ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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途中で


~文章~


となっている部分があるのですが、そこは私の自己満足で音楽(曲)の話をしているだけで読み飛ばしても全く問題がない部分です。音楽(曲)そのものの話、あるいは私個人の感想に興味がない方はテキトーに読み飛ばしてもらって大丈夫です。本当にただの感想なので。


昨日の敵は今日も敵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が彼を見つけたのは、半年ほど前。

 むしむしと暑い、夏の日だった。

 まぁ、私は空調の効いた部屋で過ごしていたから、夏の暑さなんて感じてはいなかったけれど。

 

 

 日本の殺人的な湿度をものともしない科学の力に守られながら、何も考えず、流れていくSNSのTLを眺めている途中。ふと、一つの動画が目に止まった。

 

 それは、とあるライブハウスの投稿した動画だった。

 そっちの界隈ではそこそこ有名で、「ガールズバンドの聖地」だなんて言われているらしいライブハウス。その閉業ライブの映像だそうだ。

 

 ライブハウスなんて、この世に掃いて捨てるほど存在する。有名だかなんだか知らないが、ライブハウスがたった一つ潰れるからといって、別段気に留めるようなことではない。ないのだが...

 

「...なんで『ガールズバンドの聖地』で男のバンドが出演してるのよ」

 

 その動画のサムネイルには、少しだけ、私の興味を引くものがあった。

 

 Twitterに貼ってあったURLからYouTubeにとんで、動画を見る。

 

 

 

 

 

 圧倒的。

 彼らの演奏を観て、そんな単語が頭に浮かんだ。

 

 

 有名なスリーピースのバンドの曲をコピーしているだけ。だが、そのクオリティが段違い。高校生としては頭一つ抜けている。

 

 ベースは、多少粗が目立つが、リズムキープはしっかりと出来ているし、要所は抑えている。ミスの仕方をみるに初心者のようだが、初心者がこのレベルの曲をコピーできている時点で才能の塊と言って良いだろう。

 

 ドラムは、とにかくパワーがすごい。かといって走りすぎることはなく、バンド全体を包んで引っ張っている感じ。ベースのミスをカバーするように調節したり、ギターと張り合うかのようにオカズを増やしたり。パワー型技巧派、などというある種完成された域にいる。

 

 そして、ギターボーカル。

 彼のギターテクニックは見事の一言に尽きる。スムーズで正確な指の動き。ミュートをしっかりとしているからだろう、音がビビることもなければ、余計な音も一切聴こえない。ドラムに挑発されるかのように本家よりも難しいアレンジも加えているが、それでも絶対に崩れなかった。

 歌も上手い。音程はもちろん、声の質や息継ぎのタイミングが良く、聴き手を惹き込む力がある。

 

 

 そして何より、彼らは終始自信に満ち満ちている。羨んでしまうほど輝いて、私を魅了した。

 

 

 

 

「──…見つけた」

 

 

 

 私が求めていたモノ。

 私の夢を叶えるために必要なピース。

 

 ()()()()()、表舞台に立つ資質を持った眩しい光。

 

 

 そうなれば話は早い。思い立ったが吉日、善は急げ、ともいうらしい。

 

 早速SNSで検索をかけ、ギターボーカルの男のアカウントを発見し、勧誘のメッセージを送り、無視され続け、痺れを切らし直接会いに行き、そして────

 

 

 

 

 なんやかんやあり、私は今、そのギターボーカルの男を引っ叩いている。

 

 

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

「関口〜。昨日あれからどうだった?」

 

 

 チュチュちゃんを俺たちのバンドに誘った翌朝。

 教室に入ると、挨拶よりも先に須田がそう聞いてきた。

 

「改めて断ったよ。んでこっちに誘ってみたけど、断られた」

「そっか〜、残念」

 

 軽口ではなく、須田はわりと本気で残念がっている。

 

 ──先日、HR/HMライブの帰り。

 俺と須田と五十嵐でチュチュちゃんが持ってきた音源を聞いたあと、俺たちは話し合った。

 まぁ話し合いとは言っても、全員の意見が一発で一致したので、そこまで深く話し合ったわけではないんだけど。

 

 

 話し合いで出た意見は二つ。

 チュチュちゃんの誘いを断ることと、逆にチュチュちゃんをCapliberteに勧誘すること。

 

