ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
北海道から帰ってきて初めてのバイトの日。
今日はダブルピンクも、巴も、そして松原さんもいない。
ピンク一号こと丸山さんはまだ北海道で収録をしているらしく、二号ことひまり、そして巴はアフグロの練習。松原さんは今エジプトの古代遺跡にいるらしい。松原さん、呪われてなきゃいいけど。
ダブルピンクは言わずもがな、巴や松原さん目当ての客も多いこの店で、四人ともが休みの日は異様なほど暇になる。
今日も今日とて例に漏れず、いつもなら長蛇の列を成しているレジ前もガラッとしており、店内も老夫婦やもはや常連となった受験生である白っぽい青髪の女子中学生くらいしかいない。
補充等ほかの仕事もない暇な時、最近は例の中学生の勉強をみてあげている。
別に仕事をサボってるわけじゃない。店長に言われたんだ。
その子は俺の姉の母校と同じ高校を受験しようとしているらしい。あの高校、わりと偏差値高いんだよなぁ。
少し英語と国語が苦手っぽいが、まぁ平常心で受ければなんとかなるだろう、くらいのレベルだ。受験会場っつー圧力渦巻く異界みたいな雰囲気に耐え、普段通りのパフォーマンスができれば十分に受かるだろう。
女の子がペコペコお辞儀をしながら帰っていくのを見送り、以降客も来ず、本当に暇を持て余して年末の大掃除レベルの掃除をしていると、店長室から店長が元気よく飛び出してきた。
「そうだ!! デリバリーサービスを始めよう!!」
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とまぁ、そんなこんなで。
俺は教習所へと足を運んでいた。
「それにしても今更ルームサービスなんて。ウー〇ーとか、最近はそういうのがあるでしょう。自店でやったら人件費かかりますよ」
と言ってはみたのだが、店長はやけにやる気だった。
まぁ所詮俺は社会をろくに知らない高校生だ。店長には店長なりの、社会人としての判断があるんだろう。知らんけど。
そんでなんか知らんけど、店長は俺をデリバリー部隊の隊長にしたいらしい。いや隊長ってなんだよ。バイトリーダーか何かか? 俺の何が店長に評価されてるんや。
まぁ、これもいい機会だと思い、デリバリー用に免許を取ることにしたわけだ。デリバリーにはジャイロ使うらしいし。よくピザ屋の配達とかで見る三輪の原付みたいなやつ。
原付免許があればいいんだが、今回俺が取りに来たのは普通二輪の免許だ。俺も十六歳になったことだし、せっかくならバイクの免許も欲しい。何度か大きなライブのバックバンドやスタジオミュージシャンとして働いたからな。金はある(強者の貫禄)
視力やら色覚テストやらを無事通過して、入校手続きを行う。本来ならここで帰り、後日またガイダンス的な学科授業を受けるために教習所へこなければならないのだが、今日はタイミングよくそのガイダンスが行われる日だったらしい。日を挟むことなくガイダンスを受け、教習へと進めるらしい。やったぜ。
大きめの教室へと案内され、席は自由だったのでテキトーに最後列を選ぶ。
ガイダンスが始まるまであと数分しかないが、教壇に指導員の姿はない。まぁ時間までに来てくれていれば問題はないため、特に気にすることなく、俺はスマホを弄り始めた。
ひまりからLI〇Eメッセージが届いていたのでそれに返信し、まだ時間はありそうだったので将棋アプリを開く。最近ハマってんだよね、将棋。全然弱いけど。
俺の使う戦法は居飛車角換わり。
まぁこれしか知らないから使ってるだけなんだけど。小学生の頃に九州のじいちゃんに教えてもらった。
CPU(簡単)とかいうコンピュータを相手にボコボコにされつつ、チラッと時計を見る。すると、ガイダンス開始時間を三分ほど過ぎていた。
教壇に指導員の姿はまだない。
教習所の指導員も人間だしな、と思いつつ再度スマホに視線を落とした時、教室後方の扉が勢いよく開かれた。
突然の大きな音に、教室内の全員の目がそちらに向く。
何十もの視線を独り占めしたのは、一人の女の子だった。
「ぜェ...ぜェ...教官はまだ来てないな? よし! セーフだ!」
息を切らして何やらガッツポーズを取る女の子。
肩より数センチ上で切りそろえられた金髪に、小豆色のファンシーなイラスト入りスカジャン。中に黒のインナーは着ているものの、丈が短く、その締まった腹部は晒されている。もう十二月だというのに、寒くはないのだろうか?
