ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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オリ主くんはやっぱりチョロイン(少し違う)なんだね、というお話。


door in the face(譲歩的依頼法)

 

 

 

 

 

 

 

 彼はとても大人びていると、いろいろな子の声を聞く。

 確かに、彼はしっかりしている。私が高校生の頃の同級生の男子たちと比べると、断然。

 

 だからだろう。彼の周りには、人が大勢集まる。

 彼は「友達が少ない」というが、そんなことは決してない。少なくとも、彼と仲良くなりたいと思っている子は、男女問わず多いはずだ。

 まあ、彼を異性として見ている子も少なくないと思う。実際、うちに来ているバンドの子たちの中にも、ちらほらそういう子を見かける。

 

 彼は成熟している。これは誰もが認めることだろうが...それでも、私から見たら、まだまだ子供だ。

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

「女性とクリスマスケーキは同じ」と言い出したのは、一体誰なんだろう。

 

 クリスマスも過ぎ、十二月二十七日の深夜。もう時計の針がてっぺんを越えているから二十八日か。

 ギターを弾きながら、ふとそんなことを考える。

 

「まりなさんって今何歳なのかな」

 

 社会人女性に対して最大の禁忌、実年齢について考えていたところで、LINEの通知が鳴る。

 噂をすればなんとやら。相手は俺が今考えていた張本人、まりなさんだった。

 

 クリスマスライブの打ち上げ時。

 今後、何かのライブ依頼があれば直接俺に連絡が取れるように交換していたのだ。

 まりなさんからLINEで連絡がくるのはこれが初めてで、一体何の用なのかと手早くスマホのロックを解除し、LINEを開く。

 

 まりな『お疲れ様! 突然なんだけど、年末って暇? 三十日とか』

 

 Kai『お疲れ様です! 特に予定はないです』

 

 そういや年始には単身赴任中の親父が帰ってくるらしいけど、別段どこかに出かけるような用事はないな。

 例年なら三十日くらいから年明けにかけて九州にある祖父母の家に行くのだが、今年はお母さんは仕事が、姉ちゃんは友達と予定があるとかで、九州には行かないことになっている。

 

 まりな『ほんと! 良かった!』

 

 Kai『何かあるんですか?』

 

 忘年会とかだろうか。CiRCLEでやるとか。

 ゆーてクリスマス会(打ち上げ)したばっかなんだよな。まあ、みんなでわいわい騒ぐのは何度やっても楽しいからいいけど。

 

 まりな『うん! 年越しライブやろうって話が出ててね!』

 

 Kai『アホなんですか?』

 

 

 アホなんですね?

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 アホのまりなさんから連絡があって、一晩が経った。

 今日は昼過ぎまでバイトがあるため、とりあえず職場まで来て、フライドポテトを延々と揚げている。

 

「ポテトあがりまーす」

 

 揚がったポテトに塩を振りかけ、紙のパックにかきこみ、前に出す。

 他のスタッフがそれを持ってお客に提供する。

 そんでまた注文が入るので、揚げて積んで詰めての繰り返しだ。にしても今日いつもよりポテトの注文多いな。氷川さんでも来てんのか?

 

 単純作業の繰り返しのため、考え事をするにはもってこいの時間。

 普段は次にコピーする曲は何にしようとか、好きな曲のギターフレーズを頭の中でリピートするとか、そういうことをする時間だ。

 

 しかし、今日ばかりは違う。

 

「(べーべーべーべー、やっべーよマジで。リアルマジ。バイトなんかやってる場合じゃあねぇ)」

 

 涼しい顔をしているが、頭の中では焦り散らし、今にでも地面を転げ回りたい気分に駆り立てられていた。

 

 

 

 時間は昨夜、たわけなまりなさんから連絡があった後に遡る。

 

 さすがに二日三日の練習期間でライブをやるなど、至極控えめに言っても正気の沙汰じゃない。

 その愚痴を言うためにカプリベルテのLINEグループに連絡してみたことが間違いだった。

 

 

