2分前
~side 火野ライカ~
アタシは男子達の話を聞いて、あかりをおいて女子トイレの個室に逃げ込んだ。
確かにアタシは男っぽいだろう。
アタシも自覚しているし納得もしている。
だけど・・・
「っ・・・!」
自然と涙がこぼれる。
情けない。
こんな惨めな場所に逃げ込んで、一人で泣いている自分がどうしようもなく嫌になる。
それでもアタシだって女の子だ。
噂をされれば気になるし、嫌な事を言われれば傷付く。
「ライカ」
アタシを追い掛けてきたのか、あかりに声を掛けられる。
その優しさが本当に嬉しい。
けど、こんな所をあかりに見せたくない。
だから・・・
「先行ってていいぞー、あかり」
アタシはいつも通りにその言葉をひねり出す。
丁度他の女子も入ってきたのか少し女子トイレ全体が騒がしくなる。
「・・・先行ってるね」
あかりはこの場を離れようとする。
アタシは気が抜けたのか押し殺してた泣き声が漏れてしまう。
本当に自分が情けなくて嫌になる。
「ぐすっ・・・」
流れてくる涙を制服の袖で拭う。
その時、ドアの下の隙間から何かを投げ入れられる。
アタシはそれを拾い上げて見てみる。
(ボイスレコーダー・・・?)
使われた形跡がないイヤホンが巻かれたボイスレコーダーを見詰める。
ほぼ間違いなくあかりがこれを投げ入れたのだろう。
つまりこれはアタシに聞けって事だろう。
イヤホンを耳に装着し再生ボタンを押す。
『ライカが最下位か・・・お前等分かってないなー、あの手の子の可愛さって言うのが!』
『可愛いッスか? あんな背の高い男女が』
遙先輩と先ほどの男子達の会話が聞こえてくる。
どうやら遙先輩がアタシを褒めようとして、男子達がそれを否定しようとしているような状況のようだが・・・
『必要以上に男らしい女って言うのは、自分じゃ分かってないだろうけど人より性別を意識をしているもんだ。だから偶に出る女の子らしい仕草とか表情もそうだけど、それに気付いて後から恥ずかしがるところなんて可愛いだろ?』
『そう言われて見れば・・・』
『ぱっと見の性格やしゃべり方が男っぽくてガサツそうだけど、根は素直で努力家なところとか、人の事を考えて人を心配できる辺りとか優しくて凄い可愛いじゃん』
『た、たしかに・・・』
『それにあんな子って意外と乙女趣味だったりするからギャップがあって最高に可愛い』
『あぁ~・・・』
遙先輩の声で、アタシをほめる様な言葉が次から次に出てくる。
それに対して男子達も意外と納得しているようだ。
聞いているだけで顔が熱くなってくるくらい恥ずかしい・・・
『なっ? 意外と可愛いだろあの子。お前等も人の悪いところばっか見えないで良いところ・・・』
遙先輩の声はそこまで言って途切れだす。
いったい何があったんだろう・・・
そう思ったとき――
『誰が女じゃゴルァ!!』
ダダダダダダン!!
ガキンガキン!!
『あんま調子乗ってっとはっ倒すぞコラッ!!』
遙先輩の怒鳴り声と銃の発砲音、撃鉄が固定式弾倉を撃つ音が聞こえる。
あいつ等、遙先輩も可愛さランキングに入れてたんだ・・・
乱暴にノートを破きゴミ箱に捨てる音が聞こえたその時――
『だから言ったろ? お前は可愛い女の子だって、だからそんな所で泣いてないでもっと自信を持てよ』
「――っ!」
アタシは驚いた。
遙先輩は、アタシが男子達に馬鹿にされて落ち込む事も、落ち込んでここに逃げ込み泣いているのも知っているかのように語る。
多分普通の人間ならこんなに自分の事を把握されていれば驚くだろうし、怖がったりするのだろうがアタシは違った。
嬉しい・・・ッ!!
