ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

46 / 57
つっぐつぐにしてやんよ

 

 

 

 

 

 

 俺は、甘いものが好きではない。甘いものじゃ米食えないし。

 かと言って嫌いというわけでもなく、本当に「どっちでもいい」と思っている派の人間だ。別に否定的な意味じゃなく「あったら食べるし、なければそれでいい」的な意味で。

 

 だが、それにも例外は存在する。

 

「うめ〜〜〜〜!!」

 

 ここ、羽沢珈琲店の甘味である。

 正確にはつぐのお父さんが作る甘味だが、これはマジでレベルが違う。

 つぐのお父さんの甘味食べると幸福度がグンと上がる。新作が出る度に食べにきてるからな。

 

 しかし、今日食べているのは新作の中でも試作品の類。来月のバレンタインに向けた、チョコレートパフェの試食を仰せつかったのだ。

 

「はは、良かった。そんなに幸せそうな顔をさらると、作った身としては嬉しいよ」

 

 つぐのお父さんが柔和な笑みを浮かべる。

 つぐパパは良い人だ。俺の周りにいる大人の男たち(御剣、父親)とは違い、本当に良い人だ。俺もこういう、優しくて余裕のある人格者な大人になりたい。

 御剣さんはアホだし、お父さんは息子に飯をせびるロクデナシだからな。ああは絶対にならないぞ。

 

「ところで、今日は俺だけですか? ひまりとか、試食会なんて何を差し置いてでも参加したがると思うんですけど」

 

 そう、今日この試食会に来ているのは俺だけだ。

 つぐは店の手伝いとして店内にはいるが、それ以外の幼馴染みズが見当たらない。

 

「今日は海くんしか呼んでないよ」

「? どうしてまた」

「だって、ここが血の海になるかもしれないだろう?」

「は?」

 

 は?

 え、何。背中に阿修羅が見えるんだけど。なんで修羅ってんのつぐパパ? やめてよ怖い幻覚見せないで。

 

「毎年のことなんだけどね」

 

 笑顔が怖い。

 

「つぐみが、キミにチョコレートを作るって言ってるんだよ」

「...え、いや、友チョコでしょ? ひまりたちにもあげますよ多分」

「でも男の子にはキミだけなんだよ」

 

 開かれた目には光がない。

 ハイライトさん仕事して。頼む。

 

「つぐみも海くんも、もう高校生。男女の仲になってもおかしくない年頃だ」

「い、いやいや...無いでしょう、普通に考えて。俺とつぐですよ?」

 

 十年近く一緒にいて何もなかったんだ。

 今更なにがあるっていうんだ。

 

「ほう? つまりキミは、うちのつぐみには魅力がないと。そう言いたいんだね?」

「えっ、いや、ちが、そうじゃなくて───」

「今夜は騒がしい夜になりそうだねぇ?」

 

 あ、これ俺死んだわ。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

「海くん、大丈夫?」

 

 父親の恐怖を一身に浴び疲弊しきった俺を癒してくれるのは、聖女のような慈悲の表情を浮かべるつぐだった。

 お前のせいで死を覚悟したんだけどな。

 いや、別につぐは何も悪くないんだけどさ。

 

「お父さんも、何もあんなに怖がらせなくていいのに...」

 

 まぁ、父親としてはいろいろと思うところがあるんだろう。

 蘭パパも過保護だし、俺のお父さんも姉ちゃんに対してはデレデレで異様に大事にしている。

 やっぱ娘ってのは可愛いのかね? どっちも娘からウザがられてるのは何とも言えないけど。

 

「ま、つぐパパも別に本気で俺を脅してたわけじゃないし」

 

 今日俺だけを呼んだのは、別に俺を血祭りにあげるためじゃない。たまたま俺以外は用事があったからだそうだ。

 そんでちょうどいいから、ちょっと脅かしてみようと思ったそうで。要するにただのお茶目なイタズラだ、とつぐパパは笑ってた。

 アレは絶対に本気だったけどな。

 

「そういや、つぐはもう上がりなの?」

 

