ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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難産だったし、分娩が困難だった(エセ小〇構文)


運動会と体育祭は似て非なるもの

 

 

 

 

 

 彼との出会いに、多くを語る必要はないかもしれない。

 

 それは小説のように劇的なわけではなく、ごくありふれた日常であったから。

 

 

 実を言うと、私は彼との出会いをあまり鮮明に覚えているわけではない。

 内部生としてエスカレーター式に繰り上がった高校の教室で、特に何か話題があったわけでもなく挨拶を交わした。

 一言二言会話をした気もするけれど、その内容は覚えていない。天気が良いねとか、これからよろしくとか、そんなところだったんだろうと思う。

 

 かくして、彼との間では特にイベントか起こるわけでもなく、高校生活も一ヶ月という時が過ぎた。

 クラスメイトの香澄ちゃんに誘われる形で始めたバンドもそれなりに順調で、今までにない充実感を日々に見出し始めたころ。私と彼、というよりは、彼らとの物語は始まった。

 

 

 始まりは、彼の友人が楽器を、しかもベースを習いたいと言ってきたことから。

 それからは彼や彼の友人とも親しくなり、休みの日には遊びに出かけるような仲になる。

 人見知りの激しい私だけれど、彼はそんな私に合わせてくれていた。

 彼の友人は少しばかり強引なところがあったけれど、荒療治という形で私の人見知りも溶けていく。

 

 

 彼らとの出会いは、私にとってとても大事な財産だ。

 私という物語を彩る、大事な大事な一節だ。

 

 そう思うと、彼との出会いの記憶が怪しいのは少し残念に思う。

 けれどまぁ、彼の友人との出会いは、今でもはっきりと覚えてるかなぁ。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 さて、突然だが今日は体育祭だ。

 そろそろ残暑も終わりに近付いてきているらしく、ここ最近は薄手の長袖が必要な日だってたまにある。

 まぁ今日はめちゃくちゃ暑いし体操服は半袖半ズボンなんだけれども。

 女の子の生足が眩しい、って須田が悶えてた。わかる(わかる)

 

「私たち選手一同は、日ごろの練習の成果を発揮し、これまで支えてくれた家族、学校、部員たちの期待に応えるため正々堂々競技を行い、全力を尽くすことを誓います」

 

 燦々と照り付ける太陽の下、我らが生徒会長、鰐部(わにべ)七菜(ななな)先輩が宣誓する。

 まぁ会長ってよりグリグリのキーボードの人ってイメージの方が強いんだよな、あの人。

 

 その後も学長やら教頭やらの話が続くが、説法みたいな話を真面目に聞いてる生徒なんかほとんどいないんじゃないだろうか。

 かくいう俺も、話の内容は右から左だ。

 頭の中では昨日見たキーボードの弾いてみた動画が再生されている。

 あんまり再生回数の多い動画じゃなかったけど、あれは相当上手かった。パスパレのコピーしかしてないみたいだけど、かなりのファンなんだろうな。友達になりたい。

 

 そんなことを考えながらボケっと壇上の教頭を眺めていると、不意に隣から声をかけられた。

 

「ねぇ海、さっきからどこ見てんの? 目、死んでるけど」

「教頭のズラ」

 

 声の主は美竹蘭。

 俺と幼馴染みの一人であるツンデレ赤メッシュだ。

 

「今何考えた?」

「教頭のズラについて」

 

 無駄に勘が鋭い時があるんだよなぁ、蘭のやつ。

 

 それはそうと、何故他校の生徒であるはずの蘭が俺の隣に並んでいるのか。

 それは簡単、これが花咲川・羽丘合同の体育祭だからだ。

 俺のクラスと蘭のクラスは同じく赤組に配属されたらしく、今日はめでたくチームメイトということになる。

 ついでに、今俺たちがいるのはとある競技場だ。霞ヶ丘のでっかいとこ。

 多分弦巻家の力なんだろうけど、開催場知った時は普通にビビったよね。

 

 ポツポツと暇潰し的に蘭と言葉を交わしていると、長かった開会式がようやく終わった。

 すぐに出番があるという蘭と一先(ひとま)ず別れ、俺は赤組の待機所でもあるテントに向かう。

 

