ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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短編? みたいな感じです。
文字数もいつもの半分くらいなんですけど、たまにはこのくらいの文字数もいいですね。楽。
今後もたまに短編モドキ投稿しようかな。


幕間:兎は寂しくてもしっかり生きる

 

 

 

 

 十二月初週の月曜日。

 

 私、花園たえは、不満を感じていた。

 

 

「む〜〜〜」

「なーにあからさまにむくれてんだ?」

 

 放課後になり、私たちはいつものように有咲の家の蔵に集まっていた。

 といっても、今日はポピパの練習じゃない。嬉しいことに、私の誕生日パーティを開いてくれているため、主役として参加しているのだ。

 

 お祝いの言葉を受け、プレゼントを貰い、みんなが作ってくれたハンバーグとケーキを食べ、一通り終わった頃。

 私が朝から抱えていた不満が、とうとう顔に出てしまったらしい。

 有咲に指摘され、ハッと両手で口元を隠すも、もう遅い。

 有咲だけじゃなく、みんなの目線が集まってしまった。

 

「別に、むくれてなんてないよ」

「嘘つけ。明らかに『不満あります』みたいな顔してたろ」

 

 有咲はするどい。

 私の完璧な誤魔化しを見破るなんて。

 

「あ、今日は関口くんが休みだったから?」

「すごい。さーや、もしかしてエスパー?」

 

 エスパー・さーやによって、私の心中は看破されてしまった。

 

 そう、私はそれが──海が学校を休んだことが、ちょっとだけ不満だった。

 

 別に、特別なことをして欲しかったわけじゃない。

 ただ普通に学校で会って、おはようと挨拶をして。そして、誕生日おめでとうって、そう言って欲しかったなぁって。

 

「そういえば今日、海くん休みだったね〜。何でだろ。りみりん、須田くんから何か聞いてる?」

「えっと、確か北海道に行ってるって、言ってたような...?」

「は? 関口のやつ、なんで北海道にいるんだよ」

「パスパレの事務所の人に拉致されたって誠くんは言ってたけど...」

「また拉致られたのか」

「関口くんも大変だねぇ。こころちゃんに拉致されたり、事務所に拉致されたり」

「ま、今回は国内なだけマシなんじゃねーの? すぐ帰って来れるだろ」

 

 みんな誘拐事件に対して慣れすぎてるなぁ。

 まあ私も、今更海が拉致されたところで驚きはしないけど。月一の恒例行事みたいなものだよね。

 

 でも、ということは、今海はパスパレの人達と一緒にいるのか。

 そう思うと、どこか体の内側がモゴモゴする。海が休みだって知った時とは少し違う感じ。なんでだろ?

 

「あ!」

「いきなり隣で大声出すなよな香澄お前。鼓膜破れないまでも普通にビビるわ」

「彩先輩のイ〇スタライブに海くん出てるっぽいよ!」

「聞けよ。...え、まじ?」

「ツ〇ッターのトレンドに上がってた! 今見てみる〜!」

 

 そう言った香澄が、自分のスマホを机の真ん中に置き、彩先輩のインス〇ライブを閲覧し始める。

 

『ねぇ丸山さん。俺マジでこういうの出たくないんですけど。これ以上パスパレファンに命狙われることしたくないんですけど』

『まあまあ! そう言わないで! ほら見て、海くんが映っただけでこんなにコメント来るんだよ!』

『あんたそれコメ欲しいだけでしょ。...えー、「出たな公式の男」「また彩ちゃんのSNSに出てきやがって公式の男」「何度も出てきて恥ずかしくないんですか?」「顔タイプ。ちょっとお尻見せて」。おい最後のやつ通報案件だろこれ』

 

 本当に出てた。

 気になってツ〇ッターのトレンドも見てみたけど、本当に#パスパレ公式の男、っていうのがトレンド五位に上がってきてる。

 というか、海ってパスパレ公式なの?

