ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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聖なる夜の時間だオラァ!!(深い意味はありません)

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマス。

 それは、血塗られた歴史の上に成り立つ、悪魔の祭典。幾億もの犠牲の上に、限られた勝者のみが謳歌することを許された、呪いすら蔓延る催し。

 かの聖人も、まさか自分の誕生日を祝われるわけじゃなく、それをネタにされてここまでのことが起きるとは思ってもみなかっただろう。

 

「リア充は爆散しろ」

 

 ここにも一人、恨めしく勝者を睨む敗者の姿が。

 まぁ、俺なんですけど。

 

 今日は十二月二十三日。

 クリスマスイヴの前日。

 今年のクリスマスとイヴは土日で、今日は二学期最後の日。今はその放課後だ。

 教室には、俺のようにリア充への怨嗟を呟く者や、短い冬休みに何をするのか楽しみにしている者。通知表の結果が芳しくなく、親への言い訳を悩む者と、様々な生徒がいる。

 

「お前も十分リア充の部類だろ」

 

 ハロウィン辺りから増えてきたカップルどもを恨む声を上げた俺に、リア充代表、五十嵐が呆れたような声音で言い放つ。

 五十嵐の呟きに、須田も同意した。

 

「ポピパ、アフロ、Roselia、ハロハピ。その他の女子とも幅広く交流があって、果ては現役アイドルのパスパレとも仲が良いお前がリア充じゃないなら、この世にリア充は存在しねぇよ」

 

 確かに。恋人がいることがリア充の条件ではない。俺のリアル、日常生活は充実していると言えるのかもしれない。バンドが出来て、仲の良い友達とも絡むことが出来てるし。

 それに、恋人がいても、色々なことがあって充実していないやつもいるだろう。

 しかし。しかしだ。

 

「カップルは滅びろ」

 

 恋人がいてこその聖夜だろうがクソがよ((すさ)み)

 

「ならお前も付き合えばいいじゃねーか。誰かと」

「そういうんじゃないんだよなぁ」

「なんだこいつ、めんどくせぇ」

 

 彼女は欲しいが、誰でもいいわけじゃない。

 心の底から好きになった人と付き合いたい。というかそうじゃないと付き合っても楽しくないだろ(ロマンチスト)

 

「五十嵐はいいよな。クリスマス、一緒に過ごすやつがいて」

「いや? 今年は俺予定ない」

「え? 澤田さんは?」

 

 付き合ってんだろ。

 街中のイルミネーションに、虫のように引き寄せられる予定があるんじゃないの(口が悪い)

 そういや今日、澤田さん休みだな。風邪でも引いたか?

 

「美穂はなんか父親が宝くじでハワイ旅行当てたとかで、明日から年越しまでハワイで過ごすらしい。今日はその準備で休むっつってたな」

「ぶるじょわじー」

 

 大物芸能人か何かの過ごし方じゃんそれ。

 凄いな澤田パパ。強運すぎ。

 

「当の本人、美穂の父親は仕事があるとかでこっち残るらしいけど、母親と妹の三人で行くらしい」

 

 前言撤回。

 運は全く無いな澤田パパ。可哀想すぎるだろ。

 

「つーわけで、三人で遊ぼうぜ非リア共」

「川底に埋めるぞ」

「海にばら撒くぞ」

 

 突然喧嘩をたたき売られたので、言い値で買う。

 十二月の海川は冷たいぞ、覚悟しろゲス野郎。

 

 須田がどこからか取り出した荒縄で暴れる五十嵐を縛っていると、山吹さんと牛込さんがこちらに声をかけてきた。

 

「誠く「やめろ馬鹿共、二人がかりは卑怯だぞ...っ!」...え何? それ、何やってるの?」

「刑罰執行」

「罪人必殺」

「め、目がイってる.....」

 

 牛込さんにドン引きされた。

 これも全部五十嵐が悪い。ピラニアの餌にしてやろうか。

 須田を見ろ。他でもない牛込さんに引かれたことで一度死に、まだ死にきれねぇと修羅となって蘇ってきやがった。こいつの怨念は強いぞ。

 