 Kai『月島まりなとかいう考え無しから、「三十日にライブやる」とか連絡きたんだけど』

 Kai『普通に考えて無理じゃんね、俺たちをなんだと思ってんだ』

 

 誠『いいじゃん!』

 

 Kai『は?』

 

 Yuta『まぁ三曲くらいならなんとかなるな』

 

 Kai『は?』

 

 Yuta『やってみせろよ、マフティー!』

 

 誠『なんとでもなるはずだ!』

 

 Kai『マフティーじゃねぇしなんともなんねぇよ、アホか』

 

 

 

 というわけで、なんでか分からないが三十日のライブに出演してしまうことになった。なってしまったのだ。

 

 今日が二十八日。ライブは三十日の午後三時からだと聞かされている。

 そうなると、今日バイト終わりからライブ直前まで練習するとしても、猶予は五十時間もない。

 

 ...五十時間って聞くとちょっと余裕ある気がしてきたな(狂)

 

 五十嵐は三曲ならできると言った。須田もそれに関して否定はしていない。ということは、マジで三曲やるつもりなんだあいつら。

 

 俺らのライブは、必ず一曲はサイ○イをやる。

 別に決まりってわけじゃないが、いつもそうだから今回もそうだろう。

 サ○サイならまあ問題はない。キーボードがよく鳴っている曲はギターアレンジでどうにかする必要があるため面倒だが、結局は自己アレンジ。どうとでもできる。

 問題は残り二曲だなと思い、バイト上がりの時間が来たため、足早に帰る準備を始めた。

 

 控え室の中の男子更衣室でパッと着替え、スマホを見る。

 カプリのグループから通知がきていた。

 

 

 Yuta『Cr○ssfaithやんね? 「Rx Overdri○e」と「Soul Se○ker」』

 

「は?」

 

 思わず声出たわ。

 え、いやまあ、お前(五十嵐)がいいなら別にいいけどさ。

 

 誠『激アツだな』

 誠『サイ○イ枠は「フジヤ○ディスコ」やりたいんだが、よろしいか?』

 

 むしろこっちがよろしいか?だわ。

 え何、なんでお前らそんな自分で自分の首絞め殺すような選曲なの?

 いやまあ、ほんと、お前らがそれでいいならいいんだけどさぁ...

 

 つーか、俺ら以外にどのバンドが出るんだ?

 この前クリスマスライブやったばっかりなんだ、あの時のめんつは無いだろう。普通、そんな短期間でライブなんか出るもんじゃない。

 じゃあ誰が出るんだ。グリグリとかか?

 

「お、海。今から帰りか?」

 

 とりあえず帰って練習するかと思っていたところで、控え室に巴が入ってくる。

 

「おう。巴は今から? 今日シフト入ってたっけ」

 

 今朝見た限り、シフト表に巴の名前はなかったはずだ。

 ついでにひまりや丸山さん、松原さんも入っていなかった。その辺とシフト被らないのは珍しいなって思ったから覚えてる。

 

「いや? ちょっとスティック忘れたから取りにきたんだ。...お、あったあった」

 

 自分のロッカーを漁り、和太鼓のキーホルダーが付いたスティックカバーを取り出す。

 

「わざわざ取りに来たのか。明日はシフト入ってたろ。明日でも良かったし、なんなら連絡くれれば届けたのに」

「いや、今日使うんだよ。あこに借りても良かったんだけど、あいつも今日練習らしくてさ。予備も全部この中だったし」

 

 なるへそ。

 

「こんな年末にまで練習か。大変だな」

 

 まぁ、俺も人のこと言えないんだが。

 

「ははっ、大変なのはお互い様だろ?」

「え?」

 

 軽快に笑って、巴は続ける。

 

「海も出るんだろ? CiRCLEの年末ライブ」

「も?」

 

 Afterglowは正気じゃないのかもしれない(なお自分)

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 Afterglowが正気じゃないことが判明したあと、もしかしてと思いRoselia、ポピパ、ハロハピに確認してみたら、全バンド参加するらしいことが発覚した。

