ガールズバンドが人気な時代ですが、男も頑張ってみます。   作:怜哉

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レポートが終わらないんだぜ!(投稿遅れててごめんなさい)


真のヒロインは隠れているものだ(迫真)

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が彼に持っている印象は、真面目だが根はやんちゃ。

 それは今も昔も変わらない。

 

「こんにちは〜」

 

 初めて彼が私の家に来た時、とても礼儀正しい振る舞いをしていた。

 だが小一時間もすれば、廊下を走って花瓶にぶつかり盛大に割るわ、庭でサッカーをしていて盆栽をひっくり返すわ。その他にも色々とやってくれたので、彼がウチに来る時は最大限の注意を払っていた。

 

 中学校に上がってから、彼はあまり家に遊びにはこなくなった。生け花をひっくり返された時に激怒したのが原因だろうか? 彼が来ないことに少し寂しいと思ったことは内緒だ。私も毒されたものだと、ほとほと呆れてしまう。

 

 稀にウチに来る時、彼は必ずと言っていいほどギターを担いで来た。部屋で弾き語る彼の声や演奏は、素直に素晴らしいと感じられる。

 

 そんな彼も、今年から高校生。

 相変わらずやんちゃなところはあるようだが、それもまた可愛いところだと思ってしまう。私も完全に毒されてしまったようだ。

 彼が高校生になってからはまだ一度もウチに遊びに来ていない。そろそろ遊びに来てもいい頃だと思うのだが。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 つぐに呼び出されてから、約半日後。

 

「氷川さん。ちょっと音が埋まってるんで、少しmiddle上げてみてください」

「分かりました」

「それからあこちゃん。テンション上がった時に勝手に手数増やすのは全然いいしむしろ俺好みだけど、ほかの音邪魔しちゃってる時があるからそこ気をつけて」

「うっ.....はぁい...」

 

 俺はいつも通り、CiRCLEにてRoseliaの練習に参加していた。

 

「リサさんはだいぶ良くなってきてますけど、コーラスとかで歌う時はやっぱり音が不安定になりますね」

「あー...指板見えなかったりするから、ちょっと弾きにくいんだよね〜」

「そこはもうフレットと弦の位置を覚えるしかないかと。ちなみにリサさん、家とかで練習する時って座って弾いてます?」

「え? うん、こうやって座って弾いてるよ☆」

 

 近くにあった椅子に腰掛けたリサさんは、足を組んでベースを構えてみせる。

 スカートで足組みしないでお願い氷川さんからの目線が怖い。

 

「それ、立って弾く時に弾きにくいなーとか思いません?」

「あ、思う思う!」

「座ってる時と立ってる時、構えてるベースの位置が違いすぎますね。ボディの位置もネックの角度もバラバラだと、座ってる時と立ってる時の感覚が違くなりますから」

「なるほど〜。じゃ、日頃から立って練習すればいい?」

「いえ、別にそんな必要はないっすね。座って弾く時もちゃんとストラップを肩にかけることと、背中を丸めずに姿勢良く弾くこと。あとさっき言ったネックの角度を立って弾く時と一緒にする。それに気を付けるだけでだいぶ変わりますよ」

 

 俺も最初は立って弾けなくて悩んだもんだ。

 自分がどこを抑えてるのかを見やすいように背中を丸めて指板を覗き込む姿勢で練習していると、どうしても立って弾く時に違和感というか、なんか指の位置が分からなくなるんだよな。

 

「友希那さん、もう少し高めの声で歌えます? 今のままでも十分いいんですけど、もうちょい高い方が綺麗に聴こえるかもです」

「分かったわ。修正してみる」

 

「白金さんは完璧だと思います。つーかエグいです。なんでそんなに安定してるんですか? この曲、普通二人はシンセが要りますよ?」

 