 今回俺が出場する競技は三つ。

『100m走』『男女混合リレー』『二人三脚』だ。

 100m走は全員が出るやつで、リレーは男子全員が強制出場。二人三脚はクジで決まった。

 

 今回の体育祭、男子の出番は女子と比べて圧倒的に少なくなっている。

 それもそのはず、やっぱり男女間での運動能力の差は必然だからだ。男子の競技への出場回数は制限され、多くても四回までとされている。

 運動か得意だったり好きだったりするやつは四回出場するらしいけど、ぶっちゃけ俺は運動はそうでもない。身体能力、特に体力面にはそこそこ自信あるけど、運動神経は人並みだ。

 その点、須田は運動ができる。

 中学までサッカーをやってたらしく、運動面で意外な才能を見せてきた。50m走は五秒台らしい。あいつ結構多才だよな。

 

 特に動いたわけでもないのに異様に乾いた喉を潤すため、家から持ってきた水筒を手に取る。中身はお茶だ。烏龍茶。

 飲みながら競技場の方を見ると、ちょうど最初のプログラムの参加者達が入場を始めたところだった。

 

『さぁ、ついにやって参りました。待ちに待った花咲川・羽丘合同体育祭。天候にも奇跡的に恵まれ、ここ霞ヶ丘上空には抜けるような青空が広がっております。関東に接近していた台風が突如霧散したことも記憶に新しいですね』

 

 そういやニュースでそんなこと言ってたな。

 まぁでもどうせ全部弦巻家の力だろ(感覚麻痺)

 

『今回の実況は(わたくし)、花咲川学園一年C組、梶原(かじわら)悠斗(ゆうと)がお送りいたします。そして解説はこの方。空虚という名のつぶらな瞳がチャームポイント、自称・熊の中の常識人、商店街の伝説的かつ刹那的マスコットキャラクター《ミッシェル》さんです。よろしくお願いします』

『ミッシェルです。よろしく』

 

 なんて?

 

『さて、第一種目は一年女子による4000m走。続々と出場選手が入場してきております』

『いきなりマラソン?』

『考えたやつはバカに違いありません。バカオブザイヤー受賞は必至でしょう。おめでとうございます』

『おっ、教師陣に喧嘩売るねぇ...』

 

 実況の奴、無駄にいい声なのが腹立つな。

 

『さぁ選手全員が入場し終えました。横一列に並ぶ女子、女子、女子。皆須らくレベルが高い。マラソンということはたわわがたわわする時間も長いということ、誠に眼福であります、ありがとう世界。吼えよ男子、(はじ)けろ同志。世界は今祝福に満たされる』

『とりあえず110番の画面だけはだしとくね』

『男には何がなんでもやらなきゃいけない時がある。泣いている女性を背負う時、大切な人が帰りを待っている時、恋人に愛を告げる時。そして美少女を愛でる時であります。通報逮捕なんするものぞ。刮目せよ、アレが我らの白亜城。遥か理想の────ごめんなさい奥沢さん謝る、謝るから警察は止めて僕が悪かった』

 

 何がなんでもやらなきゃいけない時じゃなかったのか()

 

『オクサワ? ボクノナマエハ、ミッシェル!』(通報)

『うわぁぁああぁぁぁああ!!!!!!』(有罪)

 

 うわぁ...(ドン引き)

 

 そんな茶番を聞いているうちに、4000m走は始まっていた。

 放送に気を取られててスタートしたの全然気付かなかったな。悔しい、あんな茶番に気を引かれてたのめちゃくちゃ悔しい。

 

『さて、お遊びはさておきそろそろ仕事をしましょうか。現在一位は...黄組。速い速い、1000mを走った時点で最後尾との差は500m以上。...え、待って速すぎ。さすがに速すぎない? あれ全力疾走でしょ。先頭を走ってるのは...あー、弦巻こころですねー』

『七割疾走くらいですかね』

『アレで七割。現役の陸上長距離走の選手よりレベチで速いですけど。なんならアレ、100m10秒とかじゃないです? 目測だけど』

『ごめんなさい...うちのこころが本当にごめんなさい...』

 

 実況の言う通り、一位を独走しているのは我らがお嬢。てか本当に速い、短距離走と勘違いしてんじゃないだろうな。

 次点で赤組、我らが元気コロッケ娘。てかはぐみも速い。こころほどじゃないけど速い。陸上部も結構参加してるってのに二位て。やっぱりハロハピはハロハピなのか()

