ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。 作:怜哉
紗夜「当然チェック済みで...んんッ! 明日、関口くんがちゃんと仕事をしているか確認しに行きますね」
海「お待ちしてます〜」
彼と会ったのは、私が二年生になってすぐの頃。
CiRCLEでリサが立ち話をしていて、その時にチラッと顔だけ見た。
その後彼はすぐにスタジオに入ってしまったから、その時は一言も言葉を交わしてはいない。ただ、美竹さんたちAfterglowが褒めるレベルのギタリストであることは分かった。
次に会ったのは、同じくCiRCLE。
スタジオの部屋番号を間違...んんッ! たまたま音が漏れてて、気になってスタジオ内に入った時。
その時彼が弾いていた曲が、たまたま私達がちょうどカバーしている途中の曲だったから、アドバイスを貰うために私達の演奏を聴いてもらった。
その後、彼にはRoseliaのアドバイザーとして協力してもらっている。
なぜ彼にそんなことを頼んだのか、私自身正確には分からない。確かに実力はあるし知識も持っている。だが、探せば彼より良い人材はいるはずだ。それこそ、本業の人達とか。
けど、彼に頼みたいと思ったのだ。私は彼に...彼の演奏に、言い表せない魅力を感じた。彼しかいないと、そう思ってしまった。
その判断は間違っていなかったのだと、私はもう少しだけ後になって確信することになる。
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まだまだ梅雨が続く六月中盤の金曜の夜。
雨だけならまだしも、今日は気温が高い。めっちゃムシムシする。
俺はエアコンをドライ運転でガンガン回しながら、リビングでテレビを観ていた。今週の金曜ロー〇ショーは『ドクター・ス〇レンジ』だ。名前しか聞いたことはなかったが、案外面白い。闇の魔術とか出てくるし、あことか好きそう。
「海〜、あたし風呂上がったから入っていいよ〜」
「んー」
まだ入る気なんてないが、とりあえず返事だけしておく。
録画してないし、面白いから最後まで観たい。
「何観てんの?」
「ドクター・ストレ〇ジ」
脱衣所の方からやってきた人物が、俺に問いかける。
俺の実の姉、関口希だ。
「あー、マー〇ルのやつね。面白い? それ」
「結構」
「ふーん」
そんなやりとりをした後、姉ちゃんは冷蔵庫から缶ビールを二本持ってきて、ソファに腰掛ける。
...どうでもいいけど、下着姿でリビングに居座るのやめて欲しい。別に
「海、あんたも飲む?」
「未成年に酒すすめんな」
「いーじゃん」
「飲まないから」
「真面目だねぇ。そんなんじゃモテないよ?」
「うっせ」
ふざけたり友達と馬鹿をやったりするのは好きだが、違法行為となると話は違う。お酒は二十歳になってから。
「そういや弟よ、ギターのほうは順調かね」
「順調だよ、姉よ。さっき一曲コピー終わったとこ」
「ほー? ちなみに何の曲?」
「DI〇E」
「H〇DEの曲かー、懐かし〜」
「うんにゃ、H〇DEじゃなくてBA〇D-MAIDってバンドの曲」
「BAND-M〇ID? 何それ初めて聞いた。どれどれ」
スマホを手に取った姉ちゃんは、何度か画面をタッチしてから、そこらに落ちてたイヤホンを挿す。多分検索してB〇ND-MAIDの曲を聴いているのだろう。
「...んー、確かにアンタが好きそうなバンド。ドラムの手数多いし、リードの方のギター上手いし...おっ、サビで歪みもう一個踏むのはいいね〜、分かってる」
「だろ?」
どうやら姉ちゃんも気に入ったらしい。どうやらBAN〇-MAIDの曲を漁り始めたらしく、大人しくなった。これで集中して映画が観れる。
「面白かった」
『ドクター・ストレ〇ジ』を見終えた俺は、めちゃくちゃに小並感な感想を口にしてテレビを消す。
いや、実際面白かった。映像も圧巻だったし。あと主人公のおっさんが無双しなかったのも良かった。安易に無双させると萎えちゃうからな。
