~side 間宮あかり~
「ハハッ、人質と銃が増えたぜ」
あたし達は突入したがあたしが転んで無力化させられてしまった。
現在は床に座らされていた。
首を絞められるように拘束された島麒麟の顔には観念した表情が浮かんでいた。
だけど、あたしはまだ絶望していない。
バババババババババッ!!
その時、
室内にいた全員の視線が、その大きな窓に移る。
ガラスを撃って割ったのはライカだ!
だが、ライカが見えたのは一瞬だった。
ワイヤーを掛ける場所が真上に無かったのか、ライカはブランコのようにスイングして行き、窓のずっと先に消えてしまう。
「バカか。そっちにゃ誰もいねえよッ!」
突然の銃撃に黒髪の誘拐犯は焦り、無人のベットルームを撃ったライカを笑う。
あたしはこれで始めて絶望した。
だが、島麒麟は逆に、ぱぁ、と明るい表情になった。
そして――
「――がうですの!」
島麒麟は自分の首を絞めるように拘束してた男の腕に噛み付き、拘束から逃れる。
「てめぇ・・・! 止まれッ!」
誘拐犯に凄まれる島麒麟は――
――この絶望的な状況下において、全く場違いな、可憐な笑顔を浮かべていた。
まるで1人だけ、この事件が解決した事を理解したかのように。
「――恋心は 振り子みたいに 揺れて 揺れて――♪」
歌いながら、ぽん、ぽん――と、ダンスするようなステップで、島麒麟はベットルームの方へ逃げて行く。
だがそこに出口は無く、ただ、割れた窓があるだけの行き止まりだ。
その不可解な行動に誘拐犯だけでなく、あたし達まで眉をを寄せる。
「3、2、1」
カウントダウンを数えた島麒麟は――
ぽん! とベットをジャンプ台にして。
「きゃはーん」
ゆるく握った両手を顔の下に寄せたぶりっ子ポーズで、背中から。
窓の外、その、地上七階の虚空へと。
「――!」
笑顔で投身自殺するようなその光景に、703号室の全員が唖然とした瞬間。
――パシッッ! ――
空中に出た島麒麟の体を――今度は、右から、左へ――ブランコの要領で振り子状に戻って来たライカの両腕が、見事にキャッチした。
その救出劇を、あたし達は室内から目撃する。
あたしはそこで始めて紙飛行機に書かれていた『ターザン 戻りでダイブ』の意味が分かった。
空中で島麒麟を救出したライカが、プツッ! とナイフでワイヤを自ら切る。
その理由もすぐに分かった。
あの軌道から放物線を描いて落ちれば――大きなプールに落ちる事ができるのだ。
だが、そんな2人に今――
「――クソッ!」
窓際に立った銀髪の男がコルト・アナコンダの銃口を向けている。
「ライカ!」
あたしは咄嗟にライカに警告を飛ばす。
ライカも気付いたのか島麒麟の頭を抱き、銃口に背をさらす。
あたしはライカを助けるために、銀髪の男に向って走る。
「動くんじゃねえ!」
その行く手を、黒髪の男が塞ぐ。
デリンジャーを右手に握って。
「あかりさん! 危ない!」
志乃ちゃんの声を聞くもあたしは止まらない。
その脳裏には数日前に言われたアリア先輩の小言と、吉野先輩の忠告を思い出していた。
(アリア先輩、吉野先輩・・・先輩達の言う通り、あたし、武偵としての自覚が足りませんでした・・・!)
あたしは無理矢理男の脇をすり抜けようとするが、二人の体がもつれ合い倒れてしまう。
もう、あたしの手は銀髪の男の手のコルト・アナコンダに届かない。
――間に合わない!
コルト・アナコンダを構える銀髪男と、ライカ達の距離はまだ遠くない。
狙って撃てば、素人でも当たる距離だ。
そして、銀髪男の狙いは思った以上に正確で――
(あたし、心から反省しました・・・! だから――)
あたしは声の限り――
「――助けてぇ――!」
その声を掻き消すように、バスンッッッ! と言う発砲音が、無情にも鳴り響く。
空中のライカは、より強く島麒麟の頭を抱きかかえる。
(・・・・・・!)