「あはは、ほどほどにしときなよー?」

「わかっ、分かったから! 謝るからっ!」

「無理難題」

「悪滅即斬」

「なにその四字熟語縛り。いや違うのも混じってるけど」

 

 山吹さんに呆れられた。

 これもまた五十嵐が悪い。キノコの苗床にしてやろうか。

 

「それより明日の件なんだけどさ? 一応聞くんだけど、ちゃんと聞いてるよね?」

「?」

「何の話?」

「んー! んー!」

 

 縛り終わり、ガムテープで口を塞ぎ、早速自然の厳しさをその身に刻みつけてやろうと、身動きの取れなくなったクズを肩に担ぐ。

 それより明日の件とは。俺も須田も、多分このクズも何も知らない。

 え、何かあったっけ?

 

「え、本当に何も聞いてない? えー、うっそ、ほんと...?」

 

 何か俺らが把握してなきゃヤバいことでもあるんだろうか。

 え、もしかしてみんなでクリスマスパーティするとか、そういう話? クラスでやるとか、仲良い連中で集まってとか、そういう系の。

 だったら全然参加するが? プレゼント交換用のブツはこのクズの遺品から見繕おう。

 

「明日ね? CiRCLEでライブやるの。クリスマスライブ。その参加者一覧にね? Capliberteも入ってるんだよね」

「「「は?(ん?)」」」

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 山吹さん曰く。

 今回開催されるクリスマスライブは、まりなさん企画のものらしい。

 ポピパ、アフロ、Roselia、ハロハピ。そしてなんとパスパレまで出演が決まっている、わりと繁盛しそうな聖夜ライブ。

 出演者はまりなさんの独断と偏見で声がかけられており、その中には我らCapliberteも含まれているのだという。

 

 いや、そんな話聞いた事ねぇよ。

 

「どういうわけっすか、これ」

 

 という訳で、俺らはCiRCLEへと足を運んでいた。

 もちろん、主催者たるまりなさんに話を聞くためである。五十嵐は巻かれたままだ。

 

「え、話いってなかった?」

「来てないですよ。つーか来てたら(クリスマスイブに予定があると分かっていたら)五十嵐が(下手に俺らを挑発して)死ぬこともなかった」

「ごめんちょっと意味わかんない」

 

 五十嵐は無駄な犠牲だったというわけだ。

 いやまあ、俺らに喧嘩を売ってきたのはあいつ自身なので、八割方自業自得なんだが。

 

「死んでねーよ」

「まりなさん、五十嵐に謝ってください」

「追悼の意を込めて」

「...えと...あ、あーめん?」

「だから死んでねーって」

 

 さて、茶番はさておき本題だ。

 ブッキングは主催者兼ディレクター兼その他諸々の運営の...いや凄いなまりなさん、優秀かよ。まぁそこは一旦置いといて。とにかく、今回俺たちへの連絡が無かったことは、まりなさんのミスだ。

 

 今回のクリスマスライブは、すでに告知もされているらしい。その中に出演者一覧もあり、前売り券はとっくに販売開始されている。

 自意識過剰とか、そういうのでなければ、Capliberteにもファンがいてくれるはずだ。俺たちの演奏を楽しみに、ライブまで足を運んでくれる人もいるかもしれない。

 そんな中で、本番を明日に控えた今日になって、演者である俺たちが初めて出演の話を知る。これは問題だ。

 まぁ本番当日になって発覚するよりはマシかもしれないが、それでもたった一日で「はい分かりました」と出演できるわけではない。

 

 そこらの学芸会や無償で行うイベントと違い、今回は売買が発生している。

 お客がわざわざ金を払って見に来てくれるライブで、半端なものは見せられないし、見せてはいけない。

 それに、俺たちにはオリジナル曲というものがたったの一曲しかない。あとはコピーするしかないのだが、ライブであれば少なくとも全部で三、四曲はやるべきだ。

 たった一日で数曲のコピー。これは、言うほど簡単なことではない。

 個人で楽曲を覚える作業があり、バンドとして音を合わせる練習も必要となる。

 

 要するに、時間が足りないのだ。

 

「そっか、ごめんね三人とも。あなたたちへの声掛けを香澄ちゃんに頼んで、きちんと確認しなかった私のミスだよ」

 