 チュチュちゃんの思想に賛同こそ出来なかったが、彼女の音楽は三人とも気に入っている。

 俺たちCapliberteに曲を書いてもらおうと、そういう話になった。

 

「まぁ、あっちの誘いは断るのにこっちの望みを聞いてくれ、ってのはむしが良すぎだよな」

 

 須田の言う通り、失礼な話ではある。断られることは承知の上だ。

 

 それより、と須田が続ける。

 

「サイ〇イでやりたい曲、昨日グループLINEしたじゃん?」

「あー、merry-g〇-roundだよな? いいんじゃね、俺は好きだよ」

 

 相変わらず可愛い歌すぎて男が歌うもんじゃないとは思うけどな。

 

「ホントにいいのか? この曲、めちゃくちゃキーボード鳴ってるけど」

 

 須田が心配そうに聞いてくる。

 そりゃそうだ。おたえが加わるとはいえ、キーボード担当はうちにはいない。

 けどまぁ、そこは問題ないだろう。

 

「ああ、大丈夫。キーボ、俺が弾くから」

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 夜。

 スタジオでの練習を終え、帰宅し、風呂に入り、丸山さんと若宮さんが出ているバラエティ番組を見ながらギターを弾き、さてそろそろ寝るかと自室のベッドに潜って部屋の電気を消した、その三分後。

 

 半分寝ていた俺の耳に、けたたましい騒音が飛び込んできた。

 

「ホァ!?」

 

 驚いてベッドから転げ落ちそうになりながら、何事かと周りを見渡す。

 すると、スマホの画面が明るくなっていることに気がついた。音の発生源もそこだ。

 

 ようやく頭もクリアになってきて、鳴り響く騒音が着信音であることを理解する。

 あービビった。そうだ、スタジオで音量MAXにしたまんまだったんだわ。

 

 隣の部屋から壁ドンの音が聞こえてくる。姉ちゃんだ。まぁ夜にデカい音鳴らしたらそりゃキレるわな。まだ十時過ぎだが、十分夜中とも言える時間帯だし。

 心の中でゴメンと謝りながら、スマホの音量を下げ、急いで電話に出る。

 

「もしもし?」

 

 慌ててたもんだから、相手が誰なのか見るのを忘れた。こんな時間に誰だ?

 

『あ、もしもし海? ごめんね、寝てた?』

 

 受話口の先から流れる、少しだけ申し訳なさそうな、そしてとても聞き慣れた声。

 

「ひまり?」

 

 電話越しだとリアルの声とは少しだけ違って聞こえるが、ひまりとは電話もしょっちゅうしている。聞き違えたりはしないだろう。多分。

 

「なんだよお前、こんな時間に。フツーに寝てたわ」

 

 まぁ「寝る寸前だった」が正しいが、どっちも変わんないだろ。

 

『ごめん〜。...えと、私今、バイト帰りでね?』

 

 なるほど。理由になってない。

 

『それでね? 今日躑躅森(つつじもり)さん(バイト男子大学生)から聞いたんだけど...海、昨日、あの女の子と修羅場になって、泣かせて、顔叩かれたって...?』

 

 お、なんだ? 急に寒くなってきたな...。

 俺の事心配してる...って感じじゃねぇなこれ。何? なんか怒ってる? なんで?

 

『私、あんまり信じたくないんだけど...海、あんな小さい子に手を出してたの...?』

「は? なわけねーだろ」

 

 何がどうなったらそういう結論に辿り着くんだ。

 

『だって躑躅森(つつじもり)さんが! 「あいつ彩ちゃんやひまりちゃん、巴ちゃんだけじゃ飽き足らず、あんな小さい子にまで手ぇ出してんのな〜。俺なら一人の女決めて真っ直ぐ一途にいくのにな〜」って!!』

 

 突然大きくなった声が、俺の鼓膜にわりと大きめなダメージを与える。

 びっくりしてスマホから顔離したわ。

 

 てか待て。は? え、あのクソ野郎(五つ年上) 何言ってんの? 今度会ったら三発くらい殴ってやろうか。

 ひまりを狙ってるんだかなんだか知らないが、なんでそこで俺の評価が下げられなきゃいけないんだ。

 つーか俺が色んな異性に手を出してるみたいな言い方はなんなんだ? こちとら彼女いない歴=年齢のバキバキ童貞なんだが!? ...あ待って、ちょっと泣きそうになってきた。

