ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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大人はいつだって汚いが、それが社会を生き残る術でもある。

 

 

 

 

 

 

 とある日の夜。

 

「おまたせ〜! ご飯できたよ〜」

「うーい」

 

 テレビで歌番組を見ていると、キッチンからそんな声が聞こえてきた。

 テレビは付けたまま立ち上がり、配膳を手伝うためにキッチンへと向かう。

 

「お米はどのくらい食べる?」

「大盛り」

 

 二人分のお茶を用意し、コタツ(食卓)へと運ぶ。

 ついでに箸も、お互いの専用のものを食器棚から取り出して持って行った。

 

 ふとテレビを見ると、最近話題の男アイドルグループがキラキラした笑顔で踊り歌っていた。

 はー。あんなに動いてるのに笑顔を保ったまま歌えるの、ほんと凄いな。

 

「あ、この曲知ってる〜。今やってる恋愛ドラマの主題歌だよ」

「へー」

 

 最近ドラマとか観てないな。

 いやそもそも恋愛ドラマはそんなに観ないんだけど。ミステリーとか大河とかはたまに観る。

 

 コタツに料理が並ぶ。

 今日のおかずはチキン南蛮か。

 

「タルタルソースも自作なんだよ!」

「まじ? すげーな」

 

 ソースを作るとか、俺じゃ絶対にできないしやらない。自分で作るより市販のものを買った方が美味いし安全だから。

 

「じゃあ食べるか」

「うん! 召し上がれっ」

 

 飯を用意してくれた人───ひまりに「いただきます」を言ってから、俺はキャベツの千切りに手を付けた。

 

 

 

✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 今日はお母さんは仕事、姉ちゃんは飲み会と、家に俺以外いない。

 こういうのは良くあることだし、そういう日はたまにひまりが飯を作りに来てくれる。

 昔は変な感じがしたもんだが、今となっては慣れてしまった日常の一つだ。

 

「うーん、やっぱり選ばれたのはキャベツでした」

 

 野菜にもいろいろあるのにわざわざキャベツを選択してくるあたり、やはり豊胸効果説は濃厚なのか。

 

「海、キャベツ好きなんでしょ?」

「いや? まぁ嫌いじゃないくらい?」

 

 どこ情報だそれ。

 

「そうなの? この前急に『キャベツ好き?』って聞かれたから、てっきり好きなんだと思ってた」

 

 俺情報だったか。

 訂正しようかとも思ったが、掘り下げたところで出てくるのは「キャベツに豊胸効果があるかどうかの確認」というセクハラ発言のみ。いくら幼馴染み(ひまり)相手とはいえ、そこまではっきり言うのは気が引ける。

 よってスルー。話題を変えよう。

 

「お、チキン南蛮美味い。あとタルタルも。やっぱひまりの飯はうめーわ」

「そ、そう!? えへへ...」

 

 実際かなり美味いと思う。馬鹿舌判断なのであてにはならないと思うが。

 そんな馬鹿舌でも分かるくらい、ひまりって料理の腕上がったよな。なんか俺の姉ちゃんに料理教えてもらったりもしてるんだっけ。

 

「なんつーか、関口家(うち)の味に近付いてきてるよな。また姉ちゃんになんか教えてもらったの?」

「うん! 今日使ってるので言うとチキン南蛮の甘酢ダレのレシピとか、それ以外だとこの前がめ煮の作り方教えてもらったよ」

 

 がめ煮。

 あれ美味しいんだよな。今度作ってもらお。

 

「お味噌汁もちゃんと麦味噌使うようにしたし! ...まぁ正直、いつも私の家で使ってる米味噌の方が好きなんだけど...」

「俺も」

「え!? そうなの!?」

「おん。ひまりん()の味噌汁美味いよな」

「じゃあ早く言ってよ〜! 今日のお味噌汁、麦味噌で作っちゃったよ!?」

「別に、どっちも好きだしいーよ。どっちかってゆーと米味噌の方が好きかなってくらい。味が濃いから」

「あー...確かに海、味が濃いもの好きだもんね。だから馬鹿舌になるんだよ」

「なんだと!」(憤慨)

 

 自分で言うのはいいけど、人に言われると無性に腹立つことってあるよな。今がそう。

 