 俺は甘い物の後はブラックコーヒーと決めている。そのコーヒーを注文する前に持ってきてくれたのがつぐだった。

 そしてそのまま、自分の分のココアも用意して俺と同じ席に座っている。

 

「うん。ちょっとシールドの調子が悪いから買いに行きたいって言ったら、今日はもう上がっていいよってお父さんが」

「じゃあ今から楽器屋行くのか」

「うん。せっかくお仕事上げさせてもらったし、明日練習だしね」

 

 ふーん。

 

「俺も一緒に行っていい? 楽器屋」

「全然いいよ! 何か買うものがあるの?」

「カポ欲しくて。つーか聞いてくれよつぐ。この前姉ちゃんにカポ持ってかれてさー。全然返ってこないでやんの。昔っからそうなんだ姉ちゃんは。俺のおやつも盗るし、漫画も盗るし、反抗したら暴力を振るう。ジャイ〇ンかよ」

「あはは...姉弟って憧れるけど、大変って人も多いよね。香澄ちゃんとか沙綾ちゃんのところは楽しそうだけど...」

 

 そういや香澄って妹がいるんだっけ?

 

「山吹さんはともかく、香澄が長女とか信じらんねぇよな」

 

 行動が末っ子のソレなんよ。

 妹さんには会ったことないけど、香澄に負けず劣らずの自由人か、もしくはしっかり者の苦労人だと思うね。

 

「あんまりそういうこと言っちゃダメだよ?」

「へいへーい」

 

 全く、つぐは優しいな。普段の香澄を見てたらそういう反応だってしたくなるだろ。

 優しいところはつぐパパの血だろうか? いや、確かつぐママも優しかったな。

 うーん、やっぱりいいなぁ羽沢家。

 

「俺、つぐが姉ちゃんが良かった」

「そんなこと言って〜。海くん、なんだかんだ言って希さんのこと好きでしょ? ......そ、そんな嫌そうな顔しなくても...」

 

 死ぬほど嫌な顔をしてしまった。

 仕方ない。魂に刻まれてるからな。

 

 まぁ確かに姉ちゃんのことは嫌いじゃない。普段は接しやすいし、姉弟なだけあって話も合う。

 だが怖い。姉なるものは理不尽だ。あんなんマジで山賊かジャ〇アンだぞ。

 あれだ。映画版になると妙に優しくなるじゃん、ジャ〇アンって。あんな感じ。

 うちの姉ちゃんにも「話しやすくてたまに優しい姉ちゃん」と「傲慢不遜で暴力的な簒奪者」の二つの側面がある。割合的には四対六くらい。

 

 その反動だと思うんだよなぁ、俺が年上好きになったの。俺が小六の時にうちに遊びに来た姉ちゃんの友達が優しすぎて感動したのを覚えてる。もしかすると、あれが俺の初恋だったのかもしれない。

 まぁその人、高校卒業してすぐにどこぞのIT社長とデキ婚したけどな。今年も年賀状には元気なお子さんの写真が載ってたわ。

 

 ま、そんな悪魔的失恋は置いといて。

 

「すぐ飲むわ。ちょっと待ってて」

「そんなに焦らなくて大丈夫だよ」

 

 甘味後のコーヒーうめ〜〜〜〜〜。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 ホットコーヒーをがぶ飲みして無事口内を火傷した後。

 俺はつぐと一緒にショッピングモールへ向かっていた。

 

 一度江戸川楽器店に寄ったのだが、今日は休業日で閉まっていたので、こうしてショッピングモールまで足を運んでいる。

 楽器屋にも休業日とかあるんだな。まぁあっちも人間だし、休みたいこともあるか。

 

「そういや、つぐと二人でモール来るの初めてじゃね?」

 

 二階にある楽器屋を目指し、エスカレーターに乗っている途中。ふと、そんな事を思った。

 

「そういえばそうかも。いつもはみんなと一緒だもんね」

「あいつらと来ると絶対にフードコートに寄ることになるんだよな」

「あはは。確かに」

 

 ひまりは甘いものを食べたがるし、巴はラーメンを食べたがるし、モカは座りたがる。蘭とつぐは基本意見がないからみんなに流されるし、俺に拒否権はない。拒否ったところで気付いたらフードコートにいるんだよな。