 

「待って。待ってね。いやまぁ、確かにあの子には泣かれたし顔も引っ叩かれたけど」

『やっぱり! 海の変態! ロリコン!』

「俺はロリコンじゃない! 年上好きだつってんだろ!」

 

 隣の部屋からまた壁ドンされた。

 ゴメン姉ちゃん。けど今のはひまりが悪いと思うんだ、俺。人のことロリコン呼ばわりしやがって。

 

「いいかひまり、よく聞け。泣かれたり叩かれたりは本当のことだけど、ちゃんと理由があるんだ」

『海が女の子の心を弄んだからでしょ!』

「話を聞け」

 

 え、なんかこいつ泣いてない? なんで?

 訳は分からないがとりあえずヤバい。早く誤解を解かなくては。

 

「昨日の子な? なんでも音楽プロデューサーとからしくて、俺...っていうか、Capliberteを誘いにきたんだ」

『嘘! あんなちっちゃい子がプロデューサーなワケないじゃん!』

「本当なんだって。なんなら須田とか五十嵐とかにも聞いてみろよ。あいつらも知ってっから」

 

 と言うと、数秒おいてから電話が切れ、二分後にまたかかってきた。

 

『...ごめん、ほんとだった』

「だろ?」

 

 まぁ確かに、信じられないのも分かる。俺も最初は絶対嘘だと思ってたし。

 てか須田か五十嵐か、この時間の電話に大人しく出たのか。優しいなあいつら。

 

「で、だ。昨日はその子...チュチュちゃんっていうんだけどな? チュチュちゃんの誘いを、正式に断ったんだよ。そしたら泣かれた」

『...ほんと?』

「本当だよ」

『...じゃあ、叩かれたのも?』

「それは...まぁ、また別。作詞作曲はガチでレベル高かったから、逆に俺たちに曲書いてくれって頼んだら引っ叩かれた」

『それは海が悪い。うん、海が悪い』

「それは言い訳のしようもない」

 

 ひまりの声も少し落ち着いてきて、順調に誤解が解けてきたことを確信する。

 良かった。これで俺がロリコンだという悪評が広がることもないだろう。

 

『...ごめんね、海。夜に突然こんなこと』

「いーよ。全部躑躅森さんが悪い」

 

 そんなこんなで誤解も完全に解け、おやすみと言って電話を切る。

 

 いやはや、近年稀に見る訳の分からなさとめんどくさムーヴだったな。

 普段ならこの程度のことであそこまで感情を出してくるやつじゃ...いや結構出してるな。どうでもいいことでむくれたりするし。

 けど今日はちょっと異常だった。まさかあそこまでナイーブになるなんて。

 まぁ夜だし、仕方ないのかもしれない。夜って変に考え込んじゃうし、そのまま妙な方向に迷走しがちだよな。分かる。いやなんで俺の女関係でひまりが病むのかは知らんけど。

 

 にしても躑躅森め、絶対に許さないからな。

 バイト歴でいったら俺の方が先輩なんだ。次シフトが被ったらめちゃくちゃこき使ってやる。

 

 

 年上の後輩への復讐を深く心に誓い、俺は再び布団にくるまった。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 時は過ぎ、ライブ当日。

 いつもより余裕をもって練習をすることができた俺たちは、もう本当に余裕をぶっこいて一バンド目のオーディエンスとして会場を温めていた。

 

「結構いいな、このバンド。初めて聴いたけど」

 

 一バンド目を聴いて、ボソッと感想をこぼす。

 高校生バンドなんだけど、特別上手いってわけじゃない。まぁ上手いは上手いんだけど、良くも悪くも高校生レベル。ベースだけ逸脱して上手いけど。

 でもなんというか、このバンドの良いところは演奏の上手い下手ってところにはない気がする。なんて言うんだろ。青春を感じる、みたいな? ポピパと似た感じがする。

 

「なんてバンドつったっけ?」

 

 そう須田が聴いてきた。

 俺は出演者一覧を記憶からサルベージし、どうにかこうにかバンド名を思い出す。

 

