ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
「高速クロマチックからの多スライドしてハーモニクスからの開放弦だぁあ!!!!」
「マシンガンツーバスを喰らえ! もっと熱くなれよ!!!!」
「あー!! 大きい音しゅきなのぉおおお!!!!」
こんなノリで新曲が出来た日曜日の夜。
歌詞はどこぞの俺スレで提唱されたらしい「ダサかったら英語にしてシャウトやデスボで歌えばいいじゃない」を採用して意味の分からないモノが出来上がった。
俺スレってなんだよ(微ギレ)
そして月曜日の昼休み。
一晩明けて冷静になった頭で、出来上がった新曲の音源を聴く。
「...何やってんのコレ?」
「もう一回同じこと叩けって言われても俺無理だな」
「そもそも昨日の記憶が『音を喰った』以外にない」
結論、誰も理解できていなかった。
深夜テンションみたいな感じで作ったからな。
というわけで、放課後。
巴に土下座してバイトのシフトを代わってもらい、スタジオに入った。
カオスすぎた曲を聴き、つめていく。
「ギターソロ、五十秒くらい入れるか?」
「俺の負担重すぎだろ」
「はい! ベースソロやりたい!」
「んじゃあギターソロ三十秒のベースソロ二十秒な」
「どうして五十嵐は五十秒に拘るの?」
「俺の名を呼んでみろ」
「五十嵐?」
「そういうことさ」
「意味が分からん」
「まずはドラムソロから入るか」
「まぁいいんじゃね。カッコイイし」
「なぁ。俺デスボ出したいんだけど」
「おっ、いい傾向だな須田。よし、デスボイスの極意を教えよう。まずは悪魔を召喚します」
「関口のその教え方なんなの? それじゃさすがの須田も...」
「こうか? ヴォオアォォオオォア!!!!」
「なんで出せるんだよお前はよ」
「デストロォォオオイ!!!! デストロォォオオイ!!!!」(須田スクリーム)
「■■■■■■■■■ーッ!!!」(関口グロウル)
「なんなんだお前ら」
「おいおい五十嵐。茶なんてシバいてる場合じゃあないぜ。お前も須田を見習ってデスヴォイス(激うま流暢発音)を出すんだよ!」
「出さねぇよ」
「なんのためにスタジオ入ってると思ってんだよ!」
「曲作るためだろ」
「も゙っ゙どあ゙づぐな゙れ゙よ゙ぉ゙お゙お゙お゙!!!!!」(中音域シャウト)
「須田お前うるせぇ」
「...」シュン
「あ、おいコラ五十嵐! 須田が落ち込んじゃっただろ! 謝れ! 須田に謝れ!」
「えぇ...」
「ほれ、やってみろ」
「できねぇよ。悪魔を降ろせってマジなんなんだ。もっとちゃんと教えろ」
「須田はできただろ!」
「あんなバケモンと一緒にすんな!」
「へへっ。そんなに褒めるなよ、照れるぞ」
「ウザい」
「いいからさっさとやれ五十嵐。スタジオの残り時間、あと一時間しかないぞ」
「ちっくしょ......! What the fuck !!!! Holy shit !!!!」(やっつけ五十嵐エセシャウト)
「やだ、聞きました奥さん? 聖なるクソですってよ?」
「やーねー、最近の若い子は。急いで練習しなきゃいけないって時になんて汚い言葉を吐いてるんでざんしょ」
「〇゙ね゙ゴラ゙ぁ゙ア゙ァ゙あ゙ァァ゙あ゙あ゙!!!!!!」
「おお! いい感じだぞ五十嵐! それがシャウトだ! その調子だ!」
「言ってる場合か! 逃げんぞバカグチ! うわぁああ!! ぺ、ペダルで殴り掛かるのは反則だろ!!!!!」
須田 は デスボ を 覚えた !
五十嵐 は シャウト を 覚えた !
新曲 は 完成 しなかった !
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
五十嵐に半殺しにされかけた翌朝。
一晩経って気持ちが落ち着いたっぽい五十嵐と爽やかに挨拶を交わし、油断したところを背後から殴られた後。
「今日はどうするよ。スタジオ入るか?」
朝のHR前の時間。
俺と同じく背後から殴られたらしい須田が言ってくる。
「ライブ本番まであと三日とかだろ? 入っておきたいよな」
「そうだな。とりあえず新曲くらいは今日中に完成させておきたい」
五十嵐の意見に同意を示す。
新曲が完成すれば、俺らCapliberteのオリジナル曲も三曲になる。そうなれば、オリジナル曲だけでライブに出ることも可能だろう。
俺が同意したことに、五十嵐が頷く。
「よし。んじゃ入るか。サ〇サイの練習もしなきゃだしな。今回は曲、何にする?」
まだサイ〇イやんの?
