半ばやけくそ気味に自己紹介をした俺は思う。
初対面の子いるのに悪いイメージ持たれたらどうしよう・・・?
「・・・・・・」
ライカの方を見ると、どうやら理子の方を眺めているようだ。
いや、これは眺めていると言うよりも・・・
(睨んでいると言った方が正確か・・・?)
自分の
この辺も特訓中に発散させてやるべきだろう。
そんな状況を一切スルーしつつ・・・
「
理子は麒麟ちゃんから離れると、スクリーンの方に歩いていく。
それとほぼ同時進行で、俺は理子のバックから来る途中で買ったお菓子の手土産を、案内してくれたメイドさんに手渡す。
その時・・・
「ハルハルは何か言いたい事あったりする?」
「戦力アップ顧問からすれば幾つか」
理子に促されるようにスクリーンの前まで移動すると、とりあえず何から言うべきか頭の中で整理する。
そして・・・
「まずは、これだな・・・」
俺はこれまでに何度か見覚えのある、黒髪のこの家の主で在る少女の前まで行き・・・
「2年
と、とりあえず自己紹介と握手を求め右手を出してみる。
すると・・・
「
と、こちらの握手に応えてくれた瞬間。
アダッ!!
凄まじい力でこちらの手を握り潰さんと言わんばかりに握ってくる。
止めて止めて!! 鬱血してるから!! 手が青くなっちゃてるから!!
そして少し、彼女の方に引っ張られ、耳元でボソッと・・・
「あかりちゃんに手を出したら、どうなっても知りませんから」
怖ェッ!! 目が本気と書いてマジって読んじゃってるから!!
それはもう、偶に星伽の奴が見せるハイライトの消えた目に勝るとも劣らない目をして、清楚なイメージを窺わせる笑顔で言うではありませんか。
だから、こっちも言ってやる。
「安定した収入源ができるまでは、あかりちゃんに限らずそう言う気はないから安心しろよ」
現在でも人一人をまかなえるほどの貯金はあるが、安定はしていないので俺にそう言った相手を作る気はない。
まぁ、それだけが理由と言うわけでもないが・・・
俺の言葉を聞いた後、ジト目でこちらを一瞬見詰め俺の手を離す。
鬱血した手をグーパーさせつつ考える。
これからは極力握手を求めるの控えようかな・・・
物の数秒で年下の女の子にトラウマを与えられつつ、場を仕切りなおす。
「初対面の自己紹介も済んだところで、本題に移るか・・・」
再びスクリーンの方まで移動すると、みんなの方に向き直る。
そしてため息を付き、先ほど整理した考えを出す。
「佐々木さん。さっきの話しだけど、他にみんなに報告すべき点とかあったりしない?」
「? 特にありませんが・・・」
「ふむ、30点てとこか・・・」
彼女の先ほどの話を分析して、その点数を出してみる。
赤点クラスだな・・・
すると・・・
「何が30点なんですか!!」
やはり佐々木さんは怒り出した。
それを俺は・・・
「じゃ、麒麟ちゃんに問題! 『先程の佐々木さんの話はなぜ30点と言う点数になったでしょうか?』」
「私ですの?」
「そう、この中で俺の知る限り1番着眼点と思考力に優れているのは君だからね。ヒントを出すなら『戦う人間より戦略が得意な人間の方が後の70点を欲しがる』」
ヒントを出すと、麒麟ちゃんだけじゃなく、ライカやあかりちゃん達まで一斉に考え始めた。
武偵憲章6条――自ら考え、自ら行動せよ。
彼女達に教えようと思っていた事だが、彼女達は俺が教える前にできていた。
この子達の事少し甘く見すぎたか・・・
30秒ほど考えた後麒麟ちゃんは――
「『敵に関する情報がなかったから』ですの?」
確信を持てていないようだが、それでも麒麟ちゃんは答えを出した。
それに対して俺は――
「正解! やっぱり君はこう言う事に関してはピカイチだな麒麟ちゃん!」
俺は麒麟ちゃんの満足行く答えに、笑い掛けて褒めてやった。
そして緩みかけた空気を引き締めなおすと、佐々木さんの方へ向きなおす。
「始めて会ったばかりでこんな事余り言いたくないけど、佐々木さんが今後も武偵をやるのなら言っておく」
一息入れると、佐々木さんだけでなくこの部屋にいるみんなに言う様に、できるだけ強く。
だが威圧的にならないように注意して――