「えっと...確か、ナイロンロックス? だった気がする」

「なんだそれ、変な名前」

「自分のバンド名を『ビッグゴールデンスターズ』にしようとしてたやつが何言ってやがる」(※第24話『既存国家の転覆からの迅速な建国』より)

 

 けどまぁ、確かにネーミングセンスは少しズレてるかもな。俺たちの『朝焼けの慟哭』や『サンシャインメモリーズ』といい勝負してる。

 

「そろそろ裏行こうぜ。準備しなきゃだろ」

「おー」

 

 五十嵐に言われ、人を掻き分けながら出演者控え室に向かう。

 

 俺たちの出番は三バンド目。

 今、一バンド目のナイロンロックスさんがラストの曲に入っている。出番までもう一バンド挟まるので時間ギリギリってわけでもないが、そう余裕があるわけでもない。まぁちょうどいい時間だな。

 

 控え室に入ると、先にいたおたえが座禅を組み瞑想しながらギターを弾いていたが、こいつの奇行は今に始まったことではないのでスルー。

 自分のギターを取り出し、指板に潤滑剤を振りまく。

 

 ちなみにだが、おたえはちゃんとランドセルを持ってきた。なんなら今まさに背負っているし、ブレザーと半ズボンも身に付けている。本当に大した奴だよ。

 

 まぁ俺もランドセル、ブレザー、半ズボンの三種の神器を揃えてきたんだけどな。

 

 しかもしっかりすね毛まで剃ったんだぞ。前に北海道で女装させられた時に芸能人御用達のシェービングクリームと剃刀を貰ったしな。綺麗に剃れた。

 

 アンガス・ヤ〇グ役はおたえ一人で十分なんだが、俺もコスプレがやりたかったんだい。文句あっか。

 

「一応セトリの確認すんぞー。一曲目がフーフ〇イターズで、二曲目がAC/〇C。ラストがサイ〇イな」

「ほーい」

 

 五十嵐のこういう、リーダーシップ的なのを発揮してくれるの、本当に助かるんだよな。楽で。

 

 と、そこで舞台側から演奏を終えたナイロンロックスの人らが戻ってくる。

 お疲れ様ですと挨拶をすると、ピンクジャージを着たリードギターの子にめちゃくちゃオドオドされた。俺、なんか怖がらせることしたっすかね(服装)

 

 次のバンドの演奏が始まる。控え室のモニターから、彼女たちの演奏が流れ始めた。

 こっちも良いバンドだ。確かCiRCLEの常連の人達だったよな。

 

 須田がナイロンロックスのベースの人とのベーストークに華を咲かせ、五十嵐はドラムの人と明るくコミュニケーションを取り、おたえもギタボの人と何か話している。

 そんで俺の近くにいたピンクジャージの人は、なぜかゴミ箱の中で丸まってプルプル震えていた。

 

「あー...ギター、上手いっスね」

「ひぅっ...あ、ぁ......アリガトウコザイマス...」

 

 うーん。なんだろ、俺が悪いのかなこれ。

 

 この人、演奏中はなんかそこまで上手い感じじゃなかったんだけど、節々が上手いんだよな。ソロとか凄かった。

 多分、今までずっと一人で弾いてきてバンドに慣れてない、みたいなタイプだと思うんだよなぁ。

 

「Capliberteさーん、準備お願いしまーす」

 

 俺もギター談話したいなぁと思い、何とかしてコミュニケーションを図ろうと試みている中、PAの人が俺たちを呼びに来た。

 

 少しばかり残念だが、今は交流を図ることは諦めた方がよさそうだ。まぁライブの打ち上げもあるし、それ以降でもバンド続けてりゃいつかまた会うこともあるだろ。

 

 一言だけ挨拶をしてから、ギターを持って控え室を出る。

 キーボードはあとでPAさんが持ってきてくれるらしい。

 

 舞台袖に着くと、ちょうど前のバンドが終わったようで、肩で息をした面々が満足げに降りてくる。

 あっちのボーカルが軽く手を上げてきたので、それに応えてハイタッチ。ちょっと恥ずかしいが、それもまた青春ってことで。

 

 SEが流れる。

 選曲はニルヴァ〇ナのEndless,N〇melessだ。

 一曲目にフーフ〇イターズを()ると決めた時点で、SEはニルヴァ〇ナの曲にすると決めていた。幸い、バンド内で反対の声も出なかったしな。おたえに至ってはめちゃくちゃ目ぇ輝かせてたし。

