ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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馬って平均時速60kmとかで走るんだったっけかなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バレンタインには苦い思い出がある。

 

 巴の作った『とんこつラーメン味チョコ』とかいう兵器を食って腹痛を起こし二日くらいトイレの住人になったこともそうだが、それ以外にもあまり思い出したくはない、けれど決して忘れてはいけない出来事があった。

 

 

 

 

 

『ねーひまり。あんた、関口くんのこと好きなの?』

 

 

 中三の冬。バレンタイン。

 受験へのラストスパートをかけるこの時期でも、バレンタインというイベントは当たり前のように、或いは“こんな時期”だからこそ、教師陣に軽く怒られる勢いで開催された。

 うちの中学は中高一貫だったが、何故か高校が女子校で、男子生徒は皆外部受験を迫られる。女子側が外部受験しない限り、男女はほぼ確実にバラバラになってしまう、ということだ。

 そんな卒業前というバイアスもあったのか、例年以上に盛り上がった今年。『友チョコだから!』と念を押されてではあったが、去年よりも五個ほど多くチョコを貰った俺は、ホクホクで帰宅していた。

 しかし、学校に大事な大事な参考書を忘れてきてしまい、仕方なくそれを取りにトンボ帰りしたところ。

 

 教室の中から、そんな声が聞こえてきたのだ。

 

 

『え? なんで?』

 

『いや、態度見てれば明らかだから。今年もちゃーんと手作りのチョコあげてたし』

 

 

 こんな盗み聞きみたいな真似は良くない。

 そう思いつつも、息を殺し、聞き耳を立てる。

 俺の都合のいい妄想や自意識過剰じゃなければ、多分、ひまりに好かれているんだろうってことは何となく分かっていた。

 しかもその「好き」は「Like」ではなく「Love」、つまり異性として、俺はひまりに好かれているのではないか、と。

 直接告白されたわけじゃない。誰かからそんな話を聞いたわけでもない。

 ただ普段の接し方、距離感。そんなものでだいたいは察せられる。

 年上好きを公言し、事実俺は年上のお姉さんがドタイプだが、ひまりのことは嫌いじゃない。正直なところ“異性”っつーより“友達”の方がしっくりくるが、“異性”として全く見ていない、ということもなかった。

 当たり前だ。こんな身近で可愛い女の子がほぼゼロ距離で接してくるんだ、意識しないわけが無い。

 

 

『で、どうなの? 好きなの?』

 

 

 教室の中にいるのは、ひまりと同じクラスの女子の二人だけ。いや、声がしなかっただけでもっと居たのかもしれないが、俺が確認できたのは二人だけだった。

 生唾を飲む音がいやに大きく響いたように感じ、バレてしまわないかというほど強く鼓動が脈打つ。

 

 

『えー? うーん...いや、好きだけど、友達として? ほら、好きは好きでもLikeの好き、ってやつ』

 

『は?』

 

 

 ......は?

 

 

『マジで言ってんの? あんた、同学年だろうが後輩だろうが、去年までは先輩に対してさえ牽制してたじゃん』

 

『あー...あはは、いやまぁ色々あって』

 

 

 ......えと...つまり、その...なんだ?

 あそこまで露骨だと思っていた距離の詰め方も、そこまでやるのかといっそ呆れさえしたアピールも、全部俺の思い違いで...?

 

 

 ひまりのことを、特別愛していたわけではない。

 もちろんほかの女子、それこそ蘭たちよりもちょっぴり特別視していたところはあるが、そう大差はないと思っていた。

 しかし、蓋をあけてみればどうだ。『異性としては好きじゃない』とフラれまがいのことを言われ、俺は酷くショックを受けている。

 なんで俺はこんなにショックを受けているんだろう。もしかして、俺はひまりのことをちゃんと異性として好いていたんだろうか?

