂くことにします。

 .....あ、美味しい。幸〇堂の味に似てますね。

 

「大和さん、今日はもう仕事ないんですか?」

 

 タピオカに舌鼓を打っているジブンに、海さんはそう聞いてきました。

 

「そうですね、今日のところは」

「今後の予定は?」

「予定ですか? そうですね...演劇部の公演も今日はないですし、特にこれといって予定はないです。けど、どうしてですか?」

「いや、できれば一緒に文化祭回ってもらえないかなー、って思いまして」

「一緒に...ですか?」

 

 頭をかきながら、海さんは言葉を続けます。

 

「リサさんいなくなっちゃって、知り合いも用事あるっていうし、そうなると俺一人になっちゃうんですよね...」

「まぁ、そうですね」

「女子校の文化祭に男一人ってのはどうにも居心地がですね...その、周りの目線とか...」

「あー...」

 

 合点がいきました。

 確かに、男性が一人で女子校を闊歩するのは居心地の悪いものがあるかもしれませんね。学外からの来賓者もほとんどが女性の方ですし。

 校内の男性の割合は一割程度ではないでしょうか?

 ジブンが逆の立場だとしたら.....うん、確かに誰かと行動を共にしたくなりますね。

 

「いいですよ、一緒に回りましょう!」

「! あ、ありがとうございます...! めちゃくちゃ助かりますマジで」

 

 頭を下げる海さんに、周りの視線が集まります。

 ちょっと恥ずかしいのでやめて欲しいですね...。

 

「あはは...。海さんはどこか見たいところとかってありますか?」

「そっすね...とりあえずAfterglowのライブは見たいなって」

「なるほど...。ちなみに、Afterglowのライブは何時からです?」

「十三時って言ってました」

 

 十三時。

 今が十二時前なので、残り一時間くらいですか。

 

「それでしたら、ひとまず体育館を目指しましょう。道中でお昼ご飯を済ませたりすればちょうどいい時間に───」

「あ、麻弥ちゃんはっけーん!!」

 

 ジブンの声を遮り、ジブンの名を叫ぶ声が聞こえました。

 この声は...

 

「日菜さん?」

「やっほー! あ、海くんも一緒だ!」

「あ、ども」

 

 手を振りながら、日菜さんがこちらに駆けてきます。

 いつも通り元気な明るい声音と表情ですが、一つ、いつもとは大きく異なる点がありました。

 

「あのー...日菜さん? つかぬ事をお聞きするのですが...その衣装は...」

「これ? ジュリエットの衣装だよ〜! 可愛いよねっ」

「逃げたヒロイン役ってもしかしなくても日菜さんですよね!?」

 

 意外なところで謎が解けてしまいました!?

 

「だってー。同じ劇を何回もやるのつまんなーい!」

「いえ、つまるつまらないの話ではなくてですね...!」

「それより麻弥ちゃん! これからバンドやろ! はいこれスティック」

「なんて?」

 

 思わずスティックを受け取ってしまいましたが、本当に意味が分かりません。なんで突然バンドをやろうなんて...。あ。

 

「あ、あのぉ...もしかしてお仕事です...?」

「? んーん、違うよー?」

 

 違うんスか!!

 なら本当に意味が分からないのですが!?

 

「さっきAfterglowのリハ見てたんだけど、そしたらムショーにギター弾きたくなっちゃって! あ、海くんも一緒にやろーよ! あたしがギターボーカルやるから、海くんはリードね。うん、けってーい!」

「??????」(訳も分からずに巻き込まれ事故)

 

 ああ! 海さんが被害者に!!

 .....あ、でもこれ、海さんと久々にセッションできるチャンスなのでは...?(手のひらが返る音)

 

「じゃああとはベース探せばライブできるね!」

「ライブ? え、ちょっと待ってライブやるの? 今から?」

「麻弥ちゃん、ベースって誰か心当たりある?」

「ねぇって。マジでライブやんの?」

「そうっすね...リサさんの手が空いてれば良かったんですが...」

「あれ、大和さんいつの間にそっち側に行っちゃったんスか!?」

 

 日菜さんは有言実行の人ですし、きっと理事長や生徒会、文化祭運営委員からライブ許可は得ているのでしょう。もしくはこれから取るか、ですね。

 どちらにしろ、日菜さんはやると言ったらなかなか止まりません。ならいっそ付き合ってしまった方が楽です。最近学びました。

 

「リサちー? そっか、リサちーに頼もーっと!」

 

 そう言い残した日菜さんは、どこかへと走り去っていきます。

 日菜さんの姿が見えなくなってすぐに、日菜さんからLINEがきました。

 

 Hina『十五時半からなら体育館のステージ使っていいらしいから、そこでライブね! 曲はテキトーにボカロ曲やろ!』

 

「テキトーな選曲が適当じゃないんですが」

 

 横から覗き込んできていた海さんが、心底疲れたようなため息と共に不満をこぼします。

 ジブンも少々テンションが上がっていてしまいましたが、さすがにこれは海さんにご迷惑が.....

