ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
こんな短期間での連投、久々すぎて俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
あ、一応キャラ崩壊注意でお願いします...
「リサのクッキーはいつも美味しいわね。いくら食べても飽きがこないわ」
とある土曜日の昼下がり。Roseliaのバンド練終了後。
暖かい太陽の光が差すCiRCLEのカフェテリアで、Roseliaの面々と俺は、リサさんの手作りクッキーをいただいていた。
「そうですね。何か隠し味などあるのでしょうか?」
「隠し味? んーっとね〜...みんなへの愛情、かな☆ なんちゃっt」
「リサ姉からの愛情頂きましたァ!!!!!」
「ちょっ、海くん!?」
美少女ギャルからの愛情、美味すぎる。もっと食べたい(食べる麻薬)
五つくらい一気に頬張ったらさすがに口内の水分が全て持っていかれ、軽く喉に詰まらせた。
「ほらもー、変なこと言ってるから。はい、アタシのレモンティー飲みな?」
差し出されたペットボトルのレモンティーを何も考えずに受け取り、蓋を開けて口に流し込む。
「あ"〜...ありがとうござ───」
...ちょっと待て。
今のペットボトル、開封済じゃなかったか?
それに、中身の量も満タンじゃなくなかったか?
Q.蓋が開いていて中身が減っているペットボトル。その意味は?
A.すでに誰かが飲んだ後。
Q.飲んだ人は?
A.ペットボトルを渡してきた人の可能性大。
Q.つまり?
A.リサさんと間接キッスの可能性アリ。
Q! E! D!
は?(は?)
「...え、何? 海くん、顔赤くない?」
「......いえ、なんでも」
とりあえずもう一回レモンティー飲んどいた。
ダメだこれ。顔から熱が引かない。火ぃ出るでこれ。
いかん、これはいかん。
こういう時は野郎の事でも思い出すんだ。そうすりゃ萎えるだろ。
そうだ、昨日の放課後にちょうど、珍しくクラスの男連中だけで遊びに行ったじゃないか。くだらない話をしたはずだ。思い出せ。
ほわんほわんせきぐち〜(回想開始)
クラスメイトA「そういや昨日、いい動画見つけてさ」
関口「なんだ藪から棒に」
クラスメイトA「枢木あ〇いって人の動画」
五十嵐「誰? YouTuber?」
須田「あー知ってるその人。女優だろ。見たことある」
クラスメイトA「そうそう。結構可愛くてさ」
関口「へー。なんかのドラマとか出てんの?」
クラスメイトB「ばっか関口、
関口「いや知らねぇよ」
須田「俺声好き」
五十嵐「うっし、りみに報告しとくか」
須田「そういうのマジでやめて。マジで」
クラスメイトC「たまたま俺も昨日見たわ。良かった。関口と五十嵐にも後でリンク送っといてやるよ」
関口「ほいほーい」
五十嵐「いや俺はいい。美穂に見つかったら殺されそう」
クラスメイトC「分かった〜。彼女持ちってのも大変なんだな」
クラスメイトA「つーか同じ動画見たとかいう報告やめろ。なんかヤだわ」
ほわんほわんせきぐち〜(回想終了)
クソが! 俺のクソが!!
確かにくだらないボーイズトークだけど! ナニ思い出してんだ! しっかり昨日の夜見たわ!!(健全な男子高校生)
「海くん、ほんとに大丈夫? 風邪?」
「いや、大丈夫です。ほんと、はい、元気っす」
お母さん、いや姉ちゃんだ! 昨日の姉ちゃんとのやりとりを思い出せ!
