ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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ハードロックのない人生なんて、ワサビ抜きの寿司みたいなものだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 一月六日。

 短くも激動だった冬休みが終わり、今日からまた学校が始まる。

 

 制服に袖を通し、朝飯として米と納豆、味噌汁を胃にぶち込む。

 姉ちゃんはまだ寝ている。

 姉ちゃんも今日は大学があるらしいが、三限かららしく、昨日一緒に配信をした後に友達と電話しながら飲み耽っていた。

 夜遅くまで部屋でうるさくしてたからな。三限に間に合うかも微妙なところだ。

 

「? LINE? こんな朝っぱらから誰だ」

 

 歯を磨き終え、時間に余裕があったため朝のニュース番組をボケっと眺めていた時。

 スマホが揺れ、画面には通知が表示されていた。

 

 相手は須田だ。

 

 

 誠『おはよう、親愛なる友、関口くん』

 

 Kai『キモい』

 

 誠『はっはっは。ナイスなジョークだ』

 

 Kai『宿題なら見せねぇぞ』

 

 誠『Damn it !!!!!!』

 

 

 つーかせめて昨日までに連絡してこいよ。

 

 まぁ今回宿題出来てないのはライブのせいっていうのもあるだろうから、教えてやるくらいはしよう。

 

 Kai『教えるくらいならしてやるから早めに学校にこい』

 Kai『俺も今から向かうから』

 

 誠『この量が写さずに終わるのか...?』

 誠『やらないよりましか...』

 誠『お願いします...』

 

 

 まさか手付かずなのか?

 まぁいいや。

 

 コートを着て、マフラーを首に巻く。

 今日の空はどんよりとした鉛色の雲に覆われていた。予報によれば、午後から雪らしい。

 

 寒いのは本当に苦手なんだけどなぁ。

 

 嫌だなと思いながら、傘を持って家を出ようとする。

 と、ここでまたスマホから通知音が鳴った。

 また須田かと思ったが、これはTwitterの方か?

 サポート依頼がDMで届くこともあるからな。そっちだろうか。

 

 

『何度も何度も連絡しているのに、返事も寄越さないなんて、舐めてるの?』

 

 

 あ?

 ...ああ。いつものか。

 

 夏休み明け辺りからちょくちょく連絡がくる、なんかレコードプロデューサー?を自称するやつからのDMだった。(第18話『るんっ!(☆そこに言葉はいらず───V2)』より)

 

 月に一度くらいの頻度で連絡がきていたが、答えたことは一度もない。だって怖いし。英文で送られてくる不特定な相手からのメールに返信しちゃいけませんって、今時小学生で習うことだ。

 

 しかし、今回は日本語か。初めてだな。

 なかなか高圧的じゃないか。

 

 こういうのは返信してしまうと、いろいろと面倒なことになる。ネットが教えてくれた。

 フィッシングだかマルチだか、まぁ分からないが、世の中には様々な詐欺の手法があるのだとか。

 

 というわけで、無視である。

 是非もなし。何処の馬の骨ともわからない相手に返事をするほど、現代の若者は甘くはないのだ。

 

 ...でも本当はヤバくない人だったらあれだしな。

 とりあえず『DM送ってくる場合は素性を明かしてもらわないと怖くね?』って空リプしとこう。

 

 

 最近速くなったフリック入力でササッとツイートし、今度こそ登校を始める。

 どんより天気でテンションはガタ落ちだけど、今日も一日けっぱるぞー。

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 始業式の日、学校は半日で終わる。

 高校に入ってから始業式と終業式を三回経験したが、そのうち二回はおたえと飯を食いに行った。残り一回は徹夜練習マンになってた。

 

 おたえと昼飯イベントがあった過去二回は、その後にデカいイベントが控えていた。

 推し(千聖さん)との会合、そして日菜さんとのスクープだ。

 

 学校が半日で終わる時、俺は平穏から遠ざかってしまう。

 楽しくないといえば嘘になるが、刺激が強すぎてストレスになることも少なくはない。

 