オリジナル曲三曲もあるのに?
なんで?
「俺『天下〇品のテーマ』がいい〜。シンセもあんま目立ってないしいけそうじゃね?」
須田もなんで乗り気なんだ?
まぁ面白そうだからいいけど(コミックバンド)
てか天下〇品のテーマってどんな曲だったっけ。
確認のため、YouTubeで検索してみる。
MVもあるけど...お、ライブ映像があるな。こっちの方がいいや。音源を聴いたところで、存在しない二本目のギターに翻弄されるだけだからな。
再生ボタンを押し、広告をスキップ。
『てれれーれれ、てれれれれれー』
「チャルメラじゃねーか」
天下〇品なんじゃないの???
いやラーメンなことに違いはないけどさ。
ドラムから入り、聴きなれた音がする。
うーん...まぁ簡単っちゃ簡単か。ユニ〇ンとかと比べちゃうとやっぱりな。
暫く聴き、間奏に入った。
違う曲始まったんか? ってくらい色が変わったな。遊びポイントか。
すると、ゆ〇るん(キーボード)が突然天下〇品の旗を掲げて前に出てきた。
『みんな! 天下〇品のコッテリ、食べてるかぁ〜!?』
「ホル〇ンか???」
もうね、コッテリって聴くだけで思い出しちゃうよね。マキシマム〇ホルモン。
そこからラップも始まるし...何だこの曲、楽しいな。
「確かにキーボはなくても気にならない曲だな。し、ギター部分はもう覚えたしすぐ弾けるぞ。歌詞は昼休みにでも覚えとく」
「たった一回聴いただけで覚えたの?」
「人のことバケモノだキチガイだ言ってくるけど、お前も大概だよな」
失礼な。須田ほどじゃねぇよ。
けどまぁ、この一年でコピーの速度だけは異様に早くなったってのは実感がある。そうしないとどうしようもない一年だったからな。
「とりあえず、サイ〇イのこの曲と、今作ってる新曲。あとは既存国家の三曲でいくか」
「さんせー」
「異議なーし」
五十嵐の言葉に二人で賛同する。
クリスマスの歌はクリスマスにやるべきだよな。それか真夏。
「とりあえずスタ練やるか。よーし、ツグるぞー!」
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
というわけで、ライブ当日。
本番の二時間ほど前。
「やっほー、海! 観に来たよ!」
そう言って楽屋(待機所)に現れたのは、今日も今日とてパイスラをキメるひまりだ。
「よー、ひまり」
お、須田が座った。
そろそろ耐性できてもいい頃だと思うんだけどなぁ。
「お、ひまりちゃんいらっしゃい。せんべいとあったかいお茶あるよ」
「わーい、ありがとー!」
五十嵐は大人()の余裕を見せている。
彼女がいるやつだ。経験値が違う。
殴っちゃおっかな(嫉妬)
演者でもないのに楽屋の菓子を食べてお茶を飲むひまりの食い意地に少しだけ呆れつつ、質問してみる。
「ひまり、今日一人? ほかは?」
「Roseliaとポピパのみんなは外にいるよ〜。巴とつぐも! モカは究極のパン探しの旅に行っちゃって、蘭は家の用事があるんだって」
「ほーん」
蘭はともかくモカのやつは何なんだ。
「今日の人達、みんな知らないバンドらしいけど…海、大丈夫? ちゃんと話せてる?」
「バカにしてんのか」
本気で心配そうに聞いてくるひまり。
極めて心外だ。俺だって初見の人と話すくらいできるわい。…音楽の話なら(内弁慶)
ひまりの言う通り、今日のライブ、顔馴染みのバンドは一組もいない。
RoseliaやAftergrowを始め、いつものメンバーは参加を断ったそうだ。
まぁそりゃそうだわな。こんな頻度でライブなんかしてられっかよ。
ならアホなスケジュールでライブしてる俺らは何なんだっていう話は一旦置いといて。
じゃあ今回の参加バンドはどんな人達かというと、まりなさんがかき集めてきた「重めの音楽を好むバンド」の皆々様だ。
その気遣いに感謝…ッ! 圧倒的…感謝ッ…!