ほわんほわんせきぐち〜(回想開始)
姉「弟〜。カポぶっ壊れたからお前の寄越せ〜」
弟「うっわ何だよ急に入ってくんな」
姉「は? 今更何言って...あ? ...あ〜、何? そういうこと? まぁ海も年頃だもんねぇ〜?」
弟「なんだよニヤニヤすんなよ! 出てけよ!」
姉「姉にその口のきき方はなんだ」
弟「え、あ、ごめん姉ちゃん! ごめ、やめっ、コブラツイストはやめて痛い痛い痛いっ!!」
ほわんほわんせきぐち〜(回想終了)
ふぅ...(萎え)
さすが姉ちゃん、昂ったリビドーが一瞬にして那由多の彼方に消えていった。ありがとう。
にしても痛かったな〜、あのコブラツイスト。最近技に磨きがかかってきてるんだよな。やめてほしい。
なんとか落ち着きを取り戻し、氷川さん辺りにいろいろバレて軽蔑される、なんてことも無く。
いつも通り、穏やかな練習後のティータイムを楽しむ。
リサさんのクッキー美味しいな。これが愛の力か。
「あ、それ紗夜が作ったやつだよ。ね、紗夜☆」
「あ、そうなんですか?」
「え、ええ、まぁ...今井さんほど上手くは作れなかったですけど」
「そんなことないよ〜。ね、海くん?」
「はい。すごく美味しいです。なるほど、これが氷川さんの愛...」
氷川さんに頭を叩かれた。
痛くない。やはりこれが愛なのかもしれない。
「紗夜のクッキーも美味しいわ」
「はい! 私、リサ姉のも紗夜さんのもどっちも好きです! 美味しくて!」
「私も...好き、です...優しい味...というか...」
「皆さん...ありがとうございます」
照れてる氷川さんかわいい。
でもなんで俺だけ叩かれたんだろう? 俺もみんなみたいに褒めたのに。やっぱり愛じゃないんだろうか? ぴえん。
「そういえば、話は変わるのだけれど」
溶けきらないくらい大量の砂糖をぶち込んだコーヒーを美味しそうに飲んでいた友希那さんが、そう言って話を切り出す。
「昨日、枢木あ〇い、という人の動画を見たのだけれど」
「!???!?!?!!?!?!?」
友希那さん!??!?!?
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「まったく、何をやっているのですかあなた
「ゲホ、ゲホッ...す、すいません...」
まさかの発言に思わず吹き出してしまい、口に含んでいたミルクティーがキラキラと宙に舞った。
幸いテーブルにもクッキーにも、そして人にもかかることはなかったが。
「大丈夫〜? りんりん〜?」
「え、えっ、あ...う、うん...だ、大丈夫......」
なんか白金さんも
え、知ってんの? 枢木あ〇いを? 白金さんが?
え? 何それ、むっつりんりん...ってコト?!
「まったく...お茶です。飲みますか?」
「あ、はい。それじゃあ...」
氷川さんから手渡されたペットボトルのお茶を口に流し込み...え待ってこのペットボトル開封済だし中身ちょっと減ってなかった? それってつまり間せt(ry
ダメだ。これは、ダメだ。何が? 全てが。
深く、それはもう深く深呼吸をする。
......うん、よし。ちょっと落ち着いてきた。
「それで、その枢木あ〇いさんの話なのだけれど。海や燐子も知っているの?」
「へっ? あー...えと、はい、昨日知りました...」
「わ、私は、その......名前を...聞いたことが...ある、くらい...です...ほ、本当...です...」
えぇ〜? ほんとでござるか〜?
「そう。彼女、声が良いのよ。燐子も聴いてみるといいわ」
「えっ!? ...あ、は、はい...ひゃぅ...」
「り、りんりん!?」
白金さん、顔真っ赤にしてテーブルに顔突っ伏しちゃった。無理もない、白金さんは年頃の女の子なんだから。
そんでその白金さんと同い年である年頃の友希那さんはどうしてそんなに真顔でA〇女優の話をしてるんですか?
え、俺たちがガキ過ぎるってこと?
「あー...そういや須田も言ってましたわ。声好きだって」
つーかなんで俺はこんな話をRoseliaの前でしてるんだ?
なんだよ声が良いって。別に俺そこ重視してねぇわ。いや良いに越したことはないけどもよ。
「海はそう思わなかったの?」
「え、俺っすか。...えー...いや、正味あんまり声は覚えてないっていうか...」
「そうなの? じゃあ次からは注意して聴いてみて。YouT〇beにも動画があるから」
YouT〇beにある!? A〇女優の動画が!?
おいおいコンプラはどうなってんだ、コンプラは! 仕事しろよYouT〇be利用規約!
