ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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少しのお砂糖と、過分なスパイス。そして素敵な何か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしにとって、彼は何なんだろう。

 ふと、そう考えることがある。

 

 

 彼はひまりが連れてきた男子で、あたし達の幼馴染み。でも、その程度じゃない。

 ほかの男子より、なんなら女子の友達よりもずっと親しい友達。でも、それじゃ足りない。

 いつも暖かくて、あたし達を包み込んでくれるお兄ちゃん。...それはちょっと違う。あいつをお兄ちゃんって思いたくない。

 

 誰よりも優しくて、あたしの中に踏み込んでくれる人。幼馴染みってだけじゃない、親友ってだけでもない。もっと特別で、大事な人。友達以上恋人未満、とも違う。そもそも、恋人が友達の上にいるっていう考えがおかしい。価値観は人それぞれなんだから。

 

 彼のいない生活なんて考えられない。高校は別々になってしまったけど、それでも週に一回は必ず会う。彼はあたしの『いつも通り』の風景のようなもの。あたしたちを形作る一部。

 

 

 そんな彼が、最近は色んな人と仲良くしている。

 別にあいつの友好関係に文句をつける気はないけれど、少しだけ...ほんのちょっぴり、一ミリくらい、いやミクロンレベルで、心がざわつく。

 彼が離れていってしまうようで、あたしの『いつも通り』がどこか遠くに行ってしまうようで。

 

 

 

 それがたまに、どうしようもなく不安になる。

 

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 忙しなく混沌を極めた魔のハロウィンも久しく感じ始めた、十一月十一日。土曜日。

 今日は、世間一般では某製菓会社のマーケティング戦略の一部であるポ〇キーの日であり、私事では俺の誕生日だ。

 

「海、誕生日おめでとう〜〜〜!!!」

「ん、ありがと」

 

 場所は羽沢珈琲店。まだお客さんもあまりいない、朝十時頃。

 俺は幼馴染みに囲まれ、誕生日を祝われていた。

 

 これは別に俺が特別というわけじゃなく、ほかの五人が誕生日を迎えた時もこうやって集まる。昔からの行事みたいなもんだ。

 

「にしても、何もこんなに早く集まんなくても良かったろ。朝の十時て」

「だってぇ〜! 早く海の誕生日祝いたかったんだもんっ!」

 

 え、何それ嬉しい。にやにやしちゃう。...あっ、蘭こらテメェ! 横腹つねんな痛い!!

 でもあれだな。ひまりは昨日の夜、ってか今日になった瞬間か。深夜0時ぴったりに電話かけてきたし、実は集まる前からもう祝われ済なんだよな。

 

「海〜ハピバ〜。はいこれ〜ポ〇キーだよ〜」

「ポ〇キー一本てお前。せめて箱ごと寄越せ」

 

 それとモカ、お前は俺にもっと高いものを奢れ。お前の誕生日に色々買ってやったろ。そうだな、指輪欲しい。それかブレスレット。ライブ用のアクセサリーが欲しいんだよな。

 文句を垂れつつも、モカの差し出してきたポ〇キーを咥える。うん、美味い。

 

「アタシからはこれだ! 誕生日おめでとう、海!」

 

 そう言って巴が差し出してきたのは、ギターのストラップだった。

 Fenderのロゴが入っている、青を基調としたシンプルなデザイン。

 俺の本妻はEDWARDSのレスポールだし、側室である七弦ギターはIbanezなんだが、まぁそんなことは些細なことだろう*1。とても俺好みのストラップだ。さすが幼馴染み、俺のこと分かってんな。

 

「私はこれ。はい、海くん。お誕生日おめでとうっ」

 

 貰った箱を開けると、中にはマグカップが入っていた。柴犬のイラストが描いてある。きゃわ。俺、柴犬めっちゃ好っきゃねん。

 ありがとうつぐ、今日からこれでコーヒー飲むわ。カフェイン中毒には気を付ける。

 

「ふっふっふ〜! ひまりちゃんからはこれだーっ!」

 

 やけに高いテンションでひまりが渡してきたのは、手のひらサイズの箱。開けてみると、中にはシルバーのネックレスが入っていた。シンプルな造りのリングが二つ付いたネックレスだ。