「海。これから暇? お昼ご飯、食べて帰りたいんだけど」

 

「あー、すまん。今日はパス」

 

 今日こそはゆっくりまったり過ごそう。

 そう決意し、心苦しいがおたえの誘いも断った。

 つーかなんでおたえは毎回俺を誘ってくんの? 香澄たちと行けよ。いや誘ってくれるのは嬉しいんだけどさ。

 

「? 何か用事あるの?」

「いや、別にそういうわけでもないんだけど」

 

 ここで「ほかに用事がある」なんて嘘をつくことはしたくない。何となく後ろめたくなっちゃうからな。

 

「そっか。残念。ハードロックカフェに行ってみたかったんだけど」

 

「何つっ立ってんだよおたえ! 早く行こうぜ!」

 

 ちょっと面倒だからって女の子の誘いを断るとか、男のすることじゃねぇよなぁ!?(いつもの)

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 というわけで、上野に来た。

 瞬間、蘇る聖夜の記憶。

 

 上野...飲食...女子と二人......ウッ、頭が。

 

「海、顔色悪いけど大丈夫?」

 

 心配そうに見てくるおたえに「大丈夫」と一言だけ返す。

 人生の汚点のような記憶はさっさとデリートしなければ。

 あの日は、まぁ相手が幼馴染み(ひまり)だったとはいえ、記念すべき俺の人生初クリスマスデートデイ。水族館に行って楽しい時間を過ごした、ただそれだけだ。いいね?(自己暗示)

 

 

 上野駅の構内を歩き、改札を出てから徒歩一分。

 構内にある「Hard Rock cafe」と書かれたネオンの看板を見つける。

 

「おお...!」

 

 まだ店内にすら入っていないが、気持ちが昂っちゃうな。

 入口にはギターの絵がプリントされており、その横にはハードロッカー(仮)の写真がデカデカと貼られている。誰かは知らない。アーティストの顔ってあんまり覚えてないんだよな。

 

「おお...!!」

 

 ドキドキしながら入店すると、そこはまるでバーのような大人の空間(小並感)が広がっていた。すげぇ、カウンターの上にグラスが吊るされてやがる。

 ニューヨークの店舗の天井にはすっげぇデカいギブソンのレスポールが吊るされているらしいが、ここにはない。まぁ地震多発国でそんなデカいもん吊るせねぇよな。知らんけど。

 

 おたえと二人で早くも興奮していると、スタッフに席まで案内される。

 カウンターではなくテーブル席に通され、机に置いてあったメニューを二人で見た。

 

 ハンバーガーに肉。それから...ナチョス? なんだそれ。

 

「『コーンチップスにランチビーンズとチーズソースをのせてオーブンで焼き、ピコデガロ、ハラペーニョ、レッドオニオンピクルス、グリーンオニオン、サワークリームで仕上げた一番人気のアペタイザーです』ってなんだそれ。よくわかんね」

 

「何の話?」

「このナチョスってやつの説明」

 

 そもそもアペタイザーってなんだ。

 まぁこういう時はグー〇ル大先生に頼って、っと。

 

 

 アペタイザー・・・英語でメインの食事の前に食べるもの、すなわち前菜。

 

 

 なんだ前菜か。

 じゃあいいや。メインだけがっつり食べたい。

 

「私はこのレジェンダリーバーガーっていうのにしようかな。海は?」

「うーん...俺は肉だな。ベイビーバックリブってやつにする」

 

 BBQソースを塗りたくりながら焼き上げたという骨つきあばら肉。美味しくないわけがない。

 まぁ値段がえげつないことになってるが、ここまできて(値段)を気にするのは無粋だ。

 使う時は使う、貯める時は貯める。何事もメリハリが大事なのである。

 

 注文し終え、そわそわと店内を見渡してみた。

 

「お、あれ見てみろよ。ギターがショーケースに入って飾ってあんぞ」

「あっちにはツアー缶バッジが飾られてる。すごい、誰が集めたんだろ」

「ほんとだ。Black Sabb〇thにGOTTH〇RD、spiritual b〇ggarsまであんのか。スゲーな」

 

