ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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いやまじで、書き終わってから「どうしてこうなった」って本気で思いました。なので先に謝っておきます。ごめんなさい。


星の鼓動を聞いたことはあるか

 

 

 

 

 キラキラドキドキしたい!

 

 そう思って始めたギターは、思ってた以上にとってもキラキラしてた。

 けど、その全てが輝いてたわけじゃない。

 

 ドキドキを感じた舞台(SPACE)に行きたくて、もっともっとキラキラしたくて。

 でも、その道はとても険しかった。

 

 輝く舞台に立つためには、甘いことばかり言ってはいられなかった。

 たくさん練習をして、努力を積んで、それでも届かない。

 練習は好きだし、努力も苦じゃない。でも、決して楽じゃない。

 

 あの輝きを求めて走ってきたはずなのに、その光を見失った。

 

『あんたが一番できてなかった』

 

 その通りだった。

 どれだけ頑張っても足りなかった。

 

 心が折れ、弱気が体にまで影響を与えだした時。

 彼がそっと手を差し伸べてくれた。

 

 

『努力は必ず報われる、なんてことはない。けどさ、香澄。努力はお前を裏切ったりはしないよ』

『ポピパはすっげぇいいバンドだ。技術だけじゃない、メンバーがな。お前はお前らしく、仲間に頼ってけよ』

『練習なら俺も付き合ってやる。だから香澄、お前は諦めるな』

 

 

 彼だって、自分の練習で手一杯だったはずだ。

 当時はあんまり寝てなかったと思う。目の下のクマ、凄かったし。

 

 それでも彼は、私に声をかけてくれた。手を差し伸べてくれた。支えてくれた。私の欲しい言葉を言ってくれた。

 私がSPACEで演奏できて、今日までバンドを続けてこれたのは、ポピパのみんなと、彼のおかげだ。過言なんかじゃなくて、本当にそう思う。

 

 彼は、私にとって、とても大切な人。

 ポピパのメンバーやあっちゃんと同じくらい、とっても好きな人だ。

 

 だから私は───

 

「ねぇ海くんっ! 今日の放課後デートしよっ!」

「「「「「??!?!?!!?!?!」」」」」

 

 彼をデートに誘ってみた。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

「ん〜! これおいし〜! 海くんのも一口ちょーだいっ!」

「はいはい」

 

 目の前の元気猫少女、戸山香澄に、俺は自分のパフェを差し出す。

 

 

 九月も半ば。

 そろそろ体育祭の準備も始まろうかという、残暑の季節。

 実力テストなるものをついさっきやり終えた俺たち花咲川の生徒は、今日は午前中だけで学校が終わっていた。

 定期テストとは違って赤点はないテストだが、テストはできるに越したことはない。しっかりと対策を立て、昨日まで計画的に勉強していた意外にも真面目な俺は、今日はすぐに帰って寝る予定だったのだ。

 そして夜は録り溜めしてたパスパレの出るバラエティ番組を見るはずだった。

 

 しかし、だ。

 なんで俺は渋谷で香澄とパフェなんか食ってるんだろう?

 

「海くんのストロベリーパフェも美味しい!」

「そうかい。そりゃ良かった」

「西〇フルーツパー〇ー、一回きてみたかったんだ〜。付き合ってくれてありがとねっ、海くん!」

 

 眩しい程に笑顔を弾けさせる香澄。

 それを見てちょっとだけドキッとするが、すぐにパフェを食って顔を冷やす。

 

 さて、香澄と渋谷にパフェを食いにきてる理由だが...これがよく分からない。

 テスト終わって俺が帰ろうとしてたら教室のど真ん中で香澄から「デートしよ」って言われたところまでは覚えてるんだが、そのあとはちょっと動揺してて記憶があやふやだ。気付いたら渋谷にいた。

 

