ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
いっけなーい! 混乱混乱!
俺、関口。16歳! どこにでもいる至って普通の男子高校生!
でもある時、知り合いの美少女ギャルと自宅で作詞にチャレンジしていたら、親が帰ってこなくてギャルと家に二人きりになっちゃってもう大変! しかも美少女ギャルから今夜のご飯を作ってあげるって言われちゃって!?
一体俺、これからどうなっちゃうの〜!!?!?
「さーてとっ。海くん、苦手なものとかある?」
「あ、セロリ......」
「セロリねー。りょーかい☆ まぁセロリはあんまり使わないし、大丈夫か☆」
いや、ほんとにどうなっちゃうの?
うちのリビングのうちのソファで何作ろっかな〜と思案顔の美少女ギャル、リサさん。
この状況、正直嬉しさよりも懐疑心が勝つ。
なんだ? いつの間にリサさんルートに突入した? あとで法外な金でも迫られるのか? いやリサさんに限ってそんな...でも相手はギャルだし...
と、リビングの隅っこで震えている。
「よし!」
「ヒャイッ!」
変な声出た。
「買い物行こっか、海くん!」
「宝石とかはちょっと...そんな大金持ってないので...」
「何言ってんの? 宝石? アタシ、そんなの買わないよ?」
良かった。宝石とかじゃないらしい。
じゃあ何を買わされるんだ。高級車とかか?
「近くにスーパーあったよね? あ、エコバッグある? レジ袋代、節約しないと☆」
スーパー?
「ほら海くん、何突っ立ってるの? 夕飯の買い出し、行くよ〜」
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
あれよあれよという間に、近所のスーパーまでやって来た。
そして今、俺はリサさんと一緒に精肉コーナーを周っている。
「お、豚肉安いじゃん。ラッキー☆」
精肉コーナーとか久しぶりに来た。小学校以来か?
自分じゃアイスかお菓子が置いてるところくらいしか行かないし、お使いを頼まれた時も肉は北沢精肉店に買いに行ってるからなぁ。
高い買い物をさせられることはないと分かって安心こそしたが、未だに「リサさんが俺の晩飯を作ってくれる」という状況が飲み込めない。
「あの、リサさん」
「んー?」
「飯、何作るんですか?」
「えー? ふふん、ひ・み・つ♡」
ドチュン!(ハートを撃ち抜かれる音)
ふんふんと鼻歌を歌いながら買い物カゴに商品を入れていくリサさん。何これ、新婚?自分、幸福死してもよろしいか。
カゴの中には、豚肉とじゃがいも、にんじん、玉ねぎが入っている。
「豆腐も安い! いいスーパーだね☆」
言いながら、豆腐を一パック手に取り、カゴに入れる。
へー、この豆腐安いんだ。普段買い物とかしないから全然分かんねぇや。
ということは、リサさんは普段からよく買い物をしている...? 何それ、家庭的ギャル? 好きになっちゃう♡
「あ、いちご割引になってるやつある〜。海くんっていちご好き?」
「あはい、好きです」
「そ? じゃあ買っちゃお〜♪」
嬉しそうに、二割引きのシールが貼られたいちごのパックをカゴに入れる。
なんだこれ。もしかしてこれが“幸せ” ...? やっぱり自分、幸福死してもよろしいな? ヨシ!(錯乱)
「なんだかこういうの、同棲したてのカップルみたいだよね☆」
やぁ! みんな、俺だ!
人は過度な幸福で死ぬ! 俺は灰になって消える! それじゃ!
「...え? え、ちょ、海くん!? え? ひ、膝から崩れ落ちてどうしたの!?」
燃え尽きたんですよ...真っ白な灰にね...
