俺は見覚えの無い部屋のベットの上で目を覚ます。
痛い頭を押さえつつ昨日のことを思い出す。
そして――
「そう言えばホテルに泊まったんだっけ・・・?」
体を起こし、右手で頭を押さえて右膝に肘を置き、左手をベットに付いて――
ふにっ
何か柔らかい物を掴む。
ふにふにふに
何かやわらかい物を俺は持っていたか?
思い出しても思い至らないので、直接見てみる。
「・・・・・・」
すると俺の左手は隣に寝ている理子の胸を掴んでいる。
ああ、そうだった。理子も一緒に泊まったんだったな。
ふにふにふにふにふにふに
取り合えず、理子の胸を揉めるだけ揉んでからヘタレて理子の胸から手を放す。
アー、これ以上踏み込む度胸が無い。
そんな俺に追い討ちを掛けるような状況なのが俺には理解できない。
理子はなぜか、服を着ていない。
一体何があった!?
なぜか俺も上半身が裸で、辛うじてズボンが穿いている様な状況だった。
「・・・夢だな、もう一回寝れば覚めるかな・・・」
俺は口では現実逃避するが、頭の中は今までにないほどフル回転していた。
なになになになになになになに!?!?!?!?
えっ!? どう言う事!? へタレの俺がこんな事できる訳ねーだろ!!
何時もの俺がシラフでこんな事できる確率は0.003%も無い。
シラフじゃなかったとしても0.014%有ればいい方だ。
つまり基本的に俺がこんな事ができない確率は99.983% 、つまり寮の天井が抜け、上の階の人が俺の腹の上に落ちてきて俺が死ぬくらいの事があればあるかも知れないくらい有り得ない。
うん、よく分からない!!
えっ!? なに!? 俺襲われたの!?
ありがとうございます!!
そんな馬鹿な事を考えていたが、頭痛と吐き気が我慢出来なく成りトイレに駆け込む。
「うえッ・・・」
俺は我慢しきれず、胃の中の全てを吐き出す。
ツーンとした異臭が鼻を突くが、頭痛が引いて行きかなり楽に成った。
それがまた夢じゃないのを嫌なくらい理解できてしまう。
気分はまだ悪いので、冷蔵庫の水を飲んで気分を落ち着かせよう。
そう決めてトイレを出ると、理子が起きだしていた。
・・・ここは何時もどおりの俺で行こう!!
「おはよう」
理子に軽く朝の挨拶をすると、冷蔵庫から水を取り出して飲む。
理子の方を少し見ると何故か少し顔が青くなっている。
それに裸だと思っていたが、どうやら下着は付けていたようだ。
ちなみに色は上下ともに金色のようだ。
「言っとくが何もして無いぞ。と言うか記憶が昨日の途中からほぼ無いんだがなんか知らないか?」
「昨日の途中でハルハルが寝ちゃったから服が皺にならない様に理子が脱がして吊っといたよ」
「あぁそういう・・・良かった・・・」
ここで何かあれば一瞬で御用からの武偵3倍法抵触で豚箱行きだからな・・・
顔色の悪い理子に水を一本取り出し渡すと、吊られていた自分の服を着て理子の服も取り、理子に手渡す。
「とりあえずもう出るぞ、これ以上は俺の財布の中身がちと危ないしな」
と言う訳で、俺達はホテルを後にしたのだった。
あの誘拐事件の数日後、俺は強襲科棟の通称『黒い体育館』こと格闘訓練所に訪れていた。
今日もライカは絶好調で男ども相手に投げ技で圧倒している
「今日も元気だねーライカは・・・」
「そうですね、ところでなんで吉野先輩まで見学しているんですか?」
「ハッハッハ! 俺が参加するとそれこライカ以上の無双状態になってしまうからだよあかりくん!」
俺は久し振りに会ったあかりちゃんと一緒に訓練所の隅の方で見学していた。
「それに俺の戦闘スタイル的に物にもよるけど、割と見てるだけでその技が使えるように成るから、結構見てるだけでも勉強になるんだよな・・・」
俺は鼻歌を歌いながら周囲を見渡すと、窓の向こうにある校舎の屋上に違和感を感じた。
携帯を取り出しカメラを起動し拡大すると違和感の理由が分かった。
金髪の小学生のような見た目の中学生が校舎の屋上から双眼鏡でこちらを覗いている。
アレを俺は見覚えがある。
それも結構最近。
「あかりちゃんあかりちゃん・・・」
「麒麟ちゃん、聞こえる? ライカはいつも通りだよ」
あかりちゃんはこっちに興味を示さず襟元のマイクに話し掛けている。
ふむ、後輩にも構って貰えなく成るとは・・・
泣きそうだ・・・
ライカは一頻り暴れた様で満足げな表情で帰ってくる。
俺も軽く手を振り向えるが・・・
「クソッ! 男女がッ!!」
「なんなんだよアイツ!」
などと言う1年の男子達の言葉に、ライカの表情は少し曇る。
それに気付いた俺はその男子達を一喝しようとその男子達に近づこうとした、その時――
ガシッ!
