ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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Ave Mujicaとかいうメタル路線バンドが出たって聞いて普通に興奮したので急いで書き上げました。


ラブコメじゃ幼馴染みは負けるのが定番だけど、これは現実なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バレンタインデーには、色んな思い出がある。

 

 巴がとんこつラーメン味のチョコを持ってきて軽いテロを起こしたこと。蘭が「バレンタインとか馬鹿じゃないの」って言いつつしっかりお高めな良いチョコを用意してきたこと。つぐが覚醒して『ノイシュバンシュタイン熊本城 ~バーストエンド~』とかいう神秘の塊みたいなチョコ(?)を作ってきたこと。

 

 

 そして、好きな人に「お前のチョコが一番美味しかった」と微笑んでもらえたこと。

 

 

 彼は「バレンタインなんて“上級者”しか嗜めない贅沢な祭典だ。贅沢は敵だ」とか「聖人の命日になに騒いでやがる、宗教ニワカ共め」とか、そのほかにもわりと危険思想じみたことを色々言ってはいるが、なんだかんだ毎年渡したチョコはしっかり食べてくれるし、お返しもきちんとくれる。

 

 今年もきっと、いつも通り。

 チョコを渡して、「ありがとう」とか「美味しかった」とか月並みだけど嬉しい言葉を返してもらって、照れ隠しにホワイトデーのお返しを要求してお茶を濁す。今まで何回も繰り返してきた、いつも通りバレンタイン。

 

 

 

 

 ─────.........それでいいのかな?

 

 

 高校生になって、海の周りには女の人が大勢集まってきた。

 もちろん、みんながみんな彼に恋愛感情を向けているとは思わないし、海も今のところ好きな人がいる雰囲気はない。

 けど、それがいつまでも続くなんて思えない。

 海は魅力的だ。とってもとってもかっこいい。いつも海と一緒にいる女の子の誰かがコロッと堕ちてもおかしくない。それに海だって、誰かを好きにならないなんて保証はどこにもない。

 現に昔、希さん(海の姉)の同級生に恋していたと本人が言っていたことがある。その人はデキ婚してしまい失恋に終わったから良いものの、次はないかもしれない。

 

 

 バレンタインデーは不思議な日。

 女の子に勇気をくれる特別な日。

 

 

 こうしている今も、もしかしたら誰かが海にアタックしているかもしれない。私がいつも通りやっていたら、先を越されるかもしれない。

 

 そんなのは嫌だ。私の方が前から好きだった。一度諦めたことがあるといっても、そんなのはたった二、三ヶ月の話。何年も想ってきた気持ちは再燃し、今なお高まり続けている。この気持ちは誰にも負けない自信がある。

 

 

 誰にも盗られたくない、だなんて思って何も行動しないんじゃ、ほかの誰かにあっさり横取りされても文句は言えない。

 だったら、行動に移さなきゃ。フラれちゃったらどうしよう、ウザがられたらどうしようっていつもは怖がって尻込みしてばかりだけど、何と言っても今日はバレンタインデー。女の子に勇気をくれる特別な日。

 

 今日は少しだけ、いつもよりたくさんのアプローチをしてみちゃおうかな。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 カランコロン、と来店を告げる鐘が鳴る。

 うっすらと暑さすら感じるほどの暖房が効いた店内に外の風が吹き込み、弛緩していた肌がキュッと締まった。思わず伸びた背筋を少し捻り、店の入口を見る。

 

「さっぶ〜...」

 

 寒風と共に入店してきたのは、今日の主役であり脇役の海くん。

 彼の登場に、窓際の席から声が上がる。

 

「海おっそーい! こっちだよ、こっち〜!」

 

 元気の良い声だ。若干元気すぎる気もするが、今日くらいは許そう。何と言っても今日はバレンタインデー。彼女も気合いが入っているんだろう。

 

「うっせ、店内だぞ。あ、お邪魔します」

 

「いらっしゃい、海くん。今日はいつもより濃いめの(にがい)ものが良いかな?」

 

「あ、それでお願いします。ありがとうございます」

 