 

「うわ、マジで出てんな。つーかちょっとインス〇ライブに出ただけでトレンド入りするとか、マジ何者なんだよ関口は」

「アイドルのインス〇ライブに一般の男の子が出てるのが異常なことだけどね〜。あ、そうだ。最近紗南が千聖先輩のこと推してるんだよね。今度海くんにサイン貰ってきてもらお」

 

 紗南、千聖先輩推しなんだ。

 私は箱推しだけど、強いて言うなら麻弥先輩推しかな。何かのインタビューで機材のこと詳しく喋りすぎて周りから引かれてたのに好感が持てる。

 

『あ、ねぇねぇ海くん。何かギター弾いてみてってコメントきてる!』

『一番何やっていいか分からん要求来たッスね。えー...じゃあパスパレの曲にするか』

『ホント!? じゃあ私、アコギアレンジ聴きたい!』

『うーんこの』

 

 彩先輩、よく分からない無茶振りをしてるなぁ。

 

「なぁおたえ。アコギアレンジ? っての、そんな即興でできるもんなのか?」

「私は無理。それっぽいコードとかならいいけど、ちゃんとやるならせめて二日は欲しいかな」

 

 しかも、パスパレの曲はアイドルらしく、とてもシンセチックなものが多い。ギター一本で再現しようとするなら、ただの指弾きじゃ足りないくらいの手数がいる。スラップも入れれば大丈夫だろうけど、言うほど簡単な奏法じゃない。

 

『えーっと...じゃあ「しゅわりん☆どりーみん」とかでいっすか』

 

「おい、関口のやつ、即興でやるらしいぞ」

「海は変態だからね。えっへん」

「貶してんのか褒めてんのかも分かんねぇし、なんでおたえが得意げなのかも分かんねぇ」

 

 変態は最上級の褒め言葉。私達の界隈では常識。

 現に海と音楽の話をしてる時は、八割が「変態」「キモい」「えっち」「あほ」の言葉だし。

 

『あ、御剣さん、アコギありがとうございます。え? 名前を出すな? あはは、俺をこんなとこまで連れてきてテレビに出しといてよく言うじゃないっすか。何なら御剣さんも顔出ししましょうよ。こっちの水は...あ、逃げた! クッソいつか絶対仕返ししてやるからな...!』

 

「毎回拉致されてるのは大変そうだけど、関口くん楽しそうで良かったね」

「た、楽しそう、かなぁ...?」

 

 御剣さんって人への仕返しを誓った海は、気を取り直したようにギターを構える。

 

『あ、ごめんなさい。三分ください。ちょっと原曲聴きたいんで』

『りょうかーい! えっと、それじゃあ普通にお話しよっかな?』

 

 片耳にイヤホンを付けた海は、何かブツブツいいながら少し離れたところでチャカチャカやってる。

 その間、彩先輩の繋ぎのお喋りで二分が過ぎ、その辺りで海がイヤホンを外す。

 

『それでー、板橋の金曜日と土曜日しかやってないっていうカフェに行ってみたくて。海くん三回くらい誘ったんだけど、全部断られちゃったんだよね』

『マジ炎上するからその辺で止めとけバカピンク』

『海くん、たまに先輩への敬意とか無くすよね?』

『敬意を抱く必要がないと思った瞬間はそっすね』

 

 この二分、彩先輩はずっと海のことについて話してた。

 といっても自発的に海の話題を持ってきたわけじゃなく、あまりにも海についての質問コメントが多かったため、彩先輩がそれに答えていた形だ。

 彩先輩の話を統合すると、海は優しくてギターが上手くてかっこいい、ということ。アイドルがする話じゃないと思ったけど、まぁ事実だから仕方ない。

 でも、彩先輩が海を褒める度に誇らしい気持ちと体内のモゴモゴが同時に襲ってきて、何とも言えない微妙な心中だ。

 ふと見れば、有咲も微妙な顔をしている。私と同じ感覚を味わってるのかな。だとしたら後で聞いてみよう。原因を知っているかもしれない。

 

『あ、私普通に歌っていい?』

『あー...そうですね、普通に原曲通りに歌って貰えれば。途中で俺ハモりに入りますけど、引っ張られないよう気を付けてくださいね』

『分かった!』

『それじゃあやりまーす』

 

 それからは、ほとんど海にしか目が行かなくなった。

 まるでギターが二本も三本もあるかのような音数。一切ブレのない、正確なリズム感。音がビビることもなく、一音一音が綺麗に鳴り響く。

 スマホ越しで多少音は悪くなっているはずなのに、それでもなお完璧だと思えるほどの調律。

 ほぼ即興にも関わらず、この完成度はあまりに異常だ。私だったら絶対できない。

 