 しかし、先日あんなにも取り乱した『ドキドキ♡ 美少女ギャルとの新婚ごっこ』と似たようなシチュなのに、今日は全くかけらも緊張しないな。

 これが幼馴染みの力か。

 まぁうちにはひまり専用の茶碗やら箸やらが置いてあるくらいだしな。もはや親戚くらいのノリだ。ノリ○ケおじさん。

 

 

 その後も他愛ない雑談をしつつ飯を食べ、食べ終わったら食器を片付ける。

 さすがに皿洗いくらいは俺がやると毎回言ってるんだが、ひまりはいつも手伝ってくれていた。優しいやつだ。いい(母親)になるで、こいつは。

 

 皿洗いも終わり、温かいお茶を淹れてコタツに入る。

 さっきまで水を触っていたために冷え切っていた手を、湯呑みを触ることで温める。

 少しお茶が冷えてきたら、火傷しないようにゆっくり一口。

 温かいお茶が食道を通っていくのが分かる。美味い。

 

「ぁあ"〜...」

「海、それおじいちゃん臭いから辞めた方がいいよ」

「もうジジィだよ、俺は」

「十六歳が何言ってんの? ってゆーか、そんなこと言ったら同い年の私はおばあちゃんってこと?」

「そゆこと」

 

 おいやめろ、クッションで叩くなホコリが舞う。

 

「嘘嘘、お前はピチピチのJKだもんな」

「う〜!!」

「唸るな睨むな。お前が睨んでも可愛いだけだぞ」

「うっ!?」

 

 何今の声。狙撃された?

 

「う〜! う〜! うしゅぅ...」

 

 うしゅぅ?

 何の表現だそれは。ちゃんと人語で伝えてくれ。

 

 Prrrrrr...

 

 電話? 相手は...日菜さん?

 こんな時間になんだ?

 

「もしもし?」

 

 壊れたひまりは放っておき電話に出る。

 電話を無視したところで鬼電がかかってくるだけだし、何より無視をする理由がない。

 

『あ、海くん久しぶり〜』

 

 言うほど久しぶりか?

 二週間くらい前に会った気がするけどな。弦巻家の新年会で。

 

「お久しぶりです。何か用事ですか?」

『うん、ちょっとお仕事の電話〜』

「仕事?」

 

 なんだ? またパスパレのライブに出ろとか、パスパレと一緒にロケ行ってこいとか、そういう話か?

 沖縄だったら行くわ。暖かそうだし。

 

『え、何? 彩ちゃん』

え!? い、いや、なんでもないよ!

彩サンは「私が電話しようと思ってたのに〜!」と言ってます!

ちょ、イヴちゃん!?

『え〜? 別に誰がしても良くない?』

 

 なんだなんだ。何だか騒がしいな。

 声が遠くて全部は聞き取れないけど、丸山さんや若宮さんもそこにいるのか?

 

『彩ちゃんがうるさいからササッと要件伝えちゃうね〜』

 

 日菜さんのそういう悪意がなくてドライなところ、俺は好きだよ。丸山さんがちょっと可哀想だけど。

 

『海くん、っていうかCapliberteになんだけど、曲作って欲しいの』

「曲っすか」

『そー。パスパレ用のやつ』

 

 なんで?

 

『横から失礼するよ。久しぶり、海くん』

 

 突如聞こえてくる男の声。

 この声には聞き覚えがある。

 

「出たな御剣! 次こそはアンタもテレビに顔出しさせてやるからな!」

『あっはっは! うんうん、そういう年上を一切敬わない態度、嫌いじゃないよ』

 

 うるさい!

 ネットには『俺スレ』とかいうのが立ってるらしいんだぞ! 内容は怖くて見てないけど、肯定的なのが多いけど批判的なものもあるって五十嵐が言ってたぞ! 全部お前のせいだかんな! 誰が敬うかバーカバーカ!

 

『それはそうと、日菜ちゃんが今言った通り、楽曲提供を依頼したくてね』

 

 だからなんで?

 

『ああ、作曲だけでいいんだ。作詞の方はキミのお友達...Afterglowに依頼しようと思ってる』

「は?」

『だってキミら、曲はカッコよくても作詞は目も当てられないらしいじゃないか』

 

 なんだァ? てめぇ...