 

「つーかこのモール来るの自体久々だわ。最後に来たのっていつだろ。夏に映画観に来た時以来?」

「そうなんだ。何を見に来たの?」

「ガン〇ム」

「あれ? 海くんってガン〇ム好きだったっけ?」

「嫌いじゃない、ってゆーか詳しくない。姉ちゃんに連れられてきたんだよ。なんか特典が貰えるから来いって」

 

 二階のフロアに着き、エスカレーターを降りる。

 楽器屋はわりと端っこの方にあるので、ここから更に歩きだ。まぁ三分も歩けば着くけど。

 

 そうだ。映画といえば。

 

「もうすぐスラ〇ダンクの映画公開だな」

「バスケットボールのやつだよね? ちょっと昔の」

「そ。一昨年だったっけか。姉ちゃんに勧められてアマ〇ラでアニメ見たんだけど、これがまた面白くて。映画も観に行こうと思ってたんだ」

 

 スポーツ系のやつってあんまり見ないんだけど、スラ〇ダンクは面白かった。

 当時の姉ちゃんの彼氏がバスケ部で、その影響だったかな。

 俺は水戸〇平が推し。あいつバスケ部じゃないけど。

 

「『バスケがしたいです』と『あきらめたらそこで試合終了ですよ』は聞いたことあるかなぁ」

「興味あったら見てみてよ。そんで一緒に映画観に行こ」

 

 一人で観る映画も良いが、友人と観るのも大変良い。観たあとに感想とか言い合えるからな。

 

 須田も五十嵐もバスケにはそこまで興味がないらしく、スラ〇ダンクも観たことがないと言っていた。

 一応勧めてみたが、返答は「暇があれば観てみる」とのこと。絶対観ないだろそれ。

 

「バスケットって私あんまり詳しくないんだけど、大丈夫かな?」

「大丈夫大丈夫。作中で詳しく説明してくれるし。主人公が初心者としてバスケ部に入部するって設定だから」

 

 そりゃバスケの知識があった方が楽しめるんだろうが、問題はないはずだ。

 実際俺もバスケのルールとかトラベリングとダブドリくらいしか知らなかったけど十分楽しめたし。

 

 ただ、昔の漫画だからか、暴力的なシーンも多い。「バスケがしたいです」のとこなんて酷いもんだ。つぐは喧嘩とか嫌いだし、その辺をクリアできるかが唯一の問題だな。

 

「まぁ無理のない範囲で。気に入ったら教えてちょ」

「うん、分かった」

 

 巴にも勧めてみるか。

 あいつ、普段は少女漫画がメインだけど、熱血系も嫌いじゃないからな。

 

 ちょっとだけわくわくしながら歩いていると、楽器屋に着いた。

 

 まず俺たちを出迎えるのは、壁一面のギター。その少し奥にベースもある。

 

「ワインレッドかっけ〜」

 

 ワインレッドのレスポールに目がいく。

 今回の目的はシールドとカポだが、楽器屋に来たらとりあえず楽器見ちゃうよね。買う予定ないけど。

 

「ギターにもいろいろ種類あるよね」

「そうだな。とりあえず大きくはレスポールとテレキャス、あとストラトだな」

 

 今俺が持っているのはレスポールで、比較的太めの音が出る種類のギターだ。

 まぁ本当に耳が肥えてなきゃ、その辺の細かい違いは分からない。生音ならまだしも、ギターはエフェクターをかませるし。

 

「テレキャスちょっと欲しいんだよな」

「やっぱり、音って結構違うものなの?」

「違うけど、分かるやつの方が少ないと思う。まぁ九割自己満の世界だよ」

 

 聞き手からしたらマジで違いなんか分かんねぇよ。俺が満足すればそれでいい、の気持ちだ。

 

 ギターを眺め、次にベースも眺めてみる。

 ベースは正直まったく分からん。須田曰くパッシブだったりアクティブだったりっていうのがあるらしいけど、それもイマイチだ。

 確かアクティブの方が音が大きいんだっけ? ならアクティブが正義だ。音が大きいんだから。

 