 キーボードを二つ同時に弾くことも確かに難しいが、そのくらいなら俺でもできる。じゃあなにが凄いって、その演奏技術の高さだ。白金さんはマジでヤバい。超高校級の上手いキーボーディストが二人いるようなもんだ。

 Roseliaは全員プロ顔負けの演奏をするが、その中でも白金さんは飛び抜けていると思う。スタジオミュージシャンとかのレベルだ。

 幼い頃にどこかのピアノコンクールで金賞を取ったって聞いたけど、それにしても上手すぎる。ブランクあってこれだからな。ありえないだろ。

 

「そんじゃ時間も残り少ないですし、もう三回くらい合わせて終わりにしましょうか」

 

 俺がそう言った数秒後。

 あこちゃんのカウントから、高校生離れした圧倒的な演奏が始まった。

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

「え、これくれるの!? わーい!! 海兄(かいにぃ)ありがとー!!」

 

 Roseliaの練習も終わり、CiRCLEカフェテリアにて。

 九州の方は大雨が降っているとニュースでやっていたが、こちらは至って快晴だった。

 照りつける太陽に夏の予感をヒシヒシと感じながら、俺はあこちゃんに、昨日アニメ〇トでもらったQRコード付きのレシートを渡していた。

 あこちゃんの喜ぶ顔を見て、俺も自然と笑みが零れる。

 

「そういえば聞いたよ〜☆ 海くん昨日、燐子とデートしたんだって〜?」

「い、今井さん...っ...」

 

 そんなリサさんの揶揄(からか)いを受け、白金さんは顔を朱色に染める。かぁえぇな〜。

 

「人生初デートでした」

「!?」

 

 リサさんに乗っかって真顔で返すと、白金さんの顔が耳まで赤くなった。

 そんな白金さんをニマニマと見ていると氷川さんから睨まれたので、咳払いを一つして視線を外す。

 そんな俺たちを笑いながら、リサさんが不思議そうに聞いてきた。

 

「デート初めてなんだ? ひまりとか、アフグロの誰かと行ったりしないの?」

「遊びにはしょっちゅう行ってますけど...あいつらと行くとデートって感じしないんですよね。もう十年くらいの付き合いですし、あんま異性って意識したことないです」

 

 まぁ稀にそういう目で見ちゃうことはあるけど。

 いやだって。アレは仕方ないやん。みんな無防備すぎるんやもん。

 ひまりとか特に。あいつ、今も子供の頃と同じ感覚でくっ付いてくるからな。あんなもにゅんもにゅんしてたらモンモンしちゃうよね。そうなのだって言えよ、全肯定しろ全国の男子高校生(ヘケッ!!)

 

 そんな俺を見て、リサさんは「ふーん...」とジト目を向けてくる。

 なんだ、やめろよ。変な扉が開いたらどうすんだ。

 

 そんなありもしないふざけた冗談を考えていると、不意に俺のスマホが複数回鳴る。どれもL〇NEの通知音だ。

 

 

 

羽沢つぐみ『これから集まって話し合い始める!(ง •̀_•́)ง』

 

HIMARI.U『もうすぐ話し合いが始まっちゃうよ〜...』

HIMARI.U『うぅ...胃が痛い...』

 

ともえ(ソイヤッ)『今から話し合いに行ってくる』

ともえ(ソイヤッ)『昨日LI〇Eで海に言われた通り、アタシの気持ちを真っ直ぐぶつけてくるぜ!』

 

 

 

 うーん。

 つぐと巴は大丈夫そうだけど、ひまり吐いたりしねぇかな。心配になってきた。あいつ他人に感情移入しやすいうえに優しいからな。板挟みになって潰れなきゃいいんだけど。

 

 さて。

 

「じゃあ、お疲れ様でした。俺ちょっと用事あるんで、今日は先に帰りますね」

「ん。お疲れ様〜☆」

「お疲れ様。次もよろしく頼むわ」

「お疲れ様でした」

「お疲れ...様、です...」

「海兄じゃあね〜!!」

 