 ふーむ、良き。十年も一緒にいるのは伊達じゃないな。俺がゴテゴテした装飾が苦手なのを分かってるし、俺が欲しいと思ってたものだ。

 さすがひまり、ありがとう。明日から学校にも付けていくわ(お気に入り)

 

 残るは蘭か。去年は『地獄の華道ドリル ~決死の入隊編~』って某メカトレみたいな本くれたけど、今年は続編くれるのかな。

 つーか去年は蘭のお家事情とかほとんど知らなかったから何も思わなかったけど、今考えたらよく俺に華道の本とか渡してきたよな。もしかしてSOS的な何かだった? だとしたらごめん、俺全然気付かなかったし、なんならドリル見て華道の勉強してたわ。

 

 チラっと蘭を見ると、何やらゴソゴソとカバンの中を弄り始めた。プレゼントを出そうとしているんだろう。本当に何くれるんだろ。『地獄の華道ドリル ~狂気の常緑樹信仰編~』とか渡されたら、俺はどんな反応をすればええんやろか。

 

「あたしからは───」

 

「お待たせ! 特製誕生日ケーキ『デビルズフーズ・セリーヌアンオアシス ~幻惑の桃源郷~』だよ!」

「なんて???」

 

 蘭を遮るようなタイミングで意味の分からんネーミングの特大ケーキを持ってきたのは、ここ羽沢珈琲店の店長でもあるつぐのお父さんだ。

 学生時代はお菓子料理人としてブイブイ言わせていたらしいつぐパパの甘味は異様なほどに美味しい。あの弦巻家が羽沢珈琲店のスイーツを贔屓にしている、と言えばその凄さも伝わるだろう。もはやね、世界の羽沢ですよ。

 そんなつぐパパが持ってきたケーキは、ウェディングケーキくらいの大きさはあるチョコレートケーキだった。ただのケーキではない。砂漠の中に佇むオアシスを型どった造形をしている。まるで3Dプリンターでも使ったかのような、立体的で、怖いくらい精巧な造りだ。細部には様々なフルーツやビスケット系のお菓子などが施されており、その一つ一つの配置と装飾に無駄がない。

 これはケーキというよりも、一種の芸術品だ。初見でケーキだと見抜くことはほぼ不可能と言える。これだから世界の羽沢は...(褒め言葉)

 

「わーい! つぐパパありがとうございまぁす!!! インスタに上げなきゃ!」

 

 随分と軽いノリで、世界の羽沢の一品をスマホの写真に収めるひまり。

 それもそのはず。こんな感じのパラレルケーキを見るのは、高校生になってからこれで五度目なのだ。

 

 高校生になってから、つぐだけは早生まれだからまだだが、そのほかのメンバーは全員誕生日を迎えている。

 誰かが誕生日を迎える度に出てくるのが、このつぐパパ特製パラレルケーキなのである。誕生日を皆で祝う風習は小学校の時からあったし、もう何十回と見てきた。一々驚いてたのは最初の三回までだったな。

 

 ここ数年の楽しみは、毎度の凝ったネーミングだ。

 

 確か蘭の時が『あの崖の向こうに続く虹』、巴が『あい あむ あ けーき』、モカが『宙より高く、海より深き場所』、この前のひまりの時が『アルドレーヌ・ラ・ノエル ~サンタナを感じて~』だったかな。ネーミングセンスについては俺といい勝負だろ、つぐパパ。

 

「ありがとうございます、つぐパパ。てかこれ金払いますよ。去年までと違って俺バイトやってるんで」

「いいのいいの! 子供のうちは大人に甘えておくものだよ、海くん」

 

 つ、つぐパパぁ...!

 昔一緒に住んでた頃に『かーいーくんっ♡ パパ金欠だから夜ラーメン奢って♡ お母さんにはナイショだよっ♡』って言ってきたうちのお父さんとは大違いやで...!

