~side 火野ライカ~
木の上に逆さ吊りの状態でぶら下がっている忍者と目があう。
(風魔陽菜!!)
風魔は高名な忍者の子孫らしいと、もっぱらの噂だ。気配を消して進入する事など簡単と言う事だろう。
アタシがその存在を認識したとその時・・・
――サァッ――
風魔は木から落ちてきて、アタシの背に隠した蜂のフラッグを掠め取っていた。
(これだから
圧倒的攻撃力で敵をなぎ払いつつ敵陣地に攻め入る
しかし、
そしてそのターゲットは、
(・・・麒麟!)
それに気付き、アタシは風魔に攻撃しようとするも、その姿はアタシの背後にあった。
風魔の素早さに体が追いつかない。
「――お覚悟ッ」
アタシが察したとおり、風魔は麒麟に苦無を投げようとしている。
それは確実に威嚇だろう。それは間違いない。
だが武偵のそれは一般のそれとは訳が違い、威嚇と言っても確実に投げる物は投げるし、撃つ物は撃つ。
ただそれがどこに当たるか、明確な違いはそれだけだ。
それがたとえ、防弾制服で保護されていない場所であったとしても、それには変わらない。
「ひっ・・・!」
麒麟は怯えながらも、その場を逃げる事はしない。
それは足元に、埋めて隠した目のフラッグがあるからなのだろう。
みんなの為に逃げる事のできない麒麟を、今助ける事ができるのはアタシだけだ。
だが、風魔とは背中合わせでいるこの状況で、裏拳を繰り出そうにも僅かに距離が足りない。
(――それなら!)
アタシは振り向くのを止め、地面を強く蹴りバク転する。
今の状態では、手よりリーチの長い足の方が攻撃に向いている。
重力と遠心力を味方に付けた背面サマーソルト・キックを放つ。
そのけりが、風魔の脳天に入るギリギリの所で――
「ッ!!」
風魔は両手を頭上でクロスさせ蹴りを受け止める。
当てる事はできなかったが、
苦無で足首を書ききられないように、地面に足を落とし着地する。
そして風魔と麒麟の間に割り込み、背後の麒麟を守るように両腕を広げ・・・
「
力強く宣言する。
潜入係は敵チームに潜入する場合、通常は司令塔、機関銃手、通信手と言った重要な
武偵としては100点満点の動きで、
だが、麒麟は
「・・・お姉様!」
麒麟の嬉しそうな声が背後から聞こえてくる。
後ろの麒麟は、それはもうかっこいい物を見るような目でアタシを見ているのだろうが、普段と違って今は戦闘中で反応を返す余裕がないのがつらい。
麒麟の声を無視して風魔と睨み合い膠着する。
その沈黙を風魔が破る。
「・・・島殿は、お手が汚れている様子。フラッグは、
目ざとくそれを見て取った、風魔からの指摘。
ぎくぅ! と言う音が聞こえてきそうなくらいの麒麟の動揺が周囲に伝わる。
風魔の発言はカマ掛けだったのかもしれないが、風魔を自由にさせておく訳には更にいけなくなった。
「目がいいな」
アタシは後ろ手でセーラー服の背後から
「でも、目はアタシと合わせろ!」
風魔に飛び掛り制圧しようとしたアタシに、風魔は――
「目は、潰すものでござるよ」
風魔は、ぴんっ! と背筋を伸ばした状態で、その見た目どおり忍術のような技で、足の裏から煙幕を出現させる。
幸いな事に催涙性や毒性はないようだが・・・
(・・・見えねぇ!)
想定外の煙幕に動揺しかけるが、遙先輩に言われた事を思い出す。
『いいか、五感情報に神経を研ぎ澄ます場合1番重要なのは冷静でいる事だ。焦りや動揺はストレスを生み、ストレスは脳に誤認を生む。だから予想外の出来事が起きたら、できる状況なら深呼吸して冷静になれ』
(まずは冷静に・・・)
大きく深呼吸して冷静さを取り戻す。
そして改めてみると、煙幕が少し乱れて動いている。
おそらく風魔の通った場所の気流が乱れているのだろう、少しだが風魔が移動した軌道が見える。
そして、その起動にこの間の特訓の成果も踏まえると、風魔の動きが手に取るようにわかる。
(来るッ!!)