 今日は甘いものを渡されるだろうから、それに合わせていつもより苦いコーヒーが欲しいかと思い提案してみたら、ドンピシャリ。

 律儀にお辞儀をしてくる海くんに「すぐ淹れるね」と言い、準備を始める。

 チョコや糖分の多いお菓子とコーヒーの食べ合わせは案外悪い。チョコ、コーヒー両方に含まれるカフェインの過剰摂取、またカフェインには糖質を中性脂肪に変える働きがあるためだ。

 しかしまぁ、そんなものを無視できるほど、甘いものを食べた後にはコーヒーが飲みたくなる。僕なんかとは違い、彼はまだ若い。糖尿病の心配もそこまでする必要はないだろう。

 

 

「もうみんな揃ってたんだな」

 

「海が遅いんだよっ」

 

「時間通りだろーが。全然待ってないよの一言くらい言ってみろ」

 

「そういうの、普通は男側が言うセリフなんじゃないの」

 

「甘いな蘭、その発言は炎上の元だよ。今どき世間はそういうのにうるせーんだからな。なぁ巴」

 

「なんでその流れでアタシに振るんだよ」

 

「海の中でトモちんって男判定なの〜?」

 

「ちげーよ。巴は女子だろ。なぁつぐ?」

 

「え、なんで次は私...?」

 

「特に意味なんてないでしょ。海だし」

 

 

 海くんには悪いが、きっと蘭ちゃんの言う通りだろうな。

 聞こえてくる会話からそう考えながら、コーヒー粉を入れたドリッパーにゆっくりお湯を注いでいく。うちは長年ペーパードリップで一杯一杯コーヒーを淹れている。ここをおざなりにしては、美味しいコーヒーは淹れられない。

 粉全体にお湯が浸み込む程度に、中央から外側に向けて螺旋状にお湯を注ぐ。

 

 

「ま、海も来たことだし、そろそろ始めるか! チョコ交換会!」

 

「バレンタインのことチョコ交換会って言ってんの巴くらいじゃね」

 

「だってそうだろ? あ、海は時差交換だけどな」

 

「時差交換」

 

 

 巴ちゃんはなんと言うか、昔から変わらないなぁ。

 二回目の湯注ぎを始めつつ、感想を抱く。

 二回目は風味が一番良く出る工程だ。今度は全体にではなく、中央に集中してお湯を注ぐ。ドリッパー内の湯量が増え、表面が平になるまで注いでから一旦止める。こうすることで風味豊かな味わいが引き出されるのだ。

 

 

「んじゃアタシからな! 今年はクッキーにしてみたんだ。あこが『リサ姉や紗夜さんみたいなクッキー作りたい!』って言うから、一緒に作ったんだよ」

 

「.........な、なぁ巴。ちなみにこれってさ...その......」

 

「ん? あー、味か? 安心しろって! 前にとんこつ味を出して失敗してるからな。いやアタシは失敗だなんて思ってないんだけど」

 

「アレを失敗じゃないって言えるって、ある意味才能だよね」

 

「俺はまだ忘れてないぞ、あの日の衝撃を」

 

「あはは...ま、まぁ、独創的な味...だったよね...?」

 

「な、なんだよお前ら! そこまで酷くはなかっただろォ!? なぁモカ、ひまり!」

 

「のーこめんとー」

 

「巴、食べ物ってね? やっぱり食べ合わせとかあると思うの。美味しい×美味しい=超美味しい! じゃないんだよ」

 

 

 酷い言われようだ。可哀想になってくる。が、確かにアレは凄かった。僕も興味本位で一つ貰ったが、訓練していなければ危なかった。なんというか......うん......