 いや改めて思い出したら腹立ってきたな。当時俺小五くらいぞ? 小学生の息子に晩飯たかるなよクソ親父。俺あの時お年玉崩したんだぞ()

 

「はああ...つぐパパがお父さんにならねぇかなぁ」

「「ふぇ!!?」」

 

 つぐと、そんでひまりの声がシンクロする。

 いやなんでつぐが顔染めてんのか分かんないし、ひまりはその掲げたフォークを下ろせ。

 

「海〜、海はほんと、そういうとこだとモカちゃん思うな〜」

「俺が悪いのこれ?」

「海、とりあえず土下座したら?」

「土下座」

 

 モカや蘭までなんか言ってくる。巴は巴で「仕方ねぇなぁこいつら」みたいな姉御スマイルかましてるし、何なんだお前ら。

 

「はっはっは、おじさんも海くんみたいな子が息子だと嬉しいね〜」

 

 ほらバカお前ら、今の会話はこうやって笑って済ませる会話だろ。つぐパパを見習え。

 そう思ってつぐパパを見ると、今まで目尻に皺を寄せていたつぐパパの顔が一気に真顔になった。えっ。

 

「でも...うちの娘を泣かせたら魚の餌にすんぞ、ガキ」

「ヒェッ.....」

 

 修羅が見えた。つぐパパには何があろうと逆らわないし、つぐは絶対に泣かせないって心に決めた。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 つぐパパの特製ケーキ完食とかいう軽いフードファイトを完遂した後、俺たちは外に繰り出していた。

 時間は十二時半。ちょうど昼飯時だが、さっきのケーキがまだ腹の中にいるおかげで空腹感はこれっぽっちもない。

 

 そんな俺たちが向かうのはどこか、と聞かれれば、分からないと答えるしかない。

 特にあてもなく、ずっと店にいると営業の邪魔だろうからと出てきただけだ。これで解散でもいいっちゃいいんだが、せっかくだしどこか遊びに行きたい。

 

「みんなはどっか行きたいとこある?」

 

 もう俺の誕生日を祝うターンは終わった。

 故に、ここは俺の行きたい場所じゃなく“みんなで行きたい場所”に行くべきだ。

 ってことで、とりあえず行きたい場所はあるか聞いてみた。

 

「う〜ん...私は特にこれといってはないかな。ごめんね」

「いや、別に謝んなくてもいいよつぐ。つぐは笑ってて、マジで。頼むから」

「お前、つぐのお父さん怖がり過ぎだろ...」

 

 バッカ巴お前、あの修羅怒らせるようなことあれば俺ホントに魚の餌になるかもしれないんだぞ!

 

「ひまりはなんか希望ある? ...ひまり?」

「うぅ〜.....」

 

 何唸ってんのこいつ。睨むな睨むな、可愛いだけだぞ。

 

「はいはーい、モカちゃんはパン屋さんに行きたいでーす」

「ほらそこ、喜福堂(美味しいパン屋)あるぞ」

「近所もいいけど〜、モカちゃん的には〜、未開の地に進出したいってゆ〜かぁ〜」

「ふーん。つっても俺、お腹いっぱいなんだけど」

「パンは別腹でしょ〜? ねー、みんな〜」

 

 全員苦笑いだぞ。

 パン屋巡りは却下な。今度付き合ってやっから。

 と、ここで不機嫌そうだったひまりが突如手を上げてくる。

 

「はい! スイパラ行きたい!」

「腹いっぱいだっつってんだろ」

「じゃあ横浜! 中華街!」

「日本語理解してらっしゃる???」

 

 つーかスイパラてお前。さっきあんだけケーキ食ったろ。俺の倍くらい食ってたくせに、まだ甘いもん食べたいのかこいつ。

 スイパラも却下。睨むな睨むな、そっちも今度付き合ってやるから。

 

「巴は...ラーメンって言いそう。却下」

「うーん、間違ってないから怒れないなぁ」

 

 間違ってないのか()

 え、何お前ら。お前らの胃はどうなってんの? 無限大? もしかしてミニブラックホール*2でも飲み込んでおられる?