だが、弾丸は――ライカに、当たらなかった。
這うようにあたしはベットルームの窓から身を乗り出すと・・・
ライカはスカートの内側からS&Wを引き抜き、銀髪の男残ると・アナコンダを撃って弾き飛ばし、島麒麟と抱き合いプールに落ちて行った。
一方、
「――ガキどもがっ!」
あたしともつれ合って倒れた黒髪の男は、顔を真っ赤にさせて起き上がってくる。
そして、右手のデリンジャーを使ってあたしを脅そうとするが・・・
「・・・・・・!?」
その手に、もうデリンジャーは握られて無く、あたしの手の中にデリンジャーが有った。
――鳶穿――
交錯の瞬間に敵から物を掠め取る、その技によって。
その光景を見た茶髪の男があたしのマイクロUZIを志乃ちゃんに向け――
タァン! ダァン!!
と銃声2発の違う銃声が鳴り響く。
そしてそれに遅れたように――
カアァァン!
と何かの金属と金属がぶつかり合う音が聞こえたと思った瞬間――
志乃ちゃんに向けられていたマイクロUZIが弾き飛ばされ、志乃ちゃんは拾い上げたサーベルで茶髪の男を無力化した。
あたしは拾い上げたコルト・アナコンダとデリンジャーを銀髪と黒髪の男に向け、無力化する。
そうして男達は両手を上げ投降したのだった。
あたしは両手の銃を男達に向け、天に祈りながら波打つプールを見下ろす。
その祈りは――天に、通じたらしい。
プール中央で水しぶきが上がり、島麒麟と共に水面に顔を出した。
2人には大きな外傷は無い様で、あたしはやっと安堵した。
絶対に当たると思った弾丸は、奇跡的に外れたのか。
いや、これはきっと――奇跡ではない。
・・・きっと、アリア先輩が・・・
ふと割られた窓の正面を見る。
正面の部屋には黒髪の人影が一瞬笑ったように見えた。
――あれって!
おそらくさっきの人影がマイクロUZIを狙撃したのだろう。
・・・ありがとございます・・・
あたしは心の中で感謝の言葉を述べるのだった。
5分前
~side 吉野遙~
向いの棟の屋上からワイヤーでスイングしながら現れたライカは、7階の部屋の窓ガラスを打って割る。
狙うべきは今ではない。
飛び降りた島麒麟をキャッチしたライカ達に、銀髪の男が拳銃を向ける。
違う、ここじゃない。
その瞬間、俺の予想通り銀髪の男の撃った銃弾は、別の狙撃された銃弾によって
そこにすかさずライカは俺のやったS&Wで、銀髪男の拳銃を弾き飛ばした。
あかりちゃんは交錯の瞬間に、銃を掠め取り男を無力化する。
あの技は・・・
俺は少し思考がずれかけるが無理矢理引き戻す。
武器を奪われた仲間を見て焦ったのか、茶髪の男が丸腰の黒髪の少女に銃を向けようと動く。
そこで俺は韋駄天を発動させる。
世界はスローになり、俺は撃鉄を上げたS&Wを撃つ。
だが、これだけじゃ飛距離が伸びずに落ちてしまい当たらない。
だから、俺はダブルアクションで2発目の銃弾を
放たれた弾丸は、空中で甲高い金属音が鳴り響かせ、茶髪の男の持つ銃を弾き飛ばし丸腰になった茶髪の男を、サーベルを拾い上げた黒髪の少女が無力化する。
そしてあかりちゃんは、拳銃を拾い上げ男達2人向けて無力化した。
「解決したみたいだねハルハル」
「ああ・・・」
俺はライカ達が無事なのを確認しS&Wホルスターに仕舞う。
そしてカーテンを閉めてベットの上にうつ伏せでダイブした。
「あぁ~、頭痛い・・・」
ため息を付く俺の隣に、理子が仰向けに倒れこみ俺の方を向く。
「ハルハル、あの距離でS&Wって届かないよね? どうやったの?」
「何って、何時もの弾丸にホローポイント弾をぶつけて飛距離を伸ばしただけだ」
弾速の違う弾丸と、同じ軌道を正確に撃ち抜ける技術があれば難しいことではない。
2点バーストできる銃があれば簡単だが・・・
「で? 今回の本当の狙いって何だよ理子? デ-トだとか事件だからってだけじゃないんだろ?」
「くふ。ハルハルってば変な所で鋭いから話してると楽なんだよぉ!」
「そいつはどうも、それで?」
「ハルハルが武偵殺しに付いて調べてるって聞いたから、ハルハルがどこまで分かってるのかな~て思って!」
「どうせ情報仕入れてきてるんだろ? 俺が分かってるところ話したら情報寄越せよ」