まぁCiRCLEでやるだけあって全部ガールズバンドではあったんだが、女性だからと侮るなかれ。
リハを見た感じ、ゴリゴリのデスボを出す人こそいなかったものの、メタルやハードロックをリスペクトしていると感じられる音楽をやっていた。
リフとねぇ...
試しに好きなバンドを聞いてみたところ、ドラゴ〇フォースやHELL〇WEEN、Rhapsody 〇f Fireなど、出てくる出てくるメタルバンド名。
つーかみんなパワーメタル好きなの?
あと、一番かっこいいなって思ったバンドのボーカルの人が好きって言ってたFR〇ZEN CROWNとかいうイタリアのバンド。
俺も知らなかったので聴いてみたら、なんとまぁ素晴らしい、悶絶するほどのメロディックデスメタル。いや、パワーになるのか? その辺のジャンルはあんまり知らないけど、““良い””っていうのは分かる。北欧メタルってイイよね。
「えー? 海ってあんまり人と話すの得意じゃないじゃん。特に初対面の人とか」
「はっ、いつの話をしてんだよひまり。俺は成長する男だぜ? おい五十嵐、俺の完璧なファーストコンタクトをこいつに教えてやってくれよ」
メタラー相手にこの俺が臆するわけないだろ。
中々巡り会えない同胞だぞ。逃がしてたまるか。
「関口のやつ、ちょーどもってたよ。オタクくんさぁ...って俺思ったもん」
「ほらやっぱり!」
「五十嵐さん!?」
そんな!?
俺のパーフェクトコミュニケーションをテメェ!
《関口海のパーフェクトコミュニケーション(妄想ver.)》
関口「ギター、めちゃくちゃ上手いですね!」
S子「え、ほんとですか〜? ありがとうございますっ!」
関口「音作りもすっげぇ良かったっす!
S子「Electro-Harmonixのmetal muffってやつなんですけど、これ歪み具合がすっごい強烈で! それに3バンドイコライザー積んでて、低音が─────」
《関口海のパーフェクトコミュニケーション(現実)》
関口「あっ、その、あれっす、えと...ギター、めちゃくちゃ上手ですね...」
S子「え? あ、はい。ありがとうございます...?」
関口「音もすっげぇ良くて...あ、エフェクターとかって、あの、何使ってるんすか?」
S子「え? あー、Electro-Harmonixのmetal muffってやつです。歪み具合がすごく強烈で、あと3バンドEQっていうの積んでて、低音調整とか中音域のカットとか、めちゃ便利でー」
関口「え、めっちゃいいっすねそれ」
S子「………。あっ、はい。そうですね」
「あんなキョドってる関口、俺初めてみた。自分から話しかけたくせにアレとか」
「海ってそういうとこあるからね〜。妙に緊張しぃで。特に女の子相手だとね。あ、でもやるときはすっごく頼もしいんだよ? 普段からじゃ考えられないコミュ力発揮するし」
そ、そんなに酷かったか...?
自分では「よし、楽しく話せたな」って感じだったんだけど...。
「あ、でもあのボーカルの人とは上手く話せてたな。あっちも楽しそうだったし、いい雰囲気だった。なんか飯食いに行く約束してたよ」
「………へぇ?」
「ひまりさん!?」
こっっっっわ。
何今の、殺気? 姉ちゃんがキレた時のソレじゃんよ...。
こういう時の対処法、俺知ってるんだ。
とりあえず謝っとけ。こうなった女に逆らうのは得策じゃない。
ということでプライドなんて犬のエサにしてDO☆GE☆ZAをキメていたところを例のメタラーボーカリストに見られ、
「えっ、あっ、その...わ、私、関口くんに彼女さんがいるとか知らなくて...! その、ごめんなさい! 略奪とかそういう趣味はないんですぅ〜!」
などと言われるという事件(?)が発生するが、それはまた別のお話。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「まぁそう泣くなって関口」
「泣いてねぇよ」
なぜか成し遂げ顔のひまりが楽屋を去った後。
俺は、男の子の時間(意味深)から復活した須田に、謎の慰めを受けていた。
いや意味が分からん。
まぁ確かに、メタラーボーカリストさんとのお食事会がご破算になったことは残念だ。
俺の知らないメタルバンドの名前を出してくる人なんて、今までは姉ちゃんくらいだった。
メタルに関して深い話ができる人なんて、それこそ姉ちゃん以外にいたことないからな。いろいろ話せるかも、という期待はあった。