 どういうラインナップなんだろ。メジャーどころばっかり集めた感じでもないしな。ガ〇ズとか無いし。

 あ、ツェッペ〇ンはあるな。

 なんだろ、店長の趣味か? なら友達になりたい。

 

「G〇TTHARDって何?」

 

 飾られている缶バッジの中で知らないバンドもチラホラあり、ドキをムネムネさせていると、おたえからそんな質問が飛んできた。

 

「意外だな。おたえは知ってそうなもんだけど」

「何でもは知らないよ。知ってることだけ」

「なぜ今そのセリフ?」

 

 最近そのアニメでも見たんだろうか。

 俺もそろそろ見なきゃなぁ。姉ちゃんから見ろって言われたし。

 シリーズ多すぎて何から見ればいいのかわっかんねぇんだよな。あとでおたえに聞いとこ。

 

「GOT〇HARDってのはスイスのハードロックバンドでな? スイス史上一番売れたバンドなんだよ」

 

 スマホを弄って、サブスクに入れていた曲を一つ選ぶ。

 

「俺が好きなのはSilverってアルバムかな。あと#13も好き。メロディアスハードロックって括りらしいけど、マジでいいんだよ」

 

 俺が流すのはSilverに収録されているSilver Riverという曲。最高にロックだ。

 

「前任のボーカルが事故で亡くなっちゃってな。その後に出たアルバムは界隈では賛否両論だけど、俺は後任のニックも好きなんだよ」

 

 Silverというアルバムは彼らの二十五周年アルバム。

 兎にも角にも、ニックが踏ん張ったというか、批判の多い中でしっかりと自分を出してきたアルバムだと思う。なんだろうね。前任のスティーブにも似せてる部分はあるのかもしれないけど、その中に確固たる自分がいるっていうか。

 

「ハードロックだけど、なんかポップな感じだね。あとなんだろ、ちょっと盛り上がりが少ない? 私は好きだけど」

 

 とりあえず一曲だけ聴いたおたえが、そう感想をもらす。

 

「ヨーロッパのハードロックってそんなもんじゃないか? まぁこのアルバムは全体的に地味なとこあるけど」

 

 渋さがあって俺はいいと思うんだけどね。なんかこう、大人のロック、って感じがして。

 俺がこのバンドを知った時はもうボーカルは代わってたし、何よりニックがボーカルしてる曲から聴いたから、別に不快感とか物足りなさとかはなかった。

 

「隠れた名曲って言われる曲にありがちな、いわゆるスルメ感が強いかもな」

「それはあるかも。帰ったらゆっくり聴いてみるね」

「おう。あ、おたえが好きそうなのって言ったら多分初期の方、Gってアルバムがいいかも。そっちも合わせて聴いてくれよな」

「そうなの? 分かった」

 

 そう締めくくったところで、都合良く料理が運ばれてくる。

 俺のあばら肉も、おたえのハンバーガーも、中々のボリュームだ。さすがアメリカ発祥の店、規模が違う。アメリカの店だともっとデカいのかな。

 

 現代人らしく食べる前に料理の写真を撮り、いただきますと手を合わせてから食事を開始する。

 

 ナイフとフォークを使うなんていうお行儀の良い食べ方はしない。つーか骨多くてできない。

 手で掴み、かぶりつく。

 

「うっま!」

 

 初めて食べるバックリブは、ちょっと感動するくらい美味かった。

 ソースがよく染みてる。作り方としては蒲焼きとかと似てんのか?