 お前ら人間じゃねぇ!!(タケシ)

 

 パスパレは仕事があるとかで不参加らしいけど。それでも仕事はあるのか。大変だな。

 

 

 

「よーし。まあ初合わせならこんなもんだろ」

 

 タオルで汗を拭く五十嵐が、満足そうに笑った。

 

 人間じゃねぇのは俺らも同じで、本番前日にようやく初合わせを済ました俺たちカプリベルテ。

 初合わせにも関わらず、なぜかほぼ完璧に通るんだから不思議だ。サイサイはともかくCrossfaithとかよく通ったな。我ながら意味がわからん。曲決まってから一日も経たないうちの出来事だぞ?

 

「やっばい、耳痛い。お前ら音出しすぎだろ」

 

 自分で自分が分からない...とか言ってると、須田が耳を手で覆う仕草をしてみせてきた。

 

「だって五十嵐のバスドラが」

「いや、関口のギターが」

 

「どっちもだっつってんだろ」

 

 呆れたように言い、須田はスタジオから出ていく。トイレか、水でも買いに行ったんだろう。

 

 実際、俺と五十嵐の音は爆音だ。

 俺は「聞き手の鼓膜を破ってからが勝負だ」という宗派で、五十嵐は単純にパワーバカ。

 新曲を作ろうってなったら、だいたい俺と五十嵐が音で殴りあう。そしたらそれを須田のクソキモベースライン(褒め言葉)にねじ伏せられ、黙らせられている。まじであいつ見てると自信無くなってくるわ。才能マンめ。

 

「実際どうよ?」

「あ? 何が」

「俺らの音」

 

 五十嵐の質問に、少しだけ考える。

 確かに、バンドはバランスが大切だ。一人でやるなら何をしようが構わないが、バンドというチームで音楽をやるのなら、多少の歩み寄りは必要だろう。

 だが、

 

「別にいいだろ」

「いいのか」

 

 考えるまでもない。

 

「この世には大きい音しかないらしい」

「何言ってんだお前」

 

 三分の二が爆音なんだから、残りの三分の一を爆音に染め上げればいいだけのこと。これこそが民主主義国家だ(違う)

 

 つーかまぁ、音が出てればそれは音楽だからな(バカ)

 音は大きければ大きいほど良いんだ(アホ)

 

「須田が戻ってくる前にベースのボリューム上げとこうぜ」

「いじめか?」

 

 失礼な。須田に本当の““音””ってやつを聞かせてやるんだよ。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 年末ライブ当日。

 リハも終わり、景気付けにカツ丼を食べ、あとは本番を演りきるだけ。

 

 人が足りないとかで昨日の夜までバイトをこなし、深夜から朝方までスタジオに篭もるとかいうありえないくらいのハードワークだったが、なんとか生きてこの日を迎えることができた。

 

 ...なんか俺、ライブ前日に徹夜しすぎじゃない?

 

「海くーん! お疲れ様ー!」

 

 控え室でギターのチューニングをしていると、香澄が入ってきた。

 見れば、ポピパ全員が続々と控え室に入ってきている。

 

「おう、お疲れさん」

 

 演奏順は俺たちカプリがやった後にポピパ、その後ハロハピ、Afterglow、Roseliaと続き、トリがグリグリとなっている。

 

 本当は俺たちの出番はアフグロの次だったんだが、今回カプリはコピバンしかやらない。そんなバンドが後半に演るのはどうよ、となり、というか俺ら自身が言い出し、一番目になった。

 

 つーか、ガールズバンドが犇めくライブでCrossfaithやるとか場違いもいいとこなんだよな。客の情緒も考え、最初にやるのがベストだろう。

 そろそろ俺ら(カプリベルテ)の然るべき居場所を見つけてぇな。いつまでもガールズバンドの中で異彩放つってのも考えもんだし。

 もう少しメタラーに近付けたらそういう場所を探しに行くか。

 

「お互いあんまり練習時間なかったけど、調子はどう?」

 

 山吹さんの質問に、俺は不敵な笑みで返してみる。

 

「何キモい笑いしてんだお前」

 

 市ヶ谷さんにキモがられたでござる。もぅむり、リス飼ぉ。

 まあ、確かに今のはキモかったかもしれない。自重しよう。もしくは耐性を得よう。

 それで今の俺らの調子の話だったっけ?