 

「あははは!」

「こころんはやーい!」

 

 長距離走中に喋んな(憤慨)

 

 結局、そのままお嬢が一位でゴール。二位がはぐみだった。

 てかお嬢のタイムがおかしい。六分三十二秒ってなに。軽々しく世界記録を塗り替えるな。

 はぐみは十二分五秒とまぁ常識の範囲内のタイムではあった。ただし世界で戦えるレベルの常識ではあるが。お前らほんと、出るとこ出た方がいいよマジで。

 

 

 次の競技は蘭も出る借り物競争。

 この競技は蘭だけでなく、赤組から瀬田先輩、青組からモカや白金さん、リサさん。そんで黄組からは奥沢さんと、知り合いがわりと出るらしい。

 今どき借り物競争とかやってるところはうち以外であるのだろうか。少なくとも俺の知り合い達の高校はやってないって言ってた。

 

『解説のミッシェルさんは、急遽入った全国ゆるキャラ会議のため一時席を外しております』

 

 ふーん。

 

『第二種目は借り物競争。他人から享受されなければ成功への道は拓けない、まさに負け組の人生を顕著に表した競技と言えるでしょう。...あっ、こら! 放送席にゴミを投げるな!』

 

 競技がスタートする。

 さすがに一斉にスタートするわけではなく、五人ずつのグループに分かれてスタートするらしい。

 最初のグループには蘭がいた。がんばえー。

 

『酒瓶投げたのは完全に教師の仕業だろ! 瓶はダメっすよ瓶は! 死ぬから! つーか体育祭のしかも朝っぱらから酒飲むな!! 一応仕事中だぞ!』

 

 空砲が鳴って、第一陣がスタートする。

 どうでもいいけど、俺昔あの空砲って実弾入ってると思ってたんだよね。

 

『はぁ...はぁ...、あっ、もうスタートしてるし! えっと...んんっ、最初に借り物の書いてある紙を取ったのは黄組の向原(むこうはら)くん、続いて赤組の赤メッシュちゃん。...いや、羽丘の生徒の名前とか知らんですよほんとに。入学半年で花咲川の全生徒の名前覚えただけで褒めてほしい。...ん? なんスか塩月先生。え? これ羽丘の名簿一覧? 今から覚えろって? ふざけんな事前に渡しとけ(ブチ切れ)』

 

 全生徒覚えたんか()

 てか一々覚えなくても、○○組の選手〜、って言い方でいいだろ。

 

 借り物の書いてある紙を取った蘭は、少しの間固まっていた。

 なんだろ、変なもんでも書いてあんのかな。ひとつなぎの大秘宝とか。

 

 しばらく固まって、せっかく二位でお題を取ったのにばんばん抜かれて行く蘭。幸いなのはまだ誰もゴールはしていないことだが...。

 と、そこでようやく蘭が動く。意を決したらしい。後半の海はヤベーらしいから気を付けろよ。

 しかし蘭は大海原に乗り出すなんてことはせず、何故か赤組のテント、つまり俺の方へとずんずん歩いてくる。顔が怖いわよ蘭ちゃん。

 

「.......ちょっと海きて」

 

 どうやら借り物の対象は俺らしい。

 男子生徒とかなのだろうか。それならまぁ、女子校育ちの蘭が固まってた理由も分かる。

 

「ん、あいあい」

 

 テントという避暑地から出て、俺は蘭と共にゴールへ向かう。

 蘭の顔が赤い気がするのだが、日焼けでもしたんだろうか。今日日差し強いからなぁ。

 

『一位でのゴールは赤組メッシュちゃん。借り物は...どうやら男を連れているようです』

 

 他の選手は借り物を借りるのに苦戦しているらしい。

 その点、蘭は当たりを引いたと言える。何せ同じ赤組の、しかも幼馴染でもある俺が借り物の対象なのだ。断るなんてことはまずしない。蘭が敵でもしない。

 

「で? 結局借り物ってなんだったの。男子生徒とか?」

「.....ん。そんなとこ」

 