 三回目の湯注ぎを始めようとし、過去の思い出が蘇る。

 三回目からはタイミングが重要だ。中央が窪み、二回目で出来た泡の表層が崩れないうちに三回目を注ぐ。湯量は二回目の時より少なめに。三回目以降は徐々に減らしていくのがマストだ。

 

 

「だぁア!! わーってるよ! だから今回は普通にチョコ味だから!」

 

「ならいいんだ。ありがたく貰おっと」

 

「ん、ありがと巴」

 

「トモちんさんきゅー」

 

「私も一袋貰うね? ありがとう、巴ちゃん」

 

「チョコ味なら私も貰うー!」

 

「お前ら、たまにひでーよな...」

 

「あはは......えと、それじゃあ次、時計回りでいく? モカちゃん」

 

「ほいほーい。はっぴーばんばれびーん」

 

「なんて?」

 

「気にしない方がいいよ、巴。モカの狂言に付き合ってたらキリないから」

 

「モカちゃんからのお菓子は〜、じゃじゃーん、チョココロネ〜」

 

「モカ、去年もチョココロネだったじゃん」

 

「ちっちっち〜、甘いのぅ〜ひーちゃん。去年のはスーパーで特売だったやつで〜、今年のは山吹ベーカリーのやつなんだよ〜」

 

「え、そんなに違うの? 同じチョココロネじゃない?」

 

「それが全然違うんだな〜。トンビと鷲くらい違うよ〜」

 

「また微妙に分かりにくい例えを......」

 

 

 山吹さんのところのパンは一味もふた味も違うからなぁ。美味しいし、食パンは山吹ベーカリーから仕入れてるくらいには僕もファンだ。

 四度目のお湯を注ぎ終わり、今日はまだ食べていない山吹ベーカリーのパンに思いを馳せる。

 海くんに出す用と、自分用で二杯分、ちょうど良い量のコーヒーが完成した。いつもなら仕事中に商品を自分で飲むなんてことはしないけれど、なんてったってバレンタイン。この後のことを考えれば、コーヒーが飲みたくなる。今日くらいは許されるだろう。

 

 

「...あたしのはチロルチョコ。手作りとかできないし。味の種類だけは揃えてるから、好きなの持ってって」

 

「とか言って〜モカちゃん知ってるんですよ〜? 蘭がわざわざ書店で買ったチョコ作りの雑誌を見て〜、夜な夜な試行錯誤、手作りチョコを作ろうと頑張って〜、でも結局上手く作れなかったんだよね〜?」

 

「は? 違うから。雑誌じゃなくてサイトを────...あ、違う今のなし。練習とかしてないから」

 

「蘭、手作りしてくれようとしてたの!? うっそ、ホントに? 嬉しー!」

 

「ったく、素直じゃねーなー」

 

「蘭ちゃんの気持ちだけで嬉しいよ!」

 

「は、いや、ホント違うから! モカが勝手なこと言っただけでホント...!」

 

「照れんなって。にしても蘭の手作りかー。食ってみたいな。抹茶とか入ってそ...っていってぇ!!?」

 

「うっさい。ほんとうるさい」

 

「なぜ俺だけ殴る!?」

 

 

 蘭ちゃんも相変わらずだなぁ。俯瞰して見れているから可愛らしい一面だって分かるけど、十代で、しかも同期のアレを楽しめるほど噛み分けた子はそうそういないだろう。海くんなら理解できそうなものだけど、あの子、実害(拳)を被ってるしなぁ。

 温めておいたコーヒーカップにドロップしたコーヒーを注ぎながら、そういうのを経験してみんな大人になっていくんだよと内心アドバイスをしてみる。

 最初にお湯を注ぎ始めてから二分と四十秒。中々ベストな時間で完成したコーヒーを持ち、海くんたちのいるテーブルへ向かう。

 

 

「それじゃあ次は私だね。ハッピーバレンタイン! 私はチョコカップケーキだよ」

 

「お、今年は普通な感じなんだな。一昨年みたいなあのヤベーやつみたいなのじゃなくて」

 

「あー...ごめんね? 期待外れだったかな...」

 

「え? いやそんなことは全然───」

 

 

「発言には気を付けろ小僧。僕は今、アツアツのコーヒーを持っている」

 

「マジで期待外れとかじゃなくてわーいチョコカップケーキすっごい美味しそー!! 食べていい? いいよねいっただきまーす!!! ......あ、めちゃくちゃ美味い」

 

 

