ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
彼は、私にとっての救世主だ。
私は “ほどほど” を好む人間だ。
ほどほどに遊んで、ほどほどに勉強して、ほどほどの大学に入る。私だって年頃なんだし、恋愛にも興味がある。もちろん、ほどほどに。
そんな “ほどほど” の高校生活を望んでいた私を待ち受けていたのは、『天災』。不幸な偶然が重なり、私はその天災に振り回される “ほどほどじゃない” 高校生活を送ることとなった。
こうして私が絡むこととなった五人のうち、天災を含む三人、通称三馬鹿は、私のSAN値をゴリゴリ削ってくる。もうホント、ゴリゴリにだ。そこに悪意が一切ないのだから手に負えない。
そこに現れたのが彼だった。
いや、「現れた」というより「拉致られてきた」という方が正しいのかな。うちのゆるふわ担当、花音先輩と似た境遇だ。実際、最初ウチの馬鹿共に腕を掴まれて連れてこられていた時は困惑しきった顔だったし。
花音さんと同じバイト先で働いている、うちの高校の一年生らしいその男子は、なんと常識を持っていた。その事実がどれだけ私の心を打ったことか。初対面の男子につい力強く握手をしてしまったほどだ。その際、彼はもっと訳が分からなそうな顔をしていた。きっと、初対面の女子に突然手を握られたことに困惑していたのだろう。
素晴らしい、完璧な常識人だ!
これで私のSAN値も少しは守られるし回復するかもしれない。私の救世主はここにいたんだ!!(歓喜)
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梅雨。『小笠原気団くんとぉ、オホーツク気団ちゃんがぁ、お空でごっつんこしちゃってぇ、痛いよ〜痛いよ〜って泣いちゃうから、雨が降るんだよぉ〜』と言っていた小学校の頃の理科の先生に彼氏はできただろうか。
一昨日から正式に梅雨入りが発表され、ここ三日間は雨が降りっぱなしだ。去年は空梅雨だったけど、今年は割と降るっぽいな。
雨は別に嫌いじゃない。が、湿気は大嫌いだ。髪は撥ねるし菌は繁殖しやすいし楽器にも悪影響を及ぼす。いい事なんてほとんどない。
「つまりだな香澄、弾けないなら弾けるようにすればいいんだよ」
「な、なるほどぉ!!」
「お前ら脊椎だけで会話してんのか?」
だが、雨がコンクリートや窓を打つ音は好きだ。
それに、雨が降るのは自然の摂理。降ってしまうものは仕方がない。降らなかったら降らなかったで困るし。水不足とか。
湿気の悪質さを帳消しにするとは言わないが、雨なら雨で楽しめることはある。音とか、あとは.....音とか。
はぁ...楽器のケア、しっかりしとこ。
「うわぁ!? ど、どうしよう海くん、一弦切れちゃった!」
「指大丈夫か? 怪我とかは...してないっぽいな。普通に弦の寿命だと思う。新品の弦持ってるからやるよ」
「わー、ありがと〜! .....えと、これ、どうやって張り替えるの?」
「マジかお前」
現在地は市ヶ谷家の蔵の地下。
学校帰りにおたえに連れられてここまで来たが、雨の日にギターなんて持ち歩いているわけもなく、香澄と他愛のない話ばかりして暇を潰していた。おたえ? なんかバイトあるの忘れてたとか言ってさっき慌てて出ていったよ()
「やり方教えっから、自分でやってみろ」
「うん!」
元気でよろしい。
ちなみに、この場にいるのは俺と香澄と市ヶ谷さんだけ。
市ヶ谷さんは盆栽特集が載った雑誌を読みながら紅茶を飲んでいた。優雅すぎるけど...なぜに盆栽? 好きなの?