 ちょっと違うのか。

 まぁいいや、無事一位を取って赤組に貢献出来たし。

 競技を終えた蘭と一緒にテントへ戻る。テントの日陰に入ると、心做しか涼しい気がした。直射日光があるかないかってやっぱり大きいんやなって。

 

 日陰の偉大さを感じていると、何故かこっちにモカがやってきた。

 手元を見ると一枚の紙が握られていたので、どうやら借り物を仮に来たらしい。にしてもなんで赤組(敵陣)に。

 

「海〜、ちょっときて〜。体貸して〜」

 

 また俺か。

 呼ばれたので仕方なくテントから出る。敵に加担するみたいになってしまうが、相手が知り合いなら断るわけにもいかない。

 にしても、俺じゃないといけない理由はなんだろうか。バンドやってる男子生徒とか、そういうピンポイントなお題なのだろうか。

 

『次のグループでの一位は青組の...えと.....待ってね.......あ、あったあった。青組の青葉モカさん。お題の品は...あれ、また関口? 男子生徒を連れてますね』

 

 また一位なのか。

 もしかして借り物競争のお題、意外と難しい?

 

「ちなみにモカ、お前のお題って何だったの?」

「ん〜? えっとね〜、好きな人〜」

「.........ふーん?」

 

 ふーん?

 

「海は誕生日にいろいろ買ってくれたから好き〜。パンもたまに奢ってくれるし〜」

 

 そう言って、この前買ってやったネックレスをチラッと見せてくる。

 なんだろうね、この気持ち。財布みたいな扱いされてるのに可愛いから許そうかなとか思っちゃって悔しい。絶対俺の誕生日には釣り合い取れるくらいのもん買わせてやるからなちくしょう。

 

 

 日差しから逃げるようにテントに入り、お茶を飲んで一息ついた俺に、再び声がかかる。

 

「あの、関口くん...一緒に来てもらっても...いい、ですか...?」

 

 白金さんだった。

 モジモジと赤組のテントの前に立つ彼女の姿は実にしおらしく可愛らしい。気づけば俺は白金さんの隣に立っていた。

 にしても、また俺か。あれかな、せっかく共学になって初めて男子を交えた体育祭やるんだから絡みを増やそう的な思惑でもあんのかな。それでお題が男関連のものが多いとか。

 

『続いて三位でゴールしたのは青組の白金さん。お題の品は...また関口?』

 

 さすがに司会も訝しんだらしい。俺もよく分かってないから許してほしい。

 

「白金さん、お題って何だったんですか?」

「えっと.....仲の良い...男子生徒、だったので...ご、ご迷惑でしたか...?」

「いえ全然。むしろ嬉しいです」

 

 そっかー。仲良い男子で俺選んでくれたのかー。ふへへ(恍惚)

 

 にしても、やっぱり男関連のお題は多いのかもしれない。

 もしかしたらリサさんとか奥沢さんからも求められちゃうかもなー! ふはは!

 

 

 

 以後、特に誰かから声をかけられることはなかった。

 おこがましかったですごめんなさい。

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

『栄光への近道など存在するわけがない。誰であろうと、初めの一歩は小さいもの。頂きへの最短コースは架け橋を渡ることなのだと、そう柚師匠は言っていました』

『違うねそれ』

 

 

 さて、何だかんだで競技は次々と消化されていき、俺の出る二人三脚の番が回ってきた。

 入場口から入場し、俺たちの四つ前のグループがスタートするのを見てから、俺はパートナーの足と自分の足を紐で括り付ける。

 

 今回の俺のパートナーは意外すぎる人だった。

 須田や五十嵐(いがらし)辺りなら比較的よく絡むめんつだし楽だな、とは思っていたんだが、全くもって気の休まらない相手と組むことになってしまったのだ。

 答えを言おう。俺のパートナーは牛込さんである。

 もう一度言う。俺のパートナーは牛込さんである。

 

 は?(は?)