 

『その点、Afterglowの等身大な歌詞には熱いものを感じる。キミらCapliberteの作編曲と、Afterglowの作詞。この二つが合わされば、シナジー効果で最高の曲ができると思わないかい?』

 

 思わないかい? じゃねぇんだわ。

 確かに楽しそうではあるが、なぜそれを他人に言われてやらなきゃならんのか。それが分からない。

 

『もちろん、CapliberteにもAfterglowにも利点はある。第一に宣伝効果だ。こっちは芸能事務所、プロの世界で活動している。全国にキミたちの名を知らしめることができるよ?』

 

 なるほど。

 要するに、広告してやるから曲を寄越せ、ってことか。

 

「ナメんな。そんな目的で音楽やってるわけじゃないんですよ」

『まーまー。宣伝のほかには、もちろん報酬だね。さっきも言った通り、こっちもプロだ。相応の対価は支払うさ』

「だからナメるなっての。金目的でもないんスわ」

『でもお金は欲しいだろう?』

 

 そりゃもちろん欲しいけどさぁ。そういうのじゃないんだよな。

 

 いやまぁ、そこは価値観というか、生きている界隈の違いか。

 俺らは趣味として音楽をやってるが、あっちは音楽(それ)で飯を食ってる。プロである以上、ビジネス的な価値観は付いて回るもんだ。

 

『え、あ、ちょ、千聖ちゃん? やめてスマホ取り上げようとしないで! ま、まってその関節はそっちには曲がらな────うっ!』

『──もしもし?』

「...え、千聖さん?」

 

 なんだ、何が起きた。

 御剣さんは痛めつけられたのか? ヨシ!

 

『こんばんは、海くん』

「あ、はい。こんばんは...」

 

 耳元から推しの声が聞こえる。

 心臓に悪い。

 

『さっきのアホの話だけれど』

 

 御剣さん、千聖さんに「アホ」って呼ばれてるのか。いい気味だ。

 

『楽曲の提供について、私からもお願いするわ。ただこれは、今までの「少しライブに出る」とか「ちょっと一緒にロケをする」とは違う、大きな話』

「ライブもロケも十分デカい話だと思いますけど」

『ビジネス規模の話よ。あるいは、貴方たち...いえ、私たち含め、全員の成長も加味すれば、間違いなく過去最大の話だと思うの』

「はあ...」

 

 まぁ、CapliberteやAfterglowはプロの楽曲に関われることで視野やそれぞれの世界が広がるし、パスパレは系統の違う曲をやることで幅が広がって、かつ話題にもなるってことか。

 

 ライブやテレビ出演とは違って、楽曲となると動く金も長期的なものになる。

 アルバム販売もそうだし、最近だとサブスクなんかの再生数でも売上が発生する。

 パスパレは人気アイドルグループ。ロイヤリティだけでも中々な金になるだろう。

 

 あー、やだやだ。

 ライブに出て収入を得るのはまだいいんだけど、それ以上は求めてないんだよ。そういうのを考えて音楽やるのがやだ。

 

『それに私としては、そういう大人の話より、貴方たちの作ったものを演奏してみたい、という気持ちが大きいわ』

 

 ...ん?

 

『え、何? 彩ちゃん。...はいはい、分かったわ。海くん? 少し彩ちゃんに代わるわね?』

『も、もしもし! こんばんは!』

 

 声でっか。耳痛い。

 

「...今の声、彩先輩?」

 

 ひまりが復活した。

 一瞬マイクを手で覆って、こっちの声があっちに届かないようにする。

 

「今パスパレの事務所から電話かかってきてんの。仕事の話だって」

「仕事? 海も大変だね」

「今回はお前らも巻き込まれる側だぞ」

「え?」

 

「あ、もしもし。お待たせしました」

「え、ちょっと海、どういうこと!?」

 

 ひまりがうるさいが放置だ。

 あとで説明してやっから、とアイコンタクトで伝える。絶対だよ! とアイコンタクトで返ってきた。

 

『いきなりごめんね? こんな話。迷惑だよね...?』

「いや、迷惑とかじゃないですけど...」

 

 困る話ではあるよな。

 第一、こんなの俺だけで決められる話でもない。須田や五十嵐にはもちろん、Afterglowとも話し合う必要があるだろう。

 

『でも、さっき千聖ちゃんが言ったみたいに、話題作りのためっていうより、私たちが海くんたちの作った曲を演奏したい、歌いたいって気持ちがあるの!』

 