 というかみんなお腹いっぱいなんじゃないの? 好きなもんは別腹ってか、この乙女どもめ。

 

「じゃあ、そういう海はどこがいいの」

 

 俺が否定してばかりいるからか、蘭がそう聞いてきた。

 

「んー...楽器屋?」

「大勢で行く場所じゃないでしょ」

「じゃあカラオケとか...ボウリングとか?」

「まぁ、それなら別に」

 

 反対はしない、つまり賛成だと蘭が言う。

 ほかにも特に反対意見は上がらず、結局いつも通りの遊びコースになった。何だかんだでいつも通りが楽で楽しいって、それ一番言われてるから。

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

「〜〜♪」

 

 というわけでカラオケである。

 

 六人でカラオケに入ると一人の歌う時間が少なくなりがちなのでそんなに好きじゃないんだが、このメンツだったら話は別だ。こいつらとなら、別に歌う時間が少なくなっても不思議と気にならない。なんでかは分かんないけど。親密度とかそんなんなのかな。

 

「イヤイヤイヤイヤイヤ!」

 

 と、蘭の歌が終わる。

 大阪のガールズバンドの超有名曲は、蘭の雰囲気にとても合っていた。近いうちにカバーでもすればいいのに。俺が観たい。

 あ、でもシンセがないのか。まぁいいや、シンセアレンジくらいなら俺がテキトーに考えるからぜひアフグロでカバーして。

 

「.....考えとく」

 

 なんと、ダメ元で頼んでみたらおっけーの返事が返ってきた。

 蘭の「考えとく」はほぼOKみたいなもんだ。天邪鬼だからね、仕方ないね。

 

 蘭に続いて、次は巴が歌い始める。

 普段はラウドロックなんかをよく聴くらしい巴だが、今回歌う曲はまさかのアニソン。け〇おん!の『ふわ〇わ時間』。

 いやお前、確かに巴の声には合ってるけどさぁ...。

 

「な、なんだよいいだろ!? アタシだってこういう曲聴くんだぞ!」

「何も言ってないしダメとまでは思ってない。意外だっただけ」

 

 もっとこう、友情!努力!勝利!みたいな曲やスピード感と重みのある曲、ドラムの主張が激しい曲なんかを歌うと思ってたから。

 しっかし、思ってたよりもしっくりくるなぁ、巴の声。もはや本家と言っても差し支えあるまい。そのレベルだ。

 

 巴がカミサマに二人だけのDream nightを要求している間に、俺も曲を選ぶ。

 普段はメロデスやパワーメタルなんかをよく聴く俺だが、カラオケの時にそっち系の曲は歌わない。いや必要に駆られたら歌うけど。カバーする時の練習とか。

 それ以外で俺が歌うのは、基本邦楽。ラウドやハードロック系の曲は歌うけど、デスボとかは出さない。いや、一緒にカラオケ来てる奴が突然デスボったら引くだろ?

 

 というわけで、俺はリモコンをポチポチ弄ってとりあえずJ-popから曲を探すことにした。特に「これだ!」って曲もないしな。

 五十音順に並ぶアーティスト欄をスライドさせていき、流し見していく。

 と、指が止まった。なんとなくこう、ビビっときたアーティストの名前をタップする。うーん...これにすっか。

 ピッピと液晶を叩いて曲を予約した。それとほぼ同時くらいに、巴がカミサマへmiracle timeを懇願して曲が終わる。

 

「いいぞ〜、かわい〜よ〜トモちーん」

「茶化すなよモカぁ!」

 

 巴の姉御、多分可愛い路線も需要あるよ。

 巴には黙ってるけど、この前の花咲川・羽丘合同運動会から巴のファンが何人かうちの高校に出始めたからな。男女併せて十人ちょい。

 体育祭で姉御節を発動させたソイヤ姐さんは、関わったそいつらをその包容力で落としたらしい。ソイヤ姐さんさぁ...。

 

 ちなみに巴だけじゃなく、ひまりにもファンクラブが出来た。

 構成人数は分からないが、俺の机に入ってた脅迫文の数からして、少なくとも八人以上から構成されている組織だ。手書きの物が多かったけど、二通だけ新聞の切り抜き文字のやつがあって本気の恐怖を感じたなぁ。さすがに氷川さんに相談したもんな。

 つーかなんで俺なん。別に付き合ってはないんだが? 『我らが姫に手を出すことは許さぬ』じゃねぇんだわ。パスパレのファンだってもうちょい温厚だぞ。

 

 あとこれは本当に俺の関与すべき問題じゃないが、つぐのガチ恋野郎がC組に出たらしい。奥沢さんが言ってた。頑張ってほしい。でもつぐを泣かせたら土壌の栄養にすんぞ(ガチ勢)

 

 さて、まぁそんなことはどうでもいい。特にこいつらに報告するつもりはないからな。

 それより歌だ。次は俺の番。巴からマイクを受け取ると、さっき入れた曲の曲名が画面に映し出された。

 

「あ、BI〇MAMAだ!」

 

 ひまりが叫ぶ。

 なんだ、知ってるんだ?