 

 

 ...気持ち悪い。

 ほかの誰でもない、俺自身がこの上なく気持ち悪い。

 

 年上好きを公言して、同学年には興味がないと語り、ひまりの気持ちに気付いているつもりで、その上で気付いていないフリをし続けた。

 

「ひまりは俺のことを好いてくれているんだろう」なんて、そう勝手に思い込み、その気持ちには応えられないかもしれないなんて偉そうに浸って、だと言うのに心の奥底ではひまりのことを“異性”として認識していたことが、実に滑稽で、恥ずかしく、気持ち悪い。

 

 意識されているから意識し返した。

 当たり前と言われれば当たり前のことだが、「意識されている」という前提が崩れ去った今、俺はただの勘違い野郎。

 

 

『いやいや嘘っしょ。恥ずかしがってるだけじゃなくて?』

『いや、去年ってゆーか、三年に上がったくらいまでは大好きだったよ? でも海ってば「俺は年上好きだから」とか言ってさ、あたしになんか全然興味なさそうだったじゃん。なんかもう諦めがついた〜、みたいな?』

『あ〜、なるほど。まぁ分かるわ。修学旅行でひまりがあそこまでしたのに告白の一つもしてこないアイツが悪い』

『ちょっと! 修学旅行のアレは忘れてって言ったじゃん!』

 

 

 何やら会話の続きをしているようだが、上手く耳に入らなかった。

 聞く必要もない。これ以上盗み聞きをするのはひまりにとっても、俺にとっても良いことなんてないだろう。

 

 話が上手く聞き取れないくらいには狼狽しているにも関わらず『バレないように』ということだけはしっかり覚えていて、足音を立てないよう気を付けながら教室を離れる。

 

 

 

 

 これがバレンタインの苦い思い出であり、今後俺が間違えないための教訓。

 

 勘違いしてはいけないのだ。俺なんかが好かれるわけがない、好かれる理由がない。

 相手がどんなに露骨なアピールをしてきても、見え見えな気持ちだと思っても、それは全てまやかしだ。相手は何とも思っていない、その行為に深い意味はない。それらはただのスキンシップやその程度の軽い行動でしかないのだと、女性というのはそういう生き物なのだと、心に刻んで生きていくべきなんだ。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

「ハッピーバレンタイーン!」

 

 土曜日、バレンタイン当日。

 CiRCLEでの練習が終わり、まだまだ寒いカフェテリアではなく室内の休憩スペースにて、香澄の元気な声が響く。

 その声とともに、香澄がチョコを三つ差し出してきた。俺、須田、五十嵐それぞれの分だ。

 

「ありがとさん」

 

 お礼を言い、チョコを受け取る。

 桜色の包装紙に包まれた手のひらサイズの直方体だ。

 

 香澄は普段の言動こそアレだが、顔は中々整っているし、一部の男共の間では人気らしい。まぁ大半は「可愛い女子」ではなく「突拍子もないことを言って場を盛り上がらせるムードメーカー」っていう認識だろうな。

 本当、普段の言動はマジでアレだが、うちのクラスどころか、一年の間でも中心に近い奴だ。不意に笑顔を向けられ、親しげに話しかけられ、勘違い的に好意を抱く男も少なからず存在する。

 怖いね、コミュ力おばけは。

 

「じゃあ私も〜。ハッピーバレンタイーン。あ、美穂(五十嵐の彼女)には許可取ってあるからね」

 

「お、マジか。気遣いまでサンキューな」

 

 山吹さんからもチョコを貰う。

 こちらも香澄のものと同様、桜色のラッピングがされた箱だった。

 

 山吹さんも、男子から密やかに人気がある。

 もちろん顔が整っていることもあるが、明るい性格や面倒見の良さもあり、香澄同様何の気も無しに男共に優しく振る舞い、勘違い恋心が発生しているのだ。

 怖いね、弟持ちの包容力。

 

「私からも、はいっ、関口くんと五十嵐くんに」

「わっ 私からもほら、須田と五十嵐に。せ、関口だけにやるのもアレだしな」

 

 そう言い、牛込さんと市ヶ谷さんもチョコを渡してくる。

 

 牛込さんのは白の包装紙に青色のリボンが付いたもの。市ヶ谷さんのは昨日俺がもらったものとは少し違い、透明な袋にクッキーが入ったものだった。

 