牛込さんもまともそうに見えてその実チョココロネ狂いだったりするし、やっぱこのバンド変わってる奴しかいないな。でもまあ、変わってないとバンドやろうなんて考えないよな。
その牛込さんは、今日は家の用事があるらしく、蔵には来ていない。おたえはバイト行っちゃったし、俺も香澄に弦替え教えたら帰ろうかな。
「まず弦を緩める。ペグを時計回りに回すと緩むからな」
「ペグ...?」
「そこから?」
こいつ教則本とか買ってないのかな? いや俺も買ったことないけど。ギターはお母さんと姉ちゃんに教わったからな。
「ペグってのは、ギターの
「これ?」
「それ。んで、それを時計回りに...そう」
たどたどしくも、香澄は二弦のペグを回して弦を緩める。
ある程度緩めたら、次は三弦、そして四弦と、順に緩めていった。
「六弦まで緩めたら、真ん中くらいで弦を切る。まぁだいたい十二フレットのとこくらいかな」
「はーいっ。えっと、ハサミは〜...」
「弦はハサミじゃ切れねぇよ。ほれ、ニッパー」
「ありがと〜!」
「お前のカバンからはなんでも出てくるな...」
「カポも常備してあるぞ?」
「ギターは持ってきてねぇのにな?」
「何も言い返せない悲しい」
市ヶ谷さんのツッコミに軽く感心していると、香澄が弦を切り終えたらしく、こちらに指示を仰ぐような視線を向けてくる。
「そんじゃ古い弦は丸めて、この缶に入れとけ」
さっき飲み切った
「あぇ!? な、なんかパーツが取れたよ!? 壊れた!?」
ブリッジの部分のパーツが外れたことで、香澄が騒ぐ。
分かる。最初は壊れたのかって焦るよな。やっぱ最初焦んのは俺だけじゃなかった。
「落ち着け。それ、テイルピースっていって、弦の張力で固定されてる部品なんだよ。だから、弦を緩めたり、ましてや取ったりしたら普通に外れる」
「壊れたわけじゃ...?」
「ないから安心しろって」
「良かった〜...」
安心したように、香澄は胸を撫で下ろす仕草をする。
...こいつ意外と胸あるんゲフンゲフン!!
「そんじゃ、次は──」
「新しい弦を通す!!」
「──前に、指板とか拭く。普段手入れしにくい所だからな。こういう時にやるんだよ」
言いながら俺はカバンを漁り、クロスと二本のスプレー缶を取り出して香澄の前に並べた。
「まずはこっち。指板用のクリーナーな。それを、そのクロスに噴きかける。一秒くらいでいいぞ」
「うんっ」
「クロスにクリーナーを噴きかけたら、その部分で指板を拭く。丁寧にな。俺は各フレットずつにやっていってる」
「はーい」
「...ちょっと関口のカバンの中身見せてくれよ。ほかは何が入ってんだ?」
「んー? ほかは...教科書類と筆記用具とピックと弦の潤滑油と楽譜がいくつか。あ、クリップチューナーもあった」
「それ本当に学校用のカバンなのか? むしろ教科書とかのがオマケに見えるんだけど...」
「ほぼ兼用だからな」
学校のカバンって意外と物がたくさん入るんだよな。便利。
「拭き終わったよ!」
「ん、じゃあ次はボディを拭く。ポリッシュっていう、こっちのスプレーをクロスにかけてな。ついでにテイルピースも拭いとこうか」
ボディはともかく、テイルピースとか普段はあんまり手入れできないからな。こういう時にピカピカにしておいた方がいい。
あと、指板の方は保湿もしておいたほうがいい。まぁ今は梅雨だからあんまり必要ないけど、秋とかになったら乾燥してくるからな。保湿はレモンオイルとかがオススメ。
「裏やヘッドの方までしっかり拭いたら、ようやく新しい弦を通す番だ。六弦から巻いていくとやりやすいかもな」
弦の巻き方のコツを教えて...ほい完了。
「わ〜!! ありがと海くん! ギター、すっごく綺麗になったよ!!」
「おう。手入れはこまめにしとけよ? 弦交換の目安ってだいたい一ヶ月から二ヶ月だから、その度にやっとくといい」
「うん、分かった!! あっ、そうだ。ギター綺麗になったし、写真撮ってTwit〇erにあげとこ〜」
Twitt〇rかー。俺も一応アカウント持ってるけど、アプリ開いてすらねぇなぁ。まぁ芸能人とAfterglowの五人くらいしかフォローしてないし、別に開く必要もないんだけど。
写真を撮ってスマホを操作する香澄を横目に、俺は出した物をカバンにしまっていく。
さて、そんじゃあそろそろ帰るかね。雨の音も弱くなってきたし、今が帰り時だと──
「香澄ー! 海ー! 有咲ー! 来たわよー!!」
弦の巻き方教えたら弦巻が来たってか、ははっ。
帰らせろ今すぐに(無理です)
「私、ライブをやりたいの!」
突然現れた弦巻は、突然何か言い出した。
まぁいつものことだし驚きはしない。ゲンナリはするけど。