 ベースを眺めてたら店員さんに声をかけられたが、「大丈夫です〜」と遠慮する。買う予定もないのに営業かけられたら俺にも店側にも利点ないし。

 

 

 ササッと目的のもの(シールドとカポ)を買い、楽器屋を出る。

 途中エフェクター売り場で心が踊ってしまったが、今は必要なエフェクターも金もないので泣く泣くスルーした。

 エフェクターって一つ数万するのマジでどうかしてるよな。バンドマンとかただでさえ金ないのに。

 

「お、ディス〇ユニオン。ごめんつぐ、ちょっと寄っていい?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 フラフラ歩いていると、見ると安心してしまう看板が目に入った。

 吸い寄せられるように店舗に入る。

 

「さすが実家。落ち着く」

「実家じゃないよ? 海くんって時々変なこと言うよね」

 

 実家のような安心感。

 

 つぐに呆れられながらも物色を開始する。

 うーん、いろいろ新譜入ってんなぁ。お、ニッケ〇バックの新譜もあんじゃん。まだ聴けてないんだよなこれ。

 

 買うかどうか悩んでいると、向かいの棚で流れているMVを見たつぐが声をかけてきた。

 

「あの人達って、前に海くんが好きって言ってたアイドルバンドだっけ?」

「ん?」

 

 言われて見ると、流れていたのはBr〇ken By The Scream、通称BB〇SのMVだった。

 

「あー、多分そう。つぐにも勧めた気がする」

 

 アイドルバンドつってもたくさんいるし、俺が好きって言ったグループも多い。

 ベ〇メタをはじめ、PassC〇deとか、IR〇N BUNNYとか、仮〇女子とか、エトセトラエトセトラ。

 まぁパスパレとか見てると、彼女らを「アイドルバンド」って言っていいかは微妙なところだけどな。

 

「ほんとに女の人が歌ってるの? これ」

「そうだぞ。実際ライブ見に行ったけど、低音デスボお姉さんすごかった」

 

 男でも腰を抜かすほどの低音グロウルをぶち込んでくるアイドルに、つぐが感心している。

 分かる。最初ってそうなるよな。気付いたらクセになってっから。

 

「このMVを見る感じ、演奏は三人? 海くんたちCapliberteでできそうなのに、まだやってないんだ?」

「そうだなー。まぁ演奏だけならやれないことはないけど、キーボいないし。あとボーカルがな。デスボ二人必要だし......いや、須田がやれるか...?」

 

 何度でも言うが、須田という人間は天才だ。

 多少残念な部分もあるが、音楽の才能があることは間違いない。

 そんな須田が、最近「俺デスボ出したいんだよね」なんてことを言い出し、ちょっとしたシャウトは習得した。

 なら俺が低音、須田が高音を捻り出せば、BB〇Sをすることも不可能ではない...?

 

 いや、あのベースを弾きながら歌わせるのは、いくら須田が天才だっていってもちょっとと厳しいかな? まぁ大丈夫か。須田だし。

 というか須田より俺が厳しいな。やるならしっかり練習しなきゃ。

 

「このバンドってキーボードもいるの?」

「いるよ。長〇憲治って人」

 

 GLASS T〇Pのキーボードをやっている人なんだが、この人がなんでメタル系の楽曲やってんとか分かんないんだよな。

 BB〇Sで初めて知った人だけど、この人のBB〇S以外での演奏はザ・Jポップって感じだし。

 

「なら、私、弾いてみてもいい?」

「え?」

 

 つぐが? BB〇Sを?

 ...なんで?

 

「聴いてないから難しいかどうかも分からないけど、Afterglowとは違った感じの演奏だと思うし...私、もっと上手くなりたいんだ」

「つぐは十分上手いと思うけど」

「ううん、全然だよ。燐子さんとか、有咲ちゃんとか、周りと比べて、私は全然」

 

 うーん...まぁそう言われれば確かにそうなんだが...