 

 五十嵐、須田、俺、おたえの順でステージに上がる。

 

 俺とおたえがステージに上った際に会場がザワついたが、想定内なのでスルーだ。

 ギターを構え、テキトーに手首の柔軟をしながら、俺はステージを見回し、メンバーと目を合わせる。

 

 始めるぞ。

 

 そう目で伝えると、三人とも頷きを返してくれた。

 PAの人にも目配せをし、SEを止めてもらう。

 六拍ほど空け、俺はギターを弾き出した。

 

 

 ☆

 

 

 The Pret〇nderは静かなギターから始まり、しっとりと(ボーカル)が入る。

 デ〇ヴ曰く、この曲の歌詞には「政治的な意味合いがある」らしい。

 

 Pretender(プリテンダー)。日本語で詐欺師や偽善者などと訳されるが、今回の場合は『悪を成す権力者』、『私欲に塗れた政治家』なんてものが当てはまるだろう。

 そんな『(プリテンダー)』達に叛逆する。歌詞からは、そういったテーマが感じられた。

 

 であれば、入りは静かに。されど鬱々とした悲哀は無く、滾る不満と怒りを押し殺したような雰囲気を。

 まさに悲壮感をダダ漏れにした情緒でもって、この曲は始まるべきだろう。

 

 

 そして、決起の時。

『お前の秘密を暴く時がきた』と立ち上がり、サビで一気に叛逆を開始する。

 少し掠れた声を出す。必死に『(プリテンダー)』へ立ち向かう、そんな感情を乗せるために。

 

 

 闇に身を隠し、だが“ソコ”にいる『悪』。

 お前の正体は何だ?と問い掛け、そしてこの歌は終わる。

 

 

 

 そしてそのまま、途切れることなく次の曲へ入った。

 

 The Prete〇derが『悪に叛逆し、正義を成す』というコンセプトなのに対し、このBack in Bl〇ckでは『仲間の死から再起する』という強い意志が感じられる。

 

 歌詞の全体的な訳としては、『首吊りの呪縛から解放され、暗闇に戻ってきた。俺は死なない。悪の要としてこの暗闇に帰ってきたんだ。誰も俺を裁けない。俺は俺の道を行く』といったところか。

 

 このBack in Bl〇ckという曲は、初代ボーカルであるボン・ス〇ットが亡くなり、ブライアン・ジョ〇ソンが加入してから最初に出たアルバムのタイトルトラックだ。

 

 

 仲間の死と懸命に向き合い、再起しようという強い意志がそこにはあると、俺は思う。

 ハードロックらしい、力強い曲だ。

 

 だからこそ、祝うように歌う。

 彼らは乗り越えた。死の呪いを跳ね除け、未来に進んだ。

 悲しいことではあるが、ボンのためにも、この歌はお祝いでなければならないのだと、遺された彼らは言ったのだという。

 

 最後はアルバムverではフェードアウトになっているが、全力で力強く引っ張った。

 須田と一緒に低く構えてみたり、おたえと二人でソロをハモらせてみたり。

 

 そこに悲しみは無く、楽しく賑やかに曲を終わる(追悼する)

 

 

 ☆

 

 

『あー...Capliberteです、どうぞよろしく』

 

 二曲目まで終え、MCに入る。

 俺の一言目で突然五十嵐がドラムを鳴らし始めた。良いパフォーマンスだ。ナイス五十嵐。でも打ち合わせに無いことは極力しないで。次の曲始まったのかと思ってビックリするから。

 

『今日はサポートのギターがいます。ポピパの花園たえです。ギター、上手いです』

 

 おたえがソロを弾く。

 うん、良いパフォーマンスだ。こういうのなら打ち合わせに無いことでも安心できる。紹介した後だから自然だし、曲始まる雰囲気もないし。

 

 つーかお前それポール・ギ〇バートだろ。Down t〇 Mexicoのイントロ。マジでおたえは趣味が良いよな。

 

 お返しとばかりにMr.b〇g(Gt.ポール・ギ〇バート)のD〇ddy,Brother,L〇ver,Little Boyの高速トリルソロを弾く。これにはおたえもニッコリ。

 

『お前ら遊ぶな。本番中だぞ』

 