遙先輩がアタシの事をこんなに理解していてくれたのかと思うと、無性に嬉しくなる。
確かに男子達にバカにされて傷付いたのに、今は、今だけなのかもしれないが嬉しくて傷付いた事も気にしないでいられる。
もしまた似たような事があったとしても、これがあればアタシはまたやっていける。
それを確信してアタシは個室を出たのだった。
~side 吉野遙~
翌日、俺は前々から予定に入れていた取引のために秋葉原に来ていた。
とあるビルの屋上で、俺の目の前に黒服のおっさんが立っていた。
「これが今回の分だ」
黒服のおっさんは黒いガジェットケースを手渡してくる。
俺はそれを受け取ると中身を開いて軽く見てみる。
入っているのはリボルバーのスピードローダーと、試作品の武偵弾だ。
武偵弾とは、本来プロの武偵に渡される特殊な弾薬で、1発数百万はくだらない代物だ。
今回俺が受け取る武偵弾は、
今回の届けられた武偵弾は、6発3セットが4種類と、今まで使った中で相性が良かった武偵弾が6発4セットの3種類だ。
「確かに受け取りました。今回の報酬です」
俺はガジェットケースをショルダーバックに収めると、茶色の封筒を手渡した。
中身に25万ほど入っており、黒服のおっさんはその中身を軽く確認する。
「確かに受け取った。今回の武偵弾の取扱説明書はガジェットケースポケットの中だ」
「了解です。また次ぎよろしくお願いします」
俺は軽く挨拶をすると、屋上を後にした。
久し振りに秋葉原に来たので少しテンションを上げながら街中を練り歩く。
好きなアニメのグッズもたまにはあるが、基本的に時期もズレているので減っていき少し寂しさを感じる。
とりあえず喫茶店にでも入って計画を立てようかと考えていると・・・
「ライカ・・・?」
黒いデニムのジャケットと、ショートパンツ、それにサングラスとハンチング帽と言う格好の髪をほどいた人影が見える。
似ているだけで別人かとも思ったが、近くに制服姿のあかりちゃんと島麒麟がいたから間違いないだろう。
そこで新たな疑問が生まれる。
「何やってんだあの子達は?」
どうやらあかりちゃん達はライカを尾行しているようだが、ライカはそれに気付いていない。
あんなに分かりやすいのに・・・
面白そうなので俺も彼女達を尾行する事にした。
近くで理子を見つけるも、尾行の邪魔になりそうだからスルーし、そのまま彼女達が入って行く建物まで追いかける。
着いたのはラジオ会館。
家電、実銃、モデルガン、PCゲーム、美少女フィギュアと秋葉原を象徴するような場所だ。
「こんな所にライカがねぇ・・・」
俺が知る限りライカに嵌りそうな物はないが、意外と俺達みたいなアニオタだったりするのか?
俺はまだ見ぬ新たな同志が誕生するのかと期待を膨らませながらラジオ会館に入ったのだった。
~side 間宮あかり~
あたしは、麒麟ちゃんと一緒にライカのプライベートを調査するために、休日にライカを尾行していた。
ライカは少しボーイッシュな格好で秋葉原のラジオ会館に入って行く。
それにあたし達も気付かれないようについていく。
階段を上がり、ライカが向かったのは6階だった。
(ボークス?)