「ねぇ〜! 恥ずかしいから立ってよ〜! ほら、周りから見られてるからぁ!」
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「いやぁ。一時はどうなることかと思ったけど、なんとか帰ってきたね」
「すいませんでした」
訳の分からない核兵器みたいな言葉の暴力を受けた脳がショートしてしばらく動けなかったが、そのおかげか、復活後は少しは冷静になれた。
よくよく考えてみれば、美少女がうちに飯を作りにくるなんざ慣れたもんよ。うちのひまりを
「たっだいま〜☆ う〜さむさむっ」
俺の家に「ただいま」と行って上がり込むリサさん。無意識なんだろうけど、この人はどうしてこう、俺の心を不要に擽るのだろうか。
「暖房付けますね」
「ありがと〜☆」
「ホットカーペットも付けたんで、そのうちコタツも暖かくなるはずです」
うちのコタツは食卓も兼ねている。
飯を食う頃にはちょうど良く温かくなっているだろう。
「ありがと〜☆ いやぁ、コタツの魔力はすごいからね〜。亀になっちゃう前に、さっさとご飯作っちゃお」
上着を脱いだリサさんは、「ちょっと置かせてもらうね」とソファの上に畳んで置いた。
良かった。ここで流れるようにハンガーラックを使われていたら、本当に同棲していると錯覚するところだった。
「あ、何か手伝うことあります?」
「んーん! 大丈夫! 海くんはゆっくりしながら待ってて〜」
「いやでも、それはさすがに申し訳ないっていうか...」
「ん〜...あはは、ごめん」
なぜ謝罪。
「ひまりから聞いたことあるんだよね。海くん、引くほど料理下手...っていうか、料理は全くできないって」
「えっ」
「中学の調理実習でハンバーグ作った時、なんか緑色の物体を創り出した上に、家庭科の先生に食べさせて病院送りにしたってマジ?」
ひまりの野郎、次会ったら俺特製のスープ食わせてやるからな!
ということで、誠に遺憾ではあるが、被害者を出さないためにも俺は待機となった。
いや、分かってるんだ自分でも。俺の作るモノはヤバいって。
これでも「このままじゃ将来生きていけない」と奮起して料理を覚えようと思った時期もあったんだ。けど、味見の段階で俺がトイレから出られない体になってしまうので、料理の腕が上がる前に俺の心が折れてしまった。
「料理は外で食った方が美味い、自分で作る価値は一つもない。材料費だって一人分だと高い。結局は外で食った方が
「何やってんの?」
「作詞です」
ポロローン...とギターを鳴らしてみる。
不甲斐なさで泣きそうだ。
それはそうと、姉ちゃんのエプロンを身につけたリサさんがそこにいた。なんだただの新妻か。絶対幸せにしよ。
俺の細君(偽)はサラダの入った皿を二皿持ち、食卓の上に並べている。
「あれ、もう出来たんですか?」
「ううん、まだだよ。サラダだけ先に出しちゃおうと思って」
キャベツの千切りにプチトマトが二つずつ。
すげぇなこの千切り。めっちゃ細い。もうプロじゃん。
そういやキャベツって豊胸にいいらしいな。姉ちゃんも高校生くらいの時、狂ったようにキャベツ食ってたっけ。
「リサさんってキャベツ好きなんですか?」
「え? んー...まぁ嫌いじゃないかな。よく食べるよ」
ふーん。
そういやひまりも、うちで飯作る時はよくキャベツ出してくるなぁ。
Kai『ひまりー』
Kai『お前さ、キャベツ好き?』
Himari『好きといえば好きだけど』
Himari『どうしたの急に』
なるほどね(理解)
Kai『なんでも。ただちょっとした確認』
kai『お疲れ様です』
Kai『特に深い意味はないんですが、キャベツってよく食べますか?』
白金燐子『お疲れ様です=͟͟͞ ( ˙꒳˙)꜆꜄꜆ 』
白金燐子『キャベツですか?(。・_・?)』
白金燐子『週に数回は食卓に並びますね(`•ω•′)✧︎』
やっぱりな(完全理解)
こりゃ市ヶ谷さん辺りも食ってんな、キャベツ。謎は全て解けた。
「キャベツは万能、みんなの夢が詰まってる。ロールキャベツに回鍋肉、千切りサラダにキャベツ焼き〜」
「何やってんの?」