「ねぇ海、あんたこのバンド聴いたことある?」
俺が一息ついていると、姉ちゃんがスマホを渡してきた。画面を見れば、とある動画サイトが開かれており、どこかのバンドのライブ映像が流れている。
「...知らね。けどカッコイイな」
「だしょー? ガンズ・ア〇ド・ローゼズっていうんだけど、ギターがいいんだよね。スラ〇シュってギタリスト。たしかマイ〇ル・ジャ〇ソンともコラボしてた」
「ほぇー」
こういうのはたまにある。お互いの好みのバンドを投げ合う会、みたいなやつ。定期的にやっているわけではなく、いつも唐突に始まるこの会だが、これがどちゃくそに楽しい。おたえとかともたまにやってる。
知らないアーティストを知って、それが性癖に突き刺さる瞬間。悪くないよ。
「んじゃ俺はー...これで」
姉ちゃんのスマホでとあるバンドを検索し、それを姉ちゃんに渡す。
「『原爆〇ミルクシェイク』...へぇ、誰の歌?」
「ベン〇ー。BLA〇KEY JE〇 CI〇Yって知ってる?」
「聞いたことくらいは」
「そこのギタリスト」
ベ〇ジーはホントに天才だと思う。
世の中天才ギタリスト多すぎて困るよな。
「じゃ、次あたしねー。んーっと...よし、これ!」
姉ちゃんからスマホを受け取り、曲を流す。
あ、この曲...。
「これ知ってるわ。つか、俺が影響受けた曲。めっちゃ好き」
「え、ま?」
「ま。中学上がるちょっと前くらいに聴いた。確かこの人達、お母さんの友達だよ? 対バンとかも何回かしたって聞いた」
「ま!?」
さっきから姉ちゃん一文字で会話してるけど大丈夫かな?
今聴いてる曲は、俺がロック系のバンドを聴き始めるきっかけになった曲だ。リビングに積んであったCDを漁ってたら出てきたやつで、お母さんに聞いたら「それ私のバンド仲間の曲。インディーズ時代のやつだったかな」って言ってた。
インディーズの時ってやりたいことをそのままぶつけてるバンドが多いから、結構好きなんだよな。媚びてない感じっていうか。まぁ全てのメジャーアーティストが世間に媚びてるとは言わないけど、やっぱりメジャーデビューするとビジネスも絡んでくるからな。多少は仕方ないのかな、とも思う。
「あたしこの前この人達知ってさ。世間って狭いなー。でもあれだよね? この人達、何年か前に解散してるよね」
「らしーね」
メジャーデビューしたバンドでも解散することは珍しくない。音楽性の違いとか、メンバーの一身上の都合とか。ちなみにうちの母親は親父との結婚を期にバンド活動を辞めたらしい。
「もったいないよな。せっかくかっこいい曲書ける人達だったのに」
「ほんとそれー。あ、じゃあ次海の番ね〜」
「あいあい。じゃ、次は───」
にしても懐かしい曲を聴いたな。
あ、そうだ。次にコピーする曲、これにしよ。
スコアとかないけど、まぁ耳コピでもしてみるか。思い出の曲だし、ちょっとツグっちゃうぞ〜。
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土曜のバイトを乗り越え、日曜の昼。
とりあえずB〇ND-MAIDのDI〇Eと、あと金曜の夜聴いた曲のコードだけは譜面におこすことができたので、それの練習だ。
ちなみに今日はこの後、Roseliaの練習が入っている。意見を聞かせてくれとお願いされているため、俺も一応練習には参加するようにしていた。
最初は面倒だなとか思ってたけど、途中からRoseliaの演奏を聴くのが楽しくなってきちゃって。今では役得だと思って練習に参加している。あとリサさんの手作りお菓子が美味いし、たまに氷川さんが作ってくるクッキーも良き(餌付け)
少し前には解散騒動や不調の時期もあったけど、それも無事に解決し、今は近くに迫ったフェスに向けてみんな頑張っている最中だ。特に最近のリサさんの成長は目覚ましい。きっと家とかでたくさん練習しているのだろう。ああいうのを近くで見ていると、こっちも頑張ろうって気になるよな。