 

「いや、比べる相手がおかしいだろ。特に白金さんなんて、マジで超高校級っつーか、プロと比べても上位層だぞ」

 

 市ヶ谷さんだって昔からピアノやってたんだろ? 確か音楽教室も通ってたんだっけ。

 比較対象として間違っている。

 それに。

 

「そもそも、他人と比べてどうこうってのは違うんじゃね? そりゃ上手い下手はあるけどさ。そいつがどれだけ真摯に音楽に向き合ってるか、どれだけ努力してきたか、ってのが一番大事だろ」

 

 どれだけ演奏が下手っぴだとしても、音楽に対する想いとか、これまでの努力とか、そういうものは聞き手側にしっかり伝わるものだ。

 その点、つぐは努力家だし、音楽に対しても真剣だ。

 つぐ本人は「個性がない」と悩んでいるらしいけど、少なくとも本気でAfterglowのファンやってる奴らはつぐを高く評価している。

 

 なんで分かるって?

 俺がAfterglow応援団(ファンクラブ)団長(会長)だからだよ。

 Afterglow結成の三日後に創った。今では団員数は八百を越えてきている。

 

 ちなみに、応援団(ファンクラブ)についてはAfterglowも認知しているが、団長が俺だってことは知らない。

 というか団員もほとんど知らない。知ってるのは副団長含めた初期メンバーの五、六人くらいだ。

 俺が発足人ではあるものの、当時の俺は中学生。表立った活動は周りの大人がしてくれた。

 それになんか、幼馴染の応援団やってるとか、結構恥ずいし。

 そういう理由で俺は応援団内で素性を隠しているわけだが、閑話休題ってことで(まぁそんなことは今はどうでもよくて)

 

「安心しろよ、つぐ。お前はAfterglowで一番すごいやつだよ」

 

 ふふっ。俺、今ちょっといいこと言ってない?

 

「え? あ、うん。ありがとう。それはそうと、一緒にBB〇Sを演奏しようって話なんだけど」

 

 ...ん?

 

「今はその話をしてたつもりなんだけど、海くんは何の話をしてるの? いや、えと、褒めてくれるのはすごく嬉しいんだけど...」

 

 うーん、これはハジ→

 死んじゃおっかな〜。

 

「か、海くん!? な、なにその顔色、大丈夫!? 息してる!?」

 

 _(:3 」∠)_

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 一部からは「アダマンタイト級」と言われた俺の強メンタルが崩れた後。

 たまたま通りかかったひまりと巴の協力もあり、俺はフードコートで冷水を飲んでいた。

 

「も〜! びっくりしたよ! なんか騒いでる人いるな〜って思ったらつぐだし! 海は変な顔色で倒れてるし!」

 

 ぷんぷん、という音が聞こえてきそうな形相で騒ぐひまり。

 ごめんて。

 ところでお前、なんでそんなデカいパフェ食ってんの? ダイエット始めるって昨日言ってなかったっけ?

 

「和太鼓を担いだ経験が無かったら海をここまで運べなかった。和太鼓に感謝だな!」

 

 お前はいろいろと何言ってんの?

 

「二人とも、ありがとね。私だけじゃどうしようもなくて...ほら、海くんもお礼言って」

「あざーっす」

「もうっ、またそんなテキトーに言って! ちゃんと言わなきゃダメだよ!」

 

 溢れるつぐの母性(ママ)

 俺の周り母性持ってるやつ多すぎだろ。助かる。は?

 

「ところで、海たちはあそこで何やってたんだ?」

 

 ラーメンを食べている巴からそんなことを聞かれる。

 何をやっていたか、要するにどういう経緯で俺が倒れるハメになったのか、ってことだろう。

 説明に困るな。どう言えばいいんだ? 俺の恥はできれば伝えない方向で。

 つぐの方を見ると、つぐも回答に困っているのか「うーん...?」と首を傾げている。

 

 こういう時はあれだ。嘘で乗り切ろう(最低)

 

「最高すぎる“音”にたくさん触れて昇天してた」

 

 とっさに出た嘘が酷すぎワロスwww

 これはさすがに無理があるか...?

 

「なるほどなー」

「もう、ほどほどにしときなよ?」

 

 なんだお前ら、少しは疑えや!

