ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
〜ハロハピの場合〜
「はい、これは奥沢さんの分。クールベスト。まだ寒いけど、もうすぐ暑くなるからね。何がとは言わないけど、ほら、中ってほんと暑いから」
「助かる〜、ありがと。いやホント、春でもめっちゃ暑いもんね。何がとは言わないけど」
「ね。ほんとに、何がとは言わないけど」
「松原さんのはクラゲのぬいぐるみです。手作りしました。前に奥沢さんに羊毛フェルトの作り方教わって。形はあんま良くないですけど、一応、一番出来が良かったやつです」
「手作り!? わぁ...すごい、ありがとう、海くん! 大事にするね! 寝る時、一緒に寝ようかな...」
「寝る時ぬいぐるみと寝てるんですか? 何それかわいい」
「瀬田先輩にはコレっす。ホメロスの詩集。『イリアス』と『オデュッセイア』。シェイクスピアを信奉してるのは分かるっすけど、他にも知っておいた方が含蓄が出ると思いますよ。名言を探すってより普通に読み物として面白いので、ぜひ」
「ふっ。文字が...多い......儚い...」
「儚くは無いっす」
「お嬢にはコレね。『なんでも言うことをきく券』。お嬢は欲しい“物”ってんなら自分でなんでも揃えられるだろうからめちゃくちゃ悩んだけど、まぁ一旦それで手を打ってくれ」
「なんでも? それじゃあ、また一緒にライブがしたいわ!」
「それ、その券が無くても強制的にやらされるやつだろ」
「かーくん、はぐみの分は?」
「お前にはバレンタイン貰ってないから無いよ」
「えぇーっ!」
〜丸山彩の場合〜
「丸山さん。これ、バレンタインのお返しです」
「ありがと〜! わっ、かわいい
「変装とかに使えるかなって思って」
「キャスケットってお忍び芸能人って感じするよね! 今度海くんと遊びに行く時に被ろうかな!」
「別にいいですけどマジで忍んでくださいね」
とまぁそんな具合で今日分のお返しはし終わり、外がすっかり暗くなった頃。俺は自室で一人ギターを弾いていた。
ギターは良い。自分の奏でる音が身体に染み渡り、不必要な思考を上書きしてくれる。
軽くスケールを弾いて冷えた指を温め、手癖で自由気ままにメロディを爪弾いて準備運動を終えた。
さて、今日は何を弾こうか。
練習ってことであれば、自分が弾けないフレーズを弾く。しかし今日はそうではなく、ただ気持ち良くギターを弾きたい気分だ。
そうだな。とりあえずヴァン・ヘイレン辺りを弾いとくか。『Can't Stop Lovin' You』にしようかな。であれば弾き語りたい。
外が暗いとはいえ、時間はまだ午後六時。多少は声やアコギの音を出しても姉ちゃんや隣の部屋からは怒られないだろう。
てなわけでギターをエレキからアコギに持ち替え、こっちでも準備がてら軽くフレーズを弾く。エレキとアコギだとだいぶ感覚も違うしな。
せっかくなので配信もつけようかとスマホを用意する。そんなに長い時間するつもりもないし、一旦イソスタライブでいいか。
「おいっす〜、ギター弾きまーす」
配信をつけると、ポツポツと人が集まってきた。
見覚えのある名前と、そうでない名前。どちらも来てくれたことに感謝しつつ、テキトーにコードを弾きながらコメントに目を通す。
「今日は一旦最初に『Can't Stop Lovin' You』やって、その次は考えてないんで、なんかリクエストあればコメントで投げてくださいっす」
すぐに何個か曲のリクエストが来るが、一旦スルー。まずは『Can't Stop Lovin' You』からだ。
まずはAsus4、A、Asus2、Aを鳴らし、
「ハッ!」
腹から空気を吐き出すように、力強く声を出す。
その後イントロを弾き、Aメロは優しく、穏やかに。青空の下、牧場の木陰に腰掛けている気分で歌う。
『全力で頑張ったって何も起こらないし、何も変わらない』