 

「まあ順調だよ。な? 須田」

 

「オレ、大キイ音、スキ。オレ、大キイ音、食ウ」

 

「ほらな?」

「何が?」

 

 キモがった上にそんな目で見るなよ、照れるじゃないか(耐性取得)

 

「須田くん......」

「ほらおたえ、お前もこのバカどもに何か言ってやれ」

「大きい音は正しさしかないから、須田くんは正しいよ。ようこそ、こちら側へ」

「そうだったな、お前もバカ側だったわ」

「それほどでも...」

 

 全く、市ヶ谷さんは褒め上手だなぁ(超越者)

 

「Capliberteさーん、出番でーす」

 

 スタッフの人から呼ばれ、ギターを抱えてステージに向かう。

 

 須田の説得(洗脳)も無事間に合い、準備は万端だ。恐れることは何もない。オーディエンスの鼓膜、ぶち破ってやろうぜ!!

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

『お疲れ様でーす!』

 

 グラスがぶつかる音が、CiRCLEのライブ会場に響く。

 

 年末ライブが無事終わり、今はその打ち上げの時間。

 各々ずいぶんと無茶をしての参戦になったこのライブだったが、特に大きな問題もなく終わって何よりだ。

 

「う、うぅん.....はっ!? お、俺は一体なにを...? た、確かスタジオで練習してて...それで突然大きい音が...大きい音...? 食、う...? うっ、頭が...」

 

 特に大きな問題もなく終わって何よりだ。

 

 

 

 さすがに疲労が溜まっていたので、何の漫画の影響か「かめ〇め波」の練習し始めたお嬢には捕まりたくないとみんなから距離を取り、隅っこでイチゴ牛乳を飲む。

 うん、甘くて美味しい。

 

 最初はひまりや蘭なんかが話しかけにきていたが、今は俺一人。ひまりはお嬢の餌食に、蘭は友希那さんとお喋りに興じている。

 

 ...あ、ミッシェルが気功波出した。

 

「お疲れ様、関口くん」

 

 弦巻家の技術はすごいなー、と眺めている俺に、まりなさんが声をかけてきた。

 最近はいろいろあってまりなさんへのヘイトも少々溜まってきているが、別に無視するほど本気で嫌っているわけでもない。短く返事をする。

 

「ライブ出演の依頼、前回に続いて直前の連絡になってごめんね?」

「そう思うなら次からは一ヶ月前までの連絡を厳守してください」

「ははっ。うん、気を付けるよ」

 

 気を付けるんじゃなくて絶対に実行しろ。

 そう思うが、口に出すことはしない。

 まりなさんも立派な大人だ。そう何度も人の嫌がることはしないだろう。というか、前回のクリスマスライブに関しては香澄が悪いしな。

 

「ところで海くん。お正月って空いてないかな? 新年明けましておめでとうライブをしようと思ってるんだけど」

 

 アパーーーーーーー!!!!!!!(狂)

 

 

 

 

 

 〜まりなさんは人の心が分からないを力説中〜

 

 

 

 

 

「そっかー。お正月はダメかー」

 

 

 さすがにアホすぎる。

 ということで、これは回避した。それはもう全力で回避した。

 エアーマンの竜巻すら完全回避できちゃうほどのパーフェクトパリィ。惚れ惚れしちゃうね。

 ...え? パリィは回避じゃない? 受け流し? うるせぇ、英語だと回避なんだよ(プチおこ)

 

 

「そうだよね。お正月まであと一日二日しかないもんね」

 

 そりゃそーよ。

 普通そんな激動ローテでライブなんかやらねぇのよ。何週間か前に教えといてくれてたらまだしも、直前に言われてはい分かりましたとはならねんだわ。

 俺はノーと言える日本人。ダメなものはダメ。

 

