アリアとの決闘があった次の日、俺は依頼も受けずに家で料理を作っていた。
ちなみに今日の料理は貧血に対する鉄分マシマシ料理である。
「ねぇ遙」
「どうした?」
ソファーに座っていたアリアが話し掛けて来る。
昨日の夜も思ったがコイツ本当に泊まってるとは・・・
「キンジは何時帰ってくるの?」
「さーな、けど
「そう」
アリアは素っ気無く返事を返すと、手に持っている鏡で枝毛探しに戻る。
テレビに視線を移すとニュースのキャスターは台風が近づいてると言ってるが・・・
台風に備えて作り置きしておくか・・・
「ただいま」
予想通りキンジが帰ってきたようだ。
「おかえりー」
「遅い」
アリアはキロっとキンジを睨むと、前髪を上げパッチンと銀色の髪留めで纏め、おでこを出す。
このビジュアルにこの体格。ドンピシャ過ぎる・・・
アリアも分かってやってるんだろうなー
「遙が入れたのか?」
キンジはうんざりした様な目をこちらに向けて聞いてくる。
ヒステリアモードもあるだろうがそこまで嫌か・・・
かなり我侭な所は押さえさせたつもりだったんだが・・・
「これでも一応レディーらしいんだぞ? そんな獲物を狙う仔ライオンを玄関の前に置いとく度胸俺にはねーよ」
「遙! 風穴よ!」
俺はキッチンから移動してリビングに行きながら弁明すると、威嚇するアリアのおでこを人差し指で押し、アリアをソファーの上に倒す。
キンジもアリアが延々と玄関の外にいるのを想像したのか頭を押さえている。
他の寮生の連中に見られて残り2年間耐え切れる自信俺にはねーよ。
多分キンジも同じだろう。
「あんたレディーを待ちぼうけさせる気だったの? 許せないわ」
「そもそもレディーが年頃の男子の部屋に泊まりに来るんじゃねーよでぼちん」
「でぼちん?」
「額のでかい女のことだ」
「――あたしのおでこの魅力が分からないなんて! あんたいよいよ人類失格ね」
アリアは大げさに言うと、べー、とベロを出す。
うん確かに可愛いな。小学生みたいで和む。
俺の回りでこう言う事するのは後は理子くらいだ。
「この額はあたしのチャ-ムポイントなのよ。イタリアでは女の子向けのヘアカタログ誌に載ったことだってあるんだから」
「ちなみに俺のチャームポイントはこの小顔な、男らしい顔が良かったが・・・」
俺もアリアに続いて言って見るがキンジはスルーする。
この野郎。俺的には結構な自虐なんだぞ・・・
アリアはキンジに背を向けて、楽しそうに鏡を覗きこみ自分のおでこを見る。
ふんふん♪
鼻歌まで歌いだすアリア。
子供だ・・・おままごとしてる子供その物だ・・・
キンジは不機嫌オーラMAXで鞄をアリアの隣に投げるが、アリアはそんな事どこ吹く風のように鏡を見続け、ご満悦のようだ。
「さすが貴族様。身だしなみにもお気を遣われていらっしゃるわけだ」
キンジは洗面所に入って少しイヤミっぽく背中越しに言う。
おお! キンジにしては珍しく強気だ・・・
最近はかなり強気になってきたなキンジ。
するとアリアは――
「――あたしのことを調べたわね?」
「今頃調べたんだな」
アリアはどこか嬉しそうにキンジに向っていく。
なぜ嬉しそうにするんだアリアよ・・・
俺はソファーに座って2人を眺める。
「今頃って、遙は何時調べたんだよ?」
「アリアが転校して来た初日に情報収集して、次の日には大半は集ったぜ? 俺がその気に成ればスリーサイズから靴のサイズまで集められるぜ、やらないけど・・・」
「調べたら風穴地獄よ!」
キンジは咳払いして話を戻す。
本当にこの手の話し弱いなキンジ・・・
て言うか俺そんなに信用無いのかよ・・・
「本当に、今まで1人も犯罪者を逃がした事が無いんだってな」
「へぇ、そんな事まで調べたんだ。武偵らしくなってきたじゃない。でも・・・」
そこまで言うとアリアは背中を壁に付け、ぶらん、と片足でちょっと蹴るようなしぐさを見せる。
どうでも良いがこのしぐさ、こいつじゃない感がすごいな・・・
レキがしたらかなりに合いそうだ・・・
「――こないだ、1人逃がしたわ。生まれて始めてね」
「へぇ。凄いヤツもいたもんだな。誰を取り逃がした?」
キンジはコップを取りうがいをしだす。
俺はなんとなく察し、静かにキンジを指差す。
「遙正解よ。キンジを取り逃がしたわ」
ぶっ!