というか。
俺はあの子を知っている気がするんだが。
「お? おー、なんだお前、関口じゃん。お前もこの教習所に通ってんだな」
何やら嬉しそうに駆け寄ってきたのは、俺らのバンド『
八百屋の狂犬、佐藤ますきがそこにいた。
佐藤ますき。
ライブハウスオーナーの愛娘にして、業界でも名を馳せるスタジオミュージシャン。
その正体は、都内屈指のお嬢様学校に通うプリティ☆ますき!
「おい、今変なこと考えたろ」
「考えた」
軽く横腹を殴られた。痛い。けど大丈夫。蘭で慣れてるからね。
...悲しくなってきたな。なんだよ、女の子に殴られるの慣れてるって。そっちの人かよ。
佐藤が入室してきてから数秒ほどで、講義を担当する指導員が入ってきた。
慌てて着席した佐藤は、近くだった俺の隣に腰を下ろしたのだ。
その後、指導員の講義が始まり、今に至る。
指導員の話はちゃんと聞かなければならないが、少し退屈な内容なのも確か。運転の心構えという、大事だが一般常識として持っているものを語る指導員の声をテキトーに耳に入れながら、フリッフリの可愛らしいファンシー服に身を包む佐藤、という受ける人には受けそうな空想上の生物を思い浮かべていた。要するに暇。
チラリと隣を見てみると、佐藤は意外にもメモを取って...いや、あれ落書きだな。教本のキャラに髭とか付けて遊んでるな。それでいいのかお嬢様学校の現役生徒。
退屈だった講義も終わり、今日のところは解散となる。
明日以降、学科の講義を受講したり、実技の予約やキャンセル待ちをしたりして、学科と実技両方の必要単位分を受け終えたら試験に望み、合格したら晴れてライダーになれると。
教習所内とはいえ、バイクに乗るのは楽しみだ。何事も「初体験」というものには心が踊る。
内心ワクワクしながら、早速教習所の待合室で実技授業の予約を取ろうとしていると、佐藤が話しかけてきた。
「おい関口。お前、次の学科はいつ行く?」
待合室のソファに座っていた俺の隣にドカッと勢いよく座った佐藤は、そんな事を聞いてきた。
どうでもいいけど、お前本当に白雪んとこのお嬢様なのか? 時々、うちのクラスの、夏休みデビューでヤンキー(なりヤン)になったやつと姿が重なるんだが。タバコとか吸ってないよな?
「とりあえず明日かな。明日の放課後は実技の予約も埋まってたし、とりあえずキャンセル待ちもしつつ受けようかなって」
「明日か...よし分かった、大丈夫だ」
何がだ。
「あたしも明日学科受けにくっからよ。一緒に行こうぜ」
何でだ。
「あたし一人だとサボっちまうかもしれないし、一緒に受ければ分かんねーとこも教えてくれるだろ、お前」
何なんだお前。
「じゃー決まりな! 明日放課後、お前んとこのガッコの正門前行くから、よろしく」
言いたいことを言って勝手に約束を取り付けた佐藤は、気が済んだのか一人で帰って行ってしまった。
何なんだ一体。三回くらい一緒に仕事したことあるけど、一緒に授業受けるとか、そんな親しい間柄じゃなかったろ俺ら。
...つーか待て。あいつ、明日俺の学校に来るって言った?
