ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
「ん、ぁ〜〜......」
朝。
ふと目が覚め、布団から身を起こす俺を寒さが襲う。
もっと寝ていたい、温かい布団に身を包んでいたい。そう思うが、外はもう明るかった。
まだ目覚ましは鳴っていないようだが、明るいということは起きなきゃいけないということ。目覚ましをセットしていたのが七時で、家を出なければならない最終ラインが八時前。それを過ぎると遅刻確定だ。まぁ目覚ましが鳴っていないってことはまだ七時前なんだろう。
のそのそと布団から出て、昨日のうちに用意していた靴下を履く。
「いま...なんじ......」
寝ぼけ眼で時計を探す。
いつもの定位置に無い。なんでだ?
キョロキョロと周りを見渡すと、床に転がっている目覚まし時計を発見した。夜中に寝惚けて落としてしまったんだろうか?
よく分からないままに時計を拾い上げ時計を見る。
短い針が、八を少しだけ通り越していた。
「.........は!?」
慌てて立ち上がり、床に置きっぱなしだったシールド*1に足を引っ掛けてフラつき本棚を倒すまで、あと三秒。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「なんっで目覚まし鳴らねぇんだよ......!」
バイクに跨り、文句を吐き出しながら疾走する。
普段は都電+徒歩か自転車通学だが、今日はそれじゃあ間に合わない。
細道抜け道を最大限使い、最短距離で学校へ向かう。
「間に合え...!」
別に遅刻くらいしたっていいんだが、今週は謎の遅刻撲滅週間が開催されている。遅刻したら風紀委員に捕まるばかりか、反省文も書かなければいけない。それは非常に面倒くさい。
バイトの配達で培った信号無しのルートをフル活用し、なんとか始業三分前に学校に辿り着いた。
周りにはほとんど人がいない。みんな真面目だな。
バイク置き場からダッシュで昇降口まで駆ける。
未だ知り合いとは出会わない。妙だな、なんて思うがそれどころじゃねぇと足を止めず教室に向かう。
始業のチャイムが鳴る。けど大丈夫。鳴り終わるまでが始業のチャイムだ。
ビッグ・ベンの鐘の音が元ネタだというこのチャイムは約二十二秒ほど続く。ここから教室まで全力で走れば十秒程度。十分間に合う。
廊下を走ったら走ったで紗夜さんに捕まりそうだが構うものか。反省文と説教、どちらがマシかと聞かれれば断然後者だ。
誰もいない廊下を駆け抜け、教室に飛び込む。
まだチャイムは鳴っていた。
「よっしゃセーフッ!!」
思わずガッツポーズが出る。
息切れしながら、遅刻回避でガッツポーズはさすがに恥ずかしいなと教室内を見回すと......
「あれ?」
そこには誰もいなかった。
じわじわと染み出てくる汗が気持ち悪く、とりあえず上着を脱ぎ、窓を開ける。冷たい風が心地よい。跳ねていた心臓が徐々に落ち着いてくる。
だが心は落ち着かない。なんで誰もいないんだ? もしかして一限目は移動教室だったかと、教室の隅に貼ってある時間割を見るが、今日の一限は現国。この教室で行われる授業だ。
はて、マジで一体何なんだ。
ポケットからスマホを取り出し、一旦須田に電話をかける。
「...あ、もしもし須田?」
『あー? んだよこんな朝っぱらに...』
繋がった。
やけに眠そうな須田の声が聞こえてくる。
寝てたのか? なんで? 今日金曜日だぞ。
「お前、今どこ?」
『家だけど』
「学校は?」
『学校? バカお前、今日は休みだろ。受験があるから』
「え?」
『は?』
は?