俺はライカに腕を掴まれ止められた。
俺はなぜ? と思ったがその理由をライカ本人から語った。
「良いんです遙先輩。『男女』なのは自覚してます。そんな事を今更言われた所で何ともありません」
といつもより少し落ち込んだ声で話してくる。
何とも無くないじゃねーか・・・
まったく、かったるい・・・
「お前は男女なんかじゃねーよ。傷ついた人を心配できる。嫌な事を言われて傷つく。そんな普通の事を普通に感じられるのが俺の知っている火野ライカって女だよ」
俺は少し落ち込んだライカの頭を撫でながら言ってやる。
ライカは少し俯いてその目には涙が滲んでいるが、その顔は仄かに赤くなっている。
「あんまり溜め込み過ぎるなよライカ。愚痴くらいなら常識的な時間内なら何時でも聞いてやるからよ」
俺はライカの頭から手を離しあかりちゃんと合流したのだった。
~side 間宮あかり~
専門科目の授業も終わり、用事があると言う吉野先輩と分かれライカと廊下を歩いていた。
「ちょろいヤツラばかりだったな」
男子をちぎっては投げ、ちぎっては投げしたライカは気分爽快と言ったムードだ。
吉野先輩と別れる寸前に言われた「ライカの事、もう少し気に掛けて挙げた方が良いよ」という言葉があたしには理解できなかった。
「ライカが強いんだよ」
友だちが活躍をしたのだから、あたしも素直に鼻が高い。
だが、ただ喜んでばかりもいられない。
あたしもちゃんと麒麟ちゃんからの依頼に貢献しないと。
(ライカと麒麟ちゃんが仲良くできそうなきっかけが、うまく見つかるといいけど・・・)
ライカをチラッと見つつ、考えて廊下を歩いていると――
「・・・火野ライカぁ? あんな男女は最下位だッ!」
近くの教室の中から、強襲科の男子達の声が聞こえてくる。
何やらライカの話をしているようで、あたしとライカは聞くとはなしに話を聞いてしまう。
「顔だけは美人だけどな、ありゃ男だぜ」
「かわいくねぇんだ。背だって170近くあるだろ」
・・・どうやら、女子としてのライカを評価しているようだ。
それもかなり辛口採点の様である。
教室と廊下を隔てるま殿からこっそり教室を覗くと、男子達は女子のランク付けをしているらしく、採点基準は可愛い可愛くないという基準のようだ。
5人ぐらいの男子達は机を囲みノートを広げており、その面子の中には先ほどライカにコテンパンにされた男子もいるようだ。
見ればノートには女子の名前がズラリと書かれており、失礼な事に◎○△×の4段階で評価されている。
そのタイトルは『可愛さランキング』――
見たところ、『間宮あかり(強襲科)』は『△~○? ←チビすぎ』。『佐々木志乃(探偵科)』は『◎』などになっている。
納得いかない・・・
と思うが、評価としては妥当なとこだろう。
他にも、鑑識科や車輌科、諜報科や救護科などの女子達が勝手に品定めされる中――
「――じゃあ、最下位はライカで決まりな!」
男子の1人が『火野ライカ(強襲科)』の文字の上に大きな×を付ける。
可愛さランキング、最下位。
ライカは影で、そう評されていたのだ。
男子達の妬みや嫉みもあるのだろうが、実際男子達はライカに女子としての愛嬌をまったく感じていないようすで爆笑している。
そのバカ騒ぎは、廊下のあたしとライカに筒抜けだった。
(武偵校の男子達は、デリカシーがなさすぎる!)
怒るあたしはライカが教室に殴り込むなら加勢するつもりでいたが――
「・・・フン」
ライカは鼻を鳴らしただけで、クールに近くの女子トイレへ入っていく。
どうやらくだらない陰口には取り合わないつもりらしい。
それでもあたしはその男子を睨んでやろうと見たとき――
「おいお前等。風魔のヤツ見なかったか?」
「吉野先輩!?」
そこには何故か、先ほどまでいなかった吉野先輩がいた。
えっ!? なんでここにいるの!?