「あ、もしもし戸山? うん、俺今CiRCLEにいるから来い。ダッシュで。は? 何で走らなきゃいけないのか? うるせぇ黙って走ってこい」

「「無駄に詰め寄ってごめんなさいでした」」

 

 戸山を呼び出し、その上で三人揃ってまりなさんに全力で頭を下げた。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 戸山を思いっきり叱ったあと、俺はエゴサをしてみた。

 自分の名前ではなく、バンド名でだ。

 自分の名前でエゴサしたら殺害予告とかありそうで怖いし。

 

 とりあえずTw〇tterでエゴサをしてみたところ、

 

『カプリ出るなら見に行こうかな』

『カプリ新曲あるかな』

『Roselia目当てでチケット買ったけど、Capliberteとかいう時代への超逆バリバンド気になる』

『カプリがクリスマスイヴに女と予定あるとかじゃなくて良かった』

『カプリベルテとかいう野生のプロ集団を見るために彼氏との約束蹴った』

 

 とまぁ、色々出てきた。

 所々数は少ないもののちょっと夢女みたいなのがいて背筋が凍ったりしたが、俺たちを楽しみにしている人達も少なからずいるということを認識し、今更「やっぱ出ませんてへぺろ」は通用しないだろうなと思った。

 

 

 というわけで、徹夜で練習開始である。

 場所はCiRCLE。まりなさんが「責任は私にもある」といい、オーナーに交渉して一部屋を丸々夜通しで使えるようにしてくれたのだ。

 五十嵐は特に自前の楽器は必要ないというので、俺と須田だけ急いで家に帰り、楽器を持ってきて練習開始。

 

 そして数時間が経過した。

 

「おいコラへばんな五十嵐ィ!! 手数減ってんぞ!」

「るっせぇ! お前こそミス増えてんぞ関口!」

「あはは、さつまいもアイランド、あはは」

「! ヤバい、須田が壊れた!」

「無理もない、徹夜で十時間は弾きっぱなしだからな...」

「ビーフシチューはね、豚さんのお肉の部位と、トウモロコシの焼き加減が肝心なの」

「落ち着け須田! ビーフシチューはビーフ使ってっからビーフシチューなんだよ!」

「こんなんでも演奏のクオリティはどんどん上がってるから怖いんだよな、このベーシスト」

「あ...───」

「!? おい須田が倒れた!」

 

 スタジオに篭ってから約十時間。

 さすがに疲れが限界を迎えてきたことと、壊れた須田を治すために、一度スタジオを出て、外のカフェテリアで空気を吸う。冷たい空気が肺に入ってくる感覚、嫌いじゃない。

 つーかもう空明るいんだけど。白んできたとかいうレベルじゃなくて、普通に朝じゃん。今何時よ? 九時? 朝じゃん(疲労)

 

「関口ー、ライブ始まんの何時からっつってたっけー?」

 

 自販機で買った水をぶっかけたら復活した須田が、机に突っ伏しながら聞いてきた。

 

「十三時からリハ」

「つーことは...あと四時間? いやセッティングとかもあるし、長くて三時間ちょいか...」

「まぁそこそこ纏まってきたし、あと一時間も練習すれば何とかなるだろ、多分」

 

 ホットのココアを買ってきた五十嵐は一時間あれば大丈夫だという。まぁ確かに、あとは最終確認するだけだ。

 あとはちょっと仮眠しよう。徹夜でライブって本当にしんどいからな。ライブ衣装は...まぁ制服でいいか。須田も五十嵐も私服持ってきてないっぽいし。あと普通に風呂に入りたい。旭湯行こうぜ。

 

「んじゃ俺ちょっとロビーで仮眠してくるわ。遅かったら起こしにきてくれ」

 

 ココアを飲み干した五十嵐は、そういいながら大きな欠伸をし、ロビーに向かっていった。五十嵐が起きたら俺も寝に行こう。

 つーか俺も何か飲みたい。抹茶オレとかないかな。

 温かい飲み物を求めて席を立とうとした時、俺たちに声が掛けられた。

 

「おっはよー☆ うわ、ひどい顔。寝てないの?」

 