 ...うーん。

 そういう風に言われると悪い気はしない。

 そこには確かに大人たちの思惑があるのだろうし、その辺は嫌いだが......丸山さんや千聖さんの言葉には応えたくなる。

 

 

「...一旦考えます。メンバーにも相談しなきゃなんで」

『! う、うん! 分かった! ありがと!』

「あ、あと千聖さんへの伝言頼んでいいですか?」

『へ? あ、うん。いいよ』

「御剣さんをもっといたぶってください、でお願いします」

『ふぇえ!?』

 

 松原さんみたいな声出たな。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 翌日の放課後。

 俺たちCapliberteとAfterglowは羽沢珈琲店に集まり、窓際の特等席を確保していた。

 

「それでは諸君、重要な会議を始める」

 

 時刻は午後四時前。

 いい感じに射し込む夕日がバックになるように、俺は一番窓際の席を陣取ってからそう言った。

 昔、何かの余興で使った楕円のサングラスをかけ、後光に照らされてレンズが白光りする。気分はゲ○ドウだ。

 

「おぉ〜。ラスボス気取ってる雑魚キャラみたい〜」

 

 おいモカてめぇ。

 

「ひまりから聞いてる。パスパレに曲を書く、って話でしょ?」

 

 俺がモカを睨んでいると、コーヒーを啜っていた蘭が今日の議題を口にした。

 俺が言いたかった......

 

「ん? なんだ海、そのサングラス外すのか? カッコよかったのに」

「もう...いいんだ...」

 

 哀愁を漂わせてみるが、別にゲ○ドウのモノマネをする必要もない。というかあのキャラよく分かんないし。

 サングラスを机に置くと、それをモカがかけて遊び始める。あいつ雰囲気がぽわぽわしてるからか、サングラス全然似合わねぇな。お笑い芸人のネタ用コスプレみたい。

 

「それでお前ら。曲の件について、実際どう思う?」

 

 お、五十嵐がサングラスつけた。

 あいつがつけるとイカちぃな。クラブのセキュリティみたい。いや、本物のクラブのセキュリティとか見たことないけど。

 

「あたしは反対。あたしたちの歌はあたしたちだけのものだし...なにより、作詞と作曲を別で頼んでるとこがムカつく」

「だよなー。アタシも蘭と同じ、反対だ。そりゃあ海たちの曲はカッコいいけどさ。それとこれとは話が違うだろ」

 

 まぁそうだよな。

 俺は昨日直接言われたが、「Afterglowの歌詞だけ欲しくて曲はいらない」って言われてるんだ。腹が立たない方がおかしい。

 

「せめてAfterglowとCapliberteで一曲ずつ、どっちもから欲しいってんなら話聞くけどさー」

 

 全く巴の言う通りだ。

 そういうところだよな、大人って。

 

 Prrrrrr...

 

「おい関口、スマホ鳴ってるぞ」

「あ、俺か」

 

 須田の指摘で気付く。

 こんな八人も集まってたら誰のスマホが鳴ってるんだか分からない。

 

 机の上に置いてあった俺のスマホの画面を、たまたま巴が見る。

 

「...おい海。さすがに『アホ』で名前登録してるのは相手に失礼だろ」

 

 ああ、御剣さんか。

 昨日名前登録し直したんだよな。

 

「俺この人に拉致られたこともあるから」

「...いや、なんでそんな人と連絡取ってんの?」

 

 蘭の呆れた目が突き刺さる。

 もっともな意見だ。

 

「パスパレのプロデューサーなんだから仕方ないだろ」

「マジかよ。ヤバいなパスパレの事務所。犯罪者雇ってるのか」

 

 巴の呆れた目も突き刺さった。

 ふふっ、御剣さんめ、現役JKに犯罪者呼ばわりされてやんの。いい気味だ。

 

「はい、関口です」

 

 笑いを堪えて電話に出る。

 

『あ、もしもし? 御剣です〜』

「あんた今、現役女子高生に『犯罪者』って言われてますよ」

『ご褒美だね』

 

 なんだこいつ!?

 

『それはそうと、楽曲提供の件なんだけどね』

 

 大人って怖い...