 

「う〜...やっぱりちょっと恥ずかしいね...」

 

 牛込さんがとても恥ずかしそうに言う。顔は真っ赤だ。俺の顔もきっと真っ赤なんだろう。

 けどそれも仕方がないんだ。半袖半ズボンの体操服で二人三脚なんかしたら、腕や足の肌は直に触れる。そんで体が密着するわけだから、もうモンモンもいい所である。

 

 何故男女でパートナーを組んでいるのかと聞かれると、それが学校の方針だったからと答える他ない。現に、俺たち以外の組も男女で組んでいる。

 なんか学校側は男子と女子に仲良くなってもらいたいとかなんとか言ってたが、倫理観念ぶっ壊れてるんだろうか。ワンチャン事案だぞこれ。

 

 ちなみにだが、俺がこの競技に出ることになったのはくじ引きだし、牛込さんもそうだ。牛込さんにとっては特に、不運の結果なのである。

 運が悪いのであって俺は悪くないって言ったのに須田から五発くらい殴られた。解せぬ。

 

 三つ前のグループがスタートする。

 空いた分一歩前へ歩き、自分達の順番を待つ。

 

『恨ま妬ましい男女二人三脚、特にラッキースケベなどは起こらず、現在のところは順調に進んでおります。絵的にはつまらないが個人的にはこのまま何も起こらないでほしい。僕以外がラッキースケベにあうところを見ても得がない。頼むから何も起こるな、頼むから僕以外がいい目を見るな。そう願うばかりであります』

『欲望に忠実だよね、梶原くん』

『素直に生きることは良いことだ。私が幼き頃、じっちゃがそう言っておりました。漢たるもの、ムッツリよりもオープンであれ。我が家の家訓であります』

『いつ言うか悩んでたけど、すっごいキャラ作るねー』

 

 二つ前のグループがスタートする。

 正直心臓バックバクだ。女の子の柔らかい体と、どこからか向けられる視線を受けて。なんだろ、幼稚園の頃に初めてライオンを見て、そいつに何故か睨まれた時のような感覚。冷や汗半端ないんだけど。

 

 

 一つ前のグループがスタートする。

 とうとう俺たちの走る番だ。

 スタート地点に立ち、牛込さんと肩を組む。視線がより一層強くなった気がした。視線は人にダメージを与えることができる。関口、学びました。

 

 スタートを告げる空砲が鳴る。

 それと同時、俺は左脚を、牛込さんは右脚を前に出した。

 

「いち、にっ、いち、にっ、いち、にっ」

 

 隣でそんな弾んだ声を出さないでほしい。萌えちゃう。は?

 

 雑念をどうにかこうにか脳内ごみ箱フォルダにぶち込み、牛込さんと歩調を合わせる。後で絶対、絶対にサルベージしてやるからな(鋼の意思)

 

事故(ラッキースケベ)が無いことを祈りますが、今回の出場者には彼がいます。花咲川(ウチ)の女子だけでなく何故か羽丘との絡みも多い関口海であります。彼の存在は事故発生のメタファーなのか、彼を知る全男子生徒が手に汗握り固唾を飲んで見守ります』

『関口くんが何をしたって...あ、』(第六話『恋とか愛とか分からないって言ってると青春はすぐに過ぎ去る』参照)

『...? まさか奥沢さんも関口となんかあるの...? オイ野郎共、武器の貯蔵は十分かァ!!!』

 

「いち、にっ、いち、にっ」

 

 何も気にせずにリズムを刻む牛込さんはベーシスト(リズム隊)の鑑。つーか実況、さっきからうるせぇぞ。俺たちそんなにしゃべったことも無いだろ。俺の何を知ってるってんだ。

 

 そんなこんなでカーブに差し掛かる。

 実況が実況としての仕事を果たしていないが、現在レースはほぼ横並びだ。俺たちが若干遅れているかもしれない。

 いくぞ牛込さん、コーナーで差をつけろ!

 

「いち、にっ、いち、あっ!?」

 

 えっ?

 

 左脚が引っ張られる。地面と熱いバーチョを交わした。

 何が起きたのか一瞬分からなかったが、歩調が乱れて転んだんだろうと理解するのにそう時間はかからなかった。てか状況的にそれ以外考えられん。

 

「ぺっ、ぺっ.....牛込さん、大丈夫?」

 

 口に入った土を吐き出し、一旦足の固定具を解いて牛込さんを立ち上がらせる。

 幸い怪我とかはしてないみたいだが、その瞳には溢れんばかりの涙が溜まっていた。

 

「どっか痛めた? 歩けそう?」

「う、ううん...ヒッ...痛い...もあるけど.....」

 