ライカが向かったのはボークスと言う模型造形メーカーの会社だ。
その店は、いわゆる女児の玩具向けではなく、いわゆる『大きなお友達』向けのドールが置かれており、顔の造詣も美少女アニメのようで、プロポーションもアニメ体系である。
正直ライカに縁の無さそうな場所だと思うけど、ライカは少し活き活きしているようにも見える。
吉野先輩が、ライカは意外と乙女趣味だったりするかもと言っていたが本当に当たっているとは・・・
ライカは若い店員さんと話した後、店員さんの持ってきた人形にこれでもかと言うくらいにデレデレ顔に成り、幸せそうに人形を抱き締める。
幸せそうに人形遊びをするライカは、普段の男勝りで銃、ナイフ、近接格闘と何でもこなす戦闘少女の火野ライカとはギャップが凄すぎて驚きが隠せない。
どうやら、ライカは普段からここに来てこの様にストレスを解消しているのだろう。
店員さんとのやり取りからしても2度や3度ではなく、しょっちゅう来ているのだろう。
「・・・い、意外すぎるストレス発散方法だね・・・でも、趣味は人それぞれだし、問題ないんじゃない?」
あたしは隣の、険しいかをでライカを見ている麒麟ちゃんに小声で語りかける。
――すると
「いいえ」
あたしは問題がない思うが、麒麟ちゃんはハッキリ否定する。
「あれは『
「少女返り?」
「――武偵高では、女子でも男勝りの活躍が求められますの。しかしそれは不自然な事。ストレスが溜まるのです。そこで心のバランスを取るため、自分には無いものを求め――ああいう少女趣味に走るッ!」
麒麟ちゃんは、グッと拳を握り力説する。
「そ、そういうもの・・・?」
「ええ、武偵高の女子によくある事ですわ」
思い出してみると、たまに
射撃訓練所じゃ泣くお花畑に行きたいだとか、プロテインじゃなくてケーキが食べたいだとか、そんな話題が多かったような気がするが、そう言う事だったのだろう。
しかし――
(・・・ライカ、幸せそう)
まるで天国にいるかのような顔でドール遊びをするライカを見ていると、こちらまで幸せな気分に成ってくる。
だから、そっとしておいた方がいいのではないかと思うが・・・
「――先日は、王子が姫を掬った。次は、姫が王子を救う番ですのよ!」
誘拐された時のことを言っているのだろうか、麒麟ちゃん決意を呟き、身だしなみを軽く整える。
その時、どこかで感じたような馴染みのある感覚があたし達の隣を横切った。
~side 火野ライカ~
アタシはつくつぐ、こうやってドールを見てると思う。
人間って自分には無いものを求める物なんだな・・・
アタシがドールと戯れていると――
「へぇ~、ライカってこう言う趣味だったのか・・・」
不意に後ろから聞き慣れた声が聞こえ振り向く。
「はっ、遙先輩ッ!?」
そこには、いつもの武偵高の制服とは違い、茶色のロンTに、黒のチョッキとジーンズのズボンを穿いて、黒いショルダバックを掛けた黒髪のポニーテールの先輩。
吉野遙先輩がそこにいた。
「よっ! ライカはファンシーなイメージはあったけど予想を超えたな~」
「や、やっぱり変ですよね?」
アタシは遙先輩に普段から思っていた事を聞いてみる。
アタシみたいな男女にこんなのは似合わないのは分かってはいるが聞かずにはいられない。
遙先輩は少し困ったような笑みを浮べ、アタシの頭に手を置く。
「趣味なんて大抵変な物だろ、人に話せない趣味を持ってる奴だってこの世にごまんといるし、それにライカの趣味は人様に迷惑掛けてないんだし、可愛いからいいんじゃないか?」
遙先輩は恥ずかしげも無く平然と言いきる。
やっぱり遙先輩はアタシが求める以上の言葉をくれる。
遙先輩はやっぱりアタシを理解してくれている。
やっぱりアタシは・・・
「良かったら妹に送るドールを見繕ってくれないか? 俺の趣味じゃドールと言うよりただのフィギュアになっちまうからさ・・・」
「いいですけど予算大丈夫ですか? ドールって結構高いですよ」
「そこの所は腐ってもSランクですから気にしなくてもいいよ、そんな事よりライカはあっちを気にした方が良いんじゃないか?」
吉野先輩は困ったような笑みを崩さず先輩の後ろを親指で指差す。
そこには最近良く見る人物が立っていた。
~side 吉野遙~
ライカは彼女を尾行していた島麒麟を見た瞬間フリーズした。
そして数秒後――
「――うぉあぇ!?」
驚いて倒れるライカを受け止め支えるも、ライカの手からドールが放り投げられる。
「き・・・麒麟ッ!?」
「・・・っとぉ!」
ライカは彼女の方を、ビシッと指差し驚きの声を上げる
島麒麟の隣からあかりちゃんが出てきてドールを受け止める。
危ねー!! 物によっては十万とか普通にある代物だぞ!?