 命拾いしたな小僧。それで「『普通に』美味しい」とか言ってたら今頃この熱々コーヒーがキミの洋服とフュージョンしていたところだ。

 構えていたコーヒーをテーブルに置きながら、本当に美味しそうにつぐみのカップケーキを食べる彼の横顔を見る。嘘はついていない様子だ。なら良し。

 

 

「じゃあ最後は私! ふっふっふー! 今年はすごいよ〜?」

 

 自慢げに胸を張るひまりちゃん。

 なんとも可愛らしいことだ。

 

「あー。ひまり、なんか『最高の友チョコ』ってのを手に入れたんだって?」

 

「え!? ど、どうしてそれを...!?」

 

「さっき松原さんから聞いた」

 

「海、花音先輩と会ったの!? さっき!?」

 

「おん」

 

「チョコ貰ったんでしょ! 絶対そうだ!」

 

「いや、貰ってねーよ。なんか今からハロハピで友チョコ交換会があるんだってさ。お嬢と瀬田先輩とも会ったぞ。お嬢からめちゃくちゃ高級そうなチョコ貰ったけど」

 

「うわーん!!! そんなのと比べられちゃ勝てないよぉ!!」

 

「あー、よしよし。おい海、ひまり泣かせんなよ」

 

「え、これ俺が悪いの?」

 

 海くんが悪い。

 今からチョコを渡そうって子に対して「ほかの女の子からチョコ貰ったぜ」発言はダメだよ。さすがに擁護できないね、これは。

 

「えー...いやごめんて。でも『余ってるからあげるわ!』的な感じだったし、何よりここで貰うチョコが一番楽しみだったよ」

 

「ほんと......?」

 

「ほんとほんと」

 

 お、今のは良いフォローなんじゃないか?

 多数チョコを貰ってます発言はどうかと思うが、言ってしまった後のフォローとしては妥協点だと思う。

 

「...ちなみに、こころ以外からも貰ったの?」

 

 おおー。結構攻めるなぁひまりちゃん。ダメな方に。

 そんなの「貰った」って返事が返ってくるに決まってるのに。自分から自分の地雷踏ませに行ってるよこの子。まぁそういうの、この年頃の子は自分じゃコントロールできない感情なのかもしれないなぁ。

 

「ありがたいことに貰ったぞ。友チョコと...あと変なの」

 

「変なの?」

 

 ほらやっぱり。でも変なのって何だろう?

 蘭ちゃんの質問への返答に聞き耳を立てながら、ゆっくり配膳していく。

 

「いや、なんか将来俺が有名になるかもだから、今のうちに唾つけときたいって。突っ返す訳にもいかないから受け取ったけどさ、アレまじ何?」

 

 なんだそれ...

 まぁ海くんのバンドはどうやら人気があるし、海くん自身もテレビに出たことがあるから、もしかしたら有名になるかもしれない。だけどその下心を口に出して、しかも本人に伝えるっていうのは、照れ隠しだとしてもちょっと、いやかなりセンスが無いかな。

 

「おお〜。じゃあモカちゃんも今のうちにサインもらっとこーかなー」

 

「どうすんだよそれ」

 

「海が有名になってプレミア付いたら売る〜」

 

「おい」

 

 せめて飾ってあげなよ、と思いつつ配膳し終わり、「ごゆっくり」と言い残してテーブルを離れる。

 

 しかし海くんも罪な男だ。ひまりちゃんはずっと片想いだし、高校生になってからも着々とガールズを増やしていって...ほんと、刺されないように注意しなね。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 私の想い人は、どうやらたくさんチョコを貰っているらしい。

 さっきは知らないフリをしちゃったけど、花音先輩が海にチョコをあげるつもりがあるのは知っている。この前先輩から直接聞いたから。

 

 それをとやかく言う権利は、今の私にはない。

 海が誰と仲良くしようと、誰に想いを寄せられようと、誰と付き合おうと...ただの幼馴染でしかない私に口を出す権利はないんだ。

 

 

 

 毎年恒例のバレンタインイベントが終わり、そのまま皆で遊びに出かけ、その帰り。

 皆と別れ、各々の家の前まで送って、その最後。

 蘭も送り届け、私は海と二人きりになった。

 

「...ね、ねぇ海。ちょっとさ、寄り道していかない?」

 

 日はとっくに地平線に沈み、辺りが薄暗くなってきた時間。

 私を送ると言い一緒に歩いていた海に、そう言う。

 

「いいよ。そういや商店街の方に新しいラーメン屋が出来てたな。そこ行くの?」

 

「いやラーメンじゃなくて」

 

「じゃあ甘味系? スイパラとか」

 

「甘味も食べないよ!」

 

「......大丈夫か?」

 

「何が!?」

 

 海は私のことなんだと思ってるの!?