「作詞です」
AR○Faとかホル○ンとか岡○体育辺りでありそうだよな、キャベツの歌。
「海くんって頭良いのに、ちょいちょいアホだよね」
なんだと!(憤慨)
「おかずもすぐ出来るから、もう少し待っててね☆」
「はーい」
おかずって何が出てくるんだろう。わくわく。
ちなみに私が好きな食べ物は肉じゃがです。あとオムライスとハンバーグも好き。
少し時間もあることだし、曲のコピーでもしておこうか。最近はライブに追われてて好きな曲のコピーってやってなかったからな。
いや、ライブでやるのは好きな曲ばっかりだから、好きな曲をコピーしてるっちゃしてるんだけど。なんかこう、気持ちが違うじゃん。ライブでやんなきゃいけないっていうのと、好きなようにやるってのではさ。
アンプに繋ぐ時間はないが、まぁ暇つぶしだし生音でいいだろ。
スマホにイヤホンを差し、曲を流す。
完コピもいいが、めちゃくちゃなアレンジしてみるか。ボーカルを邪魔する感じで。バンドじゃ絶対にできないことだから、こういう時にやるに限る。
「ごめん海くん。おかずは出来たんだけどお米炊けるまであと十分くらいあるから...あれ? なんかその曲聞き覚えあるような...」
原曲には存在しないギターソロを弾き始めたところで、リサさんがキッチンから顔を出す。そこで初めて、俺が弾いているギターの音をちゃんと聴いたようだ。
「あ、これBLACK SHOUTです」
「うそ、そんなリフないよね?」
「勝手に作りました」
「すご! え〜、もっと弾いて弾いて!」
キラキラした目で見てくるリサさん。ふへ、緊張しちゃうな。
イヤホンを外し、スマホから音源を流し始める。
イントロは一切手を付けない。このゴシックメタルみたいな入り、とても好き(告白)
メタル特有の“クサさ”こそないが、退廃的かつ神秘感がある中で妙にキャッチーなところもある。こんなのを現役女子高生が考えたってんだから驚きだ。やっぱすげぇよ、Roselia。
下手に手を入れて雰囲気がぶっ壊れるのは俺が良しとしない。めちゃくちゃに歪ませてリバーブをかけた六弦の開放弦を薄く鳴らしせばまだ良い感じになるかもしれないが、今は生音だしな。
三十秒ほど経ち、
ここも基本は原曲に忠実に。だがしかし、次のコーラスが入る寸前でテキトーな早弾きを入れた後にチョーキング。ここはドラムに合わせた。
Aメロもそんな感じで、ほとんど原曲通り。途中のベースソロも俺は好きなので介入しない。Bメロも同じだ。
だが、サビからは違う。これでもかとピロピロ鳴らし、ボーカルを邪魔するように前に出る。
友希那さんが聴いたら、多分嫌な顔をするんだろうな。
そう思いながら間奏でもシンセを喰う勢いで弾き倒し、チョーキングで伸ばしながら二番Aメロにイン。
二番も一番と同じように弾きつつ、二回目の間奏に入る。
ギターの真髄はここからだ。
最初はプチブレイクダウン、そしてベースのスラップムーヴメント。それが終われば、俺の番。
本来はシンセが出てくるところをギターで喰う。
トリルにタッピング、チキンピッキングにビブラートで“泣き”を作りながら、最後はやっぱりチョーキングで締める。チョーキング、大好きナノ。
Cメロにはアルペジオを。その後ラスサビに入る前の一瞬の空白が気持ちいい。
ラスサビまで弾き切り、最後はコードで終わる。
うーん、これこれ。バンドも楽しいけど、こういう「誰にも気を使わずに遊び散らす」っていうのも楽しいんだ。
「すっご〜! ほんと上手いね、海くん!」
パチパチパチと手を叩いて褒めてくれるリサさん。いいね、褒められると嬉しくなっちゃう。
「まぁ、友希那さんにはあんま聴かせられないやつですけどね」
「え、なんで?」
「いや、ボーカルの邪魔がハンパないですし」
「あ〜、確かに。怒ることはないだろうけど、バンドなのに音で喧嘩しちゃうのはよくないよね」
うんうん、と腕を組んで納得している。
バンドなのに音で喧嘩するのは良くない、か...耳が痛いな(←新曲を作るたびにドラムと音で殴り合ってはベースの才能にねじ伏せられてる人)