そうこうしているうちにギターのセッティングを終え、音楽プレーヤーに繋いであるイヤホンを右だけ耳に突っ込んだ。一応、スマホを譜面台に置いて両手元の録画もする。
別に、録画してどこかに出すつもりはない。弾いてみた動画の投稿に興味がないわけじゃないんだけど、やっぱりスマホだとどうしても音質がな。インターフェース買ったらやってみてもいいかも。
「さて」
音楽プレーヤーの再生ボタンをタップすると、ドラムから音が始まり、すぐにベースが乱入してくる。
最初はDI〇Eから。BAND-M〇IDはガチロックを演奏するガールズバンドだ。しかも、演奏中はメイド服を着ているという異様さを持っている。国内より海外からの人気が高いバンドだけど、そろそろ国内でも人気が出てきそうだ。普通にかっこいいし。
ロックなガールズバンドって言ったらAfterglowやRoseliaもそうだ。個人的な意見だけど、B〇ND-MAIDとRoseliaはやってる音楽が似てる気がするかな。てかカバーとかやって欲しい。
イントロの途中からギターも入り、歌の始まる直前からブリッジミュートが始まる。この後はイントロと同じフレーズを挟み、数個コードを鳴らしてからサビだ。ここもコードなので難なく進み、サビの終わり数音のチョーキングで音が途切れないように注意する。チョーキングは油断すると弦がフレットから離れたりとかして音が途切れることがあるからな。
サビも終わり、イントロとほぼ同じフレーズの間奏を弾いたら二番の歌詞が始まる。二番のAメロ部分は、一番より五音くらい高い音でブリッジミュートだ。Bメロとサビは一番と同じで大丈夫。
二回目のサビを弾き終われば、次はギターソロ。チョーキングやらビブラートやらを織り交ぜて音をより深く表現する。モカが言うには、モカっとしてる演奏...らしい。
モカってるが何かは詳しく知らないけど、エモいとか、多分そっち系の意味だと思う。知らんけど。
それにしても、うん。我ながらいい音出してると思う。
レスポールは元々の音が攻撃的だが、そこにエフェクターとアンプで
というかこのリバーブ、やれることが多過ぎる。正直まだ扱いきれてないんだが、いじってる時めっちゃ楽しいんだよな。これはハマりますわ...。つかエフェクターヤバい。凝りだしたらきりがない。コレクションしそう。楽しい(オタク)
歌のパートが全て終わり、曲はアウトロに入る。
ここはイントロと同じ音を弾くんだけど、最後数秒だけギター一本になってからの楽器全部でシメってのが最&高。本当に俺の性癖に突き刺さってくるんだよな、BAND-〇AID。
ちなみにB〇ND-MAIKOってのもある。最初はエイプリルフールのネタかと思ってたんだけど、普通に活動もしてるらしいしCDも出たんだよな、あれ。メイドもいいけど舞妓も良きゾ。
録画を止め、ちゃんと撮れてるかを軽く確認する。音や運指の確認は家帰ってからやるか。今はせっかくアンプで爆音出せるんだし、エフェクターもいじり倒したい。さっきの音もいいんだが、原曲に忠実かというと少し違う。まだ『自分の音』を見つけてないし、今は原曲に沿った音作りをしていきたいんだよな。色んな音を知っていく上で『自分の音』が見つかるって、どっかのギタリストが言ってた。
しかしそうなると、エフェクターをいじるだけで時間が終わりそうだ。
今日はこのあとRoseliaの練習もあるということで、俺個人では一時間しかスタジオを借りてない。そんな俺の持ち時間のうち、既に三十分以上経ってるし、音作りは凝りたいから時間がかかるだろう。てかかける。妥協したくないもん。そこんとこ、俺はガチだからな。
「んー...」
エフェクターと格闘すること十数分。色々やってはみたんだけど、なんかこれじゃないって感じの音だ。いいんだけど、いいんだけどこう、何か足りない。どうすりゃいいんだろ。エフェクターはまだまだ勉強不足だからなー...。