キンジは余りにも驚きすぎて水を噴き出す。
きたなっ!
やっぱりあのチャリジャックのときか・・・
「お、俺は犯罪者じゃないぞ! 何でカウントされてんだよっ!」
「強猥したじゃないあたしに! あんなケダモノみたいなマネしといて、しらばっくれるつもリ!? このウジ虫!」
ドレイからケダモノ、ついにウジ虫か。キンジの評価暴落止まらねー・・・
人の絡みは傍から見てると面白いな。
「だからあれは不可抗力だっつってんだろ! それにそこまでのことはしてねえ!」
「うるさいうるさい! ――とにかく!」
びしっ! と真っ赤に成ってキンジを指差す。
最近このポージング取る奴多いよな・・・
涼宮ハ○ヒとか江戸川コ○ンとか・・・
「あんた達なら、あたしとパーティになれるかもしれないの!
「あれは・・・あの時は・・・偶然、うまく逃げられただけだ。俺はEランクのたいしたことない男なんだよ。はい残念でした。出ていってくれ」
「ウソよ! あんた入学試験の成績、Sランクだった!」
鋭い・・・
武偵は情報戦だからどれだけ相手の情報を掴めるか。もしくはどれだけ自分の情報を抹消できるかが勝負になる。
ヒステリアモードじゃないキンジなら勝負に成らないだろうな・・・
「つまりあれは偶然じゃなかったてことよ! あたしの直感に狂いは無いわ!」
「と、とにかく・・・
「
これの意味知ってる奴には爆弾発言だな・・・
キンジを見ると――かあああっ、と赤く成っている。
そりゃそうだよな、意味知ってる奴は『性的に興奮させてやる』って言ってる様に聞えるだけだもんな・・・
「教えなさい! その方法! パーティメンバーなら当然、手伝ってあげる!」
「・・・・・・!」
あっ、キンジが赤くなった。
想像したな、間違いなく。
もう日が暮れ薄暗くなった部屋じゃ、しょうがないっちゃしょうがないか・・・
「
キンジにアリアが詰め寄る。
ああ、これはまずいなキンジ的に・・・
ヒステリアモードになるか・・・?
「うっ・・・」
やれやれ、助け舟出すか・・・
俺は部屋の電気をつけると、キンジはそのムードから出たみたいだ。
アリアの頭に手を置くと、何時もどおりの軽いノリでしゃべる。
「1回だけ自由履修として受けて見ればどうだ? キンジはそれで自分の実力を見せて、アリアはその1回でキンジの実力を見極める。ただしどんな小さな事件でも大きな事件でも1回ってことでどうだ?」
アリアは俺達を自分の手駒にしたがっている、俺は無理矢理引き入れようとすると痛い目を見るのを学んだだろうが、キンジはそうは行かない。
だから、実力を見れば考えが変わるだろうと言う案だ。
「そうね、それならキンジの言葉が本当かウソか判断できるし、あたしも時間がないからその1回で見極めるわ。キンジもそれでいいでしょ?」
「ああ。どんな小さな事件でも、1回だからな」
「OKよ。そのかわりどんな大きな事件でも1件よ」
「分かった」
「ただし、手抜きしたりしたら風穴開けるわよ」
「ああ。約束する。全力でやってやるよ」
通常モードでやる気だな、キンジ・・・
アリアは3日振りに自分の寮に戻った用で、ようやく静かな部屋が戻ってきた。
キンジは少し憂鬱そうな顔をしてるが・・・
「しかしキンジ、お前どこでアリアの情報手に入れたんだ? 理子か?」
「ああ。ついでに遙の情報も手に入れたぞ」
「俺の? 俺の情報なら3行以内で教えてやるのに」
「吉野遙16歳7月20日生まれでA型、専門科目は
「ちなみにその立て篭もり事件、
「どこまでって、たまたま泊まったホテルに20人以上の男に占拠されて人質が130人ほど取られ、偶然居合わせたアメリカのエージェントと解決したとは聞いたが・・・」
なら大丈夫か・・・
「キンジ良かったな、その話の詳細は国家機密クラスに成ってるから変に調べすぎたら消されるぞ」
「はっ? 何だよそれ、どう言う事だよ?」
「あいつ等アメリカのテロ組織の一部でな、アメリカ政府が最も危険視してるテロ組織が関与してて表沙汰にできないから、被害者の人間もほぼ事件の内容を把握してないんだよ」
「マジか・・・」
「ああ。かなりかったるい状況だった・・・」
正直あの時はハードだった。
何回死んだと思った事か
何回殺したと思った事か
あんな経験2度と御免だな、そうポンポンあってたまるかとも思うが・・・
あいつ等に不幸がある事を祈ろう。
許すまじ・・・
俺あいつ等嫌いだ!