 

「この前観たドラマの主題歌だったんだよ〜! season2の主題歌もその人達が歌うんだって!」

「へ〜」

 

 それは知らなかった。ドラマの主題歌とか歌ってるんだ、BI〇MAMA。

 けど多分、この曲は違う。俺が今日選んだのは『SPE〇IALS』。これは特に何かの主題歌ってわけじゃなかったと思う。知らんけど(保険)

 

 このBI〇MAMAは、珍しくもヴァイオリンがいるバンドだ。

 だが、別に奇を衒ったなんちゃってジャズロック擬きなんかではない。普通にプログレ調のロックな曲になっている。ギターがおざなりになってるわけでもないし、俺のしゅきな部類のバンドだ。

 

 気持ち良くBメロまで歌いきり、ギターソロ含む間奏とCメロを経てラスサビに入った。

 サビは突然の英詩が入ってくる。英詩を歌う時に気をつけるべきは、やはり発音だ。その中でも特に重要なのが“文字数”だと俺は思ってる。

 文字数というより、発音数と言った方が正しいかもしれない。要するに“尺”の問題だ。

 

 例えば、『forever and ever』という一文。これをカタカナに起こすと『ふぉーえばー あんど えばー』だが、実際に発音されているのは『ふぉーえばー dえばー』といった感じか。『ふぉーえばー』の『ばー』と『あんど』の『あん』が被っている。

 and をすべて発音してたら“尺”が合わず、聴いていて違和感しかないモノになってしまうだろう。そうなるくらいなら、多少鼻歌みたいになっても“尺”を合わせていくべきだと思う。

 

 ま、きちんと聞き取れる綺麗な発音ができるに越したことはないんだけどな。

 

 そんな英詩のサビも終わり、短いアウトロが流れる。

 あー、楽しかった。BI〇MAMAのコピーやりたいなぁ。ヴァイオリニストがいないからちょっと無理ですね、残当。周りでヴァイオリン弾けるのなんて姉ちゃんくらいしかいね.....まて、姉ちゃんに頭下げれば演れる...?

 え、ついでに友希那さんにも頭下げればAl〇Aもいけるんじゃ...? キーボは...そんときゃつぐに頼むか。

 

 

 そんな計画を密かに立てている隣で、モカが『うさぎ〇かめ』を歌い始めた。童謡てお前。いやイメージぴったりだけれどもよ。

 

「つぐは何歌うの?」

 

 気になって、モカとは逆隣に座っていたつぐに聞いてみる。

 

「私はこれ歌おうかなって。最近よく聴くんだよ! みんなみたいに上手くないんだけど...」

「気にすんなよそんなこと。好きなもんを好きなように歌えばいいさ。それに、別につぐは歌が下手ってことは...な.....い.......?」

 

 待って、つぐ待って?

 つぐが歌おうとしてるのそれ、え、grat〇ful daysっておま、えマジ? ラップ好きなんお前? びっくりしたわ俺。

 いやでもまぁ確かに、羽丘の悪そうな奴(某ソイヤと赤メッシュ)は友達だもんなぁ。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 午後四時頃。

 みんなで遊んだ帰り道。

 各人を家まで送って、今は俺と蘭の二人きりになっていた。

 

「日が暮れるのも早くなってきたなぁ」

 

 まだ午後の四時。だというのに、もう空は朱色に染まっていた。さっきつぐが見つけた一番星が暗くなりつつある空に輝いている、黄昏時ってやつだ。

 

「そうだね」

 

 静かに同意を示す蘭は、どこか少しモジモジしている気もする。

 まぁそんなもん指摘しようならスクリュー気味の右ストレートが脇腹に直撃することは目に見えてるから言わないけど。

 にしても、本当に何なのだろうか。今更俺と二人きりになって気まずくなるようなやつじゃないだろうに。

 