 それぞれお礼を言い、あとはおたえかと彼女の方を見る。

 昨日作ってくれるって言ってたし、きっと貰えるんだろう。

 

「ん、じゃあ大トリ、私の番。はい、ハッピーバレンタイン」

 

 おたえが渡してきたチョコは、香澄や山吹さんと同じ、桜色の包装紙に包まれていた。

 ありがたく受け取り、お礼を言う。

 

「ありがとな、おたえ」

 

「うん。あ、感想聞きたい」

 

「え? あ、うん。嬉しいよ?」

 

「そうじゃなくて、チョコの味。すごく上手くできた自信あり」

 

 味。

 今ここで食べろってことか? まぁ小腹空いてたし別にいいけど。

 

 普段貰ったプレゼントを家で開ける時はアメリカの子供のように包装紙をビリビリに破って開ける俺だが、さすがに送り主の前でそうするわけにもいかない。

 慎重に接着面を剥がし、破けないように綺麗に開ける。

 

 中から出てきたのは、一口サイズの球体のチョコレート。ピノのように並べられており、その数は六。こういう形のチョコは、確かボンボン、プラリネとかって言うんだっけか。昔つぐパパに教えてもらったことがある。

 

「んじゃ、いただきます」

 

 一つ取り、口に運ぶ。

 板チョコよりは柔らかく、生チョコよりは硬い。サイズもあり、食べやすいチョコだ。

 味の方はというと───

 

「...うん、うまい」

 

 普通に美味い。

 こういう時「普通に」とか言うと相手に失礼なんだろうから口には出さないが、良くも悪くも「普通」だ。

 まぁ「おたえの手作り」っていうバフがかかってるから市販のやつより全然美味く感じるけどな。

 でも意外だ。おたえだし、何か変なものを入れててとおかしくないとちょっぴり警戒してたんだが、本当に普通のチョコだな。美味い。

 

「どの辺がおいしい?」

 

 どの辺が???

 うーん...難しい質問だな。俺ってばそもそも馬鹿舌だしな。正直高級イタリアンと下町食堂みたいなとこのパスタでさえあんまり区別がつかないし、なんなら下町食堂の方が味が濃くて好きまである。

 

「うーん...まぁ味に関しちゃ俺くっそ素人だし馬鹿舌だから上手くは言えないけど、あれだよ。おたえの手作りってのがポイント高いよな」

 

 おたえも黙っていれば美少女だ。何も考えておらず、脳内花園ランドで、口を開けばトンチンカンな事か音楽のことしか喋らないが、紛うことなき美少女だ。そんな女子が作ってくれたチョコが美味しくないわけがない。

 必死に平常心保ってるけど、今マジで小躍りしちゃいそうなくらいには嬉しいからな。

 

「...ふふん。ありがとう」

 

 味についての言及はしなかったが、なんとか乗り切れたらしい。おたえもニッコリだ。

 

「.........おい関口。わ、私のチョコはどうだったんだよ。もう...食べたか...?」

 

「市ヶ谷さんの?」

 

 昨日貰ったチョコか。

 中身は抹茶のチョコタルトだったな。

 

「食べたよ。美味しかった」

 

「そ、そっか! ......ちなみに、どの辺がおいしかった...?」

 

 またか。俺に食レポを求ないでほしい。そんなに舌肥えてないんだって。

 

「うーん......さっきも言ったけど俺馬鹿舌だから、ここがどうだった、みたいなのはあんまり言えないんだけど...そうだね、手が込んでるなって思ったよ。あと抹茶ってとこが市ヶ谷さんらしいなって」

 

 市ヶ谷さんって『和』ってイメージなんだよな。盆栽好きだし。

 

「......それだけか?」

 

 マジか。おたえと同じでこれで乗り切れると思ったが、市ヶ谷さんは手強い。

 必死に昨日食べたチョコの味を思い出す。

 うーん...うめぇうめぇつって食べてただけで、マジで「美味い」以外の感想がないな。

 

「...そうだなぁ...手作りってだけあって真心? みたいなのが感じられた...みたいな? 抹茶抹茶してなくてちゃんとチョコの味もして...えー、甘すぎなくて食べやすかった。市ヶ谷さんに作って貰えたの嬉しかったし、また食べたいなとも思ったかな」

 

「...私に作ってもらえて嬉しかった......」

 

 え、何?