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「それで、慌てて学校に来てしまったんですか?」
所変わって生徒会室。
教室で呆けていたところ、校内を見回っていた紗夜さんに発見された俺は、生徒会室まで連れてこられていた。
生徒会室には紗夜さんのほかに、白金さんと市ヶ谷さんの姿もある。来年度から始動する新生徒会の面々だ。今日の受験のサポートのため、学校に来ていたらしい。なんでも新生徒会が主導で動く初仕事なんだとか。そんな時に面倒かけてしまったみたいでごめんなさいの気持ち。
呆れたように聞いてくる紗夜さんと、同じく呆れたように見てくる市ヶ谷さん。
おどおどした様子の白金さんは「さ 災難、でしたね...」とクッキーをくれた。ありがてぇ。けどただでさえ走ってカラカラだった口の中から更に水分が奪われる。辛い。
「ほら関口、茶」
「あ。ありがと」
せっかく白金さんから貰ったのだからとクッキーを頬張って口内が死にかけていたところ、市ヶ谷さんがお茶を用意してくれた。いたせりつくせりですげぇな生徒会室。今度から暇な時は遊びに来ようかな。......いや、紗夜さんがいたら怒られる可能性があるな。やっぱやめとこ。
「全く。昨日周知があったはずですが、聞いていなかったんですか?」
「いやぁ...あはは」
笑って誤魔化すと、更に厳しい目が紗夜さんから飛んできた。
ぶっちゃけ聞いてなかった。帰りのHRなんてどうせ大したことは言ってないと右から左だったな。次からはちゃんと聞いておこう。
「ったく。うちの
「あ、有咲ぁ〜!! どうしよう、みんな教室にいないんだけど! しゅーだんぼいこっとってヤツかな!? それともミステリーサークル!?」
「この
.........え、何? 俺、このバカと同レベルってこと?
本気で凹むんだが............
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「ほら香澄、関口待ってんぞ」
バイクを取って校門まで引っ張ってきた俺は、昇降口付近で乳繰り合っている百合を合掌して眺めていた。
金百合さんがこちらに気付き、猫百合さんが手を振って金百合さんと別れる。
待て。俺は今、あの尊い百合を阻害したのか? 馬に蹴られて死のっかな。
「海くんおまたせっ! わぁ〜、それが海くんのバイク? カッコイー!」
「へへっ」
前向きに死を検討していたところ、愛車を褒められて鼻が高くなる。そうだろ、俺の
「乗せてってくれるの!?」
「そうしてやりたいけど、俺、まだ後ろに人乗せれねぇんだわ」
「そうなの?」
「おん。法律で免許取得後一年過ぎないと人乗せれないことになっててさ。あと十ヶ月したら乗せれる」
「そうなんだ! じゃあその時乗せてよ〜!」
「いいよ」
おたえに加え、女の子を乗せる予約もこれで二件目だ。男冥利に尽きるね。バイクの免許、取って良かった。
バイクを押し、香澄と二人帰路につく。
香澄は途中で都電に乗るから、そこまでは一緒だ。
「うわ〜、ホントに中学生多いね〜」
帰りの途中。俺たちとは逆方向、学校に向かう道を中学生達が歩いているのが目に入る。
「あ、そういえばうちの中等部に都築さんのお孫さんがいるんだってー。海くん知ってた?」
「都築さん?」
「ほら、スペースのオーナーのおばあちゃん」
「あー」
あの人の名前、今知ったわ。なんだかんだ初ライブでお世話になったってのに我ながら薄情だなと思う。
「何年?」
「今一年生だって!」
「へー」
中等部との絡みはほとんどないからなぁ。体育祭や文化祭でチラッと見たことがあるくらいだ。
部活でもやってれば交流の一つや二つあったろうけど。
「香澄の妹もうちの中等部だっけ?」
「そう! あ、でも高校は羽丘に行くんだって」
「へー。なんでまた」
「羽丘の方が頭良いからって言ってた」
なるほどな。
まぁうちより進学率良いし、大学狙ってるなら良い判断だとは思う。
「あれ、香澄って外部入学だったよな?」
「そうだよ! せっかくあっちゃんと同じ高校に通えると思ったのに、あっちゃん、羽丘に行くってゆーんだもん」
「そりゃ残念だ」
姉妹で同じ高校ってのも良いことばっかりじゃない気もするけどな。特に下からしたら、姉のせいで変に上級生と絡みが出来てクラス内で浮く、みたいなことにもなりかねない。
まぁ別にそんなこと俺が考える必要もないかと思考を切り、引っかかった別の話題を出す。
「兄弟っていやぁ、今年は澤田さんの弟が
「そうなの!? 合格祈願しなきゃ!」
こいつはほんと、優しいというかバカというか。
まぁ知り合いの身内だし、俺も内心応援はしている。顔も知らない相手だからあんま応援しようもないけどな。メタラーの素質があるって話だし、無事合格して入学してきたら仲良くしてもらおう。
受験って言えば、倉田ちゃんの受験はどうなっただろうか。もうあっちの受験はとっくに終わってるはずだし、そろそろ合格発表の頃合いか。良い知らせが届くことを願ってる。
そんなことを話しながら歩き、駅まで来た。
ここまで来るともう受験生らしき中学生の姿は見えない。時間的に、今駅にいるようじゃ遅刻だろう。
「ほいじゃ香澄、また来週」
「うん! ......あっ!」
手を振り香澄を見送ろうとしたところで、香澄が何かを見つけたらしく、俺の後ろを見て声を上げた。
何かあるのかとそちらを見れば、踏切を渡る二つの人影が見えた。
一人は、この辺じゃよく見かけることのある老婆。腰が曲がり、歩く速度も遅い。
そしてもう一人は、この辺の中学の制服を着た男の子。どうやらおばあちゃんの荷物を持ってあげているらしい。善人だな。
けどあれがどうした? 特に珍しくもない、って言ったらアレだけど、ただ親切な中学生がおばあちゃんを助けてるだけに見えるが。
...いや、中学生? この時間に?