歪みももう一個欲しいとか思うけど、結局どれがいいのか分からない。一口に『歪み系エフェクター』っていっても、星の数ほどあるからな。同じディストーションでもメーカーとかが違えば全く違った音になってきたり、〇〇社のディストーションと△△社のオーバードライブが同じくらいの歪み具合だったりもする。金は有限だ。あれもこれもと買えるわけじゃない。
まぁ、ないものねだりをしても仕方ないからな。手持ちのものでどうにかするっきゃないだろう。あー、金欲しい。
あーでもないこーでもないとアンプやエフェクターをいじっていると、スタジオの扉が開かれた。
「お疲れ様です、関口くん」
「んあ? あ、氷川さん。お疲れっス」
入ってきたのは氷川さん。
とりあえず挨拶したあとに時計を確認したら、俺の持ち時間はあと十分を切っていた。少し早めに着いたRoseliaのメンバーが入ってきてもおかしくはない時間だ。
幸い、このスタジオにはジャズコとマーシャル、二つのギターアンプがある。氷川さんが来たからどかなきゃいけないってことはない。
俺がマーシャルを使っているので、氷川さんはジャズコの方にギターを繋ぐ。てか氷川さんがいっつもジャズコ使ってるから俺がマーシャル使ってるんだけどな。
ちなみに、氷川さんはライブではDiezelってアンプを使ってる。俺は使ったことないからよく分かんないけど、音が重くなってる気はする。
まぁRoseliaはオリジナル曲のほとんどがドロップDチューニングとかいう脳筋バンド(褒め言葉)だからな。パンクっつーかメロコアっつーか。ロックンロールしてるよなぁ。
「...氷川さん、マルチとコンパクト繋げてるんですか?」
少し気になって氷川さんのボードをチラ見したら、いくつかのコンパクトエフェクターと、一つの大きなエフェクターらしきものが設置されていた。
「? いえ、そんなことはしていませんが...ああ、これですか?」
氷川さんが、俺が気になっていたエフェクターを差す。
「これはプログラマブル・スイッチャーといって、コンパクトエフェクターを一括して操作できる機材です。まぁ、そういう点ではマルチエフェクターと言えなくもないですね」
プログラマブル・スイッチャー...また新しいのが出てきたな!(トキメキ)
てか改めて見ると、氷川さんのボード凄いな。一、二、三、四.....九個コンパクトエフェクターが置いてある。あれ全部使うのかな。...うずうずする。
「氷川さん氷川さん、ちょっと聞きたいことあるんすけど...」
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「んー...音はいいっちゃいいんだけど、あと一歩足りないっていうか...。欲を言えばもう少し強い
「確かに、
「氷川さんはどんな歪み使ってるんですか?」
「私はM〇Rのオーバードライブを使ってます。それからブースターを二つ付けてるわ。このK〇lling Floorというのがハイゲインブーストペダルで...」
「また物騒な名前してんな」
私がスタジオに入ると、海と紗夜が隣同士に座ってエフェクターについて話していた。
他のメンバーはまだ来ていないようね。まぁまだ集合まで時間はあるし、遅刻しなければ問題ない。
「こんにちは。二人とも早いわね」
「湊さん、お疲れ様です」
「うーっす」
二人同時に顔を上げて、こちらに挨拶してくる。海はもう少しまともに挨拶できないのかしら? まぁ何に支障があるわけでもないからいいのだけれど。
そんなことより、今の私の意識は昨日聴いた曲に向いている。
昨日聴いたあの曲...『LOUDER』は、昔お父さんが歌っていた、お父さん達のバンドの曲だ。
あのお父さんのすごく楽しそうな歌声...あの歌は、音楽への情熱で溢れてる。インディーズ時代の、純粋な気持ちをぶつけた歌。
あの歌を、私も歌いたい。あの曲を、Roseliaで
けど...今の私に、あの歌を歌う資格があるのか分からない。
結局気持ちの整理ができないまま、今日を迎えてしまった。
「? 友希那さん、なんかあったんですか? 顔暗いですけど」