 嗚咽気味に喋る牛込さんは、そのまま言葉を続ける。

 どこからか須田の怒号が聞こえてきた気もしたが無視だ無視。

 

「転げちゃって...うちのせいで負けるの、ダメだなって.....」

「あー...」

 

 なるほど、そういう。

 申し訳なさとか悔しさとか、そういうやつね。

 

 ふむ、と俺は前方を見る。

 男女で組まされているからか、どの組もそこまで速くはない。まだゴールしている組はなかった。

 

 まだいけるか。

 

「ちょっち失礼ー、っと」

「...えっ、えぅ?」

 

 今にも泣き出しそうな牛込さんの両足に、俺は固定具を括り付ける。

 後で須田辺りにはまた殴られるんだろうなー、と軽く覚悟を決めつつ、俺は混乱しているらしい牛込さんを抱き上げた。

 いわゆるお姫様だっこだ。

 

『あっ! なんか関口がお姫様だっことかしてる! 野郎共、武器を投げろォオオオ!!!!』

『物を投げないでくださーい!!!』

 

「二人で三本の脚、ってんならこれでもいいだろ、っと!」

 

 屁理屈と牛込さんを抱えて駆け出す。ペットボトルとかが飛んできたが、やつらは牛込さんに当たることを考慮はしないのだろうか。まぁ俺にも当たってはいないし、本気で当てる気はないっぽいけどさ。

 

 足の速さは平均くらいの俺だけど、とろとろ走ってるほかの組よりかは断然速い。

 みるみるうちに差は埋まり、追い抜く。

 

 そのまま駆け抜け、一位でゴールテープを切った。

 何気ゴールテープ切ったのって初めてだな。気持ちいい。

 

「ははっ! ほら牛込さん、一位だよ一位!」

「うぇ? え? えぇ???」

 

 意外にもテンションの上がってしまった俺は、牛込さんを抱き上げたままはしゃいだ。こんなに喜んだのいつぶりだろ。あいや、喜んだのを表に出したのはいつぶりだろ、かな。

 

「いや、普通に違反だから。失格ね」

「アッハイ」

 

 審判(教師)に冷水ぶっかけられたし、須田にはグーで殴られた。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

『以上をもって、午前の競技は全て終了致しました。憎い奴への恩讐を胸に、今は力を蓄える時であります』

『水分塩分の補給はしっかりね〜。いやほんとに。死ぬから』

 

 

 午前中の競技が終わり、お昼の時間になった。

 私はおうちにお弁当を忘れてしまって、今お母さんに届けて貰ったところ。受け取ったお弁当を持って、香澄ちゃん達のところに向かう。ポピパのみんなで固まってるって言ってたけど、どこにいるんだろう?

 お弁当を食べる場所は、競技場の敷地内から出なければどこで摂ってもいいらしい。ほとんどの人達は日陰のある観客席で食べてる。香澄ちゃん達がいるのも、例に漏れず観客席の一角だって言ってた。

 

「あ、りみりーん! こっちこっち〜!」

 

 人でごった返している中、香澄ちゃん達の姿を見つけられずにいた私に声が届く。

 手を振って、そして香澄ちゃん達のいる方へ向かった。

 

「待たせちゃってごめんね...?」

「ううん! 全然大丈夫!」

 

 笑って許してくれる香澄ちゃん。

 ほかのみんなも、気を悪くしてる人はいないみたい。ホッと安心する。

 見れば、みんなお弁当を食べずに待っていてくれたらしい。

 

「それじゃありみりんも来たしっ、いっただっきまぁす!」

『いただきまーす』

 

 香澄ちゃんが大きな声で言い、それに続くように私達四人もいただきますをする。

 いつもは沙綾ちゃんの家のチョココロネをお昼ご飯にすることが多い私だけど、今日はお母さんが頑張ってお弁当を作ってくれた。忘れちゃったのが本当に申し訳ない。帰ったらまた謝ろう。

 

「それにしてもりみ、さっきのすごかったね〜」

「さっきの?」

 

 アスパラベーコンを頬張る私に、沙綾ちゃんの声がかかる。

 さっきの.....さっきの? なんのことだろう。

 

「ほら、関口くんにお姫様だっこされてたあれ。あれは笑っちゃったな〜」

「ふえ!?」

 

 沙綾ちゃんに言われて思い出す。

 うぅ...恥ずかしすぎて記憶から消してたのに...。

 

「海くん、あのあと男の子からすっごく追いかけられてたね〜」

 

 箸先を咥えながら、香澄ちゃんが思い出すように言う。

 

「ったく、自業自得だっつの。ほかの女子ともいろいろ絡んでたみたいだし? ちったぁ反省すればいい」

「私もお姫様だっこされてみたい。女の子の夢」

 

 ...あれ? 有咲ちゃん、なんだか怒ってる...?