「とても感情が乗っていて、歌詞にも合っていると思うわ」
「はあ...」
声に感情が乗ってるってそりゃまぁ役者さんだし......え? 歌詞?
「確か曲名は...白夜〇月、あとsear〇hlightと言ったかしら。私の使っているサブスクリプションには入っていなかった曲なのだけれど、とても好きだったわ」
曲名? え?
「サブスクリプションに入っていた曲だと、テサ〇リロンドかしら? 白夜〇月などと違ってバンドチックで...ギターソロもしっかりしていたわ。海は好きでしょう? ギターソロ」
「へ? はいまぁ、好きですけど」
曲聴く時の最重要点と言っても過言じゃないくらいですけど。
いやそうじゃなくて。
「あのー...ちなみになんですけど」
「何かしら」
「友希那さんの見た動画って、一体どんな...」
「これよ」
スッとスマホを取り出し、手早く操作してYouT〇beを開く友希那さん。
再生リスト「音楽」を選択し、その中から『圧倒的歌唱力を誇る枢木あ〇いが全身全霊で熱唱ライブ!』という動画を開いて、俺たちに見せてくる。
「へー。ほんと、確かに声綺麗だね」
「ええ。湊さんが褒めるだけはある」
リサさんと氷川さんも、その動画を見て素直な感想を口にしていた。
ふーん。なるほどね? ほーん。
っすぅー.........
「俺と白金さんは、心の汚れたイケナイ子です」
「「「「?」」」」
「!?」
おいおい白金さん。そんな驚いた顔してんなよ。
俺たち、“仲間”...だろ?
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
リサさんが『枢木あ〇い』をググるという大問題にまで発展したむっつりんりん事件の後。
若干気まづくなった俺たちは解散した。
女子高生だけに留まらず思春期真っ盛りな女子中学生の前でとんでもないアンジャ〇シュムーヴをカマしてしまい、恥ずかしさやら何やらで俺の心は疲弊していた。
んー、死んじゃおっかな〜。などというある種前向きな気持ちにもなったが、白金さんの気持ちを思えば踏みとどまれる。
今回の一番の被害者はぶっちぎりで白金さんだからな。次点で友希那さんか。本当、ご愁傷さまです。
というわけで帰宅後。
「声。声ねぇ...」
今まで気にしてこなかったが、そういう視点もあるのかと気付かされた。
今はちょうど、家に誰もいない。玄関の鍵はちゃんと閉めてあるので、姉ちゃんの乱入があった場合にも対応できる。
ウチは女社会の家だ。普段はお母さんと姉ちゃんが跋扈しており、男として当然の衝動もそう易々と発散できるわけじゃない。
このチャンスを逃すものか。
いざ、新視点のその先へ───!
\ピロン/(LINE通知音)
「ヒュワッ!?」
変な声出た。
通知オフにしとくの忘れてた。
ちくしょう、誰だ? 須田とかだったら許さねぇからな。
Lisa『海くん』
Lisa『ちょっと話あるんだけど』
俺、わいせつ罪みたいなので殺されるんか?(飛躍)
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「作詞コンテスト?」
リサさんに呼び出され、死の覚悟を決めてから集合場所のファミレスに来た俺は、リサさんから唐突にそんな単語を聞かされていた。
「うん。アタシ、作詞に挑戦しようと思って。ほら、Roseliaの作詞っていつも友希那がやってるでしょ?」
「そうですね」
いつも友希那さんがネコのぬいぐるみと添い寝して考えてるって聞いたことある。
「Roseliaのためにアタシができることないかな〜って考えてて。そうだ、作詞しよ☆ ってなったの」
どういう思考回路だ?
「友希那の負担、少しは減らせないかな〜って思って」
「なるほど」
そういう思考回路ね。
「で、作詞コンテストっていうのが近々あるらしくて! それに応募しようかな〜って」
どういう思考回路だ?