 俺自身、渋谷にはわりとよく来る。

 というのも、渋谷はライブハウスが多いのだ。

 注目してるインディーズのバンドも多く渋谷でライブしてるし、それにはよく行くんだ。

 タワ〇コもあるしな。

 けど、こんなパフェとか、オシャレなとこは一回も来たことがない。

 周りもなんか女子高生多いし、正直めちゃくちゃ緊張する。香澄の声が大きいのも一因だ。周りの目もちったぁ気にしろっての。

 

「それで?」

「ん?」

 

 ん? じゃねぇよ首傾げんな。

 それはこっちのリアクションだろ。

 

「何、デートって」

「デートはデートだよ! 知らないの〜?」

 

 あ?(あ?)

 

「そういうお前は知ってんのかよ」

「ふっふーん、ばっちり知ってるもんねっ」

 

 ドヤ顔すんな腹立つ。

 

「デートっていうのはね? 仲良しの男女が一緒に遊ぶことを言うんだよ? おばあちゃんが言ってた!」

「なるほどな」

 

 つまり恋愛系ではない、と。

 ちょっと安心した。

 

 パフェも食べ終わり、支払いも済ませて店を出る。

 

「んじゃ、このあとどうする。俺、渋谷はライブハウスとタワ〇コとニ〇リくらいしかしらねぇけど」

「1〇9とか行ったことないの?」

「ない」

「じゃあそこ行ってみよ!!」

「やだ」

「それじゃあレッツゴー!!」

「話を聞け暴走列車」

 

 迷いなく、香澄は俺の手を取る。

 恥ずかしいからやめて欲しい。

 

「海くん、普段服とかはどこで買うの?」

「ユニ〇ロ、G〇、RA〇EBLUE、め〇ま屋」

「めだ〇屋って何?!」

「古着屋」

「なるほど〜」

 

 古着って便利だよね。

 ブランドとか全然分かんなくても、「あ、これ古着なんですよ〜」って言えばそれなりに箔が付くし。

 てか正直ファッションセンスに自信がない。今度リサさんに服一式選んで貰おうかな。ひまりでもいいけど。白金さんもわりとそういうの詳しいよなぁ。

 

「香澄はどこで服買うの」

「私? ん〜...WEG〇とかハニ〇ズかなぁ。1〇9でも買うよ!」

 

 やっば。こいつJKじゃん。

 姉ちゃんが高校の時もWEG〇でなんか買ってたな。

 服買いに渋谷に行きたいのに、その渋谷に行くための服を買うって都市伝説はマジですか?

 

 スクランブル交差点で馬鹿なことをする迷惑系Y〇uTuberを横目で見つつ、俺は1〇9に足を踏み入れる。

 女性向けのアパレルショップにコスメ用品店。

 

「いらっしゃいませ〜!」

 

 キラキラと輝くような笑顔を向けてくる女性店員さんたち。

 彼女らはみんな、例外なくお洒落だ。頭のてっぺんからつま先まで、余すところなくお洒落さんだ。

 

 場違い感パないんだが。

 

「メンズ服は四階なんだってー。行こっ、海くん!」

 

 俺の手を取って駆け出す目の前のJKは、俺と違ってこの雰囲気に臆することなど決してない。これが現役のJKか。パネェ(思考停止)

 

 香澄に連れられるまま、俺は男の服が売ってあるという場所に着いた。

 確かにどれもお洒落だとは思うが...なんつーかあれだな。どれを着ればいいのか全く分からん。

 香澄が自分用にもメンズのTシャツを買うと言うので、チラッとその値札を覗いてみた。

 ん〜...? なんか0が二つくらい多くないですかね?