 俺が普段からそんな奇行ばっかりやってるみたいじゃねぇか!(やってる)

 

「そういうお前らは何やってたんだよ。今日は用事があったんだろ?」

「あれ? 私たち、用事あるって海に言ったっけ?」

「つぐパパから聞いた。今日、新作スイーツの試食会だったのに、お前ら来なかったろ」

 

 なるほどー、とひまりも巴も納得している。

 巴はともかく、ひまりがつぐパパの新作スイーツ試食会を断るほどの用事だ。よっぽど大事な何かだったんだろう。

 

「アタシはちょっと町内会の手伝いでな。ほら、もうすぐ節分だろ?」

 

 なるほどな。

 町内会の元気担当である巴は、節分みたいな子供たちが絡むイベントで特に重宝される。

 そりゃ確かに大事な用事だわ。

 

「ひまりは?」

「私は薫先輩の演劇見に行ってた! すっごくカッコよかった!!」

 

 食欲を上回ったのは推しへの想いでした。

 ひまりはやっぱりひまりだったか。

 

「え、何その目。もしかして嫉妬?」

「なわけあるか。呆れてんだよ」

 

 どこに俺が嫉妬する要素があるってんだ。

 

「手伝いも終わって、ちょっと腹が減ったからラーメン食べようと思ってな。それで近かったからモールに来たら、入口でひまりとばったり会ってさ」

 

 ほーん。

 

「薫先輩が眩しすぎて叫んでたらお腹すいちゃって。りみと一緒だったんだけど、なんか誠くんと会う予定があるとかで、巴に会う直前に別れちゃった」

 

 ふーん。

 

「お、おい海。そのバールみたいなもの、どっから出したんだ...?」

「基本装備だ」

「物騒すぎるだろ...というかそれで何する気だお前」

「須田とかいう幸せ者を祝いにな」

「祝うって言葉が一番似合わない道具だぞ、それ」

 

 巴がドン引きしてる。

 

「さすがにそこまでやんないよ。ジョークジョーク」

 

 物理的な攻撃はしない。

 とりあえず牛込さんと二人でデートしてるところを写真に収めたいな。それをクラスでばらまいてやろう。魔女裁判さながらの制裁待ったナシだ。

 俺は忘れてないからな。あいつが俺と氷川さんが付き合ってるって吹聴したことを。

 あとおたえと山吹さんと市ヶ谷さんにも手を出してるとかなんとか好き勝手言ってやがったのを。

 俺は忘れてやらねぇからな。

 

「ジョークでバールみたいなものを持ち歩いてるのかお前。怖いな」

 

 巴のドン引きはまだ終わっていなかった。というかひまりもつぐも引いている。

 けど、こっちはジョークでもなんでもないんだよな。

 

「このくらいは必要なんだ。自衛の為にも」

「自衛? 過剰防衛すぎるだろ」

「馬鹿言え。こちとらネットで殺害予告出てるんだぞ」

「は?」

「え?」

 

 巴とつぐが揃って首を傾げる中、ひまりは「あー...」と何か納得していた。

 

「二人は見てない? 海のスレッド」

 

「う、ううん。見てないけど...」

「ていうか海のスレッドがあるのか?」

 

 あるんだよねぇ。なんでだろうねぇ。

 まぁ俺は直接は見てないけど。俺スレの内容の一部は五十嵐が教えてくれている。その中に殺害予告があったってワケ。怖くておちおち寝てもいられない。

 

 ま、本当にヤベーやつらは弦巻家がなんとかしてくれるだろうけど。

 黒服さんたちに頭を下げて、いろいろと手を打ってもらった。いや、もらっている。

 何をしているかは知らないが、五十嵐曰く、最近は俺への悪意が籠ったスレ、発言等は少なくなってきているらしい。黒服さんたちすごい。

 でもそのせいでお嬢からの無茶ぶりを断れなくなったんだよな。まぁ命の代償としたら安いもんだ。

 

「私、たまに見て海の悪口書いてる人たちに反論してるんだけど」

「おい待て」

 

 こいつ今何つった?