「まぁ経緯は分かりましたけど...なんでそのコンテストに応募する必要があるんですか?」
「ん〜...まぁ、目標? かな。どうせやるならコンテストに入賞するくらいの作りたいし☆」
「なるほど」
まぁ、目標ってのは立てておいて損はないからな。つぐも言ってた、「何事もチャレンジだよ」って。あいつ意外とアクティブなところあるからな〜。
「それで、なんで俺は呼び出されたんです?」
問題はそこだ。
別にリサさんがどこぞのコンテストに応募しようが、俺にはあまり関係のないことのはず。
よもや俺に作詞の手伝いをしろ、だなんてそんなバカなこと───
「いやぁ、それがさ〜? 昨日からずっと歌詞考えてるんだけど、中々書けなくて...。書きたいことはたくさんあるんだけどね〜」
「なるほど」
「そこで! 海くんに作詞のアドバイス貰おうかと思って連絡したんだ〜」
「正気ですか?」
「え、何が?」
よもやよもやだ。
やれやれ。リサさんとはもうかれこれ半年以上の付き合いだが、ここまで俺という人間が理解されていないとは。
「いいですか? リサさん」
「うん」
ここは一つ、
俺という人間が、どんな人間なのかということを。
「俺は自分らのオリジナル曲に『既存国家の転覆からの迅速な建国』なんて曲名をつける人間ですよ?」
「ネーミングセンスは無いよね☆」
「グハッ!」
関口は 十の ダメージを 受けた!
いや自分で言っといてなんだが、切れ味鋭い言葉を投げてくるなこの人。やっぱギャル怖い。
「でもさー。この前の新曲、歌詞付きだったじゃん? なんだっけ? ほら、革命うんちゃら」
「『革命前夜にランナウェイ ~お国に逆らうもんじゃない~』ですかね」
「そう、それ! その変な名前の曲!」
「ガハッ!」
関口は 十の ダメージを 受けた!
ここ最近、リサさんの俺に対する遠慮ってものが無くなってきている気がする。仲良くなっている証拠なんだろうか? そうだといいなぁ。
「あれって海くんが考えたんでしょ?」
「え、ええまぁ...五十嵐や須田に手直しはしてもらいましたけど」
「じゃあ作詞できるってことじゃん☆ あれカッコよかったよ〜。英語で何言ってるか分からなかったけど」
この人、本気で褒める気あるのか? ないだろ(断言)
「ま、まぁ、アドバイスするくらいなら...でも、それって俺じゃなくて、友希那さんとかに聞いた方が早いんじゃ? 作詞ってことなら俺より慣れてるでしょうし」
「それはちょっと...友希那に手伝ってもらっちゃったら、友希那が作ってるのと変わんなくない? それに、完成するまで黙ってた方が、みんなビックリするでしょ☆」
そう言って悪戯っぽく笑うリサさんは、非常に美少女だと思いました、まる
「それに、海くんに声掛けたのは、もう一つ理由があるんだよね」
「なんですか?」
「海くんも一緒に、この『作詞コンテスト』に出てみようよ!」
「ヤです」
何が悲しくてそんな自分の恥部を晒しに行かなきゃいけないんだ。
こちとら作詞の才能ないって言ってんだろいい加減にしろ!
「まーまー、そう言わずにさ? 前に海くん、作詞上手くなりたいって言ってたじゃん」
「...まぁ、できるに越したことはないんで、それなりに書けるようにはなりたいと思いますけど」
「じゃあやっぱり、このコンテストに参加するのは良い経験になると思うんだけどな〜?」
「はぁ...本音は?」
「一人だとちょっと恥ずかしかったり心細かったりするから道連れが欲しい!」
このギャル今道連れっつったか?