攻撃の気配を感じトンファーで防御する。
風魔の苦無は予想通りの軌道で攻撃してきたので防げたが、予想以上に攻撃が軽く、あっという間に引っ込んでしまう。
それは、まるでボクシングのジャブのように、連続した攻撃で耐えるのもきついが・・・
『仲間を信じて、時間を稼ぐんだよ』
先日の特訓で少し腹立たしい先輩に言われた言葉を思い出す。
上等・・・!!
アタシはあかり達がやってくれる事を信じて、風魔の攻撃を凌ぎ続けた。
~side 間宮あかり~
あたしは志乃ちゃんに背中を押され単身、高千穂班の拠点である工事現場に肉薄していた。
勝利条件は、相手チームの目のフラッグを、持ってきた蜂のフラッグでタッチする事。
まずは自転車と原付が並ぶ駐輪場に潜み、工事現場を覗きこむと・・・
(!?)
敵の目のフラッグをあっさりと見つけた。
と言うよりも、隠しもせずに2メートル半ほどの高さの土砂の山の頂上に堂々と突きたてられていた。
あそこまで走り、スカートの内側に隠した攻撃用のフラッグを取り出してあてればあたし達の勝ちなのだが、もちろんそんな簡単に話が進むわけがない。
「――お前が来たのね、これも因縁かしら?」
土手の手前には敵チームのリーダーである高千穂麗が待ち構えていた。
カツンッ
足元にあるマンホールをヒールで踏み鳴らしながら、高校1年生とは思えない胸をツンと張る。
丸腰って事はないだろうが、それでも今のところは高千穂さんは武器を持っていない。
この辺り一体にすでにトラップが仕掛けられていると言う事だろうか・・・
あたしは、訝しんで動けない状況にいると、
「・・・私ね、神崎アリア先輩に
おもむろに高千穂さんが話しかけてくる。
「でも契約試験に躓いちゃって、その後いくら契約金を提示してもダメだった」
あたしが聞いた事がない話しだ。
あたしと高千穂さんは因縁と呼べる物があっただなんて思いもしなかった。
アリア先輩の
その2人が今、
これが偶然か必然かはわからないが、これほどまでの遺恨試合があるだろうか。
(そうだったんだ・・・!)
そう言えば先日の
あれはそう言う事だったのか。
「でも、今は
感情が表に出やすいのか、負け惜しみを言うような顔をした高千穂さんは・・・
「あんな気の狂ったような男に絆されて、手を組んだりして」
気の狂ったような男とは、吉野先輩の事だろうか。
よく知りもしないで、自分に良くしてくれている先輩の事を悪く言われ怒りが湧く。
「その挙句お前を
自分の手に入らなかった、『アリアの
あたしは挑発されている。
高千穂さんにはおそらく、挑発する天性の才能があるのだろう。そしてその事を高千穂さん本人も自覚しているだろう。
挑発するからにはカウンターや、罠による必殺の攻撃があるのだろうと言う事も理解できる。
だけど――
「あたしのことはなんて言ってもいい・・・」
高千穂さんはあたしにとって、1番言って欲しくない事を言った。
そのせいで、あたしの中の何かが弾けた。
「先輩達を悪く言うな!!」
あたしは怒りに任せて高千穂班の目のフラッグの方へ走る。
短距離走はそれなりに早いほうだが――
(殺気ッ!!)
――ドウゥッッッッッ!!
高千穂さんまで、残り5mほどと言ったところで殺気を感じ、その殺気で冷静に戻り右に回避する。
ただ、冷静さを欠いてしまっていたが故に、反応が一瞬遅れ左腕に被弾する。
今回の銃弾は実践テスト用の
「――ッ!」
高千穂さんの手にはいつの間にか取り出された、巨大なリボルバー銃――
スターム・ルガー・スーパーレッドホークが握られていた。
9.5インチと言う長大な
そのシルエットがまるでライフルのようだ。
ドレスのように改造したセーラー服のスカートもあの巨大な銃を秘匿するための物で、銃も実用性と言う点においては申し分無さそうだ。
実用性と趣味を両立させた侮れない相手のようである。
「ほほほっ! 取り巻きがいないと何もできないとでも思ったのかしら!?」
高笑いと共に高千穂さんはスーパーレッドホークを連射してくる。
――ドォンッ! ドォンッ!