 

「それなら今話してますよ。Afterglowと一緒にいます。あとCapliberteも全員」

『そうなのかい? 丁度良かった。Afterglowの子たちには直接依頼していないからね。今日このあと依頼のメールをするところだったんだ』

「電話、代わりますか?」

『いや、海くんたちCapliberteにも関係のある話だし、どうせならいっぺんに話そう。今、スピーカーにできるかい?』

 

 チラっと店内を見る。

 チラホラ客もいるが、まぁ地元のジジババたちだ。聞かれて困るような話でもないだろうし、大丈夫だろう。

 

「分かりました」

 

 返事をし、スピーカーに切り替える。

 

『Afterglowの皆様、はじめまして。Pastel*Palette担当プロデューサー、御剣光輝です』

 

 御剣さんの声が響く。

 その声は全員に届くには十分すぎるほどだ。ちょっと大きすぎるな。音量下げとこ。

 

『すでにそちらの関口海くんからお話があったと聞いていますが、改めて。Capliberte

 Afterglowに、楽曲の提供を依頼したく思っております』

 

 蘭と巴は不満そうな顔だ。

 そのほかはひまりとつぐが蘭たちを不安そうに見てて、五十嵐はどんと構えている。須田とモカはまだサングラスで遊んでた。お前ら話はちゃんと聞けよ。

 

『本来であれば私どもからご連絡しなければはらないところ、遅くなってしまい申し訳ありません』

 

 にしても御剣さん、やけに丁寧だな。俺と話してる時とは別人みたいだ。

 まぁAfterglowは取引先みたいなもんだ。そりゃ社会人として丁寧な態度の一つも取るか。

 

 ...待て。そういう理論で行くと、俺って御剣さんから取引先として扱われていない...? こちとらライブにもロケにも同伴してんだぞ、相応の態度見せろや!

 

『それで、昨日海くんに伝えた内容から少し変更がありまして』

 

 変更。

 

『昨日の話ではCapliberteに曲を、Afterglowに歌詞をお願いしたいというお話だったのですが、本日の会議で「それは失礼にあたるのではないか」。それから「Afterglowの魅力は歌詞だけでなくその曲にも寄るところがある」という話になりまして』

 

 ほう。

 

『本来一曲のみ提供していただく予定だったのですが、何とか予算を組んで二曲までならどうにかなるようになりました』

 

 へぇ。

 

『つきましては、Capliberteから一曲、Afterglowから一曲、という方向でお願いしたいのですが、宜しいでしょうか?』

 

 変わったな、流れ。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 結論から言うと、CapliberteもAfterglowも、事務所からの依頼を受けることにした。

 

 御剣さんからの電話では一旦結論を保留にし、再度各バンドで話し合った結果だ。

 Afterglowでは色々とあったらしいが、Capliberteの方は案外すんなり決まった。須田も五十嵐も、基本何も考えてないからな。直感で面白そうだと思った方向に舵を切る傾向がある。そういうところが好き(急なデレ)

 

 

 さて、そこで問題になってくるのはCapliberteの作詞である。

 

 

 

「どうすんべ、これ」

 

 依頼を引き受けてから早二日。

 作曲・編曲の方は無事完了したが、作詞がなかなか終わらない。

 

 今日も今日とて放課後に、今回はCiRCLEでも羽沢珈琲店でもなく俺のバ先に集まっている。

 この時期のカフェテリアは寒いし、羽沢珈琲店は満席だったからだ。

 

 俺と須田と五十嵐がかれこれ一時間は顔を付き合わせてうんうん唸っているが、何も良いものは浮かんでこなかった。

 

 炭酸は体に悪いとかいう急なアスリート発言を打ち出した五十嵐が、烏龍茶を一口飲んでから口を開く。

 

「関口お前、作詞コンテストとかいうのに応募する予定なんだろ。それ出せよ」

「『キャベツの歌』と『自炊の歌』と『ヘラクレスの歌』、どれがいい?」

「何を作ってんだテメェはよ」

 

 俺もそう思う。

 

「『ヘラクレスの歌』ってカブトムシ?」

「いんや。ギリシャ神話のヘラクレス」

「どっちにしろアイドルに歌わせるもんじゃないだろ」

 

 そこなんだよなぁ。

 ただでさえ作詞は苦手だってのに、今をときめく現役JKアイドルに歌わせると思うと余計に思いつかない。

 英詩、シャウトで誤魔化す手法も使えないし、ほとんど詰みだ。

 

「海〜! 須田くんに五十嵐くんも、お疲れ様!」

 

 頭を悩ませていると、ひまりがこちらに駆けてきた。

 ひまりはさっきまで働いていたのだが、今は学校の制服姿だ。

 