「それにアドバイス貰いたいのもホントだよ? 海くん、音楽理論とか詳しいでしょ?」
「そりゃ一般人より詳しいですけど、歌詞書くのに理論とか無いっすよ」
「でも、ある程度のコードは必要じゃん? 曲の完成系を見据えるためにも。アタシ、そういうの全然分かんなくてさ〜」
なんだかんだと言葉を並べるが、要するに、さっき言った通り道連れが欲しいんだろう。
まぁ道連れっていうより、モチベ向上とかのために一緒に頑張ってくれる人が欲しい、ってところか。
気持ちは分からないでもないが、やっぱり面倒くさい。申し訳ないが、ここはきっぱり断らせて───
「あ、そうだ! 一緒に作詞する時は、お味噌汁作ってあげる☆ この前作って欲しいって言ってたよね?*1」
「やりましょう」
やっぱりバンドマンたるもの、作詞くらいはできるようにならなくちゃネ!(いつもの)
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
翌日。
「おじゃましまーす☆」
クラスメイトに言えば処刑必至な状況だ。絶対にあいつらには教えない。
一旦俺の部屋に通し、飲み物を用意する。
「粗茶です」
「コーヒーじゃん」
いかん、動揺してるな俺。
もう一度キッチンまで戻り、戸棚にあった高そうな洋菓子を引っ張り出す。
多分お母さんのだけど、まぁ大丈夫だろ。怒られたらお嬢のツテでもっと良いお菓子を返せば済む話だ。
「カステラです」
「バームクーヘンじゃん」
似たようなもんだろ(暴論)
用意された座布団にちょこんと座るリサさんは、ソワソワしながら俺の部屋を見渡している。
大丈夫、隅々まで掃除したし、変なものも置いていないはずだ。普段からポピパやらハロハピやらひまりやらがアポ無しで突入してくるからな。元から変なものは目に見える場所に置いていない。ちゃんと昆虫図鑑とかマクベスとかのフェイクカバーをしっかり被せて本棚の奥に隠してある。
念の為に今朝めちゃくちゃコロコロしたし、抜け毛とかゴミも落ちていないはず。そういやあのコロコロ、正式名称は粘着カーペットクリーナーって言うらしいな。この前市ヶ谷さんに教えてもらった。
「いや〜...ノリで来ちゃったけど、アタシ男の子の部屋入るのって初めてで...なんかこう、緊張しちゃうね...?」
そう言い、少し頬を赤らめながらはにかむリサさん。
「すいません、ちょっとお手洗いに」
「え? あ、うん。ごゆっくり〜」
ドタドタ(落ち着かない足音)
ギィ(トイレのドアを開ける音)
バタン(閉める音)
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!(精神統一)
ギィバタン(トイレのドアの開閉の音)
トットッ(落ち着いた足音)
「お待たせしました」
「なんかすっごい音? 声? 聞こえたけど」
「気のせいでは?」
さあ、作詞を始めようか。
「海くんはさ。歌詞ってどういう風に考えたの?」
「そうですね...まず先に曲を作って、そこにその曲のイメージをそのまま落とし込んだ、って感じです」
そう言い、机の引き出しからノートを一冊取り出して広げる。
「そのノート何?」
「ネタ帳みたいなもんです。俺ら、作曲に物語性を持たせてるんで、それの」
「物語性?」
小首を傾げるリサさんの髪からめちゃくちゃいい匂いがする。
ほんとなんなの? なんで女の子って、こうもいい匂いがするんだろうか。下手すりゃ犯罪ですよ。
「? どしたの?」
「なんでもないです。例えば既存国家なんかは、曲名通り『反逆者たちが国家を攻め落として、新しい国を築く』っていう感じなんですよ。そういう曲にできそうネタを、思い付いたら書くようにしてるんです」
「へー。なんだかバンドマンっぽい☆」
「ふへへ」
「あ、その笑い方は辞めた方がいいよ。マジで」
「大和さんに謝ってください」
「麻弥はいいんだよ、アイドルで可愛いから」
「ぐぬぬ......」
一切の反論の余地がないド正論で殴られた。悔しい。
「それにしても、ネタ帳か〜。アタシもそういうの作ろっかな〜」
「そっすね。突然アイデアが降りてくることもあるんで、持ってると忘れないうちにすぐメモできて便利です。まぁスマホのメモ帳アプリでもいいんですけど」
「あ、確かに。海くんはなんでノート使ってるの?」
「いや、普段はスマホなんですけど...この前、操作ミスってデータ全部消しちゃって。今後そういうことがあっても大丈夫なよう、バックアップ用にってノートにも書いてるんですよ」
あの時は泣くかと思った。
「なるほどー。データが消える...そういうこともあるんだね。ちなみに、そのネタ帳には何が書いてあるの?」
「見ます?」
「見たい見たい☆」
ちょっと恥ずかしいが、いずれは曲にして世に出すかもしらないネタたちだ。ここでリサさんに見せても問題はない。
「えーっと、なになに...『『Parallel』東京都心はパラレルだし、パラレルワールドで離さないでいてほしい。佐賀に住んでる従姉妹が東京に出てきた時「これが東京...しゅごい...!」って言ってた。新宿と渋谷の駅は魔境』...何これ?」
「ネタっす」
「こんなのでいいの?」
「いいんじゃないですか?」
その時感じたことを率直に書いて、あとで吟味して味付けする。
歌詞にするってなるともっといろいろ考えなきゃいけないんだろうが、俺が作曲する時にはこの程度で十分だ。
まぁ、今考えなければならないのは作曲ではなく作詞。もっと具体的な、言語化できるレベルのイメージが必要だろう。
「そうですね...例えばラブソングとか、その人の経験を元に書いてたりしそうじゃないですか? マイ〇アとか」
「あー、確かに。実体験をそのまま歌詞に、っていうのはよく聞くかも」
「ちなみにリサさん、恋愛経験は?」
「あるように見える?」
「ゴリゴリに」
「マジ? ないよ〜悲しいけど。うち女子校だしね」
えぇ〜? ほんとでござるか〜?