 しばらく歩き、美竹家が見えてきた。

 もう一、二分もすれば蘭ともお別れだ。もうすぐ今日も終わる、やり残したことは多分ない。

 ボケっとそんなことを考えていると、隣を歩いていた蘭の足が止まった。

 

「ん? どした?」

 

 数歩分前に出てしまったため、少し振り返る姿勢になって問いかけた。

 そうすると、ちょうど蘭の後ろに沈んだ太陽の名残りが射すかたちになり、蘭の顔に深い陰が浮かぶ。

 

 

 ...少し、嫌な予感がする。

 

 蘭は普段つっけんどんとしている奴だが、その実、とても繊細で傷付きやすい。最近はいくらか強くなってきたようだが、それでもまだ危ういところが多いのが現状だ。

 過保護になるつもりはないが、それでも幼馴染みとして...親友として、心配はしてしまう。

 

 何か嫌なことがあったのか。傷付くことがあったのか。

 少しだけそんなことを思ってしまうくらいには、今の蘭が纏う空気は緩くはない。

 

「.....ちょっと、付き合ってよ」

 

 言われるがまま、俺と蘭は、美竹家の門前を横切った。

 

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 もう太陽はほとんど沈みきって、空は八割くらいが夜になってきている。

 そんな中、あたしは海を連れて、学校の屋上に登ってきていた。

 

「.....お前、ほんと屋上好きだよな」

「うっさい。いいでしょ、別に」

 

 女子校の屋上に男子を連れてくるのはさすがにどうかと思ったけど、海なら別にいいかとも思う。先生とかに見つかったら怒られるだろうけど。

 

 昼はマシだった気温も、太陽が無くなると一気に下がる。

 十一月の夜風は、体を冷やすには十分だ。

 少しだけ(かじか)んだ手にハァも息を吹きかける。すると、あたしの肩に何かが掛けられる感覚がした。

 見れば、一枚の上着が羽織らせられていた。オーバーサイズもいいところの、暖かい服。考えるまでもない。海の上着だ。

 

「...要らないんだけど」

「うっせぇ、黙って受け取っとけ」

 

 自分も寒いだろうに、海は強がって、そして格好をつけていた。

 キモい。けど、海の体温を感じるのは...悪くない。

 

 しばらく、二人とも黙って空を見上げていた。

 つぐの見つけた一番星以外にも、ポツポツと星が見え始めている。都会にしては良く見えている方だと思う。田舎だともっとすごい、満天に相応しい星空が見れるけど。都会の空も悪くない。

 

 空を見上げる海の横顔を見て、あたしは口を開いた。

 

「海。なんか忘れてること、あるでしょ」

「忘れてること?」

 

 目だけ一瞬こっちに向けて、すぐにまた空を見る海。

 うーん、と考える仕草をして、そしてすぐに諦めた。

 

「分からん。中一の時に蘭に貸りた五百円返してないとか?」

「いつの話してんの? ...五百円は返して」

「あいあい」

 

 財布から硬貨を取り出した海は、それをあたしに投げ渡す。なんで貸した五百円なのかはもう覚えてないけど、多分貸したんだろう。

 

 って違う。そうじゃない。

 ずっと空を見上げてる海を見ながら、あたしは質問を続ける。

 

「ほかには?」

「ほかぁ? ...んー、あー.....ほんとに分からん。ヒント」

「.....誕生日」

「プレゼント貰ってねぇや俺、お前から」

「バカ、やっと思い出した」

 

 ヒントを貰ってから即答した海に、あたしは軽い悪態を投げつけてみる。

 悪態をつくのは、あたし達の間ではコミュニケーションの一つだ。...いや、違う。これはあたしが海に甘えてるだけ。どれだけ悪態をついても、海は受け止めてくれる。受け入れてくれる。そう信じてるから、あたしは海に遠慮しないんだ。

 

「え、なに。プレゼント渡すために付き合わせたの?」

「そう」

 

 ほんとはちょっと話したいことがあったから。

 けど、それは言わない。

 

 海は盛大に息を吐き、脱力したかのようにしゃがみ込んだ。

 