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
翌日。放課後。
「海。スタバの新作でたの、知ってる? 飲みに行こう」
「なんたってそんなオシャンな所に。香澄たちと行けばいいだろ」
「香澄たちとは昨日行った」
「なら俺とは行かなくて良くね?」
前の席のおたえと話をしながら、俺は帰り支度をしていた。
「てか今日は無理。バイクの教習あんだよ」
「え、海、バイクの免許取るの?」
机の中の教科書を鞄の中に移すだけなので、一分もあれば終わる。
早々に支度を終わらせ、そのままおたえと一緒に教室を出た。
「うちの学校、免許OKだっけ?」
「法的にはOK」
「いや、校則的な...」
「法的にはOK」
珍しく鋭い指摘をしてきたおたえをテキトーに躱した。躱したったら躱した。
まぁ校則違反であっても、こっちにはキャンプファイヤーだって可能にした弦巻家がいるんだからな。法律に反してなきゃ問題ないだろ(大アリ)
「バイクかぁ。いいね、免許取ったらドライブ連れて行って」
「バイクのニケツって法的にどうなん」
「ダメなの? じゃあ私も取ろうかな」
おたえがバイクか...。
見た目はおっとり美人なおたえだけど、根はロックンローラーだからなぁ。「ブレーキ? アクセルだけあれば十分だよ。ベタ踏みだよね」とか言い出して事故りそう。さすがにないかな。
湘南のデスドライブまでは想像できたところで、靴を履き、外に出る。
今日も今日とて寒い。北海道ほどじゃないにしても、東京の冬はそれなりに冷える。朝や夜は本当にしんどい。明日はカイロとか持ってこようかな。
「お、やっと来たな。行くぞ関口」
手持ちにしようか、貼るタイプにしようか。
ほかほかの幸せについて考えていると、前から名前を呼ばれた。
見てみると、黒のセーラー服に身を包んだ、金髪で目付きの悪い女が。
この寒空の下、マフラーや手袋なんかも付けずに制服のみという姿に漢気すら感じるその女の正体は、なんとプリティ☆ますきだった。
いや、知ってたけど。昨日学校まで来るとか言ってたけど。
本当に来たんだぁ...。
「...海。あの人誰」
なぜか視線が冷たいとなりのおたえ。なんでだよ。
分からんけどその目はやめてほしい。体感温度がちょっと下がった気がする。
「佐藤ますきっていうドラマーだよ。サポートで一緒にバックバンド組んだことがあって、そんで昨日教習所で会った。あいつもバイクの免許取るらしいから、なんか知らんけど一緒に授業受けようぜってなって」
「ふーん」
だから何なんだよ。怖いわ。
俺何も悪いことしてないじゃん。浮気バレた彼氏の気分だよ。そんなもん一生味わいたくなかったわ。
「つーかお前、本当に来たのかよ」
「あ? 昨日来るって言っただろ。ほら、行くぞ」
手ごと鞄を肩にかけ、俺を促す。
どうでもいいけど、お前が黒のセーラー服着てっとなんか昔のスケバン思い出すな。漫画とかに出てくるやつ。鞄に鉄板とか仕込んでないだろうな。...ちょっと仕込んでてほしい(ロマン)
「あいあい。んじゃおたえ、また明日──」
「他校の不良が正門でうちの生徒を睨み付けているという報告がありました! どこのどなたですか!!」
遠くから、氷川さんの怒鳴り声が聞こえる。
教師より先に出てくる風紀委員、まじ有能。でも今それを発揮しないで欲しかった。
「やべっ。おい佐藤、ちょっと走るぞ。見つかると面倒だ」
「あ? なんで」
「お前の存在もだし、俺がバイクの免許取ろうとしてるからだよ。うちの学校、免許取るの今はまだ禁止なんだ」
「今はまだってなんだよ。近々変わるのか、校則」
「俺が(弦巻家に頼んで)変える」
「革命家か何かなのか、お前」
とろとろ歩く佐藤の背を押し、いそいそと正門を離れようと試みる。
マジで今氷川さんにバレるのは都合が悪い。教習所通うのすら禁止され、教習代として出した大量の諭吉が無に帰すのは避けたい。
「あ、紗夜さーん! こっちで海が──」
