ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
そうでなくても感想はいつも嬉しいし楽しく読ませていただいてます。いつも本当にありがとうございます。もっと頂戴!(強欲)
月が変わって弥生よ!
というわけで三月に入った。
澤田さんの弟や香澄の妹、そして倉田ちゃんらの高校合格を聞き騒いでいたらあっという間に終わったな、二月。
グリグリの皆さんもそれぞれ無事に大学合格を決め、今日はついにグリグリ主催の卒業ライブ。
練習期間もいつもより長めに取れたし、リハも上々。準備は万端だ。
ぼちぼち開演時間も迫ってきて、フロアにお客さん達が入ってくる。
Capliberteの出番は一番最初。今回は志願ではなく、ほかのバンドと調整してのトップバッター。
そこに不満はない。何番目だろうが、俺たちは俺たちのライブをやるだけだ。
「Capliberteさーん! 準備お願いしまーす!」
スタッフさんの呼び掛けに「はーい」と返事をして、俺たち
「つぐ、おたえ。最初からトバしてくからな」
「うん!」
「頑張る」
今回のサポートであるつぐとおたえが、気合十分に返してくる。
それに満足して頷いた俺は、続けてもう二人のサポートメンバーであるひまりと巴に目を向ける。
「二人は三曲目から。MCで呼ぶから、準備しとていくれ」
「まっかせて!」
ひまりが言い、巴もしっかり頷いてくれる。
頼もしい限りだ。全員、自分のバンドもあるのによく俺らに付き合ってくれた。感謝しかない。
「掛け声は任せて! せーのっ、えいえいおー!!」
.....................。
「うわーん!! やっぱりー!!!」
「Capliberteさん、出番でーす!」
「よし、行くぞ」
『おー!!』
「ちょっとなんで!?」
ひまり、お前はずっとそのままであってくれ。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
ゆりさんから軽い開会の挨拶があり、その後すぐにステージの照明が落ちる。
暗いステージの上。足元で光るライトを頼りに、楽器やシールドに引っかからないよう各自定位置にスタンバイ。
ギターを担ぎ、軽く一音弾く。PAさんと照明さんへの合図だ。
俺の合図を聞き、淡い一筋の光がステージ上に降り注ぐ。
照らすのはキーボード。つぐのいる場所だ。
仄暗いライブハウス内で一番の光を受け、つぐがゆっくりと指を鍵盤にかける。
ゆっくりと、ゆっくりと。染み入るように、ピアノの音を一つ一つ丁寧に鳴らすつぐ。
微かに見える観客の顔は、どこかポカンとしているようだった。
それも無理は無い。最初は
出だしは十分。
つぐの伴奏が終わり、ライブハウスにはまたも静寂が訪れた。オーケー。そのまましっかり俺の言葉を聞け。
マイクに口を近付ける。
『グリグリ卒業ライブだ。たくさんお世話になった。あの人たちに光を貰ったやつも多いだろう。卒業を悲しむ声も聞いた』
光もなく、ただ暗闇に俺の声がしんしんと響く。
『けどさぁ。これまでさんざこの箱を、このガールズバンド時代を盛り上げてきたあの人たちを、しんみりしながら送り出すのは違うよなぁ? 初っ端からぶち上がれよ、でっかい声援であの人たちを盛大に送り出すぞ!!』
声を張り上げると同時、身を焦がすほどの照明がステージ上に注がれる。
さぁ、開演だ。
『─────紅だァァあアぁあ!!!!!!』
咆哮のすぐ後、
全日本人が知っていると言っても過言では無い伝説中の伝説。音楽を愛し、ライブハウスにまで足を伸ばすコイツらがこの曲を知らないはずがない。
大声援と共に、俺たちの演奏は始まった。
イントロを走り抜け、Aメロに突入する。