 スペアリブとバックリブは同じあばら肉だが、少し味が違う気がする。スペアリブは食べたことあんだよ俺。

 なんだろ、なんとなくサッパリしてる気がする。あと柔らかい。豚ってこんな柔らかいもんだったっけか。

 

「! 美味しい」

 

 俺が豚肉に夢中になっている前で、おたえもハンバーガーに夢中になっていた。

 ハンバーガーといったらマクド〇ルド。そういう認識があるが、そちらより断然存在感がある。

 肉とトマトレタス、あとベーコンとかもあるのか。それらをパンに挟んでるってとこは一緒なのに、何がここまで違うと感じさせるのだろう。

 場の雰囲気かな。

 

 俺もおたえも、以降は無言で食べ続けた。

 だって美味いんだもん。

 人間、美味いものを食ってる時は口数が減るってじっちゃが言ってたけど、あれはマジだな。

 

 

 しばらくして食べ終わり、ソースでベッタベタになった口周りを紙ナプキンで拭く。

 正面を見れば、おたえはまだハンバーガーと格闘しているところだった。

 あれデカいしな。食うのは時間がかかるだろう。

 つーか女の子ってなんであんな口小さいの? 小さい口で頑張ってハンバーガー齧ってるのかわいいな。

 

 ソースの味がまだ残っている口内に水を流し込みながら、そんなことを考える。

 と、不意に店内のBGMが耳に入った。

 

「お、キ〇スか。やっとハードロックなの流れてきたな」

 

 さっきまではエド・シ〇ランとかブルー〇マーズとか、あとは知らない洋楽とか、ハードロックじゃない曲ばっかりだったからな。

 洋服屋の曲選だった。古着屋とかの。

 

「は、ほんほは、ひっふは」

「飲み込んでから喋りなさい」

 

 早く飲み込もうと頑張って咀嚼してるのかわいい。

 

「キ〇ス、いいよね」

「めちゃくちゃな。ハードロックのレジェンドだし」

 

 ハードロック草創期を駆け抜けた偉大なるバンド、それがキ〇スだ。

 コープスペイントをいち早く取り入れたバンドとしても有名かもしれない。

 コープスペイントは一般人が「メタルってこういうのでしょ」とよく想像するような、白塗りの化粧のことだ。日本じゃデー〇ン閣下とかが有名かな。

 

 ハードロックなのにメタルみたいな化粧? と思うかもしれないが、元々ヘビィメタルってのはハードロックの発展型の音楽ジャンルだからな。

 ハードロックの中でもより重々しい、禍々しい、闇の強い部分というモノが抽出されたのがヘビィメタルというジャンルだ。自論だけどな。

 

 まぁ音楽を言葉で表現しろってのが土台無理な話。

 結局は「聴いて覚えろ」という暴論(真理)に落ち着くのである。

 要するに頑張れってことだ。ファイト、ビギナー。

 

「ごちそうさまでした。あ、そうだ。キ〇スといえば」

「ん?」

 

 心の中で勝手にHR/HM初心者のみんなへエールを送っていると、ハンバーガーを食べ終わったおたえが何かを思い出したように言ってくる。

 

「ジョ〇ョ、六部の途中まで読んだよ」

「よくやった、さすがだぜブラザー」

「シスターだよ」

 

 そこなのか。

 

「途中っていうとどこまで?」

「ウェザー〇ポートが出てきたとこくらい」

「あー。まだ序盤の方か」

 

 五巻くらいだったか? ウェザ〇リポート出てくるの。

 

「ジョ〇ョって面白いね」

「だろ?」

「私は五部が好きかな。エアロ〇ミスの子が好き」

「スタンド名でしか覚えてないのか」

「バンドの名前だから覚えやすくて。ウェザーリ〇ートもバンド名だよね?」

「ああ。確かジャズ系のバンドだったかな。あんまり聴いたことないけど」

 

 ジャズは嫌いじゃないけど、全然掘れてないんだよな。シンプルに時間がない。今はメタルだけで手一杯なんだよ。

 

「私達が有名になったら、ポッピンパーティーっていうスタンド、出るかな?」

「世界で売れたらいけんじゃね。知らんけど」

「私、頑張るね」

 

 頑張るベクトル、というかモチベの出処が違う気がするが、まぁいっか。

 荒木飛〇彦さんは石仮面使った吸血鬼だから寿命とかないし、むしろ若返ってるまであるから、俺らが死ぬまでに世界進出して売れたらワンチャンあるかもしれないね。

 