おたえ? あいつはロックンローラーで、メタラーとはまた少し違うから。あいつと音楽の話してるのもめちゃくちゃ楽しいんだけど、メタルの深いとこまでは話せないからなぁ。
加えてメタラーボーカリストさんは年上美人(大学三年生らしい)だったので、まぁ残念な気持ちも非常に強い。
けど泣いてはいねぇよ。
まあ、それはともかくだ。
「ちょっと無茶言うけど、今から一曲増やさね?」
本番まであと一時間と少し。
こんなタイミングで曲数を増やすなんて正気の沙汰じゃないが、どうしてももう一曲やりたくなった。
元々この短期間でライブやること自体正気じゃないからな。狂ってるのは今に始まったことじゃない。
「んー...曲による。五十嵐は?」
「俺も曲によるな」
即拒否してこない辺り、やっぱこいつらも狂ってるんだよなぁ。
「HELL〇WEENのKeeper 〇f the Seven Keysってやつなんだけど」
「アホか?」
「?」
五十嵐は明確に俺を蔑む目を、須田はわけがわかっていないように首を傾げる。
むぅ...やっぱりしんどいか。
「なぁ五十嵐、そのキーパーオブ...なんとかっての、そんなに難しい曲なん?」
「あー...難易度も低くないけど...その曲な? 十三分あるんだ」
「十三分」
長いよねぇ。
でもまあメタル界隈じゃよくある事だぞ。
「んじゃあ同じアルバムに入ってるEagle 〇ly Freeとかどうよ。こっちは五分くらいの曲なんだけど」
ここで仕掛ける。
以前俺がまりなさんに仕掛けられた心理トリック。そう、『Door in the face』である!!!
十三分という長さから五分程度の曲を提示するというこの手法。俺が騙されたんだ、こいつらが騙されねぇわけがねぇ!!(確信)
「まぁ...五分もないんなら...?」
「短いよな〜」
計 画 通 り 。
チョロ過ぎてこいつらの将来が心配になるぜ(棚上げ)
「でもよ〜関口。HELL〇WEENってあのHELL〇WEENだろ? お前がたまに、俺や五十嵐に布教してくる」
「ん? ああ。素直に聴いてくれたのは五十嵐だけだったけどな」
「おめェが無理やり聴かせたんだろうがよ。美穂(彼女)まで巻き込んで。つーかあいつ、お前の布教のせいで最近ずっとメロデス聴いてんだぞ。どうしてくれる」
え、まじ?
澤田さんメロデス聴いてんの?
何それ、めちゃくちゃお話したい。
「まぁ今は五十嵐の彼女はどうでもよくて」
「美穂の話はどうでもよくねぇだろ」
「一旦置いといて」
「まぁ...それなら...」
ホントに大丈夫かコイツ?
「それでさ。関口お前、言ってたじゃん?」
「何を」
「HELL〇WEENはツインリードが美しい、って」
「ああ、言ったな。反論があるなら聞くが?」
完全論破してやんよ。
「いや別に反論とかじゃない...あいや、まぁ反論っちゃ反論になるんだが」
なんだ?
歯切れの悪い。
「俺らスリピだしギター関口しないねぇけど、お前それでいいの?」
「! ...へへっ。さすがだぜ、ブラザァ.....」
「なんだお前」
五十嵐の蔑むような目は無視して、今は須田だ。
こいつは素晴らしい。最も危惧すべき問題をしっかり分かっている。
いつもならギターが二本鳴っていようが俺が強引に弾き倒していたが、今回はそうはいかない。
いや、やろうと思えば出来なくもないんだろうが、俺がそれを許さない。
HELL〇WEENはツインリードでないといけない。
「まぁそんなに心配そうな顔すんなよ須田。対処法はもう考えてある」
「いや、別に心配とかはしてねぇけど」
と、いうわけで。
「こちらギタリスト、牛込ゆりさんです」
「りみの姉のゆりでーす! みんなよろしく〜」
お、須田がひっくり返った。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「おいバカ口。展開が急すぎて俺はついていけてないんだが」
須田に胸ぐらを掴まれる勢いで詰め寄られる。
やめろ、熱いんだよ。ここ結構暖房効いてんだから。
「いやな? この前の年末ライブでLINE交換してて。そんでついさっきHELL〇WEENって知ってますかって聞いたら、なんとEagle 〇ly Freeを今聴いてるって言うじゃあーりませんか」
「あーりませんか、じゃねぇんだよ」
「なんでこいつはコミュ障のくせにコミュ力高いんだ...」