「二日...時間にしたら五十時間くらいかな? 今回もそのくらいだったよね」

「マジで体壊すかと思いました」

 

 伏して謝れ。

 

「じゃあ、その時間が五倍...いや六倍になったら?」

「え? ...まあ、今回よりは余裕あるかもですね」

 

 六倍ってことは三百時間? なんかデカい数字でよく分かんないけど、そんだけあれば新曲も作れるかもしれないな。

 

「六倍の期間があればライブ参加できる?」

「まあ、三百時間あれば...」

「じゃあそれでいこう! だいたい三百時間後、ライブ参加お願い!」

「え、あ、はい」

 

 まあ三百時間もあるなら大丈夫か(疲労脳死)

 

 

 

「それじゃあライブ、よろしくね!」

「はーい」

 

 

 パーフェクトパリィ(意固地)をキメた俺は、笑顔で離れていくまりなさんに手を振る。

 いやぁ、まりなさんも話せば分かってくれるって俺信じてたよ。今日やって正月にまたライブとかほんと正気じゃない。つーか客も追いつかんだろ。

 

 

「...なあ、関口」

 

 イチゴ牛乳がなくなったため、次はコーヒー牛乳でも飲もうかと思っていたところに、なんとも微妙な顔をした市ヶ谷さんが寄ってきた。

 

「お前さ、疲れてるんだろうけど...あれだ、詐欺とか気を付けろよ?」

「え?」

 

 何言ってんだこの子。

 誰が詐欺になんて引っかかるかっての。冷静沈着、頭のキレるできる男とは俺の事よ。詐欺ろうとしてきたやつを逆にカモれる自信すらあるね(圧倒的カモ)

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 コミュ障を発揮してグリグリとはほとんど喋れない打ち上げが終わった後。

 結局ミッケル(弟)になって魔閃光を出した俺は、酒でも飲んできたんかってくらいフラフラな足取りで帰宅、即ベッドイン(単騎)

 

 大晦日くらいゆっくり過ごすんだ。

 明日はポ○モンやってタマザラシ乱獲するんだ。

 

 そう心に誓い、アラームもかけずに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 翌朝。

 小鳥の囀りこそ聞こえないものの、暖かな光に刺激されて目を開けると、そこにはマリ〇カートに興じるポピパがいた。

 

 は?

 

「あ、海。おはよう」

 

 ごく自然に。まるで教室で居眠りをしていたクラスメイトへ声をかけるように。

 俺が目を覚ましたことに気が付いたおたえが挨拶なんぞをしてくれやがる。

 

 返事をする余裕など当然なく、俺は慌てて辺りを見回した。

 もしかしたら寝ている間にまた拉致られたのかもしれない。そう思ったのだが、予想に反してここは俺の自室。

 

 つまりこのポピパとかいうコミックバンドは、男の部屋に、男が寝入っている間に、勝手に入ってきて、許可なく人のマリ〇カートをやっているということ。

 

 

 ......え、何...? 怖......

 

 

「? そんな怯えた目なんてして、どうしたの? 怖い夢でも見た?」

 

 夢ならばどれほど良かったでしょう(米津)

 

「あ! おはよう海くん! お邪魔します!」

「え、あ、うん。おはようございます」

 

 恐らく諸悪の根源であろうコミックバンドリーダーがいやに元気に挨拶してくるので、思わず返事をしてしまった。

 

 寝起きと恐怖で思考がまとまらない。

 今、これはどういう状況だ?

 

 

『俺が寝ている間に女友達が俺の部屋に入り、寝ている俺の横でゲームをしていた件』

 

 

 ラノベのタイトルみたいだな。

 

 

「もう少ししたら蘭ちゃん達も来るって! そしたらこころちゃんの家に行こ!」

 

 蘭も来るのか。なんで?

 お嬢の家に凸るのか。だからなんで?