時間的に中学生も授業が始まっている時間だ。この時間に制服を着て彷徨いているのはおかしい。ただのサボりだと言われればそこまでだが、今日は高校受験がある。
足りない頭のくせして色々と察し、嫌な予感がしたのだろうか。香澄が駆け出した。
「大丈夫ですかー!」
ほんとこいつ、とことん善人だな。市ヶ谷さん家の蔵に不法侵入した挙句ギターをかっぱらったクセしてよ。
なんてことを思いながら、俺も香澄に続く。
「おや、香澄ちゃん。ええ、ええ。大丈夫だよ。この人が荷物を持ってくれてねぇ」
香澄はこのおばあちゃんと知り合いだったのか、朗らかな笑顔でおばあちゃんが言う。
それにホッとした様子を覗かせるのは、荷物を持っていた男の子の方だ。
「お知り合いの方ですか? 良かった。おばあちゃん、この荷物持ってふらふらしてて」
「そうだったんだ、ありがとね! おばあちゃん、こんなに大きな荷物、どうしたの?」
「孫がねぇ。社会人になってしばらく帰ってきてなかった孫が、久々に帰ってくるって言っててねぇ。好物をたぁくさん作ってあげよう、って思ってねぇ」
「おばあちゃん偉い! 優しい!」
香澄の友好関係に今更ながら驚きつつ、男の子の方に声をかける。
「え えっと.........き、キミ、もしかして受験生?」
初対面の相手って苦手なんだよなぁ。なんか爽やかイケメン君だし。善人でイケメンとか何者だよ。怖い。
「はい! 今から花咲川を受験する予定です!」
高校名まで言わなくていいんだよ。危機管理。
けどまぁ聞く手間が省けたから良しとしよう。
「でも、今からって間に合わなくない?」
「かもですね......けど、困ってる人を見捨てて受験しても良い結果は返ってこないと思いますし! 間に合わないかもですが、今からでも行ってみます!」
な、なんて野郎だ......! あまりの輝きに浄化されかけた。陽キャとか越えた存在かよ。神か? 神々しさを感じる。笑顔に後光がさしてんよ。
「ど どうしよう! 今から有咲に連絡したらどうにかならないかな...?」
香澄もさすがに受験遅刻のヤバさは分かっているのか、焦ったように聞いてくる。
「...いや、無理だろ。いくら生徒会つってもそんな権力あるわけねぇし」
生徒会が学校以上の権力を握ってるなんて、漫画の中か日菜さんくらいでしか有り得ない。うちの生徒会は至って普通の生徒会だ。黒服さんもそこまで学校側に口が出せるとは思わないし、何より最近俺のせいで干渉しすぎている。ここで頼るのは気が引ける。
だが、人助けをして大事な受験に遅れるとかいう主人公ムーヴをカマすこの子を放って置くのもなんだかなぁ。
ダメ元で白金さんや紗夜さんに連絡してみるか? ......いや。
「......えと、キミ、自転車って乗れる?」
「自転車ですか? 乗れますけど...」
不審がるイケメン君に、続けて質問する。
「じゃあ、二人乗りの経験は?」
「一応あります! ...あっ、いえやっぱり無いです!」
「いや、別に二人乗り注意しようとかしてないから」
「あります!」
なんだか可愛い子だな。好感が持てるというか。
いやおばあちゃん助けてる時点で好感しかないんだが。
.....................仕方ない、かぁ。
「香澄。そのおばあちゃん、よろしく」
「え? あ、うん! え、どうするの?」
「この子、バイクに乗せて学校に行く」
「え? いやでもさっき二人乗りはまだ出来ないって」
「いいか、香澄? お前は何も知らない」
「知ってるよ!」
「知らないんだよそういうことにしとけ」
「なんで?」
ほんまこいつは...!