おい五十嵐。俺はコミュ障じゃない。ちょっと初対面の人と話すのが苦手なだけだ。
「海くんから聞いたけど、HELL〇WEENやるんだって? しかも今から覚えるとか! りみに聞いてたけど、キミたち無茶が好きだね〜」
「いえ、決して好きなわけではないんです。ドMなのは関口と五十嵐だけです。信じてくださいお義姉さん」
こいつ今ゆりさんのこと「お義姉さん」つったぞ。
「あはは。まぁ性癖の話は置いといて」
置いとくだけなのか...。
「ほんとに大丈夫? 私は前に練習したことあるから弾けると思うけど」
練習したことあるのか...。
まぁ俺もちょっと練習したことあるし、五十嵐は聴いたことあるっぽいし、俺らは大丈夫だろう。問題は曲を聴いたがことないらしい須田だな。ベースソロとかあるし。
「メタル系はベース単純なこと多いし大丈夫だとは思うですけど...耳コピかぁ。間に合うかな」
「それならネットにTAB譜落ちてると思うよ」
さすがにビビる須田に、ゆりさんは自分のスマホの画面を見せる。
「えっとね、このsongsterrってサイトに...あ、ほら。ベースTAB譜あったよ」
「マジですか! めっちゃ助かります! ありがとうございますお義姉さん!」
「さっきからその“お義姉さん”っていうの何?」
「気にしないでください」
へぇ、そんなサイトあるのか。
えと...そんぐ.....お、これかな。
スマホでサイトを開き、中身を確認する。
様々な曲が入っているようで、トップページの一番上に出てきたスコアはメタ〇カのMaster 〇f Puppetsだった。
それを開き、TAB譜を見てみる。
おー。パート毎にTAB譜が分かれてるのか。カラオケ音源も一緒に流れるし...っておい、ギターが四本もあるわけないだろいい加減にしろ! ......え、ないよね?(不安)
ま、まぁあれだ。
TAB譜があれば、須田なら三十分で仕上げてくるだろう。
その後CiRCLEの空きスタジオで十分くらい合わせをすれば大丈夫だ。
“視”えたな、“
ちなみにだが、俺らCapliberteの出番は最後、このライブのトリだ。
カプリ初、そして俺の人生初のトリを任された。
いつもは周りに遠慮して辞退していたが、今日のライブはHR/HMのライブ。俺たちがトリを飾ってもなんら不自然はない。よって辞退する理由もなく、責任を持って務めさせていただく所存だ。
それ故の一曲追加でもある。
どのバンドも、主に北欧メタルを起源に持っていそうな演奏をぶちかましてくる。
となれば、その北欧メタルの先駆者、パワーメタルの教科書みたいな音楽をしているHELL〇WEENのコピーが盛り上がらないわけがない。
「そんじゃあ力 is powerってことで、HELL〇WEENコピー頑張りましょう!」
「「「おー!」」」
これを聞いていた別のバンドの人らに「あいつら、マジ変態じゃん」とキラキラした目で大絶賛されるのだが、これもまた別のお話。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
なんやかんやあって、ライブは最高潮。
猛者共のヘドバンで会場が熱気に包まれる中、俺たちCapliberteの出番がくる。
「それじゃあトリ、カマしていってね!」
例のメタラーボーカリストからハイタッチを求められ、ちょっと気恥しい思いもありながらそれに応える。
薄暗いステージ。
PAの人らが準備してくれた楽器が佇むそこに、SEに合わせて登場した。
まずは五十嵐。
バンドマンにあるまじき爽やかさに、前列の何人かが若干どよめく。
真冬だというのに半袖のTシャツを着ているため、五十嵐の見事な腕が晒されて、立派な胸筋が浮き出ているからか。数名の女性オーディエンスからちょっとした黄色い声が上がった。あと何故か突然バク宙を決めやがってどよめきも起こった。
澤田さんはどんな気持ちなんだろうな。
まぁ五十嵐が浮気するなんざ夢にも思っていないだろうし、自慢の彼氏を持って誇らしい気持ちなんだろうか。それともやっぱり、少しばかり嫉妬というか、そういう黒い感情が出てくるものなのだろうか。
続いて須田。
こいつもこいつでバンドマンにあるまじき明るさを持っている。
人懐っこい笑顔で観客に手を振りつつ、自身の立ち位置にまで軽快に歩いていった。