 

「あー!!」

 

 え何。

 

「誰だカミナリ使ったの! せっかくいい感じで進んでたってのに!」

「ふっふっふ。ライバルをどう邪魔して蹴落とすか。それがこのゲームの在り方なんだよ、有咲」

「さーやちゃん、悪い顔してるね...」

 

 もうほんと怖いんだけど。

 てか市ヶ谷さんら三人は常識人枠のはずだろ。なんで家主(俺)に挨拶もせずゲームに熱中してんだ。つーかその前に不法侵入を止めろ。アホ共を咎めろ。

 特に市ヶ谷さんはポピパのストッパー的ポジションだろ。ほんと頼むぜ。まじで。

 

 

 五分ほど経ち、いろいろと落ち着いた(意味深)ためようやくベッドから出ることが出来た俺は、とりあえず顔を洗いに洗面所へ向かった。

 

「...これからお嬢の家に行くのか...」

 

 鏡を見ると、なんとも気落ちした酷い顔の俺がいた。

 本来、女の子の家に行くっつーのは大手を振って狂喜乱舞するべきイベントだ。ほかに集まるのがもれなく美少女ときているのなら尚更。

 普通の男子高校生なら「へへっ...ったく、しょーがねーなー///」つってまんざらでもないどころか前屈みで臨むところだが、俺は違う。というか環境が違う。

 

 中ボスとラスボスと裏ボスが一堂に会するサバトの生贄にされた村人Kくらいの気持ちだ。

 まんざらだし全くしょうがなくない。俺はまだ死にたくないんだ。

 

 逃げたい気持ちでいっぱいだが、そんなものは叶わない。

 逃げたところでどうなる?

 知らんのか。拉致られる(経験則)

 

 

 冷水を顔にぶち当て、毛穴と一緒に気を引き締める。

 

 この半年と少しで俺が学んだことは、理不尽なものに立ち向かうことは無駄だということだ。

 早々に諦め、与えられた環境下でいかに損害を減らすか。そこに注力した方が明らかに建設的なのである。

 

「うしっ。今日も一日、頑張るぞい」

 

 

 

 

 そう一人呟いたところを山吹さんに見られて本当に恥ずかしかったです(感想文)

 

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 大晦日。

 仕事もない今日はガキ使でも見ながら一杯...じゃさすがに済まないだろうけど、ゆっくりしっぽり過ごそうと思っていた。

 

 ライブに出てたあの子達も疲れただろうけど、私も働き詰めで疲れちゃったんだよね。

 

 昼前にようやく布団から這い出て、コーヒーを沸かしながら髪を梳かし、トーストとサラダを食べた。

 

 食器を片し、YouT〇beを見ながらヨガを始める。いい汗をかいてきた。

 ア〇フェを飲んでから、汗を流すためにシャワーを浴びる。

 

 

 ここまでが、私の休日朝のルーティン。いやもう昼だけど。

 昔インスタグラマーのルーティンに憧れて始め、当時の友達から「見せる相手もいないのにヨガとか笑」などと言われて以降、ムキになって続けている。

 

 汗も流し、スッキリした気持ちで下着を身に付け、髪を乾かす。

 ヘアケアは夜にするとして、しっかり髪を乾かした私は、下着姿のままキッチンに向かった。

 

 冷蔵庫を開け、少し前に復刻されたア〇ヒ生ビールの缶を取り出す。

 冷えた缶を片手に、次は流し台の下の収納棚から、かねてより隠しておいたツマミにんにくを取り出した。

 

「えっへっへ...」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 天気の良い休日に、部屋でビールとおツマミを頂く。この怠惰が何よりも至高なのだ。

 

 いざ、怠惰の頂きへ────

 

 

 トゥルトゥトゥルトゥトゥルトゥトゥン♪(着信音)

 

 

 ......今、すごくいいところなのに。

 

 

 一瞬無視しようかとも思ったが、相手に悪いなと思いスマホを手に取る。

 

 相手は...(のぞみ)ちゃん?