「おたえ、明日スタバに行こう。好きなだけ奢ってやる」
「──他校の女の子と──」
「よぅし分かった。遊園地だ。夢の国の入国券だって奢ってやろう。お前行きたいって言ってただろ」
「.....分かった」
まさかの裏切りをみせたおたえをなんとか買収し、氷川さんからの逃亡に成功した。
くっそ、夢の国っていくら出せば入れるんだ。教習代で貯金もわりと飛んだし、免許取ったら愛車だって買いたかったんだけど...まぁ背に腹はかえられない。また働こう。
「お前、風紀委員に追われるとか不良かよ」
「風紀委員呼び寄せたのはお前だかんな」
というか、佐藤には不良だなんだと言われたくない。
まぁ、遅刻もするし、一時期は服装もきちんとしないで氷川さんに怒られてたけど。でもその程度で不良なんだったら、現代は不良跋扈する大ヤンキー時代に突入してるわ。黎明期なんてとっくに越えて最盛期なまである。
「つーか、白雪は免許大丈夫なの? 一応、つーかここらでは月ノ森と並ぶ二大お嬢様学校だろ」
「法的には問題ない」
「は? いや白雪の校則...」
「法的には問題ない」
なんだこいつ(棚上げ)
教習所までは都電で向かう。王子で降りて、そこから歩きだ。
その間、今年の予定を話した。
佐藤はサポートの依頼があるため、クリスマスはライブだそうだ。てかそれ俺が断ったやつじゃん。「クリスマスはちょっと予定が...」って強がって。予定なんて無いけどなちくしょう。
佐藤は一緒に演奏できないことに少し残念そうな顔をしたが、俺も少し残念だ。しかもベースは和奏だっていうんだから尚更に。
俺の中での最高のベーシストは須田で、最高のドラマーは五十嵐だが、佐藤と和奏はそれに次ぐくらいに一緒に演奏していて楽しいメンバーだ。
佐藤と音で殴り合い、和奏の安定したベースで音をまとめ上げる。和奏は歌も一級品だから、あいつをベーボにしても大変良い。須田や五十嵐たちと組んでいなければ、二人を誘ってバンドを組んでいただろう。
あー、見栄はんなきゃ良かった。
そうこうしているうちに教習所へ着き、ちょうど始まる学科授業に参加する。
開始五分で寝始めた佐藤をシャーペンでつついて起こしながら、俺たちは免許獲得への第一歩を踏み出した。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
約十日後。
クリスマスを一週間後に控えた昨日、紆余曲折あった教習所通いがようやく終わった。いや、別に何か問題があったわけじゃないけど。検定も一発合格だったし。
色々と上手い具合に予定が進み、ほぼ最短で卒業することができた。
んで今日免許センターで試験を受け、俺と佐藤は無事にライダーへと昇格したのだ。
「おお...」
俺は手元にある免許を眺め、感嘆の息を漏らした。
なんとなく、世界が広がった気がする。まだ公道走ったことないけど。
「いやー、なんとかなったな」
隣でそう笑う佐藤は、実は学科試験がかなりヤバく、教える側の俺も奮闘した。そういう経緯があるが、まぁ無事に合格したのだし良しとしよう。
「なぁ関口。お前これから暇か?」
「まあ、予定はないな」
「それじゃあさ、ちょっと付き合えよ」
そう言った佐藤の後に続き、バスに揺られること十数分。
俺たちは、中古バイク屋に来ていた。
「おー、色々あるなぁ」
並ぶバイクをキラキラした目で眺めながら、佐藤はおもちゃ屋に来た子供のようにはしゃぐ。
かく言う俺も、様々なバイクを前にソワソワしていた。これはあれだ。楽器屋に足を運んだ時と似てる。
「関口ぃ、お前はなんか狙ってるヤツあんのか?」
「あるよ」
教習所に通い始めてから、夜は毎日のようにネットでバイクを漁っていた。
特にバイクに詳しいわけじゃないが、見てる分にはよく知らなくても楽しめる。
その中で、俺は俺の愛車を決めていた。性能がいいとか、そういうのは分からない。けど、ビビっときたのだ。俺の愛妻ギターを買った時同様、ただの直感。こいつしかいないと、そう思った。