 うぅ〜...食べる量減らそうかなぁ...せめて海の前だけでも...

 

「そうじゃなくてその、ちょっと散歩というか...」

 

「散歩? ...あーね。おけ、いいよ」

 

 何の納得なんだろう...

 ま、まぁいいや。おっけーしてくれたし。

 

 家へ向かう道から外れ、お夕飯の匂いが漂う住宅街の中を海と歩く。

 お魚を焼く匂い、お肉を焼く匂い、ソースの匂い、塩の匂い、変わり種でパンケーキの匂いもしてくる。うぅ、お腹鳴りそう...

 

「『突撃! 隣の晩ご○ん』って番組、昔やってたよな」

 

 急に海が呟く。

 お夕飯の匂いを嗅いで思い出したのかな。

 

「あー、やってた! 私たちが小学校低学年くらいの時に終わっちゃったやつだよね」

 

「終わってはねーよ。放送局変わっただけで。まだやってるんじゃね?」

 

「そうなの?」

 

「知らんけど」

 

 ポチポチとスマホを操作する海。

 数秒程して、画面を見ながら「あー...」と漏らした。

 

「ごめん、今はやって...いや? 昼ごはんver.ならやってんのか?」

 

「へー」

 

「うわ、興味無さそう」

 

「え? い、いや、そんなことないよ!?」

 

 実際そんなに興味はない。

 けど、ちょっと昔のことを思い出したな。

 

「そういえばその番組、小学校の頃一緒に観たことあるよね」

 

「そうだっけ?」

 

「そうだよ! 忘れたの?」

 

 首を傾げる海に、少しだけ感じた不満を隠すことなくぶつけてみる。

 そうすれば海は困ったようにさらに首を傾げ、目を閉じ、必死に思い出そうとしていた。可愛いなぁ、なんて思う私はきっと意地の悪い子なんだろう。

 

「ほら、海が初めて私の家で晩ごはん食べた時!」

 

「え〜...? ......いや、あの時はヘキ○ゴン見てたろ」

 

「え、そうだったっけ? いや絶対隣の晩ご○んだったよ!」

 

「いーや、ヘキ○ゴンだね。俺、その日に初めて『羞○心』聴いたんだもん」

 

「『羞○心』! なっつかし〜! 昔海が弾き語りやってたよね〜」

 

「あー、やったやった。今思い出すと全然弾けてなかったのにさ、自慢げにひまりたちに聴かせてんの。恥っずいわ」

 

「え〜? かわいーじゃん。あ、そういえばさ、小学校の頃─────」

 

 会話が弾む。

 昔話に花が咲く。

 

 ...そう。昔話にばかり、花が咲く。

 

 私たちはずっと一緒にいた。同じ時間を刻んでいた。お互いの生活で知らないことはほとんどなかった。

 朝の眠たそうな顔。授業中の真剣な顔。給食で好きなものが出てきた時の顔。昼休みの何気ないお喋りで笑ったいた顔。

 

 それを今、私は見ていない。

 海と学校の話になると、知らないことばかり耳にする。

 高校になったら別々になる。それは私が内部進学をすると決めた時から分かっていたことだ。

 

 けど、やっぱり────

 

 

 

「ねぇ、海。海はさ、今、楽しい?」

 

 ふと、そんなことを口にした。

 なんで出したのか自分でも分からないセリフ。

 

「今? そうだなぁ。バンドも出来てるし、バイトもまぁ楽しいし、学校も───」

 

「私はね、ちょっと寂しいよ」

 