 

「え? お礼なら大丈夫だよ! 私のためにやってるから!」

 

 なんだこいつ(微ギレ)

 ネット民に反論するとか、火に油どころの話じゃねぇぞ。

 

「ひまり。お前、今後俺スレに関わるのは一切やめてくれ」

「え、なんで? だって海の悪口言われるとか、頭にくるじゃん!」

 

 なんで俺よりこいつの方が怒ってんだ?

 

「気持ちは分かった。ありがとう。でも違うんだ。頼むからもうやめてくれ」

「で、でも...」

「ガチで。ほんとマジで、頼むから」

「う、うん...海がそこまで言うなら...」

 

 言いたいやつには言わせとけばいいんだよ。

 過激なやつの対処は弦巻家がしてくれるし。

 

「けど、ありがとなひまり。正直ありがた迷惑だけど、嬉しいは嬉しいよ」

「一言余計じゃない?」

 

 真実だからな。

 

「ひまりちゃん、そこは海くんの照れ隠しだよ」

「なるほど!」

「違うから」

「海は素直じゃないからなー。蘭と同じで」

「確かに〜!」

「違ぇつってんだろ。あのツンデレと一緒にすんな」

 

「え? 海って蘭並のツンデレじゃん」

「そうだな。海はツンデレだ」

「でもデレ成分は蘭ちゃんより多いかも?」

「そりゃつぐが相手だからだろ」

 

 なんだこいつら、好き勝手言いやがって。

 

 お、おいなんだよひまり、その目はなんだ。ハイライトさん職務放棄してるぞ、すぐ呼び戻してこい。え、てか何、その固く握られた拳は...や、やめろ、俺は女の子に殴られて悦ぶ趣味はないんだ!

 

 話題を逸らそう。そうだ、そうしよう!

 

「と、ところでつぐ、さっきの話だけど」

「さっき? 私がお姉ちゃんなら良かったのに、って海くんが言ってた話のこと?」

「違う。前すぎ」

「一緒に映画行こうって、海くんに誘われた話の方?」

「違うよ!」

 

 オイオイどうしたよつぐみさんよぉ。なんでそんなこと言うんだよォ。

 そんなこと言ったらひまりが怒るだろ! こいつ、遊びに誘われなかったって知ったら不機嫌になるんだから!

 でもこの前つぐ、蘭、モカで遊び行ったって話を聞いた時は「そうなんだ! どこ行ってきたの〜?」って普通にしてたな。なんでだ?

 

「BB〇Sやろうって話。やるならクリーンボーカルも二人欲しいから、ひまりと巴に頼もうぜ」

 

 とにかく今は話題変更だ。

 BB〇Sをやりたい気持ちはあるしな。

 

「BB〇Sってアレ? 夏頃に海がどハマりしてたアイドルの」

「そう」

 

 ひまりさんの右拳が解かれた。良かった。

 てか言うほどどハマりしてたかな?

 してたな。

 

「いいと思う! ひまりちゃんや巴ちゃんと一緒にできるなら嬉しいな」

 

 つぐも嬉しそうだ。

 良かった良かった。

 

「演奏をカプリとつぐでやるから、歌をお願いしたい」

「え、私も巴もデスボイスなんて出せないけど」

「そっちは俺と須田がやるから。クリーンボーカルが欲しいんだよ」

 

 つーかひまりや巴の喉からデスボが出てきたら腰抜かすわ。

 その後惚れると思う。

 

「あ、なるほど。そっちなら私はなんとか。巴は?」

「ん? アタシも大丈夫だぞ! ボーカルだけでドラム叩かないのはちょっとムズムズしそうだけどな」

 

 ボーカル二人が釣れた。

 ヨシ!!!

 

 須田と五十嵐は...まぁ大丈夫だろ。五十嵐は文句言うかもだけど、なんだかんだ完璧に仕上げてくるしな。

 

「そんじゃあみんな、つぐるぞ〜! えいえい」

「「おー!」」

「二人とも私の時は絶対言ってくれないのに!?」

 

 それはほら、様式美だから。

 是非もないよネ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「結束バンド絡ませるか!」などと言っていましたが、クロスオーバーはバンドリ規約違反だということを完全に失念していました。大変申し訳ございませんでした。
指摘してくださった方、ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。