...まぁカッコつけてみたが、要するに一目惚れである。車体がかっこいいのなんのって。
「ほーん...」
「お前はどうなんだよ」
「あたしはまだだな。ネットでも見てみたけど、やっぱ自分の目で見て決めてぇ」
その気持ちは分かる。
まぁ俺はネットでマッチングしてしまったんだが。いや別にその一目惚れバイクを絶対に買わなければいけないってわけでもないんだけどね。
一応、ほかのも見てみようと思い、店内を見渡してみる。
すると、見るからにふわふわした女性が、こちらに向かって来ているのが見えた。薄いピンク色の髪を縦ロールにし、歩く度にぴょんぴょんと...縦ロール? 何あれ初めて見た。え、しゅごい。
なんか白のドレスみたいな服着てるけど、店のロゴが入ったエプロンみたいなのしてるし、店の人だろう。バイク屋で白いドレスて。めちゃくちゃ汚れそう(小並感)
「いらっしゃいませぇ〜。何かお探しですかぁ〜?」
妙に延びる語尾が多少気になるが、対応は普通。
てっきりタメ口きかれるかとも思ったけど、見た目で判断、いくない。
リサさんだって見た目はギャルだけど中身オカンだし普段から礼儀は正しいし。ギャルとは一体なんだったのかと思ったが、単に俺のギャルへの偏見が強すぎただけなのかもしれない。ギャル、とても良いものですね。
「あ?」
こら佐藤。威嚇すんな。
「えっと、ちょっとバイクを見に来てて。ちょっといろいろ見てみようかなって感じです」
暗に、「俺たち自分で見るから気にしないでいいよ。放っておいて」と言ってみるが、空気を読めないのか、あるいは読んだ上で無視しているのか、ゆるふわ店員は押してきた。
「あ〜、それならこれなんかオススメですよぉ〜?」
くっ、言い方が遠回し過ぎたか...?
このふわふわした喋り方、俺は別に嫌いじゃないんだが、佐藤が嫌いそうだ。さっきからすごい目でゆるふわ店員を睨み付けている。怖い。俺が。
ゆるふわの方は特に気に留めることもなく、バイクの説明を始めた。
「この子はホ〇ダのレブ〇250っていうんですけどぉ〜。もう見た目がゴツゴツのゴツ男くんでぇ〜、チョーご機嫌なんですよねぇ〜」
ゴツゴツのゴツ男くん。
「バイクって言ったらやっぱりフルカウルをイメージするかもなんですけどぉ〜、この子みたいな丸目のタイプも最近では多いんですよぉ〜。それにぃ〜、この子、カスタムを前提にして考え抜かれた構造でぇ〜、オーナーの個性を受け入れる懐の深さもあるんですよぉ〜」
めちゃくちゃ詳しくて草。
いやまぁバイク屋の店員なんだから当たり前っちゃ当たり前だけど、なんかこう、浮きそうなくらいゆるふわな人の口からふわふわな声でガチのバイク説明をされると、その...ギャップで萌える。軽率にこの人のこと推しそう。
「おい、お前...」
一人で勝手にトゥンク...していると、佐藤がもの凄い形相でゆるふわ店員に詰め寄る。
おい待て佐藤早まるな。その人は何も悪いことはしてないから。
「おい、佐藤──」
「お前...めちゃくちゃかわいいな」
転んだ。マジのガチで、昭和の漫才かってくらいすっ転んだ。
なんだお前、その眉間にしわ寄せた顔してそんなこと考えてたのか。お前の方がかわいいわ。頭の中が。
「はにゃ? わぁ〜ありがとうございますぅ〜。うれぴ」
両手を軽く握り、顎の近くに持っていくという割とあざとめなポーズを決める店員、まじあざとい。はにゃってなんだよ、鳴き声?
存外、悪くないと思います(素直な気持ち)
「...なぁ。あのバイク、なんてんだ?」
ふと、佐藤の目が店員から移る。
たまたま目に入ったのか、佐藤は店の隅に置いてあるバイクを指差し、興味を示した。
「おぉ〜、お目が高い〜。あの子はカ〇サキのKH4〇0、75年式刀マッハですねぇ〜。今は無き2スト3気筒っていうシブシブのシブ子ちゃんなんですよぉ〜」
シブシブのシブ子ちゃん。
「絶版車なんですけどぉ〜、おとん...パパンが壊れて河原に捨てられてたのを拾ってきてぇ〜、修理したんですよぉ〜」
それは色々とどうなん。売っていいのそれ?