 須田に怒られた。シュンです(死語)

 

 そんなことをしていると、PAの人がキーボードを持ってきてくれた。

 俺はギターを下ろしてスタンドに立て、キーボードを受け取り、そしてストラップを肩にかける。

 

 このキーボードはショルダーキーボード。

 鍵盤部分をギターのように肩からストラップで吊るして演奏できるようにした、いわゆるキーターというものだ。

 この日のために姉ちゃんから買い取った一品、R〇landのAX-Ed〇eである。

 

 もう使わないっていうから安く買い取れた。

 確か元値が十三万くらいって言ってたかな。それを一万で譲ってくれた。姉ちゃんマジ神。「姉ちゃんまじ太っ腹!」って言ったら「あたしはボンキュッボンだ!」つって頭叩かれたけど。意味わがんね。

 

『えー、まぁそんな話すこともないし俺らの持ち時間ももうそんな無いんで...それじゃあラスト、Capliberteお家芸「男サイ〇イ」はじめまーす』

 

 まぁ今回はおたえがいるから完全版男サイ〇イじゃないけど。

 

 

 五十嵐がシンバルを四回打ち、ギター、ベース、そしてキーボードが入る。

 

 今回、俺は人生で初めての『シンセボーカル』に挑戦する。そのためのキーターだ。一回やってみたかったんだよな。

 

 存外これがそこまで難しくなく、なんならユニ〇ンのギタボの方が難しいまである。練習の時からそこまで苦しむこともなく、楽しんで演奏することができた。

 

 

 けどまぁ、やってみて再確認した。

 やっぱり俺はギターの方が好きだなぁ。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

「最っ高...だった...!」

 

 出番が終わり、袖で待機していた次のバンドの人らとハイタッチしてから控え室に戻った後。

 

 興奮冷めやまぬ、といった具合でおたえが震えた。

 

「ポピパはもちろん楽しいんだけど、それとはまた違うっていうか...うん、すごくすごかった」

 

 語彙力無くしてんなこいつ。

 まぁ気持ちは分かるが。

 

 ジャンルが違うからな、俺らとポピパの選曲じゃ。ポピパがHR/HMをやる...うん、全然想像できねぇ。

 あいつらは青春全開! キラキラ輝いてこー! みたいな雰囲気だし。音楽を楽しむって点じゃ同じだが、スタンスとしては対極みたいなもんだろ。

 

「ねぇ! またやろうよ、ライブ。Mr.b〇gもやりたいし、ジミ〇ンとか、ヤー〇バーズもやりたい! それから...」

「落ち着け」

 

 頬を紅潮させて目を輝かせるおたえを、とりあえず宥める。よっぽど楽しかったんだな。一緒に演奏した身としては大変嬉しい。

 

 そこまで言ってくれるんだから、もちろんまた一緒にやりたい。

 

「そうだな。またやろう、俺も楽しかった」

 

 俺だけでなく、須田や五十嵐もそう思っているようで、二人ともニッコリしている。野菜生活(そろそろ死語)

 

 普段はここから「あれ、もしかしてアンコールある...?」と戦々恐々曲の練習を始めるところだが、今日に限ってはその心配もない。

 というのも、今日は出演バンドの数がそこそこ多く、アンコールをやったとしても大トリのグリグリ一バンド分くらいしか尺が余っていないらしいのだ。

 

 そんなバンド数がギリギリくらいなんだったら俺らが代行する必要も無かったろ、とも思ったが、結果楽しかったので無問題。

 安心して汗を拭き、冷えたスポドリを喉に流し込む。冬だってのに暑いったらありゃしない。まったく、これだからライブは最高だぜ。

 

「失礼しまーす。Capliberteのみんな、お疲れ様〜。おたえちゃんもね」

 

 椅子に腰を深くして座ったところで、控え室にまりなさんが入ってくる。

 なんだろ、緊急代行のお礼だろうか。よせやい、俺らとまりなさんの仲じゃないか。

 

「お客さんの要望でCapliberteにもアンコールお願いすることになったから! 一曲だけでいいから、よろしくね〜」

 

「おい待てや」

 

 報・連・相! 三つ揃って社会人の基本だぞ!

 テメェ一番大事な『相談』が抜けてんじゃねぇか!! 事後連絡してくんな! バーカバーカ!