「アタシももう少し上手ければな〜。Roseliaの足、引っ張ってばっかだし」
「? リサさんは十分上手いでしょう」
「そうかな〜? ほら、誠くんとか、まだベース歴一年もないのにすっごく上手いじゃん?」
「
あいつはマジで狂ってやがる。まだ一年も続けてないくせにスリーフィンガーとして覚醒するわ、スラップやスウィープも半日でほぼマスターするわ。あとそうだ、ベース始めて一ヶ月と少しの頃にユ○ゾンのphantom j○keを完璧に弾いてきたこともあったな。
バンドに誘った俺、マジで今世紀最大のファインプレーだと思うわ。
「この半年間の上達率で言えばリサさんも中々でしょう? 初めて会った時よりめちゃくちゃ上手くなりましたよ」
「そう?」
「はい。最初は『コーラスしながらリズムキープするのムズい〜』とか『指板見ないで弾くのムズい〜』って言ってましたけど、今はもう完璧じゃないですか」
「あはは! え〜、その頃の話はちょっと恥ずかしいね。でもまあ、うん。成長はしてる...のかな?」
「してますよ。ちょーしてます」
Roseliaは最初から上手かったけど、最近はもっと上手くなってきている。
あこちゃんもそうだが、この二人の成長が特に著しい。たくさん練習したんだろうな。素直に尊敬できる。
「あ、そうだ。初めて会った時といえばさ」
テレテレしててかわいいなこの人、と思っていたら、突然思い出したように話題を変えてくるリサさん。
初めて会ったのは...あれか、CiRCLEでひまりたちにギター買ったの自慢してた時か。
「実はね、アタシ、その前から海くんのこと知ってたんだ」
「え?」
何それ、怖い話?
「海くんさ、楽器屋さんでギター値切ってたでしょ」
「え...え、なんで知ってるんですか?」
その話は誰にもしてなかったはずだ。
だって値切り交渉したとか、ちょっと恥ずかしかったし。
え、まさかここに来てリサさんストーカー説浮上?
「あ、別に後をつけてたとか、そういうのじゃないからね? だからそんな怯えた顔しないで」
ホンマか?
美少女とはいえさすがにストーカーは引いちゃうんだが。
「あの楽器屋さん、鵜沢さんがバイトしてるじゃん?」
そうなの?
「アタシもよく弦とか買いに行ってるんだ〜。海くんを見たのはたまたま。ほら、結構おっきな声で値切ってたでしょ?」
マジでか。アレ聞かれてたの?
いやまぁ、確かに興奮して周りなんて見てなかったし、声も大きかったかもなぁ。恥っず。
「まぁ、見た、って言っても、その時は顔見れなかったんだけどね」
「そうなんですか?」
「うん。あの時海くん、急いでお金下ろしに行ったでしょ? 顔見る前にいなくなっちゃって」
結構細かいとこまで覚えてんなこの人。
「その後、CiRCLEで偶然の再会! さらにはRoseliaにアドバイスとかして貢献してくれるコーチ?になるなんてね〜。これってなんて運命? って思っちゃう☆」
運命は大袈裟すぎひんか?
そんなこと言ったらたまたま席が近かったってだけで一緒にバンドすることになった須田はどうなるんだ。あいつには感謝してるし感動もしてるけど、あいつと運命で出会いましたとか嫌だぞ。
「そうだ! 海くんとの出会いを歌にしてみよっかな〜」
「やめてください」
そんなのがコンテストに出されるってのも恥ずいし、Roselia内で共有されるのも恥ずい。つーか仮に良いの出来たらRoseliaの楽曲になるんだろ? 自分が歌にされるのは普通に恥ずいから嫌だわ。
キッチンの方から「テーレーテーレーテーレーレ」と軽快な音が聞こえてくる。米が炊けた音だ。いつも思うんだけど、なんでキラキラ星なんだろうな? 香澄とか好きそう。
「お、炊けたね〜。じゃあよそってくるから。お茶碗とかってどこ?」
「あ、さすがにそれくらいは手伝います」
「ほんと? ありがと☆」
別に感謝されるようなことじゃないと思うが、リサさんに感謝されるのは気持ちが良いので甘んじて感謝されよう。
飲み物も準備したらもっと感謝してくれそうだな(子供の手伝い)
「リサさん、飲み物お茶でいいですか?」
「あ、うん。ありがと〜☆」
やったぜ!