俺は一息つくと今までの俺なりの考察を纏める。
仰向けに体を向け直すと1つ1つ語りだす。
「まず最初に言っとくけど、全部可能性の枠から出て無いから冗談のつもりで聞けよ」
俺は最初に前置きしておく。
「まず俺の予想では武偵殺しは単独犯。ただしバックに何らかの組織が付いてる。共通した手口なのに証拠が一切残らないってのは手際が良すぎる。個人としての能力が低いならそのバックの組織が、能力が高いならその組織で学んだ事だと思って良いだろう」
稀にいる天才と呼ばれる人間なら、まず共通した手口は使わないだろうし、共通した物が合ったとしてもまず犯人にしか分からないような事だろう。
まぁ、共通した事や動機なんて後から聞き出せば良いのだから、まずは犯人を追い詰める事が先決だ。
「次に、現在掴まっている武偵殺しは十中八九別人だ。あの刑期に成るまでの罪を犯す人間が、子供と言う致命的足手まといを造ると思えない」
前に考えてた、冤罪を掛けられたと言うのはまず間違いないだろう。
本人に会えればおそらく合っているかどうかは確実に分かるはずだ。
「次、武偵殺しは規則性を持っている。小型、中型、大型の乗り物に爆弾を仕掛けている。小型はバイクやチャリ、中型で普通車のような一般車、大型で飛行機や客船のような船。そしておそらく大型で直接対決を挑み、そこでリセットされてもう1度その規則に沿ってやり直している」
そこで俺は一息つき、少し考えた後に続ける。
「この傾向で考えれたのは、段階的に規模を大きくしてるって事だ。だから次狙われると予想したのは通学バス。もしくは車輌科の大型の車だろうってこと位だ」
そこで俺は理子の方に向き、ジト目で理子の顔を見詰める。
理子はどこか恍惚とした顔でこちらを見ており、すこしドキッとしてしまう。
俺の周りでは、こう言ったストレートに人の・・・男の興奮を誘うような表情をする奴はいない。
だから、俺は普段からただの親友で有り、そう言う感情を抱かないようにしてた相手に不覚にも興奮してしまった。
普段ただの馬鹿なのに、なんでこんな表情するんだよ・・・
「で、理子の番だぞ」
そこで現実に引き戻されたのか、何時も以上に興奮したように話し出す。
「良いよ
理子はまるで快感をえてるかのように、少し顔が上気し息が荒くなっている。
何時もより妖艶的すぎる理子が、俺には酷く違和感に感じた。
なぜ理子がこんなにも興奮するのか、理子は俺に何を見出してるのか俺には全くわからない。
「ハルハルもやっぱり
「そいつはどうも、ありがたいけどお断りさせて貰うよ。で、お前の情報は何なんだ?」
「アハハ・・・ハルハルに教えようと思ってたけど先に辿り着いちゃってた・・・」
理子は今までの雰囲気を一気に吹っ飛ばし、微妙な表情で笑っている。
まぁ稀にこう言う事も有るだろう。
俺も今まででこう言う事が有ったのは1度や2度じゃない。
1度や2度じゃないが・・・
(コイツそんな考えれば誰でもわかりそうな事の為に今日一日俺を連れ回したのか・・・)
俺はため息を漏らす。
これがかったるいと言う奴だ・・・
俺はジト目で理子を見詰める。
そして――
「ちょ・・・! やめっ! ハルハル許してッ! キャハハハハハッ!」
思い切り理子の脇から脇腹に掛けて擽る。
「ムリムリムリ! 死んじゃう死んじゃうからー! アハハハハッ!」
理子が! 泣くまで! 擽るのを止めないぃー!
そう言えば擽ったさってのは不快感だって聞いた事が在った様な・・・
「らめっ・・・! もうらめぇえぇぇぇー!!」
もう呂律の回らなく成って来た理子だが、俺はまだまだ続ける。
普段から色々と俺達もやられてるし、無駄について来きた分今日の出費が凄い事になっているし。
そして何より、なんか理子を一瞬意識してしまったのがなんとなく腹立つし・・・
「アハハハハハハッ!! ゴヒュ・・・ヒュー、ヒュー・・・」
理子がついに過呼吸に成りだす。
いっその事このまま安らかに眠らせてやろうかな?
そんな事も考えたが、理子の眼に涙が浮かんでるのが見える。
目標をクリアしたので擽るのをやめた。
その後、復讐に燃えた理子と擽り合いをし続け、気付けば俺達はこの部屋に宿泊する事に成ったのだった。