綺麗な声は出さない。若干の“ダミ”を織り交ぜる。昂る感情をそのまま曝け出し、観客にぶつけた。
こちらに応えてくれているのか、観客達も手を掲げ、必死で楽しげな笑顔を向けてくれている。
Aメロを走り切り、続くはサビ前のギターソロ。
おたえの指が走る。正確で“粒”のある良い音だ。さすがおたえ、ブレがない。キマってんな。俺も負けていられねぇ。
八小節分のソロが終わり、次は俺のターン。
返し*1に左足を乗せ、観客に見せつけるようにソロを弾く。
原曲に忠実だったおたえとは打って代わり、バリバリのアレンジソロ。原曲通りに弾いた方が良いってのは頭では分かってるんだが、この手がどうにも止まらない。俺だって人間、死ぬ程努力して今の技術を手に入れた凡人だ。自分の“
そして何より、こうやってると自分が楽しい。それが一番の理由だ。
俺の分のソロも八小節で終わる。
ここで返しから足を下ろし、おたえの方に歩き寄った。
打ち合わせは無かったが、おたえも同じ考えだったらしい。あちらも俺に向かって歩いてきている。
一秒足らずで互いの息遣いが分かる距離、あと半歩踏み出せばぶつかってしまう距離まで接近する。
やるぞ。
そういう目を向ければ、
ドンとこい。
そういう目が返ってくる。やっぱりおたえは最高だ。
互いに合わせ、同じタイミングで指板上に指を走らせる。
オクターブのユニゾンソロ。ユニゾンなんだかソロなんだか分からないが、最高に気持ちの良い演奏。絶頂。
本来は二人交互に弾くパートを、熱と興奮でぶっつけ本番ツインギター。
これがライブ、生の熱量。最っ高の瞬間だ。
オラ観客共。もっとだ。もっと盛り上がれ。我慢なんかすんなよ。ペース配分なんて考えんな。この後のことなんざその時に考えろ。
今日この日、足腰喉が無事なまま帰れると思うなよ。
サビに入り、マイクを通した俺の声に負けないほどの観客の声がライブハウスを揺らした。
Cメロに入ってもライブハウスの熱は全く失われない。ワンコーラスだけ俺が歌って、すぐにマイクをスタンドから外し観客側に向ける。
一際熱の篭った大きな声がマイクに注がれた。
最高だお前ら。けどまだまだ続くぞ、着いてこいよ。
ラスサビ、アウトロと走り抜け、ギターを高く掲げながら弾く。
その
次の曲は、一曲目と同じく《X J○PAN》から。日本の国歌(本当)である『R○sty Nail』の始まりだ。
さながらDJのように、つぐがシンセで曲を繋ぐ。違和感もほとんど無い、完璧なシフト。
つぐは『私はキーボードが下手』だと自分を過小評価するが、決してそんなことはない。『紅』のピアノイントロが弾けている時点で下手なわけがないし、そこらのバンドのキーボーディストより断然上手い。
自信を持て。
そう言わんばかりに、ギターパート突入と共につぐの傍に寄る。
つぐの表情は固く、ジッと鍵盤を見つめていた。緊張しているんだろうか。
緊張するなとは言わないが、これじゃあせっかくのライブなのに勿体ない。笑っていこう。
膝を付き、キーボード越しにつぐを見上げる。
そうすると視覚的に、鍵盤ばかり見ていたつぐの目にも俺の顔が映るだろう。
バチッと目が合う。二秒ほどジッとつぐを見つめたあと、ふぐの様に頬を膨らませてみたり、眉にシワを寄せ般若の様な顔を作ってみたり、すぐすぐできる変顔を披露した。
つぐの顔に笑顔が灯る。
それでいい。お嬢じゃないけど、笑顔ってのは大事だ。
満足して俺もつぐに笑顔を向け、立ち上がる。
そろそろ歌が始まる。早くマイクの下に戻らなくちゃ。
なんとか間に合い、Aメロを歌う。
十六小節でAメロが終わり、すぐにサビ。喉をかっぴらき、鼻腔に向けて声をぶつける感覚で柔らかい高音を引っ張り出す。
須田がバスドラに足乗っけやがった。あ、おたえもやりやがった! ズルいズルい、俺も混ぜてよ!!