米をよそった茶碗を二つテーブルに運び、一旦戻ってからお茶をコップに注いでテーブルに持っていく。
「米とお茶運びました〜。あと何か持ってくものあります?」
「じゃあお箸お願ーい。あ、アタシが使っていいお箸とかある?」
「えっと...姉ちゃんのかお母さんのでいいですかね? ...あ、待ってください、使ってない箸が確か食器棚のこの辺に......っと、あったあった。百均のお徳用みたいなヤツっすけど、これなら未使用です」
「じゃあそれで☆」
...なんかこういうの、ほんとに新婚みたいだな。相手が嫁入りしてきた感じの。
「なんかこういうの、同棲っていうより新婚みたいだね。嫁入りしてきた感じの。あはは、ちょっと照れちゃうよ...」
リンクする思考。
瞬間、俺の脳内に溢れ出した存在しない記憶。
『あなた?』
『あなた〜!』
『パパ♡』
「どけ! 俺はパパだぞ!」
「!? え、何!? どうしたの急に!?」
リサさんとのイマジナリードーターが視えた。
軽率に照れ顔晒してんなよ
「......すいません、ちょっとお手洗いに」
「え? あ、う、うん...どうぞ......」
ドタドタ(落ち着かない足音)
ギィ(トイレのドアを開ける音)
バタン(閉める音)
Arrrrrrrrrrrrrrrr!!!!(
ギィバタン(トイレのドアの開閉の音)
トットッ(落ち着いた足音)
ビタンッ!(転けて顔面を強打した音)
「お待たせしました」
「鼻血出てるけど」
「気のせいでは?」
「いや鏡見なよ」
一旦顔を洗いに洗面所に行き、冷水を顔にぶちまけることでようやく落ち着いてきた。
今のはヤバかった。『リサさんがうちで飯を作ってくれる』っていう今の状況ですら脳内処理ギリギリ(?)だったのに、ちょくちょく飛び出るセンシティブな照れ顔と発言で溜まりに溜まったアレが暴発しかけたな。
一発頬を叩き、気合いを入れ直す。
これ以上粗相をしたり無礼を働いたりと、無様を晒すわけにはいかない。他でもない、善意で俺の飯を作ってくれているリサさんに対して失礼にだろう。
決意の籠った足取りで、俺はリビング(食卓)へと向かう。
「お待たせしました。結婚しましょう幸にし────うっ!」
「え!? なんで自分の頬を打つの!?」
「すいません口と手が勝手に」
もう(俺の理性が)ダメかも分からんね。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「落ち着いた?」
「...なんとか...」
混乱を解除するために十分ほど時間を貰い、シャワーを浴びてみた。
シャワーを浴びている途中「えこれ事前?」とかも思ったが、シャワーを冷水に切り替えたことで身も心もスッキリ! 引き締まる越えて風邪引くでこんなん。
しかし、極寒を味わった甲斐があり、歌詞作りの時から少しずつ積もってきていたいろいろな欲望が冷水と一緒に流れていった。
「さぁ、ご飯を食べましょう。もう何も怖くありません」
「何がそんなに海くんを苦しめてるの...?」
アンタだよ(ぷち怒)
まぁそれも済んだこと...いやまだ済んでないかもしれないが、とにかく一旦は終わったことだ。
気を取り直して飯にしよう。
テーブルの上を見れば、俺が用意した米とお茶、先にリサさんが持ってきてくれていたサラダ、味噌汁、いちご(練乳添え)。
そしてそれらの真ん中に堂々と鎮座する今晩のおかず───肉じゃがの姿があった。
わーい肉じゃがだー!(退行)
「海くん、肉じゃが好き?」
「一番好きです」
「そうなの? 良かった〜☆ ちなみに二番目に好きなのは?」
「カレーとハンバーグの同着です」
「小学校男子、って感じだね」
悪かったな。
好きなもんは好きなんだよ。美味いだろ、肉じゃがカレーハンバーグ。肉じゃがとカレーは同じようなもんだけど。
グゥ〜...