 Roseliaの面々の声を受けつつ、俺は荷物を持ってカフェテリアを出る。

 

 .......あっちぃ、帰りたい、ふざけんな太陽この野郎本気出してんじゃねぇぞテメェ...。

 途中コンビニでアイス買ってこ...。

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 夕方。

 用事も終わり、俺は茜色に染まる住宅街を歩く。

 この時間になるとちょうどいい気温になって、そよ風なんかが吹くととても気持ちいい。

 

「あ、海〜」

「おー、モカ。つぐ達も揃ってんな」

 

 民家にしては大きな門の前で、蘭以外のAfterglowのメンバーが揃っていた。そんな彼女らは、モカを除いて一様に不安げな表情を浮かべている。

 まぁ、理由は知ってる。

 それに何を隠そう、この大きな門は美竹家、蘭の家の門だ。それだけでもだいたいは察せるというもの。

 

「で、どうだった? 話し合いの方は」

「ん〜。とりあえずバンドは続けたいってなって〜、今蘭が蘭パパと話してるとこ〜」

「なる。まぁ一応は良かったよ、解散なんてことになんなくて」

 

 なんとかなるとは思ってたけど、絶対はないからな。

 

 その後、話し合いの掻い摘んだ内容を聞いていると、玄関の方から蘭が歩いてきた。

 

「っ! 蘭、どうだった...?」

 

 巴が真っ先に声をかける。それだけ心配だったのだろう。

 そんな巴に続いて、つぐやひまり、モカも蘭の返事を待つ。

 

「...次のライブ、ガルジャムに、父さん来てくれるって。ライブで納得させる」

「じゃあ...!」

「ほら、早く行くよ。父さんを納得させる演奏しなきゃ.....海、いたんだ」

「ついさっき、用事の帰りにこいつらと会ってさ。あいっかわらず素直じゃないけど...良かったな、蘭。バンド続けられて」

「.......ん」

 

 頬を赤くして顔をそらしながら、蘭は短く返答する。

 

「ん〜〜!! やっったぁ!! 良かったよぉ!! もうっ、本当に心配したんだからね!!」

 

 我慢できなかったのか、ひまりが大声を出して蘭に抱き着く。

 親父さんと直接話した蘭も緊張しただろうが、ひまり達も相当心配だったろう。

 

「...蘭、よく言ったな」

「.....うんっ、うん...! あたしだって...不安、だったんだから...!」

 

 巴が蘭を優しく抱く。

 そこで蘭の我慢も限界を迎えたのだろう。巴の胸で、蘭が声をあげて涙を流す。

 

「蘭とまたバンドできて嬉しいよっ! やっぱりAfterglowはこの五人じゃないとね!」

「お前昔俺をAfterglowに入れようとしてたけどな」

「そ、そういうことは今言わなくていいじゃん!?」

 

 む...。確かに今のはちょっと無駄口だったかもな。反省。

 

「...みんな、いつも助けてくれて...その.....ありがと」

 

 消え入るような声で、蘭が呟く。

 顔が赤いのは、きっと夕焼けのせいじゃない。

 

「...蘭...! ううん。こちらこそ、だよ!」

 

 瞳に涙を浮かべたひまりが蘭に抱き着いた。

 蘭は苦しそうにしているが、それ以上に嬉しそうだ。

 

「じゃ、スタジオ行くか。今から練習すんだろ? 付き合うよ」

「うんっ。...わぁ! 見て、すごいキレイな夕焼けだよ!」

 

 つぐが興奮したように言う。

 Afterglow、夕焼け。こいつらには感慨深いものだ。

 

「お〜、ホントだ。まぶしいねぇ。まるであたし達の青春みたい〜」

「ははっ。何言ってんだよモカ」

「よーっし! みんな、この夕日に誓お! ライブ、ぜぇ〜〜〜ったいに成功させようって!」

 