こういう時ギタボは寂しいよな。マイクを放り出して遊びに行くわけにもいかないし。ハロハピはヘッドセットのマイク使ってたっけ。俺もあれ欲しー。
いや待て。ロックンローラー足るもの、やっぱりスタンドマイクを使ってナンボな気もする。
うーん、悩みどころだ。
メインを張れるボーカルがもう一人うちのバンドに入ってきたら色々楽で楽しいんだけどなぁ。
まぁいいもんね。
間奏でマイクを離れ、またつぐの前に出て低く構える。リズムに合わせて膝を動かし全身を縦に振ると、つぐも合わせて首を振ってくれた。なんだ、手元を見なくても弾けてんじゃん。たくさん練習したもんな。
間奏も終わりに近付き、二番が始まる前にマイクの下に帰る。
Aメロとサビを
ここで俺も五十嵐の下に行き、つぐの時同様膝を使ってリズムに乗った。
それが終われば伴奏パート。
つぐが二つのキーボードを使い、柔らかい音を出す。
ここは変に動き回ることは無く、静かにマイクを握って歌を添える。暴れるだけが能じゃない。緩急は大事だ。
しっとりが終われば、また激しくギターを鳴らす。
ここからはギターソロ。俺の魅せ場。
スタンドマイクよりも前に乗り出す。それに合わせて須田とおたえがしゃがみ、俺にスポットライトが当てられた。
全員が俺を見ている。数百の視線が俺に注がれている。
普段であれば緊張して上がってしまうだろうが、今はライブ中。アドレナリンがドバドバのフィーバー状態。
緊張は無い。むしろ興奮する。
俺を見ろ、俺の音を聴け。そういう気持ちを込める。自然と口角が上がっていくのが分かった。
『おたえは
俺はおたえにそう言ったが、あれは半分...いや、八割嘘だ。もちろんおたえの負担を考えていたのは事実だが、本当の理由は他にある。
「こんな最高のパート、他人に譲れるかよ」
誰にも聞こえない声で呟き、さながら剣道の残心ように、ソロの終わりを告げる余韻あるチョーキング*2をカマす。
すぐに歌に入るが、その歌を掻き消す程の歓声が上がった。
おいおい、今歌ってんだぞ。聴けよ。
そう思うが、それ以上に歓声が心地良い。
一人で弾くのも、スタジオで合わせるのももちろん楽しいが、これは別格。
ああ。やっぱり、ライブってやつは最高だ。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
『────はい。てなワケで、グリグリ主催ライブのトップバッターを務めさせていただきます、《Capliberte》でーす』
二曲目も終わり、MCに入る。
この間におたえと須田がチューニングを、俺はギターを六弦から七弦に変える。
七弦ギターに持ち替え、チューニングを確認しながらマイクに声を通した。
『えー。今回サポートってゆーか、シンセで《Afterglow》の羽沢、サイドギターで《Poppin’Party》の花園に来てもらってます。自分らのバンドもあるのにホントありがたいことで』
横目で舞台袖を見ると、ひまりも巴もスタンバっている。時間も無いし、すぐ次にいくか。
『えー。次やる曲もコピーなんですけど、その前に追加のメンバーです。こっちも羽沢と同じく《Afterglow》から。上原と宇田川です』
紹介と同時に、ひまりと巴がステージに上がってくる。
ひまりは手を振りながら、巴は堂々と胸を張っての登場。さすがに客前に慣れてるな。
『みなさーん! 盛り上がってますかー!?』
マイクを持ったひまりがフロアに問い掛けると、マイクにも負けない声が返ってくる。
元気だなぁ。それでいい。もっとブチ上がれ。
『えー。まぁ今回二人にはボーカルお願いしてます。アイドルソングなんで盛り上がってください』
フロアがなぜかザワついた。
なんだ? 俺らがアイドルソングやるのがそんなに意外か? いつもサイ○イやってるし今更だろ。
須田とおたえに準備は出来たかと確認すると、大丈夫と返ってきた。
よしよし。俺も問題ないし、次を始めようか。
『いやー、海とバンドやれるのすっっっごく楽しみだったんですよ! 《Afterglow》に海を呼んだことはあったけど私が《Capliberte》に呼ばれるのは始─────』
『はーい。んじゃあ時間も無いんでサクサクいきまーす』
『ちょっと! まだ喋ってるんだけど!』
悪いけど時間が無いんだよ。
曲を詰め込みすぎた。《Capliberte》の持ち時間ギリギリだ。長々とMCやってる時間とか無いの。マジで。
そう目で伝えると、むむむって目を返してくるひまり。でも喋るのは止めてくれたな。助かる。自分のバンドの時に思う存分喋ってくれ。
視線を五十嵐に移す。
五十嵐が一つ頷いた。あっちも準備は良いらしい。
『それじゃあいきます。《Br○ken By The Scream》で「走れ! なで○こ!」』
シンバルでフォーカウントをとる。
それに合わせ、
歌とは言っても、入りはひまりや巴じゃない。
俺と須田だ。二人共にデスボを喉から溢れさせる。俺が
アイドルソングと言ったな? あれは本当だ。《Br○ken By The Scream》は変態大国・日本が排出したメタル系スクリーミングアイドルグループなのである。
もはや聴き取れないんじゃないか、マイクすら必要ないんじゃないかというような声の暴力を披露し、
イントロになると俺のギターも始まる。