 布一枚にそこまで...バンT三着は買えるじゃん、マジかよブランド品。

 

「お前、よくこんなの買えるな...俺の給料じゃ手が出せん」

「え〜? 安いのは安いよ? 私これ買おうと思ったけど、これは五千円しないし」

 

 ほえぇ.....バンT一枚分にまで落ちたな。

 でもG〇とかと比べると高いんだよなぁ。

 

「海くんは買わないの? 服」

「んー...欲しいけど、Tシャツはいいや」

 

 もっと安いとこで買う。

 

「そっかー。あ、じゃあアレは!?」

 

 香澄が元気に指差したのは、隣の店の商品だった。

 店内で大きな声を出すんじゃありません、と小言を言う前に、香澄は持っていたTシャツの会計を済ませ、また俺の腕を取って隣の店へと直行する。

 

「海くん、こういうの持ってたりする?」

「いんや、持ってない」

 

 香澄が商品棚から取って広げて見せてきたのは、真っ黒な革ジャンだった。

 革ジャンは一着も持っていない。姉ちゃんが持ってるけど、着たこともなかった。

 

「俺、そういうの似合わないと思うんだけど」

「そんなことないよ〜! 絶対似合う! キラッてする!」

「なにそれ日菜さんの真似?」

 

 試着してみなよ〜! と騒ぐ香澄に引き寄せられて店員さんまで加わり、俺は革ジャンとその他一式の全身コーデをされて試着室にぶち込まれた。

 これ試着までして買わないですって死ぬほど言い難いよな...。

 そう思いつつ、俺は渡された服一式を着込んでいく。

 

 まぁコーデとは言っても、ジーンズに厚手の白T、その上から革ジャンを羽織り、軽めのシルバーネックレスをつける、といったシンプルなものだ。

 とりあえず着てみて、そして鏡を見る。

 

 うーん、似合わん。

 こういうのはもっとガタイの良いやつが着るから似合うんだと思うんだが...。

 まぁせっかく着たんだ。香澄たちに見せないわけにもいかない。

 そう思い、試着室のカーテンを開ける。

 

「...やっぱ似合わなくね?」

 

 恥ずかしさも相俟って、香澄の感想を聞く前に言葉を挟む。

 照れくさくて頬をかく俺に、香澄は目を輝かせて一歩近付いた。

 

「ううん! そんなことない、すっごく似合ってるよ! キキラッってしてる!」

「あ、日菜さんの真似続けるのね」

 

 キキラってなんだよ。キラキラでいいだろ。

 

「写真撮っておたえたちに送るね!」

「なんで?」

 

 俺の疑問には答えず、香澄は数枚、俺の写真を取る。

 恥ずかしいんだが。

 

「ポピパのグループに貼っとこ〜!」

 

 ああ、おたえ“たち”ってのはポピパ全員のことなのね。

 え、てか本当になんで送んの? ねぇなんで?

 

 まぁ、Twitterにはフリー素材なんするものぞとばかりに俺の写真が貼られている。それと比べれば、特定できる人数にのみ写真を送られるくらいなんてことはない(感覚麻痺)

 いやに上機嫌な香澄が送信ボタンを押す。

 と同時、どこからかLINEの通知音が三つ同時に聞こえてきた。

 

 奇遇なこともあるもんだな、と流し、俺は試着した物から制服に着替えるために試着室のカーテンを閉める。

 

「そーだ! ハロハピと〜、Afterglowと〜、Roselia! あ、パスパレのみんなにも送ろ〜!!」

「なんで????」

 

 公開処刑ですか?

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 その後、わりと強引だった店員さんに流されるがまま革ジャンを購入した俺たちは、1〇9を出てタワ〇コに来ていた。

 

「お、あったあった」

 

 新作コーナーにて目当てのCDを見つけた俺は、声を弾ませてそのCDを手に取る。

 

「海くーん、何買うの?」

「ヨル〇カの新譜」

「その木の箱が?」

「そ」

 

 香澄の言う通り、俺が今手に持っているものは木箱だ。

 この中にヨ〇シカのフルアルバムが入っている。しかも初のフルアルバムだ。そのうちサブスクでも配信されるんだろうけど、これはちゃんと買っておきたかった。

 