 

「...ったく、しょ、しょーがねーな! また暇な時作ってやるよ!」

 

 マジでか。

 俺抹茶味のお菓子とか好きだし、本当に美味しかったし、また食べられるのは嬉しいな。今度また市ヶ谷さん家の蔵行こ。

 

「へー。関口が貰ったのって抹茶タルトなんだな。俺らのは普通のチョコだけど。な、五十嵐」

 

「なっ!? い、いやそれは! あの〜...あれだ! 材料! 抹茶の粉末がもうなくて...!」

 

「そうなの? 俺も抹茶タルト食べてみたい。抹茶好きなんだよね」

 

 お、須田も好きなのか。一緒だね♡ あんま嬉しくないな。別に嫌でもないけど。

 

「...須田、お前ちょっと空気読めよ」

 

「え?」

 

「誠くん。誠くんの分の抹茶タルト、今度私が作ってあげるから、ちょっと黙ろうね?」

 

「え? え?」

 

 牛込さんの圧こっわ。なして圧かけてんの?

 ...あ、そっか。須田が市ヶ谷さんの手作りお菓子食べたいとか言ったからか。そらしゃーない。須田が悪い。

 

 ......いやいや、え? 何お前ら。やっぱ付き合ってんの? だったら報告あくしろ!

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

「そういえば練習、どんな感じ?」

 

 次の予定までまだ時間があったため、しばらくCiRCLEの休憩スペースで時間を潰すことにした俺たちは、まりなさんに許可を取ってから軽くお茶会(偽)を行っていた。

 お菓子はもらったチョコ、お茶は自販機の午後ティーだ。

 やはり香澄とおたえは山吹さんと一緒に作ったのか、三人のチョコはほぼ同じ形、同じ味がする。香澄のだけいくつか星型みたいなのがあったくらいだ。

 

 これらをうめぇうめぇと食べている途中、不意に山吹さんがそう聞いてきた。

 

「ん、順調」

 

 順調すぎて怖いまである。

 今までこんなにしっかり準備して挑むことのできるライブがあっただろうか? いや無い。

 サポートでなら何度かあったけど、Capliberteのライブに限ったらマジで初めてなんじゃないか? 今までよくやってたな俺ら。

 

「順調すぎて暇まである。コピー曲練も新曲ももう終わったし、暇すぎて全然関係ない曲のコピーとかしてた」

 

 まぁた須田がなんか言い出しやがった。けど本当に完璧だから困る。

 

「お前凄いよな。俺、まだコピー曲のドラム完璧には叩けねぇもん」

 

「へぇ。五十嵐くんがそう言うなんて、ずいぶん難しい曲やろうとしてるんだ? 何やるの?」

 

「ん〜、まだナイショ。本番を楽しみにしててくれ」

 

 五十嵐には苦労をかけるな。今回の、ってか毎回だけど、コピー曲は難しいのもあるし、手数が多いわ速いわで普通に大変そうだ。

 かく言う俺もコピー曲には苦戦することが多い。ギターが二本、あるいはそれ以上鳴っている楽曲をする時とか、ただコピーするだけじゃなくアレンジを考えたり、さらにはリードボーカルをしたり、ってのが大変なんだよな。まぁ楽しいんだけどさ。

 

「ホント、須田が天才すぎて困る」

 

 やれやれ、と大袈裟に肩を竦めていると、五十嵐が呆れたように目を細めてこちらを見てきた。

 

「いや、お前も中々だろ。練習中、須田が突然弾き出した曲に即興で合わせにいきやがって」

 

 ばか言うな。俺は天才なんかじゃない。十年続けてきた努力の賜物だぞ。

 

「そうなんだ。どんなメタル弾いたの?」

 