本家のギターは一人なんだが、やはりというか、音源を聴くと存在しない二本目のギターが聴こえてくる。一人でもなんとかなるっちゃなるけど、おたえが加わることで音圧が厚くなる。音圧はあればあるほど良い。
だが、ギター二本すら上回る五十嵐のバスドラ*3の音がステージを揺らす。
これは比喩なんかじゃなく、本当に音で揺れているんだ。音の波がビリビリと伝わってくる。花火で物が揺れるのと同じだな。
五十嵐はとにかくパワー型のドラマーだ。鼓膜どころかバスドラそのものが破けるんじゃないかという爆音を飛ばしてくる。
五十嵐は技術も凄いが、ことパワーとリズムキープに関しては俺の知る中で最強。プロとして活動している大和さんや佐藤にも引けを取らず、ことパワーにおいては完全に勝っている。
全く、本当に良いドラマーを拾ったものだ。
野球界からすげー睨まれそうだけどな。
そうこうしているうちにAメロが始まった。
アイドルソングと銘打つだけあり、もちろん女性の歌声も入ってくる。ここがひまりと巴をサポートで呼んだ理由だ。
まぁ本家のデスボやシャウトも女性がやってるんだけどな。バケモンだよあの人ら。大好き。
グロウルとスクリーム、そして女性クリーンボイスの掛け合い。これはメタラーの間でも話題を呼んだ。
つぐがやりたいと言って*4実現したこのコピー。最初はどうなるかと思ったが、須田は上手ぇし俺も楽しいしひまりと巴はダンスまで覚えてくるしで最高だな。やって良かった。
そしてつぐ。Bメロから入ってくるシンセを完璧に弾き、ピコピコした電子音を再現している。
最初はいつもと違う音作り、いつもと違う演奏に苦戦していたが、つぐは頑張り屋さんだ。バンド練習の度に成長した姿を見せてくれた。
これこそがつぐの最大の才能。自分を卑下してこそいるものの、決して腐らず上を見て駆け上がれる根性。
つーかこれ本家はサンプリングしてるんじゃないの? なんでつぐは完璧に弾いてくるだよ。すげーな。
つぐ、お前は本当にすごい奴だよ。
ニッコニコの笑顔でつぐを見ていると、ひまりが近寄ってきた。何かと思えば、顔ごとマイクを近付けてくる。一緒に歌え、ということだろうか。よろしい、ならばデュエットだ。
ひまりの声を支えるように
一つのマイクを使い、頬がくっ付くほどの距離で歌う俺とひまり。それぞれ別のマイクを使った方が音的には良いに決まっているんだが、これは生のライブだ。聴き手以上に演者が満足するべきステージだ。
...前から思ってたけど、ひまりってなんか温かいっていうか、甘いのにくどくない絶妙に良い匂いするよなぁ。香水とかじゃないし、説明しにくい匂い。ひまりの素の匂い。俺の好きな匂いだ。
...............幼馴染み相手に、こんなこと思いたくなかったなぁ。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
四曲目はまた《Br○ken By The Scream》から『Breed○r Breeder』を全力で弾き、それも終わる。ギターソロをつぐがシンセアレンジで弾いててすごかった(小並)
さて、サポート組はここまでだ。
『サポートの皆はここまで。ありがとね』
MC代わりに言い、はけていく四人を見送る。
四人が完全にはけてから、俺はギターを七弦から六弦に持ち替えた。
『それじゃあ、ここからは《Capliberte》だけの演奏ってことで。野郎ばっかでむさ苦しいと思うけど我慢してくださいね』
ガールズバンドの聖地とも言われたSPACEで初ライブを決め、ガールズバンドの巣窟であるCiRCLEを主戦場にしている俺たちはもうガールズバンドと言っても過言ではないかもしれないが、まぁ見た目がな。華やかな女性陣と比べるとむさ苦しいのは避けられない。
特に五十嵐、お前の筋肉だ。いや別に悪くはないけど。むしろちょっと羨ましいまであるけど。
などと思いながら、須田がMCで『俺らって基本ライブで衣装の統一とかしてないんですよ。今もほら、バラバラで。その点、ガールズバンドの方はみんなキラキラしたライブ衣装があって良いっすよね〜。やっぱコーディネートはこーでねーと!』などとドすべりしている間にチューニングやらエフェクターの確認やらの準備を終わらせる。
今のは大御所のアーティストがやってもすべっただろうなぁ。その勇気だけはかってやるよ。
『はい、須田の勇気に拍手〜。ってことで次行きます。「革命前夜にランナウェイ ~お国に逆らうもんじゃない~」』
『私は悲しい』
うんうん、悲しいね。
さっさと切り替えろ。
ドラムの四小節から始まり、ゆっくりとひっそりとギターとベースも入る。
決戦前夜、嵐の前の静けさを表現したイントロ。
それが終われば一度静まり、一気に解放。鼓膜を破るつもりで鳴らし、まだまだスローペースで、しかし徐々に速度を上げていく。
ある程度の速度まで達すると、再度沈黙。そして大咆哮。
ここからは速度が命だといわんばかりに掻き鳴らす。
嵐のように吹き荒れるドラムの音、重く冷たい雨のように降り注ぐベース、雷鳴のように轟くギター。
サビに入り、俺と須田で歌い出す。
しかし、真に唄っているのはギターだ。俺たちの声でギターを支える。
そして迎えるギターソロ。
ステージのど真ん中に立ち、俺を見ろ、俺を聴けと主張する。
ギターソロの途中で突然
ステージの中央で睨み合うように須田を額を付き合わせ、どちらも引かず音で殴り合う。互いに熱狂し、ソロパートが終わっても弾くのを止めず。
ドン!