「ふーん...それ、そんなにいい?」

「ヨル〇カはいいゾ。n-b〇naを信奉しろ」

「しんぽー?」

「崇め奉れってことだ」

 

 n-b〇naは天才、はっきり分かんだね。

 n-b〇naはヨル〇カの作詞作曲を担当している。元々はボカロPだったらしく、そっちの方もしっかりチェックした。よきよきのよき。

 

 n-bu〇a以外も素晴らしい。

 ボーカルの透き通るようでしっかりの芯のある声、変態リフギター、オシャンティーベースライン。今回のアルバムに収録されてる『だから僕〇音楽を辞めた』ではピアノも入ってくるらしいし楽しみだ。

 つーかサポートギター、毎度毎度あの変態すぎるリフをどうやって弾いてんだ。下〇さん、アンタのことだぞ。

 

「そっかー。じゃあ私も聴いてみよ〜!」

「なんならCD貸すよ」

「ホント! わーい、ありがと〜!」

 

 一人勧誘に成功したところで、俺はほかのCDもチェックしてみる。

 M〇rs Principi〇m Est、lyn〇h.、An〇ther story、ユ〇ネス、etc。

 いくつか気になるバンドはあるが、今のところはどれもCDを買うほどじゃない。一回サブスクで聴いてみて、めちゃくちゃ気に入ったら買おう。金は有限だからな。

 

 新しいバンドの発掘も踏まえた物色は続き、気になってメモしたバンドが三つ目になった頃。

 ずっと俺の後ろをとことこ着いてきていた香澄が、不思議そうに聞いてきた。

 

「そーいえば、海くんたちは曲作らないの?」

「俺たち? あー、オスバンド(仮)のことか」

 

 マジでそろそろちゃんとしたバンド名考えなきゃだな。

 

「うーん、作りたいは作りたいんだけど...誰も作詞が出来ないからなぁ」

「作詞は? ってことは、作曲はできるの?」

「まぁ。須田は音楽始めたばっかで戦力にならないだろうけど、俺と五十嵐(いがらし)はできると思う」

 

 ベースラインは俺が考えればいいしな。

 五十嵐と話し合えば、作曲できないことはないはずだ。

 

「そうなんだー。それ、ライブとかではやら、ないの?」

「いや、だからな? 作詞の才能が致命的になかったんだよ。俺も、須田も、五十嵐も」

 

 前に一度試みた時は本当に酷かった。

 みんな小学生の作文みたいな歌詞しか書けてなかったんだもんな。俺、国語とはか得意なはずなんだけど。

 蘭や友希那さんやおたえのこと、改めて尊敬した。

 

「? それ、歌がないとダメなの?」

 

 黒歴史と言っても過言じゃない文を思い出していると、香澄は不思議そうに聞いてくる。

 

「そりゃお前、バンドとして歌詞がないってのは.......あれ?」

 

 待て。

 いや、アリだな、良く考えれば。

 歌詞無しの曲、インスト*1っていう選択肢は十分にアリだ。

 いやでも、スリーピースでインストってのもどうなんだろう。あー、でもインストにすればギタボする時より複雑なリフも弾けるのか。

 

「うーん.....アリっちゃアリだな」

「全然アリだよ! ありよりのあり!」

 

 グッと拳を握ってみせる香澄を見て、俺はふと笑みがもれた。

 いつもは突拍子のない事ばかりしでかして周りを巻き込むトラブルメーカー的なやつだが、稀にこんな、一種のカリスマ性のようなものを垣間見せてくる。

 人を魅了し、絆す力を持つ。人を導く星、それが戸山香澄だ。

 

「ありがとな」

「? うんっ!」

 

 いまいち分かっていなさそうな返事をしているが、実際分かっていないんだろう。

 それにまた笑ってしまう。

 

 それにしても、インストか。

 これは、アイツらにも相談してみる価値が十二分にあるな。

 