 

「大和さん。ロキやりたいって日菜さんに言っといてください」

「案外乗り気!?」

「いや、もうやるしかないんだろうなって思って。どうせなら弾いてて楽しいのやりたいじゃないですか」

 

 あ、これ諦めってやつですね。分かります。

 

「それにロキって、この前Roseliaがコピーしてたんですよ。リサさんが巻き込まれても、一回やった曲ならなんとかなるんじゃないですかね」

「あー、なるほど」

「日菜さんはまぁなんとかするだろうし、大和さんも一曲ならなんとかなるでしょう?」

「まぁ...」

 

 完成度はたかが知れてますが、ある程度では通せると思います。

 そこは海さんがジブンを信頼してくれているんですかね...。

 

「とりあえず俺、家帰ってギター持ってきますね。往復三十分もかかんないと思うんで、すぐ戻ります」

「あ、はい。.....すいません、突然ライブなんてやることになってしまって...」

 

 発端は日菜さんのわがままとは言え、ジブンもそれに乗っかってしまった身。巻き込んでしまった海さんには、悪いことをしてしまいました。

 

「全然大丈夫ですよ。慣れてますし。海外まで拉致られるよりましです」

 

 拉致は普通に事件なのでは?

 

「それに、久々に大和さんのドラムでギター弾いてみたいですし」

 

 そう言ってはにかんだ海さんは、くるりと背を向けて歩き出しました。

 先程の宣言通り、家へギターを取りに行くのでしょう。

 

 その後ろ姿を見送るジブンは、高揚感を抑えきれずにいました。

 彼と演奏できる。それが嬉しくて堪らない。

 

「ふへへ...」

 

 自然と笑みが溢れてしまいます。

 彼がエレキギターを弾く姿を見るのは、初めてであありません。まぁ生で見るのは初めてなんですけどね。

 

 以前イヴさんと仮のバンドを組んだ時、その動画を拝見しました。

 彼の技量は、去年より上がっています。それだけではなく...彼は相変わらず、心底楽しそうにギターを弾いていました。

 

 あまり楽器の得手不得手について言いたくはないのですが、海さんほどの実力者とは一緒に演奏したいと思ってしまうのも事実。

 それに、あんなに楽しそうにギターを弾かれては、こちらまで楽しい気分になってきますし。

 

「楽しみっすねぇ.....ん?」

 

 不意にスマホが鳴りました。珍しいことに、LINE通話の通知です。

 相手は...日菜さん?

 

「も、もしもし? どうしましたか、日菜さん?」

『もしもし麻弥ちゃん? リサちー捕まえたよー! ベース弾いてくれるって!』

「そうですか、それは良かった」

『あとねー。事務所にライブやることバレたっぽくて、どうせやるならってことでカメラがくるんだってー。Y〇uTubeで配信するって言ってたー。それだけ。じゃ、また後で!』

「?????」(処理落ち)

 

 

 なんて???

 

 

 

*1
親指で弦を叩く「サムピング」と、人差指などを弦に引っかけてハジくことで音を出す「プル」の2つを使って弾く奏法。別名チョッパー。主にベースで見られる奏法だが、ギターでやってもかっこいい。ただし、ギターの場合は1,2弦が切れやすいので注意。大石昌良さんとかMIYAVIさんが特にすごいギタースラップをします。




オチもろくに書けなくなった。(元から)

全部妖怪のせいです、あ〜あ。(なんでもかんでも妖怪のせいにする。そんな人間こそが、本当の妖怪なのかもしれませんね)

感想とか評価は欲しい。(欲しい)

専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。

  • 伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
  • 好きにやってええんやで(菩薩)
  • 全然分かるけど辞めな
  • 分かるからそのまま続けて、どうぞ。
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