バスドラの一発が、俺と須田の世界を蹂躙する。
たった一音。それだけで俺と須田は黙らせられた。
五十嵐を見れば、いい加減にしろと目で言っている。ごめんなさいの気持ち。
そこからは気取り直して楽譜に沿い、だが決して丸く収まるなんてことはせず、この瞬間に情熱を燃やす。
速く、重く、荒々しく。
そうやってCメロを走りきり、終焉。
革命前夜にトンズラこいた男の臆病さとある種の勇敢さ、逃げ出した後悔、逃げた先での覚悟なんかを表現したメロスピ ~ドゥームの風を添えて~ だったが、ちょい暴走しすぎたな。怒んないで五十嵐、反省してる。
『えー、「革命前夜にランナウェイ ~お国に逆らうもんじゃない~」でした。サクサクいきます。次は新曲、「始まりのTrue Emotion、終わりのsimply inertia」』
「厨二か!」「メタラーなんてみんな厨二だろ!」と観客の声が聞こえる。正しい。
俺たちのメタルは社会への反逆や現実への不満を吐き出しているというより、物語性を綴ったものだ。しかも神話の時代や中世、異世界転生モノのラノベみたいな世界観を主にしている。
それらをテーマにする以上、厨二チックになってしまうのは仕方がないだろう。でもいいじゃん、カッコよくて。ドラゴンとか剣とか、男の子の憧れだろ。
けどまぁ、今回の曲「始まりのTrue Emotion、終わりのsimply inertia」は別にそういった世界観を語ったものじゃない。
曲名通り、「初めは純粋に楽しんでいたが、そのうち惰性になってしまう」。それを憂いたり嘆いたりする内容の曲だ。歌詞はもちろん英語。デスボは無い。ポストグランジ*5系統の曲になっている。
アルペジオから入る。
この曲はBPM130無いくらいのローテンポ。染み入るような演奏になる。
アコシュミ*6を使い、B→F#m→G#m→Eのアルペジオ。かの有名な《ニッケ〇バック》をオマージュしたコード進行だ。
一回しした後、歌が入る。
子供心に憧れたテレビの向こうの主人公達。彼らに近付きたくて始めたもの。Aメロはその喜びを綴り、Bメロで現実や挫折を歌詞にしている。
Bメロからはドラムやベースも入ってきて、少しだけ音に厚みが出てきた。徐々に厚みを増し、サビに突入。
情景への冷めぬ想いと、現実への悲観、絶望。どうして自分は彼らのように上手くやれないのかという自己否定を綴る。
二番のAメロでは時間が進み、高校生になって“憧れ”が風化してしまった光景を観せる。趣味として続けてはいるものの、昔のような情熱は無い。すっかり現実に染まってしまい、気軽に夢も語れなくなってしまった。これが大人になることなのだとぼんやり思っていたところ、一人の男に出会う。ここからがBメロだ。
同年代のその男は、自分が憧れ、諦めてしまった“夢”に向かってひた走っていた。それどころか、周りに何と罵倒されても自分を貫き、“夢”に忠実なその生き様。
サビで、彼を見て自分の中に再び炎が灯るのを感じた心情を吐露する。そして、自分の不甲斐なさもひしひしと感じ、またも自己否定。けれど今度は、今度こそは倒れないと覚悟を決めて再び歩き出す。
そこからはただただ突っ走る。
ギターソロで安定した“大人への道”を切り捨て、周りの反対や批判を押し切り、再び“夢”へ手を伸ばす風景を表現。ラスサビに突入し、キッカケとなった男と手を組んで“夢”を獲りに行く。
そこでこの曲は終わりだ。
この後の物語は聴き手それぞれに任せる。彼らは“夢”を追いかけ続けるのか、また諦めてしまうのか。はたまた追いかけた先で報われず終わるのか。それは聴き手が自由に解釈してもらって構わない。むしろ、その先を想像することでこの曲は完成する。
今まで《Capliberte》がやってきたメタルとは違う方向性の曲。暴れることもなく大人しくギターを弾く様は、観客から見て少しばかり以外に写っただろうか。
だが、そこに籠った“熱”は今までの曲と遜色ない。滾る情熱を全面に出しているか、内に込めているか。それだけの違いだ。
曲が終わり、照明が消える。
同時、歓声が上がった。
普段メタルバンドとして活動し、激しい音楽を演ってきた俺たちだ。毛色の違う音楽に戸惑い、求めていたのはコレじゃないと思った人もいるだろう。
それでも、ここまでの歓声を送ってくれる観客達。これほど嬉しいこともない。
数秒して、淡い光が再びステージを照らした。
汗が頬を伝い、ステージに落ちる。
───ああ、満足だ。