「は〜〜〜〜...あ〜、心配して損した」

「心配? なんの」

「いやお前さ、あんな感じで『ちょっと付き合って』なんて言われたら、なんか相談事でもあんのかと思うだろ」

「そんなことないと思うけど」

「そんなことあるんだよ。ま、何事もないんだったらそれで良かったんだけどな」

 

 立ち上がり、一度伸びをしてからこっちを見る海。

 なるほど。さっきまで重い雰囲気で、あたしと目を合わせようとしなかったのはそういうことか。

 

「それで? 誕プレは何くれんの?」

「『地獄の華道ドリル ~狂気の常緑樹信仰編~』」

「ま?」

 

 呆けた声を出す海に、少しだけ笑いそうになる。

 それを渡す前に、あたしは一つだけ質問をすることにした。

 

「海、今日はなんであたしたちと居たの?」

「は?」

 

 さっきと同じ、海はたった一文字で疑問を表してくる。

 そんな海の目を何故か見れなくて、今度はあたしが空をずっと見上げる側になってしまった。

 

「海、花咲川に友達たくさんいるじゃん。自分のバンドとか、ポピパとか、ハロハピだっているし...Roseliaとも、仲良いみたいだし」

「あー...なるほどそういう」

 

 何かを納得したような声音だった。

 顔は見てないけど、多分呆れた顔をしてるに違いない。そんな声だったから。...想像したらムカムカしてきた。

 

「俺たち六人の誕生日は、よっぽどの理由じゃないかぎり全員揃って祝う。小学校からそう決めてるだろ?」

「別に決めてはないけど」

「細かいことはいいんだよ。ずっとそうしてきたってことだよ」

 

 一息置いて、再び海が話し始める。

 

「まぁ確かに、ポピパとかハロハピとかRoseliaとか、その辺から誕生会やろうって話は出てたよ。蘭の言った通り、仲良くはやってるつもりだしな」

「だったら」

「でも俺は、お前らと過ごしたかった」

 

 遮るように、海が言葉を被せてくる。

 

「友達との仲の良さみたいなのにランク付けするつもりはないけどさ。俺にとって何より優先すんのはお前らなんだよ。あ、別に付き合いが長いからってだけじゃないぞ? 楽しいんだわ。お前らと一緒にいる時が、一番な」

 

 やけにはっきりと、ストレートに言葉をぶつけてくる。

 普段の海は、中々自分の本心を明かそうとしない。その場の喜怒哀楽くらいなら出してくるけど、何を考えてるとか、そういうのは全然だ。

 

 海がこうやって自分の言葉を紡ぐのは、たいてい、誰かのために腰を上げた時。

 中学の時、あたしや、あたしたちにしてくれたみたいに。自分を曝け出した上で、あたしたちの深いところにまで入ってくる。だからこそあたしたちは海を拒まないし、受け入れたくなる...のかもしれない。

 

「昔、モカにも言ったけどな」

 

 海があたしを見てるのが分かる。

 あたしは海を見れていないけど、海はしっかりとこっちを見てるみたい。本当に、さっきとは真逆だ。

 

「お前がどこにいても、俺が別の道に進んだとしても、俺たちは何も変わんないよ。呼ばれたら行って支えるし、俺だってお前を呼ぶ。必要不必要の話じゃないぞ? そういうの関係なく一緒にいる。助けて、助けられる。それが、俺たちの『いつも通り』だろ」

 

 思わず、海の顔を見てしまった。

 そこにはとても柔らかく、それでいて温かい、“あの時”と同じ顔があった。

 それはズルい。とってもズルい。

 羞恥やら歓喜やら、色んな感情が溢れて頬を染めようとしてくる。それを見られたくなくて、あたしはまた空を見上げた。

 

「...何言ってんの? 恥ずかしい」

「...............」

 

 急に黙りこくる。

 多分、照れてるんだろう。海の本心はそこらの女子より断然ロマンチストだ。いわゆる詩的って感じのもので、海自身はそれを人に見せるのは恥ずかしいことだと思ってる。

 まあ、トドメを刺したのはあたしなんだろうけど。

 

 冷たい夜風のおかげで、頬の熱は引いてきた。

 やっぱり屋上にきて正解だったな。

 

「誕生日プレゼント、やっぱりコレやめた」

 