「リサさんならたいていの男引っ掛けられそうですけどね」
「それ褒めてる?」
「バリバリに」
リサさんくらい美少女なら彼氏の二人や三人、いても全然おかしくないだろ。
「あはは、じゃあ、ありがと? そういう海くんは? 恋愛経験、ある?」
「あるように見えます?」
「うん。ゴリゴリに」
マジ?
リサさんの目は節穴なんだろうか。
「俺もないです。人を好きになるって、イマイチよく分からなくて」
「あ〜、ちょっと分かるかも」
正直、愛情と性欲の違いがよく分かっていない。所詮は子孫繁栄のための本能だろ、とか思っちゃう。
こんな「斜に構えてる俺カッケー」みたいな厨二思考だからモテないんだろうな。
「まぁ、じゃあラブソング系は却下ってことで」
「えー。ちょっと書いてみたい気持ちもあるんだよね〜」
そういやリサさんって恋愛小説好きだったな。
そういうのに興味自体はあるんだろう。
「んじゃまた後日考えるってことで。
「やっぱアレじゃない? アタシたち現役高校生だし、こう、
「あー...香澄が言ってる『キラキラドキドキ』みたいなもんですか?」
「んー、多分そう? なんて言うんだろ。シンプルなパウンドケーキでも、手作りだと特別な感じがする...みたいな?」
なぜにパウンドケーキ? 余計分からなくなったな。
けどまぁ、俺とリサさんが考えていることはだいたい一緒だろう。
これを上手く言語化できるかどうか、ってのが作詞ができるかどうかに関わってくるわけだ。
「じゃあそういう方面で歌詞、考えてみますか?」
「そうだねー、とりあえず書いてみよっか☆」
リサさんは自分のノートを広げ、ペンを持ってウンウン悩み込む。
俺も作るか。どうせなら良いやつ作りたい。
さて......何を書こうか?
うーん。どうせHR/HM系になるんだし、なんかカッコイイこと...日常の中で...カッコイイ...瀬田さん? いやあれはちょっと違うか。
うーん...日常の中...カッコイイ...強いとか...
あ、そういやこの前姉ちゃんに勧められたアニメにヘラクレスって昔の英雄が出てたな。なんかスゲー強かった。
とりあえずググるか。
えー、ヘラクレス...ヘラクレス、っと...。
ギリシャ神話で最大の英雄。幼少時から数々の迫害を受けた。エウリュステウスに命じられた十二の難題解決はあまりに有名。国立西洋美術館入口にある銅像。
あー、アレか。弓引いてるマッパの男の像。そうだそうだ、あれ、作品名のとこにヘラクレスとか書いてあったな。そういや十二の難題も、いくつか絵画が飾られてたっけか。
そうだな...ヘラクレスの十二の難題解決を題材にしようか。
まず一つ目がネメアのライオン。どんな武器も炎も通さない強靭な皮を持つ猛獣相手に、素手で戦いを挑む。うーん、ロックだ。
暴れる猛獣相手に素手で戦いを挑む。男臭さが全開だから、ドイツのパワーメタルを参考に...