 

「そういえば関口くんは? 香澄、関口くんもお昼誘ってたよね?」

 

 言われてみれば、彼の姿が見当たらない。

 いつもってわけじゃないけど、お昼ご飯の時は関口くんや須田くんも一緒にいることが多い。

 まぁ今日はいない方が助かるけど...顔見るとまだめっちゃ恥ずかしいし...。

 

「誘ったよ〜。けどなんか『今お前らと一緒に飯なんか食ったら誰に殺されるか分かったもんじゃない』って言ってどっか行っちゃった」

「あ〜...まぁそうかもね〜。私らはまだいいかもだけど、りみと一緒にいたら須田くんあたりが...」

 

 ? 須田くんがどうしたんだろう。

 須田くんの姿も見当たらない。

 前に約束したおかず交換、やろうと思ってたんだけど。

 

 

 ...そういえば、須田くんと初めて喋ったのもお昼の時間だったなぁ。

 

 私が手を滑らせてお昼ご飯用のチョココロネを床に落としちゃった時、たまたま購買のチョココロネを持ってた須田くんがチョココロネをくれた。「俺ほかにもパン買いすぎちゃったから」って言って。

 

 その頃はまだポピパも結成してなくて、香澄ちゃんともそんなに仲良くなかった。

 お昼の時間は一人でご飯を食べてたから、チョココロネを落としちゃった時の絶望や、須田くんの親切がすごく嬉しかったのを今でも覚えてる。

 

 

 一緒にいる関口くんの光が強すぎてあまり知られてないけれど、須田くんはとてもいい人だ。関口くんとは違う優しさを持っている。

 

 彼の最初の印象は、関口くんと一緒にいる人、だった。

 

 そこに私は、私と似た者同士なのではないかという思いを持った。

 私もそうだったから。お姉ちゃんっていう強い光のそばにある、気を付けて見なければ気付かないような淡い存在。お姉ちゃんは私の誇りで自慢だけど、周りから比較されるのが嫌だった。

 

 彼もそうなんだろうと、私は思っていたんだ。

 良くも悪くも、関口くんはとても目立つ。

 顔立ちは整っているし、頭もいい。その上入学早々の大遅刻や風紀委員の先輩とのやり取り。花咲川のやべーやつ、とまで言われたこころちゃんと交流を持ったのも、うちのクラスでは一番早かったと思う。

 当時たったの一ヶ月でその存在を知らしめた関口くんが、彼のそばにはいたのだ。彼の存在が薄れてしまうのは仕方がないことだった。

 

 けど、違う。

 彼は、彼だけの輝きを確かに持っていた。私とは違うんだ。

 どれだけ関口くんの光が強かろうと、決して消えないし、淡くもならない。芯のある光だ。

 

 そんな彼を知ってしまったから、私は彼に惹かれているのかもしれない。

 彼のようになれたらと、心のどこかで思っているのかもしれない。

 

 

 そんな須田くんは今、一体どこに───

 

「須田くんも誘ったんだけどねー? なんか『逃げたクソ野郎を捕まえてくる』ってクラスの男子全員でどっか行っちゃった」

 

 そういうところがモブ臭を漂わせちゃうんだよ須田くん...。

 

 

 




は?(ろくな文章が書けないことへの怒り)
須田くん主観で書こうかなっても思ったんですけど、ちょっと書きにくかったので普通に関口くん主観にしました。投げるのは感想だけにしてください、ゴミは投げないで!(いい加減にした方がいい)(悔い改めろ)(見捨てないで...見捨てないで...)

専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。

  • 伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
  • 好きにやってええんやで(菩薩)
  • 全然分かるけど辞めな
  • 分かるからそのまま続けて、どうぞ。
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