客に受け入れられないんじゃないかという不安があった。別に客のために音楽をやってるわけじゃない。俺らがやりたいことをやった。だから、受け入れられなくても良い。そう思ってはいるものの、せっかくなら何かしらの、そしてプラス方面の反応が欲しいというのが人間の心だろう。
それが叶えられ、自然と笑みが零れる。
この熱が冷めやまぬうちに、次に繋げよう。
『えー。それじゃあ最後の曲。《SILE〇T SIREN》で「HER〇」』
ほら、サ〇サイだ。お前ら好きだろ? 俺も好きだ。
まだまだライブは始まったばかり。もっとブチ上がれよ、観客共。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
俺たちの出番の後、パスパレ、Afterglow、ハロハピ、ポピパ、Roseliaの順でライブが巡る。
トップバッターの良いところは、自分の番が終わってしまえば他のバンドを何の気負いもなく観られることだ。今回はグリグリの主催ライブということもあり、多分恐らくきっと急なアンコールもないはずだしな。あった場合のための練習はして来てるし、何とかなるはず。
ということで、パスパレの演奏からは俺も客席に紛れ込んでみんなと一緒に盛り上がり、Afterglowで蘭たちの青い情熱に焼かれ、ハロハピに物理的に飛ばされ、ポピパのキラキラドキドキで青春の煌めきを感じ、Roseliaのいっそ暴力的なまでの熱量にあてられた。
そしてラスト。今日の主役であるグリグリの出番を迎える。
彼女達のライブは、圧倒的だった。
演奏技術やパフォーマンス力。それらが飛び抜けて高いということはもちろんだが、それだけじゃない。
言葉にしにくいが、あえて言うのであれば《カリスマ》か。
一つの時代を創ったバンド。ガールズバンド時代の前線を走ってきたバンド。
そんなグリグリの集大成がこのライブだ。感じ入るものは少なくない。
そして、それと共に僅かな不安も募る。
これから先、彼女たちはいないのだ。
グリグリが解散するわけじゃない。けれど、ゆりさんの進学なんかもあって暫くは活動しないだろう。
彼女たちがいない中、俺たちはどう活動するのか。これからも出てくる後輩のバンドたちに、俺たちが見た彼女たちの背中と同じものが見せられるのか。
部活動をやってこなかった俺にとっては初めてとなる“世代交代”という波。
これを乗りこなし、俺たちが新たな時代を築く。
今までは後輩面をして好き勝手にやってきた。今後ももちろん、自分たちが楽しむことを大事にやっていくつもりだ。だが、今度は俺たちが後輩に背中を見せ、導いていく番でもある。
僅かな不安と責任感。プレッシャー。
彼女たちの熱を受け継ごう。彼女たちに恥じないライブを続けよう。
そう思うのは、俺だけではないはずだ。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
大盛況のまま終幕を迎えたグリグリ主催ライブ。
終わった後は演者が皆フロアに出てきて、ファンとの交流や物販を始める。
主役のグリグリやプロであるパスパレはもちろん、他のバンドや俺たちだって例外じゃない。CDを売ったり、ファンと話したりしている。
俺たちもCDやグッズこそ無いものの、ファンとの交流は行っていた。その中で「CDは出ないのか」「グッズが欲しい」などの意見も出てきている。
CDはそのうち出すつもりだが、グッズについては考えていなかった。要望があるようだし、タオルとかリストバンドくらいなら作ってみても良いかもしれないな。
そうこうしているうちに、ごった返していた観客達も徐々にはけてきた。
隣のブースだったハロハピの面々とちょっとした雑談をしていたところ、一人の男が《Capliberte》のブースに近寄ってくる。
「......音源、ある?」
男、ってより男の子か? 幼い顔つきだし、背も低い。中学生くらいかもしれない。にしてもめちゃ綺麗な顔だな。アイドルとかにいそうな感じの。てかピアスしてるし、髪も染めてる? 長い髪は、よく見れば少しだけ青みがかっていた。もしたしたら童顔なだけで大学生なのかもしれないな。
挨拶無し、敬語でもないという点に少しばかり面食らうが、まぁそういう人もいるだろうと思考を切り替える。
「すんません、CD無いんすよ」
「.........」
無言はやめて欲しい。ごめんて。近いうちEPでも出すから。
なんとも言えない時間が流れる中、ふと男の子が視線をズラす。
気になってその視線を追ってみれば、そこにはRoseliaの姿が。はて、Roseliaのファンでもあるんだろうか。
そう思っていると、再びこちらに目を向けた男の子が口を開いた。
「......