好物を目の前に腹の虫が食卓に響く。
「お腹すいたの? ご飯食べようね〜」
「バブー!(いただきまーす!)」
「なんて?」
まず最初に、いきなりメインディッシュの肉じゃがに手をつける。
普段はまずサラダを食べてからおかずに行くのだが、今ばかりは我慢が効かない。ずっと己と戦ってたから腹減ってたんだよな。
肉じゃがの肉を真っ白な米の上に乗せ、一緒に口に放り込む。
「む! ふぇっひゃふふぁい!!」
「ちゃんと飲み込んでから喋りな〜?」
もぐもぐごっくん。
「めちゃくちゃ美味いです!」
「そう? お口に合って良かった☆」
正直俺は馬鹿舌で味の細かい部分はあんまり分からないが、これは本当に美味い。
あとなんだろ。米が良い。いつも食ってるやつより水分が少ないのかな? 肉じゃがの汁をよく吸う。
じゃがいもも一口。うーんホクホク。どうしてあの短時間でこんなにホクホクになるんだ?
「じゃがいもは先にレンチンしたら煮込むより早く柔らかくなるよ」
なるほど。
サラダを皿の半分ほど食べ、味噌汁を啜る。美味い。心做しかサラダもいつもより美味い気がしてきた。同じ草なのにな。
「そういえば、海くんの家は麦味噌使ってるんだね」
俺の反応を見守っていたリサさんも食事を始める。
俺とほとんど同じタイミングで味噌汁を啜り、「へー」と感心した様子だ。
「うち、母方の実家が九州で。味噌汁は昔から基本麦ですね」
「そうなんだ。アタシ、麦味噌って初めて使ったよ。こんなに色も味も変わるんだね」
こっちも美味しー、と味噌汁を味わっている。
確かに結構違うよな。お母さんが九州出身だから、うちで出る料理は基本九州に寄っている。
醤油も甘いし、ラーメンはとんこつ麺細めバリカタが主流だ。
「海くんは麦と米、どっちが好き? やっぱり母の味だし麦?」
「いや、俺はどっちかっていうと赤色系の米味噌の方が好きですかね」
「そうなの?」
小学校に上がって初めて給食で味噌汁を食った時、わりとデカめな衝撃を受けたことを覚えている。
米味噌の方が味が濃いんだよな。麦味噌のあっさりした感じもいいけど、俺は味がしっかり濃い方が好きだ。
こうやって濃い味のものばっかり食べるから、どんどん馬鹿舌になっていくんだろうな。
「じゃあ次はアタシのうちで作ってあげる☆ うちは米味噌だから」
「ゑ?」
「言ったっしょ? 一緒に作詞する時はお味噌汁作ってあげる、って」
「マジだったんすか」
「マジだったんすよ☆」
☆幸福、続行────
そうか、まだ続きがあるのか。
よく考えればまだ作詞終わってないしな。コンテスト出す用のやつ早く考えなきゃ。
「アタシ、こういうので書こうかなって思ってるんだ〜」
「こういうの?」
「うん。こういう、同棲みたいな? ただのカレカノってとこからちょっと進んだカップルのラブソング」
「ゲホッ! ゲホッ!」
「ちょ、大丈夫!?」
肉じゃがの出汁が変なとこ入った。
何言ってんだこの人。正気か?
「ほら、アタシ恋愛小説好きじゃん?」
「まぁ...そっすね」
リサさんにおすすめしてもらった恋愛小説面白かった。『阪急○車』とか『世界の中心○愛を叫ぶ』とか。
「恋愛ドラマとか恋愛映画も好きじゃん?」
「ぽいですね」
そんでキスシーンとかで赤面してそう。
は? かわいいかよ。この乙女め。
「だったらやっぱりラブソング書くっきゃないでしょ!」
そうかなぁ?
「ってことで、今回のこれも作詞の取材? みたいな感じ! 付き合ってくれてありがとね☆」
なるほどなぁ。
なんで突然『平凡な僕のもとにやってきた美少女ギャルが夕飯を作ってくれる件について』とかいう絶対に売れないラノベ的な展開が巻き起こったのかと思ってたら、そういうことだったのか。
いやどういうことだよ。
「あ、
なんだこのギャル、誘ってんのかよいい加減にしろ(激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム)
「食べるー!」
「あはは! 元気が良くてよろしい! 次はハンバーグ作ったげるね〜」
「やったー!」
口が勝手に動いた。
そうはならんやろ()