「でも、本当に面白いよ、ジョジ〇。私、漫画ってそんなに読まないんだけど、お正月とか暇な時はずっと読んでたもん」

「正月暇だったのか。羨ましい」

「? お正月ってお休みの日だし、家でゆっくりしたりして、普通時間があるものじゃない?」

 

 そうだよ、そのはずなんだよ(憤慨)

 普通って何なんだろうな(哲学)

 

「海は正月何してたの?」

「俺? 初詣に連行されて、働いて、働いて、おじさんに酌してた」

「ふーん」

 

 そっちから聞いてきたのに興味なさそうだなこの野郎。

 

「昨日一昨日は配信してたな。弾き語りの」

「え、何それ聞いてない。いつやったの?」

「だから昨日と一昨日だって」

 

 話聞いてるのか聞いてないのか分かんないんだよな、おたえって。

 

「見たい。まだ見れる?」

「アーカイブ残ってるし、見れるんじゃね」

「帰ったらすぐ見る」

 

 今日はやることいっぱいだ、と謎に意気込んでいる。別にすぐすぐ見なくてもいいと思うけどな。

 

「...あ、そうだ」

「今度はなんだ」

「いつかさ、私とやってよ、弾き語りデュエット。小さい頃以来デュエットとかあんまりしてこなかったし、海とやりたい」

 

 弾き語りデュエット。まぁ要するにセッション。

 瞬間、蘇る昨夜の記憶。

 

 あのクソアマ、いつか絶対ギャフンって言わせてやるからな!(強く出れるのは内心でだけ)

 

「ま、いいよ。今度な」

「うん、約束」

 

 そこからもお互い、他愛のない話をする。

 最近ハマってるバンドとか、冬休み明けの実力テストがヤバそうとか、牛込さんの姉でありグリグリのギタボの人が卒業後は海外に行くだとか、ちょっとベースにも興味があるとか。

 

 そんな話をしていると、とてもダンディな男の人が俺たちの席の横を横切った。

 まあ街を歩いていればイケメンや美女なんて結構な確率で目撃するもんだが、今回は少しばかり気になることがあった。

 

「...ここ、タバコ吸えるのか」

 

 そう。ダンディなイケおじから、タバコの匂いがしたのだ。

 

「海、タバコ吸いたいの?」

 

 意外そうにおたえが聞いてくる。

 でもこれあれだな。俺が喫煙者だと思ってんな。

 

「俺は別に吸わないけど、ちょっと憧れはあるよな。カッコいいし、ロックンロールって感じがする」

 

 ウチはお母さんもお父さんもタバコを吸う。

 姉ちゃんも一応喫煙者だ。まぁ、家以外では吸わないし、その時々の彼氏の趣向に合わせて辞めてる時もあるけど。

 今はフリーだし普通に吸ってるんじゃないかな。

 

「それはちょっと分かる。タバコ吸ってるバンドマン、ちょっとカッコいいよね」

「おたえはクール系だし、タバコ似合いそうだよなー」

「そう? 吸ってみようかな」

「はいはい、ちゃんと二十歳になったらな。俺も気になるし、その時も普通に話す仲だったら一緒に吸ってみるか?」

「すう!」

 

 おう、元気が良くて何よりだ。

 まぁ大学が同じか分かんないし、二十歳になった時も一緒にいるかは分かんないけどな。

 つーか軽率に約束したけど、二十歳になった時におたえに彼氏でもいようもんならヤバいな。相手によっては殺されるかもしれない。

 

 ま、あと四年先の話だ。

 その時の問題はその時に片付けよう。

 

「でもタバコって、一本吸うと寿命が五年縮むっていうよね」

「五分な。五年だったら今頃喫煙者は全滅してるよ」

 

 お母さんは随分なヘビースモーカーで、一日一箱は必ず吸っているらしい。

 えっと、一箱が二十本だから、一ヶ月だと六百本で、一年だと七千二百本。かけることの五分で、三万六千。わって六十の六百時間。さらに二十四時間でわって...えと、...二十五日か。