 

 これにはさすがの須田たちもブチ切───

 

 

「あ、了解ッス〜」

「既存曲ならいけるだろ。おたえはどうする?」

「弾いていいなら弾きたい! ふっふっふ、実は『革命前夜にランナウェイ ~お国に逆らうもんじゃない~』の第二のギターパート、考えてるんだよね。えっへん」

 

 

 なんだコイツら(迫真)

 

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 私は今、とあるライブハウスに来ている。

 

 重い足を引きずり入ったライブハウスでは、ちょうど私の気を重くさせる元凶が、ステージの上でライトに照らされていた。

 

『あー...Capliberteです、どうぞよろしく』

 

 モゴモゴした声で、元凶──関口海は喋る。

 

 

 先日、私は彼の頬を思いっきり引っ叩いた。

 理由はよく分からない。普段、声を荒らげることはあっても人に手を上げることなんてしないから、自分でも驚いたくらいだ。

 感情がぐちゃぐちゃになり、思考が纏まらず......気付いたら、彼を平手打ちしていた。

 

 ...それにしても、あの格好はなんだろう? ふざけてるの?

 ダメだ、この前の出来事に拍車をかけて腹が立ってくる。

 

『お前ら遊ぶな。本番中だぞ』

 

 Capliberteのベース、須田誠に注意された彼は、少しシュンとしてギターを下ろした。

 そしてシンセサイザーをギターのように構え、Capliberteのお家芸だというSile〇t Sirenのコピーを開始する。

 

 

 彼がギターを持っていないことに多少の違和感があるが、それでもやはり、彼らはひどく輝いて見えた。

 

「音楽は楽しむもの...」

 

 先日の彼の言葉通り、Capliberteの面々は、いつでも楽しそうに演奏する。

 

 

「...はっ。なんてぬるいのかしら」

 

 

 やっぱり、腹が立つ。

 

 音楽は武器だ。

 音楽は戦争だ。

 自分たちの音で、努力で、才能で。

 己の全てで他を圧倒して、蹴散らして、理解させる。

 

 そうだ。音楽というものは、そういうもののはずだ。

 

 

 私は自分では奏でられない。その才能がない。

 でもその変わり、創作には才能があった。

 その一点で、私はのし上がる。もう誰にも否定させない。そんな隙は与えない。だからそのために、最強のメンバーが必要だと考えた。

 

 探して、探して、探して。

 世界に挑むための一手。私の最強を奏でることができる希望を必死に探して、そうしてようやく見つけたその光は、あっけなく遠くへと飛んでいってしまった。

 

 

 ────去り際に、私を否定して。

 

 

 

 ステージの上で、彼らはキラキラと輝いている。

 対して私は、暗いライブハウスの隅っこで、ただそれを妬むように眺めるだけ。

 全く酷い対比だが...この対比が、如実に今の現実を物語っている。

 ひどく、惨めだ。

 

 

 どうしてこうなったのだろう。

 

 彼は私に言った。『お前の信念は、自分たちの音楽と相容れない』と。

 売れることを考えることがいけないことなのだろうか? 勝つことに拘るのは断罪されるべきことなのだろうか?

 

 否、そんなことはないはずだ。

 彼は『全ての音楽には価値がある』と言うが、そんなものは詭弁だ。綺麗事だ。

 

 だって、演奏が上手でない私は、あんなにも否定され、追い込まれたのだから。

 

 

 

 音楽は所詮、実力主義の世界。

 それぞれの『音の価値』には、必ず優劣が存在する。

 オリコンチャート然り、再生数ランキング然り。この世界は、常に勝敗がついて回るようにできている。

 

 

 だから、彼の言うことは、現実から目を背けた詭弁で、エゴに染まった綺麗事だ。

 

 

「...見てなさい、Capliberte。関口海。私は、あなたたちをぶっ倒して、私の正しさを認めさせてみせるわ」

 

 

 私の新しい目標。絶対に達成してみせる野望。

 

 

 

 

 

 待っていなさい。

 私は、私の全てを以て、必ずあなたたちを否定してみせる。

 

 だから今は、精々音楽を楽しんでいるといいわ。

 その輝かしくも憎たらしい、甘ったれた偽りの音楽を。

 

 

 

 

 

 

 

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