「情報戦舐めんな。相手の得意・不得意、癖、特徴、武器の種類や数、性格や容姿、どれか1つあるだけでも状況が大きく変わる要素になりえる。俺は情報を集めるのではなく使う人間だから、情報集めがどれだけ大変かは分からないが、情報はあるか無いかで人の生死にまで係わってくる。もし仲間が大切だと思うなら絶対に情報収集を怠るな」
「は、はい・・・」
とりあえずは佐々木さんの認識を改める事もできたようなので、次へ話を進める。
まずは今言った情報からが良いだろう。
「理子! どうせもう情報を集めてきたんだろ? とっとと教えろ」
「はいは~い!」
俺はかなりの確信を持って理子に話を振る。
理子は普段からふざけてばっかいるし、学校で1番
推理能力はそれなりだが、情報収集力はかなり高くそれでいて正確だったりする。
「リーダーは
「サンキュ。理子70満点中60点。合格クラスには十分だな」
「えぇ~!! 残りの10点は!?」
「態度点だ! お前のしゃべり方は気が抜けるんだよ! せめて情報開示や作戦会議では態度変えろ!!」
痛む頭を押さえつつ溜め息を付く。
なんで1番簡単な事ができないんだこの親友は・・・
「ったく、この点だけで言えば断然佐々木さんの方が上だったぞ。お前も見習え!」
「は~い・・・」
理子は少し詰まらなさそうな顔をして返事する。
本当にこいつは・・・
「かったるい・・・次行くぞ!」
そこから、高千穂班の面子の情報の開示は続いた。
ただ、俺の指摘に反抗したのか、先程よりましましで口調が砕けていた。
なのでここからは俺こと吉野遙が要約させていただきます。
風魔陽菜
専門科目は
口当てで口元を覆い、長いマフラーの様な赤布を首に巻いている。
高名な相模の忍者の末裔だという噂があり、一人称は「某」、語尾に「ござる」を付けるなど典型的な忍者口調で話している。
普段は修行と称してバイトに精を出す赤貧少女であり、よく腹を空かせている。
携帯武器はクナイと火縄銃。その他にも手裏剣・煙玉・刀・鉤爪なども使用している。
意外と抜けているところが多く、真面目な正確なのでいたずら根性で罠を仕掛けると引っ掛かる可能性大。
専門科目は
高千穂麗の取り巻きの双子。見分けがつくようにするためか、着用しているカチューシャにそれぞれ「や」と「ゆ」が書かれている。
ややマゾヒストの気がある物の高千穂麗への忠義は高い。
携帯武器はMAC-10かMAC-11。
個人の実力に差はほとんどなく、コンビネーションは旨いが実力はそこまで高くないので2対1の戦闘に慣れれば制圧の可能性大。
「冷静に見れば穴だらけのチームだなこの子達・・・」
この子達相手なら、通常モードのキンジと理子でもそれなりに面白い勝負になりそうだ。
俺が行けば大幅なオーバーキルだけど・・・
「戦略は俺の専門外だから君達自身に任せるけど、この子達の対策とした訓練をしなきゃいけないんだよな・・・」
これ絶対理子だけで十分だよな?
俺が来る必要は絶対なかったよな?
とかいっても了承してしまったんだから辞める訳にはいかないし・・・
俺は彼女達の特訓法を考える。
すると――
「遙先輩ならどうやって攻めますか?」
唐突にそんな質問をされる。
「俺の戦法は基本的に参考にし難いぞ」
再びフィールドの地図を見る。
このフィールドで俺が用いる機動力を最大限に生かし、最高レベルまで思考を巡らせ合理的選択を取るとしたら・・・
その上で1番俺が選択するルートといえば・・・
俺は地図の間宮班の陣地である公園の敷地内を指す。
「俺ならフラッグの死守を味方に任せて、ここから・・・」
そして、地図上の間宮班の陣地から、高千穂班の陣地である工事地帯まで、一直線に指先でなぞる。
「ここまでをこのルートで最短で駆け抜け、敵との遭遇率を最小限に押さえた上で、最効率でフラッグを見つけ出して終らせる」
それが1番吉野遙が取るであろう行動だ。
そしてこれが俺が提示できる最良の戦術だ。
「どうだ? 参考になったか?」
「え~と、その・・・」
まぁ、こんな3流の作戦聞かされた所で、そういう反応になるだろうな。
もちろん、俺だってこんな作戦聞かされた所で、今のライカのような顔をして終るだろう。
「まっ、自分より強いと思う奴に作戦を聞いたところで意味ないって事だな。重要なのは自分達に合った最適な作戦を自分達で練るってことだ」
肩を竦めると、理子の方を見る。