「............は?」
なんだ突然。自己紹介? なんで?
不審に思い反応できずにいると、男の子が追加で言う。
「...来月から花咲川に入る。《Capliberte》、あんたらのいる学園だろ? よろしく、先輩」
そう言い残し、再度Roseliaの方を睨むように見ながら出口へと向かう、神泉と名乗った男の子。
「......え、今の何?」
隣で見ていたミッシェルがそう聞いてくるが、俺の方が聞きたい。何だったんだ今のは。
何が何だか分からずにボケっとその背中を見送っていると、女の子たちとの撮影を終えて帰ってきた瀬田先輩が「おや」と声を漏らした。
「あの子は...」
「知ってるんですか、瀬田先輩」
「うむ」
ネタが分かるのかこの人。いや別に今のはネタのつもりで聞いたわけじゃないんだけどさ。
まぁこの人は素で「うむ」とか言ってもおかしくないか。...いや、やっぱり言わなそう。「うむ」はさすがに解釈違いか。
それで、さっきの神泉とかいう男の子は瀬田先輩の知り合いか何かなのか?
「半年程前だろうか。仔犬くんと一緒に、二人きりで帰った時があっただろう?」
「ありましたっけ、そんなこと」
「忘れてしまったのかい? いけない子だ。ほら、焼き芋を食べただろう?」
「? ......あー」
そういやあったな、そんなことも。*7
でもそれがどうかしたのか?
「あの時に見かけた路上ライブの子ではないかな、あの仔犬くんは」
え? あー......えぇー...?
そうかなぁ。路上ライブでやけに上手い奴がいるなってのは覚えてるけど、顔までは覚えてないや。
確かにピアスがバチバチだった気はする。けどそんな人、世の中にごまんといるしなぁ。
「凄いっすね、瀬田先輩。あんな一瞬見ただけの顔、覚えてるんすか」
「ふふっ。人の顔を覚えることには自信があってね。シェイクスピア曰く、『無学は神の呪いであり、知識は天にいたる翼である』。つまり、そういうことさ」
「ガチで分かんねっす」
「薫さんを“
「えぇ......」
それにしても、その路上ライブの君が一体全体どうしたんだろうか。
同じ高校になる予定の先輩を見つけて挨拶をしようと思った? いや、それは無いだろうな。そんな丁寧な奴だったら先輩に対して敬語を使わないなんてのは有り得ないはずだ。
それに、Roseliaの方を睨んでいた理由も分からない。
分からないことだらけだが、まぁ分からないんだから仕方がない。考えても無駄だろう。ヒントが少なすぎる。
ここは一旦忘れて、パパッと切り替えていくのが良い。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
観客も完全にいなくなり、演者とスタッフだけが残ったCiRCLEにて。
「よーっし! それじゃあ皆、準備はいーい!?」
香澄が元気に言ってくる。
皆、とはポピパを含め、Afterglow、Roselia、ハロハピ、パスパレ、そして俺たちCapliberteの面々だ。
場所は舞台袖。もう観客もいなくなり、忘れ物でもない限り用事のない場所。そんな場所で、総勢二十八人が大きな円陣を組んでいた。
香澄の確認に、それぞれが頷き、返事をする。
「今日こそは! みんな頑張ろうね! えいえい、おー!!」
そんなひまりの号令も無事不発に終わり、「なんでぇ!?」という泣きそうな声を背にぞろぞろとステージに向かう。
これから始まるのは、俺たちだけのライブ。
今日この時だけ披露する、たった一曲のためのステージだ。
ステージに上り、立ち位置に着く。
聴かせる相手はGlitter*Green。客席には五人の姿があり、他はいない。五人のために用意した、特別な曲。
演奏はポピパの面々。その他は全員楽器を持たず、ボーカルとしてステージに立っている。
ポピパも歌わないなんてことはなく、全員にマイクが用意されていた。こんな大量のマイクを使うことなんて絶対に無いだろうに、準備してくれたCiRCLEのスタッフさんたちには感謝しかない。