「取り合えず飯にしようぜ! こんな話したとこでいい事ないぜ!」
次の日、俺は心底泣きそうな顔をしたキンジに付き添って
麗しき我が学科であり、俺にありとあらゆるトラウマを与えたクソみたいなとこだ。
卒業時生存率97.1%を誇る我が学科は、卒業時には100人いた人間の内、3人弱が居なくなっている。
大抵が任務、もしくは訓練中に死んでおり、そういった奴は間抜けと呼ばれている。
そんなとこが
そんな
「おーうキンジィ! お前は絶対帰ってくると信じてたぞ! さあここで1秒でも早く死んでくれ!」「まだ死んでなかったか夏海。お前こそ俺よりコンマ一秒でも早く死ね」「キンジぃー! やっと死にに帰ってきたか! お前みたいなマヌケはすぐ死ねるぞ! 武偵ってのはマヌケから死んでくもんなんだからな」「じゃあなんでお前が生き残ってるんだよ三上」
とこんな感じに揉みくちゃにされるわけだ。
この学科は死ね死ね言うのが挨拶なのだが、キンジが帰ってきたのにテンション上がり捲くってる奴等にキンジは律儀に1人1人相手にしてる。
平和だな・・・
死ね!!
俺はそんなお人よしじゃないから1人無視して人ごみを出ると――
「おいおい! これが
「らしいぜ! こんな女っぽいチビが
俺を見て馬鹿笑いしてる1年の馬鹿どもが、馬鹿みたいに集って馬鹿みたいに騒いでる。
なんだこの馬鹿みたいな馬鹿どもは・・・
おおかた入試で高ランクになって天狗になった馬鹿共だろうけど・・・
こう言う馬鹿どもは基本的に1学期以内に伸びた天狗の鼻を蘭豹辺りに折られるのが好例だ。
もしくは1年2年武偵を経験した馬鹿に遊び道具にされて鼻を折られるかだが。
まっ、どっちにしろ碌な目に合わないのは決定事項だ。
俺は軽く欠伸をして去ろうとしたその時――
「あんなのがSランクなら俺がSランクに成るのも遠くないな!」
と馬鹿どもが笑い出す。
こいつ等今なんて言った・・・?
「待てよお前等」
笑いながら去ろうとする馬鹿どもを呼び止める。
「アッ?」
「訂正しろ、Sランクはお前等みたいなカス共が成れるもんじゃねーよ」
俺は殺気を発しつつ1歩づつ近付く。
その馬鹿どもはすっかり怯えている。
周りも引いている。
それでも止める訳にはいかない。
「武偵ってのは市民の信頼の上で武装を許可されてる。そのなかでもSランクの人間は更なる信頼と実績、能力を認められた者に与えられんだよ。お前等みたいに見た目だけで自分より下だと思い込んで人を笑い物にする奴等がSランクに成れるわけねーだろ」
俺は軽く前髪を掻き上げ、首を鳴らす。
キャラじゃないが今日はもう良い。
「もし他にも簡単にSランクに成れると思っている奴が居るなら出て来い。お前等全員まとめて相手してやる」