 

 三、四年くらい前にCiRCLEで出会った年下の女の子で、今では良い飲み友達。

 ついでに最近知ったんだけど、海くんのお姉さんらしい。世の中ってほんとに狭い。

 

「もしもし?」

 

 大晦日にまで飲みのお誘いかな、と思いつつ電話に出る。

 

『あ、まりなさん? やっはろ〜』

「うん、やっはろ」

『ははっ、ウケる』

 

 なにが?

 

『まりなさん今日暇?』

 

 このノリは飲みのお誘い確定かな。

 でも今日は一人でお酒飲みたい気分だし...外飲みだとお金かかるしなぁ...

 

「あー...ごめんね? ちょっと用事あって」

『カレシ?』

「いや、違うけど」

『だよねw』

 

 なんだこいつ(素)

 

『でもそっかー。用事あるのかー』

「うん。ごめんね?」

『ううん、大丈夫。けど残念だなぁ』

 

 こうして誘ってくれるのは嬉しいけど、やっぱりその日の気分ってあるからね。

 本当に申し訳ないけど、今回はこのままお断りを───

 

『今日弦巻さんちで宴会あって、お高めで美味しいお酒が飲み放題なのに。まあ仕方ないか。また今度───』

 

「用事無くした。集合何時?」

 

『ははっ、マジウケる』

 

 世界の弦巻家で高級酒飲み放題。

 それを先に言わないとか、希ちゃんほんとイジワル。

 

『集合は昼の三時かな。あ、あと麻雀大会もあるからよろしく〜。じゃ!』

 

 なんて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、現在午後五時頃。

 三時前には弦巻家...ハロハピのこころちゃんの家に出向いていた。

 

 こころちゃんの家で宴会ということは、まぁ当然のようにハロハピのみんながいる。

 そしてそのほかにも、ポピパ、After glow、Roselia、パスパレ、そしてカプリベルテのみんなもいた。

 

 これじゃいつもの打ち上げじゃん。

 そう思ったが、出てくる料理は美味しいし、お酒はすごい。

 そう。お酒に関してはなんかもう美味しいとかではなく、ほんとうにすごいのだ。

 さっき黒服さんが注いでくれたワインのラベルにはROMANEE-CONTIって書いてあったし、なんか1945っていう数字も見えた気がした。

 

 ロマネコンティの1945年ヴィンテージっていえば、過去最高の声も高い最高級の中の最高級ワイン。もう世界に一本しか残っていないとまことしやかに囁かれている代物だ。

 

 そんなものの味が分かるだろうか?

 いや、分からない(反語)

 緊張して味どころじゃない。手が震えたもん。ラベルなんて見なきゃよかった。

 

「あ、それロン! 四槓子! 役満! 二万四千点!」

「いや、姉ちゃんそれフリテンだろ。つーか二万四千てなんだよ。自摸(ツモ)じゃねぇし、何よりこれ四麻だぞ?」

「うるせぇ! いいから点棒寄越せ!」

「んなむちゃくちゃな!?」

 

 希ちゃんは出来上がってるなぁ(ドン引き)

 

 麻雀大会もいよいよ大詰め、決勝戦の東四局(オーラス)

 今回は時間の問題もあるため、全試合通して東風戦だけ行っていて、しかも一人が飛んだらその時点で試合終了となっている。

 決勝戦に進んだのは希ちゃん、海くん、蘭ちゃん、それからこころちゃん。

 

 中でもこころちゃんが圧倒的で、天和を二回、地和・人和を合わせて四回も出している。

 天和とかって0.0003%くらいの確率なはずなんだけど、どうしてそんなにポンポンと出るのかな...

 

 それに驚いたのが、この場のほぼ全員が麻雀を打てるということ。

 最近の高校生どうなってるの...? って思ったけど、聞けばみんながみんな「海くんがやってたから」って答えた。海くんの影響力どうなってるの...?