 振り向くと、そこにはリサ姐が。

 朝からバチバチにメイクをキメ、こんなにも寒いというのに肩出し太もも出しのニットセーターを着ている。双丘の谷とか朝日に輝く太ももと

 か、ちょっと徹夜明けの自分には刺激が強すぎますね。

 

「人の顔みてうわとか言わんといてください。寝てないですよ」

 

 諸事情により立てなくなったので、飲み物は諦めて席につく。

 

「香澄から聞いてたけど、ホントに徹夜だったんだ。朝ごはん作ってきたけど、食べる?」

「え、食べない以外に選択肢が?」

「バカヤロウ関口、家宝にするっつー選択肢があるだろ」

「それだ。美少女ギャルの手作り飯、食ったら勿体ないもんな?」

「いや食べな?」

 

 呆れつつ、トートバッグから二段の重箱を取り出したリサ姐。

 よくこんな大きな弁当箱持ってきてくれたな。重かったろうに。

 蓋を取ると、上段には筑前煮や煮っころがし、他にも色鮮やかなおかずたちが。

 さらにその上段を取ると、下段に純白のおにぎりたちが所狭しと詰められている。

 小学校の時の運動会を思い出すなぁ、これ。

 

「んじゃあお言葉に甘えて、いただきまーす」

「はいどうぞ、めしあがれ〜☆」

 

 割り箸を渡された俺は、まず筑前煮に手を伸ばす。

 柔らかい人参を口に含み、咀嚼。

 

「...うっま」

「あは☆ ありがと〜」

 

 次にレンコン、椎茸、鶏肉と続ける。

 そして口の中にうま味がいっぱいになったところでおにぎりを投入。

 えくせれんと(激ウマ流暢発音)、完璧な黄金比率だ。箸が止まらん。

 

「お味噌汁もあるよ〜」

 

 魔法瓶から味噌汁を出し、紙コップに注いで渡してくれた。

 一口啜る。温かい。朝の冷たい空気で冷えてきていた体が温まっていく。味も美味い。何これ最高。

 

「...リサさん」

「ん〜?」

「毎朝俺に味噌汁作ってください」

「え〜、どうしよっかなぁ〜」

「日給一万出します」

「ドル?」

「すいません円でお願いします」

 

 とりあえず手付金として一諭吉を財布から出そうとしていると、突然頭を軽い衝撃が襲う。

 誰かに叩かれたのか。そう思い振り返ると、そこには氷川さんの姿が。

 

「あ、氷川さん。おはようございます」

「はい、おはようございます。...ではなく、本当に現金を出そうとしないでください」

 

 なんだ、聞いていたのだろうか?

 一体いつからそこにいたんだろう。

 

「まーまー紗夜、海くんも別に本気で言ったわけじゃないんだし☆」

「え? いやわりと本気ですけど?」

 

 リサさんレベルのギャルに毎朝飯を作ってもらえる幸せ。

 一万円くらいで買えるなら安いもんだと思うけどなぁ。

 

「へ? あ、いや...あ、あはは! も〜、年上を揶揄うもんじゃないよ?」

 

 別に揶揄ってはいないんだけど...なんとなくこれ以上この話題を続けたらヤバい気もするし、なぜか須田からの殺意がそろそろ痛いレベルなので話を変えよう。

 

「そういや、何でお二人はこんなに早いんですか? 今日、十三時からですよね?」

「アタシはほら、海くんたちが徹夜で頑張ってるって聞いたから、差し入れ持って行ってあげようと思って☆ あとアタシたちも本番前に合わせ練習しよってなってたしね」

「なるほど、貴女が女神か」

 

 やはり貢物として諭吉を渡すべきだと思い再度財布に手をかけ、またもや氷川さんにチョップを食らう。

 そんなに痛くない辺りに氷川さんの優しさを感じました、まる

 

「紗夜も『疲れた脳には糖分が必要ですよね』って、クッキー焼いてきてくれたんだよ〜☆ ねっ、紗夜?」

「疲れで本来の演奏が出来ないなど、私たちの対バンとして認められませんから」

「なるほど、女神が二柱、と」

 

 諭吉を出そうとしてまた叩かれた。

 痛くない。優しい。

 

「ちなみに、徹夜での練習の成果はどう? なんとかなりそう?」

 