 おうおうおたえさんよ。どうしてメタルと決めつけるのか。いやまぁ、ある意味これも日々の賜物か? メタルジャンキーだと思われてんのかな俺。

 

「メタルじゃないよ。J-POP? 星街す○せいの『灼熱に○純情』って曲」

 

「星街す○せい?」

 

「そ。VTuberの人。歌上手いし楽曲が良いから俺CDも持ってんだけど...須田はよく知ってたな。普段こういうのよく聴くの?」

 

 そういや俺、須田が普段何聴いてるとか知らないな。前に聞いた時は「好みとかはまだ分かんない。ライブでやる曲聴いてる」とか言ってたし。

 

「いや? 昨日りみに薦められて、今朝練習くる途中に初めて聴いた」

 

「クソがよ」

 

「何が!?」

 

 なんで今朝ちょっと聴いたくらいのレベルなのにあの曲のベースをほぼ完璧にコピーできるんだよ。意味わかんねぇ。あーあ、これだから天才はよぉ。

 

「でも、須田がそんなに暇ならライブでやる曲増やすか? たしか、まだ持ち時間には余裕あったよな?」

 

 わりとガチで須田に対し引いていると、五十嵐がそう提案してきた。

 

「持ち時間は二十分くらい余裕あるし、曲増やすのはいいけど...お前が大丈夫か?」

 

「まぁなんとかなんだろ。まだ本番まで期間あるし」

 

 こいつもこいつで中々なんだよな。

 

「あー...じゃあ増やすか。何やりたいとかある?」

 

「俺は特にねぇかな。須田は?」

 

「んー? んー...なんでもいい! 曲増やすのは賛成」

 

 なんでも良いが一番困るんだよ(主婦)

 そうだなぁ......あ。

 

「じゃあX JA○ANやろうぜ。二曲くらい」

 

「曲は?」

 

「んー、紅はやりたいし...そうだな、Rusty N○ilとか?」

 

「お、それならいける。紅はこの前のライブで叩いたし」

 

「俺もいーよ。X JA○AN楽しいし」

 

「んじゃ決まりな」

 

 Rusty N○ilやるならキーボード欲しいな。つぐに頼んでみるか。紅はギターでなんとかなるとして...ギターが二本欲しいところだけど、まぁキーボード入るならなんとかなるか。

 

「X JA○ANやるの? 私もやりたい」

 

「おいおたえ、私らもそのライブ出るんだぞ?」

 

「分かってる。大変だと思うけど、どっちも手は抜かないよ。海たちとライブするの、すっごく勉強になるんだ。ポピパのためにも私、もっとギター上手くなりたい」

 

「おたえお前...」

 

「おたえちゃん...!」

 

 

 ...えっ 何? なんでちょっと「感動した!」みたいな空気になってんの?

 

 

「...ま、いいや。じゃあおたえ、一緒にやろうぜ」

 

「やった。私、頑張るね」

 

 むんむん! と気合いを入れるおたえ。まぁこいつなら大丈夫だろ。リード*1は俺が弾くし、そこまで負担はかけないつもりだ。紅はこの前おたえも弾いたしな、いけるだろ。

 

「おたえちゃんが入るならほかのコピー曲にも入ってもらうか? 関口、もう一人ギターが欲しいつってたろ」

 

 須田が提案してくる。

 まぁ居てもらった方がありがたいっちゃありがたい。本家はギター一本だが、明らかに二本以上鳴ってるんだよな。

 

「やっていいならやるよ。たくさん弾けばたくさん上手くなる」

 

 うーん、脳筋。だが真理でもある。一日八時間練習しろ(ミ○ク)

 

「じゃあ決まりで。X JA○ANはキーボも欲しいし、あとでつぐにも声かけとくよ」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 CiRCLEを出て、一人羽沢珈琲店に向かう途中。

 

「ふえぇ...」

 

 道に迷っている松原さんを発見した。

 いや、まだ迷っているとは決まっていないが、あんな何も無い道端で一人で「ふえぇ...」ってたら迷子一択だろう。松原さんだし(決め手)