 言って、あたしは華道ドリルを取り出すことを止めて、次は空じゃなく、鉄柵の向こうに広がる街の方を見る。

 もう完全に夜に包まれた街は、昼間のように明るい光を放っている。

 

「誕プレなし? いやまぁ、俺は貰う立場だし文句は言わねぇけど」

「違う。誰も無いなんて言ってない」

 

 ちょっとだけ間を置いて、あたしは海を見る。

 今からあたしが言おうとしてることは、多分、恥ずかしいことだ。

 だから少しだけ緊張してしまう。でも、言いたい。あたしは海に、こう言いたくなった。

 

「あたしが、いつでも海を支えてあげる。そばにいてあげる。海の親友(・ ・)として、この先ずっと、『いつも通り』に一緒にいてあげる。それがプレゼント」

 

 嘘。これは海へのプレゼントなんかじゃない。

 あたしが、あたしのためにする宣言。海を離さないための、醜い欲望。

 恋愛感情なんかじゃない。それ以上の親愛、恋慕よりも強い友愛だ。

 

「お前なぁ、別にそんなこと言われなくても、俺はずっとお前らと友達を──」

「違う。『海が』じゃなくて、『あたしが』海と一緒にいてあげる。そう言ってんの」

 

 海と一緒にいたい。海と、そして幼馴染みのみんなと。ずっとずっと、一緒にいたい。あたしの、唯一の願い。

 

「なんつー上からな...あー、はいはい。そうだな、そうしてくれると嬉しいよ」

 

 呆れたように、海は手をヒラヒラと振って答える。

 投げやりな態度にちょっとだけムッとするけど...まぁ良しとしよう。逆の立場だったら、あたしは海の横腹を殴ってる自信あるし。

 

「ほら、終わったんなら帰んぞ。あんま遅いと蘭の親父さんに殴られちまうし、何より風邪引く」

「寒いんなら上着返すけど」

「いーよ、蘭より俺の方が頑丈だろ」

「何それ、バカにしてる?」

「ライブ前に夏風邪引いてダウンしたのはどこのどいつだ。ババンボ様がいなけりゃどうなってたか...」

「ババンボ様?」

 

 そんな会話をしながら、あたしと海は屋上から降りた。

 途中で警備員さんに見つかって怒られるアクシデントもあったけど、それ以外は特に何事もなく帰路につく。

 

 ここか安心する。

 海がいて、モカがいて、巴と、ひまりと、つぐがいて。

 あたしの世界が構築される。あたしの『いつも通り』が流れていく。

 ここが好きだ。絶対に失いたくない。誰にも壊させない。あたしの、『いつも通り』。

 

「海、さっきのプレゼント、忘れたりしないでね」

「あ? あー、忘れないよ」

 

 テキトーに返事をする海を、ちょっとだけ睨んでみる。

 でも分かってる。海は、あたしたちとの約束を破ったりなんかしないし、あたしたちを悲しませることもしない。いつも、そうだったから。

 

 ああ、そう言えば、あたしはまだ海に言ってないことがあった。

 

「ねぇ、海」

「ん?」

 

 今度はしっかりとお互いの目が合う。

 街灯に照らされてキラキラしてる海の目を見ながら、あたしは少しだけ笑った。

 

「誕生日、おめでとう」

 

 生まれてきてくれてありがとう。

 あたしの、あたしたちの、大切な人。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
Fender、EDWARDS、Ibanezはそれぞれ別のメーカーの名前。ストラップにメーカーのロゴが入っていることは少ないが、入っている場合はギターとメーカーを揃えることが多い(当社比)

*2
ドラ〇もんの秘密道具。




とりあえず、書き始めに予定していた25人と+α(蘭パパ、朝日六花)のメイン回は一通り終わりました。ここまで読んでくださった方々、感想や評価等々くださった方々、本当にありがとうございました。

一応、この話は続けようと思ってます。各キャラ2週目とか、モニカやRASの話も入れていけたらなー、なんて思ってたり。


あとこれは補足的なことなんですが、蘭ちゃんのは本当に恋愛感情とかじゃないです。どっちかっていうと依存?寄りかな。

専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。

  • 伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
  • 好きにやってええんやで(菩薩)
  • 全然分かるけど辞めな
  • 分かるからそのまま続けて、どうぞ。
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