「じゃあまず近場のライブスタジオで参加バンドを募集してるとこを見つけてだな」
「それだと、そこにこられない人達を笑顔にできないでしょう? 私はみんなを笑顔にさせたいの!!」
「路上ライブやりたいってこと?」
「路上ライブ? それよ! 海、私達、路上ライブをやるわ! ...それで、路上ライブってどうやればいいのかしら?」
「奥沢さーん、奥沢さん早くきてー」
このまま弦巻に説明しても多分無駄っていうか警察の手を煩わせる結果になりそう。奥沢さん来て。
「美咲は今日はいないわ。ミッシェルならもう少しでくると思うけど」
そう弦巻が言った途端、蔵の入口の扉が開かれる音がした。
しばらくすると、地下と地上を繋ぐ扉も開けられ、そこからピンク色のクマが現れる。
「コラこころっ! 勝手にどっか行ったらダメってあれほど言ったじゃん! あ、市ヶ谷さん、おじゃまします。あとごめんなさい、うちのこころがホントに...」
クマが頭を下げている。
雨の中、傘もささずに来たのだろうか。色が変色するほど濡れていた。
このずぶ濡れのクマ、名をミッシェルという。商店街の幻のご当地キャラクターらしい。なぜ幻かというと、半日で商店街から姿を消したから。多分全部弦巻が悪いんだと思う。悪気はないんだろうけどな。
「あらミッシェル、そんなに慌ててどうしたの?」
「いや突然車から飛び出されたら誰でも驚くし慌てるから。走行中の車から飛び降りたらダメって習わなかったの」
「習わなかったわ!」
「弦巻家ェ...」
怒りと呆れを二対八くらいで含んだような声を出す奥沢さん。
てか習わなかったとしても知ってて欲しい。常識として。
「そうだわミッシェル! 私、路上ライブをやりたいの!」
「えぇ.....」
そんな助けを求めるような目でこっちを見ないでほしい。いや、奥沢さんの目見えないけど。着ぐるみの無機質な目しか見えてないけど。
✿ ❀ ✿ ❀ ✿
『美咲! 今からミッシェルを迎えに行くから、呼んでおいてちょうだい!』
雨降ってるし風もまぁまぁ吹いてるし帰ってくる途中で下着までずぶ濡れになっちゃったし、今日はもうお風呂入ってから家でゆっくり羊毛フェルトの続きでもしようかな。そう思っていた矢先に、そんな内容のLI〇Eメッセージが送られてきた。スタンプだけ返してお風呂に入った。
それで、お風呂から上がって髪を乾かしていた最中。ふと窓の外に目を向けたら、なんかうちの前に黒塗りの高級車が止まってた。なんだろ、追突しなきゃいけないのかな(疲労)
雨の中わざわざ家まで迎えにきた弦巻家の真っ黒なリムジンに乗って、私はどこかに向かっている途中だった。ちなみにリムジンに乗る前に黒服さんたちにミッシェルの着ぐるみを着せられた。
どこか、とは一体どこなのか。私にも分からない。先に乗っていた人達に聞いても「とっても楽しいところよ!」、「はぐみも知らなーい! でも楽しみだね!」、「フッ。シェイクスピア曰く、なにもないところに、なにも生まれぬ。つまり、そういうことさ」、「ふえぇぇ.......」と返ってきただけで、何も状況は把握できなかった。
まぁ、こんなことは日常茶飯事だ。
今回は黒服さんたちが最初から見えるところにいるし、少しは安心できる。...いややっぱできないなこれ。私これからどうなるんだろう...。
そんな不安と戦いながら流れる景色を見ていると、スマホを眺めていたこころが急に車のドアを開けて飛び降りた。
...飛び、降りた?
「ちょっとこころォお!!!???」
あまりに自然な動きで飛び降りたものだから軽く流しそうになったけど、今これ車走ってる途中だよ!? え、大丈夫なの!? 死んでない!?
「ふぇっ!? こ、こころちゃん!?」
「フッ。まったく、お転婆なお姫様だ...」
「こころんすっごーい!」
「いや確かにすごいけどお転婆じゃすまないですよ! く、黒服さん!」
「はい。こころ様にお怪我はありません。綺麗に着地しておられました。現在は恐らく市ヶ谷様のお宅へ向かわれているものかと。こちらのSNSを見てからの行動でしたので」
黒服さんが差し出してきたスマホの画面を見ると、そこにはとあるTw〇tterの投稿が映されていた。投稿者はKASUMI☆。戸山さんか。
『海くんにギターの弦交換とお手入れのやり方教えてもらっちゃった〜!! ギターすっごく綺麗になったよ!(ノ´▽`)ノ♪』
そんな投稿が、笑顔の戸山さんとギターが写っている写真と共に載っていた。
その下には、『暇だよ〜( ´•௰•`)』という投稿と共にカバンを漁っている関口くんの写真が載せられていた。その他に、机やアンプなんかも写っている。場所は市ヶ谷さんの家の蔵かな。あ、だから市ヶ谷さんの家に向かったのか〜、なるほど〜。...なんで?