 仕方ない。ちょっと助け───

 

「おや、花音。こんなところで偶然だね。どうしたんだい?」

 

 白馬の王子様が来やがった。

 比喩でもなんでもない。白馬に乗った王子様(瀬田先輩)が来やがった。

 面倒くさい予感がプンプンする。瀬田先輩が来たし松原さんも大丈夫だろ。ここは見なかったことにしよう。

 

「か、薫さん...? 良かったぁ...! えっとね、道に迷っちゃって...」

 

 やっぱり迷子だったか。

 つーか馬にはノータッチか? まぁいっか。俺には関係な───

 

「おや? そこにいるのは仔犬くんじゃないか!」

 

 見つかったァ...(逃○中)

 

「あら、海じゃない! こんにちは! 今日も良い天気ね! なんだか良いことがありそうだわ!」

 

 お嬢もいるとか聞いてないが!?

 今どっから出てきた!? さっきまで絶対にいなかったろ、瞬間移動の類か!? お嬢ならやりかねないな(絶対的信頼)

 

「...うっす」

 

 見つかったからには無視するわけにもいかない。別に嫌いってわけじゃないしな。突然『笑顔大作戦』なるものに巻き込まれたり拉致られたりするのが怖いだけで。

 

「あ、海くん、こんにちは」

 

 松原さんは癒しだが、お嬢と瀬田先輩がいる中じゃ申し訳ないけど戦力にならない。奥沢さん(ブレーキ役)どこいった?

 

「海は何をしていたの?」

 

 お嬢のいる所奥沢さん(ミッシェル)ありだと思っていたんだが、どうにも見当たらない。マジで何やってんの、あんたお嬢の保護者だろ。目を離しちゃいけませんよ。

 

「ちょっとこれから用事で───」

「あたしたちは楽しいことを探している最中よ!」

「話聞けや」

 

 そっちから振ってきといてそれはないだろ。

 

「仔犬くんの用事は急ぎのものなのかい?」

 

 お、瀬田先輩もたまにはこっちの話を聞いてくれるんだな。いやまぁ、毎回ちゃんと聞いた上で無視してる節はあるけど。

 

「急ぎっちゃ急ぎですかね。ひまりたちアフグロと待ち合わせしてるんですけど、約束の時間、そろそろなんで」

 

 あんまり効果はないが、この後付き合うことはできないよと示しておこう。お嬢もそこまで他人の事情を考えないやつじゃない。そう信じたい。

 

「あ、そういえばひまりちゃんが『最高の友チョコを見つけた!』って、言ってたような...?」

 

 見つけた、なのか。

 じゃあ今年は手作りじゃないんだな。ちょっと残念だけど、まぁ俺もお返しは毎年市販品だし、文句は言えないか。

 

「友チョコ? それはどんなチョコなのかしら」

「あれ、お嬢知らない? バレンタインで友達同士で渡すチョコのことを友チョコって言うんだよ」

「そうなのね! じゃあこれは友チョコだわ!」

 

 これ?

 お嬢は何も持っていないように見えるが...

 

「黒服さん!」

「はい。こちらが本日、ハローハッピーワールドの皆様にお配りするチョコになります」

 

 うっわびっくりした。突然虚無から出てこないでほしい、心臓に悪いんだよそれ。黒服さんも中々神出鬼没だよな。忍者か?

 それにしてもそのチョコ、なんか高級そうな紙に包まれてるけど...まぁ「そう」じゃなくて実際超高級なものなんだろう。なんせ世界のTURUMAKIだし。

 

「あ、そうだ! 海にもあげるわね、友チョコ!」

 

 お嬢の言葉に従い、黒服さんが箱を渡してくる。

 宝石とか家具とか絵画とか、そういったガチで億単位の品物すら持たされてきた俺だ。今更高級チョコ程度で腰が引けることはないが...それはそうと緊張はするな。

 

「あ、ありがと。でもいいの? これ、今からハロハピに配るんでしょ?」

「大丈夫よ、たっくさんあるもの!」

 

 さいですか。

 このチョコ一箱でエフェクターくらいは買えそうだなぁなんて思いながら、背負っていたギターケースのポケットにチョコの箱を入れる。

 

「すまない仔犬くん。私もチョコをあげたいところなんだが、生憎と今日はハロハピの分しか持っていなくてね。また後日、ということで許しておくれ」

「あいや、別に大丈夫っす。そんな気を使わなくても...」

「いや──いいや! 仔犬くんにはお世話になっているし、今後とも良き隣人でありたいと思っている。このくらいはさせてほしい。せめてもの気持ちさ」

 

 なんか薔薇咲いたんだけど。何これ、幻術?