「お疲れ。もう上がったの?」

「うん! あ、座っていい?」

「どーぞ」

 

 ありがと〜、とお礼を言いながら俺の隣の席に腰を下ろす。

 手にはいちごシェイクが握られていた。寒いのによくそんなの飲めるな。

 

「曲の進捗はどう?」

「作曲編曲は終わった。歌詞がまだ。何も思いつかん」

「むしろ歌詞以外終わってるんだ...相変わらず早いね」

 

 まあ、その辺は須田も五十嵐も優秀だからな。

 基本的なコード進行さえ考えれば、編曲なんてすぐ終わる。いつも通り、俺と五十嵐の殴り合いと、須田の才能でちょちょいのチョイだ。

 

Afterglow(そっち)はどうよ?」

「んー...今、蘭が頑張って歌詞考えてるとこ。私たちは歌詞ができてから演奏を考える派だから、まだ何も終わってないの」

 

 なるほどなぁ。

 蘭も苦戦しているらしい。俺らより断然作詞に慣れてるとは言っても、やっぱりアイドルの歌ってなると難しいんだろう。

 

 そういえば今日、モカからひまりに関する面白い連絡があったな。

 

「マジで何も思いつかない。ひまりー、お前ちょっと丸山さんのモノマネやってよ」

「なんで!?」

「いやほら、この歌歌うのって丸山さんだろ? だったら丸山さんをイメージした方がいいと思うんだ。ひまりも丸山さんも同じピンク担当だろ」

「え、え〜...? 蘭たちもそんなこと言ってたけど...」

 

 乗り気じゃなさそうだな。

 でもあと一息ってところか。

 

「そういや近々、羽沢珈琲店の新作スイーツが出るってな?」

「え、何急に。ま、まぁ出るらしいけど...」

「奢ってやるよ」

「ホント!?」

 

 羽沢珈琲店のスイーツはマジで美味い。

 一説には国のお偉いさんも好んで食べる、なんて話もある。まぁあの弦巻家が羽沢印のスイーツを取り寄せてるらしいし、マジで世界の羽沢まであるけどな。

 

 甘いもの大好きっ子であるひまりも、羽沢珈琲店スイーツの虜だ。食いつきが良い。

 

「その代わり...分かるよな?」

「う、うぅ......」

 

 悩むひまり。

 だがこれは時間の問題だろう。

 三十秒ほど経ったところで、意を決したようにひまりが立ち上がった。

 

「ま、まんまるお山に彩りを♡ ふわふわピンク担当、丸山彩でーす」

 

 ドッ(爆笑×3)

 

「ちょっ、そんな笑うことないじゃん!!」

 

 ギャハハハ!

 

「似てる似てる!」

 

 五十嵐が笑いながら手を叩く。

 須田は腹抱えてた。いや俺も笑ったけどそこまでか?

 

「あーっ、笑った。サンキュ、ひまり」

「うう〜...それで、何か歌詞思い付きそう...?」

「いや何も」

「はぁ!?」

「怒るな怒るな。ちゃんとスイーツは奢ってやるから。須田が」

「俺!?」

「お前が一番笑ってたからな」

 

 是非もなし。

 

「俺は思い付いたぞ」

「マジ?」

 

 ケラケラ笑って須田に金を出させようとしていると、五十嵐から意外な発言があった。

 

「冬の裸の山肌が春になるにつれて新緑に色付いて、そんで山桜でピンクに染まる。俺、パスパレのことはあんまり知らないけど、結成からいろいろあったんだろ? その黎明期っていうか、パスパレってグループが開花するまでの物語を山に喩えた歌詞ってのはどうだろう」

 

 まともなこと言い出しやがった。

 

「曲名は『冬から春に至る山の神』でどうだ」

 

 やっぱまともじゃねぇな。

 神はどっから湧いてきた?

 

「いやいや、それより『枯れ枝に芽吹く春の息吹』の方が良くない?」

 

 須田は須田で何言ってんだ?

 薄々思ってたけど、こいつらわりと厨二だろ。そういうとこも好きだよ。

 

「待て待て。こういうのはどうだ? 『雪解け山と春うらら』」

 

「「ダサい」」

「海ってほんと、ネーミングセンスないよね」

 

 お前らなんか嫌いだ!!!