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 人混みでごった返す山〇線にしばらく揺られ、大塚で荒〇線に乗り換える。

 乗り換え後は席に座れたので、そこでようやく私たちは一息ついた。

 

「楽しかった〜! 今日はありがとね、海くん!」

「あいよ。こっちこそありがとうだ。俺も欲しいもん買えたし、バンドの活動も動き出せそうだよ」

 

 ガッタンゴットン、電車に揺られながら会話する。

 男の子とお出かけしたのは初めてだったけど、本当に楽しかった。

 相手が海くんだっていうのが大きいんだろう。どんな会話にも乗ってきてくれるし、面倒そうな態度を取ることはあっても、ずっと私を気遣ってくれてたのが分かる。

 

 私は彼のことが好きだ。

 ポピパのみんなやあっちゃんたちと同じくらい大好き。

 彼ともっと話していたいし、一緒にいたい。

 でも、それ以外に...

 

「ねぇ海くん! 海くんもポピパに」

「入りません」

 

 こちらを見ることもなく、もう慣れたとでもいいたげに断られる。

 ぶーぶー、と不満を口にしてみるも、これは分かっていた返答だ。なにせ、これまで十回以上勧誘してて、その全てで断られているんだから。

 

 海くんとは一緒にいたい。でも、今日よく分かった。

 海くんと、そしてポピパを含めたみんなで一緒にいたいんだ。

 

 だから今日もポピパに誘ってみたけど...返事はいつもと変わらない。

 初めて誘った時こそ少し慌てていたものの、最近ではこの通り。作業のように流される。ベルトコンベヤー、っておたえは言ってたっけ。

 

「でもでも、Afterglowには入ったじゃん! Roseliaにも!」

 

 分かりきってた拒否だけど、それで簡単に引き下がるくらいなら何度も誘ってない。

 少しくらいは食い下がってみる。

 

「あのなぁ。AfterglowとRoseliaには入ったわけじゃないって何度言えば...」

「でも一緒にライブしてた!」

「サポートでギター弾いただけだよ」

 

 呆れたように言ってくる海くんに、私は頬を膨らませて対抗する。

 海くんは一つため息をついて、言葉を続けた。

 

「サポートメンバーとして、ってことならポピパとも一緒に演奏するよ」

「ホント!?」

「ほんとほんと。シンセ二本必要なら俺が弾くし、香澄がピンボするんなら俺がギター弾くから」

「じゃあ私とおたえと海くんの三人でギター弾こ!!!」

「まぁあじぃ???」

「マジ! この前おたえが言ってたんだけどー...はろーすりーぷ...えと...なんとかってバンド! ギターが三人必要なんだってー。それのコピーバンドしたい!!」

「あー...多分Hello Sleepw〇lkersだろ、それ。確かに、アレは男女一人ずつのギタボとリードって編成だし、俺が入ればちょうどいいかもなぁ。あ、でもあれシンセいないだろ」

「そこはほら! どーにかしよっ!」

「.....なるほどなぁ」

 

 おたえがイイ感じに編曲してくれる! ハズ!(他力本願)

 更に呆れた顔を向けてくる海くんに、今度は満面の笑みで対抗してみる。あ、顔逸らされちゃった。

 

「とりあえずみんなに言ってみるね!」

「ん? ああ、いや、それなら──」

 

 海くんが何か言い終える前に、パパッと文章を打ち込んでポピパのグループに送信する。

 

「ピロンッ」「ピロンッ」

 

 ...?

 すごい偶然。さっき1〇9でも似たようなことがあったような...