「あ、これはオフレコでお願いしますねぇ〜」
ダメなんじゃねぇか。
普通に窃盗だよ。怖ぇよこの店。
「ちゃんと警察に届けて半年待ったのでぇ〜、問題ないんですよぉ〜」
え、あ、はい。
え、今ナチュラルに心読まれた? いや違うよな。持って然るべき疑問を抱いているだろうからって思っただけだよな、きっと。
「そうですそうですぅ〜。みんなそれを疑問に思うかと思ってぇ〜」
「おい佐藤、帰ろうぜ。ここ怖すぎ」
やっぱり心読んでるじゃないですかヤダー!!
てかバイクのナンバー発行できないんじゃないのそれ。どんな手使ったの。怖いよやっぱり。
本当に帰りたくなった俺は佐藤に目線を送る。ほら、帰るぞ。ラーメン奢ってやるから。な?
「──か」
.....か?
「──かっけぇえええ!!!!」
ますきん過去一のテンアゲまじ卍(逃避)
「ほう? 嬢ちゃん、こいつの良さが分かるのかい」
誰だおっさん。急に出てくんな。
「あ、パパン!」
おとんか。
「こいつぁ激マブの単車だ。見た目で惹かれるのは無理もない。だが、大事なのは、単車も人間も中身......音、聴いてくかい?」
「! いいのか!」
なして佐藤はそこまでテンション高いんだ。
どうにも流れに取り残されてしまった俺を置き、一向は例のバイクを外に出してみんなで音を聴いていた。
やべーマジシブ、超クール、最高だぜ、と語彙力を失ってしまった集団を遠くから眺めながら、俺は店を後にした。
後日、俺は別の店で目当てのバイクを購入したのだが、佐藤は例のやべーバイクを買ったらしい。マジかお前。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「それで、結局お前は何を買ったんだよ」
後日。
納車期間がまさかの0日という異次元さを見せつけてきた、デス・ギャラクシー号と銘打たれたバイクに跨り、佐藤がうちのマンションの前まで来ていた。
てか、なんでお前当たり前のように俺の家知ってんの?
「...ゼ〇ァー400、ルミナスビンテージレッド」
別段隠す必要もないと思い、素直に教える。
ワインレッドのボディがイカすバイクだ。
一九九五年に世に放たれた、世界に名を売る有名バイク。
お値段もそこそこで、比較的安めの物を選んだが、それでも溜め込んでいた貯金がほぼ底を突いたレベルだ。
まぁ、金は使わなきゃタダのゴミってお父さんも言ってたしな。また働いて貯めればいいだけのこと。幸い、デリバリーの給料はフロアより百円くらい上がるらしいし。
「へぇ。なんか分かんねぇけどカッコよさそうじゃねぇか。よし、今からちょっくら走りに行こうぜ!」
「まだ納車されてねぇよ」
「はぁ?」
「お前んとこが異常なだけだっつの。俺のは二十六日には手元に届くはずだよ」
俺も早く愛車に乗ってみたいな。
「ちぇ、今日は無駄足かよ。んじゃあ二十六日、また来っから。高尾山までぶっ飛ばそうぜ」
「湘南がいい」
「海は遠いし寒ぃだろ」
「山も似たようなもんじゃん」
「いーや、海の方が寒いね」
海岸の方が走ってて気持良さそうだけどなぁ。
結局俺が折れて高尾山に行くことになった。
当日、たまたま高尾山に遊びに来ていたとかいう宝くじ一等もびっくりなミラクルでポピパのメンツと顔を合わせてしまい、なぜか目が死んだおたえと市ヶ谷さんに詰められたのはまた別のお話。
つーか高尾山って女子高生がわざわざ年末に遊びに行くような場所か???
こうしておたえとのイベントだけが立っていく。
ほかのキャラにも焦点を当てろ。出番を増やせ。私はリサ姉推しだ!!!(リサ姉がヒロインとは言ってない)
バイクの知識本当に全然ないので色々と調べまくって書いたんですけど、その過程で私もバイク乗りたくなりました。とりあえず二輪免許でも取りに行くかぁ()