「海くん、やっぱりすっごくじょーずだね!」

「ハモりもめちゃくちゃ上手いな、こいつ」

 

 香澄や有咲と同じく、コメントでも海を絶賛している人ばっかりだ。

 海のアコギ演奏は、日本でも屈指のレベルだと思う。プロとしてもトップクラスだろうし、高校生の時点でここまでできる人を私は他に知らない。

 

 感想を口にすることすら忘れ、ただ聴き惚れていると、演奏が終わった。もっと聴いていたかったという気持ちがある。私もアコギは持ってるし、今度一緒に演奏もしたい。

 

『すっっっごかった!! 海くん、やっぱり歌もギターも上手だねっ!』

『いやあ、ふへへ』

『あ、今のはちょっと気持ち悪い』

『おい、大和さんに謝れ』

『え、自分ッスか!?』

 

 あ、麻弥先輩もいたんだ。

 

『もっと海くんの演奏聴きたいけど、そろそろ時間だよね?』

『あー、そうですね。もうそろ出ないと飛行機間に合わないかも』

『だよね〜、残念だよ。...あ、みんな分かんないよね。私たちは明日からも撮影があるんだけど、海くんは今日帰っちゃうの』

 

「あ、そうなんだ。じゃあ明日は関口くん学校くるのかな」

「まぁ関口のやつは芸能人とかじゃねーしな、一応。あんまり学校も休めねーだろ」

「有咲は芸能人でも誘拐もされてないのに学校休んでるじゃーん」

「私はほら、テストで毎回学年トップ取ってるから出席が免除されてる的なアレだからいいんだよ」

「え!? ホント!?」

「おうとも」

「有咲ちゃん、なんて流れるような嘘を...」

「私は騙される香澄が心配だよ」

 

 誕生日を当日に祝ってもらえなかったのは残念だけど、まぁ良しとしよう。海にだって都合がある。明日、おめでとうくらいは言って欲しいな。覚えてるかな? 私の誕生日。LI〇Eも届いてないから、もしかしたら忘れてるのかもって気もしてる。

 

「あ! 海くん帰っちゃうって! お疲れ様ってだけ言っとこ〜!」

 

 有咲に嘘をつかれたことに気付いていない香澄が、スマホをいじってコメントを送る。

 

『それじゃあ海くんはここでお別れ...あ、海くん海くん! 香澄ちゃんが「お疲れ様!」って言ってる! 香澄ちゃんやっほ〜! お疲れ様〜』

『マジで一般人の名前本名で出すの止めた方がいっすよ。マジで』

『ポピパとは対バンしたことあるし、その時香澄ちゃん自分で自己紹介してたから問題ないんじゃない?』

『あ、そうなんすか。失礼しました』

『うんうん、謝れて偉い!』

『褒められちゃった(困惑)』

 

 頭を撫でようとする彩先輩と、それは勘弁してくれ殺されたくないと必死に回避する海。

 彩先輩がむくれながらもなでなでを諦めたところで、海がカメラを見る。

 

『名前だしていいならいっか。どうせポピパ今一緒にいるんだろ。おたえ誕生日おめでと。こっちで誕プレ買っといたから、明日学校で渡すわ』

「! うん、ありがとう」

 

 インス〇ライブだからこっちの声は届かないけど、思わず声がもれた。

 それだけ嬉しかったんだろう。

 ただ誕生日を覚えててもらえて、プレゼントを用意してもらっただけ。それはありがたいことだけど、今日ポピパのみんなにもしてもらったことだ。

 

 みんなに申し訳ないな、という気持ちはある。

 それでも、私は今日、今の瞬間が一番嬉しかった。

 

「良かったね、おたえ」

「うん」

 

 さーやが、何だかお母さんみたいな笑顔でこっちを見てくる。なんだろ。

 

 ああ、でも、それよりも明日が楽しみで仕方がない。

 今日は年に一度の誕生日だけど、これほど早く明日になってほしいなんて思った誕生日は今までなかった。

 本当に、明日が楽しみだなあ。

 

 

 

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