最初のライブ、文化祭で緊張に震えていたことが嘘のようだ。この一年...いや、半年くらいか。そんな短期間でずいぶんと場馴れしたもんだと感心する。立ち姿も随分と様になっている。
才能だけじゃない。人一倍練習もしているからこそ、全身から『自信』が溢れ出ていた。
そして、俺。
五十嵐のような爽やかさや筋肉も、須田のような明るい人懐っこさもない俺は、ただ淡々とステージに上がった。
それでもパスパレとの絡みや人気アーティストのサポートで武道館ライブを経験したことがあるからか、観客からは少なくない声が上がる。
素直に嬉しい。そして恥ずかしい。
人に注目されるのってそんなに得意じゃないんだよな。
あ、ひまりたちが奥の壁際にいる。めっちゃ手振ってるな。ちょっと振り返しとこ。
Roseliaとポピパのめんつもその辺に固まってるな。まぁさすがに、狂ったようにヘドバンする前列には混ざれないか。
ギターを構え、五十嵐と須田を見る。
二人とも準備は万端なようで、いつでも演れるぞとこちらを見ていた。
「うし。やるか」
観客側には聞こえないくらいの声でそう言う。
頷いた五十嵐が、スティックで四カウントを刻んだ。
始まりは、『既存国家の転覆からの迅速な建国』。
序章はより遅く、より重く。ギターもこれでもかってくらいに歪ませる。
暫くすると、メロディアスな曲調へ移行した。
多少低音をカットし、中域から高音のリフで押す。北欧らしく、荘厳で雄大。叙情的なメロディを全面に出し、聴く者を惹き込む。
一度ペースを落としたあと、一気に速度を上げた。
激しく苦しい闘争を表現するように、長く、重々しく、息の詰まるようなブレイク。
からの、爽快な、音像がはっきりしたギターソロ。オクターバーを使い、ハモりを入れる。
これだけで音の厚み、表現の幅が全く違う。まぁ個人的にギターソロのハモリが好きってこともあるけど。
ソロが終わり、曲は終息に向かう。
またも速度を落とし、しかし重くなりすぎず、凱旋のような煌びやかなイメージ。
音楽理論なんてない、俺たちのやりたい音楽。
きっと聴く人が聴けば呆れてしまうような構成を、俺たちは満足して
最後の音をしっかりと刻み、集中で止まっていた呼吸を再開した。
と同時、大きな歓声が上がる。
───ああ。なんて気持ちの良い。
今までは、ここまで盛り上がることなんてなかった。
それもそうだ。そもそも、客が求める音楽と俺たちの奏でる音楽は全く違っていたのだから。
異質な世界観と、自分でいうのも何だが、俺たちのテクニックで観客を黙らせてきた今までとは大きく違う。
沸き上がる観客。襲い来る熱気。
その全てが、初めて見る、初めて感じる光景だった。
「ははっ。最高だな、おい」
五十嵐のそんな声が聞こえる。
全くだ。こんなの、俺は知らなかった。
今までのライブも十分に楽しかったけど、ここまで変わるものなのか。
オーディエンスの趣味趣向が今までと違う、というのもあるし、何より、ここがライブの最高点、トリという位置だからということが大きいだろう。
本当に、最高だ。
『初めましての方は初めまして。お久しぶりの人はお久しぶりです。Capliberteです』
歓声が響く。
あっちはマイクなんて通してないというのに、腹の底まで届くような大歓声。
『俺ら、ライブのトリ務めるのって初めてなんですけど、これめちゃくちゃいいですね。控えめに言っても最高です』
パスパレやサポートで行った武道館のライブではこれ以上の大音量を浴びたが、それの百倍は気持ちがいい。やっぱり、自分のバンドだと全く違う。
『今日
これは少し嘘が入る。
確かに、ほかのバンドも上手かった。
だが、俺たちが一番かっこいい。Capliberteが一番凄い。
俺たちこそが一番だと、俺はそう確信している。
『はい、じゃあ次の曲。サイ〇イの「天下〇品のテーマ」やりまーす』
それはもう、ありえないくらい盛り上がった。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
サイ〇イも終わり、頬を伝う汗をタオルで拭い、水を飲む。
『いやー、皆さんノリが良くて大好きです』
HR/HMを聴きに来たはずであろう観客がサイ〇イでここまで盛り上がってくれるとは。
まぁみんなヘドバンしてて世界観はぐっちゃぐちゃだったけど、楽しければOKだ。
『えー...まぁ話すこともそんなにないんで、次の曲行きます。新曲っす。歌詞ありっす』
おおー!!