そんなニヒリズムみたいなことを歌っているが、そんな諦念と哀愁が滲む寂しいバラード、というわけでもない。
この曲はベタでピュアなラブソング。『キミが望むならずっと一緒にいよう。キミへの愛は本物で、この愛は止まらない。誰が何と言おうとこの想いは消えはしない』と、そんなコトも歌っている。
日本語に訳してしまうと小っ恥ずかしいフレーズのオンパレードだが、そこは英語、外国語としての凄いところと言うかなんと言うか。英詩と、エディの卓越した技術で爽快感のあるロック調の曲となっている。
ぶっちゃけ今の気分とはわりと真逆な内容の歌詞だけど、まぁホワイトデーだし多少はね? 愛が絡む日にラブソングを歌うというのも、まぁベッタベタではあるが、王道ではあるだろう。王道ってのはそれだけ万人に受け入れられているということだ。俺はちょっと逆張り張ってるところがあるけど、たまには王道も良いものだとも思う。まぁコレをラブソングだと認識して聴いている人間が何人いるのかって問題もあるんだが。
とまぁそんなこんなで一曲歌いきり、一息ついてから配信のコメント欄に意識を移す。
「ヴァン・ヘイレンで『Can't Stop Lovin' You』でした〜。ヴァン・ヘイレンって言ったら『Jump』が一番有名だとは思うんだけど、それ以外の曲もめちゃくちゃカッコいいから是非聴いてみてください〜」
その後十五分くらいヴァン・ヘイレンの魅力について語った後、そろそろ次の曲に行くかとリクエストを募る。
するとまぁ流れる流れる、リクエストコメントの嵐。よく見たら今閲覧三千人もいるのか。みんな暇なの?
動体視力を試されているのかと思うほどたくさんのコメントが流れる中、同じ文字列がいくつかあることに気付く。
「なんか『ライラック』が多い感じ? ミセスのだよね。なんかのアニメの主題歌なんだっけ」
言って、pcで曲を流す。
イントロが難しいとかで、少し前に色んなギターY○uTuberがこぞって弾いてみたを出してた印象だな。俺も何回か聴くだけはした。まぁ確かに難しいが、別に弾けないって程じゃない。
一曲通して聴いてみるが...やっぱ爽やかな曲だなぁ。さすがミセスって感じ。
「おっけ、弾くか」
山場はイントロと間奏、アウトロ、あとソロも弾くんならそこもか。それ以外は素直な曲だ。比較的覚えやすい。
ギターを構え、イントロから弾く。
「...あ、ミスった」
出鼻からミスってしまい、ちょっと恥ずかしい。やめろコメ欄、『ミスった』って連投するんじゃない。
ミスったところを一瞬練習して、気を改めてもう一度。
次はミスることなく弾くことができ、無事にAメロに入る。
ミセスは高音のボーカルだ。最近の流行りはみんなこんな感じの声だが、まぁハイトーンってのはハードロックだってそうだし、今に始まった流行りじゃない。まぁちょっと質が違うけどな。
二度目の演奏では特に失敗することなく、ソロもそこそこ難しかったが、まぁだいぶ気持ち良く弾いて歌うことができた。普段からサイサイなんかの女性ボイスも出してるんだ、この位の高音なら苦もなく出せる。
「ミセスの『ライラック』でした〜。いやぁ、これぞミセス! って感じの青春曲だったなぁ。え、これ野球アニメのオープニングなの? ほえぇ」
称賛してくれるコメントの中からそんな情報を拾う。そりゃキラキラしてるワケだわ。
あ、そうだ。野球アニメと言えば。
「そういやこの前ダイヤのA観たんスよ。あれめっちゃ面白いすね、俺は御幸先輩が好き」
飄々としてて結構自由人な感じだけど向上心、野心の塊で。でもってちゃんと周りを見て最善の行動ができて面倒見も良くて実力もピカイチ。憧れるよなぁ。
「あとオープニングがGLAYでビビった」
昔はめちゃくちゃ聴き込んでたけど、最近はちゃんと追ってなかったからなぁ、GLAY。今度久々に聴いてみるか。