ダメだけど知らないフリしとけばいいんだよ! 二人乗りだって免許取って一年経ったら解禁されんだ。一年未満かどうかなんて交通違反でもしなきゃバレないバレない*2。バレなきゃ犯罪じゃないんですよぉ*3
いいや。この際香澄は無視だ。後でポテトでも奢れば全部忘れるだろ。
バイクに跨りエンジンをかける。
「ほら、乗った乗った」
「え? あ、いや、でも......」
「
遠慮...ってわけでもないかもしれないが、あまり乗り気じゃないイケメン君を半ば無理やり後ろに乗せる。
悪いね。俺はキミみたいに根が善人ってわけじゃないんだわ。ここでキミを無視したら今夜の晩飯が悪くなる。それだけの自己満なわけ。だからキミが嫌がっても連れて行く。
...いや、知らん人間に突然「後ろ、乗りな(キリッ)」なんて言われたら警戒するのが普通なんだけどな。今はそんなこと知ったことか。
「じゃ、しっかり捕まっててな。あと暴れないで」
そう言い、アクセルを回す。
ヘルメットも一つしかないから後ろの子に被せている。警察に見つかったら一発アウト。
配達のバイトで培った警察のいない、あるいはいる可能性が限りなく低いルートを叩き出す。
どうか警察にも知り合いにも見つかりませんように。
そう願いながら、今朝同様、全力で道を走り抜ける。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「お兄さんありがとうございました〜!!」
バイクをかっ飛ばし、なんとか時間ギリギリに到着することができた俺たち。
手をブンブン振って校舎へ駆けて行くイケメン君。「受験頑張ってね〜」とこちらも手を振って見送る。
香澄に連絡を入れると『おばあちゃんをおうちまで送ったら羊羹くれたから今おばあちゃんちでお茶してる!』と返ってきた。あいつのコミュ力はやっぱりずば抜けてるよ。
さて、それじゃあ紗夜さんに見つかる前にさっさと退散するか。
貸していたヘルメットを被る。なんか良い匂いするな。怖いんだけど。
これからどうするか。今日はバイトも無いし、なんなら学校があると思っていたから他の予定も一切無い。
ひまり達は普通に学校あるだろうし...うーん。あそうだ。久しぶりにツーリングでもするか。
そうと決まればさっそくレッツゴー。
目的地? そんなの知らねーよ。風に聞きな。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
てなわけで。
特に何も考えず突き進み、時に左へ時に右へ、気分風の赴くままにバイクを走らせる。地図なんて見ない。風情がないだろう?
......だなんてカッコつけて突っ走った結果、迷子になりましたとさ。ちゃんちゃん。
じゃあねぇんだわ。
現在どこかの山の中。多分千葉のどこかだとは思うんだが、よく分からない。
最悪なことにガソリンが無くなり身動きが取れない状態。スマホも充電が切れていて現在地どころか助けも呼べない始末だ。一体どうしてこうなった(カッコつけの末路)
ほんと、どうすっかなぁ。
とりあえず誰か通らないか待ってみるか。山の中とは言っても公道だ。そのうち車の一つや二つ通るだろう。
そう思いしばらく待っていると、こちらに向かってくるエンジン音が聞こえてきた。
この感じはバイクかな。スマホを貸して貰えればいいんだけど。
道路からよく見える位置に立ち、手を挙げて待つ。
これで怖いにーちゃんとかが来たら嫌だなぁとドキドキしながら待っていると、一台のバイクがこちらに向かって走ってきた。
いかついバイクだけど、あれ、なんか見覚えが......
こちらに気付いたのか、バイクは速度を緩め、俺の傍で停まってくれる。って、
「あ? 関口じゃねぇか。何してんだお前、こんなとこで」
やって来たのは狂犬ドラマーお嬢様、佐藤ますきだった。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
「バイクはガス欠スマホは充電切れで山ん中で立ち往生とか、お前ほんとバカだなぁ!」
わははと豪快に笑う佐藤。
場所は山の中から移り、山を下ったコンビニの駐車場。佐藤にガソリンを分けてもらい、なんとか山を抜けてガソスタで補填した後、お礼として佐藤にコーヒーとカップ麺を奢っていた。
「いや、マジでほんとそう。助かったわ」
スカジャンをはためかせるその風貌を裏切ることなく、コンビニの前で座ってカップ麺を啜る姿はまさにヤンキーのそれ。これが夜のコンビニだったら百点満点だったな。
こいつ、本当にお嬢様学校の生徒か? そんな疑問を覚えつつ、俺も隣で缶コーヒーを啜る。
「佐藤はなんでこんなとこに? 今日学校あんじゃねーの」
「お前んとこと同じで、こっちもお受験で休みだよ」
お受験。育ちが良いのか何なのか。八百屋の娘でお嬢様学校の生徒でスティックを握らせれば手の付けられない狂犬と化す佐藤が分からない。ほんとに「ごきげんよう」とか言ってんのかこいつ? 想像つかねー。
「ごちそうさん。やっぱラーメンはとんこつだよな」
「分かる。とんこつ以外はラーメンじゃない。ただの亜種だ」
「そこまで過激派じゃねーよ私は」
そうなのか。
そうなのか......