威力に加え、グリップの後ろにショルダーストックを増設したその銃は安定性も高い。
あたしは致命的被弾を避けつつ、先程の駐輪場まで退避する。
自転車では盾にならないので、そこにあった原付バイク――
イタリア製のスクーター・ベスパを遮蔽物にして裏側に隠れる。
そして呼吸を整え、スカートからマイクロUZIを取り出すが・・・
(ダメだ。
UZIは拳銃と言うより散弾銃に近い設計思想であり、その連射性ゆえに、撃ち手が巨漢でない限り、弾があそこまで届きはするが、反動で狙いがぶれ当たる事はないだろう。
一気に弾をばら撒いて、あわよくば何発か当てるか、あるいは弾幕を張って敵を足止めすると言う発想の銃だ。
近距離なら良いが、この距離だと無駄に弾をばら撒き武器を失うだけだ。
だが撃たずに持っておけば、安定性と命中率を高める為にストックが付き、小回りが効かないスーパーレッドホークより近接では攻撃力が高く、高千穂さんは近寄ってこないだろう。
つまりUZIを持っていればこの状況を維持でき、味方を待つ事もでき、相手の弾切れを狙う事もできる。
(でも、このままじゃ・・・)
せっかく敵陣に攻め込んできたのに釘付けになってしまう。
インカムからの麒麟ちゃんの報告では、ライカは風魔さんと戦っており、志乃ちゃんは何故か通信圏外だそうだ。
戦況は刻一刻と変わり、悪い方向に進む可能性だって十分にある。
(どうにかしないと・・・!)
あたしはこの状況を変える一手を考える。
~side 吉野遙~
試合も終盤に差し掛かり、間宮班も敵のフラッグ目前と言ったところだが・・・
高千穂の攻撃によりあかりちゃんは攻めあぐねていると言った状況だ。
「やっぱりちょっと教え方が甘かったかなぁ・・・」
あかりちゃんの生存確率を上げる特訓をしたつもりだが、それに気を取られすぎ攻撃に関しては教えられていなかった。
その結果、あかりちゃんは回避ができるのに攻撃ができないと言う結果に陥ってる。
「あんた、一体あかりに何教えたの?」
自分の至らなさを反省していると、右隣のアリアから不意に聞かれる。
「俺が普段使っている回避術の原理とコツ、あと本来人が感じるべき恐怖感」
「何よそれ?」
「人は怖い物を見ると逃げるし、本能的に防御的姿勢を見せるだろ? あれはその究極を付き詰めた回避術。その為に正常な恐怖的価値を思い出させた。ただしあかりちゃんに教えたのは回避だけだから攻めあぐねているって感じだが・・・」
そもそもこの回避術は、武器や殺気の怖さを知った上で、それらを恐れずに対処できる精神性があって始めて攻撃できる。
「ただその欠点は本人だけで解決できたみたいだがな」
「えっ?」
あかりちゃんは盾にしていた原付を
意外過ぎるあかりちゃんの行動に動揺したのか頭部を狙った高千穂の射撃を、あかりちゃんはギリギリ掠める程度に抑え、更に原付を走らせ続け、ハンドルに何かで攻撃用フラッグを結びつけ、そのままあかりちゃんは原付から飛び降りる。
そのまま攻撃用フラッグと目のフラッグを接触させようとする作戦に気付いた高千穂は、原付を打って転倒させようとした。
だが、まさに撃とうとした瞬間、高千穂の足元のマンホールから佐々木さんが現れ、高千穂の銃のストックにサーベルを突き刺さっていた。
そのまま、佐々木さんに銃を奪われた高千穂はただ原付が走っていくのを見る事しかできず、原付は2つのフラッグをぶつけたのだった。