「と、とにかく追わなきゃ! 黒服さん、市ヶ谷さんの家まで運んでください!」
「かしこまりました」
そう言った黒服さんは運転席に座る黒服さんに耳打ちする。
すると、車はすぐにUターンした。いくらこころの身体能力が人間離れしているとはいえ、車と人間の走る速度じゃ途中で追いつくはず...
「着きました」
「え早っ、早すぎません?」
「すぐ近くだったもので。近かったからこそ、こころ様も飛び降りられたのかと」
あの馬鹿、目の前の欲しか見えてないの? 今日これからどっか行くんじゃなかったの? てか飛び降りるにしても一言言ってよ。
次々と疑問やら怒りやらが込み上げてくるけど、とりあえず今はこころの回収に行かなきゃ。このままじゃ市ヶ谷家の蔵が爆発してもおかしくない...!(過剰思考)
雨の中、私は市ヶ谷家の門をくぐる。
弦巻家ほどではないけど、立派な家だ。門から蔵まではある程度距離がある。傘持ってくれば良かったかな。
少しだけ後悔するけど、今から車に戻る方が時間がかかりそうだし、そのまま蔵へ急ぐ。うわっ、ちょっと染みてきた...。うゎ〜、気持ち悪いなぁ〜...。
蔵に辿り着き、扉を開ける。こころの姿はない。もう地下に行ったのか。
悪いとは思いながらも、蔵の中央へ進む。地下に続く扉を開き、中へ入った。.....いた。
「コラこころっ! 勝手にどっか行ったらダメってあれほど言ったじゃん!」
「そうだわミッシェル! 私、路上ライブをやりたいの!」
「えぇ.....」
またこの子は突然...いやまぁ今に始まったことじゃないけどさ...。
けど今日は大丈夫。市ヶ谷さんはこの前のお花見で “こっち側” ってことは分かってるし、関口くんも常識を持ってる。戸山さんとこころが混ざることで起こるボケの化学反応も、この三人なら乗り越えられる...!
「こころーん! ミッシェルー! ここにいるのー?」
「ふっ、こんな所に隠れるなんて...さぁ出ておいで、仔猫ちゃん。外の世界は怖くはないさ」
何言ってんだあの
くっ...はぐみと薫さんも来たか...。この二人が来たってことは花音さんも来るはずだけど、あの人は...こう言っちゃなんだけど戦力にならない。てかなんで人様ん
「...奥沢さん。ちょっと俺ついていけてないんだけど」
「大丈夫だよ関口くん、私もついていけてないから」
「何も大丈夫じゃないんだよなぁ」
既に疲れたような目を私に向けてくる関口くん。私も疲れたよ。
あっ、市ヶ谷さんが爪の手入れ始めた! やめて
「はぁ...弦巻。お前何しにきたの」
「楽しいことを見つけに!」
「路上ライブはどこいった?」
「路上ライブも楽しいことの一つだわ! あ、そうだ! 私達、今から
「この天気で海は死ぞ????」
そっかー。私達、
「問題ありません。雨の降っていない、穏やかな地域から出航いたしますので」
「少なくともそれ都内じゃないですよね?」
今朝の天気予報では、都内だけでなく、千葉や神奈川にも雨マークが出ていた。波も高い、みたいなことも言ってたな。え、もしかして日本じゃない説もある?