と観客が沸く。
『それでは聴いてください。「革命前夜にランナウェイ ~お国に逆らうもんじゃない~」』
おおぉ!?
と観客がどよめく。
ドラムから入り、四小節後にしっとりとしたコードを入れていく。加えて、ここは静かに歌う。
決起前夜、嵐の前の静けさをイメージした譜だ。
同じフレーズを三回繰り返したところで、一度音を消す。
数秒の空白の後、突如解放される、重い音。
まだまだスローペースだが、徐々に徐々に速度を帯びていく。
一定の速度に達すると同時、また一度全ての音を消し、そして咆哮。
そこからは速度が命だと言わんばかりのツーバスと、叙情的でメロディアスなミドル気味のギターを入れていく。
これは完全に俺の個人的な主張だが、メタルにおいて、ボーカルは歌手ではない。
歌うのはリードギターだ。主旋律はギターが奏で、デスボイスはその下地。
メタルにおいて、声は楽器になるし、楽器は声になる。
まぁ要するに、皆すべからく“音”であるということだ(?)
サビに入る。
ここからは俺だけでなく、須田も声を出し始めた。
一フレーズずつ分けて声を出し、最後は一緒に大咆哮。もうめちゃくちゃだが、それがいい。
ギターソロをかき鳴らし、締めにチョーキングをカマしてからシャウトする。
そこから更に激しく、荒々しく、Cメロを走り抜け、終焉。
全体的にメロデスのような芳醇な香りと、パワーメタルのような男臭さを内包した、いわゆるメロパワ系の曲だ。
革命前夜にトンズラこいた男の話を表現した曲だが、そこには彼なりの正義があり、雄々しさを全面に出した曲である。
うーん、我ながらなんと
けどやっぱりメタルをやるならギターがもう一本欲しいし、ピンボがいれば万々歳。キーボードがいても面白い。
そのうち募集でもしてみるか。
『次、ラストっす。例の如く話すこととかないんでさっさと始めようと思うんですが、その前に』
一拍おいてから、ステージの袖へ目線と手を向ける。
『サポートで呼んだ、Glitter*Greenの牛込ゆりさんです』
一部から驚きの声が上がった。
普段からCiRCLEのライブに顔を出している人らは、ゆりさんのことをよく知っている。
普段の彼女を知っていれば、今この場に出てくるのは場違いもいいところだと感じるだろう。だから驚いている。見ろ、あのクールビューティRoseliaの皆さんでさえ口あんぐり開けてるぞ。
『お呼ばれしました、グリグリのギターボーカル、牛込ゆりです!』
堂々と自己紹介をするゆりさん。
さすがに慣れてるな。
『ラストは、きっとみんな大好きのあのバンドのコピーなんですけど、ギターが二本欲しかったので呼びました。来てくれてありがとうございます』
『本当に感謝してよね! 普通、本番の一時間前に突然呼び出されて了承する人なんていないんだから!』
『マジありがとうございます』
よく考えたら嫌な後輩だな、俺。
『えー、これ以上延ばすのもアレなんで、ラスト始めます。ラストはこの曲』
一旦溜め、はっきりとした声で曲名を告げる。
『HELL〇WEENで、「Eagle 〇ly Free」』
曲名を聞いた観客たちの間で狂乱が巻き起こる中、俺たちは演奏を始めた。
ジャーマンメタルの先駆者、メロスピの始祖。そんなHELL〇WEENの代表曲と言っても過言ではない、このEagle 〇ly Freeという曲。
かの有名なアルプス一万尺を彷彿とさせるメインリフから始まるこの曲の見どころ、もとい聴きどころは、なんと言っても楽器陣のソロだ。
ギターはもちろん、ベースとドラムのソロもある。
その間、脅威の一分間。
ギター→ギター→ベース→ギター→ドラムの順で織り成されるソロの嵐は圧巻の一言に尽きる。
ヘヴィメタルにしては随分とポップな曲だが、歌詞の内容は、現代社会に対する疑問や人間の本質について揶揄的に歌っている。まさにヘビィメタルだ。
加えて、メロディアスにスピード感がありながら見事に絡み合うツインギター、リズムを保ちながら歌い上げるように曲を支え盛り上げるベースライン、パワフルにバスドラを踏み鳴らすドラム。
それぞれの楽器の見せ場を持ちながら、一つの曲として完全に融合している。
メロディ、歌詞、曲の構成、演奏技術と全てにおいて非の打ち所が無く、まさに“完璧”な曲だといえる。
オラ、