「理子! こう言うのはお前の方が専門だろ! お前が面倒を見てやれ!」
「うー! らじゃー!」
俺の言葉に軽く返事をし敬礼をする。
これで考え事に集中できる。
おそらく、理子の考え的にライカは守備役。あかりちゃんは攻撃役。麒麟ちゃんはライカの近くで連絡役及び作戦参謀。佐々木さんは俺の情報不足により不明といったところか。
そして、おそらく向こうは陽菜が攻撃役。愛沢姉妹はこちらの攻撃役の迎撃部隊。高千穂麗は守備役だろう。
つまり、ぶつかるとしたら高千穂麗とあかりちゃん。陽菜の奴はライカ。麒麟ちゃんは戦闘能力はほぼ皆無、防御だけの
訓練で考えるなら、ライカは
故にライカに教えるべきは、感覚を研ぎ澄ませ相手を捕らえ続ける技術。
あかりちゃんは今回の戦いにおける勝利の要だ。それと同時に今回の戦いの中では1番弱いと思って良いだろう。故に、この中で1番生存率を高めないといけない。そして、今回の特訓で得た物が次回無駄にならない様に叩き込まなければならない。
あかりちゃんに教えるべきは、自己に対する危機察知能力の向上と、その危機に対処し分析する冷静さ、そしてそれらの危機を回避する術。
麒麟ちゃんは正直強い弱いが通用する場所には降りれない程に戦闘力がない。更に彼女はこのチームにおいて司令塔の役目も担っている。そこを見抜かれたらほぼ確実にこのチームが負ける。そして、その負け方で1番怖いのは人質に取られる事だ。人質に取られれば彼女達の性格上、無抵抗な状態で一方的に倒されるだろう。
故に麒麟ちゃんに教えるのは、人質に取られた時の脱出法。もしくは人質に取られたときに効率的に相手の意識を刈り取る方法。
佐々木さんはそもそも俺に一切の情報がない。一体どんな戦闘スタイルなのか、どの程度そのスタイルを極めているのか。その情報が一切ないのが痛い。唯一ある情報は、ラクーン台場で確認できたサーベルが武器で、さっきの握手で本来の獲物が日本刀である事が分かっただけだ。
つまり特訓としては、個人指導を最後に回してどういった指導にするか考えるしかない。
「かったるい・・・特に最後が・・・」
軽く思考を纏めてため息をつきながら呟く。
実際これでどこまで戦力強化ができるのか・・・
「ハルハル~! こっちは終ったけど最後に言いたい事とかある?」
「じゃ、一個だけ言っとこうかな・・・」
俺はスクリーンの真ん中まで移動するとみんなの方を向く。
正直こうやって人の前に立つのは苦手、否、むしろ嫌いだとさえ言える。
だが、これを言わない事には俺はこの子達を教えられない。
だから、俺は逃げ出したい気持を押さえ込み口を開く。
「このチームはあかりちゃんを筆頭にみんなに言っておきたかったんだが・・・」
多少喉が渇いてくるが、無理矢理言葉をひねり出す。
「自分の身を守れないのなら誰も守るな!」
「「「「ッ!」」」」
「自分の身を犠牲にして誰かを守ったって守れるのはその一瞬だけ、もしその次に大切な人が危険な目に合ったとき守れなくなる。それだけならまだ良い、自分が傷付いたせいでみんなの足を引っ張り仲間を全滅させる事さえある」
「「「「・・・・・・」」」」
みんなは、黙って俺の言葉に耳を傾けてくれている。
それが、また俺の苦手な重圧となって襲いかかってくる
「だから言っとく。『1の為に全を捨てるな』そして、誰かが危険な目に合ってるのにそれを無視するな。それは私生活にも影響を及ぼす。その瞬間は自分の身は守れるかもしれない。その後何事も無かったように生きれるかもしれない。けど、その後の人生、一生孤独に苛まれる事になる」
「~♪」
理子の奴は鼻歌を歌っている。
こいつは後で頭グリグリの刑だ・・・
「だからもう1つ言っとく。『全の為に1を捨てるな』ってな。つまり何が言いたいかって言うと『1の為に全を捨てるな 全の為に1を捨てるな 1の為に全を取り、全の為に1を取れ』それが俺が君達に教えてあげられる唯一の戦術であり、俺が君達に先輩として、指導者として、Sランクの武偵として命令する最後の命令だ。俺の命令に納得してくれる子だけで良い。返事!!」
「「「「はい!!」」」」
俺の伝えたい事、今までに見て聞いて感じた事を、みんなに呼びかける。
その呼びかけに、俺の予想とは裏腹に全員が応えてくれたのだった。