吉野先輩は反応する男子の後ろにあるノートに目を付けると、何故か笑いだす。
「ハハハ! 懐かしい事やってるなお前等。俺達が1年のころも似たような事やった覚えがあるよ! 俺達の時は可愛い所を見つけて点数を加算していくシステムだったけど・・・」
吉野先輩は軽くノートに目を通すと、少し笑みを浮かべる。
どうやら誰かの評価見て笑っているようだけど・・・
「ライカが最下位か・・・お前等分かってないなー、あの手の子の可愛さって言うのが!」
「可愛いッスか? あんな背の高い男女が」
あたしもライカの良いところは思いつくが、可愛いところなんて思いつかない。
あたしよりもライカとの付き合いが短い吉野先輩に、ライカの可愛いところが見えているのと言うのだろうか?
「必要以上に男らしい女って言うのは、自分じゃ分かってないだろうけど人より性別を意識をしているもんだ。だから偶に出る女の子らしい仕草とか表情もそうだけど、それに気付いて後から恥ずかしがるところなんて可愛いだろ?」
「そう言われて見れば・・・」
「ぱっと見の性格やしゃべり方が男っぽくてガサツそうだけど、根は素直で努力家なところとか、人の事を考えて人を心配できる辺りとか優しくて凄い可愛いじゃん」
「た、たしかに・・・」
「それにあんな子って意外と乙女趣味だったりするからギャップがあって最高に可愛い」
「あぁ~・・・」
確かにそう言われたら、ライカって意外と可愛いところって多いのかもしれない。
吉野先輩ってもしかして普段から人のそう言うところを見ているのかな?
「なっ? 意外と可愛いだろあの子。お前等も人の悪いところばっか見えないで良いところ・・・」
そこで吉野先輩の言葉が止まり、表情が少しずつなくなっていく。
なにがったのだろうと吉野先輩の視線の先を見るとノートがあり、それを読んで見るとそこには・・・
『吉野遙(
・・・・・・
「誰が女じゃゴルァ!!」
ダダダダダダン!!
ガキンガキン!!
吉野先輩は圧倒的速度で右胸のホルスターからS&Wを抜き、全弾を撃ちまくる。
一瞬で撃たれた男子達は倒れ、撃鉄が固定式弾倉を撃つ音が響き渡る。
そして――
「あんま調子乗ってっとはっ倒すぞコラッ!!」
遙先輩は倒れている男子達に叫ぶと、無理矢理ノートを破いてゴミ箱に捨てて教室を出る。
その際吉野先輩は口に手を当てて何かしていたようだが、あたしには何をしているのか分からなかった。
確かに吉野先輩に関しては顔も良いし、性格も悪くないし、身長も可愛いと思われる範囲で小さいから、可愛いか可愛くないかで言うと絶対に可愛いと思う。
「あかりちゃんも食らいたいなら食らわせてあげようか?」
「ヒッ・・・!」
よっ、吉野先輩にばれてたの!?
吉野先輩の穏やかな笑顔が今までに無いほどに禍々しい物に見える。
「そこまで怯えなくても・・・別にバカにしないなら怒らねーよ・・・」
そう言ってあたしの頭を優しくなでる吉野先輩にひとまず安心する。
「ただ、そろそろライカを追いかけた方がいいんじゃないか? さすがにあそこまで追いかける度胸のある男子は俺含めそうそういないからな・・・」
「あっ!」
そうだった! 今はライカを追いかけないと!
吉野先輩の登場で忘れかけていたが、最優先はライカと麒麟ちゃんの仲を取り持つ事だと再確認する。
「追い掛けるんならコイツも持っていきな、自分じゃどうしようもないと思ったら再生させて置いて来たら良いから」
吉野先輩はそう言ってあたしにボイスレコーダーを手渡す。
この中に一体何が入っているのだろう?
「一応言っておくけど、ライカ以外が聞くのはお勧めしないから再生したら放置して帰るんだよ? もしアレならイヤホンも渡しておこうか?」
「他の生徒も来るかもしれませんし・・・」
「だな・・・」
吉野先輩はポケットから未開封のイヤホンを取り出し、そのままあたしに手渡す。
そしてまじめな顔をし・・・
「親友が何を思って何を感じているか、それを君は知るべきだ。その点に俺は手を貸さないけどそれが君にとって成長の糧になる事を俺は祈るよ」
「はい! ありがとうございます!」
あたしは吉野先輩に1度お辞儀するとライカのいる女子トイレに急いだ。