 みんな調子が戻ってきたみたいだな。

 昨日今日と、みんなとはLI〇Eや電話で連絡を取っていた。

 焦っていたり、落ち込んでいたり、混乱していたり。いつもの喧嘩よりもずっと大きな不安が募ったことだろう。

 けど、大丈夫だった。みんなで話して、みんなで解決できた。これは今後のタメになるし、より絆も深まったことだろう。

 

 これでようやく、“いつも通り” だ。

 

「せーのっ、えい、えい、おー!! .........この空気でもやんないの!?」

 

 あまりにもいつも通りすぎた。うーんこの。

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

「モカ、一番サビ終わりの間奏の入り、ちょっとモタついてるな。五フレのコードからの十三フレ単音だから難しいのは分かるけど、そこキレイに決めた方がいい。最悪、間奏直前の一小節分は弾かなくてもいい。蘭と弾いてるところは同じだからな」

「ほーい。頑張りまーす」

 

「巴はちょっと走りがちだな。巴は人を魅せるドラムの叩き方してるけど、その勢いが先行したら曲が崩れる。リズム隊はバンドの基盤だ。特にドラムは音がでかい分、ベースより周りへの影響力がデカい。練習中とかはイヤホンでメトロノーム流しとくといいかもしんないな」

「おう!」

 

「蘭は歌に集中しすぎてるな。特にサビの時。いや、ギタボだし歌がおざなりになるよりは全然いいんだけど、やっぱりギターもちゃんと弾けた方がいい。歌いながらは難しいと思うけど、そこは練習あるのみだな。弦の位置は体で覚えるしかない。歌は完璧。さすが、上手い」

「...ん、分かった」

 

「つぐも歌う時にちょっと不安定になってるな。マイク、もう少し手前に寄せて少し下に下げてみ? そうすりゃ手元見ながら歌えるはずだから。将来的には歌ってる時は前見て歌えるようになったほうがいいんだけど、今は手元を見ながらでも問題ないよ。あとつぐはミスった時顔に出すぎだし、ずっと緊張した顔してる。お前めちゃめちゃ頑張ってるんだし、もっと自信持って弾いていいんだぞ」

「う、うん...!」

 

「ひまりはもう少し音上げていいよ」

「.....。え、それだけ!?」

 

 

 音楽スタジオ、CiRCLEにて。

 美竹家からCiRCLEに直行しようとして楽器がないことに気付いた俺たちは、一度帰宅してからCiRCLEに集まって練習していた。

 みんなが一度帰ったということもあり、CiRCLEに集まった時には外はもう暗くなっていた。

 

「じゃあ時間も時間だし、ラスト一回。今の曲最初から合わせて終わろっか」

 

 俺が言うと、皆の頷きと巴のカウントが返ってくる。

 うーん...それにしてもモカがうめぇ。普段あんなボーッとしてるくせにこんなキレッキレのギター弾くからなぁ、こいつ。タッピングとかしてるの見てたらギャップで萌えそうになる。

 

 そんなことを考えながら演奏を聴いていると、あっという間に終わってしまった。

 やっぱテンポ速いよなぁ。まぁ一発で修正できることじゃないし、次の練習までに合わせられれはいいか。それにこの曲はAfterglowのオリジナルだし、最悪このテンポに合わせられるように練習してもいい。

 

「お疲れさん。最後、一番良かったぞ」

 

 肩で息をするみんなに、労いの言葉をかける。

 最後が一番良かったのは本当だ。少し走ってはいたが、全体的によく弾けていたと思う。ドラムも走ってるだけで、技術は高校生離れしてるくらいには高いからな。

 

 とりあえずスタジオを出る時間がきたため、パッと楽器類を片付けてスタジオを出る。

 CiRCLEは二十四時間営業ではないが、まだ閉店時間ではない。もはや常連となったカフェテリアで、全員分の飲み物をテイクアウトで買う。

 そういやどうでもいいんだけど、外国で「テイクアウト」って通じないらしいな。「to go」とか「take away」とかいうんだと。この前バイトで外国人のレジ対応した時、take outが通じなかったからなぁ。