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
HELL〇WEENコピーで演者観客両方から飛んでくる大絶賛を浴びた後。
アンコールの嵐を受け、二十分でX J〇panの紅を仕上げて演奏するなどした。
共演バンドの皆々様やオーディエンスが優しいメタラーでよかった。
一部にはいるからな、Xを歌謡メタルだとかそもそもメタルじゃねぇとか言って嫌悪してる人って。
歌謡メタルだろうがハードコア・パンクだろうが、カッコよけりゃそれでいいのにな。変なとこで争いたがる輩がいるもんだ。
まぁ何にしろ、次からはちゃんとアンコール用の曲も練習しとかないとな。
いっつも直前に急ピッチでコピーとかしてられるか。いや、自分らの曲をもっと作れば解決する話ではあるんだが。
「んじゃあ、お疲れ様でした〜」
いつもならライブ終わりにそのままCiRCLEで打ち上げ、っていう流れなんだが、今日はそうではない。
というのも、参加バンドのほとんど、というか俺らカプリ以外は全員大学生らしく、打ち上げは飲み屋でやるとのこと。
ということで、俺らはここで解散である。
別に飲み屋に行ってもいいんだが、酒飲めないのに酔っ払いに囲まれるの嫌だからなぁ。
一応、俺らに気を使って飲み屋以外にしようという話もあるにはあったんだけど、みんな本当に飲みたそうな顔してたからな。
レポートがあるとか行って二日酒を断った姉ちゃんと同じ目をしてたもん。さすがにこっちが遠慮した。
健全()な打ち上げはまた後日ということで、一足先にCiRCLEを出た次第である。
カプリベルテはクールに去るぜ。
「あーあ。酒、早く飲めるようになりてぇなぁ」
「それな。でも須田は弱そう」
「んだコラ五十嵐」
全然クールじゃなさそうだな。
とはいえ、なんとなく悲しいことも事実。「飲みに行く」って言うの、ちょっとした憧れもあるしな。
酒が似合う大人になりたい。姉ちゃんみたいな呑んべぇじゃなく、優雅に上品に酒を嗜める大人になりたい。
というか、実はもう酒は用意してある。
姉ちゃんに買ってきてもらったものだ。
と言っても、別に今すぐ飲むものじゃない。俺が二十歳になった瞬間に飲むためのものだ。
アルマニャック...なんとかっていう酒だ。
種類はよく分かんないけど、とりあえず俺の生まれ年のウイスキーを買って欲しいつったら買ってくれた。たまには優しい時もあるんだよな、姉ちゃん。
まあ酒の話は置いといて。
「これからどーする? 飯、食いに行くか?」
須田と五十嵐に向けて問いかける。
ライブが終わってハイ解散、ハイ帰宅では少し味気ない。
せめて
「──関口海さん」
CiRCLEを出てすぐ、ふと、俺を呼ぶ声が聞こえた。
聞いたことのない声だ。
声のする方へ目を向けてみれば、やはり見知らぬ人が立っていた。
ここらでは見ない制服を着て、ネコミミのヘッドホンを頭に付けた、小さな女の子。
「...俺?」
誰だか知らないが、この女の子は俺の名前を呼んだ。
フルネームっていうのがちょっと怖いが、まぁ俺も去年までは千聖さんのことフルネームで呼んでたしな。
プロ野球選手とか、世界的ギタリストとか、メディアを通して一方的に知っている相手をフルネームで呼ぶ。まぁあるあるなんじゃないだろうか。プロ野球選手や世界的ギタリストを引き合いに出すのは自分でもどうかとは思うが。
この子は俺を一方的に知っていて、わざわざ声をかけてきている。
と、いうことは。
「ああ、ファンの子?」
「違います」
ん〜、死んじゃおっかな〜(恥ずか死)
「まぁ、ファンといえばファンなのかもしれないけど」
なんだァ...? テメェ...
「こうして会うのは、はじめまして。何度も何度も連絡したのに、よくも無視し続けてくれたわね?」
「は?」
なんのこと.........あっ。
「心当たりはありまして? まあいいわ。それじゃあ改めまして、ご挨拶でも」
少しばかり不満を帯びた女の子は、不遜に笑ってみせる。
小さな体で目一杯ふんぞり返り、自信満々にこう言った。
「私はチュチュ。音楽プロデューサーをやっています。Capliberteの皆さん。この私が貴方たちをプロデュース致します。この大ガールズバンド時代に、私たちで終止符を打ちましょう」
亀更新は悪い文明。破壊したい。