「っ! ...別に、何もないわ」
そんなに顔に出ていたのかしら...。ダメね、私情は持ち込まないと言ったのは私なのに。
「ならいいんすけど。あ、それより昨日あこちゃん達から聞きましたよ? なんかセトリに悩んでるって」
「ええ、まぁ。今日それぞれ考えてくる予定よ。...あまり時間はないけれど、貴方も考えてくれるかしら。意見は多い方がいいわ」
「了解っす。カバー曲とかもやるんですか?」
「まぁ、必要があるのならね」
「ならこんなのどうですか? さっき俺が練習してた曲なんですけど」
そう言って彼が聴かせてきたのは、BAN〇-MAIDというガールズバンドの曲。これは私も知っている。主に海外で人気な日本人バンドだ。実力もある。
けど、これじゃない。LOUDERを超えるモノを感じられないなら、私達のオリジナル曲をやったほうがいい。
「いい曲だけれど、今回は遠慮しておくわ」
「そっすか〜」
海は残念そうに肩を落とした。
そんな彼に、紗夜が問いかける。
「BAND-MA〇DのDI〇E? 関口くん、さっきは別の曲の楽譜を持っていなかった?」
「あー、そっちはまだ練習してる途中なんですけど...まだ練習まで時間ありますし、一応聴いてみます?」
紗夜に言われて、海は音楽プレーヤーを操作する。
海には悪いけれど、今の私に刺さる曲は多分ない。
そう思ってPAミキサーにマイクを繋げようとする私の耳に、海の音楽プレーヤーから流れ出た音が届いた。思わず、手を止めてしまう。
その曲は、今私の心を支配しているモノ。私の魂を震わせるモノ。
「.....その、曲...」
「曲名は『LOUDER』。これ、俺がロック系の音楽を好きになったきっかけの曲なんですよ。ま、俺がこの曲知って数ヶ月後に解散しちゃったんですけどね、このバンド」
そう言った彼は、呆ける私を置いてさらに言葉を続ける。
「俺が初めて好きだと思ったバンドが、この───の曲なんです。それまではバンドに興味なんてなかったのに、このバンド知ってからはそっちに傾倒しましたからね。LOUDERの他にもいい曲はたくさんあるんですよ? 例えば...」
嬉々とした表情で、海は様々な曲を流していく。
そのどれもが、お父さんの誇り。私が憧れた人の情熱が詰まった曲だった。
「うちにライブ映像があって、それ何回か観たんですよ。演奏中のパフォーマンスとか、ちょっとした弾き方とか、結構参考にしてるところもあるくらいにはファンでしたね」
──そうか。そうだったのか。
彼の演奏の中に感じた魅力。それの正体。
所々で溢れていた、お父さんの...お父さん達の残滓、だったのかもしれない。
なんとも楽しそうに、海はお父さん達のバンドを褒めちぎる。
そうだ、その通りだ。お父さん達のバンドはかっこいい。お父さんの歌は熱い。私の憧れは、間違ってなんかいない。
.......けど。
「...そのバンド、私も聴いたことがあるわ」
「マジっすか? いいですよね〜」
「ええ。だってそのバンドのボーカル、私のお父さんだもの」
「.......ま?」
「本当よ。嘘をつく必要がないわ」
海と紗夜の驚いた顔が見える。
無理もないわね。私だって立場が逆ならそうなっている自信がある。
それに、海には軽い仕返しができた。さっき突然LOUDERを流されたとき、私の驚きは今の海にも引けをとっていないだろう。そう思うと少しだけスッキリした。
「その曲はいい。...Roseliaのみんなには悪いと思うけど、私情を持ち込んででも歌いたいと思う曲よ。...でも、今の私にその資格があるとは思えない」
「資格、ですか?」
紗夜の言葉に、私は頷きで返す。
私がRoseliaに私情を持ち込んでまで歌いたいと思った歌。
震えるくらいの想いが篭ったお父さんの歌を歌う資格なんて、今の私には──
「...えと。資格とか、何言ってんの?」
「──ぇ?」
少しだけ眉に皺を寄せた表情の海が、呆れたような声音で私に問う。