 

「なんでお前ら通知切ってないんだよ!! さっき切っとけって言ったろ!?」

「ごめん。忘れてた」

「ごめん、私も.....てへっ」

「可愛く誤魔化せばいいと思うなよさーや!」

 

 どこからか聞こえてくる、ものすごく聞き覚えのある声。

 声のした方を見てみると、手に新聞紙や雑誌を持ったサングラスと帽子を被っている人の姿が、三人分。

 でも、私の思い浮かべた人たちとは違うみたいだ。

 

「あっれ〜? おっかしいなぁ...有咲たちの声が聞こえたと思ったんだけど...」

「お前マジか?」

 

 さっきから海くんの表情は呆れ顔ばっかりだ。

 笑ったほうが絶対楽しいのに。

 

「あれが市ヶ谷さんたちだろ。今日ずっと後つけてたぞ」

「え!??!?」

「そんな泡食ったような反応されてもな...」

 

 言われてみれば...金髪のツインテールだし、見覚えありまくるギターケース背負ってるし、パンの匂いもする!!

 

「有咲! おたえ! さーや!」

「香澄さんやい、ここ一応電車の中な。ちっとボリューム下げようぜ」

「なんで三人がここにいるの?!」

「お前の耳は飾りなんですか?」

 

 席を立って、三人の元へ行く。

 ちょうどいいことに三人の隣の席が空いてたから、そこに腰を下ろした。

 

「か、香澄...おい、お前らのせいで香澄たちに気付かれたじゃねーか」

「有咲のツッコミが決め手だと思う」

「あはは〜。確かに声大きかったねぇ」

 

 怒る有咲に、冷静なおたえに、笑うさーや。

 なんで三人がこんなところにいて、しかも変装なんかしてるんだろう。

 

 疑問が解消されない私の前に、海くんが立った。

 吊り革を掴み、有咲たちへと視線を落とす。

 

「お前ら、今日ずっと後ついてきてたろ。市ヶ谷さんはとうとうストーカーにでも目覚めたの? 香澄の」

「なんで香澄なんだよ!! どっちかっつったら私はお前の.....あ、ちょま、ちがっ...!」

「香澄ズルい。私も海とタワ〇コでCD物色したかった。有咲が止めなければ私も混ざってたのに」

「そりゃ止めるだろ! なんの為の尾行だと...」

「尾行って英語に直したらストーカーになるんじゃねぇの? 市ヶ谷さんやっぱり...」

「いやそれは...! つーかなんでさっきから私ばっかり! おたえやさーやだって私と一緒にやってだろ!!」

「市ヶ谷さん声でかい。ここ電車内」

「〜〜〜〜〜っっっっ」

 

 声にならない叫びを有咲が上げる。

 それを見て引き時だと思ったのか、海くんはケラケラと笑うだけで追撃はしなかった。

 

 そうしているうちにすぐに私たちが降りる駅についたから、五人で降りる。降りる時に海くんとさーやが周りのおばあちゃんたちにお辞儀してたから真似してみた。おばあちゃん飴くれた。

 

 

 

 その後、結局みんなで公園に行ったり、有咲の家の蔵に行ったりした。

 ちなみに海くんを含めてのコピーバンドはみんな賛成のようで、近いうちにCiRCLEで開かれるライブに応募もした。

 

 

 今日は残念ながらりみりんがいなかったけど、これが私が求める光景に最も近かったといえる。

 おたえと、有咲と、さーやと、海くん。そこにりみりんがいたら百点満点だ。

 

 私はポピパが大好き。海くんも大好き。

 海くんがポピパに入ってくれたら最高だけど...きっとそれは叶わない。

 

 だったら、今の関係を続けよう。

 みんなで遊んで、みんなで笑って、みんなで過ごす。そんなとってもキラキラドキドキしてる、この関係を。

 

 

 

 

*1
インストゥルメンタルの略。器楽曲。人声を一切用いず、楽器のみで演奏される楽曲のこと。




どうしてこうなった(憤慨)

専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。

  • 伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
  • 好きにやってええんやで(菩薩)
  • 全然分かるけど辞めな
  • 分かるからそのまま続けて、どうぞ。

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