「って、え? ちょっと海くん、なんでギター弾きだしてんの?」
「え? なんでってそりゃあ曲を作るために...」
「アタシたちが考えてるのって歌詞だったよね?」
「......あ」
完全に作曲に走ってたわ。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
俺とリサさんが作詞を始めてから、だいたい二十分が経った。
時折隣から聞こえてくるリサさんの吐息や、漂ってくる甘い香りなんかと懸命に戦った二十分だった。作詞どころじゃねぇよこれ。何も書けなかったわ。
「ダメだーっ! ぜんっぜん書けない!」
投げ出すように叫んだリサさんは、大きく伸びをした。
そのまま後ろにあった俺のベッドに背中から倒れ込む。
「ん? あー、ごめん。海くんのベッドに突っ込んじゃって...あれ? なんかいい匂いする...」
やめろ匂うな。掛布団に顔を近付けるな。あんたの匂いが移るだろ。今夜の俺の身にもなれ。
「あー...柔軟剤じゃないっすか? 昨日洗濯してたんで」
「へー。なんかアタシの好きな匂いだな〜。柔軟剤は何使ってるの?」
「さぁ? 俺、洗濯とかしたことないんで」
「そうなんだ? 家事とか今のうちからしといた方がいいよ〜? 今時、男の人も家事をする時代だし」
「一人暮らしし始めたら考えます」
「絶対やらないやつだよそれ。親とかいない時、ご飯とかどうしてるの?」
「外食ですかね。あとは姉ちゃんが変な気配りしてきて、ひまりが飯作りにきたりもします」
あれはわりと意味が分からないんだよな。
ひまりも嫌な顔こそしないけど、突然人の家に飯作りに行けとか言われたら普通に嫌だし迷惑だろ。
いや、飯作ってくれるのは助かるから毎回ありがたく頂いてるんだけど。
「えー、通い妻じゃん。あ、もしかしてアタシ、ここにいたら浮気になる?」
「なんないでしょ。別にひまりと付き合ってるわけでもなしに」
ひまりはそういうのじゃないからな。
Prrrr...
と、スマホが鳴る。
画面を見ると、そこにはお母さんの名前が。
「ちょっとすんません、おかあ...母からです」
「あはは! そんなかしこまらなくても。お母さんね、どうぞ〜☆」
了承を貰ってから電話に出る。
「もしもし?」
『あ、海? 今大丈夫?』
「うん、大丈夫」
『そ。今日、仕事で帰れなくなったから。ご飯はお姉ちゃんに作ってもらいなさい』
「姉ちゃんも今日飲み会あるって言ってたけど」
『そうなの? カップ麺も確か切らしてたし...じゃあテキトーに外で食べてきなさい。レシート貰ってくれば、明日その分のお金あげるから』
「はいはーい」
そう返事をし、電話を切る。
「今日、親帰ってこないそうです」
「わ、やらしー」
「何が!?」
「あはは! ジョーダンジョーダン!」
この年上ギャルめ! そんなに年下の男を弄んで楽しいか!? もっと別ベクトルでの弄びを要求する!
「じゃあ今からひまりがくるの? なら変な勘違いされちゃう前に帰ろうと思うんだけど」
「いや、今日はこないんじゃないですか? 外食してこいって言われたし」
「そうなの?」
ふーん、と意味深な呟きを見せるギャル。
なんだ? 何か企んでんのか? 痛いのはやめてね。
「じゃあさ、アタシ、作ってあげよっか」
「? 何をですか?」
「今日の海くんの晩ご飯」
☆確変、突入──────
いるかどうかも分からない女性読者をさらに減らしそうな「男の子」丸出しの話ですいません。
ちなみに、ひまりが乱入してきて案の定誤解をして修羅場る、という展開は(どろどろし過ぎそうで作者の趣味から逸脱するので書か)ないです。
Q.どうしてそんなにひまりちゃんを虐めるんですか?
A.物語の進行上仕方がなかったんです。ひまりメインの話書いてイチャコラさせるから許して。