 

「ツモだわ! ちーほーよ!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」(発狂)

 

 そうこう思っているうちに、またこころちゃんがアガった。

 希ちゃんの四槓子(チョンボ)で(無理やり)点棒を取られていた海くんがこれで飛ぶ。

 

 結果はこころちゃんの優勝。

 こころちゃんはルールを知らなかったらしいけど、地和とか出されたらもうルールとか無いからね。強運すぎて怖い。

 

「チクショウ! 勝ったらもう空飛ばなくていいって黒服さんと約束してたのに...! チクショウ!!」(ガチ泣き)

 

 そんな約束してたんだ。

 普通空なんて望んでも飛べないけどね。

 

「元気出しなよ関口くん。これからも仲良く空...飛ぼ?」

「嫌でござる! そんな可愛く言われても絶対に嫌でござる!!」

「ふざける余裕あるなら大丈夫だね。これを機に最下位だった市ヶ谷さんも一緒に空飛ぼっか? ミッシェルには妹もいるって設定なんだよね...」

「いいか? 奥沢さん。人は、空を飛ばない」

「ミッシェル族は飛びます。あいや、飛ばされます」

「いいか? 奥沢さん。私は、ミッシェル族じゃない」

 

 仲が良いなぁ。

 

「ドンマイ海! こころちゃんのアレは仕方ないよ!」

「ひまり...!」(軽率バブ化)

「あたしらの中で一番歴長いのに飛んで負けるとかダサ」

「蘭...!」(怒り)

 

 仲が良いなぁ。

 

「飛んで負けた結果飛ぶ(飛行)なんて、中々トンチがきいてるじゃない。今度御剣さんに相談してみましょうか? 関口くん、空を飛ぶって企画をやらないか」

「マジで勘弁してください。つーかそれ数字取れないでしょ」

「大丈夫だよ! 私達も一緒にスカイダイビングするから! そういうことだよね、千聖ちゃん?」

「いいえ? 関口くん単体飛行よ。パラシュートも無いわ」

「千聖ちゃん!?」

「せめてミッケルにならせてください...」

 

 仲が良いなぁ。

 

 

 なんだろうか。海くんにはある種のカリスマでもあるのだろうか。

 まあ確かに、同年代から見たら彼はずいぶん大人びて見えるんだろう。実際大人びていないと言ったら嘘になるし。

 

 それに彼は聞き上手でもある。人間、自分の話を親身に聞いてくれる人とは仲良くしたいと思うものだ。恋に恋する年頃の子からしたら、そこから恋愛感情に発展するのも無理はない。

 

 それなのに、当の本人はその好意に気付かない。

 ほかの感情...例えば、他人が少し落ち込んでいるとか、虫の居所が悪いとか、そういうものは怖いくらいに察することが出来るのに。

 恋愛っていうモノが絡んできた途端、海くんのソーシャルスキルは極端に低下するのだ。

 

 

 私の経験上、高校生くらいで本当にモテる男の子は、こういう子が多い。

 原因はいろいろとあるだろう。その一つとして、極度の自己否定が上げられる。海くんは多分、その部類だ。単なる勘だけど、女の勘はよく当たる。

 

 別に、壮絶な過去があるとか、そういうものではないだろう。

 幼少期の小さなトラウマが肥大化した。或いは海くんの場合、実の姉(希ちゃん)が優秀で昔から比べられてきた、というのもあるかもしれない。

 

 

 

 まあ真実は分からないし、知ろうとも思わないけど。

 そんなものに首を突っ込んだところで、待っているのは面倒事だけ。私にメリットがない。

 仮に、私が海くんの事を好きだというならそれなりに動いたかもしれないけど、そんなこともないし。

 

 海くんとはこれまで通り、少し仲が良いバンドマンとスタジオスタッフ、という立ち位置でありたい。

 彼が大学生になれば、たまにお酒を酌み交わすのも良いかもしれないけど。

 

 

 けれどまぁ、周りの女の子たちのためにも、もう少しだけ気持ちを汲み取れるようになればいいなと、星に願っておこうかな。

 

 

 

 

 

 




投稿が遅いのは全部労働が悪いんです(疲労)
頑張って月1,2回は投稿できるようにしたいです(意気込み)
応援よろしくお願いします(願望)
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