 うまうま言いながら朝飯を食べ終え、デザートとしてクッキーを齧っていると、リサさんからそんな質問をされた。

 朝飯はちゃんと五十嵐の分も残してある。残してなかったら文句言われそうだし。

 

「そっすねー。まぁどうにかこうにか。あ、新曲も出来たんすよ」

「え、新曲? たった一日で?」

「はい。まぁインストですけどね」

「それでも十分凄いことでは? 私たちが作る時は、早くても一週間程度はかかるのだけれど...」

「うちのメンバーは変態なもので」

 

 特に須田がヤバい。

 音楽理論もロクに知らないくせに、どんどんフレーズを考えていくんだもんな。しかもかっこいいやつ。

 

「今回の新曲の曲名は?」

「『クリスマスは別にキリストさんの誕生日じゃない』」

「ん?」

「『クリスマスは別にキリストさんの誕生日じゃない』」

 

 クリスマスは別にキリストさんの誕生日じゃない。

 

「相変わらずですね」

「いやー、それほどでもありますよ」

「褒め言葉じゃないと思うなー」

 

 マジ? 前回(既存国家の転覆からの迅速な建国)よりかはマシなネーミングだと思ったんだけど。

 

 今回の新曲は、四分三十秒という、まぁ比較的平均的な長さになっている。

 クリスマスっぽさを意識して作った曲で、プレゼントを楽しみにする子供たちの楽しげな雰囲気から、真夜中の子供が寝ねて静けさに支配された街、こっそりと不法侵入するサンタ、そして翌朝の子供たちの歓喜。そういったものをフィーリングで曲に落とし込んだ。

 全体的に明るい曲調となっており、楽器隊もゴキゲンだ。

 夜の静けさ、ってところは基本須田のベースソロになっていて、ここは須田が一人で考えた。世に「須田っていうヤベーベーシストがいるってよ」と知らしめることとなるだろう。それくらいかっこよくてオシャンティーなフレーズだし、何より演奏がバチくそに上手い。

 

 

 時計を見ると、短い針が十を指している。

 もう一時間経ったのか。

 そろそろ風呂屋行きたい。つーか五十嵐起きて来ねぇな。そろそろ起こすか。

 

「海〜〜!!」

 

 ごちそうさまでした、とお礼を言い、席を立とうとする。

 すると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。

 そちらを見ると、ピンク髪とたわわを揺らして走ってくるひまりの姿が。

 だから徹夜明けの男子高校生には刺激が強いんだって。今回はまだ立てるけど。あ、須田が立とうとして座った。分かる(分かる)

 

「海、おはよっ! 須田くんもっ。あ、リサさんに紗夜さんも! おはよーございます!」

 

 朝から弾けるくらいの笑顔を見せて、今日も今日とてえいえいおーなひまり。ライブ本番だってのに、元気なことで何よりだ。

 初ライブの時は緊張しすぎて夜中まで俺に電話に付き合わせた上、寝不足でフラフラになりながらライブしてたのにな。成長したもんだ。

 

「はよ。どうしたひまり、まだライブは始まんねーぞ? リハもまだだ」

「知ってるよー。海たちが徹夜で練習してるって聞いて、朝ごはんまだだろうなって思って! 朝ごはん作ってきた!」

「えっ」

「はいこれ! 須田くんと、あと五十嵐くんの分もあるから!」

「「えっ」」

 

 ひまりが担いできたリュックから、本日二度目となる重箱が登場した。

 にっこにこのひまりが箱を開き、中から茶色の強いおかずたちが。

 

「あ、俺五十嵐起こしてこなきゃだから」

「待て。逃げるな須田」

 

 俺の制止を聞かず、須田はスタコラとCiRCLE内に逃げていく。

 腹いっぱいなところに油物。しかも徹夜明け。いかに食べ盛りな俺らといえど、さすがに胃に来る。

 逃げた須田を追いかけたい気持ちもあるが、ひまりを置いて行くわけにもいかない。それは申し訳なさすぎる。

 こうなったら五十嵐を待つしか...