 

 

 

 

 ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

「Capliberteから曲のデモが送られてきたよ」

 

 Pastel*Paletteが練習している事務所のスタジオに入り、僕───御剣光輝は一枚のCDを掲げながらそう言った。

 

「わー! ホントですか! 聴きたいです!」

「彩ちゃん、落ち着きなさい」

 

 丁度休憩中だったらしく、彩ちゃんを先頭にわらわらと集まってくる。

 現役アイドルが僕に向かって寄ってくる。何度味わっても甘美な光景だ。本当、頑張ってアイドルのプロデューサーになって良かった。

 

「ちなみに、曲名は『憂鬱なる厳寒の冬山、努力の先に咲き誇る山桜』だそうだ」

「なんですって?」

 

 千聖ちゃんの真顔は今日も綺麗だな。

 しかし、曲名はどうにかならなかったんだろうか?

 実は、僕もまだ中身を確認していない。タイトルから分かる通り、Capliberteのセンスは“本物”だ。歌詞がどうなっているか分からない恐怖がある。

 

 最悪書き直しを依頼しなければならないか、などと考えながら、CDをプレーヤーに入れて曲を流す。

 

 

 

 

 

 

「おぉ...!」

 

 曲が終わり、最初に声を上げたのは麻弥ちゃんだった。

 感嘆の籠った声で、表情も興奮しているように見える。

 

「流石ですね、Capliberteの皆さん! 素晴らしい曲です!」

 

 しているように、じゃないな。この子は今、興奮している。

 

「キーボードもあるんですね! カイさんたちはキーボード担当の方がいないので、キーボードは入っていないかもしれないと思っていました!」

「ベースも比較的弾きやすそう...普段の彼らの演奏を聴いていて、もっと難しいものが届くと思っていたのだけれど」

 

 二人とも、意味は違えど安堵の色を見せている。

 

 キーボードに関しては最初から心配していなかったが、ベースの難易度は少しこちらからお願いしたことがある。

 それは「ベースはなるべく簡単なもので、それでいてカッコいいものにしてくれ」というもの。

 

 何分、彼らはプロの業界でも「上手い」と評判のバンドだ。

 ギターとドラムはうちの天才と秀才がいるから問題ないと思っていたが、ベースは別。

 千聖ちゃんならある程度難しいフレーズでも練習して弾けるようにしてくるだろうけど、彼女にはバンド活動以外にも女優としての仕事がある。大きな負担はかけられない。

 

「スコアも貰っているよ」

 

 コピーしてきた楽譜を五人に渡す。

 ギターパートだけ異様に音符の数が多かったが、まぁ日菜ちゃんなら大丈夫だろう。

 

 

 それにしても、Capliberteはとても良い楽曲を提供してくれた。

 特に歌詞。正直非常に心配していたが、良いものが出来たようだ。

 

 曲も歌詞も、決してキャッチーとは言えないが、刺さる人には深く刺さると思う。

 

 高校生でここまで出来るのは圧巻の一言。

 僕は音楽に関しては完全に素人だけど、そんな僕から見ても、彼らの実力は本物だと分かる。

 いくつかのレコード会社も、彼らの取得に向けて徐々に動き始めているらしい。

 

 ここは一つ、僕たちの事務所も動き出すべきだろうか。

 いや、すべきだろう。

 

 幸い、海くんとは懇意にさせてもらっている。

 今回は楽曲も提供してもらった。

 この勢いに乗じて、Capliberteを引き込んでみよう。

 そうとなれば楽曲のお礼も兼ねて早速電話だ!

 

 

「もしもし、海くん? 楽曲、確かに受け取ったよ。僕はもちろん、パスパレのみんなも大満足だった。ありがとう」

『そっすか? 良かったっす』

「時に海くん。キミらCapliberteはメジャーデビューなんかに───」

『興味ないっす』

「まぁまぁ、そんなこと言わずに。僕とキミの仲じゃないか。話くらい───」

『御剣、敵。絶対、倒す』

 

 そう言って電話を切られてしまった。

 

 

 うーん...僕、そんなに海くんに酷いことしたかなぁ?(拉致)(半強制のテレビ顔出し)(海の信条に反する依頼)

 

 

 

 

 

 

 




感想、高評価をいただいたので調子に乗って投稿です。

CapliberteがPastel*Paletteに楽曲提供した(商用に曲を作った)ことを知った時のチュチュちゃんの心情を答えよ。

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