「あかりもッ!? なななな、なんでお前らが・・・」
本当に気付いていなかったのか、ライカ・・・
ライカは真っ赤に成って動揺している。
「あ、いや、その、いいと思う! こういうの! ライカかわいいよライカ!」
あかりちゃんはライカに必死にフォローを入れる。
キンジはもし俺がこう言う状況ならフォロー入れてくれるかな・・・
だめだ・・・ドン引きした目で少し優しくなるくらいしか想像できない・・・
「あかり・・・っ」
「こ、この子もすごくかわいいと思うよ」
少し頬を引きつらせながらもライカの趣味を肯定するあかりちゃん。
俺にこんな状況があったとして、理子ならまず間違いなく変態だと言いいながらネタにするんだろうな・・・
「て言うか、いくら注意散漫でもこれくらいの尾行は気づけるようにしといた方が良いぞライカ」
「び、尾行!?」
「――武偵が監視に気づかないのは、自分の落ち度ですわよ」
ホホホと笑いながらライカを煽る島麒麟。
確かにその理屈は武偵としては真理だ。
だが、それが道徳的かと言うと・・・
「てめェ・・・!」
やはりライカは怒り心頭の様で明らかな殺気を放って自力で立つ。
始めて感じたのであろう殺気に怯える店員さんを、俺の背後に隠すように移動する。
武偵の偵は探偵の偵
人の秘密を暴くからには人に秘密を暴かれたとしても何も言えない。
だが、武偵の武は武力の武
武力を扱う物として人の秘密を暴きその報復として武力で訴えかけられても文句は言えない。
つまり、偵で攻められれば武で反撃してもいいと言う事だ。
「
殺気を向けられている島麒麟はそれでも余裕を保った笑みを浮べている。
その笑みは背後に並ぶドール達のようにあいらしく、その姿はまるでドールの世界から具現化したようなその姿、とても可愛らしく現実味を薄れさせていく。
「――言いふらしたら、殺す」
言葉数少なくライカは脅しを返す。
だが、やはりライカより島麒麟の方が一枚上手のようで、余裕を崩さず笑みを浮かべる。
「秘匿しますわ、その代わり・・・
なるほど、そう言う事か・・・
島麒麟はライカの
「・・・そうきやがったか」
ここでライカに絶対勝てる内容にすればこの状況は脱せるだろうが、その場合回りは納得せず大人気のない奴に成ってしまう。
だから、今後の事を考えると相手にも勝てる可能性を残してある内容を提示するのがベターだが・・・
「――見たところ、お姉様は防弾制服ではいらっしゃらないご様子。
島麒麟から思いがけない提案が出る。
だが、敢えてその条件を提示してくると言う事は、それだけ
それとも、自分のフィールドではなく相手のフィールドで勝って自分を認めさせようと言うのか?
もしくは、在るのか? 相手のフィールドでも勝てる策って奴が・・・
「
あぁ・・・こりゃ駄目だ。完全に相手のフィールドに誘き寄せられている。
あきらかに、このままライカが戦えば確実に、島麒麟の策に引っ掛かりライカが負ける。
「屋上だ、来い」
ライカは店の出口へ体を向ける。
セーブしますか?
▷ はい
▷あ いいえ
データの要領がありません
データを消去してください
ゲームオーバー・・・
駄目だこりゃ!!
「あかり、遙先輩、立ち会いお願いします」
殺気のこもった目で半分振り向きそう言う。
そんなライカを始めて見たのであろう、怯える店員さんにドールを返すあかりちゃん。
「う、うん」
「了解だ」
俺もあかりちゃんも一応武偵だ。このような場面でも逃げ出すような事はしない。
そして――俺達は屋上に向けて階段を上るのだった。