『それじゃあ改めて! ゆりさん、リィ先輩、七菜先輩、ひなこ先輩! ご卒業、おめでとうございますっ!』
『おめでとうございます!』
香澄に続き、全員で復唱する。
まるで小学校の卒業式の練習のようだ。少しだけ気恥しさはあるが、このくらいなら我慢しよう。
今日のこの演奏についてはグリグリの皆さんには内緒にしていたから、彼女たちはこれから何が始まるのかという顔を見せている。
『Glitter*Greenの皆さんには、たくさんお世話になりました! 私が初めて見たライブで、初めて見たバンドがグリグリでした! あの時のキラキラとドキドキは今でも忘れませんっ!』
そうなのか。それは初耳だ。
俺がグリグリを初めて見たのは確か中学の頃。Afterglowのライブを見に行った時に対バンしてたのが初見だったかな。綺麗な人達が上手い演奏してらぁ、って思ったのを覚えてる。
『今日は皆さんに歌を作ってきたので、聴いてください! 作詞はりみりんで、提案は海くんです!』
作詞までは良いとして提案者で俺の名前まで出さなくていいんだよ。恥ずかしい。
グリグリの皆さんも「おぉ〜」「海くんが...」「ひなちゃんは感動したッ! さすがだじぇ海坊!」じゃないんだよ。牛込さんが作詞したところに反応してくれ。そこだけに注目してくれ。頼む。
「関口くんが作詞じゃなくて良かったわね」
「ね〜。海くん、作詞下手っぴだし」
おぅおぅ鰐部先輩にゆりさんよぉ!!! 事実は時に人を傷つけるんだぜ!? ひまりも頷いてんじゃあねぇよ! 「うんうん。でもそのセンスがない所も海の魅力なのです」じゃあネェ! フォローになってないんだよバカ!
暴れそうになったところを右から五十嵐、左から蘭に脇腹パンチされて黙らせられる。いてぇ。手加減が無いんだが。
『コントも終わったところで!』
香澄さん!!??
『これから皆で歌います! グリグリのために作った、グリグリのためだけの曲!』
茶番(納得がいかない)を強引を終わらせるという思いもよらない香澄の高等MC技術を見せつけられ、言いたいことは山ほどあるが一旦は大人しく立ち位置に戻る。
覚えてろよお前ら......!
『それでは聴いてくださいっ! 曲名は───────』
Capliberteのセトリです。
1.紅/X JA〇AN(つぐみ、おたえin)
2.R〇sty Nail /X JA〇AN
MC (ひまり、巴in)
3.走〇! なでしこ!/Br○ken By The Scream
4.Breed〇r Breeder /Br○ken By The Scream
MC(4人out)
5. 革命前夜にランナウェイ ~お国に逆らうもんじゃない~
6. 始まりのTrue Emotion、終わりのsimply inertia(新曲)
7.HER〇/silent s〇ren
聴いてみな、トぶぞ。
Breed〇r Breederのギターソロをつぐみちゃんがシンセアレンジして弾いたとか考えると普通に鳥肌です。
ちょい蛇足。
ライブ後ファン雑談。
腐①「今日のカプリもほんっと良かった〜!」
腐②「ね〜! 途中関口くんと須田くんがくっ付いてたの本当にご馳走様って感じ」
腐①「それ! キスしちゃうんじゃない!? 大丈夫!? ここ公衆の面前だよ!? って興奮したわ」
腐②「端っこの方で跪いて拝んでる子いたよ」
腐③「供給助かる〜〜〜。けど特にヤバかったのはアレ」
腐①「分かる! アレだよね!」
腐①②③『五十嵐くんの嫉妬!』
腐①「やっぱりアレ嫉妬だよね!? 俺を差し置いて関口とイチャつくな、的な! ありがて〜〜〜〜〜寿命延びる〜〜〜〜〜〜」
腐③「は? 私は五十嵐×須田派なので、これは戦争です」
腐②「強火厄介カプ厨乙。私はどのカプでも満たされるので問題なし」
腐①「カプリだけにってか」
腐②「は?」
腐①「ピキんな」