「いや、友希那さんの親父さんへの思いとか、そういうのはこの前聞きましたけど...資格云々はちょっと分かんないですね」
「それは...だって、この曲はお父さんの曲で...」
「別に資格とかいらんでしょう。親父さんが『自分達以外は歌うな』とか言ってるんならまだしも、そんなこともないんでしょ?」
「でもっ...。でも、この歌から感じる純粋な情熱...これを、私の声にのせて歌える自信がなくて...っ」
ああ、私は何を言っているんだろう。他人に弱音を吐くなんて私らしくない。
「なら、その気持ちをぶつければいいじゃないですか?」
「え? でも...」
「でももヘチマもねっすよ」
一度言葉を区切った海は、私をまっすぐ見てから続けた。
「それが友希那さんの情熱でしょ? 悩んで、向き合って、藻掻いて。それは貴女の真剣な想いだ。それをぶつけて歌うことは、何も間違ってない。つーか、仮に『歌う資格』なんてもんがあるとしたら、貴女以上に資格があるやつの方が少ないですよ、友希那さん」
「......私が、未熟でも...?」
「完成された音楽なんてありえないし、友希那さんが未熟とも思いませんけど。まぁ、友希那さんが技術や精神性の未熟さに思い悩んでいるんだとしても...その思いは紛れもなく純粋で、素晴らしいものだと思いますよ」
諭すように、彼は言った。
それはまるでお父さんのようで、心地良ような、こそばゆいような...妙な感覚が湧いてくる。
「湊さん。私も、関口くんと同意見です。...私も、音楽との向き合い方については思うところがありました。だから、というわけではないかもしれませんが。貴女の思い、その強さ...正直、見直したわ」
「紗夜...」
「やりましょう、この曲を。
そう言って微笑む紗夜の目には、熱いものが灯っていた。
...私は...歌っても、いいの...?
お父さんの曲を...私が.....!
「──...ありがとう、海、紗夜」
まだ
紗夜の言った通り、リサや燐子、あこ達に許しを貰わなければいけない。
...きっとみんな、許してくれるのだろう。あこはカッコイイと騒ぐかもしれない、燐子は静かに燃えるだろうか。リサは──喜んで、くれるかしら。
でも、まずはごめんなさいと頭を下げよう。この曲を歌いたいと懇願しよう。
これは私情だから。私のわがままだから。みんなの優しさに甘えてはいけない。
そして彼には──
「友希那さんの『LOUDER』、楽しみにしてますよ?」
「ええ。私達の音を、私の気持ちを届けてみせるわ。だからアドバイスをよろしくね、御意見番さん?」
──彼には、最大の感謝を。
ああ、本当に。彼を選んだのは正しかった。
その判断は間違ってなんかいなかったんだと、私は今、確信した。
チョーキング…音を鳴らしたまま押弦してる指で弦を上(あるいは下)に引っ張り、音の高低を変える奏法。首絞めのことではない。
ビブラート…チョーキングを繰り返して音にゆらぎを持たせる奏法。もっと簡単に言うとカラオケの精密採点とかに出てくるアレ。
Roselia解散騒動の話はよくみるので、イベントストーリー『思い繋ぐ、未完成な歌』にスポットを当ててみたんですが、普通に難産でした。
専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。
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伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
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好きにやってええんやで(菩薩)
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全然分かるけど辞めな
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分かるからそのまま続けて、どうぞ。