GLAYと言えばやっぱり『誘惑』が一番有名だと思うんだが、せっかく話題に上げたんだからダイヤのAの曲を弾くか。
「ほんじゃあせっかく思い出したんで、このままGLAYの『疾○れ!ミライ』弾きまーす」
ギターを構えてDコードに手をセットし、演奏を始める。
あー、楽し。こんな時間がずっと続けばいいのになぁ。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
『────でね? カオティック・ハードコアってのは日本で普及した概念なんスよ。海外、ってか英語圏じゃあそんなもの全然浸透してなくて。あっちじゃエクスペリメンタル・メタルコアって言わてるんだったかな? まぁそもそも音楽ジャンル、特にメタル系なんてのは境界が曖昧だし、そも分類になんてほとんど意味なんてなくて、なんでもカテゴライズしたがる日本人の悲しき性というか───』
画面の向こうでやや早口になりながら楽しそうに話す少年を、チュチュこと珠手ちゆは睨むように見ていた。気に食わないのだ。こんなにも純粋に音楽を語り、目を輝かせている少年のことが。
怒りに任せて手にしたジャーキーを乱暴に噛みちぎり、小さく舌打ちをこぼす。
「......Irritate!」
左手を机に強く叩きつけながら、イライラが収まらないという態度を示す。
それを見た周囲の少女達は顔を見合せて苦笑した。
「チュチュのやつ、まーたやってんのか」
「ええ。いつものことだけど、あんなに苛立つなら見なければいいのに」
「ははっ! 無理無理、うちの大将はあのバカにご執心だからな」
「嫌よ嫌よも好きのうち、ってやつですね!」
「うるさい!!」
画面の向こうに向けられていた怒りの矛先がこちらに向けられ、三人は苦笑したまま口を閉じた。
「くっ、パレオ! ジャーキー!」
「はいっ!」
差し出されたジャーキーをまたも乱暴に口へ運ぶ。食べカスが床に落ちるが、すぐにパレオと呼ばれた少女が掃除する。
こんな光景はもはや見慣れたと、遠巻きに見ていた二人───佐藤ますきと和奏レイは視線をチュチュから画面に移した。
「それにしても、やっぱうめぇなぁ、アイツ」
「そうだね。プロでもあそこまでできる人は中々見ない」
今はよく分からない知識を一人でペラペラ喋っているだけの少年だが、先程まではギターで弾き語りをしていた。そのどれもが高レベルであり、とても配信での一発勝負だとは思えないものばかり。ますきもレイもギターは弾かないが、アレがどれだけ高度な技術であるのかくらいは分かる。そも、二人とも何度か彼と同じステージで演奏をしたことがある。他アーティストのサポートで一緒になっただけだが、数いるギタリストの中でも彼の輝きは一際目立つものだった。
「なんで...なんでこんな奴に才能があるのよ...!」
いつぞやに三人でサポートをしたライブのことを思い出し彼の才能を再確認している中、チュチュの怒号と机が叩かれる音で現実に二人の意識が戻る。
「アイツはめちゃくちゃ努力してるしな」
そんなに怒ることかね、と内心呆れながらますきが言う。
「努力だけであんなレベルになれるわけがないでしょう!?」
「......ま、アイツにスゲー才能があるってのも事実だけどさ」
少し腑に落ちない部分はあるものの、概ねは同意だとますきは引き下がる。彼は自分に才能なんて無いと言うが、謙遜にも程があるとはますきも常々思っていたことだ。
「こいつを...Capliberteを倒すために、私も早く......!」
歯噛みし、悔しそうにタブレットを手にする。
タブレットにはには十数人の顔写真が映し出されており、その殆どにバツ印が付けられていた。
「昨日来てた人、中々良かったと思ったんだけど」
後ろからタブレットを覗き込んだレイが、垂れた髪をかき上げながら言う。
しかし、その「昨日来てた人」の写真にも大きくバツ印が付けられていた。
「全然ダメ。レベルが低すぎる」