「そういや最近どうなんだよ、バンドの方は」
コンビニのゴミ箱に空の容器を捨て、コーヒーを飲み始めた佐藤が聞いてくる。ラーメンの後にコーヒーってどうなの? と思うがまぁ人それぞれか。
「楽しくやってるよ。今度ライブにも出るし」
「へー。またCiRCLEで?」
「そ」
「今度うちのライブハウスでもやれよ。お前らがライブしてからぼちぼち客も入ってきてっけど、やっぱお前らがやった時が一番盛り上がってたし」
「そりゃRoseliaやパスパレがいたからな」
「謙遜すんなって! お前のバンド...えっと、なんだっけ」
「Capliberte」
「そうそれ! お前らも十分人気だし、何より親父が気に入ってんだよな」
そうなのか。あのいかつい八百屋のおっさん、ずっと仏頂面だったからあんまし好かれてないと思ってたけど。
「佐藤の方はどうなんだよ。相変わらずサポートで狂犬やってんの?」
「狂犬って言うな。可愛くねぇだろ」
フン、と不機嫌そうに鼻を鳴らす佐藤に平謝りしてみるが、お前の演奏スタイルは間違いなく狂犬だろ。
「ふん。まぁ、アレだ。聞いて驚け。私もバンドに入ったぞ」
「マジでか」
驚くが、まぁ佐藤はこれでバンドに憧れというか、バンドをやりたいっていう意思はずっとあった。バンドを組んだこと自体は不思議じゃない。
問題はいつまで続くかかなぁ。佐藤はべらぼうにドラムが上手いが、協調性が無い。突っ走ったドラムで孤高の一人旅、周りが着いていけないほどの荒々しいドラムを叩く。
俺や和奏は佐藤に合わせられる数少ない演者として、セットでサポートに呼ばれることも少なくはない。最近は俺が断ってるから別のギタリストが犠牲になってるんだろうな。
まぁとにかく、そんな暴れ馬なドラムを叩いているから、今までバンドが長続きしたことがないらしいと聞いたことがある。
ちょっとだけ心配している俺に、佐藤はニヤニヤとした笑顔を向けてきた。
「なんだよ」
「いや? ちょっとおもしれぇバンドに入ったからな。お前らと
「戦うってなんだ。喧嘩ならお断りだぞ」
「ちげーよ。バンドで
「やらねーよ。対バンならやるけど」
音楽は他人との戦いじゃない。
バンド内で“音”で殴り合うことはあっても、戦いはしないんだ。
「あー...ま、お前はそういう奴か。けど、そうも言ってられなくなるかもしれないぜ?」
「は?」
意味深に笑ってみせる佐藤に疑問を返す。
「うちの
「こねーよ。来たとしても無視してやる」
「ハハッ! まぁ楽しみにしとけって。闘り合うどうこうは置いといて、私としちゃあ関口と対バン出来んのは楽しみなんだ」
「対バンなら喜んで。俺もお前と、お前が認めた奴らと対バンするのは楽しみだ」
佐藤と対バンできるのは嬉しい。これは紛れもない本音だ。
狂犬だなんだと言うが、ドラムの腕は一級品。うちの五十嵐が一番だが、佐藤のドラムも俺は好きだ。お互い好き勝手に“音”で殴り合っている時間は楽しいし、自分の全部をぶつけられる相手というのは貴重なもの。正直、サポートで一緒に演奏しているのは死ぬ程楽しかった。
同じバンドでは無いにしろ、同じ土俵でライブができるってんなら望むところだ。
......それにしても、Capliberteに執心してる奴がリーダー? 一体誰のことだろうか。全く心当たりがないんだが。
【朗報】海くんの(二人乗りが)ハジメテの相手は男の子です。