 自分から聞いたのに、海が言おうとした言葉をそれ以上聞きたくなくて、咄嗟に遮ってしまう。

 こんなことを言うつもりは無かった。けど、一度口に出すと止まらない。

 

「学校に行って、授業を受けて、お弁当を食べて、蘭たちとお喋りして、バンドの練習をして。いつも通りだけど、いつも通りじゃない。これがいつも通りになって欲しくない」

 

 小説なんかで『ダムが決壊したように』なんて表現を見るけど、アレはこういう気持ちなんだろうなって、少し俯瞰している自分もいる。

 不思議な気分。きっと良くはないんだろう。海もどう反応したらいいのか分からなくて困ってるみたい。

 悪いなって思いながら、でももうちょっと困らせたいだなんて思ってもいる。気持ちが安定しない。頭の中で纏まる前に、口から言葉が吐き出される。

 

「私ね、海と同じ学校に行けば良かったなって、時々思うんだ。蘭たちと一緒なのは嬉しいよ? けど、花咲川に行って、海とまた一緒に学校行って、一緒に授業受けて、一緒にお弁当食べて、みたいな。昔みたいな『いつも通り』が懐かしくて、寂しいなって思うの」

 

 なんの話をしてこんな話になったんだっけ?

 あんまり覚えてないけど、ここまできたら言い切ってしまおうか。そんな気持ちになる。

 

「...んなこと言ってもお前、今でも十分一緒じゃんか。バイト先も一緒だし、こうやって遊んでるし。週に二、三回は会って────」

 

「足りないよ」

 

 全然足りない。

 海の事は全部知っていたい。

 何を見たのか、感じたのか、考えたのか。

 誰と仲が良い、誰のことが苦手。

 アレが面白かった、悲しかった、嬉しかった、腹が立った。

 全部全部、海の全部を知っていたい。

 

 ...これはちょっと重すぎるかな。

 最後の最後で働いた理性のおかげて、そこまで吐露することはなかった。ありがたい。よく踏ん張ったね私の理性。これからもよろしく。

 

「......もっと遊ぶ頻度を増やしたいってことか?」

 

 こういう時、まるでわざとなのかってくらい海の勘は悪くなる。

 いつもは気付かれたくないことまで読み取ってくるくせに、ホント、何なんだろうこの男は。

 

「────......ううん、なんでもない。ごめんね? 突然変なこと言って」

 

 遊ぶ回数が足りないとか、そういうことじゃない。

 そう言おうとして、やっぱりやめた。

 一度流れた言葉は中々止まらないけど、一度理性によって塞き止められたら簡単に止まる。単純で難しい人間の心理。

 

「..................」

 

「..................」

 

 無言の時間が流れる。

 私はもう止まってしまったし、海も何か考えているんだろう。真剣な顔で、ちょっと眉間にシワが寄ってて。少し下を向いて歩いてる。

 いつもならお互い無言でもそんなに気にはならなかったけど、今はとっても居心地が悪かった。

 

 周りはすっかり真っ暗になっていて、空には薄らと星が見えている。

 目を凝らし、星々を見つめ、ゆっくり歩いた。

 

「......ねぇ、海」

 

 立ち止まって、海の方を向く。

 下を向いてた海の顔がこっちを見た。たっぷり三秒、目と目が合う。

 

 一度視線を外して、カバンから小包を取り出し、それを差し出した。

 不思議そうに小包を見る海に、作った笑顔を向ける。

 

「はいこれ、プレゼント。バレンタインの」

 

 そう言って、受け取ってほしいと小包を更に前に突き出す。

 一瞬迷っていた海だけど、すぐに受け取ってくれた。

 

「バレンタインって、チョコはもう貰ったけど」

 

 受け取りながら、やっぱり不思議そうに聞いてくる。

 

「『友チョコ』じゃないよ。言ったでしょ? プレゼント」

 

「プレゼント?」

 

「うん、そう」

 