 

 え、お母さん毎年二十五日も寿命縮んでんの? エグ。

 

「タバコっていくらくらいするんだっけ? 高いっていうのは聞いたことあるんだけど」

「物にもよるけど、お母さんが吸ってるやつは一箱で五百四十円らしい」

「高いような...そうでもないような...」

 

 まあタバコなんてこれから死ぬほど値上げされていくだろうからな。

 俺たちが吸える歳になった頃には一箱千円とかいっててもおかしくはない。

 

 まあ破産しない程度に楽しめ、ってこったな。

 

 てか今ふと思ったけど、俺ら制服着てるじゃん。

 タバコの話とかしてて補導されねぇかな(ビビり)

 補導はまだしも、氷川さんとかに聞かれたら色々面倒そうだな〜(フラグ)

 

「高校生がタバコタバコと、一体どういうつもりですか!」

 

 早いよねぇ。回収がねぇ。

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

「落ち着きましたか? 氷川さん」

「ええ、まぁ」

「どうぞ紗夜さん、粗茶です」

「ありがとう花園さん。...粗茶?」

 

 

 さて、突如として現れた風紀戦隊ヒカレンジャー、隊長の氷川紗夜さん。

 俺らと同じくハードロックカフェに興味があり、俺らとは違いきちんと一度帰宅して着替えてからここまで来たらしい。

 

 そんで、ちょうど入店してきて俺らを見つけ、一声かけるか悩んでいたところで、さっきのタバコ発言だ。

 さらに都合良く、「二十歳になってから」の部分だけ聞こえなかったらしい。どういう耳してんだ。スタジオの入りすぎで耳がイカれたか?

 

 

「はぁ...喫煙はあまり褒められた行為ではありませんが、国で定められた年齢制限をクリアしてからであれば、それは自己責任です。さすがにそこまでうるさくは言いません」

 

 おたえに渡された粗茶(ウーロン茶)を啜りながら、氷川さんは一息つく。

 

「ま、勘違いとはいえ、俺らの非行を必死に止めようとしてくれたのは感謝します。そういう、きちんと注意してくれる人って貴重ですからね」

 

 まあ、店のど真ん中で、怒りで顔を真っ赤にしながらタバコの危険性を説かれた時はどうしようかと思ったが。

 

 この話は一旦置いておこう。

 楽しい話でもないしな。

 それよりだ。

 

「氷川さんもハードロックカフェに興味あったんですね。ハードロック、好きなんですか?」

「ええ、好きよ」

 

 意外だ。

 まぁ氷川さんの場合、ギターやってバンドにも参加してて、ってことがもう意外だからなぁ。

 

「意外ですか?」

「まぁ、正直」

 

 おたえも頷いてる。

 

「ちなみに、好きなバンドは?」

「そうですね...あまり面白くないかもしれませんが、Nir〇anaが好きです」

 

 最高じゃないか!

 

「面白くないことはないと思いますけどね。最高じゃないですか、Nirv〇na」

 

 有名どころを好きというのがニワカっぽいという風潮、ダメだと思います。

 というか良いものだから有名になるんだし、良いものは好きになるからな。

 巷ではワン〇クが好きって言ってるラウド好きはニワカ、みたいに言われてるみたいだけどな。いいだろ、ワ〇オク。かっこいいじゃん。

 

「俺はB’〇が好きです」

「私はジミ〇ンかな」

 

「意外ですね。花園さんはともかく、関口くんはもっとコアなバンドが好きなんだと思っていたわ」

「まぁそっすね。ほかにも好きなバンドはたくさんありますけど、あえて一番を挙げるならB’〇かなって」

 

 B’〇は俺が一番最初に聴いたハードロックだ。

 まあ日本人ならそういう人が多いんじゃないかな。世界的に見たら、まあ無名とまではいかないだろうが、有名じゃないだろうけど。

 