 

「練習お疲れ。ほら、飲み物」

「わぁ! ありがとっ」

 

 真っ先に受け取ったのはひまり。

 それに続いて、ほかのみんなも飲み物を受け取っていく。

 

 昼間はあんなに暑かったというのに、夜になったら肌寒い。この時期は服装をどうしていいか分かんないし、油断したら風邪引くんだよな。

 

「ん〜、疲れた体にコーヒーの苦味が染みますなぁ〜」

「え? 私のは甘いけど...」

「ああ。つぐのはココアだよ。お前、苦いの苦手だろ」

 

 つぐ以外のは微糖コーヒーだ。俺が好きだし、あと蘭も好きだから。

 つぐ以外は別に苦いのが嫌いとかはないし、微糖でいっかなって。

 

「海。ライブまであんまり時間ないし、今度もあたし達の練習を見てくんない? あんたの指摘、結構タメになるし」

「あっ、それいい!」

 

 等間隔で並んだ街灯と月明かりに照らされて、雑談なんかをしながら帰っている途中。

 蘭がそんな提案を持ち出し、ひまりが賛同する。

 

「ああ、別にいいよ。ライブまでみっちりねっちり仕込んでやるから覚悟しとけ」

 

 意地の悪い笑顔を貼っつけて、俺は蘭たちを見た。

 

「へ、変質者...」

「おい聞こえてんぞひまり」

「で、でもっ! 海くん、教えるの上手だったよね!」

「それ、思った」

「まー、海はRoseliaの指導もしてるしね〜」

「「「...ん?」」」

「だな。あこも『海の教え方は上手い』って言ってたぞ」

「「「んー???」」」

「近い近い近い。え、なにお前ら知らなかった? 言ってなかったっけか。ごめん黙ってたのは悪かった知ってたと思ってたからだから離れてひまり蘭も脇腹抓るな痛い」

 

 あれ、言ってなかったっけ? 巴とモカは知ってたらしいけど。

 巴はあこちゃん経由として、モカはリサさんか? ひまりはRoseliaの面子ともSNSとかで連絡取ってるから知っててもおかしくなさそうだけど...。そっかぁ、教えてなかったかぁ。

 

 自分達の知らないところで、自分達を差し置いて、別のバンドに加担する。そう思われたから、蘭達は少し怒っているのかもしれない。言うなれば軽い裏切りみたいなもんかな? ...いや別に裏切ってはないんだけど。

 まぁ、それなら悪いことをした。正直バンドについては俺の方が初心者だし、俺がAfterglowに口を出す必要はないと思ってた。てかRoseliaの演奏に口出してんのもちょっと分かんないけどな。なんで俺なんだろ?

 

「まぁとにかく。ライブまで俺にできる限りのサポートはする。何より優先してやる。だからお前ら、ライブ、絶対に成功させろよ」

「ふんっ.....言われなくてもやるし」

 

 ようやく俺の脇腹を抓ることをやめた蘭が、プイッとそっぽを向きながら答える。

 それを見るモカの顔に優しさや嬉しさみたいなものが浮かんだ気がした。五人の中でも特に仲の良い二人だ、今回の一件で色々あったんだろう。

 

 さて、一番の山場は越えたが、終わったわけじゃない。ここで気を抜いたら全てが水の泡だ。

 親父さんを納得させるライブをする。それをクリアするために、俺も全力を尽くそう。

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

「...ただいま」

 

 玄関が控えめに開かれる音のあとに、そんな声が聞こえた。

 

「遅かったな」

「...練習してた」

 

 少し緊張したような声音で、娘──蘭は答える。

 

「そうか。だが、こんな暗くなるまで出歩いているのは感心せんな」

「みんな一緒だったし...海も」

 