 それにしてもクッソ顔がいいなこの王子。ちょっとくらいクサいセリフを吐いたところで滑稽じゃないっつーか、むしろ様になっている。羨ましい。

 ま、この人に限っては普段の言動の方が滑稽だけどな。

 

「ご、ごめんね? 私も、明日バイトの時に渡すつもりで、今日は持ってきてなくて...」

「いや、マジで大丈夫っす。てか松原さんもくれるんすか。嬉しっす」

 

 やったぜ。

 バ先で貰うとちょっと変な噂が流れそうだが、まぁいっか。学校とは違い、周りが鬱陶しくなったら辞めればいい。責任感がないと言われるかもしれないが、こちとらただのバイトだしな。

 それにうちのクラスメイトがやったみたいな制裁は待ってないはずだ。多分。

 

「では仔犬くんもこの後用事があるようだし、私たちも行こうか。美咲やはぐみとの待ち合わせにはまだ余裕もあるが...『安心、それが人間の最も近くにいる敵である』。つまり、そういうことさ。花音、私の後ろに乗るといい」

「ふえぇ...?」

 

 最近の瀬田シェイクスピアはわりと的を得たこと言ってんな。前はもっと脈絡もない名言ぶっぱなしてたけど。

 つーか馬に乗れって、いくら瀬田先輩と松原さんが軽いつっても馬への負担ヤバすぎだろ。しかもここコンクリだぞ。動物愛護団体が黙っちゃいなさそうだな。

 

「あたしも乗りたいわ!」

「すまないこころ。シルバーは二人乗りが限界なんだ」

 

 スネ夫みたいなこと言うな。せめてシェイクスピアの引用であれよ。

 でもこれは意地悪とかじゃなくガチ理由っぽいな。そもそも二人乗りすら怪しいって俺は思ってるけどね。

 

「そうなの? お馬さんに乗ってみたかったけど、それなら仕方ないわね」

「お嬢様。馬の用意が出来ました」

「あら、ほんと? ありがとう、黒い服の人達! いったいどんなお馬さんなのかしら。すっごく楽しみね!」

 

 馬の用意が出来ました、じゃないんだよな。相変わらず異能力みたいな対応しやがって。...俺も乗馬体験してみたい。今度頼んでみよっかな(順応)

 

「それじゃあ海、また会いましょうねー!」

「ふっ...儚い...」

「ふっ ふぇえぇぇぇ.........───!!?」

 

 

 

 瀬田先輩の愛馬と不思議パワー(黒)で召喚された馬に跨り走り去る三人と、その馬と併走して行った黒服さんたちを見送り、俺は再び羽沢珈琲店を目指して歩き出す。

 

 

「......馬って平均時速六十kmとかで走るんだったっけかなぁ」

 

 やっぱあの人(黒服さん)ら人間じゃねぇ。

 お嬢やはぐみなんて目じゃあない。本物の“怪物”はあの人らだったんだ。

 黒服さんらだけは敵に回さないようにしよう。そう心に決めた。

 

 

 

 

 

*1
リードギター。ツインギターにおいて、主にピロピロ鳴ってる方のギターのこと。もう1つのコードを弾いている方をバッキングギター、リズムギターなどという。バッキングギターの方が負担が少ないことが多い




おたえ、RASでの修行ルートを回避した模様。
良かったね!(*^^*)
良かったか?( ・᷄-・᷅ ) (情緒不安定)


次回、ようやくAfterglow編です。
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