 

 ピロン(LINE通知音)

 

 誠『五十嵐いねぇんだけど。なんか「美穂に見送りに来いって言われたから行ってくる♡ 追伸 十一時半には戻ります」って書き置きあるんだけど』

 

 いやLINEしろよクソ彼女持ちが。文明の利器を使え現代人。

 

 誠『じゃあ俺寝るから。おやすみ。十一時くらいに起こして』

 Kai『ふざけんな帰ってこい』

 

 爆速で返信してみるも、もはや既読すら付かない。

 マジで逃げやがったなあの野郎。俺を一人にするな。

 

「あははー、かぶっちゃったね。なんか悪いことしたかな...?」

 

 リサさんが申し訳なさそうに頬をかく。

 それを見たひまりも、現状に気が付いたようだ。

 

「え、もしかして、もうご飯食べた...?」

 

 どこか...というより確実に悲しみの篭った声と、少し潤んだ目。

 おい待て、そんな顔するな。心がしんどくなってくる。

 

 胃を決し、もとい、意を決し。

 箸を手に取る。

 

「...いやぁ、徹夜で食べ盛りで男の子だから、お腹が空いてきたなぁ」

「え、いや、無理しなくても...」

「高校生で朝でライブ前だからあれがこうなってウルトラ油物が食べたい気分だなァ!!!」

 

 お母さんと姉ちゃん、ついでにお父さん曰く。『女の子は泣かせるな』

 

 へへっ...───やってやんよ! 俺やってやんよ!!!

 

 

 

 この後、めちゃくちゃ食った。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 さて、ライブ本番。

 演奏順は先週辺りにくじ引きで決まっていたらしく、俺たちカプリベルテはトップバッターとなっていた。

 くじ引きは俺らの代理としてまりなさんが引いたらしいんだが、その場に俺らがいない時点で連絡ミスに気付けと言いたい。まぁ過ぎたことだし、なんとかなりそうだし、もういいんだけど。

 

『はーい皆さん、元気ですかー? 俺は眠いです』

『おい』

 

 ライブの火蓋を切るMC。

 まぁ一曲演ったあとではあるんだが、一曲目はインストである『既存国家の転覆からの迅速な建国』だったので、オーディエンスに向けて声を発するのは初めてだ。

 今回もいつも通り、マイクを持っているのは俺と須田。五十嵐はコーラスもないため、マイクを持つ意味がない。

 

『えー、いろいろありましてね。昨日寝てないんですよ俺』

『寝てない自慢とかすんな、キモい』

 

 須田は文句を言ってくるが、別に自慢とかじゃなく事実だし。

 つーか須田はいいよな。いい感じに腹が膨れた辺りで眠りにつけたんだから。まじいいよな。

 とまぁ、俺らしか分からないネタは置いといて。

 

『えー.....あんま喋ることないな』

 

 じゃあさっさと始めろ、とヤジが飛んでくる。

 おい今叫んだの佐藤だろ。お前今夜ライブあるんじゃないの。いいのかこんなところにいて。

 

『えー...まぁヤジの通りなんで、次いきまーす』

『お前、ほんとこういうの下手だよな。内輪なら饒舌なくせに』

『うるせぇ次いくったらいくんだよ!』

 

 なんだ内弁慶かー(ヤジ)

 そういうオタクいるよねー(ヤジ)(悪口)

 かわいいと思うでー(ヤジ)(慈悲)

 

『はい新曲いきます!! いくったらいきます!! いいから聴け!! 新曲「クリスマスは別にキリストさんの誕生日じゃない」!!』

 

 全てを振り切るようにギターを掻き鳴らす。

 新曲のお披露目って流れじゃない。こんな新曲のお披露目は嫌だった。

 でも始めるったら始めるんだよチクショウ!!!

 

 

 (新曲披露中)

 

 

『はい終わり! 次ラスト!』

『怒んなよ...』

『サイ〇イで「八月〇夜」!!』

 

 季節への反逆だ!! クリスマスなんてクソ喰らえ!!!!(ヤケクソ)

 

 

 

 

 

 

 




後半へ続きます。(即時投稿とは言ってない)(できるだけ早くあげたい)(夏が終わることへの絶望)(夏らしいことしてないんだが)(秋は秋で紅葉とか楽しみ)(いいから早く書け)
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