「そうだわ! 船に人を呼んで、そこでライブをしましょう! それがいいわ!」
「いや船でライブて...」
「...もしもし、私だ。大型客船の用意を。ああ、速急にだ」
「弦巻家ェ...」
呆れたような声を出す関口くん。分かる、私も呆れてる。
けどこうなったらもう私には止められない。覚悟を決めて、その大型客船とやらでライブするしかないかなぁ...。ご飯、美味しいかな(境地)
「なんか楽しそうなことになってるね、薫くんっ!」
「ああ。シェイクスピア曰く、輝くもの、必ずしも金ならず。船上ライブか。とても素晴らしい考えだね、こころ」
「ふえぇ...み、みんな速いよぉ...」
花音さん、さすがに遅すぎない? 門から距離あるって言っても十数メートルくらいしか...もしかして迷った? 他人の家の庭で迷った? そんな馬鹿な。
「そうと決まれば行くわよ! ミッシェル、薫、はぐみ、花音、海、香澄、有咲!」
『おー!!』
「おい待て俺は関係ないだろ」
「私もだよ。くそっ、完璧に空気になれてたと思ったのに...」
「安心しなよ、二人とも。こうなったこころからは逃げられない」
「「何も安心できねぇ...」」
さっさと出ていってしまった三馬鹿と戸山さん。...なんで戸山さんは乗り気なんだろう?
「えっ? えっ? ど、どこに行くの? ふ、ふぇぇ...!!」
三馬鹿に腕を掴まれて、花音さんも連行されていく。南無...。
「...おい関口、お前どうする」
「え...え〜...行きたくねぇ...」
「だよなぁ」
戸山さんとは違って、関口くんと市ヶ谷さんはあんまり乗り気じゃないらしい。普通そうだよね。私も帰りたい。でも帰れないんだよなぁ(諦め)
「奥沢様。替えの着ぐるみを用意いたしました。お早めにご支度の方を」
「あー、はいはい。ありがとーごさいまーす急ぎマース」
さすがに濡れたままはダメだと思ったのか、黒服さんが替えのミッシェル着ぐるみを用意してくれた。どっから持ってきたんだろ、って思ったら負けなんだろうな。
濡れて重くなった頭部をなんとか取って、数十分越しに外気に触れる。
「はあ〜、暑かった...蒸すんだよねぇ、着ぐるみの中」
一息ついてから、私は腕も抜いて着ぐるみから上半身を脱出させた。
とりあえず水飲みたい。ポカリスエットでも可。
「ちょ、奥沢さん...っ!」
市ヶ谷さんがギョッとした表情をする。
なにか焦ってるみたいだけど、どうしたんだろ?
「関口! お前後ろ向いとけ!」
関口くんが何かあるの?
そう思って関口くんの方を向けば、彼は顔を赤く染めながら顔を背けていた。なに?
「...? .....。.....!?」
バッ! と。私は自分の体を抱くようにしてしゃがみこんだ。
着ぐるみの中は蒸せる。雨で湿度が上がっている今日なんかは、十分も着ぐるみを着ていれば滝のような汗が出る。
そこに加えて、着ぐるみの下に着ているものは下着と白いタンクトップだけときたものだ。そうなれば当然───下着や肌が透ける。
「〜〜〜!!! ...見た?」
「.....ピンク似合ってると思う」
「感想言えなんて言ってない!!」
「待って落ち着いて奥沢さん俺が悪かったこの通りだからそのギタースタンドを離してねぇ頼むからごめんなさ──」
この後、罰として関口くんには一緒に来てもらった。
でも、戸山さんに押し切られて市ヶ谷さんも着いてきたから、あんまり罰ゲームっぽくないなぁ。
関口くんにはもっと別の形で罰を受けてもらおう。そうだな...とりあえず、船の上にいる間のこころの相手を任せようかな。私、あっちのプールで遊んでこよ〜。
日本かどうかも怪しいけど、ここの気候は穏やかで暖かい。雲一つない晴天の下、ライブを終えた私は自由の身だ。体感時間じゃ今頃太陽が傾いてないとおかしい時間なんだけど、太陽はまだ空高く昇ったまま。...まぁ、明日は学校休みだし、気にしない気にしない。あ、この赤い果物テレビで見たことある。ドラゴンフルーツだったっけ。おいしー。
「奥沢さーん、関口のやつがどこいったか分かる?」
「関口くん? ああ、彼ならほら、あそこだよ」
黒服さんが用意してくれたサングラスを付けて、プールサイドでビーチベッドに寝転がりながら、私は空を指さす。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
「あっははははは! 楽しいわね!!」
私の代わりにこころたちとスカイダイビングしながらギターを弾いている彼は、ちょっとえっちな私の救世主だ。
ギターの手入れとか弦交換とか、地味なことばっかの描写ですみません。書いてたら止まらなくなりました。あとハロハピ書くの難しいです。
「この子メインの話が読みたい、書いて欲しい」
っていう希望がもしあれば、感想欄か、もしくは活動報告の方に専用の箱を用意しておくのでそっちに書き込んでください。
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伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
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全然分かるけど辞めな
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