「そんなこと無いと思ったけど。高校生としては十分上手じゃない?」
「そんなんじゃダメなのよ! いい? 私たちは大ガールズバンド時代をブチ壊して、最後にはCapliberteを倒すの。学生のお遊びレベルじゃ話にならないわ!」
「そんで基準があのバカになってるって話だろ? 無茶言うなよ。あのレベルのギタリストなんて早々いねぇって」
呆れたようにますきが呟くが、チュチュは聞く耳を持たない。むしろより一層怒りと闘志が湧いてきたのか、タブレットを持つ手が小刻みに震え始めた。
「妥協はしない。しちゃいけない。私は最強のバンドを作るの!」
「つってもなぁ」
ライブハウスオーナーの娘として、そしてスタジオミュージシャンとしても活動しているますきは、これまで多くのギタリストを見てきた。その経験がある上で、チュチュの要望に「厳しすぎる」という評価を返している。
それはレイも同じこと。音楽教室にも在籍し、数々のバンドのサポートをしてきたが、彼以上のギタリストにはまだ出会えていない。
否、ただの演奏技術だけであれば確かに彼よりも上はいる。だがそれはとっくにメジャーデビューして第一線で活動しているバンドのギタリストであったり、熟年層でもう今更新バンドは組まないと言っている者であったりと、チュチュのバンドに引き込むことが出来ない者ばかりだ。
「(まぁ、たえちゃんなら...)」
一人、実力は確かで組んでみたいと思える人物に心当たりはあるものの、口には出さない。その人物には今、別の居場所がある。今更個人的な理由でその居場所を奪うような真似は、できればしたくなかった。
「あぁもう! どうして上手くいかないの!?」
チュチュが苛立たしげに頭を掻きむしり、ウガーッと唸り声を上げる。理由は先程ますきが言った通りチュチュの要望が高すぎるせいであり、チュチュ以外はそれに気が付いている。ただチュチュだけが、『関口海』を超える怪物を求めているだけに過ぎない。
レイは口を出さない。
このバンドのリーダーはチュチュであり、統率者への意見は輪を乱すだけだと思い込んでいるが故に。
ますきはすでに諦めた。
我が強く、妥協を知らない革命児に何を言っても無駄であるし、もしそんな要望に応えるギタリストが現れるのなら組んでみたいという淡い期待を胸に。
パレオは嫉妬する。
大好きなアイドルバンドと親密な関係にあるだけに留まらず、自分が崇拝するチュチュの心にまで強く居座っている男を許せずに。
各々の思いにより、場は静まり返った。全ての問題の起点である少年の声だけが、スピーカーを通して部屋の隅にまで行き届く。
怒り、沈黙、諦念、嫉妬。そんな負の感情が停滞し始めたところで、散漫していた声がゆるりと響いた。
『そんじゃーぼちぼちラストかな。なんかリクエストとかありますか?』
ソレが聞こえてくるが早いか、チュチュの白く細い指が音を立ててキーボード上を踊るように動き回る。
ターンッ、という甲高いエンターキーの押下音が響いた後、見覚えのある名前がコメント欄に並んだ。その名前の横には『始まりのTrue Emotion、終わりのsimply inertia』という曲名が添えられている。
今まで見た事が無い程に速く、そして一切の無駄のない華麗なタイピングだったと、後にパレオは語った。
『えー...え? 何、俺らの新曲のリクエストきてるじゃん。あざーっす! けどまぁアレは弾き語りする用で作ってないし...まぁいいや! 嬉しかったんでアレンジしてやりまーす』
「.........お前、Capliberteの大ファンじゃねーか」
「違うわよ!!!」
シャーッ! とまるで猫のように威嚇するチュチュを、ますきとレイが笑って眺め、パレオだけは恨めしそうに画面を見つめていた。
紗夜さんとひまりちゃんのホワイトデーストーリーが思い付かないよぉ!
見切り発車で書くからこうなるんだ。ちゃんと考えてから描き始めろ。
はい……(一人反省会)