 海。その名を聞いて、私の顔が少し強ばるのを感じた。

 それを蘭に悟られる前に、蘭から顔を逸らす。恐らく気付かれてはいないだろう。

 

「...明日は学校があるだろう。風呂に入って、早く寝なさい」

 

 それだけ言い残して、私は自室へ向かう。

 夕方の話のあとだから上手く話せないというのもあるが、海、という少年について少し思うところがある。

 

「『娘の言葉をちゃんと聞いてくれ』、か。...ふん」

 

 夕方。私は娘ととある話をした。

 その少し前。私の元に現れたのが、海くんだ。

 

 顔を合わせたのは、確か一年ぶりだったか。

 突然うちに訪れたと思えば、私に頭を下げてきたのだ。

 

 

 

『お久しぶりです、親父さん』

『君に親父呼ばわりされる筋合いはないが?』

『いやそういうのじゃないんで。...まぁ、蘭の話ではあるんですが』

『娘はやらんぞ』

『そういうのじゃねぇっつってんだろ』

 

 

 ふ。感情的になると素が出るのは変わっていなかったな。

 

 

『はぁ...真面目な話です。ホントなら俺が突っ込むべきじゃないんすけど...蘭の今後について』

『.....ふむ』

『親父さん、最近蘭に家業を継ぐように結構強く言ってるみたいで』

『強くもなにも、昔から話していたことだ。高校に上がったら華道の勉強をする、とな』

『でも、蘭自身はそれを肯定してない。そうですよね?』

『.....君が口を出す問題ではない』

『分かってます。けど、親友が困ってんだ。放ってはおけねぇっすね』

 

 

 ...強い目だった。私が彼と同じ歳の頃、私にあんな目ができただろうか?

 

 

『...別に、蘭に跡を継がせるなって話じゃないんです。そこまで他人(ひと)ん家の事情に深く入り込む気はありません。ただ、蘭の...あんたの娘の言葉をちゃんと聞いてくれ』

 

 

 そう言うと、彼は私に背を向けた。

 一度玄関に行き自分の靴を持った彼は、裏口に向かう。

 

 何をしているのか分からなかった私が彼の行動の理由に気付いたのは、その後すぐだった。

 

 

『ただいま。...父さん、ちょっと、話があるんだけど』

 

 

 彼が裏口から出ていってすぐ、蘭が帰ってきたのだ。

 蘭と鉢合わせたくない理由があったのだろう。例えば、私に会いにきた事を知られたくなかった、とか。

 

 

 いつもそうだ。彼は蘭を救おうとする。蘭に手を差し伸べる。

 蘭達が中学校の頃、塞ぎ込んでいた時も、彼は蘭を引きずり出した。

 彼は、そういう人間だ。他人に手を差し伸べられる、優しい人間だ。

 

「...いい “友人” を持ったな、蘭」

 

 そう、友人だ。そうだよな? 付き合ってないよな? ...不安だ。海くんなら安心だろうが、そういう問題ではなく誰にも娘をやる気はない。

 だがまぁ...彼なら右頬に一発で認めてやらんでもないな。

 というか、蘭が家を継ぐのをやめたら彼に責任を取ってもらうのはどうだろう。私の女婿になって、家業(うち)を継いでもらうか。

 

 




ストラップ…ギター、ベースなどに付ける肩掛け。


ライブとかレポートとか重なってなかなか投稿できませんでした。すいません。今月末までは試験もあるので、少し亀になるかもです。書き上がりしだい投稿します。

私が試験で苦しんでる間、感想とか書いてくれてもええんやで.....?(お願いします)

専門用語とかマイナーすぎるバンド名とかについて。

  • 伏字で出されても分かんねぇわ!辞めろ!
  • 好きにやってええんやで(菩薩)
  • 全然分かるけど辞めな
  • 分かるからそのまま続けて、どうぞ。
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