 国内じゃ評価が高いが、一部、というか自称・音楽評論家達からは不評らしいな。なんでも彼らにとっては松本さんのギターは下手らしい。

 意味が分かんないよな。あれが下手だったら何が上手いんだ。

 

「ま、好きは人それぞれ。有名だろうがニッチだろうが、自分が好きなものを堂々と好きって言うのが一番ですよ」

 

 結局、自分の好みなんて他人に左右されるもんじゃない。

 むしろ、他人の評価を気にして自分の好きなものを決めてるやつの方がダサい。もっと自分に芯を持てよ。

 

 

 

 この後、ギタリスト三人で各々好きなギターソロを発表し合うという超絶楽しい空間が広がった。

 やっぱり音楽は偉大だ。音を摂取するだけでストレスからも解放される。

 

 

 一時間ほど話し、そろそろ帰ろうかと席を立った。

 

 外は予報通り、雪が降ってきている。

 

「うわ、降ってんなぁ」

「海って雪嫌いなの?」

「雪っつーか寒いのがちょっとな」

 

 寒いと指動かしにくくなるし。

 ギター弾くのすら辛くなってくるからなぁ。

 

「寒い日の朝にランニングするのって空気が澄んでていいよね」

「人が寒いの苦手つってんのに同意を求めんな」

 

 マイペースすぎるだろ。

 いや、空気が澄んでるってのは分かるけど。

 

「花園さんはランニングをしているの?」

「はい。朝はランニング、夜は素振りをしてます」

「野球部か?」

「? 違うよ?」

 

 小首を傾げるな。

 

「素振りって何をしているんですか?」

「ストローク素振りです。イメージトレーニング」

「いや弾けよ、そこまでするなら」

 

 相変わらず分からん奴だな。

 

 

 こんな調子で会話を続けながら同じ電車に揺られ、途中で俺だけ降りる。

 さようならと二人に手を振り、乗り換えの為にホームを移動した。

 

 

 

 始業式の放課後。

 最初はしぶっていた寄り道だが、今は来て良かったなと心から思う。それくらい楽しかった。

 

 明日は土曜日だが朝からバイトだ。

 頑張る英気を十分に養い、俺は軽い足取りで家に帰った。

 

 

 

 ピロン(LINE通知音)

 

 ん?

 

 

 Yuta『来週ライブあるんだろ?』

 Yuta『さすがにそろそろ練習始めっか』

 

 

 ライブ?

 

 

 誠『そうだなー』

 誠『何やる?』

 

 

 ライブ...ライブ...

 ああ! 年末ライブの打ち上げでまりなさんに言われたやつか。

 え、でもあれって三百時間くらい余裕あったよな? 来週?

 

 

 Yuta『新曲作るか?』

 Yuta『昨日関口のスレ見てたんだけど、面白いこと書いてあってさ』

 

 

 俺のスレって何。

 

 

 Yuta『歌詞、英語にしてデスボっとけばいけんじゃね? って』

 

 誠『そ れ だ !』

 誠『考えたやつ天才か?』

 

 Yuta『んじゃ明日その方向で新曲考えてみっか』

 Yuta『関口もそれでいいよな?』

 

 

 何も分からん(脳死)

 え、もっと余裕あると思ってたライブがもう来週で? 俺のスレが立ってて? 新曲作るの?

 何も分からん(逃避)

 

 

 Kai『あ、うん』

 Kai『いいよ』

 

 

 ...明日から寝られっかなぁ、俺。

 

 

 

 

 

 




今までナイショにしてきましたが、作者は音楽が大好きです。



〜希(海くんの姉)による戯言〜
え? タバコは体に悪い? バッカねーあんた。いい? タバコ1箱で5百円以上かかるけど、そのうち8割は税金なのよ? つまり、ヘビースモーカーになればなるほど高額納税者ってワケ。そんでもって早くこの世とおさらばするんだから、国にとっちゃ万々歳よ。
つまり、喫煙者ってのは国に貢献してるの。分かった?


※未成年者の喫煙は犯罪です。絶対にやめましょう。
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