 海は友達、親友だ。だからチョコをあげた。蘭たちにもあげたものと同じ、『最高の友チョコ』を。

 でも、海は私の特別な男性(ヒト)でもある。だから、友チョコじゃない、バレンタインのプレゼント。

 まだ(・ ・)、そんなことを口には出さないけど。

 

「...ま、くれるってなら」

 

 疑問は晴れないけど...と書かれた顔で、海は確かにプレゼントを受け取った。

 

「ね、開けてみてよ」

 

「ここで?」

 

「うん」

 

 もう空は真っ暗だけど、街灯に照らされて道は明るい。

 包み紙を丁寧に開けて、海はプレゼントの中身を取り出した。

 

「これ、ピアス?」

 

 右手に取り出したプレゼントを乗せて、私にそう聞いてきた。

 

「そうだよ、手作りピアス! ハンドメイド教室行ったり、動画で勉強したりして作ったんだ〜。どう? けっこー綺麗でしょ」

 

「いやまぁ、確かに綺麗だけど...」

 

 ゴテゴテした装飾が苦手な海も気に入るようにと、黒い天然石が一つだけ付いたシンプルなピアス。それを片耳分。

 年が明ける前から準備して、何度も何度も失敗して、ようやく出来た自信作。

 

「でも俺、ピアスの穴無いしなぁ」

 

「開けよーよ」

 

「いや、校則が」

 

「ワガママ言って学校に免許取得を認めさせといて何言ってんの?」

 

 ついこの間、自慢げに言ってきた「俺は校則を塗り替えた男」というセリフ。

 内容を聞けばただこころの家の権力を借りただけで海は何もしてないけど、あんな自慢をしてきたのに今更ピアスは校則違反だー、だなんて言わせないから。

 

「実は私、今日ピアッサー持ってきてるんだよね」

 

「ここで開けんの!?」

 

 逃げるように数歩下がり、バッと耳を隠す海。

 あははと笑って怯える様子の海を見る。

 さっきまでの無言が嘘みたいに騒がしく、楽しい雰囲気。

 

「ジョーダン、ジョーダンだよ海! 今からウチ行こっ。あ、でもここからだと海の家の方が近いかなぁ」

 

「いや、つーか俺まだ開けるとは一言も言ってな────」

 

「あれ〜? もしかして海、怖いの?」

 

「はぁ!? べっ、別に怖くなんかないですけどぉ!?」

 

 少し挑発してやれば、簡単に乗ってくる。

 相変わらずチョロチョロのチョロ助さんだなぁ。そういうところも可愛いんだけど、ちょっと心配でもある。悪い女に騙されないよう、私がしっかり見とかなきゃ。

 

「あはは! じゃあ行こっ!」

 

 海の手を取る。

 異性の手を握るなんて好きじゃない男の人には絶対しないんだけど、そういうの、海はきっと分からないんだろうな。

 

 それだけじゃない。

 ピアスをプレゼントすることの意味も、海の誕生日に私があげたネックレスの意味も、海はきっと知らないし、やはり気付きもしないんだろう。

 

 それでいい。今は、それで。

 

 

 

 でも、もし海がプレゼントの意味に気付く日が来たのなら。その時は──────

 

 

「海っ!」

 

 

 私に引っ張られる形で着いてくる海に、自然と湧き出たとびっきりの笑顔を向けて高らかに言い放つ。

 

 

「ハッピーバレンタイン! これからもずっとずっとよろしくねっ!」

 

 

 今できる、精一杯の告白を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一瞬ガチ恋愛モノにしようか迷いましたが、どう少なく見積もっても壮絶な修羅場が7回、ドッカンバトルが3回は訪れてしまうし、多分誰も幸せにならないエンドにしか辿り着かないルートしかないのでラブコメモドキを続けます。そのうちif話的な各ヒロインルートを書くかもしれません。

P.S.
どうでもいいんですけど他人にピアス開けてもらう、つまり自分の体に穴を開けてもらうってそれもう完全にxxx(禁止ワード)だと思うんですよ。さすがにセンシティブすぎる、本当に年齢制限かけなくて大丈夫か?(言わなきゃいいのに)(このあとがきだけでお気に入り数とか減りそう)(見捨てないで...見捨てないで...)
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